「頼む、浅見さん! どうか、母さんの無念を晴らしてほしい! アンタなら出来るだろう!?」
王道大学や
勘弁してくれ、こういうのって冤罪の可能性だって出てくるからめっちゃくちゃ神経使う仕事なんだよ!
ダラダラしたい……。
仕事は全部恩田さんとか安室さんに放り投げて、キャメルさんにボート出してもらって子供達と一緒にのんびり釣りして桜子ちゃんに料理してもらって七槻とかふなちいじり倒して一日中だらだらしていたい……。
カリオストロにもヴェスパニアにも東欧にもカゲの管理の下で俺の別荘出来たし、もうどこかに引きこもりてぇ。
「落ち着いてください
今回の依頼人は
めっちゃ有名なロックシンガーである。ぶっちゃけテレビの仕事で何回か一緒にしたことあるわ。
最後まで逃げ切ったら100万円鬼ごっことか、一昨年の正月特番とかで。
「すまん、もう顧客相手の口調じゃなくなっちゃうけど……貴方、確か明日から全国ツアーだったろう? ここに来てて大丈夫なのか?」
青子ちゃんみたく、有名人が突然事務所に来るパターンを考えて受け入れ体制を変えようとしていた所にこれだ。
ホントもうマジかよ……。
これ絶対まぁたマスコミに騒がれるぞ。
やっぱ芸能人専用の窓口設けるか。
「準備はマネージャーにすべて任せてある。用事が終われば、俺もすぐ空港にいくさ」
「なるほどねぇ」
よっぽど慌ててきたのかぁ。
まぁ、内容を考えると慌てて当然か。
改めて、問題のブツに目を通す。
念のために証拠保存用の袋の中にいれた、藍川さんのお母さん――ひき逃げ事件を起こした後に自殺したという事になっているお母さんからの、真実を記した手紙だった。
ひき逃げしたのは違う人間で、その人間に自分は殺されるだろうという内容の。
「
そこに挙げられている名前は、こっちもよく知っている名だ。
名前が被っているとウチの魔女がお怒りの相手――のついでに、とある疑惑で今キャメルさんと遠野さんが金の流れを調査している相手だ。
元歌手にして現在は紅プロモーションという芸能プロダクション会社を運営している女だ。
表向きは交通事故救済チャリティーなどを行い、真っ当な顔をしているが……。
(洒落にならん割合の金を着服してる疑いが高いんだよなぁ。それを含めると、この手紙が嘘じゃない可能性もそこそこあるんだが……)
そのお零れを頂戴していると思われる秘書の方を、安室さんと瑞紀ちゃんのペアが当たっている。
(……どうする? 一応手書きのしっかりした証拠というか……証言書があるんだ。とりあえず、これを藍川さんから受け取ったという証明を残しておくべきだな)
「藍川さん、とりあえずこの手紙をこっちで保管させてほしい。その上で、藍川さんがこの手紙に関しての調査を我々に依頼したという書類を用意するからサインをお願いします。……そうだな、あと念のためにフィルムで、その手紙を持っている写真を撮らせてください」
「随分と念入りだな……」
「ここ最近ニュースになってる設楽家の場合は、証言以外に証拠がなかったからああいう攻め方をした訳ですけど、今回は一応物証が残っていますからね。これを基点に責めるならこれが確かな物であるという証拠は出来るだけ残しておきたいんです」
いやホント。
なんだかんだで、やっぱ一部じゃ俺の陰謀論が出ているからなぁ。
今は恩田さんが対策を練っている。
……やっぱ広報要員いるな。
今回の一件にケリが付いたら、しばらくはまた組織の再編に努めよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
〇5月10日
想像の斜め上を行くスピード解決で驚いている。こういうのありなの?
事態はあっさり解決した。
なんと蘇芳紅子、並びに秘書の稲葉和代による藍川冬矢さんの毒殺未遂というウルトラCである。
正気かコイツら。
瀬戸さんが気付いて介入したおかげでなんとか未遂で済んだし、たまたま同行していた白鳥刑事によって現行犯逮捕された。
いや、まぁ……正直分からんでもない。
ようするにコイツら、自分の成功体験を繰り返そうとしたんだ。
藍川さんのお母さんに自分のひき逃げの罪を着せた時のように。
まだ取り調べが続いているが、どうやら藍川さんがウチに来た事で自分たちの過去に気付かれたんじゃないかと恐れたようだ。
うん、実際その通りだから合ってるっちゃ合ってるんだが……。
ならば、余計なことをしないうちにノイローゼによる服毒自殺を演出して口封じをしよう……ということだったそうな。
その場合こっちは例の手紙と依頼書やらを持ち出し、全力で藍川さんの敵討ちとして叩き潰してただろうな。
で、今の問題なんだが……紅プロモーションの所属タレントの扱いで死ぬほど困っている。
ホントに、死ぬほど困っている。
再編を急ぎたいのに、マジで芸能もやんなきゃダメ?
こういう時は鈴木に放り込むべきだと思ったら、朋子さんからNOを叩きつけられた。
ちくしょうめが!
〇5月11日
例によって例のごとく、取り込むことになった。
マジか。
マジかぁ……。
園子ちゃんは呑気に藍川冬矢と会わせてくれってうるさいが……ノウハウどころか運営手段がさっぱり分からん芸能関係とかどう扱えばいいんだ。
正直もうお腹いっぱいなんだよ。
とにかく俺の下に来てくれた以上、仕事を与えなきゃいけない。
今こっちが運営している会社の新商品やサービス、その他諸々のCMなんかの仕事振っておこう。
変な話、殺人未遂だけならまだどうにかなったんだが……裏金関連がエグすぎてヤバい事になっている。
どんだけ強欲なんだあの婆さん。
安室さんからしても腹立たしい連中だったのか、警察への捜査協力にすごく積極的だ。
……まぁ、金額が金額だしね。
キャメルさんがドン引くレベルってやべーよね。
しかもその使い道が、あの訳わからん無駄に金のかかる屋敷にクソ高い呪いの仮面コレクション。
馬鹿か。馬鹿なのか。
というか自殺志願者にしか見えん。
これ、俺知らず知らずのうちにあの婆さんの命救ったんじゃなかろうか。
命じゃないけど、藍川さんも。
〇5月15日
テレビや雑誌で滅茶苦茶有名なタロット占い師の
いや、まだプロモーション会社開いてすらないんだけど。
ただ、紅子の一押しなら受けざるを得ない。
紅子曰く、必ず役に立つという事だ。
アイツがそう断言するなら、どんだけ難題でもやるしかねぇ。
今回は別に無理ってわけじゃないけどさ。
それに実際、紅子の言う通りちょっとすごい事になってる。
昨日彼女と直接会って受け入れる話をしたら、今日になって彼女の顧客である色んな会社の取締役やらお偉いさんから挨拶が飛んできた。
どれもこれも、確かにこっちにとって仲良くしておきたい人たちばっかりだ。
にしても紅子と長良さん、やはり魔女と占い師ということで気が合うな。
快斗君も間に入って楽しくお茶をしている。
……青子ちゃんもあの中に入っていいと思うんだけど、なぜ遠慮しているのか。
なお、俺が入っていこうとしたらふなちにバインダーで頭フルスイングされた。
殺されても文句が言えないくらい無粋な真似だったらしい。
すまぬ。
〇5月18日
ちょうどいい人材がいたので、プロモ会社の社長を任せることにした。
まぁ、
前に女優飲み会に参加してた人だ。
元々独立を考えていたのは知っていたし、ちょうどいいから頼むことにした。
そしたら彼女と仲が悪いハズの沢崎レイナが来たのは笑う。
めっちゃ仲良いんだよなあの二人。
この人、ちょっと越水に声似てるんだよなぁ。
もっとも猫アレルギー持ちだから、俺が会う時はすげぇ気を遣うんだけど。
ともあれ、マジで人員揃ってしまった。
作曲家の羽賀響輔がいる。
騒動で落ち目の設楽家唯一の希望の蓮希ちゃんがいる。
ロック歌手の藍川さんがいて、女優もいる。
トークも出来る占い師がいる。
それを見て、こっちへの移籍希望を一気に出して来た元紅プロ所属の歌手や俳優たち。
…………。
うん、これもう駄目だわ。逃げられんわ。
芸能プロってトラブル多そうだからなんとか鈴木に押し付けたかったけど、どうしようもねぇ。
背負うかぁ。
〇5月20日
香田さんが滅茶苦茶上機嫌だ。
どんだけ上機嫌かって俺と飲む時はいつも隙は出さない香田さんがベロンベロンに酔ってる。
よっぽど最近のウチの周りの記事が評価されたと見る。
一方でこっち――つまり探偵事務所としての仕事は、相変わらず裏組織との対決ばかりだ。
かなりの数の詐欺組織やら密輸ルートを潰して、海外とのルートも断つことに少しずつ成功している。
報復目的にウチの家や会社――特に越水の会社を狙っていたが、公安の協力も得て返り討ちというか直前で抑えることに成功している。
カゲや山猫隊も少しづつ増員をしているので、その新人の訓練にちょうどよかった。
経験を積んで信頼できる人間が増えたら、そっちも防諜に回していこう。
なにせ味方は増えているけど敵も増えている。
まぁ、味方なのに敵でもあるという鈴木ほど厄介な所はそうそうないけどさ。
枡山さんとか組織みたいな犯罪組織とは違う意味で厄介すぎる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「所長、報告は以上だ。すぐに報告書の作成に入る」
「ん、よろしく……。にしてもまぁ」
また一つ事件を解決して、安室さんが帰ってきた。
それ以外にも解決事項がまぁたっくさんある。
良いニュースであるのは間違いない。
ちょっと前ならそもそも他の雑務に追われて解決まで時間がかかることが多かったから、いい事ではあるんだが……。
「殺人事件に強盗、空き巣、誘拐とまぁ……」
「加えて詐欺案件が多いからね。いやはや、うちが頼りにされるのは……会社としてはいい事なんだけどね」
「だよねぇ」
今日の安室さんの仕事は例によって詐欺組織の確保だ。……正確には、だった。
詐欺グループのメンバーを見つけ出し、その中心人物の金の流れを洗ったら薬物や武器の密輸入の計画を発見。ちょうど今日が取引の日だったので公安警察には事後承諾を取る形でカゲと山猫を率いた安室さんが制圧。後で合流した公安の風見さん達に任せて戻ってきた所のようだ。
「最初は、なぜあの老人が泥参会を潰したのかよく分らなかったが……これが目的だったのか」
「正確には、目的の一つってところだろうけど」
積み上げられた今日一日の報告書――一応もうほとんど目を通してサインをしているけどいやはや。
「事実上泥参会は無くなった。その代わりに制限なんてない中規模犯罪グループが多数組織されつつある」
「盗賊団なんかも関係あるだろうねぇ。盗んだものを流すにはルートが必要だ。最近一般大衆に定着してきたインターネットも、地下ルートの構築に一枚噛んでいる」
マジで強盗組織が多すぎるんだよ、この国。
捕まえても捕まえても捕まえても捕まえても捕まえても捕まえても捕まえても。
ポコポコポコポコポコポコポコポコ湧いてくる。
どうなってるんだアイツら。
そしてたまにその中に爆弾使う奴らが出てくる。
本当にもう……。
「そういや、『
「そっちはマリーさんが当たってます。……一応、盗品そのものは裏ルートに流れていたのを発見して回収を出来そうだということですが、源氏蛍のメンバーに関してはまだ……」
「捕捉できないっていうのは予想外だったなぁ。安室さんから見ても手練れ?」
「警察の資料を見る限りはそうですが……。なにより最近動きがないですからね」
「きっかけが必要か」
理想としては防犯に力を入れてなにもさせない事なんだけどなぁ。
「やっぱ警察――交番とは別口の駆け込み寺が必要だな。警察組織との連携を前提にした相談所」
「大丈夫か? その、考えていることは分かるが、そういう施設や人員はコストがかかるぞ」
「コストだけならまぁ……」
資源としても資金としても、本格的にロマノフの財宝を使えるようになってきた。
生産拠点として東欧の開発も進んでるし販路開拓も進んでいる。
「……安室さん、ついでにだけど」
「断る」
「……だめ?」
「俺がタレントなんて務まるわけないだろう。部長職で精一杯さ」
「ま、そうだよねぇ」
一応俺と一緒にテレビに出る事はそこそこある安室さんだけど、タレント兼業はやっぱキツいか。
周りからえらい突かれてるんだけど、本人からそう言ってもらえれば断れるか。
「実際、正式にプロダクション会社稼働までもう少しだがどうなんだ?」
「最初は自前の広告塔として使えればいいかなと思ったけど……思った以上に仕事の依頼が来てるみたい。羽根木さん、ノリノリだったよ」
割と安室さんも彼女の事は気に入っているのか、今度三人で飯を食おうと言っている面子である。
まぁ、ちょっとキツい所あるけど自分が関わった芸能関係者の中ではすごい裏がない人だからなぁ。
「まぁ、真面目に安室さん、今度一回警備も兼ねて芸能の仕事手伝ってほしいんだけどさ」
「警備?」
「響輔さんと蓮希ちゃんのヴァイオリンライブ。生放送で」
「ああ……そういうことか」
設楽家の名誉を多少なりとも回復させなきゃならんだろう。
攻めた結果、向こうは降伏した。
当主の爺さんは未だに戯言を抜かしているようだが、実質ストラディバリウスの返却は決まったようなものだ。
現に次期当主の
身の振り方を決めるのが凄い早いが、逆によっぽどの事がなければ変な真似はしないだろう。
「アフターフォローか……マメだな」
「事件を解決して新しい事件の火種になっちゃ困るでしょ」
「確かにな」
少しずつでも火種を消していかなきゃこの事務所の意味がない。
不倫とか浮気とか、どうあがいても火種にしかならん調査案件もあるわけだけど……。
「芸能が絡むとなると、これまでとは別口の闇に触らざるを得なくなる。なら、綺麗に出来る所は今の内に綺麗にしておくべきだと思ったんだ」
「同意見だ。ただ、それだと場合によっては他社との協力や連携が難しくなるんじゃないか?」
「流れに乗ろうとするとそうなると思う。それが嫌なら、こっちで流れを作るしかないんよなぁ」
やるからには仕方なし、資金ぶち込んでデカくしていくしかない。
怜奈さん以外にメディアへの太いパイプをいくつか作っておくのも今思えば大事だわ。
加えて芸能界の中にこっちの協力者というか内偵調査員紛れ込ませておきたいから、そこらへんを安室さんと詰めていこうとしていたら、所長室のドアがノックされた。
「穂奈美さん? どうしたの?」
「申し訳ありません、越水社長より緊急の案件が」
……。
いやーな予感。
「東都銀行米花支店にて銀行強盗が発生。銃火器で武装した一団により襲撃され、現在立て籠もっている模様」
「警察は?」
「すでに包囲しています」
包囲しちゃったか……。
面倒なパターン来たな。
「従業員、並びに来店していたお客様が人質に取られていますが、その内一名が妊婦とのことです。犯行グループに拘束されていますが、ストレスのためか何らかの異変が起こり、現在意識障害に陥ったことが確認されています」
安室さんがすでに携帯で全所員に召集を掛けている。
というか、多分現場に直行させているんだろう。
七槻がわざわざ俺らに情報流してるとなると、もう状況は最悪なんだろう。
「警察は人質交渉を始めちゃってる?」
「はい、ですが犯行グループは彼女が一番効果的な人質だと思ったようです」
うん、だと思ったよ。
七槻の事だから、もうウチの医療チームは待機させているハズか。
「安室さん、初穂を最優先で現場に向かわせて」
電話をしている最中にあれだが、小さい声で頼むと即座に頷いてくれた。
よし、あとは一刻も早く現場を押さえるだけ。
自分達らしい、いつもの仕事だ。
「最速で制圧する。穂奈美さん、怜奈さんのルートを通じてメディアを押さえて」
最近色々やかましいし、表には出ないまま事態を解決しよう。そうしよう。
「完全に俺らの勢力圏であからさまに武器振り回すとか……」
天井裏に潜んでいるだろうメアリーにサインを送る。
カゲと共に急行してくれるハズだ。
「行きましょう、安室さん。探偵がいかに恐ろしい職業か、連中に味わわせてやりましょう」
…………。
安室さん?
頷いてくれたのはいいんですけど、なんでその前に首をかしげるワンクッション入れたんです?
《rikkaの気まぐれおさらいコラム》
『ボディガード毛利小五郎』
アニメオリジナル:794話
小五郎のおっちゃんが大活躍する回として記憶に残っている識者も多いのではないかというエピソード。
これ、実はコナンがあまり関与していないんですよね。
麻酔銃もそうですけど、おっちゃんが見落としも一切なく自力で答えにたどり着いている珍しい回。
この回に出てくる二人の大女優が『羽根木りょう』と『沢崎レイナ』です。
あれです、典型的な仲良く喧嘩するタイプのコンビ。
本作では浅見のバックアップで会社を作っていますが、原作では彼女は自力で独立後にプロダクションを設立。
そしてそこの一号女優になる沢崎レイナ。仲良すぎだろ君達。
なお、沢崎レイナは猫アレルギー持ち。
そして調べてたら、羽根木りょうは野菜ジュース作りが趣味とある。
……そんなこと言ってたっけか……ちょっと見直そう。