平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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すっごくどうでもいいけど浅見探偵事務所産ノアズアークの脳内CVは山寺宏一さん


149:スタッフが増えたよ! やったねあさみん!

「容態の方はいいのか、樫村?」

「ああ。あの小泉という少女のおかげで狙いがズレたらしくてな……。もうこの通りだ」

 

 病院のベッドに横たわる親友は、想像していたよりもずっと良い顔色で小さく微笑んでいた。

 

「……工藤、シンドラー社長は?」

「全面的に犯行を認めているよ。おかげでテレビや新聞、それにネットは大騒ぎだ」

「大混乱……だろうな」

「仕方ないさ。大企業のトップが汚職や事故ではなく、殺人未遂を犯したのだから……それにヒロキ君の事もある」

「……ああ、そうだな」

 

 二年前に起こった、親友の息子――まだ10歳という幼い子の自殺は、他でもない養父のトマス・シンドラーによって仕組まれたものだった。

 自殺を狙ったわけではないと証言しているようだが、同時に死を望まなかったと言ったら嘘になるとも答えている。

 

「世間は大騒ぎだよ。血に負けたトマス・シンドラー社長と、血に打ち勝った浅見透という対比はあまりに衝撃的……いや、刺激的なニュースだったからね」

 

 今頃、浅見透の周りは大変なことになっているだろう。

 なにせあの怪僧の血を受け継ぐ者であることが大きく広がってしまったのだ。

 トマス・シンドラーの証言を裏付けるために、ヒロキ君が作成したというDNA探査プログラムによる再検査が行われた。その装置の正確性を測るために、()も検査を改めて受けた。

 その際、結果は内密とされていたハズだったがどこからか漏れ、もはや浅見透の血筋は公然のモノとなってしまっていた。

 

「ヒロキの事といい、シンドラー社長の事と言い……彼には多大な迷惑をかけてしまった。彼の部下にもだ」

「……贖罪が、浅見財閥への協力の理由か? 樫村」

「それもある。だが一番の理由は、彼が息子の分身を保護してくれたことだ」

 

 世間では未だに一部の人間が浅見透に、彼が所有するノアズアークの引き渡しや解析、あるいは抹消を迫っている。

 もっとも、それらの声は浅見透や恩田遼平の緻密なパフォーマンスの下に下火になりつつある。

 実際に外部の攻撃から子供達を守っていたという実績、現場にいてそれを知っている上で浅見探偵事務所に好意的な政界や財界の人間への素早い根回し、それらを活用したメディアへの圧力。

 なにより、それからの流れるような各メディアを使った大衆の視点誘導と自分達の有効性と善性の程よいアピールは、見事と言わざるを得ない。

 

 そしてその裏では、浅見透の勢力を削るいい機会だと騒動を煽っていた勢力へのカウンターも行われている。

 

(裏はともかく、表の対策を取っていたのは確か恩田遼平君だったか。つい最近までは普通の大学生だったと聞いていたが……いやはや、これほどとは……)

 

「ノアズアークは、きわめて高度な存在とはいえシステムだ。紙媒体の資料が適切な保存をされていなければいつか失われてしまうのと同様に、あの子にも適切なメンテが必要になる」

「それをお前が?」

「あぁ。後々にではあるが、彼らのシステム開発部門の責任者を務めることになる」

「大胆な人事だな」

「まったくだ。浅見透と言う青年の事は私なりに調べていたつもりだったが……あぁ、どうやら彼の器は、私が想像していた以上の物のようだ。時代の寵児というのは、彼のような人間を指すのだろう」

 

 大学時代の悪友が、懐かしい笑みを浮かべていた。

 その笑みに、少しだけうらやましい物を感じる。

 

(そうか、樫村。お前は自分の腕の振るい所を見つけたのか)

 

「そういえば工藤、君の息子はどうしたんだ? 彼は新一君と繋がりがあるらしいが」

「あぁ、いや……うん。一応はそうなんだが……」

 

 

 

「私の不用意な言葉が、いささかややこしい状況を招いてしまっているようでね……」

「?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

〇2月17日

 

 まだまだメディアの連中がしつこいけど、勢いはだいぶ減らせたかな。

 というか今回もだけどメディア連中、子供や高校生組を利用しようとするのホントいい加減諦めてくれないかな。

 毎回毎回それなりのペナルティ与えてるのに毎回毎回やらかしやがって。

 

 瑛祐君が対応しようとしてくれてたけど、やっぱり数の暴力は苦手だろう。

 恩田さんがバイト組用にメディア対策マニュアルを作成して配ってくれたけど、表情とか隠すの苦手な真純あたりが実践できるかどうか……。

 

 今回助けてくれたのは意外にも園子ちゃんだった。

 鈴木財閥のご令嬢だけあって、案外慣れていたらしい。

 本当に助かるというか、いざって時にあれこれ手を打とうとしてくれる園子ちゃんが正直頼もしすぎるし信頼できる。

 だがそれを材料にメディアに俺と交際しているかもしれないって噂を流そうとした朋子さんはちょっと反省してください。

 

 ちゃんと京極君への教育と実績作りのプランは立ててるんだからもうちょっとくらい待ってくれていいでしょうが!? そっちにとっては一瞬なんだし!

 俺と違って!

 俺と違って!!

 

 さておき、今日の仕事は泥参会の残党狩り(?)だ。いやこれ何回目だって話だけど。

 上の方にいた幹部が――多分枡山さんの手に掛かって以降、残っていた連中の動きが雑になっている。

 まぁ、資金繰りで苦労しているんだろう。

 

 その結果が雑な詐欺やら強盗の横行だ。まぁ、それ以外にも麻薬などの密輸入や闇売買に違法風俗やら色々やってるけど。

 

 今は特にオレオレ詐欺を始めとする、高齢者を狙った振り込め詐欺が増大していて捜査二課が走り回っている。

 ……訂正、走り回った結果、数名が倒れている。

 具体的には中森警部とか。

 

 キッドには悪いけど、今は君が出てこなくて正解だよ。スコーピオン事件以来見てなくてちょっと寂しいけど。

 

 ……むしろキッドが出てきたら中森警部元気になるか?

 

 とにかく、ここ数日は銀行の人に事情を話して、変装が出来る人員にお年寄りの振りしてもらってATMの様子を観察させたり尾行したりして『出し子』っぽい人物をピックアップ。

 

 そこから警察を介して情報を集めて全体像のきっかけをつかんだのが一昨日。

 

 で、アジトを突き止めて警察にリークしたのが今日の昼。

 そして警察が突入してかなりの人員を逮捕したけど全員が電話役――いわゆる『かけ子』だったと白鳥さんから報告来たのが今。

 

 まとめ役はいたけどほとんどチンピラみたいな奴で、幹部とまでは言えないそうだ。

 

 ――とまぁ、俺は今事務所の所長室でこれ書いてるんだけど、俺の視界には俺と同じようにノートに俺の話を書き込んでいるコナンがいる。

 

 コイツほんとに最近どうしたんだ。

 やたら俺が関わった事件――特にコナンじゃなく他の探偵役と組んで解決した事件の事を聞きたがってはなんかノートにまとめている。

 

 この前、自分のアドレスブックと間違えてアイツのなんか分厚いノートを開いてしまった時は、なぜか初めて解決した黒川さんの事件の事をまとめていたし……なにか過去の事件に連中のヒントでも見つけたんかね。

 

 

 

〇2月18日

 

 強盗やら盗賊団やら誘拐が多すぎる。ねぇ現代なんだよね? 平成なんだよね?

 なんかアレだ。平成の皮を被った江戸時代が来てるんじゃないか?

 

 今日なんて拳銃どころかライフル持った強盗団が銀行に押し込んで、人質取って立てこもりやがった。

 しかも武器を手に入れて酔っちゃったのかパパパパパパパッって無駄撃ちで意味のない威嚇を繰り返してやがったクソ野郎共め。

 

 流れ弾での被害者が出る可能性を考えるとこれは待っている余裕がねぇと判断して、一緒にいた遠野さんと中に侵入、強襲、確保……したんだけどその様子を写真に撮られてしまった。

 尾行には気を付けていたんだけど、どうやら偶然そこに居合わせたみたいでパシャリと撮られて夕方の新聞やニュースに映ってしまった。

 中々やりおるわマジで。

 香田(こうだ)(かおる)さんか。

 新聞社の芸能部カメラマンらしいし、覚えておこう。

 

 

〇2月19日

 

 香田さんがウチの担当に任命されたと挨拶に来た。マジか。

 いやまぁ、日売テレビだと怜奈さんが実質ウチら担当だから意識してなかったけど、そうか……そういうのもあるか。

 でも社会部じゃなくて芸能部の人間が付くってどうなんだ? って聞いたら、実質芸能人みたいなものじゃないですかって切り返された。

 芸能人……芸能人?

 瑞紀ちゃんならまだしも俺の持ってる芸なんて爆弾の解体と射撃くらいなんですがそれは。

 

 まぁいい、問題は昨日の強盗だ。

 高木刑事から聞いた話だが、どうやら入手経路に枡山さんが一枚噛んでいるようだ。

 なんでも、凶器が欲しいなら杯戸町の駐車場に留められている、タイヤだけが汚れた赤い車を探せばトランクかボンネットの中に銃が転がっている……という話を聞いたらしい。

 

 マジで面倒な事やってくれるなぁ。

 話を聞いてあからさまに安室さん顔引き攣らせてたよ。

 

 こっから先、やっぱ銃火器持った相手とのやり取りは増えるんだろうし、訓練はやっぱ大事だ。

 今度海保のSSTとの合同訓練というか紅白模擬戦あるし気合入れよう。

 船の上で妙な連中と戦闘とか、ホントもういつ起こってもおかしくないし。

 

 

 

〇3月1日

 

 とっくに退院できてた紅子だけど、高校生組でお祝いしようという話が出てきている。

 賛成だ。お目付け役で俺と元泥棒で現ウチの専属調理師の亀倉さん……ついでに小沼博士が残ってればいいか。

 黒羽君も来るし瑞樹ちゃん呼ぼうと思ったんだけど、なんでも九州で仕事が入って朝一で新幹線に乗るとか……。

 言ってくれればウチの専用機で空路を提供したんだけどなぁ。

 あぁ、でも旅が好きとか言ってたっけ。

 

 

 

〇3月5日

 

 樫村さんが正式にウチに加わった。

 しばらくはノアズアークやコクーンの周りを任せて、そのうちシステム部門の責任者って立ち位置になるだろう。

 同時にカゲの身辺調査や研修が終わったので、越水の会社にいた人員をウチの事務や雑務要員として受け入れた。

 

 ……いきなり地獄に叩き込む様で申し訳ないけど、正直助かった。

 事務所員、高校生組以外は瑞樹ちゃんも含めてあちこちからの合同訓練やら演習、あるいは講習や講演依頼が飛び交ってて仕事の波に溺れそうだったからな。

 特に演習依頼が断りづらい所から来ていて避けられなかったのが痛い。

 

 いやもう、ホントにありがとう。

 

 仕事のことだが、病院船の一番艦が進水式まで漕ぎ着けられそうだ。

 その後艤装と設備搬入が終われば完成だ。

 

 設計士の秋吉さんとも打ち合わせしないとな。

 この船の処女航海、それと離島回りや緊急時の際の利用データをもとにカリオストロで使う奴を設計しないと悪い。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「うへぇ~~~~、やっとステージ申請書類と次のパフォーマンスの計画書終わったぁ……。紅子、チェックお願い」

「それは私の担当じゃないでしょ、黒羽君」

「あれ? そうだっけ?」

「すいません、瑞樹さんがいない時は、快斗君の計画書は僕で預かるようになったんですよ。見せてもらっていいですか?」

「あぁ……悪いな瑛祐」

「いえ、最近じゃあそういう役回りですし」

 

 珍しく社員がほぼ全員仕事で離れている浅見探偵事務所の中では高校生組が集まっている。

 小泉紅子、黒羽快斗に世良真純に本堂瑛祐。

 それぞれ学校が終わった後、残っている仕事を終わらせるために事務所に来ていた。

 

 唯一京極真だけが、恩田良平の思いつきで警察OBの懇談会に、恩田と共に参加させてもらっていた。

 

「なんだい黒羽君、それ?」

「来月ステージに立ちたい日の予約とか、その時に使う小道具やらなんやらの使用申請とかのあれこれ」

「うわぁ……。君、たまに瀬戸さんの代わりで厄介な所の調査したりするんだろう? その上でパフォーマーもやるって中々ハードワークじゃないかい?」

「ま、まぁ……手品を人に見せるのは好きですし」

「だとしても忙しすぎないか? それこそ、瀬戸さんや土井塔さんと相談してみたらどうだい?」

「は、はは……ソーデスネ……」

 

 実際には黒羽快斗のハードワークどころじゃない仕事量の原因となっているのが、その二人(・・)なのだが、そうと知らない世良真純は首をかしげている。

 なお、小泉紅子はそっぽを向いて、噴き出すのを必死に堪えている。

 

「というか、そういう真純こそどうなんだよ。俺らの中で一番ヤベェ所に突入しやすい奴だろ」

 

 そのフランクさのおかげで、京極以外には皆から下の名前で呼ばれている世良は肩をすくめて、

 

「そうはいっても、今じゃあジョドーさん達がいるからね。この間の強盗みたいに突然巻き込まれない限りはそうそうないさ」

「でも真純さん、ちょっと前にどこかの山荘で蘭さん達と事件に巻き込まれたときは相手が銃持ち込んでて危なくなかったですか?」

「単発式の銃で真正面から来てくれるんなら怖くないさ」

「え~~~~……。同年代でそういうこと言うのは京極君くらいだと思ってましたよ」

 

 割と書類仕事ではエースになりつつある瑛祐だが、身体能力では下手したら紅子にも負ける彼は怪物を見る目で真純を見つめ、その真純にデコピンで悶絶させられた。

 

「こーら真純、実力行使もほどほどにしておきなさい」

「そうは言うけど紅子君、自分をまるでボスを見るような目で見られたら君はどうする?」

「私なら息の根が止まる日まで呪い続けるわね」

「紅子さん!? それもっと物騒になってません!?」

 

 アイテテテ、と額を摩りながら起き上がる瑛祐は、双子のメイドが用意してくれた冷たい飲み物が入っていた氷とストローだけのグラスを軽く額に当てて冷やす。

 

「もう、容赦ないなぁ。とりあえず黒羽君は書類はOKなので、真純さんと一緒に、夏に米花校区に配る防犯啓発のパンフ作成に入ってもらえますか?」

 

 だけど同時に、まとめ役として期待されている分の仕事はこなす。

 

「まだ春に入ったばかりなのにもう夏のかい?」

「まぁ、印刷とか警察の方々とのチェックや打ち合わせを含めるとどうしても」

 

 瑛祐は先ほど快斗から受け取った書類に記入漏れや誤字脱字がないかチェックしながら話を続ける。

 

「警視庁の生安部、並びに総務部広報課の方々から、昨年に中高生の学生が巻き込まれたトラブルと詳細をリストアップしてもらってます。加えて要綱も二人のアドレスに送ってるから、それぞれのデスクのPCでチェックをお願いします」

「OK。まずはどこの部分を重視するか決めるから、そこで一回チェックもらってからデザインに入る……っていう流れでどうだい?」

 

 瑛祐が黒羽快斗に目線をやると、彼も頷いていた。

 

「分かりました、それでお願いします。なんか急に恩田さんから宿題を追加されちゃって、誰に頼もうか悩んでたんですよね」

「宿題?」

「『バイト組に、警察から頼まれた仕事を任せること。それに加えて人員は僕が選ぶこと。納期厳守』ですって」

「……その宿題の意味は?」

「さぁ?」

 

 ちなみに恩田としては、後々の正規スタッフ候補の本堂瑛祐に『警察から依頼を受けた仕事を、部下を使って完遂させた』という軽い実績と警察職員との繋がりを彼に持たせたかったというのが真相だ。

 

 なんとなくそれを察している紅子は、軽く咳ばらいをして話題を変える。

 

「それより、メディアの接触はどう? ここのスタッフは注目されやすいから、学生の貴方たちはちょっと心配なのだけど」

「貴方たちって、紅子君も学生じゃないか。でもまぁ……うん」

 

 真純はそっと立ち上がって、最近閉める事が多くなったブラインドの一枚をペキッと音を立ててまげて外を覗く。

 

「う~~~~ん、やっぱいるなぁ」

 

 そして予想通りの光景にうんざりしながら数を数え、その多さにさらにうんざりしてため息を吐く。

 

 

「出た瞬間に囲まれそう?」

「多分ね」

 

 紅子の心底面倒くさそうな問いかけに、似たような口調で返す真純。

 

「黒羽君や瑛祐君が出て行って半々、私達女性陣が出れば確実に囲まれそうね……」

「なーんでそこで男女差が出るかなぁ。ねぇ、紅子君?」

「あら、より美しい物を被写体にしたいと思うのは、向こうのお仕事からして当然ではなくて?」

 

 

 

 

「おい、聞いたか瑛祐。あんだけ自信満々に自分はお姫様宣言されるとめっちゃ腹立たねぇか? なんだあの自尊心の化け物」

「あ、あはは……まぁ、実際紅子さんすっごい美人ですし。ほら、芸能大手からオファーが良く来てるじゃないですか」

「見た目だけはいいからなぁ……。中身はキツいぞ、中身は。中身は」

「コメントしづらい所を強調しないでくださ――紅子さん違いますよ!? 僕は貴女の事を素晴らしい女性だと心から思っていますので呪うなら黒羽君だけにしてください!」

「瑛祐、てめぇ裏切ったな!?」

「手を組んだ覚えがそもそもありません!」

 

 学校が違うとはいえ同じ男子高校生同士で、かつ互いが互いの能力や仕事ぶりを知っているため、学校の友人とはまた少し違う関係を築いていた。

 

 そんな男子組の様子を見てクスリと笑った真純は、ブラインドを閉めようとして、

 

「……あれ?」

「どうした真純? なんか面倒そうなマスコミでも来てたか?」

「いや、なんかウチのビルに入ってきた人がいたんだけど、一瞬見えた制服が君や紅子君の学校の制服に見えてさ」

「俺の? 江古田高校?」

「あぁ。ホントに一瞬だったけど、」

 

 そうこうしていると、来客を示すインターホンが鳴り響く。

 パタパタと、双子のメイドが出迎えの用意をする音がする。

 まぁ、まずは手荷物のチェックからなのだが。

 

「男だった? 女だった?」

「それは断言できる。女性だよ。スカートの裾が見えたからね」

 

 その場にいる人間の顔が引き締まる。

 女性がここに駆け込む時は、かなりデリケートな案件の場合が多いからだ。

 

「よりによって鳥羽さんも瑞紀さんもいない時に……なんて言ってる場合じゃないか」

 

 瑛祐の言葉に、そっと黒羽快斗が目を逸らす。否、泳がせる。

 

「本当に江古田高校の生徒ならば、同じ学校の私だと話しづらいかもしれないわね……」

「このまま双子に任せるのがベストだろ。機転が利くし対応慣れしてるし、ただ念のために紅子と真純はスーツに着替えた方が――」

 

――トン、トン

 

 学生達が万が一に備えて準備を始めている時、控えめなノックがされる。

 

「やぁ、穂奈美さん。もう話は聞いてるのかい?」

 

 真純の問いかけに、珍しくメイドの一人が曖昧な笑みで答える。

 

「それが……来所されたのが皆様のお知り合いでして」

 

 その言葉を聞いて瑛祐はピンと来ず、真純は察しこそついたが理由が分からずキョトンとして――

 

 黒羽快斗と小泉紅子は顔を見合わせていた。

 

「黒羽君、まさか?」

「まさかまさか、前に白馬とその話をした時にアイツも側で聞いてたハズだし……」

 

 

 

――募集を出していないのは分かっています! でも、どうしても駄目ですか?

 

 

 

「……そういえば、ちょっと前にもまさにこんな流れがあったなぁ」

 

 一応ここと繋がっている応接室から漏れ聞こえてきた声に、真純は自分でも中々勝てない高校生の顔を思い浮かべて、眉間を揉んでいた。

 

 

 

――お願いします! 私()ここで働きたいんです!!

 

 

 

「……ひょっとして、捜査二課の中森さんの所の?」

 

 そしてようやく来客が誰なのか察した瑛祐が、同じ学校どころか同じクラスの二人に目をやる。

 

 

 

 

 

「馬鹿青子ぉぉぉぉぉ……」

「なんでわざわざ地獄の入り口に来ちゃうのかしら?」

 

 

 

 

「あの、お二人とも浅見探偵事務所をなんだと思っています?」

 

 




久々の人物紹介

香田(こうだ)(かおる)
劇場版16作目『11人目のストライカー』並びにアニオリ742話『Jリーガーとの約束』

CV:桐谷美玲(TVシリーズ742話での登場時は白石涼子さんが担当)

劇場版公開前の定番となりつつあるアニメシリーズでのプレストーリーですが、『11人目のストライカー』ではテレビシリーズでは珍しい事件の後日談を描いたストーリーが発表されました。(※OVAではよくあるんですがねw)

その時に登場した劇場版キャラが彼女、香田薫です!(正直好みのキャラデザだったしメディア関係者だったんでどっかで使おうとは思ってました)

日売新聞の社会部での活動していたカメラマン――でしたが登場時には芸能スポーツ部にトバされ、復帰のためにスクープを狙っている美人さん。

 当時はあまり興味なかったんですがゲスト声優で桐谷美玲だったのか……ちょっとDVD引っ張り出して見直してみると……なるほど確かに。

 個人的には、前述したアニオリ『Jリーガーとの約束』の方が印象に残ってたのでそっちで覚えてました。
 劇場版で登場してその後準レギュラーになった真田選手とセットで出来てたので、彼女も準レギュなるかと思ったらそうはならなかった……無念。



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