平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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アンケートご協力ありがとうございました。
紅子、メアリー、越水あたりでの一位争いになるかなと予想していた所にぶっちぎりの灰原で少々驚きましたが、見ていてとても楽しかったですw

個人的に面白かったのは片方に票が入るとすかさずもう片方に票が入る桜子ちゃんと佐藤刑事のペアw


三年目の日常(前半)
148:魔女の救済


「紅子、今回は本当にすまなかった」

 

 いつもは何事にも大雑把で、大抵の事は――後でトイレで嘔吐することが増えているとはいえ――笑って乗り越えてきた男が、苦悶ともいえる真摯な表情で深く頭を下げている。

 

「すまなかったって……まったく」

 

 普段ならばこの男が寝る事が多いベッドの上で上体を起こして、

 

「こんな小娘に下げるほど、今の貴方の頭は軽くないでしょう?」

「いや、今回の事は完全に俺の判断と認識の不足が招いた。正直、どう謝罪していいのか分からんほどだ」

 

 事件の規模――被害こそなかったが巻き込まれた子供達の数にその背景、そしてシンドラー・カンパニーという大企業のトップによる殺人とその血筋という一大スキャンダルは目が覚めてから世良さんや本堂君から聞いている。

 加えて、その解決の過程で明らかにされた、浅見透自身の血筋。

 それらの後処理で、自分に時間を割いている場合じゃないでしょうに。

 

(……彼が申し訳なく思っている理由には察しがつくけど……)

 

 踏み出すべきか、留まるべきか。

 

 おそらく、あの老人はすでに手を打った。

 多分、誘拐されていたあの灰原哀という子になんらかの仕込みを行ったハズだ。

 

(そうよね、枡山憲三。彼の理解者が増える事は貴方にとっても望むものだものね)

 

 彼は浅見透が全力で力を振るう事を望んでいる。

 その上で、彼の手で捕まえられるか、あるいは彼と共に大舞台で死にたいのだ。

 その後、彼が再び立ち上がるだろう事を確信しながら。

 自分にとってそれが無駄死になるだろうと確信してだ。

 

(本当にやっかいな……)

 

 いつか、浅見透の能力では手に負えなくなる。――等とあの老人は断じて考えない。

 いつか、浅見透の心が折れる。――等とあの老人は断じて考えない。

 

 あの老人は全力で、心の底から浅見透を信じている。

 終らない時間の中で幾千の挫折を味わおうが、幾万の絶望を突きつけられようが、絶対に自分(犯罪者)を追い続けると信じている。

 

 あの老人が越水七槻などに手をかけないのは彼好みの展開ではないから……いや、浅見透への一種の敬意や親愛から来るものだろう。

 

(実際、追い続ける。もし仮に、家族を失ったとしても絶望に膝を突くような男ではない。……けど、それは……)

 

 それはつまり、永遠に人の闇に直面し続ける事である。

 いや、それだけならまだいい。それはある意味で普通の人間と変わりがない。

 だが、彼の場合は……

 

 ふと、瀬戸瑞紀として様子を見に来た(キッド)の顔を思い出す。

 彼もまた、この男のように申し訳なさそうにしていた。

 

 違うのだ。謝るのは本来はこちらなのだ。

 この小泉紅子が他人に頭を下げるなんて癪なので断じてやらないが。 

 

(私の感覚で、死ぬことはないと思ったから動いたのだけど……浅見透の悪い所がうつったかしら)

 

 もうずっと顔を見せない浅見透の頭を、両手でわしっと掴む。

 ぴくっ、と肩が跳ねる。

 

 あぁ、頭突きやら猫のマーキングじみたグリグリをすると思われたのかもしれない。

 たまに越水さんやふなちがそんな事をやっていた。

 

「辛いわね、終わりが見えない一年は」 

 

 男の肩が小さく震える。

 あぁ――もう戻れない。

 踏んでしまった。

 戻れるかどうかの一線を。

 

「あなたは異端者。理解されるべきではない、理の外にいる者」

 

 だけど……もうだめだ。

 恋とか愛とか、そういう男と女の間に生まれるものではない。

 それは核心を持って言える。

 だって、()のように胸を焦がすものがない。

 ()のように、欲しいとは思わない。

 

 

 だけど、だけれども――

 

 

「きっと、これからも貴方は後悔を繰り返す」

 

 

 ――どうしようもなく、放っておけない。

 

 

「何度も何度も何度も、今回みたいなことはある」

 

 

 

「今回の事件で、あなたは犠牲者が出ることを選択した(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 男は、わずかに震える手で胸ポケットに差してあるサングラスを触る。

 あぁ、きっとこの男は、私が認識できない長い時間を耐えてきている。

 だけど、そこだけはきっと変わっていない。

 

 ――表情を悟られたくない時に、とっさにサングラスをかけようとする癖は。

 

「……いつ?」

「しいて言うなら、直前に貴方の顔色を見た時かしら」

 

 ある程度貴方に踏み込んだ人間も気付いていたようだけど、その意味に気付けるのは、多分あの老人と自分だけだろう。

 

(先が読めてしまうというのは……残酷ね)

 

「貴方は今までも、これからも、犠牲者が出る場面が分かったうえでそれを止めるかどうか、常に選択を迫られる」

 

 こう言っては何だが、彼が犯罪者の側だったらよかったのだ。

 私欲のままに力を振るえるのならば、自分についていくものからは慕われ、普通の人間からは疎まれ恐れられる。ある意味で普通の人間として活動できた。

 

「貴方は、もう異端の道を進むしかない」

 

 でも、この男は普通の男だった。

 もう大分歪んでしまっているけど、最初は普通の男だったハズ。

 だけど、もうこの男はこんなにも壊れ続けている。

 

「だから……きっとこれから先、何度も何度も今日のような後悔を重ねていく」

 

 そうだ。あの時、あの場所で走らなければ、きっとこの男が後悔すると思った。

 あれほど顔色を悪くするくらい悩んだ案件で犠牲者が出たら、この男にさらに取り返しのつかない傷が付くと思った。

 だから、人目が付きにくい場所を次々に駆け回ったのだ。

 

「何度も何度も……えぇ、何度だって何度だってあなたは重い選択を迫られる」

 

 そして、この男には悪いとは思っているが、感謝もしている。

 今日の出来事は、自分にとってもわずかながら自信につながる一件だった。

 

 こんな魔女(わたし)にも、伸ばせる手はあった。

 論理で追い詰める頭脳はなくとも、走り回って息をつかないくらいの体力すらなくとも、互いに無傷で相手を取り押さえるような技術がなくとも、――魔術を使わなくとも、

 

 こんな私でも、確かに人を救えたのだ。

 

「その罪悪感が貴方の目を(くら)ましそうなら、その時は今から言う言葉を思い浮かべなさい」

 

 だから、お礼に呪ってあげよう。

 

 

「大丈夫よ」

 

 

 魔女らしく、甘い呪いをプレゼントしよう。

 

 

「貴方は大丈夫。これから先、貴方がどんな選択をしようと。どんな道を歩もうとも――」

 

 

 

 

 

異端者(あなた)には、魔女(わたし)がついているわ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

〇2月1日

 

 仕事が俺を殺しに来ている。

 確実に殺しに来ている。

 

 神様助けてくれなくてもいいですからちょっと箪笥の角に小指ぶつけて悶絶してください。

 

 いやまぁ、シンドラー・カンパニーというIT界の雄を8割くらいそのまんま吸収したからどえらい事になるのは分かってたんだけど財界に政界、さらには国……ついでにメディアの圧力がとんでもねぇ事になってる皆死ね。

 

 史郎さん、朋子さんの手綱もうちょっと握っててくれませんかね。これ絶対に史郎会長の策じゃないですよね?

 俺と恩田さんと初穂で互いの利益の最大公約数狙って長門グループやら大岡家巻き込んであれこれ仕事の調整してる最中に、なんで完全にこっちを取り込む布石紛れ込ませようとするんですかね。

 

 おかげで俺も恩田君も何度もトイレに駆け込んで吐いてるんですがホントもう。

 メディアにも出なきゃならんしでスケジュールがガチで地獄すぎる。

 移動時間が実質睡眠時間ってどうなってるんだ。

 

 紅子の所にまた見舞いに行こうとしたら、電話で本人から「顔を出す暇があるのなら一秒でも多く睡眠時間を確保しなさい」と怒られる始末である。もうほんと頭が上がらない。

 

 樫村さんには容態が安定してから会いに行った。

 事件の流れは優作さんから一通り聞いていたようで、息子さんの仇を取ったことや結果として一命を取り留めるきっかけとなった紅子の活躍なども含めて、滅茶苦茶礼を言われた。

 

 それどころか、退院後に準備を整えたら正式にウチの傘下に入りたいと言われてしまった。

 実質ヒロキ君の分身と言えるウチのノアズアークの事もあるし、ある程度の協力自体は予想していたけどウチの会社への傘下入りは予想外だった。せいぜいノアズアークがらみの協力くらいだと思ったのに。

 

 とはいえ優秀なプログラマーの確保は最優先ラインだし是非もない。

 彼には金山さん共々頑張ってもらおう。

 実際、今のウチらIT産業界の一角になったから本部にもそれ関連の人材は必須だったから渡りに舟ではあった。

 

 金山さんは完全な技術要員だから、調整役とかは難しいだろうと思ってたから本当に。

 

 

 

〇2月2日

 

 今日も一日仕事漬けである。

 恩田さんが吐くのは最近ではいつものアレだけど、初穂や安室さんまでが倒れそうなのはさすがにヤベェ。

 体力自慢のキャメルさんですら突然立てなくなって、慌てて塩舐めさせてスポーツドリンク飲ませた。

 警視庁の面々から聞いてた応急処置だけど役に立ったわ。そのあとすぐにキャメルさん休ませたけど。

 

 越水の方からリストアップされた追加人員候補は、今カゲが身元や周辺環境のチェック中だ。

 それまではなんとか今の人員で回していくしかねぇ。

 

 風見さんを始めとする公安の面々も、もはや我が事務所の常連である。

 まぁ、いざってときに内密でそちらの潜入調査員の回収の補助や、場合によってはそのまんま俺らで取り返す時とかあるから連携を強めておきたいというのはあるのだろう。

 

 ついでに、訳ありの面々が余りに多いから監視も兼ねていると見た。

 まぁ、俺もそうだけどジョドーとか普通に見たら要注意人物だもんなぁ。

 

 ……ついでに、先日から各国の要人――特にロシアとアメリカからの圧がそれはもう強くて吐いた。

 セルゲイさんが事務所に来てお土産を持ってきてくれたが、立場を考えると裏を勘ぐってしまう。滅べ世界。

 

 

 

〇2月4日

 

 一日休みを取らされただけでだいぶ違う。日記読み返すといかに心が荒んでいたかよく分る。

 サンキューメアリー。だが背後から忍び寄って薬品しみ込ませたハンカチで昏睡させるのは今後禁止な。

 マジで今度こそ蜘蛛の連中みたいな刺客にやられたのかと思った。

 

 仕事の方はジョドーを通して初穂に俺の強制休養の報告が行ってたらしく、あいつが指揮を取ってくれた。

 スケジュールが空いた瞬間真っ先に休暇をくれてやらねば。

 というか、もういっそ皆で一回休んだ方がいい。

 明らかにオーバーワークすぎる。

 散々言われていたことだけど少数精鋭の欠点がここぞとばかりに突かれている。

 

 人員補強までもうちょい。とりあえず雑務に関してはどうにかなりそうだから、そこまでは皆で頑張るしかない。

 

 表に出せない調査に関しては、俺を寝かした後からメアリーが色々頑張ってくれている。

 ジョドー曰く、かなり気合が入っているとのことだ。

 なにか心境の変化があったんだろうか。

 

 俺としてはメアリーはいざって時に俺を後ろから止めるか刺す役だから、俺の動向の方に注目していて欲しい……いや助かってるんだけども。

 

 

 

〇2月5日

 

 紅子と瑛祐君のペアが頼もしすぎる。

 雑務処理に関して、高校生組を見事にまとめ切っている。

 

 安室さんやらキャメルさんから出された仕事を紅子が受け取り、方針を決めたら瑛祐君がリードしながら他の高校生組と相談しながら片づけている。

 今日、皆の仕事っぷりを双子が絶賛混じりに報告してくれた。

 

 正直、瑛祐君の信頼を勝ち取れたっぽいのはすごく嬉しい。

 おかげで玲奈さんとの引き合わせへの苦労も軽減されるし、なによりも戦闘に出さない方向での万能キャラに育ちつつあるのが頼もしすぎる。

 

 一方で恩田さんも、京極君の教育に最近熱心だ。といっても、仕事の合間合間だけど。

 嘘が吐けない彼の性格に合わせた交渉方法を模索していく中で、相手の機微を読み取る技能を少しずつ身に付けさせている。

 

 同時に恩田さん自身、コクーンの事件以降鈴木財閥の色んな人と接触しようとしている。

 商談とかその他調整などと様々な理由をつけてだ。

 

 妙な動きとしてジョドーが報告を上げて来たけど、多分将来的に京極君の味方になってくれそうな人間を吟味しているんだと思う。

 一応確認は取っておこうか。

 まぁ、真っすぐな武人気質の彼には補佐役は必須だよね。

 

 将来的に鈴木を背負う可能性の高い京極君の教育と周囲固めは、鈴木と色んな意味でベッタリな俺達としても他人事じゃない。

 

 

 

〇2月15日

 

 おかしいな。探偵事務所なのにウチに来る依頼、警備だの警護とかが爆発的に増えてるのはなぜ。

 いや、確かに小五郎さんもボディガードの依頼を受けたりしてるけどさ。

 

 ……書いてて気づいたが、浮気調査とかは七槻の方で対処できるから当然か。

 今じゃ七槻の会社が基本窓口になってて、ウチに駆け込むのはお偉いさんか警察、政府関係者がほとんどだったわ。

 

 まぁ、実際にウチが必要になることが多いのはどうかと思うけど……蜘蛛の連中相変わらず元気だなぁ。また遭遇したよ。

 今回のターゲットは俺らじゃなかったみたいだけど、また徹底的にやり合う事になった。

 例によって例のごとく拘束後に毒が発動して死亡した。

 

 恩田さんと安室さんが上手く警察と話をして蜘蛛の連中のご遺体から血液サンプルを、それになんらかのガスが付着しているマスクを提供していただくことに成功した。

 それらサンプルはダミールートを織り交ぜて志保のラボに届けた。

 これでなんらかの対抗策ができれば、取り調べも可能になるんだけど……。

 

 明日は常盤財閥のご令嬢が企画した食事会以外に予定はない。

 帰りに土産買って志保のラボに足運ぼうかな。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「で、どうだ志保。あの蜘蛛連中のサンプルでなにか分かった?」

「ある程度は、ね」

 

 もはや志保の職場にして緊急時の避難場所と言ってもいい偽装ラボに足を運ぶと、白衣を羽織って研究者モードに入った志保がいた。

 

「毒はおそらく、血液毒の一種だと思うわ」

「血液毒?」

「そうね……主に蛇や蜘蛛の一部が持っている毒ね。同じ生物が他に良く持つ神経毒に比べて、死に至るまでが非常に遅いのが特徴と言えば特徴なのだけど……」

 

 このラボは志保―灰原哀しか実質使わない設備とはいえ、体が戻った時の事を考えて一般成人に合わせた設計となっている。

 今の彼女の背にはやや高い作業テーブルの側に置いた台に上りながら、肘まで覆う手袋を付ける。

 そして側の棚からビーカーを取り出し、中に赤い液体を注いでいく。

 

「見ればわかると思うけど、これは血液。普通の実験用にもらった輸血パックの物よ。ここに血液毒が混じると……」

 

 志保が慎重に、試験管立てに収まっているうちの一本の中身をスポイトで計量しながら吸い取り、赤黒い血液の垂らしていく。

 

 そして中身を全部入れ終えると、志保がゆっくりとビーカーを回して血液と毒を混ぜ始める。

 すると、それまで確かに液体だった血液が、徐々にトロみがついていく。

 さらにしばらくかき回すと、とうとう出来の悪いゼリーみたいになった。

 

 

「このように凝固させて血流を堰き止めて、死に至らしめるの」

「あの入れ墨は、その毒の塊?」

「みたいなものね。どうやら、あのマスクに付着していたガスの吸気が止まると同時に血管内部に徐々に溶け出してるんじゃないかしら?」

「悪趣味ぃ……」

「全くね」

 

 もう完全にゼリーのようになっている血液が詰まったビーカーを、薬品処理用の流しで片づけながら志保は続ける。

 

「たださっきも言ったように、ふつう血液毒は死に至るまでに時間がかかるの」

「でも、あのガスが切れた途端にアイツラは死んだぞ?」

「えぇ……となると、まだ発見されていない有毒生物の毒を利用した物かも」

「……未だに新種の生き物やら昆虫が発見されるのはおかしくはないけど、あれだけの数の連中にガッツリ致死量の毒を埋め込むくらい新種を確保できるってんなら、どこかで見つかってないとおかしくない?」

「そうね。……となると、その生物は、住処がかなり限定されているのかも」

「たとえば?」

「……生物についてそんなに詳しいわけじゃないけど……」

 

 志保は処理を終えたビーカーを洗浄機の中に入れて、手袋を外して蓋つきのゴミ箱に叩き込んでしばし考える。

 

「人が立ち寄れない……島……の中で更に限定された場所にしか生息していないとか……かしら? 例えば沼とか、あるいは……洞窟とか」

「なるほど」

「多分、毒の進行を抑えているガスもそこにあるものと思うわ」

「……かなり限定できそうなんだけどなぁ」

 

 カゲが敵の暗殺組織の特定のために動いているけどまだ見つけられていない。

 ジョドーもメアリーも、現状最優先で潰すべき敵としてあの蜘蛛共を認識しているが、同時に敵の防諜レベルに舌を巻いている。

 ……いやまぁ、基本的にアイツら捕まえても死ぬから情報を抜き出そうにも出来ないんだけどね。

 

「貴方の目から見て、その毒の持ち主はやっかいな相手?」

「まぁなぁ……。黒尽くめの連中と違って隠す気ないから却って面倒というか……」

 

 アイツら出てくると通常の警備で想定する事態のはるか上を行くんだよなぁ。

 具体的にいうとロケラン並べて一斉発射とか包囲からの一斉射撃とか。

 

 この間も、沖矢遠野のスナイパーコンビが襲撃の少し前に敵を捕捉できたから犠牲者ゼロでなんとか抑えられたけど、これ気付かなかったらちょっと駄目だったかもしれない。

 

「そういえば、コクーンの事件の時のあれってどうだったの?」

「あれ?」

「貴方が暴れている間に外であった騒ぎ」

「あぁ……分かるだろ?」

 

 もうね、この日本でそんなバカやらかすのは二つしかない。

 あの蜘蛛共と枡山さん達と黒の組織だ。

 ……三つだったわ。

 

「ジン、ね」

「まぁ当分は動けんだろ。なんかぶっ飛ばされたみたいだし」

 

 あのクソロン毛、サイバー攻撃以外になんかよっぽど枡山さんの気に入らない事したんかな。

 攻撃用ヘリまで出してくるとか、枡山さん容赦ねぇなぁ。

 

 そういうのは俺にしか使わないと思ってたわ。

 

「それとカルバドス……」

「えぇ、お姉ちゃんが気にしてたわ。大丈夫かって」

「あぁ、大丈夫大丈夫、無事に離脱したよ。青蘭さんも援護していたし」

 

 どういうわけか手を組んだみたいだな、あの二人。

 やっぱあの二人、前に俺が考えた通りメインのライバル枠か。

 

 となると、青蘭さんもカルバドスもまた俺を殺しに来るな。

 あの二人なら小細工使わず殺す時は真っすぐ俺を殺しに来るから安心していいだろう。

 

 …………おいこら。

 

「志保。おい、志保。脛を蹴るのを止めなさい。子供の一撃でも結構痛いんだぞ」

「そう。わかったわ」

「……いい事聞いたって顔をするのやーめなさいって」

 

 この間明美さんが泊まりに来た時に苦笑されてたでしょうが。

 明美さんから中身はいい歳のお前さんの事頼まれるとは思わんかったわ。

 大丈夫? 精神が体に引っ張られてない?

 

「とりあえず、当面は毒の解析の方を優先するわ」

「あぁ、コナンとか例の顧客(・・)にも説明して了承を得ているから頼む。出来れば解毒剤が作れればいいんだけど……」

「今は難しいわね。とりあえず確保したガスを解析して、なんとか次に抑えた時には取り調べが可能なくらいに延命できるようにしてみるわ」

「ん、頼むわ。こういうのはお前が頼りだからな」

 

 ホント、志保はアポトキシンとかの事を考えるとマジで死守せにゃならんからな。

 今では家族でもあるし、安全の確保と研究その他諸々に必要なモノに関して金をケチるつもりはさらさらない。

 

「とりあえず休憩にしないか?」

「……貴方、ここに来る時はいつもお茶葉とお茶請けを持ってくるわね」

「ん、花のほうがいいとか?」

「花瓶がないわ」

 

 さいですか。

 

 ……テーブルの隅に一輪挿しで飾れそうな、なにか映える縁起のいい奴探しておくか。

 

 




なお、次回あとがき三行シリーズには灰原叩き込むことが決定しました

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