平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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今回も薄め


142:頭森谷死すべし、慈悲はない

 犯罪界のナポレオンたるモリアーティが、その宿敵足るホームズを敵視する。

 分かる。

 

 そのモリアーティがホームズにダメージを与えたいから惚れてるっぽい女を殺したい。

 まぁ、分かる。

 

 アピールしたいから超目立つ舞台の上でその女―女優を殺したい。

 うんうん。まぁ、分かる。分かるよー腹立つけど分かるよー。

 

 ……そうか、舞台女優――オペラ女優なのかぁ。

 舞台の上で歌ってる時に襲われる可能性大かぁ。

 

 やっぱ大掛かりな事件を起こす奴は人だろうがAIだろうが皆頭森谷か。クソが。

 

「俺、帰ったらこの騒動起こしたノアズアークに止めを刺すんだ。物理的に」

「どうした浅見」

「すまんコナン、ちょっとこう俺の身に降りかかる理不尽をな。ちょうどいい所にいる奴にぶつけてやろうかなって。これまで抱いてきたすべての恨みをこめてこの世界から追放してやろうかなって」

「おいオッサン、それ八つ当たりじゃねぇか」

「一応二十歳でオッサン呼ばわりはさすがに酷くない? 諸星君? ねぇってば」

 

 八つ当たりってのは他ならぬ俺が一番分かってるけど……いーじゃん。

 分かってる分かってる。また俺がぶっ飛ばされるんだろう? 壊れた劇場が崩れ落ちて危ない目に遭うんだろう? 下敷き一歩手前になるんだろう? 

 大丈夫大丈夫いつものこといつものこと。

 慣れたもんですよ。

 

 ……一回死んだらすぐに死んじゃうこの世界でなければな! 

 

 この世界で意味があるかはともかく劇が始まったらアキレス腱伸ばしておかねぇとな。

 クソ、これが現実だったら別に撃たれようが突き落とされようがなんとかなるけどこの仮想世界じゃあ……やっぱり現実こそ最高。

 

 コナン……もそうだけど演出的に危ないのはゲストの子供達と少年探偵団か。

 ある意味この事件に巻き込まれてここまで来てる時点で、おなじみ少年探偵団はもちろんゲストの子達もメンタルは下手な大人よりよっぽど鍛えられている。

 

 蘭ちゃんは……どうだろう?

 ジャック・ザ・リッパーはおそらく『手順』を踏まないと勝てない相手だろうからそこは不安だけど、それ以外の危機に対しては……う~~~ん??

 強いて言うなら子供の誰かを守るために危ない目には遭いそうだけど、基本的に蘭ちゃんみたいなヒロインキャラがピンチになるのって初っ端かラストのどっちかだと思うんだよなぁ。

 俺がカリオストロの事件に関わってた時の記憶喪失事件みたいな常に狙われてるみたいな例外を除けばだけど。

 

(……いや、この場合は誰がメインとして描写されている事件かによるか)

 

 なんにせよ、空手をやってることもあって体が仕上がってる子だし最終局面まではなんとかなるだろう。 

 

「にしても、お前、か――アイリーン・アドラーとそこまで話さなかったな」

「あん? 話しただろう?」

「挨拶だけだったじゃねーか」

「そう言われてもな……」

 

 あれお前の母ちゃんがモデルなんだろ?

 ていうことは、実質ほぼまんまなんだろう?

 

 今こうして俺らは舞台の袖に待機してるけど、その内そこの舞台で歌う予定の人を思い出して溜息を吐く。

 

 正直に言うとめっちゃ苦手な雰囲気の人だったから逃げてきちまった。

 

(確か今日は夫婦そろっての参加だったよな? ここでまさか『好みじゃなかった』なんて言ったら外に出た瞬間にぶっ飛ばされかね――いや俺のコクーンの電源を強制OFFしにくるかもしれないな)

 

 雰囲気だけで確信できた。多分自分とは絶対に相容れない人間だ。

 周りにいる人間の中ではふなちが一番近いんだろうけど、アイツともまた違う。

 

(ま、特にこのアイリーンは仮想世界で役を与えられたキャラクターなんだから仕方ない面もあるんだけどさ……現実とほぼ変わらない可能性が高いんだよなぁ)

 

 朝刊に載ってたモリアーティからジャック・ザ・リッパーへの指令文。

 簡単な暗号というか符丁で書かれたそれには、アイリーン・アドラーは舞台の上で殺害しろという実に頭森谷な派手好きっぽい命令が書かれていた。

 

 その後実際アイリーン・アドラーに会うため彼女が今晩公演するこの劇場へと足を運び、彼女に出会った。

 

(今夜の舞台は中止してくださいって、いつもなら目暮警部がいうセリフだよなぁ)

 

 その目暮警部がいいそうなセリフを、今回はコナンが言う事になった。

 まぁ、当然拒否されたわけだけど。

 

(諸星君やコナンは肝が据わってるって言ってるけど、やっぱり最低限の自衛手段というか、対策一つは打ってほしいなぁ)

 

 いやもう、ゲームのキャラクターだからしょうがないのは分かってるんだけど、こういう時に家にいる連中を思い出してしまう。

 

 七槻やふなちなら、会社や自宅と言った安全地帯から組織力や情報力を武器に手を尽くしてくれるだろうし、桜子ちゃんなら子供達と一緒に安全地帯にいてくれる。

 

 志保は……組織絡みの時にどう動くかまだ分からないが、それでも機転と知識で危険を避けようとしてくれるし、本気でヤバイ時は伝えてくれるし助けも求めてくれる。

 

(なんというかなぁ。コナンと同じで変な所で目立ちたがる気配がする……)

 

 有能なんだろうけど冷や冷やさせられそうだ、悪いがそういうのはコナンと蘭ちゃんだけでもうお腹いっぱいなんだ。

 能力あって行動力あって、結果は約束されているけど何をやらかすか分からない人間とか心臓に悪すぎるんだよなぁ。

 

「まぁ、今回俺はそこまで乗り気じゃないから。俺の事は緊急時の暴力装置程度に考えておいてくれ。あんま表立って動く気はない」

「表立ってうんぬん以外はいつも通りじゃねーか」

「おいこら。…………いやまぁそうなんだけど」

 

 しょうがないじゃん、推理要員は充分揃えたしそのバックアップ体制も整えてるから、後はこちらの自首勧告無視して反撃してくる連中制圧するのが現場での仕事な事多いし。

 ……まぁ、最近その仕事すら消えつつあるけど。

 恩田さんもそうだけど遠野さんも強くなったなぁ。

 

「というかよ」

「なに?」

「おめー、もうなにか気付いてるんだろ」

「何を?」

「ノアズアークの本当の目的だよ」

「いや、アイツ自身が言ってただろ。日本のリセットだって」

「それが本当なら、お前今頃とっくにノアズアークを制圧してるだろ。オメーならどうにでも出来るハズだ」

「お前俺をスーパーマンか何かと勘違いしてない?」

 

 いやホント無茶言うなよ。システムの外にいるならともかく中にいたら出来る事も出来ないって。

 

「実際、あの日本のリセット宣言は本気で言ってると思うぞ。全員がゲームオーバーになれば……残っているのはここにいる面子だけだったか……まぁ、ノアズアークは本当に全員を殺すだろうな」

 

 まぁ、今の所ホームズを消した以外に妨害らしい妨害もないし、やっぱりルートに沿ってタスクをクリアしていけばどうにかなるだろう。

 

「ただ、リセットだけが目的だったらそもそも子供たちがコクーンに入ってゲームをスタートした時点でとっくに実行してるだろうさ」

「…………あ」

 

 あ、って……。

 貴様、気付いてなかったんかい。

 

(一年で人間の五年分成長するAIで、だから今は十歳。コナン達より少し年上の子だからなぁ。だからこそ過激になるんじゃないかとも思ったけど、そういう感覚はやっぱりしないな)

 

 前に想定した通り少年向けの物語だとするならば、子供は基本的に被害に遭いにくいし、なにより犯罪サイドに加担することはまずないハズだ。

 

(子供らしく一緒に遊びたかったとか、明確な目的があるなら……子供達に試練を与えたかったとか?)

 

 まぁ、そういう意味で今回はそこまで危険ではない。

 強いて言うなら外も含めたイレギュラーが怖いか。

 外からの攻撃も、例の黒づくめの組織なら元々のストーリー通りなんだろうから問題ない。

 枡山さんは、少年探偵団ならともかく多数の子供を巻き込む真似はしないからそっちはまずありえない。

 

 ……ロシアの時みたいな、いろんな要素が混じったっぽいパターンが一番怖いな。

 泥棒のおじさん、こっち来てないよね?

 キッドも来てないよね?

 ……いや、やっぱキッドはいい。キッドは来てくれ。

 イレギュラーがあっても君が関わった事件は死傷者が極めて出にくい。少なくとも殺人事件という形では。

 仮に発生した時でも、中に一人殺人を好まない上に有能なキッドが紛れ込んでいるというだけで滅茶苦茶安心できる。

 存在だけで頼もしい事この上ない。

 帰ったら神棚に写真とか新聞記事のスクラップ祀っておこう。

 

「まぁ、今回大事なのは流れを掴むことだ。いつもみたいに質、数両方のマンパワーでゴリ押しをするにも、さすがに自衛手段を持たない子達にバラけてアチコチ探索してこいとか言えないし、現状俺なりにベストは尽くしてるつもりだよ」

 

 仮に危険物を見つけた所でどうしようもないしな。

 コナンならともかく、これは志保も含めて怪しい物を見つけたら事務所に電話してすぐにそこを離れるように徹底させているし。

 そもそも元太達には危険物への対処法とかそれ以外に教えていない。

 

「ん、大女優の出番か」

 

 そうこう言っている内に舞台が始まる。

 照明が薄くなり、ステージの裏に楽団の人間が並びだす。

 

「お前ら、アキレス腱伸ばしてから耳を押さえておけ」

「はぁ?」

「なんでだよ?」

 

 離れたところで普通にオペラを鑑賞する気満々の蘭ちゃん達の方にいる志保と楓にもサインで指示を出しておく。

 気付いた二人が他の皆に指示を出してくれているが……蘭ちゃん達が怪訝な顔してやがるな。

 出遅れる可能性があると見た、アキレス腱こっちも伸ばして用意しておくか。

 

「出来れば目も瞑っておいた方がいいぞ」

 

 やはりというか、いい歌だ。 

 俺はホームズは――特にアイリーン・アドラーが登場する『ボヘミアの醜聞』は一度さらっと読んだだけだからオペラ女優だったとかいう設定は完全に抜け落ちていたけど、こりゃあモテるわけだ。

 それこそ傾国に動こうと思えばやれたほどに。

 

(で、まぁ、そういうちょうどいいBGMって、大体事件の転換期への合図なわけで――)

 

 その瞬間、予測していた轟音と炎が劇場の一画を吹き飛ばした。

 

 今度森谷の顔を見たらとりあえず腰をベッキベキにへし折っておこう。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 別に、少女にとって遠い極東の島国での事件なんてどうでもよかった。

 

 あのIT界の帝王と言われていたシンドラー・カンパニーの醜態と予測される混乱にこそ興味はあったが、せいぜいそれだけだ。

 

 ただ、かつて自分を捕まえようとした妙な連中が、最近ネット上で騒がれている組織の下に(くだ)っていたどころか頭を下げてきて協力を要請してきたのには驚いたし、話の内容も楽しそうな物だった。

 

「送られてきたデータから対象を限定。候補7。更に限定……照合。ナイト・バロン……変なウィルスの存在は聞いていたけど実物を見るのは初めて」

 

 リアルタイムで対処しろなんて馬鹿げた依頼だが、報酬も悪くない。

 まぁ、報酬と言ってもちょっとした金銭――正確にはそれが入った隠し口座と貸しが一つずつという程度だが、それでも巨大な先進国家が相手だろうと一歩も引かずにやり合える組織への貸しなんて、使い方次第では最優の切り札になり得る。

 

 いつ、どのような形で使うかを少しだけ夢想し、だが受けた仕事の結果を出すために少女はデバイスを起動させる。

 

 

 

 

 

「Hello,underworld」

 

 

 

 

 

 

 




ちょいとお久のrikkaの紹介コラム

〇『Hello,underworld』
  ルパン三世Part5より

 コナンを見てルパン三世を見ていないという方もかなりいらっしゃるでしょうが、そういう方にぜひとも見てほしいのがルパン三世Part5。
 その象徴と言えるキャラクターの子です。当然名前はコレじゃないですw いずれ出てきた時のために取っておきますw

 ここでコラムを書こうとどうか、前回の時点で非常に迷っていたのですが、やはりオススメの作品という事で乗せました。

 Part5はSNSを始めとするITに絡む話が非常に多く、かつ興味深い話がとても多いのが特徴です。いやホント構成力の鬼。
 基本的に4~5話で一つの物語となっているロングシリーズがあり、その合間にルパン三世ならではの短編で埋められているのですが、このロングシリーズがとても面白い。

 今回登場してきた少女や、数話前に登場させたアルベール・ダンドレジーと極めて個性的かつ、魅力的なキャラクターが登場し、話によっては過去のルパン作品のキャラクターまで出てきてつながりを見せてくれる集大成。

 最近までやっていたルパン三世Part6も、次元大介の声優さんが長く続けられた小林清志さんから我らのBOSS大塚明夫さんへと交代し、これからも広げられていくだろうルパンワールド。
 これまで観ていない、スペシャルやカリオストロしか知らないという人はまずこのPart5をぜひ手に取っていただきたい。
 HuluやNetflixにて好評配信中!
(個人的にコナンのテレビシリーズを最も多く見せてくれるHuluの方を推しますがw)



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