平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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久々の一万超ww
やっぱり戦闘描写が苦手になってる。またここも要練習ですねorz



013:鈴木財閥という色んな意味での爆破フラグ(たまに墜落もあるよ!)

 6月3日

 

 なんかまた俺の周りに人が増えた。昨日会ったばかりの少年探偵団が、江戸川と一緒に遊びに来たんだ。光彦君曰く、怪我をしたっぽい俺の見舞いに来てくれたらしいが、歩美ちゃんは源之助目当てみたいだ。サービス精神なのだろうか、歩美ちゃんの目の前で普段見せないレベルでゴロゴロしている。お前普段ゴロゴロどころか動きもしねーだろうが。大体ソファの上でぐでーんとなっているだけだろうが。

 ともあれ、遊びに来てくれたので、適当にお菓子とジュースを出しておもてなしタイム。

 元太くん、よく食べるなー。あの後ちゃんと家でご飯が食べられたか不安になるレベルで。

 

 んで、その後飯を待っていたら(今日の当番はふなちだった)お客さんが来た。

 この近くで開業した私立探偵の安室透という男だ。ちくしょうイケメンは爆発しろ。爆ぜろ。

 その挨拶という事で同業者の俺の所に挨拶に来たらしい。ちゃう、俺探偵ちゃう。ただの助手って言ってんじゃん。

 なんでも、探偵の中では俺の名前が地味に広がっているらしく、是非会いたかったとのこと。うん、計画としては悪くない流れなんだけど、まだこっち守りが固まってない(汗)

 水無さんから誰か紹介してもらうのも考えたけど、まだ決め兼ねている。ストーリーに関わるキャラなのはほぼ間違いなしと見てはいるが、どの立ち位置かがまだハッキリしない。あの性格から『馬鹿め! ひっかかったな!』というタイプではない……と、思うのだが……。

 

 ともあれ、今日はカレーという事と、たまに出るふなちのよくわからん天然がさく裂して安室さんを入れた4人で夕食となった。マジでどうやったらこんなミラクル起きるんだよ。ふなちすげぇ。

 会話もごく普通に進むという奇跡。ふなちの空気の読め無さと安室さんの会話術が上手い事噛みあって……上手い事? うん、まぁとにかく面白い夕食ではあった。

 越水も安室さんと結構話していたが……アレは警戒しているっぽいな。まぁ、盗聴器が仕掛けられてしばらくしたら探偵が乗り込んできたんだから、そりゃ疑うわ。

 ただ、安室さんも疑われるのを知ってるっぽいんだよなー。こう、なんと言えばいいんだろう? 勘と言えば勘なんだが……。俺から少し踏み込んでみるか。多分、関わらざるを得ないんだろうな……。

 

 

 

 

 

6月4日

 

 毛利探偵と江戸川、それに蘭さん。三人は今日から三泊四日のツアーに出かけるそうだ。『シャーロック・ホームズ・フリーク歓迎ツアー』というツアーらしいが……。これ、俺ついていかなくていいんだろうか? どう考えても人が死ぬ。絶対死ぬ。賭けてもいい。

 まぁ、足が原付しかないしどうしようもない。明日から教習所に行こう、早くバイクの免許取らねーと……車の免許ならあるけど……ぶっちゃけ手が出ないし、置く所もないしなぁ……。唯一の車庫は今越水とふなちの車で埋まってるし……。

 まぁ、江戸川と眠りの小五郎のペアがいるなら一応は大丈夫だろう。……大丈夫だよな?

 

 その後、恒例となりつつある源之助を連れての散歩。今日は八木沢さんと会った。散歩のときによく合う男性で、いつもゴールデンレトリーバーの『クール』という犬を連れて散歩をしている人だ。非常に大人しい犬で、うちの源之助とも仲がいい。今日もクールと会うや否や、俺の肩からひょいっと飛び降りてクールの背中に乗っかってぐで~っとなっている。頭をクールの頭の上に乗せて、なんか新種の生き物みたいになっていた。

 

 八木沢さんと別れた後、今度は水無さんと会えた。今日はサングラスをかけた男と一緒だった。TV関係の人か……恋人だろうか? サングラスとキャップのせいで顔は分からないけど結構顔はいい方な気がする。

 珍しく源之助が威嚇する人だった。『こいつが威嚇するなんて中々ないんだけどねー』って笑い飛ばしてみたが、男の人はクスリとも笑ってくれなかった。……今思い返してもやりづらい人だ……。さりげなく握手しようとしても応じてくれず、話のタネとして趣味とか仕事とか酒の話を振ってみたけど答えてくれず。

 なんとなく目線を合わせづらくて胸のあたりに視線をやってたけど、男のそんな所見ても楽しくないのでしょうがなくまた目線を合わせる。本当に変な意味で緊張した。…………水無さんに言いよる男と思われたのかなぁ。いや、下心がゼロかって聞かれると素直に答えられないけどさ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、お前やベルモットが警戒するわけだ」

 

 カルバドスが、冷や汗を隠そうともせずにそう言ってため息をついた。この男がこんなに緊張するのを見るのは初めてだ。

 

「……浅見透。あの男、こちらが武装している事に気がついていたな」

 

 そうだ、それは傍から見ていた私からも分かった。彼の視線は、カルバドスがサスペンダーに付けているホルスターを確認していた。偽装もしていたから、ほんの少しの膨らみしかなかったはずなのに……。

 

「おそらく、俺の動きで分かったんだろう。銃を下げている方は重心が下がる。意識して隠したつもりだったが……。すまん、奴の観察力と洞察力は聞いていたのに……」

 

(まさか、あの無口なカルバドスが私に謝罪するなんて……)

 

 あまり組んだことのない男だが、プライドが高い男だというのは知っていた。その男がこうも簡単に謝罪の言葉を口にするとは……。

 よほど恥じている……いや、悔しかったのか。見破られた事が。

 

(……惚れた相手であるベルモットが認めた洞察力と観察力、それを試したかった……いや、信じたくなかったのかしら?)

 

 とてもそんな軽率な男とは思えないが……いや、それでも女が関わると男は変わってしまう。良くも悪くも……。

 

「それにしても、『好きな酒はなに』と来たか。どう思う、キール?」

「……何とも言えないわね。雑談の流れとしてはおかしくなかったし」

「だが、警戒して損はない相手、か。奴の体付き、恐らくは何かの体術を修めているものだろう。それに、あの手――」

「手?」

 

 そういえば、彼から握手を求められた時、身じろぎもせずにじっと彼の手を観察していたが……

 

「肉の付き方や人差し指のタコ……。かなり使い込んだ手だ。訓練か、あるいは実戦で」

「……得物は?」

 

 私が口にした問いを、彼自身も考えていたのかもしれない。彼はあらゆる武器を使いこなす人間だ。当然、武器を使う人間を多く見てきている。カルバドスはしばらく、何も言わずに考え込んで――

 

「ダーツか……細身のナイフのような物の投擲。それと多分――リボルバーだ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

6月7日

 

 江戸川が帰って来た。思った通りというかなんというか……やはり向こうで事件が起こったようだ。江戸川くんマジパネェっす。さらに、正体があの関西の高校生探偵にバレたらしい。素晴らしい、いい流れだ。アイツには悪いけど、正体を知る人間、あるいは協力者が増えるというのは俺にとっての一つの目安になる。

 最近では江戸川もすっかり家の一員になりつつある。ふなちが運んで来て、越水とテレビを見ながら色々話している。……大丈夫かなぁ、越水も勘が鋭いし、言質を引きずり出す技術はトップクラスだし、迂闊にバレなきゃいいんだけど。や、越水がストーリーに関わっている可能性は十分にあるけど――アイツも元とはいえ高校生探偵だしなぁ――なんにせよ、アイツに江戸川の正体や例の組織がらみが知られると、どう動くのか一番想像がつかねぇ女だ。出来るだけ伏せておきたい。

 

 日が沈みかけてから、江戸川を毛利探偵事務所まで送っていって、毛利さんと顔合わせしておいた。友好関係を築いておいて損がない人物のトップ3には入る人だ。……見ていて不安になる人でもあるが……飲みに付き合っておいた方がいいだろう。事務所に散らばる競馬新聞やパチスロ雑誌を見ていると、目を放した瞬間に身持ちを崩してそうですっげー怖い。

 最近はよく飲みに誘われているし、結構いい関係は築いているはずだ。……もうちょっと様子を見て、近いうちにこの人から色々人を紹介してもらおう。警察関係者ならそこそこ顔は利くはずだ。

 

 

 

 

6月8日

 

 やばい予感がする。今日、鈴木家から誘われて例の展示会――まだ準備段階の物だが――に招待してもらった。

 なんでも、鈴木相談役――すっげー元気な冒険おじさんが、俺と会うのを我慢できなかったらしい。文章にしてみてもあんまり嬉しくねェ。や、すっげぇ権力振り回せる人と知り合えたのはこれ以上ない幸運だったけど……なんで安室さんまで来てるんだ。いや、たまたま居合わせたっていうんなら分かるけど、なにちゃっかりついてきてんだ。相談役も構わんとか言いだすし。

 まぁいいや、ここまでは比較的どうでもいい。一番の問題は、パーティだよ。

 

 江戸川いねーのに、なんで俺が事件に巻き込まれてんの?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お主が、あの森谷なる卑劣な輩をとっ捕まえた小僧か! よくやった、この鈴木次郎吉が褒めてつかわすわ!!!」

 

 今回のロマノフ王朝の秘宝展は、鈴木財閥が前々から企画していた物らしく、米花シティビルの最も大きな展示場を借りているとの事。相談役はともかく、園子ちゃんのお父さんである鈴木史郎氏はかなり力を入れているらしい。

 

(まぁ、なにか政治がらみの動きもあったんだろうけど)

 

 今度の展覧会の直前に予定されているパーティには、政財界の大物や警察の関係者などかなりの大物が多く招待されているらしい――と、安室さんが教えてくれた。安室さんどんだけ顔知ってんだよマジぱねぇ。

 というか、それだけの顔を知っているってことは……安室さん、ひょっとしてどこかの御曹司とかじゃねーだろうな?

 だとしたら、是非ともつながりが欲しい所だけど、この人は相当怪しいからなぁ。今回はおかしくない程度に……そうだな、警察関係者あたりから当たっていこうか。経済界に政界はまだ手が出せん。というか、よくよく考えたらそっち方面は数人顔を作っておけばいい。一番大事なのは警察関係と医療関係だと思う。

 

 そう考えてから、とりあえず鈴木相談役と園子ちゃんに招待されたお礼を言わねばと近付いたらこれだよ。横にいた安室さんも、気が付いたら距離を取って引きつった笑いを浮かべてやがる。

 

「鈴木相談役ですね? 今回はこの場にお招きいただき、ありがとうございました!」

「なぁに! お主とは是非逢うてみたかった。警察の人間からも話は聞いておったからのう。園子の友人でもある工藤何某にも劣らぬ有能な男だとのぅ!!」

 

 あっあっあっ! と、独特な笑い声を上げる上機嫌なオジさん。あ、やめて。褒めるの止めて、俺いいとこパペットなんだからさ。あとぶっちゃけ俺の推理ってその工藤何某の物なんです。

 

「いえ、鈴木相談役、自分はまだまだ物を知らぬ若造でして――」

「はっはっは! 随分と謙虚じゃのう。気にいったぞ小僧!」

 

 ねぇ止めてよ、フレンドリーに接してこないでよ。警備態勢確認している人達の目が集まっちゃうから、集まりすぎちゃうから……。

 安室さんはこっち眺めているだけで――おい、俺の内面察しているだろう貴様、そのニヤニヤやめろ。

 

「すっごいわね、浅見さん。おじ様がここまで気にいるなんて滅多にないことよ」

 

 まじでか、園子ちゃん。このおっさん初っ端からえっらいフレンドリーなんだけど。

 

「どうじゃ、一足先にロマノフの秘宝を見てみぬか?」

「え、いいんですか? 一応まだ未公開なんじゃ……」

「なぁに、構いはせぬ。公開が始まれば、ゆっくり見ることなど出来ぬからのう」

 

 

 

 

 

 

「へぇ……」

 

 展示場に飾られているのは、まさしく秘宝展の名にふさわしい宝の数々だ。

 豪華絢爛な宝石を大量に使用したアクセサリー、宝剣、彫像……。

 警備の人下げちゃったけど大丈夫なんすか、相談役? あ、外は固めてるんですか。

 

「こりゃすごい。さすがはロマノフ王朝……さすがは鈴木財閥といったところか」

「まぁのう。もっとも、おかげで釣られてやってくる奴が多いがのぅ。今日もロシアの大使館から交渉を持ちかけられて史郎が困っておったわい! まぁ、ほとんどはくれてやってもいいが……」

 

 俺や園子ちゃん、安室さんを先導するように鈴木相談役は一つのショーケースの前に立った。

 そのショーケースの中に入っていたのは――

 

「卵?」

「これは……インペリアル・イースターエッグですか?」

「ほう、安室と言ったか? よく知っておるのう。そう、これが鈴木家の蔵から発掘された51番目のインペリアル・イースターエッグ。展覧会で一番の目玉じゃよ!!」

 

 パっと見で感想を言うならば、二つに綺麗に割れた緑色の卵だ。片方は蓋で、もう片方には中身が入っている。金かな? それで出来た彫刻が中に納められている。一つの大きなソファに、恐らくは父親だろう人物が本を広げ、それを赤ちゃんを抱えた妻や4人の子供が覗き込んでいる。

 

「中にいるのはニコライ皇帝一家の模型じゃ。むろん、純金で出来ておる」

 

 外側だけを見たら緑色の卵型のおもちゃだろう。だがなるほど、こうして開けてみると大したものだ。

 ……多分。俺に良し悪しが分かるはずがないだろう。

 

「ん? どうしたんですか、浅見さん」

 

 実際いいものかどうか考えていたのが顔に出てしまっていたのだろうか、いきなり安室さんが話しかけてくる。

 

「あ、いえ……ちょっと気になって」

「ほう、お主も気になっておるか!」

 

 え、適当に出た言葉に食いついて来たんだけどこのオジさん。安室さんも目を丸くして驚いている。

 

「鈴木相談役も? へぇ……何が気になっているんですか、浅見さん?」

 

 俺が聞きたいです。切実に。鈴木相談役、俺の代わりにご感想を――あ、聞く姿勢に入っていますね。

 

「いや、その、上手く口に出来ないんですけど……何か、物足りないような」

「うむ、儂も同じ事を思っておった。史郎のやつは『こういうものじゃないですか?』などと言っておったが……まったく、目利きに関しては朋子くんの方が頼りになる」

 

 ……ハッタリも意外と役に立つもんだ。ってか、俺が適当に言った事に同意しただけじゃねぇだろうな相談役。……実は美術オンチ? さすがにそれはないか。

 安室さんは今の流れをどうやら信じてくれたらしく、「お二人ともすごい観察力ですね!」等と言っている。なんだろう、やっぱこの人なんか胡散臭い。同時になんか憎めない感じだけど。

 ともあれ、もう少し安室さんを知る必要がある――前に、相談役としっかり関係を築いておこう。金持ちと仲良くしておいて損はないんだ。俺知ってる。

 

(――あれ?)

 

 いざ相談役に適当に無難な話題を放り込もうと思ったんだが……なんだろう、今空気が変わった様な気がした。なんとなくだが、

 

「安室さん、今周りに警備の人いますよね?」

「え? あぁ、この展示室にはいないけど、僕たちが入る時、確かに周辺は固めていたようだよ。これだけ国宝級の物が揃っているんだから、設備も人員もかなりの物だったよ」

「…………」

 

 聞かなきゃよかったと思った。いや、警備がなかったなんて言われたらもっと不味いが、こう、しっかり固めてあるというのは、なんだかフラグっぽい――

 

 

 

 

――バチン!!

 

 

 

 

「……そらきたよ」

 

 周りを見渡しても、今は何も見えない。全ての灯りが一斉に消えたからだ。慌てた声を上げる相談役と、腰を落としたのかやや低い位置に安室さんの気配を感じる。

 

「な、なんじゃ、これは一体――」

「しっ!」

「相談役、声を立てずに体勢を低くしてください」

 

 安室さんは、落ちついて相談役の安全を確保している。――手慣れてるな。

 

「安室さん、相談役をお願いします」

「分かった。気をつけて」

 

 これで相談役は大丈夫だろう。手探りで展示物の位置を確認しながら、出入り口の方に向かう。

 異常は外も感じているはず。それで中に入ってこないどころか物音一つしないというのは、少し嫌な予感がするが……。ともかく一度外に。

 

 

――チャキッ

 

 

 いつだか聞いたことのある音がした瞬間、気がつけばその方向に全力で鍵を投げつけていた。昔『師匠』の方に教わった簡単な技術。一番真っ直ぐ、かつ速く相手に物をぶつける技術。方向からして、間違いなく相談役や安室さんではない。となれば―

 

(当たってくれ!)

 

 ヒュンッ! という音と共に自分も音のする方に走る。徐々に暗闇に慣れてきたため、遮蔽物があるかないか位はなんとか見えてきた。

 

(立ち止まったらアウト! さっさと確保する!)

 

 人影はうっすら見える。それを確認するのと同時にチャリン!という音とそれとは別に重い何かが落ちる音がした。人影は――普通に立っている。外れか!

 叫び声を上げたい欲求にかられるが、そんな事をしたら完全に場所がばれる。

 

(もういっちょ!)

 

 ポケットに入れておいた携帯を、今度はソイツの足元辺りを目掛けて思いっきり投げつける。こっちの姿は向こうにももう見えているハズ。投げた動作位は見えただろう!

 

「…………っ!」

 

 向こうの呼吸が乱れる音が聞こえた。当たったかどうかは関係ない。迷わず、そいつの腹の辺りをめがけて思いっきり蹴りをお見舞いしてやった。

 肉にめり込む感触が足を通して伝わってくる。

 

「おおぉっ!!」

 

 ここまでくればもう声なんて関係ない。自分を奮い立たせる意味で叫びながら、そのまま相手を押さえ込――

 

『―――――っ!』

「がふ……っ!」

 

 

 マスクか何かをしていたのか、くぐもった声で何か怒鳴りつけられたのと同時に腹に熱が走る。チラっと目でそちらを見ると、相手の膝がめり込んでいる。くそ、かなり重いっ!

 こちらが一瞬怯んでしまった隙に、相手はこちらから距離を取り――いや、『タタタタッ』と走り去る音が聞こえる。音が聞こえなくなるかならないかというタイミングで、復旧したのだろう。電灯が徐々に点灯しだした。

 犯人らしき姿は……あるはずない。先ほどと変わっているのは、落ちた鍵と――拳銃。漫画やゲームでよく見かけるサイレンサーの様なものと、レーザーサイトが付いている。

 

「浅見くん! 大丈夫かい!?」

「小僧、無事か!」

 

 もう安全だと判断した安室さんと鈴木相談役がこっちに来る。

 腹の痛みはまだあるが、少しずつ引いてきている。口も開けるし、立てもする。あそこで怯まなかったら――

 

 

 

「……くそっ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『昨日、米花シティビルにて発生した強盗未遂事件の続報です。犯人は、催眠ガスの様なもので警備員達を無力化した後、展示会会場の全ての電源を落とし――』

 

『ロマノフ王朝に関連した物を狙っていた事や、現場に残された銃などから、犯人は国際手配されている盗賊、通称スコーピオンである可能性が高いと見られ、当局は捜査を――』

 

『武装した犯人を撃退した大学生に怪我はなく、居合わせた鈴木次郎吉相談役も――』

 

 

 

 翌朝――もう昼か。昨日の夜、警察まで浅見君を迎えに行った時に説明は受けていたけど……こうしてテレビで情報が流されると、改めて実感が湧いてくる。

 

 今、目の前で眠そうな顔のまま肩に源之助を乗せて、のほほんとテレビを見ている大馬鹿野郎が、また危ない目にあったと言う事が……っ!

 

「浅見様はあれですか? ホラーやサスペンスもので最初に転んじゃったり逃げようとするドジっ子の如き一級フラグ建築士なのでしょうか? このままではいつか浅見様が乙ってしまうのではないかと……」

「乙ってしまうってなんだ、乙ってしまうって。そもそも昨日の事だけは俺は悪くないぞ。いやまじで。招待受けたらこれだぞ、どうなってるんだ。俺は巻き込まれた被害者なわけで――」

「でも、拳銃を持った犯人目掛けて特攻されましたよね? 丸腰で」

「おっとそろそろ江戸川の所に行かなきゃ、俺ちょっと準備して――」

 

「浅見君、ステイ」

「…………わん」

「なおぅ……」

 

 私がそう声をかけると、怒られると思ったのか椅子の上で小さくなっていく。なぜか肩の源之助まで一緒に小さくなってるけど……。

 危ない目に遭ったという自覚は――あるけどないんだろうなぁ。薄々気づいていたけど、本当に危なっかしい。自分の命というか、体を軽く見ている所がある。仮に昨日、犯人に撃たれて身体に障害が残ったり、手足を失うような事になったとしても『命が残ってりゃおっけおっけ』とか言いかねない。

 それでも心配かけた事は悪いと思っているんだろう。心からそう思っているのが分かるから余計に性質が悪い。見るからにしゅーん、と項垂れている。もう、本当に……もうっ!

 

「はぁ……。まぁ、最後の特攻だけは褒められないけど、あのまま待っていたら多分撃たれただろうし、前の! 爆弾事件の時とは違って! 自分から首突っ込んだわけじゃないから、今回は許してあげる。……今回だけだからね!?」

「アッハイ」

 

 まぁ、今回はしょうがない。浅見君が無事に帰ってきてくれただけでも良かったとしよう。

 それにしても――浅見君から聞きだしたい事がすごい勢いで増えつつある。

 ただでさえ、工藤くんとの事や江戸川君との事、盗聴器の心当たりに絡んでくる水無怜奈さんの事と色々あったのに、今回の件でまた一つ増えた。

 

 あの安室さんの話が事実なら、暗闇の中で物を投げつけて的確に拳銃を叩き落とすなんて尋常じゃない技能を持ってる事になる。目暮警部から、森谷教授の起爆装置を家の鍵で叩き落としたのは聞いていたけど……。

 

 彼が日課として身体を鍛えているのは知っている。知ってはいるが、室内でどんな事をしているのかまではさすがに知らない。せいぜい外でやってる走り込みと、庭先での木刀の素振り位しか知らない。部屋の中でも筋トレのような事はやっているらしいが……。多分、それだ。

 

 さて、いい加減積もりに積もったこの話、どうやって切り出そう……。

 とりあえず、この空気をどうにかするためにもテレビに注意を向ける。画面には、鈴木相談役の記者会見がライブで流れている。

 

 

 

『では、鈴木相談役。その大学生とは、例の連続爆弾事件を解決した彼なんですね!?』

『うむ、あの暗闇での冷静さ、犯人の気配を感じるや否や立ち向かう勇気! 度胸! まっことアッパレな若者よ! あの浅見透という男は!!』

 

「うぉいっ!!!!???」

 

 それまで気まずそうにチラチラと画面を見ていた浅見君が、がたっと立ちあがって思わず声を上げる。そりゃ上げるだろう。私も上げそうになった。というか、上げたのかもしれない。開いた口が塞がらないというのはこういう事か。

 警察には口止めしてあったのが、まさかこんな形であっさりばらされるとは!

 

『あの小僧も、あれだけの能力があるのならばもっと早くから出ておればよかったモノを!』

『は、はぁ……』

 

 うん、記者の人も困っている。そりゃそうだろう。僕があそこにいたとしてもなんと言えばいいか分からない。浅見君がその場にいたら? 泣いてる。

 

『なに、これからは心配いらん。奴には場をくれてやったわい!』

 

「…………浅見くん。『場』って、なに?」

 

 知らないだろうと思いつつ聞いてみると、やはりそうだ。『ブンブンブンブンっ!』と音が出るくらい首を横に振っている。源之助も。なんで動きがリンクしてるの? というかよく落ちないね、源之助。

 

――ピン、ポーン……

 

 ちっ、テレビの方に集中しようかと思ったらインターホンが鳴った。誰だろう、こんなタイミングで?

 

「はーい……今行きまーす」

 

 宅配便? いや、それとも江戸川君だろうか? 今日は浅見君と会う約束をしていたようだし……

 半ば茫然としていた浅見君がフラフラーっと立ちあがり、玄関口に降りて、適当な靴に足を引っ掛けてドアを開ける。そこにいたのは――

 

「おはようございます! 昨日はご活躍でしたね!」

「安室さん!?」

 

 いきなり僕たちの前に現れた探偵、安室透。今、僕が一番警戒している相手だ。なんでこの家に!?

 

「どうしたんですか、安室さん? 昨日の件でまた何か?」

「? あれ……相談役から聞いていないんですか? もう自分は用意を終わらせたんですが……」

「…………用意?」

 

 浅見君と駆け寄ったふなちさん、ついでに源之助が揃ってキョトンと首をかしげている。安室さんは、この場にいる全員の視線をモノともせず、懐から手のひらサイズの――名刺入れだ。それから一枚引き抜いて浅見君に渡す。浅見君は受け取ったそれに目を通して……あ、固まった。ふなちさんが横から覗いて、あ、こっちも固まった。

 僕も浅見君の所に寄って覗きこむ。やっぱり名刺のようだ。

 えーとなになに、『浅見探偵事務所 所属調査員 安室 透』。へー…………うん?

 

 

 

 

「「「浅見探偵事務所!!!?」」」

 

 

 

 

 そこに書かれている内容に驚いた僕と、再起動した二人の叫び声が重なった。

 思わず浅見君の横顔を見るが、叫んだまま開けた口をパクパクさせている。

 

「はい! 昨夜、警察の調書取りを終えた後、鈴木相談役から、浅見さんに協力してくれと頼まれまして。相談役がすでに事務所も用意してありますので、案内も兼ねて迎えに来たんです」

 

 そんな馬鹿な。いくらなんでも無茶苦茶すぎ――あぁ、でも、噂に聞く鈴木相談役なら確かにやりかねない。いやいや、まさか本人の了承も得ずに……いやいやいや。資本金とかどうしたのさ。まさかもう相談役が? まさか財閥の金は使えないだろうし……個人資産? いやいやいやいや、そんなまさか――まさか……え、まじで?

 

「表に車を止めてあるので、どうぞ乗ってください。越水さんや中居さんもどうぞ」

 

 安室さんが一歩下がると、彼の物と思われる白のRX-7が止まっている。

 浅見くんが何か言いたげに茫然とした様子で安室さんを見ているが、言葉が出ない――言葉にならないのだろう、変わらずパクパクさせているだけだ。

 

「本日からよろしくお願いします! 『浅見所長』!!」

 

 ここ最近ドタバタしている浅見君の家に、無駄に明るい安室さんの声が大きく響くのと同時に、浅見くんが膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

――浅見くん……君、どんな星の下に生まれてきたの??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は珍しくキールさん出番なし。なお次回から本格的にやりたい事が出来そうでなんだかワクワクしておりますw


探偵事務所の細部というか細かい所も次回! 説明の矛盾があった場合?
優しく温かい目で見守っておいてください(汗)


-追記-
ごめん、キールさん出番あったやん(汗)

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