平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

13 / 163
やばい、キールさんいじめるのが楽しくなってきた。
こんな扱いにするハズじゃなかったのに……


012:ある大学生の周辺(副題:フラグが立たない日ってあるの?)

「一体どうなっているの!?」

 

 痛む胃を押さえながら、水無怜奈は病院のエントランスで思わず呻いていた。

 始まりは彼の監視をしていた仲間から、無茶苦茶な報告が入った所から始まる。

 

 

――浅見透が単身、組織の取引現場に乗り込んでいった。

 

 

 もうこの時点でテレビ局を飛び出したかったのだが、続く報告でさらに愕然とした。

 『浅見透が爆発に巻き込まれた』とは一体どういう事なのか。今、彼に万が一があっては困ると慌てて病院に行けば、当の本人はほぼ無傷でピンピンしているときた。一体彼はなんなんだろう。

 監視していた人間が言うには、出入り口の重い扉を上手い事爆風を逃がすような角度で盾にし、殺しきれなかった爆風に逆らわず被害を最小に防いだらしい。

 確かに彼の身体はかなり鍛えられているが、ほとんど傷はなかった。そんな高度な訓練を受けたとは思えないが……。あぁ違う、先入観に囚われたらダメだ。その結果がCIAの人員がうかつな行動ができない今に繋がっているのだ。

 問題は、彼が一体何の目的で『カクテル』に向かったのかだ。これに関しては私もジンに報告を上げるしかなく、正式にカルバドスも彼の監視に付くことになった。

 これから先、私もますます動きづらくなるだろう。先日彼が言っていた『手を打つ』というのがなんなのかすらまだ分かっていないというのにっ! 

 人手が足りない。全く足りない。早急に何か手を打たないと……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「つまり、あの店はヤバい奴らの取引に使われていた現場だったってわけか」

 

 再び病院のやっかいになっている俺の元に江戸川が阿笠博士と一緒にやってきたのは、空が赤くなり始めた頃だ。

 

「で、そのヤバい奴らっていうのがお前の身体を小さくした原因で、江戸川はそいつらを追っていると」

「あぁ……。せっかく見つけた手掛かりは爆死して、残ってた手掛かりも同じく吹っ飛んじまった」

「同じく? その手掛かりとやら、口封じとかで殺されたのか?」

 

 となると知っちゃいけないことを知った、いわゆる重要なショートカットを逃したことになるが……。

 

「いんや、ソイツが死んだのは手違いだったよ。犯人は、本当はその取引相手を殺そうとしていたんだけど爆発物を仕掛けたカバンが取引で入れ替わって……」

「悪者にこういうのもなんだけど、不運ってレベルじゃねーな」

 

 いや、本当に。しかしなるほど……おそらく、流れそのものは本来とそう変わってはいないのだろう。俺がかかわっていたとしても変えられそうにない様子だし……。それにしても、手掛かりが全部吹っ飛んだか。物語のお約束に当てはめると、これはどのパターンだ? メインストーリーにかかわっているのは間違いないだろうが、何も進行しないなんて考えづらい。現状、あるとしたらこっちじゃなく、敵側に何かが?

 

「江戸川、他になんもないのか? 例えば取引の内容とか」

「一応聞いてきたけど、優秀なプログラマーのリストを高値で取引したとしか……」

「プログラマーのリスト?」

 

 なんじゃそりゃ? と尋ねたら、阿笠博士が答えてくれた。

 

「あの企業のヘッドハンティング候補者のリストじゃったらしい。同時に、警戒せねばならん相手のリストでもあったらしいのぅ」

「? 事件があった企業って確かゲームの開発を主とする会社でしたよね。プログラマーが大事っていうのは分かりますけど……やっぱり取り合いが激しいんですか?」

「うむ、今は様々な会社が次世代ハードの開発に専念しておる。満天堂のような国内の会社もそうじゃが、最近では海外のシンドラーカンパニー等が新しいプロジェクトを立ち上げておる」

 

 シンドラーカンパニー? あー、どっかで聞いたことがあるようなないような……あ、

 

「例の天才少年がいた所か」

 

 確か、サワダ ヒロキくんとか言ったっけか。この間にニュースで特集が流れていたハズだ。その特集というのが――

 

「うむ……残念な事に先日、自殺してしまったがのぅ……」

 

 ――そう、追悼特集だった。現養父のトマス=シンドラー氏や実の父親である人のコメントまで入っていて、ヒロキくんがどんな子だったかを語っていた。

 

「んんっ! 話がそれてしまったの。まぁ、そのリストを調べて何かが出ればいいんじゃが……」

「奴らに関しては手掛かりなしだろうな……」

 

 江戸川は本当に残念だという感情を全て込めたような、深ーいため息を吐いた。

 この様子からすると、どうやら物語もまだまだ序盤の方なのだろうか? 少なくとも、そうであるという覚悟だけはしておいた方がよさそうだ。

 

(……俺、あと何年大学二年生をやるんだろう……)

 

 この時期はまだいいが、12月とか1月辺りになるとダメージがでかいのだ。心の。あ、ヤバい、泣きそうになる。話題を変えよう。

 

「あぁ、それと怜奈さんに会う件だけどもうちょっと待ってくんない? ここんとこ頼みごとの連発で俺としてもちょっと間を置きたいんだわ」

「それは別にいいけど……どういう人なの? 例の資料、裏も取ったから本物だって分かるけど……あれ、とんでもないものだろ?」

「色んな方面に顔が利く人なんだと。いや~むちゃくちゃいい人だわあの人。盗聴器の時なんか電話の向こうで無茶苦茶心配してくれてな?」

 

 江戸川の懸念も分からなくはない。確かに、一アナウンサーにしては怜奈さんは有能すぎると思う。だからこそ、俺は確信している。あの人は間違いなくメインストーリーに関わる人間だ、恐らくは――味方で。

 まだ完全な確信は持てないから、いくつかカマをかけたりしながら立ち位置を探ろう。江戸川と会わせるのはそれからでいいだろう。

 

「あぁ、そうだ。浅見さん退院はいつの予定?」

「ん? おぉ……ぶっちゃけ明日にでも退院できるぞ。軽い火傷と、身体を打っただけだしな」

「ふーん……。それじゃあさ、今度の土曜日って空いてる?」

「あん? 空いてるけど、なんかあったのか?」

「多分、後で蘭か園子からまた声かけられると思うけどさ――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「浅見さんを誘えって……なんでそんな事になったの?」

 

 放課後、園子と街に行く約束をしていた蘭は、彼女と二人で色んな店を見て回っていたのだが、ふと園子からある事を頼まれていた。

 

「次郎吉おじさまに頼まれたのよ。彼を是非とも連れてこいって」

「次郎吉おじさま?」

「あー、そっか、蘭は面識なかったっけ? パパのお兄さんで、鈴木財閥の相談役をやっている人。ついでに無類の目立ちたがりでさー、色んな事に手を出しては賞とってんのよ。ゴルフにヨット、サバンナラリー他諸々ってね。この間も何かの賞を取ったみたいなんだけど……それがこの間の爆弾事件で、一面に乗るはずの記事が潰れてしまってもうカンカン」

「ちょっと園子、それで浅見さんを呼び付けて八つ当たりしようなんて話だったら私断るわよー?」

 

 蘭が焦った様にそう言うと、園子は「ないない」という様に手を横にパタパタと振り、

 

「逆よ逆! 『儂の一面を潰した憎っくき悪党を捕らえた若造に、是非とも会って直接話したい!!』とか言っちゃってさー。まぁ、面倒なのには変わりないけど、蘭が心配しているような事にはならないんじゃない?」

 

 もはや世間では、静かに浅見透の名が広まりつつあった。正確には名ではなく、事件を解決した『工藤新一の助手』が存在するという話なのだが……。

 

「でもビックリしたよね。あの新一君に助手がいて、しかもそれがあの浅見さんだったなんてさー」

 

 園子から見て、一度だけ会った事のある浅見透は、極々普通の男だった。顔は……悪い訳ではないが、いい訳でもない。面食いの園子の食指が働く相手ではなかった。

 

「あの人なら、新一君の居場所も知ってるんじゃない?」

「ううん、あの人も新一の場所は今は分からないって。連絡もろくに取れないって言ってたし」

「ふーん、そっかぁ……」

「ま、まぁ、浅見さんにはこっちから声をかけておくから……えっと、米花シティビルの?」

「そそ、例の爆弾があった所。ウチが出資してるイベントだから、浅見さんには本当に感謝だね~」

 

 もし米花シティビルが崩壊でもしようものならば、イベントどころの話ではなくなり、かなりの損失がいろんな方面に出ていただろう。あのビルの出資者である鈴木財閥ならばなおさらだ。

 

「浅見さんがこういうのに興味あるかどうか分かんないけど、一応パーティーもするみたいだからよろしく誘っておいてね!」

 

 

 

 

 

「来月の15日から始まる、わが鈴木財閥主催の展覧会! 『ロマノフ王朝の秘宝展』に!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 6月1日

 

 今度、鈴木財閥のパーティーに参加する事になりました。ちょっと最近状況動きすぎじゃね??

 なんでも、森谷が爆弾仕掛けたあのビル、鈴木財閥も一枚噛んでいたそうな。それに加えて、理由こそ詳しくは聞いてないけど、鈴木財閥の相談役という人から直々に俺にお誘いがあったそうな。……園子ちゃんに聞いた所、言っておけばその人数分の招待状を出してくれるというので、俺と越水、ふなちと怜奈さんの分を頼んでおいた。蘭さんや江戸川も恐らくは来るだろうし……え、何も起こらないよね?

 

 まぁいいや、怜奈さんにも電話で予定を確認したら、大丈夫と言っていたし。……楽しんでもらえるといいなぁ、ここ最近はお世話になりっぱなしだ。今度時間が合えば、どこかいいレストランでも誘ってみよう。少しずつでも借りを返していかないと、ついついあの人には甘えてしまいそうになる。お姉ちゃん気質っていうのだろうか? 面倒見がよくて、会話をしてて苦にならない人だ。越水やふなちもそうなんだけど……。

 

 越水達にもフォローしとかにゃヤバい。ついに一人暮らしから三人暮らしになってしまった。うん、もう勘弁してくんないかな、マジで。

 俺が爆弾に巻き込まれたのは、誰かが俺を狙っているからじゃないかと思ったらしく、越水が傍から離れてくれない。

 組織などの事情が説明できなかった俺も悪いのだが……うん、その、肩身が狭いです。

 まぁ、向こうからしたら家賃なんかは浮くし、こっちの光熱費とかに当てても安く済むから悪い事ばかりじゃないんだけど……交代制だけどご飯も作ってくれるし、外食とか弁当が減ったから実質食費も浮いてるし、一人だとろくすっぽしてなかった掃除もするようになったし……。なんだろう書いてると俺がダメ人間な気がしてきた。

 

 代わりと言っちゃなんだけど、近いうちに越水の調査を手伝う事になった。本当はこの間のGWの時に四国に行くつもりだったらしいけど、例の爆弾事件で行くのを取りやめたそうだ。怪我しまくっていた俺を放っておけなかったそうで「君って本当にズルいよね」って散々言われた。もうそろそろ許してくれませんかね(汗)

 飲みに行くときも迂闊に遅くなれないし、その事を話したら毛利探偵は爆笑してるし、江戸川は乾いた笑いを浮かべているし。

 おのれー。

 

 

 

 

 6月2日

 

 源之助が肩に乗ってくれるようになった。一度やってみたかったんだ、猫を肩に乗せて歩いてみるって。中二病と笑わば笑え、それでも一度やってみたかったんだ。実際、試しに家の周りをグルっと回れば、例の少年探偵団のメンツにすっごい人気だった。

 ……越水とふなちから生温かい視線を頂いた。ちくしょう、意地でも乗せ続けてやる。

 

 今日は水無さんから身体は大丈夫かという連絡が入った。いつも心配してもらって本当に頭が下がります。まじで今度どこかで奢ろう。死傷者こそ多く出ているが、幸い自分には大した怪我はない。

『爆発程度なら慣れてますからー』と冗談で言ったら沈黙されたのがちょっとつらい。慌てて弁明したが、怒らせてしまっただろうか?

 例のバーにはどうして向かったのか聞かれたが、ぶっちゃけ本当に偶然だったので『ちょっと気になってて』と正直に答えると、また少し沈黙。どうしよう、この人にも越水が言っているように俺が狙われていると思われているのだろうか? 実際、ここ最近は確かにえらい心配をかけている。

 身を守る方法も考えておいた方がいいなぁ。一番手っ取り早いのは……人を集めるか。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「浅見の兄ちゃん、相変わらず面白いよな! 肩に白猫乗せてさ!」

「うん! あのお猫さん、すっごい可愛かったー!」

 

 元太くんと歩美ちゃんが口々に先ほど再会した男の人の感想を言っている。

 

「まるであの小説、三毛猫ホームズのようでしたね」

 

 前に会ったのは先月の初め、僕たち少年探偵団に猫探しの依頼が来た時だ。その時はコナン君が先に帰ってしまっていたため、僕たち三人だけで捜査をすることになった。けど、僕たちだけでは目撃証言が集まらず、途方に暮れていた所に、あの人が――浅見さんが力を貸してくれました。

 子供の言う事で、話を聞いてくれそうにない人がいたら、浅見さんが上手く聞き出してくれて、猫のいそうな場所なんかもリストアップしてくれて……。本当にいい人でした。

 

「でも、浅見さん……怪我をしていましたね」

 

 前に会った時はなかった包帯が腕に巻かれていた。包帯がない所にも擦り傷などの痕があった。一体どうしたんだろう。

 

「あの兄ちゃん、うっかりして転んだんじゃねーか?」

「でも、浅見さん、前に猫を一緒に探した時はしっかりしてそうな人だったよ」

「はい、僕も歩美ちゃんと同意見です」

 

 あの人、ぱっと見は痩せているけど、腕とか見る限りかなり鍛えているように見えた。

 最近ではこっそり人を観察するように心がけているのだ。いつまでもコナンくんに負けるわけにはいかない、と。自分も少年探偵団の一員なんですから――!

 

「そんなに怪我が気になるんならよー。明日、浅見の兄ちゃんのとこに遊びに行こうぜ!」

「え、元太君、浅見さんの家知ってるの?」

「コナンなら知ってんじゃねーの? この間二人で歩いている所を見たぜ!」

 

 そうか、浅見さんはコナンくんと知り合いだったのか。……やっぱりコナンくんはすごい。毛利探偵と一緒にいるというのもあるけど、彼は変な所で色んな知り合いを作っている。

 

「それなら、後でコナン君に電話をして予定を合わせましょう! 浅見さんも、我々少年探偵団の協力者! いわば身内なんですから! 様子を見に行くのは何も不自然なことじゃありません!!」

「「おーっ!」」

 

 歩美ちゃんに元太君の同意も得たし、後はコナンくんだけ。近くにいるのならば探偵バッジで呼びかけて――

 

「おや、ひょっとして君たち、浅見透の知り合いなのかい?」

 

 と思ったら、いきなり後ろから声をかけられた。聞いたことのない声だ。

 

「なんだよ兄ちゃん! 浅見にーちゃんの知り合いなのか!?」

 

 振り向いた時には、すで元太君がいつも通り、元気にその人に突っ掛かっていた。

 第一印象は、ちょっとかっこいい人。肌は少し黒くて、背は高い。年は20歳よりは上だと思う。

 

「知り合いというか、同業かな。ちょっと彼について調べててね。話を聞かせてもらえないかな?」

「その前に、貴方が誰なのか教えてくれませんか?」

 

 少し警戒を込めて僕がそう尋ねるが、彼は全然気にした様子もなくニッコリと笑って、

 

「僕は、安室透。彼と同じ――探偵だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 




ベーカー街と世紀末のフラグが立っていますが、一応次は14番目です。
その間に色々やらかすつもりですがw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。