平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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011:再び始まる受難の日々

 5月23日

 

 ここ数日は大変だった。どこから書けばいいのかちょっとわからないレベルで大変だった。

 まずは、例の盗聴器の件だ。高性能品というわけではないが、市場に出回るようなタイプの物ではなかったらしく、心当たりはないか目暮警部に電話で聞かれた。

 真っ先に思い当ったのはマスコミ関係者だ。あるいは工藤新一の関係者とか。

 そこらへんを目暮警部に伝えると、一応パトロールを強化するのと、おかしいと思った時はすぐに連絡をくれという微妙な回答だった。いや、頑張ってはくれているんだろうけどね? 佐藤さんたちも警官としてではなく個人として俺たちの所に来てくれるし。千葉刑事? いつもウチのふなちがご迷惑をおかけして申し訳ございません。今度一杯誘う事をここに決めた。

 

 ともあれ、そんなこんなで次は例の件を調べてくれるといった怜奈さんとあった時の話。待ち合わせの喫茶店に行くと、窓際にスーツ姿の水無さんがいた。仕事の合間を縫ってきてくれたかと思うと頭が下がる。

 で、さっそく怜奈さんが作成した資料(めちゃくちゃ分厚かった)とやらを一通り見たけど……思わず『なにこれガチすぎる』って思う物だった。金のためならばなんでもやるようなフリーライターのリスト、反社会勢力との間に大きな金の動きが見られるマスコミ関係者のリスト。反社会勢力の動向、最近近辺で動いているらしい警察の公安の動きなどなど……。

 見てはいけない物を見た気がするが、見てしまったものはしょうがない。

 大事なのは、近辺にこれだけ危険な種があると言う事と、この街を中心にでかい事が動き出している事だ。

 特に気になったのは公安の動きだ。公安といえば、正直イメージでしか知らないが、CIAみたいな組織の日本版だった……様な気がする。今度改めて調べてみよう。

 そんな組織が近くで動いていると言う事は、ここでなにかデカイ事が起きつつあるということだ。その大本を探せば、時計の針を大幅に加速させる行動も思いつくんじゃないだろうか?

 

 ここら辺は今度、盗聴器の件も兼ねてまた江戸川と話し合おう。

 

 大きな出来事はとりあえずこれくらいだが、細かい出来事が色々とあってまいった。

 怜奈さんとあった日の夜には、図書館で麻薬を捌いていたおっさんを蹴り倒して、次の日には蘭さんからの恒例のラブコール(対象は俺ではない)が入って、さらには毛利探偵の飲みに付き合うという……いまさらだけど奢ってもらって大丈夫だったのかな? あの「十和子」ってクラブ死ぬほど高そうだったんだけど……。

 事務所まで毛利さん連れて帰ったら蘭さんには「お父さんがごめんなさい」って頭下げられ、江戸川から(何やってんだオメー)みたいな感じで見られた。なんかイラっときた。おめー今日二日酔いで小学校行っただろーが、俺知ってんだからな。

 

 

 書いてて思ったけど二日酔いの小学生ってもう存在がロックだな。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「呼び出してごめんなさい透君、これが頼まれていた調べ物よ」

 

 呼び出した喫茶店の席で私は彼と会っていた。彼に渡すものがあるから、それと……。

 資料とは、彼の近辺で動く可能性があるフリーの人間や、なんらかの組織の動向などを調査し、まとめたものだ。

 

「ありがとうございます、怜奈さん。おかげでかなり助かりますよ」

 

 浅見透は、私が手渡した資料をその場で開き、その一枚一枚にすばやく目を通していく。本当に読んでいるのか怪しいくらいの速読、なるほど……事務能力も高いと見ていいだろう。分かってはいたが、実に多彩な技能を持つ子だ。

 

(ベルモットが、彼と重ねてみるのも分かる気がする)

 

 彼女が例の記事、組織がリークした爆弾事件の情報を元に書かれた彼を示唆する記事を目にしたとき、小さくこう呟いたのを……今でも覚えている。

 

 

 

 

――シルバーブレット、やっぱり貴方が関わるのね……。

 

 

 

 

(シルバーブレット、赤井秀一……)

 

 組織のボスが恐れる男。心臓を射抜くかもしれない……銀の弾丸。

 ベルモットが浅見透をたまに彼と重ねて見ている事は薄々気づいているが、あの口調はまるで……

 

(どういうこと? ベルモットはすでに彼と出会ったことがある?)

 

 分からない。会話の断片から彼の周囲を推理しようにも、新しい情報が出れば出るほど彼という男が分からなくなっていく。

 

「? これは……?」

 

 資料を読み進めていた彼が、パタッと手を止めた。気にかかる組織があったのだろうか。目だけを動かして彼の開いているページを覗いてみると――

 

(! 警察庁……公安?)

 

 そういえば『仲間』の方からも、彼の家の周辺を探っている何者かがいるという報告は受けていた。まさか……その何者かが?

 彼はかなりそのページを真剣に読んでいる。公安に関しての情報はガードが固いのもあって、内容としてはこの米花町を中心に何らかの活動を始めたというくらいしか分かっていない。確かたった2ページの報告だったハズだ。それを彼は、そこのページだけ何度も読み返して……そして、ニヤっと笑う。

 

 

 

 

 

―― ……悪くない流れだ

 

 

 

 

 

 普通なら聞き洩らすだろう小さな声。かすれるような声だが、今私は彼の目の前にいて、そして彼は、ある意味組織よりも油断してはいけない男だ。その小さな囁きを、私は逃がす訳にはいかなかった。

 まさか――公安の動きは、この男の計画通りだというのか!?

 あり得ない。今まで見てきたが、浅見透は確かに特異な人間だが、公安という組織を動かす程の力はなかった……ハズ。

 それとも……最初から巧妙に隠していた? そうだ、そもそもどうやって私をNOCだと調べたのかも分かっていない。

 まさか……そんなことがありうるのか。彼の背後か、あるいは彼の手の中に。CIAですら把握できていない情報戦、諜報戦に長けたナニカが。

 頭の中で今までの事を思い出していく。

 本来ならば、そろそろ私は事故死して後続の人間とバトンタッチするはずだった。それがこうなったのは――

 

(彼が現れ、組織の標的になった人間の関係者という事で注目を集め……私が張り付くようになって……そしたら盗聴器が――)

 

――盗聴器!!

 

 浅見透は仕掛けられたからと言っていたが、あれが彼による自作自演だったら? あの時点で彼は私を知っていた。重大なアドバンテージを持っていた。だから、彼は私に違うと分かっていてあえて警告の連絡をしたとしたら……彼にはわかっていたハズだ、周辺を固めるために人員を出すと! しまった!

 

(我々CIAは……釣り出されたのかもしれない!)

 

 目的は分からないが、この町に人員を集めている今になって公安が動き出した。これから先、迂闊なまねはできなくなる。彼の目的が、CIAをこの米花町に足止めすることだったとしたら!?

 

(彼は公安の人間!? いや、それならばさっきの呟きはおかしい。じゃあ、公安も同じように?)

 

 CIAと公安。二つの諜報機関をこの米花町に集める事が彼の目的だった!? 馬鹿な、何のために!?

 目をそらすため? あり得ない。公安もCIAもそんな小さい組織ではない。この町に来ている人員だって最小限の物だ。

 

(やっぱり、浅見透はなんらかの目的のために行動している。それだけは間違いない)

 

 そう、彼は何らかの目的のために行動している。そして、それを知らないまま迂闊な行動に出れば……我々は呑まれてしまうだろう。浅見透の得体の知れなさは、漠然とそんな予感をさせる。

 資料を大体読み終わりそうな彼を尻目に、こっそりと携帯で仲間にメールを送る。内容はたった一言――『撤退』だ。

 近くのビルの屋上を見ると、待機していた『狙撃班』の影がちらっと見えた。

 

(今、うかつに彼を消す訳にはいかない……。もっと情報を得ないと……)

 

「ありがとうございました、怜奈さん。おかげでかなり参考になりました」

 

 あれだけの膨大な資料をもう読み終えたようだ。

 

「そう、それなら良かったわ。どう、目星は着いた?」

「いや、それはまだなんですけど……。ただ、これだけ周囲の動きが分かれば、色々手は打てそうです。本当にありがとうございました」

「ふふ、お役に立てて嬉しいわ」

 

 手を打つ……。彼の周りで何かが動き出すと言う事だろう。調査をより強固にする必要がある。

 

「しかし、ここまで詳しく調べてもらってすみませんでした」

「いいのよ、私はただまとめただけだし」

「いえいえ、そんな事は。それと、調べてもらった方々にもよろしくとお伝えください。報酬もキチンと――」

「――お金はいいって言っていたわ。それよりも、また面白いネタを提供してほしいって」

「……自分、基本的にはしがない大学生なんですけどね……?」

 

 なるほど、この白々しさはベルモットに似ているかもしれない。これに胡散臭さも加われば、それこそ男版のベルモットだろう。なんて性質の悪い……。

 

「一応このファイルはお返ししておきます。盗聴器を仕掛けられたばかりの家にあっていいものじゃないでしょうし」

「そうね、もし必要な項目があったら連絡を頂戴?」

「えぇ、その時はまたお願いします」

 

 そして浅見は右手をすっと差し出し、

「貴女と知り合えて、本当に良かったです」

「……えぇ、こちらこそ」

 

 私もまた、彼の手を握って答える。決して逃がさない。貴方が何者なのかを知るまでは。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 5月24日

 

 小学校が終わるのを待って江戸川に会って来た。

 内容はもちろん、盗聴器に関することだ。仕掛けられていたという話をした時、江戸川の顔がすっげー真っ青になったが、公安がうろついているという話をすると、今度は真面目な顔になった。

 あの顔色を見る限り、もう厄ネタが動いているとみて間違いないだろう。思ったよりも早かったな、ちくしょう。江戸川もヤバいと思ったのか、改めて阿笠博士の家で話す事になった。これで本格的に関わることができるだろう。

 とりあえず、その盗聴器の件で性質の悪いマスコミ関係の可能性があるとした上で、いろんな方面に顔が利く水無怜奈に協力を頼んだ事を全て話した。

 その後、怜奈さんから見せてもらったファイルの内容を記憶している限り江戸川には伝え、周辺の状況を伝えておいた。正直、役に立つかどうかは分からないが、主人公なら活かせるだろう。

 

 問題は厄ネタへの対処法だ。公安の動きの中心にいるのが、江戸川の身体が小さくなった理由とやらに関係しているんじゃないかと伝えると、その可能性は十分にあるとアイツは言っていた。

 そうなると、公安の人間とどうにかして接触したい所だが……公安の動きの中心点となってるのはいったいなんなんだろう?

 それと、江戸川が今度怜奈さんと会う時は呼んでほしいとの事なので、近いうちに場をセッティングしておく必要があるな。これも忘れないうちに準備を進めておこう。

 

 

 

 

 

 5月29日

 

 なんか爆弾事件に巻き込まれて死ぬとこだった。また爆弾ってどういうこと?

 雰囲気がいいという噂を聞いて米花町の大黒ビルの最上階にあるラウンジバー『カクテル』という店で飲んでて、ちょっと電話をしに店の外に出た瞬間いきなり明るくなったかと思ったら、病院だった。なに書いてるか分かんねーけどマジでこんな感じだった。気が付いたら越水もふなちもむっちゃ泣いてるわ目暮警部一行や毛利探偵一行までが勢ぞろい。いやもうマジで何が何だか分かんなかった。

 とりあえず体が痛ぇ。軽い火傷で済んだのが奇跡だったらしいけど……。正直まだ実感が湧いてない。

 江戸川、頼むから後日説明プリーズ。

 




感想返そうと思ってたらいつの間にか話を書いてたというこのorz
今話こそはキチンと返信……できるといいなぁ(汗)

いつも感想ありがとうございます。結局返せてませんがいつも楽しみにさせてもらっています。
誤字報告をしてくださる方も本当にありがとうございます。

浅見君を示す言葉が『なぜか死なないアイツ』で固定されつつあって爆笑させていただきましたw
これからもどうか、よろしくお願いいたします!

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