この馬鹿みたいな転生に悪態を   作:変態転生土方

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すまんな


この転生者に波乱を

 

 重い気持ちを引きずって帰ってきた自室。コートも脱がずにベッドへと倒れこみ、オレはシーツに口を押し付けたまま深い、深ーいため息を吐いた。

 分不相応な称号に、紋章掘られた銀時計。ギルドの話じゃ王都の方でも動きがある。

 オレの与り知らぬところでオレに関する何かが動いている。それは言葉にできない気味の悪さを醸し出し、オレの気分を更に下へと引きずり下ろしていく。

 オレはただ、この街で女神アクアを守れればそれでいいのに……。

 どれもこれも、バルトのせいだ。あいつが裏で暗躍しているせいで、事が面倒な方向へダッシュしている。何とかしなければならない。

 とは言っても、今すぐどうこうということはできない。なにせ、あいつが今どこにいるのかも分からないからだ。とりあえず次あったら教科書通りのサブミッションをキメておこう。

 

「どうしたもんかな……」

 

 独りごちた瞬間、部屋のドアがノックされる。

 この宿に食事の配膳なんていう気の利いたシステムはない。加えて宿泊料は支払い済み。つまり来客である。

 客といっても時間は夜。月が煌く時間帯の来客は少し怖い。オレは姿勢を正してドアへと声をかける。

 

「誰だ?」

「ミツルギ、と言えばわかるかな」

 

 わかんねえよ。

 

「すいません。宗教には興味ないんで」

「宗教勧誘じゃないんだ。アクア様を信仰してはいるけどね」

 

 訊いてねえよ。

 

「えーっと……。ミルルギさん?」

「ミツルギだ。とりあえず、開けてもらってもいいかな?」

「嫌だ。夜に男が男の部屋を訪ねるなよ。明日来い、明日」

「……まいったな。明日はパーティーだろう? 僕も準備があってね。夜分に訪ねたことはすまないと思ってるけど、空いてる時間が限られててね……」

「……一つ、訊きたい」

「なんだい?」

「胸の大きい女性はどう思う?」

「素敵だと思うよ」

「よし入れ」

 

 ノンケ確認。掘られる心配はなくなった。

 夜に男を訪ねる男なんて、基本闇討ちかケツ掘りかのどっちかだ。八割闇討ちだがな。

 しかしミツルギ、ミツルギ……。どこかで聞いたことがある。それに名前のニュアンスだ。

 こいつもしかして――。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてかな? 僕の名前はミツルギ。ミツルギキョウヤだ」

 

 一目でわかる高級装備に、腰に携えた魔剣。控えめに言って整った顔立ちの彼は、いつか酒場で見た冒険者だ。

 だけどなんでオレを訪ねてくる? どこかで接点があったか? ホースト討伐作戦に参加してたみたいだけど、特に話した記憶もない。

 

「情けない話、悪魔にしてやられてね。しばらく意識がなかったんだ。聞いた話だけど、悪魔を討伐したのは君のパーティだとか」

 

 オレもしてやられたんだけどな。否定する理由もないのでオレは頷く。

 すると、ミツルギは笑顔を浮かべて顎に指を添える。一々キザだな、こいつ。

 

「さすがは噂に聞くエドワード、と言ったところだね。うん……。話した感じ、根は悪くなさそうだ。ああ、気を悪くしたならすまない。悪い噂も少しながら耳に挟んだものだから」

 

 なんだこの気味の悪さは。

 まるで背中に蛇が這っているかのような薄気味悪さだ。帰ってほしい。

 

「……で? 今宵はどんな御用事で?」

「とても光栄な話をしに来たんだ」

 

 とりあえずその笑顔をやめろ。鬱陶しい。

 と言いたくなる衝動を抑えてオレはミツルギに続きを促す。

 

「姫様が君に会いたいそうだよ。これは召喚状だ。受け取ってくれ」

「なんで?」

「え?」

「なんで会いたいなんて話になったんだ?」

「君は貴重な錬金術師らしいじゃないか。土から数秒で像を作るとか。姫様が実際に見たいと仰ってね。とても光栄な話だろう? 一冒険者には身に余る名誉のはずだ。それで、出立はパーティーの翌日にしたいと思ってる。意識を失ってた時間が長くてね……。早く王都に――」

 

 ミツルギから渡された白い洋紙。上等な代物だと手触りだけで教えてくれるそれには何やら長ったらしく文章が書かれていて、一番下には名前と紋章が入っていた。

 これは、とても貴重な代物だ。この世界の知識は大してないオレでもわかるほどに。

 一冒険者がこの国の姫様に呼ばれる。ミツルギの言う通り、光栄な話なんだろう。

 姫様に呼ばれた。それだけで、オレの名は爆発的に広がるのかもしれない。依頼が増え、名が売れるのかもしれない。

 しかし。しかしだ。

 そんなもの。そんなもの――。

 

「やなこった! しゃらくせえ! そんなに見たけりゃお前(姫様)が来い!」

 

 ビリビリー。

 とても貴重な、とても光栄なその紙を、オレは真っ二つに引き裂いた。

 

「なにをやってるんだ君はーっ!? あわ、あわわわ……。き、君は自分がなにをしたのか本当にわかっているのか!? 姫様からの召喚状なんだぞ! 直筆なんだぞ!?」

「知るか! オレには山積みのクエストとアホを見守る仕事があるんだ! サーカスやってる暇なんざない!」

 

 目を離したら調子に乗って森に突っ込みそうなんだよ、あの女神。

 オレが破り捨てた召喚状を震えた手で拾ったミツルギはキッと睨み付けてくると、一言。

 

「君は姫様のことをなんだと思っているんだ!?」

「いてもいなくても大して変わらんと思ってる」

 

 少なくともオレにとっては。

 オレの発言によろめいたミツルギは壁に寄りかかると、「くっ」などと言う。

 ホントキザだな……。

 

「君の意思はわかった……。だが王都へは来てもらう! 僕は姫様と約束したんだ。君と連れてくるとね。きっと君も姫様を一目見れば気が変わるはずさ」

「あーもう……。姫様姫様うるせえ! 今何時だと思ってんだ! ほかのお客さんに迷惑でしょうが!」

《その言葉あんたに返すよ、エドワード! 何時だと思ってんだい!》

 

 ドン! と床が揺れる。女将がお怒りだ。

 オレが抗議の目線をミツルギに送ると、彼はキザな動作で。

 

「……日を改めよう。明日のパーティー、その後で返事を聞きに行くよ。いい返事を期待してる」

 

 勝手に期待するな。

 オレはシッシと手を振り。ミツルギを追っ払ってドアを閉める。そしてまたベッドへとダイブした。

 なんて日だ。こういう時はさっさと寝るに限る。

 コートを脱いで椅子へと放り投げ、ブーツを脱ぎ散らかす。

 モソモソと枕へと移動し、さあ寝ようと両手を投げたところで、ドアがノックされた。

 数秒の思考のあと、オレは居留守を決め込むことにした。寝てるんです。後日日を改めてください。

 目を閉じ、羊を数える。

 コンコン、コンコン――。バキィ。

 バキィ?

 不穏な音に目を開けると、そこには半開きになった扉から顔を覗かせるダクネスの姿が――。

 

「なんだ、いるでは――」

「ぎゃあああっっ!」

「わぁあああっ!?」

《エドワードォォォォ!!》

 

 

 

 1

 

 

 

「で、何の用だよ。ドアノブ壊しやがって」

「その、だな。相談があるんだ」

「お前は相談するために人の部屋のドアノブ壊すのかよ」

「い、急いでたんだ! 明日では遅いし……」

 

 女将によって付けられた頬紅葉を撫でながら、オレはベッドからダクネスを見下ろしていた。ダクネスは床で正座である。

 おかしい。オレは椅子を勧めたはずなんだが。

 

「はあ……。相談ってのは?」

「……うむ。その前に、私の素性……。本当の名を明かそうと思う」

「ダクネスは偽名なのか」

「ああ。私の本当の名はダスティネス・フォード・ララティーナ。ダスティネス家の長女だ」

「へぇ」

「……ダスティネス家の、長女だ」

「ほぉ」

「ま、真面目に聞けっ!」

「真面目に聞いてるつもりなんだけどな……。ダスティネス家ってのはそんなに凄いのか?」

「一応、名門貴族だ。王家とも親しくさせていただいている」

 

 それは凄い。

 そして今出た情報で大体の事情は掴んだ。

 名家の娘が偽名を使って冒険者をやっていて、明日では遅い相談事。

 

「つまり身バレしたくないということか」

「理解が早くて助かる」

 

 まあ、定番といえば定番の展開だ。大方見合いやら結婚やらを迫られて嫌になり、家出をしたのだろう。

 冒険者をやっていればお金も稼げるし、生きるために必要な力も身につく。

 サバイバルの知識、料理、地理にも詳しくなる。のだがダクネス(ドM)がそう思って冒険者になったのかどうかは不明だ。

 モンスターに嬲られるためになったと告白されても相槌一つで納得できる自信がある。

 閑話休題。

 王家とも親しくしている家の長女、ということは顔見知りも多いと考えてまず間違いない。

 明日のパーティーは貴族も多く来るだろうし、半端な偽装じゃまずバレる。かといってこれといった妙案があるわけでもない。

 とりあえず物は試しだ。いろいろやってみるとしよう。

 

「まず口調だな」

「口調か……」

「その騎士っぽい感じのはなしだ。語尾ににゃんを付けてみよう」

「わ、わかった……にゃん」

「ぷふっ……。んんっ。次は髪の毛だな。ポニーじゃなくてツインにしてみよう」

「今笑わなかったか?」

「いや全然」

 

 これっぽっちも。

 疑惑の目を向けるダクネスの視線を避け、オレは彼女の背後に回りこんで髪を解き、テキパキとツインテールを形成し始める。

 うわっ、めっちゃサラサラしてる。

 

「ず、随分と扱いなれてるにゃん……」

「オレもそこそこ長いからな。簡単に結うくらいならチョロイもんだ」

 

 そうこうしている内にツインテールが出来上がる。手持ちのゴムで簡単に結っただけだから少し雑だが、それでもいつものダクネスとは違う印象を受ける。

 ほぼお遊びで考案したけど、意外といけるな。

 

「ど、どうにゃん?」

「ぷふふ……」

「エドワード、私で遊ばないでほしいにゃん。私、結構握力には自信があるにゃん」

「おああああ……ッッ」

 

 あ、頭が割れるように痛い……!

 アイアンクローを炸裂させているダクネスの右手をタップし、降参の意を伝える。

 忘れていた、こいつはスキルを肉体系に振りまくっているパワー系ドMだった……!

 

「おお……! まだ頭がいてえ……」

「人が真面目に相談しているのにふざけるからだ。まったく……」

「……悪かったよ。でも、髪形を変えるのは結構効果的だったぜ? 後は黙って隅っこでおとなしくしてればなんとかなるんじゃないか?」

 

 まあそんなことをしてまで身バレを恐れているならパーティーは欠席すればいいと思うが。

 オレの言葉にダクネスは「そうだな、そうしよう」と頷き、立ち上がる。

 どうやら実行する気らしい。

 

「ありがとう。お前に相談してよかった」

「……なあ、そこまでして正体を隠してパーティに出る理由ってなんだ?」

 

 そこまでしてパーティに出る理由を、オレは彼女に問うてみた。深い意味はない。ただの興味本位の質問だった。

 そんなオレの問いにダクネスは照れくさそうに笑って、

 

「夢というか、行ってみたかったんだ。友達……仲間と一緒にパーティーに」

「……」

 

 などと言う。

 普段のドM発言とはかけ離れた言葉にオレはろくな返答もできなかった。

 「ではな」とダクネスは言い、踵を返して部屋から去っていく。「……そうか」と誰もいなくなった部屋に、オレの声が響いた。

 

 

 

 2

 

 

 

 次の日の、夜。

 音楽鳴り、人々が賑わう領主の館、その大広間でオレはなぜかいい年をした貴族の男性と話をしていた。

 パーティーが始まってからずっとだ。会話を終わらせても次から次へと話しかけてくる。

 それもようやく終わりそうで、この目の前のおっさん以外、オレの周りに人はいない。ちらちらと見てくる人はいるが。

 チャンスだ。サッと切り上げてみんなの待つテーブルに戻るとしよう。

 

「仲間が待っているので、オレはこれで」

「おお、そうでしたな。いやぁ、失敬失敬」

 

 顔に張り付けた笑顔で六人目のハゲを撒き、オレは疲労で重い肩を落としながら一番隅っこのテーブルへと戻る。

 見慣れたメンバーが席に座っていて、オレに気付いたクリスが手を挙げた。

 

「お疲れー。モテモテだねえ、エドワードクン」

「男は対象外」

「だろうね。あ、このステーキおいしいよ? 食べる?」

 

 「ああ」と肯定しつつ席に着き、ネクタイを少し緩める。普段動きやすい格好ばかりしていたせいか、こういう服は苦しくて慣れない。

 水を一飲みし、隣に座るめぐみんを見た。

 

「食いすぎだろ……」

「いいひゃないれすか。んぐ……。こんなにおいしい料理をただで食べれる機会なんてそうそうありませんよ?」

 

 めぐみんの目の前に積まれた皿はもはや山と化している。また一枚積まれた。

 やはり消費魔力が莫大なエクスプロージョンを撃つアークウィザードだから食欲旺盛なのだろうか。

 

「うむ。見ていて気持ちがいい食いっぷりだったぞ」

「うおっ……!。そ、そうでした、ダクネスが隣にいたんでした。今日はいつもと随分雰囲気が違いますね……どうかしたのですか?」

「……気にするな。パーティーは張り切るタイプなんだ」

「そ、そうですか……」

 

 若干引き気味のめぐみんを横目に、ステーキを頬張る。

 完璧だ。適当に考案した作戦だったが、思いのほかうまくいった。

 ダクネスも満足そうだし、今日の山場の一つは無事超えられたと思っていいだろう。

 残す山場は一つ、神器の回収だけだが――

 

「やあ、ここにいたんだねエドワード」

「帰れ」

 

 困ったような顔をするミツルギにシッシと手を振る。

 山場を増やすな、山場を。

 

「エド、この人は前にギルドで……」

「ああ。三秒の男だ」

「……なにやら厄介ごとの匂いがするので私はステーキを食べ続ける仕事に戻ります」

「……オレたち仲間だよな?」

「あっ、すいませーん! ステーキ追加で!」

 

 そう高らかにウェイターに追加注文するめぐみんを睨みつつ、オレはミツルギへと視線を戻した。

 

「で、今日は何用で? 返事ならパーティーの後って話だったろ」

「それとは別件さ。やはり、君の根を確かめたいと思う」

「オレは植物じゃない。残念ながら根っこなんて生えてないぜ」

「……単刀直入に言おう。僕は君に一対一の決闘を申し込む!」

 

 山場を増やすな。

 オレがため息を吐きつつ断ろうとしたその時、ダクネスが立ち上がった。

 

「ちょっと待ってくれ」

「うぉっ……。な、なんという気配遮断……。余程の強者とお見受けするが、貴女は?」

「私はダクネス。エドワードとパーティを組んでいるクルセイダーだ。貴様がどんな高名な人物か知らないが、ここは祝いの場。決闘など、無粋極まりない行為は遠慮してもらおう」

 

 おお、カッコいい。

 いいぞダクネス、その調子だ。

 

「フッ……。これの決闘はその祝いの場で設けられたものですよ。領主であるアルダープ様が僕と彼の決闘を見たがっている」

「領主殿が……!?」

 

 これだから地位の高い連中は……。

 書類仕事と視察に明け暮れているせいで刺激不足、それを解消するために決闘を見たいなんて言い出したんだ、きっと。

 まあ、こっちには無敵のダクネスがいるんだ。きっと彼女が領主に直談判して決闘をなかったことに――

 

「エドワード、がんばれ」

「えぇ……」

 

 さっきまでの強気の態度はどこへいったんですかね、ダクネスさん。

 あ、おい。気配遮断スキルを使うな。音を立てずにステーキを食うな。

 

「どうします? エドワードさん。私が殺ります?」

「うん、気持ちは嬉しいけど今はいいかな」

 

 スッと太ももに隠していた短刀を引き抜くゆんゆんを制止し、オレは最後の砦クリスに目を向けた。ヘルプミー。

 オレの視線に気づいたクリスはニッコリと笑って、

 

「諦めたほうがいいと思うな」

「だよなあ」

 

 オレは立ち上がり、ミツルギと向き合う。オレの決断が分かっていたかのような笑みを浮かべるミツルギは、

 

「見せてくれ、君の力を」

 

 不敵な笑みで、そう告げた。

 

 

 

 3

 

 

 

「決闘ルールは単純明快、参ったと言ったほうが負けだ。よろしいな?」

「はい」

 

 返事とともに魔剣を構えるミツルギを横目に、オレは両手を合わせて地面から手ごろなサイズの片手剣を錬成する。

 それを見てニヤリ、と笑うミツルギは相変わらず気味が悪かったが、今は気にしている暇はない。

 間違いなく、ミツルギキョウヤの転生特典はあの剣だ。自称紅魔族一の天才、めぐみんが驚くほどの魔力を秘めた剣、その能力はおおよそ絞ってある。

 オレもバルトから特典を貰うときに剣の特典には目を通していたからな。

 ざっと上げれば、”なんでも斬れる”、”ビームを撃てる”、”身体能力を強化する”……。この辺だろうか。

 とはいえ、剣士でビームなんか撃てば噂の一つや二つ飛び交うものだし、そんな噂は聞いたこともないからビームは除外できる。

 残ったのは”なんでも斬れる”と”能力の強化”、この二つだが……。まあ、深く考えなくても初撃でわかるだろう。

 初撃でノックアウトされたらされたらだ。

 

「では両者、構えェい!」

「僕が勝ったら一緒に来てもらうよ、エドワード」

「なんだよ、結局実力行使か?」

「力づく、というのも嫌いじゃない」

 

 そう言ってミツルギはフッと笑い、両手に力を込めた。

 素人目でもわかるほどの魔力が魔剣から漏れ始める。

 あれ、これ負けイベントじゃね?

 

「始めッ!」

「行くよ!」

 

 審判の合図とともに駆け出す、ミツルギのスタートダッシュは普通だ。オレよりも少し早い程度。

 能力の強化じゃなかったか? じゃあ――。

 

「フッ!」

「やっぱりか!」

 

 合わせ鏡のようにお互いが振りぬいた剣は当たり前のようにオレの剣が打ち負けた。

 剣は根元から斬り落とされ、残ったのは無残にも”柄”だけだ。恐ろしいのは、”折れた”のではなく”斬り落とされた”ところ。

 バックステップを二回、ミツルギから距離を取り、再度剣を錬成する。

 

「なんでも斬れる魔剣か……」

「その通り。僕の魔剣グラムはすべてを斬り裂く!」

 

 くっそー、なんて理不尽な。

 しかもあの振りぬくスピード、普通じゃない。多分膂力も強化されてるな。

 

「安心してくれ、峰打ちで済ませるつもりだ」

 

 その剣峰ついてないっすよ。

 絶対そのセリフを言いたかっただけだろという言葉は飲み込み、オレは剣を構える。

 なんでも斬れる魔剣、常人以上の膂力。身体能力全般が強化されてないだけマシか。

 ……突破口が見当たらないんですけど。

 

「……行くよ!」

「できればこないでほしい!」

 

 振りぬかれる魔剣を避け、避け、避ける。

 

「こんにゃろ!」

「甘い!」

 

 苦し紛れの反撃もむなしく、斬り落とされた剣の先端が宙を舞う。

 不敵な笑みを浮かべるミツルギと視線が交わい、その瞳に攻撃を察知して前転、回避する。

 買ったばかりのスーツが台無しだ。これが終わったら代金請求してやる。領主に。

 

「油断は、いただけないな!」

 

 屈むオレに影が差し、剣を振りかざすミツルギと目が合う。

 あ、これは死んだ――。

 

 

 

 4

 

 

 

「残念だが君の冒険は終わってしまった」

「峰打ちとはなんだったのか」

「現実は非情なのだよ」

 

 悲しいなあ。

 辺り一面真っ白な世界で悲しみに暮れる。

 しかし、なんだここは。バルトと出会ったところは真っ暗だったはずだけど。ここはどこまでも真っ白で、大きくて変な石板が一枚、ポツンとあるだけ。

 

「どこにいるんだ? バルト」

「ここだ。ここ。お前の目の前」

 

 辺りを探し回り、見つける。人の形をした黒い靄が、そこにいた。

 あれ、お前そんなんだっけ?

 

「まあ諸事情でな。ここだとこんな感じになるんだよ」

「ふーん……。で、死んじまったオレにどんな用?」

「気が早いな。それに、まだ死んでないぞ、お前」

 

 あ、そうなの。

 バルトの言葉に気が抜ける。

 

「ああ。ちょっと用があったから呼んだだけだ」

「なら手短にしてくれ。さっさと戻ってあの野郎ぶっ飛ばしてやる」

「まあ落ち着け、そのぶっ飛ばす手段を教えてやろう」

 

 マジかよ。

 表情もなにもないバルトはただただ不気味だが、神様には違いない。

 聞くだけならただだし、オレは意を決してバルトの前に座り込む。

 

「さて、質問だエドワード。この剣はなにで出来ている?」

 

 そういって、靄のバルトは一本の剣を空中から取り出した。

 見た目はよく店売りされているアイアンソードだ。オレは深く考えずに「鉄」と答えた。

 

「その通り。じゃあこれは?」

 

 取り出されたのは金の斧。

 

「……金だろ」

「正解。じゃあこれは?」

 

 取り出されたのは――。ミツルギが持っていた魔剣グラムだった。

 一瞬ギョッとしたが、すぐに切り替える。元々グラムは神器だ。神であるバルトが取り出せない道理はない。

 オレは数秒考え、出した答えを口にする。

 

「……アダマンタイト」

 

 正確にはアダマント。ダイヤモンドや、その他非常に堅固な物質に用いられる用語だ。アダマンタイトはその変形語にあたる。

 ゲームや小説なんかで見る、”最高級の硬度を持つ物質”としてよく使われるのがアダマンタイトだ。

 ……なんて言ってみたが、神器がなにで出来ているかなんてさっぱりわからん。

 

「残念外れだ。正解は、”なんでも斬れる”で出来ている」

「は?」

「嘘じゃないぞ? この神器は鉱石で造られたわけじゃあない。ただ”なんでも斬れる”という概念が剣の形をとっているだけだ」

 

 概念の剣……。それはわかったけど、だからなんだというのか。

 オレの不満げな顔を見てツボでもハマったのか、バルトは笑う。

 

「これで”理解”したろう? エドワード」

「……?」

「錬金術の基本は、理解、分解、再構築だ。理解はできた、なら後は簡単だ」

 

 バルトの言葉を理解し、背筋が震える。

 できるのか、できてしまうのか、”それ”が。

 

「なめるなよ、お前に与えたのも立派な特典(チート)だぞ」

 意識が遠くなる。

 白く染まりつつなる視界の中で、黒い靄が不気味に嗤った。

 

「ぶっ飛ばしてこい」

 

 

 

 5

 

 

 

 体中から”なにか”が抜け落ちていくような感覚が襲う。

 抜け落ちていく先は自分の両手で、錬成されていく剣がミツルギの魔剣を防いでいた。

 

「こ、れ、は――」

「できるもんだな、まったく……」

 

 完全に生成されたオレの魔剣グラム(・・・・・・・・)ミツルギの魔剣グラム(・・・・・・・・・)と鬩ぎ合い、火花を散らす。

 驚愕の色に染まるミツルギの顔を鼻で笑い、オレは剣を振りぬいた。

 

「くっ……! エドワード、それは僕の――!」

「時間がないんだ。こいよミツルギ。ケリつけようぜ」

 

 魔剣を構え、オレはそう告げた。

 

 




ちまちま書いてました…(小声)
更新遅れ許してクレメンス

取り急ぎ修正。後々本格修正に入る…かも?

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