剛腕が目の前を通り過ぎる。遅れてやってくる音と風に前髪が飛び、耳鳴りがする。
当たれば即死。一発で彼の世行きの攻撃も、取り柄の動体視力と場数で鍛えた根性で避ける。
「チッ、チョロチョロと…! 鬱陶しいぜ!」
「貴様の相手は…私だ!」
ダクネスがそう叫び、大剣を振るう。が、その切っ先が裂いたのはホーストではなく、地面だった。
レベルアップで得られるスキルポイントを防御系スキルにガン振りしているダクネスは半端な攻撃でダメージを負うことはないが、攻撃系スキル…。例を挙げれば両手剣(大剣)スキルが無いために自分の得物を扱えきれないのだ。
簡単に言えば攻撃が当てられない。
「相変わらず間抜けな騎士だぜ! オラァ!」
ホーストの反撃を食らい、後ろに仰け反るダクネス。
この光景を見ていたのが一般冒険者だったら悲鳴が上がっているところだが、オレたちはスルー。攻撃を続行する。
「この痛みが私を強くする…!」
「相変わらず気持ち悪い騎士だぜ…」
「ダクネスさんは気持ち悪くなんてありませんっ! 『ライトニング』ッ!!」
迸る雷の魔法を丸太のような腕で防いだホーストはその痛さからか、吠えた。
「いっ――てぇ! これだから紅魔族は…!」
言い終わると、ホーストは息を吸い込む。その動作を見終わる前に、オレは両手を合わせて「クリス!」と叫んだ。
地面に手を押し当て、土の階段を錬成する。
「はいはーい!」
オレの呼びかけに軽く答えながらクリスは階段を駆け上がると跳躍し、ホーストの頭上に出る。
落下しながらマジックダガーを構え、ホーストの肩にダガーを突き立てると、そこを支点に軽い動作で宙返り。ホーストの顎に蹴りを入れた。
「閉じてな!」
放たれるはずだった火炎は宙に吐き出される。ホーストは肩の傷を見ることもなく忌々しそうに吐き捨てた。
「クソっ…。本当に面倒だぜ、てめえら」
悪態を吐く悪魔から目を離さず、冷静に状況を把握する。
ダクネスはまだまだやれそうだし、クリスも目立った傷はない。ゆんゆんに至ってはマジックポーションで魔法にブーストを掛けているから問題なし。
オレは悟られないようにパタを生やした右手を見た。
刃は欠け、コートの裾から見える機械腕自体にも傷が目立つ。
手を開き、握る。問題はないけれど、心には不安が残った。
「よそ見してんじゃねえ!」
「…!」
ホーストの突進からの右ストレートをバックステップで避ける。
「なろッ!」
カウンターの左足蹴りを顎で受けたホーストはニヤリ、と薄気味悪い笑みを浮かべた。
オレは瞬時のその笑みを理解して足を引こうとするが、一歩遅い。
強烈な衝撃がオレの体を襲った。
「――――!!」
吹き飛ばされ、土まみれになりながらゴロゴロゴロゴロ…。オレは転がる。誰かが叫んでいたような気もするが、誰の声だったか。
考えているうちに一本の木に衝突、後頭部を打った。ああ、ぼんやりする。
大ぶりな右で攻撃を誘って受け止め、渾身の左で仕留める。
悪魔のくせに、妙に頭が回るやつだ。いや、悪魔だから頭が回るのか?
まあ、やつの作戦の完遂は阻止した。オレは脱落だけど、死んでないんだ。負けじゃない。
ギシリ、と右腕が軋む。
見れば、パタは折れて指の関節部分から神経を担っていそうなコードが飛び出しかけている。ホーストの左腕を受け止めた結果だ。
手袋、手袋はどこにいった? あれがなけりゃ、バレちまう…。
嗚呼、眠いな…。
「…どうしたのですか、エド」
「こんなところで」と誰かが言う。
誰かは知らないが、とっとと逃げた方がいい。あの悪魔超強いぞ。
「…私は通りすがりの大魔法使いです。あんな悪魔、一撃で木っ端みじんです」
そりゃすごい。
オレの知り合いにもそんなやつがいたな。
ちっこくて、そらもう色々ちっこいやつなんだけど。
面白くてさ、一つの物をこよなく愛する、いいやつなんだ。
「ちっこいちっこい言うな。その完璧美少女に失礼でしょう」
「まぁ、許しますが。今回だけ特別ですよ?」と、声の主は言う。
あれ、お前もしかして――。
「待っててください。すぐに終わらせます。一緒に帰りましょう、エド」
そこでオレの意識は深く沈んでいった――。
1
夢を見ている。
そう自覚できたのは、オレの目の前に広がっている光景が元の世界の物だったからだ。
壁に余すところなく置かれた本棚に、窓際には立派なデスクがあった。
部屋の中心には幼いころのオレがいて、一心不乱に本を読み漁っていた。
「もう、エド? お父さんのお部屋に入っちゃダメって言われたでしょ?」
「…そうだっけ」
「言われたの。さ、お母さんと行きましょう?」
「これ読んだらね」
なんて愛想のないガキだ。オレなんだけれども。
確かにこういう記憶はある。外で草野球するのも好きだったけど、一番好きだったのはよくわからない文章に図が付いてる親父の本だった。
当然中身なんて理解していないが。
「なになに…。楽しい鉱物図鑑? エド、本をまた漁るってバレてるわよ」
「うん。僕の手に届くところにおいてあったからね」
「…まったく父親にそっくりだわ、あなた…。さぁ、行きましょう。その本は持ってらっしゃい」
「うん」
分厚い本を脇に挟み、短い脚で部屋を出ていくオレを見届ける。
懐かしい母の横顔を見て、オレは瞳を開けることにした。
2
「おはよ」
目を開けて飛び込んできたのは白色の髪に、女の子には似合わない頬の刀傷。
徹夜で起きていたのか、目の下には若干の隈が出来ていた。
「オレ、どのくらい寝てた?」
「二日くらいかな。よく眠れた?」
「ああ」と重く返事を返して右腕を持ち上げる。…少し綺麗になったような気がする。
細かい傷はあるけれど、飛び出してたコードやへこんでいた部分は直っていた。
「…ん? 右腕はあたしが直したよ」
「…どうやって」
そもそも、パタが生えていたのに綺麗さっぱりなくなっているのがおかしい。
どうなってんだ?
「あたしも錬金術、使えるんだ。ちょっと面倒な手順を踏まなきゃいけないけど」
「…神様だからか?」
オレは声を低くして誰かに聞かれないよう問う。
すると、クリスは小さく笑って否定した。
「違うよ。んー…、なんて言うのかな。元々、全ての人に錬金術を扱う才能があるの。例外なくね」
「マジかよ」
じゃあオレが特典で選んだ意味なくね?
「勿論、ちゃんと差別化はされてるよ。あたしたちが錬金術を使うためには錬成陣を書く必要があるけど、エドの場合はそれが必要ないの」
「錬成陣はこんな感じのね」とクリスは近くのデスクに置いてあった紙の裏側にサラサラッと大雑把に何かを書いて見せてくる。
円形の中に文字やら形やらが描かれているそれは、どこかで見たことがあった。
…そうだ、また、あの手帳だ。バルトから与えられた手帳。
「これは大雑把に描いたやつなんだけどね。本当はもっと書き込むものがあるの。とても戦闘向きじゃないんだよ。時間もかかるしね。その点、キミはほぼノータイムで錬成ができる。それは立派な特典(チート)だよ」
なるほどねー…。
バルトのヤロウ、説明が足りてないにも程があるぜ。
「でもエド、あんまり無茶はしないでね? 機械腕が完全に壊れたら、あたしでも修復は難しいから」
「ああ、気を付ける」
右腕の調子を確かめつつ、そう答える。
…そうだ。
「ホーストはどうなったんだ?」
窓から見える夕暮れに染まったアクセルの街並みを見ながらオレは問うた。
街に戻ってきてるってことは討伐したか、撤退したかの二択だが、オレは不思議と討伐したのではないかと思っていた。
なんとなく、だけど。
「あの悪魔は討伐したよ。エドが気絶した後にめぐみんが来てね? ゆんゆんとのコンビネーションで吹き飛ばしたんだ」
なるほど、エクスプロージョンか。
ネタ魔法と言えど一撃の重さで言えば極まっている
ホーストよ、安らかに眠れ。合掌。
「さ、ギルドに行こ? みんな待ってるよ」
「そうだな」
傷を癒してくれたプリーストかアークプリーストさんにお礼もしなきゃいけないし、この腕のこともバレてるだろう。説明しなきゃならない。どういう説明…もとい言い訳をするのかは思考中だ。
助けてくれためぐみんにもお礼をしなきゃな…。なにを要求されるのか、まったく予想がつかないのが恐ろしい。
ベッドから降り、洗濯されて畳まれていたズボン、ジャケット、コートをテキパキと着ていき、ブーツの紐を結んで完了。
うん、しっくりくる。なんかフローラルないい匂いがするな。
そう思っていると、クリスはバツが悪そうに頬を掻いて咳ばらいを一つ。
「…キミ、あたしがいること忘れてない?」
「いや、忘れてないけど」
「…じゃあなんで着替えるかなぁ…」
「別に全裸ってわけじゃないだろ。シャツとパンツだぞ。恥ずかしくもない」
「~~~…はぁ。もういいや。ほら、行くよ」
足早に部屋を後にしたクリスに遅れてついていく。
チラッと見えた彼女の頬は、染まっていたような気がした。
3
「よく、ご無事で…!!」
そう呟くように言ったルナさんの目じりには僅かな涙が見えた。
こういうのは苦手なんだよなぁ…。えーっと、ハンカチハンカチ…。
「あ、ありがとうございます…。で、では…。気をとり直して」
涙を拭ったルナさんは深呼吸一つすると、表情を切り替える。いつものギルド職員としての顔だ。
「上級悪魔の討伐、ご苦労様でした。賞金はエドワードさんのパーティ、そしてめぐみんさんを含めた五人で分割され、支払われます。また、この一件を王都は高く評価し、功績を称えて特別な褒賞が与えられるそうです」
「それは全員になのか?」
「いえ、特別褒賞はエドワードさんのみとなってます」
特別褒賞、と言われて思い浮かぶのは金銀財宝、後は立場なんかだけども、どれもこれもいらないものだらけだ。
変なものを貰ったら金に換えてしまおうか。そうしてからお礼としてめぐみんに渡そう。うん、それがいい。
「先ほど、ここアクセルの領主であるアルダープ様にエドワードさんが目覚めたことをお伝えしました。恐らくですが二、三日の内にパーティが催されると思われますので」
うーん、恐ろしいほどクリスの計画が順調に進んでいる。流石幸運の女神様か。
しかしパーティか。
オレ、服って言ったらこのバルトに貰ったコスプレしか持ってないんだよな…。しかも結構長い間着続けたせいか、コートは裾がボロボロだし、白い手袋に至っては何度も買い替えている。黒のジャケットとズボンも、黒色のせいで汚れは目立たないが、よく見れば落ち切ってない汚れがちらほらと目につく。
スーツとかを買うべきなんだろうなぁ…。しょうがない。
「…それと、なんですが」
「ん?」
急に声が小さくなったルナさんにオレは近づいた。
辺りを見まわし、誰かが聞き耳を立てていないかを確認したルナさんは慎重に口を開いた。
「王国の第一王女様で在らせられる、アイリス様がエドワードさんを王都のギルドに引き抜こうとしているという噂がありまして…」
「なんでまた」
「わかりません。…エドワードさんは王都に行かれたことは?」
「ないよ。ただの一度も」
こっちに飛ばされてから、ずっとアクセルにとどまり続けているし、これから王都に行く予定もない。
女神アクアが王都に行くならついていかざるをえないが…。
「でも、なぜかエドワードさんの噂が王都に流れているんです。アクセルに奇妙な職業の冒険者がいると」
「アクセルから王都に流れた冒険者が流してるんじゃないのか? それも十分にあるだろ。…というかもしかして女王様が引き抜こうっていうのも――」
「多分、噂の真偽を確かめたいのかもしれませんね。あるいはただの興味とか」
「冗談じゃないぜ。ただの興味であんな激戦区に引き抜かれてたまるか」
王都は激戦区。これはよく聞く話だ。魔王軍との最前線である王都は、夜間の襲撃など当たり前。王国の騎士団も防衛にあたっているなんて聞くが、魔王軍も強敵揃いだろう。
そんなところに器用貧乏なオレが放り込まれれば即死は免れない。最悪の場合は魔王軍の興味を引いて捕縛され、拷問実験解剖のフルコンボの末に昇天なんていう最低のシンデレラストーリーが待ち受けているだろう。
「わかりました。私の方からもけん制しておきますね。移る気はない、と」
おお、ルナさん超頼りになる。
「頼むよ。オレはここを離れるわけにはいかないんだ」
女神アクアのために。
「はい、皆さんのために…。ですよね」
「ん?」
なんか変な誤解が生まれている気がする。
でもあながち間違いでもないので訂正はしないでおこう。
「それじゃあオレはこれで」
「はい。しばらくは安静になさってくださいね」
ルナさんの言葉にオレは手を振って応え、仲間たちが待つテーブルへと向かった。
4
「まったく、一時はどうなることかと思ったぞ」
「悪かったな、迷惑かけて」
「気にするな。パーティとはそういうものだろう? 細やかだが祝勝の宴を開いたんだ。存分に飲み、食い、罵ってくれ」
オレの都合の良いデビルイヤーはダクネス最後の発言をバッサリカット。なにも聞こえていない。ないったらない。
オレはシュワシュワが注がれたコップを手に持ち、口を付ける。
そんなオレの服を引っ張るのは、ゆんゆんだ。
「やりました」
なにを。
というか君ちょっとダークサイドに堕ちてない? 目のハイライト消えかけてますよ。
オレは無難に「流石だな!」と返す。ベター、ベターイズベスト。
「エド、私へのお助け料をそろそろ払っていただきたいのですが」
「ちなみにおいくらエリス?」
「一億エリスです」
「ぼり過ぎだろ火事場泥棒め」
「なんですとぉっ!?」
うがー! と吠えるめぐみんを押さえつけながらカエルのもも肉を食う。肉だ、肉をよこせ。
傷は癒えても体力は戻らない。二日寝てたのだから腹はすっかすかだし、失った血やらも補給しなければ。
から揚げを頬張り、二十回噛んで飲み込む。軽く飲み物で喉を潤し、予てからの疑問を口に出した。
「オレを治してくれたプリーストって誰なんだ?」
「あー、えっと…」
言い辛そうにクリスが言葉を濁す。オレの頭上にハテナが浮かんだ。
すると、隣のめぐみんがステーキを切りながら思い出したように。
「美人さんでしたよ。青い髪でなんか不思議な服を着てました」
「うむ。あの服、ちょっと角度を変えれば下着が見えそうでな…。どこで調達したのか訊きたかったのだが…」
調達した場所を聞いてどうするんすかダクネスさん。着ちゃうんですか、そのボディで。ボンキュッボンなボディで着ちゃうんですか。
それにしても、治療してくれたのが女神アクアとは。クリスが言い辛いのも納得だ。
お礼はしたいが、なにが良いですかと訊けば屋敷とか無理難題を押し付けられそうで怖いな…。かと言って女神様に中途半端なものを渡すのもアレだし。
「そういえば服で思い出したんだけど」
オレが悩んでいると、対面に座るクリスがそう切り出した。
「みんな、パーティに着ていくドレスはあるのかい?」
「ないです」
「右に同じく」
「私は実家に戻ればあるぞ」
「じゃあ明日はみんなでドレスを仕立てよう!」
ドレスを仕立てるのに一日や二日で済むとは思えないんだけどなあ。
まあ、料金を割り増しすればやってくれそうではある。あるいは既存の物から選んで合わせてもらえばいいか。
お金もホースト討伐の賞金があることだし。大した問題はなさそうだ。
「エドもそれでいいよね?」
「オレはドレスじゃなくてスーツだけどな」
「もう。揚げ足とらないの。明日のお昼にギルドに集合だよ?」
「んー」と肉に食らい付きながら唸る。我ながら間抜けな声だったが、腹が減っていてはしょうがないことだ。あ、すいません。ライスお代わりで。
オレが肉を噛んでいると、隣でなにやらゆんゆんとめぐみんが小さな声で話し合っている。
話が終わっためぐみんがオレの方を向き、耳打ちを一つ。
「エド、この後少し時間をもらえませんか?」
5
「めぐみん、今日、あの約束を果たすわ」
「…そうですか」
アクセルから少し離れた草原に二人少女が立ち、お互いを見ていた。
片やパーティメンバーであるアークウィザード(暗黒面)のゆんゆん。
片やゆんゆんの幼馴染であるアークウィザード(爆裂面)のめぐみん。
互いに杖を構えながらにらみ合う二人を、オレは少し離れた位置から見守っていた。
どうやら、ホースト討伐前にゆんゆんが言っていた大事な約束とは、めぐみんとの決着を着けることだったらしい。
彼女たちの故郷、紅魔の里。その学校で育った彼女たちは常に一位、二位を争っていた。その決着を今日ここで着ける…みたいなのだが。真剣な顔をしているゆんゆんに対してめぐみんの顔がいまいちシャキッとしていない。
むしろこう、なにを言ってるんだお前はと言いたげな顔をしている。
「ゆんゆん、少し作戦タイムです」
「いいわよ」
許可をもらっためぐみんが落とさないよう帽子を押さえながら小走りでオレの元へと駆けてくる。
オレはこの後聞かされるであろう言葉を想像しつつも、訊かざるをえない。
「どうした」
と。
めぐみんは心底不思議そうな顔で。
「あの子は一体なにを言ってるんでしょうか」
やっぱりかー! こいつ忘れてるぞ! というか本当に約束したのか、ゆんゆん!
こうまで不思議そうに、いやなんかもう「ボッチが加速して妄想癖が…!?」なんて言い始めてるぞ、こいつ!
オレは咳ばらいを一つし、めぐみんの意識を引く。
「ゆんゆんが約束したって言ってたぞ。大事な約束だって」
「うーん…。私としてはさっぱりなのですが」
「頑張れめぐみん! 思い出せ!」
「うーん…? 確かに決着うんぬんの話はしたような気がしなくもないような…」
すごく微妙そうな顔をして考え込むめぐみんの肩に、オレは手を乗せる。
諭すようにゆっくりと、告げた。
「もう、憶えてることにして決着着けちゃおうぜ」
約束忘れてたなんて告白したら繊細なゆんゆんのことだ、勝負どころじゃなくなるだろうし。
オレがそう提案すると、めぐみんは冷静にストップをかけた。
「待ってくださいエド。この爆裂魔法しか使えない私が絶対悪魔殺すマンと化したゆんゆんに万が一つにでも勝てるとお思いですか?」
「まあ待てよ」
我に策在り。めぐみんを手で制し、オレは続ける。
「決着と言っても魔法で着けるってわけじゃないだろ? めぐみんの得意な土俵に誘い込めばいいのさ。幸い、今は夜。魔法勝負は迷惑になるとか理由を付ければ基本的に良い子ちゃんであるゆんゆんは断れないはずだ」
オレがそう言うと、彼女は目を光らせて「おお!」と感嘆の声を漏らした。
「流石エドです! 狡いです! 惚れます! 一生養ってください! 私はヒモになりたい」
「お前それは褒めてるのか?」
後私は貝になりたいみたいに言うな。
「それで?」とオレは言葉を並べた。
「なにか勝てそうな勝負方法は?」
「ジャンケン、ですかね…」
草原に出てまでジャンケンで決着を着けるのもどうかと思うんだけど。
まあ、それでいいならいいと思う。
「ただ一つ難点がありまして」
「難点?」
「ゆんゆん、どうやら動体視力がかなり上がっているようで。出す瞬間に相手の手を見て変えてくるんですよ」
なにそれ怖い。
「なのでゆんゆんは視界を縛ります」
「それだとめぐみん有利過ぎじゃないか?」
「私もそう思いますが…。それはそれでいいと思います」
いや、よくないだろ。フェアに行こうぜ、フェアに。
そうオレが言うと、「えー」と彼女はぶーたれた。
「視界を縛るんじゃなくて、手を縛ればいいんじゃないか?」
「緊縛プレイですか…!?」
「めぐみんちょっとダクネスに影響されて始めてない?」
そうじゃなくて。
「あらかじめ出す手を決めておくんだよ。そうすれば変えることはできないだろ」
名付けて限定ジャンケン。
ざわざわと風に揺られて草が揺れた。
「なるほど、名案ですね! それでいきましょう!」
めぐみんはそう言い残すと、元いた場所へと戻る。
ゆんゆんと一言二言会話している姿をぼーっと見ていると、不意に後ろから声がかかった。
「やっほー」
「うぉっ…!?」
「シー! 静かに」
オレが寄りかかっていた石の後ろに隠れていたのは、ギルドの酒場で別れたはずのクリスだった。
スキルの”潜伏”を使ってずっとついてきてたのか?
「まあねー…。それより、パーティの日。わかってるよね?」
「ああ。大丈夫。その日に全部済ますのか?」
「うん。屋敷を調べまわって、その日の深夜に実行するよ」
オレは手を掲げて必死にジャンケンをしている二人を見続けながら、肯定の意を返す。
それを聞いたクリスは用事が全部終わったのか、めぐみんとゆんゆんを見て。
「なにやってんの、彼女たち」
「ジャンケン」
決着を着けるんだと。オレは投げやりにそう続け、地面に座る。
すると、クリスは興味を持ったのか「ほぉーう」と面白そうな声を上げる。
「泥沼な感じですかな?」
「ど、泥沼? うーん…。どうだろうな」
「罪な男だねえ、エド」
なんでオレ? 首を傾げていると、どうやら勝負は着いたらしい。ゆんゆんが膝をつき四つん這いになっているのが遠くに見える。
クリスもその光景を見たのか、「じゃああたしはこれで」とオレに耳打ちしてきた。
「後ろから刺されちゃダメだよ?」
「サラッと恐ろしいことを言うな」
「ふふ。また明日ね」
そう言ってクリスは去っていく。姿勢を低く保ち、潜伏スキルで気配を消して走り去る姿はまさしく盗賊。流石本職だ。
そんなことを思っていると、勝負を終えた二人が戻ってきた。
めぐみんは右手を天に掲げ、どや顔で一言。
「完全勝利です」
「おめでとさん」
「もっとも、我が勝利は運命によって約束されていたもの…。当然なのですがね」
誇らしげに言うめぐみんを横目に、ゆんゆんへと声を掛ける。
「…まあ、次があるさ」
どんよりとした雰囲気を漂わせている彼女は肩を落とし、「ハイ…」と呟いた。
「わかりましたかゆんゆん。上級魔法など飾りだということが」
「お前約束忘れてたくせによく言うなぁ」
「ちょ、エドそれは…!」
あっ。とオレが我に帰るも時すでに遅し。
ゆんゆんは見る見るうちに目じりに涙を浮かべ、杖を振りかざした。
「な、なんであんなに大事な約束を忘れるのよ――っ! めぐみんは――っ!!」
「ストップ、ストップですゆんゆん! 話せばわかります! これにはわけがあるのです!」
「ほ、ホントに…?」
ナイスだめぐみん! さあここから事態の収拾を図るぞ! 図らなきゃアクセルに雷が落ちることになる。
オレは息を飲み、めぐみんの次の言葉を待つ。
「…すいません。特にないです」
「めぐみんのばか――っっ!!!」
収束する魔力を感じながら、オレは思う。
爆発オチなんてサイテーだと。
1 インクルシオ →ホモ
2 お前のことが好きだったんだよ! →ホモ
アカメが斬ってたので僕は悪くないです。
究極幻想アルテマウェポンとかでアカメの無双系二次書きてえけどなオレもなぁ
あと外伝は別の作品として投稿することにしたヨ。
この二次での空白期間を埋める形で書くヨ。
視点はめぐみんかゆんゆんだヨ。
詳しいことは未定だヨ。
ではまた次回
あと誤字報告&訂正してくれたふるしず兄貴、ありがとうございまする。
出番増やしてほしいキャラいたら、言ってくれてもええんやで(ニッコリ)