この馬鹿みたいな転生に悪態を   作:変態転生土方

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(失踪)してはいけない(戒め)


このパーティに親睦を

 女神アクアとカズマがたった一日も持たずにクビになるという頭痛の種を頭に植えつけられつつも、オレは宿に帰って寝た。

 子犬のような目つきで助けを求める二人からダッシュで逃げてオレは寝たのだ。寝るしかないのだ。

 その、翌日。

 

「森の中で悪魔型のモンスターが確認されました」

「へえ」

「…なんですか、そのボタン」

「へえボタン」

 

 バンバン。

 へえへえ。

 バンバン。

 へえへえ。

 バンバンッ。

 へえへえ゛っ。

 

「…ストレス、溜まってません?」

「…まあね」

 

 本音を吐露すると、ルナさんは目を泳がせて咳ばらいを一つ、手に持った洋紙を再び読み始めた。

 

「話を聞くに、グレムリン等といった下級の悪魔ではないようです。悪魔型のモンスターは上級ともなれば人語を話し理解する知力に、高い魔力、鋭い魔法を持ちます。強敵なのは間違いありません。お気をつけて」

 

 えっ、なにその討伐確定みたいな目。

 周りに目をやってみれば、「お前ならやれる」みたいな目をオレに向けている。

 またこの流れか。

 勘弁してほしい。

 

「まあ、見つかったら教えてくれよ。やってみるからさ」

「わかりました。ギルドの方でも各冒険者に警告と情報提供を呼びかけています。なにか分かり次第お教えしますね」

「よろしく」

 

 とりあえず、なにか腹に入れよう。

 クエスト掲示板横に設置された”エドワード宛”と書かれたボックスを片手に持ち、適当な席に座る。

 片手を上げてウェイトレスさんを呼び、オレは日替わり定食を注文した。

 

「お、おはようございます…」

「ああ、ゆんゆん。おは―――すごい隈だぞ」

 

 対面に腰を下ろしたゆんゆんは、張りのない笑顔で。

 

「パーティ組めたのが嬉しすぎて寝れませんでした…」

「…遠足を楽しみにする小学生みたいだな」

「エンソク?」

 

 いや、なんでもないと手を振り、オレはメニューをゆんゆんに差し出した。

 

「めぐみんは?」

「パーティの募集掲示板に行ってます」

 

 ウェイトレスさんに注文するゆんゆんを横目に、オレはボックスの蓋を開けて中身を取り出す。

 マンティコアの討伐及び牙の回収、グリフォンの討伐、とてもじゃないが、今受けられそうなのはない。

 一撃熊ファミリーの討伐期限も近いし、例の悪魔型のこともある。

 うーん、悩ましいな。

 置かれた一撃熊の焼肉とご飯を眺めつつそう思う。

 

「…パーティ、増員するか」

「―――増員、ですか?」

 

 サンマの塩焼きを突っつきながらゆんゆんは言う。

 恒久的にとは言わないけど、せめて悪魔型の討伐くらいまでは四人パーティを組みたい。

 この間の悪魔型は殆ど不意打ちに近かった。だからこそ勝てた。

 もしも錬金術に動揺せずに冷静に対処されたら、戦闘経験一週間程度のオレでは相手にならないかもしれない。

 悪魔型を討伐するなら仲間が必要だ。

 後衛はゆんゆんがいるし、前衛に耐久型を一人、後は攻撃型か後衛が欲しいところ。

 

「―――と、思うんだけど」

「そうですね…。私も賛成です」

「なにか希望はある? 職業とかじゃなくて。男とか、女とか」

「え、っと…」

 

 ゆんゆんは少し考えると。

 

「会話が続くかなくても怒らない人、毎日会いに行っても引かない人、目を合わせずに会話しても怒らない人―――」

「オーケーオーケー、そこまでにしてくれ」

 

 オレの勘で選ぼう。

 そう考え、肉を食った。

 

 

 

 

 このパーティに親睦を

 

 

 

 

 

 

「うーん…。これ、かなあ」

 

 オレは呟きつつ一枚の洋紙を手に取る。

 クルセイダーと盗賊の二人パーティで、後衛と前衛を募集している。

 クルセイダーとはナイトの上級職で、耐久系のスキルを多く習得できる職業だ。パーティではその耐久性を活かした前衛を担当し、RPGで言うタンクの役割を担う。

 盗賊は言わずもがな、サポート職。

 鍵開け、敵感知、潜伏に窃盗。様々なスキルを覚え、特に敵を感知するスキルは是非ともパーティに欲しい。

 なにやら一文を黒くかき消してるけれど、まあ気にすることでもないだろう。

 

「募集者名は…盗賊のクリスか」

 

 記載された特徴を頭に入れ、オレはゆんゆんを呼びに戻った。

 

 

 

 

「いやー、まさかあのエドワードが来るなんてねえ。あたしはクリス。見ての通り、盗賊だよ。で、こっちが―――」

 

 肩まで伸びた銀髪に、頬についた小さな刀傷が印象に残る少女。いかにも盗賊の格好をした彼女が募集者のクリスだった。

 

「クルセイダーのダクネスだ。お会いできて光栄に思う。エドワード」

 

 もう一人は煌くブロンドの髪を後ろで纏めて鎧を着こんだ女性。ブルーの瞳は透き通っていて、顔立ちは整っている。騎士、と言うよりはどこかのお嬢様みたいな人だ。

 オレは少し上擦った声で自己紹介をする。

 

「ああ、どう、も。オレはご存知の通りエドワード。こっちがパーティを組んでる紅魔族でアークウィザードのゆんゆん。ちょっと引っ込み思案だけど良い子だよ」

「は、初めましてっ!」

 

 挨拶もその程度に、オレは話を切り出した。

 

「オレたち…というよりはオレは例の悪魔型のモンスターの討伐を目標にしてる。二人だと少し心配でパーティ増員をしようと考えてるんだ。どうだろう、悪魔型討伐まで一時的にパーティを―――」

「ああ、いいぞ」

 

 即答だった。

 クルセイダーのダクネスは若干息荒く頷いている。

 オレはチラリとダクネスの隣に座るクリスに目をやった。

 

「ああ、あたしも大丈夫だよ。それより、そっちの紅魔族の子は大丈夫なの? 噂じゃレベル一桁の冒険者って聞いたけど」

「噂?」

 

 嫌な予感がバリバリするぞ。

 

「ああ! 鬼畜王エドワードがアクセルに来たばかりの駆け出し冒険者をクエストに連れ出しモンスターと一人で戦わせて自分は高みの見物をしてるという噂だ! なんという鬼畜っぷり…! ぜひパーティを組もう!」

「合ってる、合ってるけど…! 違うんだよ…!」

「合ってるんだ…」

「あ、あのっ…あれは、ですね…。エドワードさんがジャイアントトードの調査で、私がレベル上げをしてただけで、その…」

「なんだ、放置プレイじゃなかったのか…」

 

 なんで残念そうにしてるんだよ。あと放置プレイってなんだ。

 

「ゆんゆんは後衛だし、中級と上級の魔法が使える。体術もある程度こなせるみたいだし、問題はないと思う」

 

 咳払い一つ、オレは言った。

 すると対面のダクネスが腕を組み、瞳を伏せて言う。

 

「ああ、それにモンスターの攻撃は私が全て受けるつもりだからな。肉壁として、囮として、なんだったらモンスターごと魔法を撃ってくれても構わないぞ!」

 

 スッとオレは挙手した。

 

「なんだい?」

「作戦タイムで」

「認める」

 

 クリスは遠い目でそう言った。

 オレはゆんゆんを連れて柱の陰に隠れると。

 

「どう思う?」

「えっと…。悪い人たちではないと思います」

「でもダクネスは真正のマゾヒストだぞ…」

「…それって悪いことなんですか?」

 

 ゆんゆんの問いにオレは思わずどもってしまう。

 悪いことか、そう問われれば答えはNOだ。

 ドMっぽい、それだけで敬遠するのは無礼に当たるだろう。

 反省して席に戻り、オレは言う。

 

「意見はまとまった。よろしく、二人とも」

「よ、よろしくお願いします!」

 

 

 

 2

 

 

 

「ねえエド」

「ん?」

「互いに理解を深めるためにクエストをするんだよね?」

「そうだよ。…あ、ダクネスそこ二センチ右な」

「これくらいか?」

「あー…。もうちょい…、そこだ。オーケー。…で?」

「…なんであたしたちは屋台を直してるわけ?」

 

 野菜を載せる木箱の底を金づちで殴りつつクリスはそう言った。

 流石盗賊、手先が器用だ。

 

「クエストって言っても討伐しかないわけじゃないだろ」

「そうだけどさ…。もっとこう、マンティコア二頭討伐ー! とかエグイのを想像してたんだけど」

 

 つまりオレは初めて組んだパーティをそんなドMクエストに連れていく鬼畜って思われてるわけか。

 

「そういえばゆんゆんはどこへ行ったんだ? さっきから姿が見えないが」

「川。バナナ獲りに行ってるよ」

 

 川でバナナが獲れる世界。

 初めは困惑しかなかったが、今となっては慣れた。といっても細かいことを考えないようにしているだけだけど。

 畑でサンマが獲れると聞いた時は開いた口が塞がらなかったぜ。

 

「でもさー、エドは錬金術が使えるんでしょ? パンってやってバチーで色んなものを創れるって聞いたけど」

「ああ、まあね」

「なんで錬金術で屋台を直さないの?」

「自分の手で直せるものは、自分の手で直した方がいいだろ」

 

 オレは歪んだ屋台の柱をカンナで剃りながらそう言う。

 

「この屋台、八百屋の親父の手作りなんだと」

「そうなの?」

「うん。で、親父には子供がいて、たぶんこの屋台を継ぐことになるんじゃないかな。そんな屋台を簡単に錬金術で直すのは気が引けるんだよ」

「ふーん…」

「なんだよ」

「君って、変わってるよね」

 

 また新しく箱を組み立てながらクリスは言った。

 そうだろうか。

 

「そうだよ。普通特別な力とか持ってたら使いたがるものじゃない?」

「…そうかなあ」

「例えば、例えばの話だよ? ものすごく強い魔剣とか持ってたらそれを使ってモンスターを倒してさ、魔王討伐を夢見たりとか」

「そしてあっさり死ぬ、と」

「…夢がないね」

「現実的と言ってくれ。特別な何かを持ってるから大きなことを成し遂げられるってわけじゃないだろ?」

「それはそうだけどさ…」

「オレは、この力でこの街の人たちを守れればそれでいいんだよ」

 

 特別な何かに浮かれて自分を見失えばその先は死あるのみ。

 力とは、自分を飾るアクセサリーの内の一つでしかない。金のイヤリングにシルバーネックレス、ダイヤの指輪を着けたところで、金持ちになるわけじゃないのだ。

 素の自分をよく理解し、磨き、力を十二分に使えるよう努力することが大事なわけだな。

 

「やっぱり変だね」

「ああ、変だ」

「ダクネス、お前にだけは言われたくないぞ…!」

 

 そんな他愛のない話をしていると、建物の影から小太りで髭面の中年男性が顔を出す。

 この出店の主であるジョンだ。背中に背負った籠からはバナナが見え隠れしている。

 

「おう、エド! 調子はどうだ?」

「八割ってとこかな」

 

 歪みを修正した柱をダクネスに渡しつつ答えると、ジョンは豪快に笑う。

 

「そうかそうか、ならあと少しだな! ようし嬢ちゃん! 店開きの準備だ!」

「は、はぁい…」

 

 同じくバナナの入った籠を背負っているゆんゆんは若干前のめりになりつつもそう応えた。

 ゆんゆんの背中から籠を取り上げ、地面に置いたところで、ジョンは閃いたように言う。

 

「おおそうだ! エドよお、ちょっくら売り子を集めてくんねえか? 何なら紅魔族の嬢ちゃんとそっちの二人の誰かでもいいんだが」

「ほう、つまり羞恥プレイというわけだな」

「ダクネスはちょっと黙ってようねー」

 

 屋台の屋根代わりの布で簀巻きにされているダクネスを横目にオレは女神アクアとカズマを思い出す。

 カズマはともかく、女神アクアは容姿端麗だ。言葉の端々にトゲはあるけれど、彼女は神、女神様だ。仕事の内容を理解すればトゲを隠すことくらいはしてくれるはず。

 なにより二人の収入は現在ゼロ。

 泊まりこんでいる場所も馬小屋と最低の現状だ。

 たった一日で酒場を首になったことが引っかかるが、流石に二度目のチャンスをふいにするってことはない…はず。

 

「…丁度良く若い人二人組を知ってるよ。男女で、女性の方は飛びっきりの美人」

「ほおー…。お前が飛び切りなんて言うのは珍しいな…。よおし、その二人を雇ってみよう!」

「じゃあパッパと屋台の組み上げを終わらせよう。クリス、そこの愉悦に浸ってるダクネスを開放してくれ」

「ほいほーい」

 

 クリスは軽く応え、布を端っこを持ち、勢いよく持ち上げる。

 帯回しよろしく超速回転で解放されたダクネスはその勢いのまま壁に激突すると動かなくなった。

 

「マグナムト○ネードか…」

「サイクロン○グナムの色合いが好き」

「ん? 今なんか言ったか、クリス?」

「いやあなにも言ってないよ! あは、あはは…」

「ふーん…。おーい、起きろダクネス! 仕事の続きだぞ!」

「…中々良い、刺激だった」

「カッコいいセリフだけどその悦に浸った顔で言われてもなぁ…」

 

 時刻は昼時。オレは寝そべったダクネスに手を貸しつつ、仕事終わりの昼食を何にするか、考えていた――。

 

 

 

 3

 

 

 

「いい人たちでしたね」

 

 宿へと帰って行ったダクネスとクリスを見送り、オレとゆんゆんは日が傾き始める中酒場へと向かっていた。

 ゆんゆんの言葉に、オレは頷く。

 確かにダクネスは特殊な性癖の持ち主だけど、根はかなりの善人だ。屋台の組み立ての時だって嫌な顔一つせずに作業していたし、休憩時間の間に子供と遊ぶ器量だってある。

 クリスも言わずもがな…なんだけど。少し引っかかるんだよな。

 似てるのだ。

 女神アクアと。

 容姿は似ても似つかないが、なんというか、雰囲気が似ている。

 

「うーん…。まあ気のせいだろ」

「…? なにがですか?」

「いや、なんでもない」

 

 首を傾げるゆんゆんに応えつつ、オレは酒場の扉を開けた。

 鼻をくすぐる食べ物の匂いに、冒険者たちの声で騒がしいこのギルド兼酒場ももはや見慣れたもの。

 酒場に足を踏み入れ、さあどこに座ろうかと辺りを探ってみれば、見覚えのあるウィッチハットが目についた。

 

「よっ、めぐみん」

 

 オレがそう声を掛けると、気怠そうな顔をしためぐみんが小さく「あぁ…」と呻いた。

 

「今日も爆裂魔法をぶっ放したのか」

「ええ、その通りです…」

「それでまたパーティから追い出されたの?」

「…」

「痛い痛い! おさげ引っ張らないでよー!」

 

 無言でゆんゆんのおさげを引っ張るめぐみんを宥め、オレはメニューに目を落とした。

 ふうむ。がっつり行くかあっさり締めるか。悩むな。

 不意に視線を感じたオレは顔を上げる。

 めぐみんがガッツリと、それはもう目が点になるほどオレを見つめている。

 

「…なんだよ」

「やはりあの男とよく似ています」

「誰だよ、あの男って」

 

 メニュー閉じて手を挙げる。

 瞬く間に現れたウエイトレスさんに、「スモークリザードのハンバーグ定食とシュワシュワ三つ」と告げてオレはめぐみんに向き直る。

 

「三つとはずいぶん食べますね」

「三つも食うわけないだろ。オレとゆんゆんとめぐみんの。オレの奢り」

「…それはどうも」

「ねえめぐみん。あの男ってまさか…」

「そうです。ホーエンハイムです」

「まだ根に持ってたんだ…」

 

 運ばれてきたシュワシュワを飲みつつ、オレは問う。

 

「ホーエンハイム?」

「ええ。貴方のお父上ではないのですか?」

「いや、知らないよ。オレは…。エドワード、……ゴンザレスだ」

 

 ゴンザレス。あまり好きではないオレのファミリーネームだ。

 この世界じゃ冒険者登録した時以外に名乗ったことはなかった。

 

「他人、というわけですか…。それは失礼しました。あまりに似ていたので」

「そんなに?」

「ええ。赤の他人とは思えないほど似てます。親子と言われても違和感はありませんね」

「ふーん…。で、そのホーエンハイムがどうしたんだ?」

「よくぞ! よくぞ訊いてくれました!」

 

 魔力枯渇による疲労はどこへやら、身をずいっと乗り出しためぐみんにオレは顔を引きつらせる。

 

「あの男との出会いは約一か月前です…。我らの故郷、紅魔の里にやってきたホーエンハイムは里のあっちこっちを見て回ってました」

「ました、ってよく知ってるな」

「その頃めぐみん暇だったので、ホーエンハイムさんの案内役をしてたんですよ」

「あっ…。ふーん…」

「んんっ! あちこちを見て回ってたホーエンハイムはあれは違う、これは大丈夫…なんて言いながら紅魔の里を見て回ってました。そしてすべてを回り終わったとき、事件は起こったのです!」

 

 目の前に置かれたハンバーグにナイフを刺し込みながらめぐみんの次の言葉を待つ。

 

「ホーエンハイムは言いました。色々買い過ぎて旅費が尽きてしまいそうだ、と! そして私に言ったのです! この魔法の薬を買わないか、と!」

「わかったから落ち着けよ。それと飯が冷めるぞ」

「…いただきます」

「おう」

 

 ナイフとフォークを器用に使いめぐみんはハンバーグを口に運ぶ。

 オレもライスを一掬い、口に運ぶと、めぐみんに続きを促す。

 

「で?」

「…そのホーエンハイムから買った薬というのがただの栄養剤、私はまんまと騙されてしまったのですよ」

「ふーん…。その”魔法の薬”ってどんな効果があるって説明されたんだ?」

「うぐっ…。ま、まあ身体がとてもよく成長する…?」

「なぜ疑問形…」

 

 顔を若干俯かせ、視線を横に逃がすめぐみんからこれ以上訊くなオーラを感じ、オレは話題を変える。

 

「そのホーエンハイムの名前はわからないのか? もしかしたらアクセルに来てるかもしれないし、詐欺師なら注意喚起をギルドにしてもらった方が良くないか?」

「もちろん憶えてますよ。ホーエンハイムの顔と名前は忘れたくても忘れられませんから」

 

 オレは乾いた喉を潤すためにシュワシュワを口に含む。うーむ、いい感じにシュワシュワしている。

 

「――その男の名はバルト。バルト・ホーエンハイムです」

 

 オレはシュワシュワを噴き出した。

 

「あああああっ!! 目、目がァァァァ!! シュワシュワァァァ!!」

「め、めぐみん大丈夫!? エドワードさんもどうしたんですか!?」

「ご、ごめん。ホントごめん」

 

 なにやってんだ、あの神様は。

 もしかしたら赤の他人ってこともあり得るけど、オレに似てるってことはバルト本人の可能性が高い。

 オレはあいつの好きな漫画の主人公に似てるらしいからな…。その主人公の父親の容姿を借りているんだとしたら似ていてもおかしくない。

 

「…なんだか目がすっきりしました」

 

 それはいいのか悪いのか。

 

「エドワードさん、ホーエンハイムさんとお知り合いなんですか? 名前を聞いたら驚いてましたけど…」

「うん、まあ知り合いというか、原因というか…」

「なるほど、つまりエドも私と同じく被害者、というわけですか」

「え、エド?」

「うーん…。そうなる、のかなあ」

「なりますとも! そうともなれば今までのことはサラッと水に流して、ホーエンハイムをとっ捕まえようじゃないですか!」

 

 息巻くめぐみんから目をそらし、考える。

 バルトがどんな意図を持って現界しているのかはわからないが、この世界にいるのであれば訊きたいこともある。捕まえるのに異論はなかった。

 

「ね、ねえめぐみん。今エドワードさんのことをエドって呼ばなかった?」

「…? それがなにか?」

「…ううん、なんでもない…」

 

 なにやら思いつめた顔でハンバーグを突っつくゆんゆんを見つつも、オレはライスを口に運ぶ。

 対面のめぐみんは疲労を見せない表情で定食に手を出していた。

 現界しているバルトに、女神アクアのサポート、森に出現している悪魔…。やることは山積みで気が重いが、パーティメンバーも増えたことだし、幾分かはマシになるはずだ。

 思考はそこまでに、オレは飯を平らげてナイフとフォークを置いた。

 

 

 

 4

 

 

 

 宿へと向かう道すがら、オレはめぐみん、ゆんゆんを連れてジョンの八百屋の屋台へと寄っていた。

 

「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今からこのバナナが合図と共に消えてなくなりますよ!」

「おー…。派手にやってんなぁ」

 

 女神アクアの威勢のいい声に集まる野次馬を遠目に見ながらオレは言う。

 

「エドの知り合いですか?」

「そんなもんかな」

「種も仕掛けもありません! この布をバナナにかけます! そして消えろと念じます! 消えろー…、消えろー…。さん、はい!」

「「「「おおおおおっ!!」」」」

 

 ざわめく観客と共にめぐみんとゆんゆんも驚きの声を上げる。内心、オレも驚いていた。本当にバナナが消えていたのだ。

 女神アクアにあんな特技があるとは。いや、もしかして神様パワー的な何かで消しただけなのか?

 そんなことを考えていると、野次馬たちが我先にと屋台へと詰め寄る。大盛況だ。

 

「ありがとうございます! おいすげえなアクア! このまま行けばノルマの達成も余裕だな! さあ早く消したバナナを出してくれ! 売りまくろうぜ!」

 

 カズマが喜々とした表情で女神アクアに言う。すると、女神アクアは不思議そうな顔をして。

 

「なに言ってんのよ。バナナは消しちゃったんだからないわよ? さ、今度は売るためのバナナを頂戴!」

 

 ああ、頭が痛くなってきた。

 

「は? いや、言ってる意味が分かんねえぞ! 消しちゃったってなんだよ。何の前触れもなくバナナが消えてたまるか! おい、どこに隠したんだよ。冗談言ってないで早く出せって!」

「冗談なんかじゃないわよ。種も仕掛けもありません、って言ったじゃない。ほら、早く売る用のバナナと消す用のバナナを持ってきて」

「お前ふざけんな。昼も過ぎて夕方だってのに寝言言ってんじゃねーぞ!」

 

 先ほどまで騒いでた客たちは呆然とし、カズマと女神アクアの背後に立ったジョンと目が合う。

 ジョンは小さく首を振り、二人の肩を叩くと静かに告げた。

 ―――ああ神様。

 

「クビ」

 

 ―――勘弁してくれ。

 

 




爆焔編終わらないナリィ…

バルトその二
 バルト・ホーエンハイムを名乗って彼方此方旅行中

エドワード君仲間を更に得る。やったぜ。


おまたせ(一か月放置) 日中は仕事してるからね、しょうがないね

次の投稿はいつになるかなァ…

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