この馬鹿みたいな転生に悪態を   作:変態転生土方

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突貫工事です。


この転生者に仲間を

   第二話 この転生者に仲間を

 

 

 

「よおしよしよし…また今日も頼むぞージャスティス号」

「エドワードさんってネーミングセンスないですよね」

 

 うるせえ。

 オレはジャスティス号と名付けたマイホース…馬(♂)の頭を撫でつつ反論した。

 なにかと遠出をすることが多いオレは一々馬車を雇うより、馬を買って走った方がお得だと気付いたのだ。

 お値段十二万エリスとそれなりに高くついたが、人懐っこく、足も速い。何より目が凛々しい。オレとの相性も良いのか、しきりに頭をぶつけてくる。

 

「ははは、可愛いやつだ」

「思いっきり嫌われてる気がするんですけど」

「オイオイ、これはジャスティス号特有の愛情表現さ。見ろこの目を、愛嬌たっぷりだぞ」

「いや、変な名前付けやがって、みたいな目してますけど」

「…なんでお前にそんなこと分かるんだよ」

「元飼い主なんですけど」

「…」

 

 そういやそうだった。

 雑談その程度に、オレはジャスティス号を馬小屋から出す。

 外へと引っ張っていくと、オレに依頼を持ち込んで来た冒険者が息荒く立っている。

 

「た、大変だエドワード! アクセルに向かう馬車がゴブリンたちに襲われてるらしいんだ! 急いでくれ!」

「だったらオレが行く必要ないんじゃないか? 都市間馬車なら冒険者を雇ってるだろ?」

「数が多いとそうも言ってられないだろ! 俺が見た感じじゃかなりの数がいたんだ、頼むよ!」

「分かった、分かったよ。とりあえず行ってみよう」

 

 オレはそう返し、ジャスティス号に飛び乗る。振り落とされた。

 

「ははは、悪ふざけしてる場合じゃないんだぜ」

「やっぱり嫌われてません?」

 

 うっせ。

 

 

 

 

「やっぱり全滅してるじゃねえかよ…」

 

 遠目から見てもゴブリンたちは全滅していた。

 どうやら優秀な冒険者たちが護衛についていたらしい。

 骨折り損とはこのことだな。

 と、そこでジャスティス号が震えていることに気づいた。

 この揺れ方は…!

 

「トイレか…!?」

 

 振り落とされた。

 

「冗談だよ、冗談」

 

 ジャスティス号はとても臆病だ。

 凛々しい目はしているものの、強力なモンスターが近くにいると震えてしまうのだ。

 それがオレにとってはある種の警報機であり、危ないと直感した場所をジャスティス号に行かせたりすればモンスターの強襲を防ぐことができる。

 臆病とは言ってもゴブリン程度では震えない。むしろのび太に絡むジャイアン並に調子に乗るのだが…。

 

「あっ」

 

 と、オレはここであることに気が付いた。

 倒れているのはゴブリンだと思っていたのだが、あれはゴブリンじゃない。

 冒険者だ。

 

「うわあ…」

 

 ほぼ全滅に近かった。

 辛うじて生き残っている冒険者が数人いる程度で、あとは皆地面に伏せてしまっている。

 ゴブリン程度ならそこまで苦戦する相手じゃないと思うんだが…。

 そこで、ジャスティス号が背中を突っつく。

 振り向くと、鼻で空を指していた。

 

「あー…なんだありゃ。人型に翼…亜人か? 見たこともないや」

 

 攻撃してるってことはモンスターか。

 まあ、ゴブリンだろうと亜人だろうとやることは一緒か。

 

「ここで待ってろよ、すぐに戻るから」

 

 ジャスティス号を一撫でし、オレは亜人の元へと歩き出した。

 

 

 

 

 1

 

 

 

「―――念には念を入れて、モンスター共をけし掛けてみれば案の定さ! 三度も襲撃を受けたにも拘わらず、お前は一度も魔法を使わなかった!」

 

 喜々として叫ぶモンスターの声にオレのコメカミにピクリと線が走る。

 ほお…つまりあれか。

 ここらでやたらとモンスターが闊歩しているのは空飛ぶ亜人さんのせいだと。

 

「―――! 誰だ!」

「どうも、エドワードです」

 

 ゲハハハ! ここで会ったが三年目! 溜まりに溜まったストレスを晴らさせて…じゃなくてモンスターたちをけし掛け、街の人々を不安のどん底に突き落とした罪を償ってもらおう!

 

「ハッ! 何かと思えば援軍かい! 駆け出しの街から援軍なんてね…フンッ!」

 

 見える! 見えるぞ! オレにも敵が見える!

 繰り出された右ストレートを右手で受け止め、オレはニンマリと笑った。

 

「なっ…!!」

「貧弱…」

 

 機械腕のパワーに任せてそのまま放り投げる!

 

「貧弱ゥ!」

「ック! お前…! なるほど、たった一人の援軍だけあってそれなりに力はあるみたいだねぇ…なら…!」

 

 翼をはためかせて空中で姿勢を整えた亜人が右手を掲げる。

 なんだ、なにがくる?

 

「危ない! 魔法が来ます!」

「遅い! 『ライトニング』ッッ!!」

 

 右手が振り下ろされる。

 瞬間電撃が発生し、迫るのが見えたが、既に土壁を錬成すべく地面に手を当てているオレには届かない。

 電撃が左右に流れていくのを冷や汗交じりに見届け、オレは壁から出た。

 あっぶねー…まともに食らってたらノックダウンは間違いないな。

 

「なんだ、その魔法は…見たことも聞いたこともないよ。あんた、一体何者だい…!?」

「最初に言ったろ」

 

 パン、と両手を合わせる。

 土に手を当て、オレがいる所だけを棒のように伸ばす!

 

「なぁっ…!?」

「エドワードです、ってさ」

 

 右ストレートを、空中の亜人へとぶち込んだ。

 

 

 

 

 

「よっ、と」

 

 地面に着地して一息つく。亜人がそんなに高くない場所にいてよかったよかった。

 着地して足の骨が折れたなんて格好悪すぎるからな。

 伸びた足場を錬金し直して元の平らな地面を錬成する。土壁も同じだ。

 別の意味でのびている亜人に止めを刺そうと近寄った時だった。

 オレは、生身の左手が震えていることに気づいた。

 ―――これだから、人型はいやなんだ。

 止めは刺さない。

 土の手を錬成して亜人を取り押さえてオレは踵を返し、冒険者たちの元へと足を運ぶ。

 

「生きてるか」

「な、なんとか…」

「そりゃあよかった」

 

 腕を抑えている冒険者を横目に、攻撃された馬を診る。

 多少の火傷はあれど、気絶しているだけだ。これなら問題はないな。

 馬に回復のポーションをぶっ掛けつつ、倒れている冒険者の介抱に当たる。

 

「あー…っと、そこの魔法使いっぽいの」

「私ですか?」 

「いや、スタイルが良いほう」

「私ですね」

「寝言は寝て言え」

「『エクス―――』!!」

「わあああ!! めぐみんなにやろうとしてるの!?」

「離してくださいゆんゆん! 私は、私はあのド金髪野郎を吹き飛ばさなければ気が済まないのです! 私の中の破壊神もそう言っています!」

 

 ハハハ、元気がいいなあ。

 

「お大事にー」

「今なんでそのセリフを言ったのか小一時間問い詰めたいのですが」

「めぐみん、めぐみん落ち着いて!」

 

 杖を振り回す少女(・・)に、それを抑える女の子(・・・)

 二人ともかなり顔立ちが整っていて、取っ組み合っていてもその様子は栄える。

 プリーストは…気絶中か。

 叩き起こすより馬車の中で治療させた方がよさそうだ。

 治療人と気絶したプリーストを馬車に放り投げつつ、手際よく作業を終わらせていく。

 

「おいそこの金髪」

「なんでそんな喧嘩腰なの…」

「んー…?」

 

 最後の一人が馬車に乗り込むのを手伝い、オレは振り返った。

 

「なんだ、まだ乗ってなかったのか。早く乗れよ」

「あなたに言いたいことがあります」

「ほお…聞こうじゃないか」

「えっとですね…この度は助けていただいて本当に―――」

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を愛する者! 私の胸は発展途上なのです。先ほどの無礼な発言を取り消してもらいましょうか! さもなくば、我が爆裂魔法の威力をその身をもって知ることに―――あいたたたっ! なにをするのですゆんゆん!」

「なにをじゃないわよ! なに助けてもらった人を脅してるの! お礼を言おうって話したよね!?」

「あの男を墓の下送りにしたのち、お礼を言おうと思っていました」

 

 なんて物騒なやつだ。

 あの亜人が可愛く見えてくるぜ。

 

「―――お兄ちゃん、強いんだね」

 

 馬車の中からおばさんに連れられて外へ出てきた女の子が、そう言った。

 我ながら現金だと思う。

 強い、頼りになる。そんなことを言われたら甲斐甲斐しく人の頼みを聞いてしまう自分がとても恥ずかしかった。

 女の子の目線に合わせて屈み、土を一握りする。

 

「見てな」

「…?」

 

 土を掴んだ右手に左手を覆いかぶせて、錬金。

 バチッと小さな電気が飛び、左手を退ければ、そこには小さなペガサスの人形が。

 

「わあ…」

「あげるよ。ようこそ、アクセルへ」

「ありがとう!」

「本当にすごいですね…。さっきの土壁もそうですし、その人形もとても精巧にできてます。アクセルの冒険者さんなんですよね? 職業はウィザードですか?」

「職業は変態ですよ。間違いありません」

 

 「めぐみん!」と声を張る…確か。

 

「ゆんゆん…ちゃん」

「あ、はい。わ、我が名はゆんゆん…や、やがては―――」

「いや、恥ずかしいなら名乗らなくても大丈夫だけど」

「ゆんゆん…です」

 

 顔が真っ赤だ。

 さっきのめぐみんとかいう子もそうだけど、紅魔族は独特の名前が多いと聞く。

 ルビーのような紅い目、高い知力と魔力、そして珍妙な名前。それが紅魔族なのだ。

 

「オレはエドワード。アクセルで「変態」を―――」

「めーぐーみーん…!!」

「ああっ! やめてください! 頭グリグリしないでください! ほんの出来心…そう、出来心なのです!」

 

 出来心で人を変態にするな。

 見ろ、無垢な少女がおばさんに連れられて半歩下がったぞ。

 

「…エドワードだ。アクセルの冒険者で、”錬金術師”をやってる」

「アルケミスト…? 聞いたことがない職業ですね」

「そんなことより、早くあの悪魔に止めを刺すのです! いつ起き上って襲い掛かってくるかわかりませんよ!」

 

 あー、あれ悪魔だったのか。

 まあ確かにそう言われればそんな気もしてくる。

 羽、生えてるし。魔法使うし。

 

「…あれの始末はオレに任せてくれ。あんたら―――あー、君たちは馬車に乗って早くアクセルへ」

「わかりました。じゃああとはお願いします」

「むぅ…我が爆裂魔法をお披露目できないのがとても残念でなりませんが…仕方ないですね。アクセルに着いてから平原にぶっ放すとしましょう」

 

 おい、今とても不吉なことを言いながら馬車に乗り込んだやつがいなかったか。

 

「本当にありがとうございました、冒険者さん!」

「災難だったな、アクセルはすぐそこだからもう少しの辛抱だ」

「今度お礼をさせてください! ではまた!」

 

 十台ほどの馬車で編成された商隊、そのリーダーと少し会話し、走り去る馬車たちを見送る。

 最後尾の馬車が小さくなるまで見送ったのち、オレは悪魔へと向き直った。

 

「起きてんだろ」

「…バレてたかい。あーあ、まったく。あんたが助けに来なけりゃ、上手くことが運んだっていうのにさ…」

「世の中そんなに甘くないだろ…さて」

「止めかい? せめて苦しまないように一息に頼むよ」

「冗談じゃないよ、まったく…」

 

 両手を合わせ、悪魔を取り押さえていた土の手を解かす。

 オレの行動が予想外だったのか、悪魔はきょとんとした顔をしていた。

 

「止め、刺さないのかい?」

「言ったろ。冗談じゃないって」

 

 殺ったら夢に出てきそうだからな。

 

「甘ちゃんだねぇ…」

「うっせ。とっと帰れ。あんたは負けたんだ」

「はいはい、そうさせてもらうさ。それよりあんた、右手に鉄でも仕込んでるのかい? 未だに頭がガンガンするよ」

 

 ふん、とオレは軽く笑い。

 

「オレの拳は重いのさ」

「甘ちゃんだけどね」

「うるせーよ」

 

 そんな時だった。

 頭に閃きが、そう閃きが走った。フレクサトーンを鳴らしたような音と一緒に。

 なるほど、これが合図なわけか。

 

「じゃ、オレは行くよ」

「そうかい。―――ああ、そうだ」

「?」

「あのまな板娘に言っておいておくれ。ウォルバク様をよろしく、ってさ」

 

 

 

 

 2

 

 

 

「結局、見つからないままギルドに戻ってきてしまった…」

 

 そもそも青い髪の、不思議スカートの、バカっぽい女。

 こんな限定情報で多くの人が住むアクセルの中からたった一人を見つけるなんて無理がある。

 オレが最初にアクセルに転生したこと、神の啓示のようなものがアクセルから感じられたことを踏まえれば、転生者は最初にアクセルの街に飛ばされると考えて間違いはないはずだ。

 更にバルトのいうとある魂が特典として選んだのは武器でも能力でもない女神。

 しばらくはここ(アクセル)に留まるだろうし、焦って見つける必要もないか。

 とりあえず、ゴブリン駆除を報告してから飯を食う。一息ついたらまた遠出をしてクエストをいくつか消化しよう。

 そう考え、ギルドの扉を開けた時だった。

 

「そこのプリーストよ、宗派を言いなさい! 私はアクア。そう、アクシズ教団の崇めるご神体、女神アクアよ! 汝、もし私の信者ならば…! …お金を貸してくれると助かります」

 

 うわあ。

 うわあとしか言いようがないくらい衝撃的だった。

 一般冒険者の前で女神を自称し、金をせびる。

 この世界において神は現界したことがない。つまり、市民にとって神とは崇め、祈る存在であり、その姿を見た者は決していないのだ。

 簡単に言えば金をせびられているプリーストの目には女神アクアは神を自称するとても頭の悪い子、もしくは心に病を抱えた可哀想な子のように見えている。

 

「…エリス教徒なんですが」

「あ、そうでしたか、すいません…」

 

 しかも違う宗派だった。

 

「あー…。お嬢さん、アクシズ教徒なのか。お伽噺になるが、女神アクアと女神エリスは先輩後輩の間柄らしい。これも何かの縁だ、さっきから見てたが、手数料がないんだろ? それぐらいなら持っていきな。エリス様のご加護ってやつだ。でも、いくら熱心な信者でも女神を名乗っちゃいけないよ」

「あ…はい、すいません…。ありがとうございます…」

 

 お伽噺だと言っていたけど、女神アクア、女神エリスが先輩後輩の間柄だというのは信憑性がある。

 女神アクアの死んだ魚のような目を見たら信じざるをえない。

 後輩女神の信者に同情されてお金を貰って更に諭されればあんな目にもなるだろう。

 これから先のことを考えると気が重い。

 オレはため息一つ、ルナさんの元へと向かった。

 

 

 

 

 あれから、とある魂―――名前は佐藤和真というらしい―――と女神アクアが冒険者として登録した証、冒険者カードを手に入れたり、女神アクアが実は高スペックだったりと色いろあった。

 …とりあえず、しばらくは様子を見つつサポートしていけばいいか。

 

「…それで、俺たち今日の宿代もなくって。手っ取り早くお金を稼げるクエストってないですかね?」

「…クエストはないけど、働き口ならあるよ」

「え、っと…」

「ああ、オレはエドワード。よろしくな」

「佐藤和真です。で、こっちがアクア」

「女神、アクアよ」

「ああ、こいつの言うことは気にしないでください。ちょっと病んでる可哀想な子なんです」

「病んでないわよ! てか可哀想な子!? 可哀想なのはあんたでしょうがこの引きニート!」

「だから引きこもりとニートを足して呼ぶなっつってんだろ…!」

 

 前途多難過ぎる。

 

「まあ落ち着けよ。二人はパーティなんだろ? 助け合わなきゃ。で、働き口だけど…ここの酒場が今人手不足なんだ。カズマは厨房、アクアはウェイトレスで雇ってくれるよ。給料はその日払いだから」

「厨房か…難しそうだなあ」

「最初の内は裏の畑から食材持って来たりとか食器洗いとかだから大丈夫さ。やってみる?」

「それくらいなら俺にもできそうだ…。やってみます、俺! おいアクア、お前は―――あれ、アクア?」

「アクアなら向こうでエプロンのサイズ合わせてるよ」

「ホントだ。あいつ無駄に行動力があるな…。じゃあ俺も行きます。えっと…エドワードさん、ありがとうございました!」

 

 女神アクアに合流すべく小走りで去るカズマを見届けると、どっと疲れが出てきた。

 ここで働いてエリスを溜めれば装備を整えるだろうし、整えればそうそう危険な目にも遭わないはず。

 クエストも高難易度と低難易度の区別はつくだろうし、何よりカズマは頭の回転が早そうだ。

 目も当てられない愚行は冒さないだろう。

 

「ふふふ」

「ん?」

 

 視線を横にずらせば、ルナさんが微笑を浮かべていた。

 美人でスタイル抜群の彼女が笑えば、非常に絵になる。

 

「なんだよ」

「いえ、やっぱり頼りになるなーって思っただけですよ」

「そうかなあ」

「そうですよ」

 

 ああ、そういえば。

 

「クエストってどうなったんだ? オレ宛の」

「他の冒険者様でもクリアできるようなクエストは掲示板に移しましたよ。残ったのがこちらです」

「それでもまだ十枚近くあるのか…」

 

 えーっと…前の一撃熊ファミリー討伐に、建物の修理、ジャイアントトードの調査…ブラックファング討伐…っと。

 

「あっ、エドワードさん。例の共同墓地の話なんですけど…」

「んー…? オレが出した依頼書?」

「はい。多くのプリーストさんが浄化や供養をしてくださって…見ましたか? 綺麗な花がたくさん植えられてるんですよ」

「へぇー…それは知らなかった」

 

 つい四日ほど前だったか。

 クエストの帰り道で、アクセルから少し離れた小高い丘にある共同墓地を見つけたのは。

 身寄りのない人、お金のない人たちがまとめて埋められる墓地は荒れ果て、閑散としていたのをよく覚えている。もっとも、墓地なんてみなそんなものなのかもしれないけれど。

 雑草が生い茂り、人が立ち入った形跡もない。

 こんなんじゃあ成仏もできないだろうと、オレはとある依頼書を出した。

 

「”共同墓地供養者募集。プリーストによる浄化も歓迎。十万エリス”…破格すぎますよ?」

「金ならたくさんあるしヘーキヘーキ…。そっか、華やかになったか」

「はい。ぜひ今度見に行ってみてくださいね」

 

 もちろん。

 オレはルナさんにそう返して建物修理依頼の用紙を片手にギルドの出口を目指した。

 

 

 

 3

 

 

 

 翌日の昼頃。

 ギルドの仲間募集掲示板前にて、オレは唸っていた。

 掲示板の中心に貼られたオレの募集用紙。その周りには見事な空白ができていて、他の冒険者たちがオレと組もうとするのを避けているのは明白だった。

 こんなものを貼り続けていてもしょうがない。オレは”笑顔が絶えないパーティです”と殴り書きした用紙を剥し、丸めて近くのゴミ箱へと放り投げた。

 そっちがこなければオレから行くまでよ、ゲハハハハ!

 なんてことは言わない。

 独りぼっちは寂しいが高難易度クエストに顔を歪ませるのを見るのは辛いのだ。

 

「すいませーん、カエルのから揚げ定食一つくださーい」

「はーい、ただいまお持ちしまーす」

 

 ウェイトレスさんに注文し、ギルドの中を何気なしに見つめる。

 忙しく動く女神アクアに、厨房で食器を洗うカズマ。そして一人で影を落として飯を食うゆんゆん。

 

「…ゆんゆん?」

「は、はい! あ、先日の…」

 

 やはり紅魔族のゆんゆんだった。

 丁度オレの座る席の真正面のテーブルに一人で座ってフォークを持ち、サラダを突っついている。

 

「どうしたんだ、一人で。クエストに行かないのか?」

「あ、いえ、その…」

 

 チラリ、とゆんゆんは仲間募集の掲示板を見た。

 なるほど、オレと同じ口か。

 しかし、おかしなこともあるもんだ。

 紅魔族なら職業は恐らくウィザードかアークウィザード。どっちにしても紅魔族なのだから、パーティに引っ張りだこだと思うんだけど…どうやら違うらしい。

 興味本位でオレはゆんゆんの張った募集用紙を見てみた。

 

【パーティメンバー募集しています。優しい人、つまらない話でも聞いてくれる人、名前が変わっていても笑わない人、クエストがない日でも一緒にいてくれる人。前衛職を求めています。できれば歳が近い方。当方、最近十三歳になったばかりのアークウィザードで―――】

 

 色いろと重かった。

 もうちょっと気軽に呼びかけた方が人は集まると思う。集まらなかったオレのアドバイスなんて信用できないが。

 それにしても気になるのは片割れの…。

 

「めぐみん、だっけ? 彼女は?」

「後衛職二人じゃバランスが悪いと言って他のパーティの方々と一緒に栗ネズミを狩りに行っちゃいました…」

「…そうか」

 

 それしか言えなかった。

 

「カエルのから揚げ定食お持ちしましたー」

 

 ナイスタイミングだウェイトレスさん。

 オレはゆんゆんの目の前の席に座り、カエルのから揚げに噛みつく。この歯ごたえがたまらん。

 

「あの、エドワードさんはソロで活躍している冒険者だと聞いたんですけど…」

「そーだよ」

「あの、その、ですね…」

 

 どうするべきかなあ、と野菜を口に放り込みつつ思案する。

 引っ込み思案っぽい彼女と一時的にパーティを組み、自信をつけさせるのも一考。

 あるいは別のパーティを紹介してあげるのも良い…が、彼女はアクセルに来たばかり。馴染みのない街で、馴染みのないパーティでやって行くのはゆんゆんにとっては難しい話かもしれない。

 

「パーティ、組もうか」

「…い、良いんですか?」

「むしろオレでいいのかって感じだけど」

「いえ、そんな! …よ、よろしくお願いしま―――」

「待てえええいっ!!」

「ひぅっ!?」

「…誰だあんたら」

 

 大声と共に現れた三人の冒険者が腕を組み、仁王立ちしていた。

 そして見覚えのある三人でもある。

 そう、オレがあまりのパーティの組めなさに冒険者募集の掲示板を利用する羽目になる…その直前に組んだことがある三人だ。

 

「少女よ、そんな甘い誘いにホイホイと乗ってはいけない!」

「その男エドワードはレベル一の時から高難易度クエストを受ける修羅道を進む男!」

「あなたは見たところ駆け出しの冒険者! そんなあなたがこの男とパーティを組んでしまったら…ああっ」

「「「というわけでパーティ組みましょう」」」

「バカにしてんのか」

 

 喧嘩なら買うぞこの野郎。

 カエルの足をつまみながらガンくれる。

 というか戦士に盗賊、プリースト。どう見たって後衛職が欲しいだけじゃねえか。

 

「え、エドワード恐怖怪談その一!」

 

 えっ、なにそれ。

 

「レベル一桁で一撃熊と一人で戦い、その最中に高笑いをしていた!」

「「こわーい!」」

「バカにしてんのか」

 

 そしてその高笑いはやけくその高笑いだ。戦いが楽しかったわけじゃないぞ。

 見ろ、ゆんゆんがちょっと引いてるじゃねーかよ。

 

「エドワード恐怖怪談そのニ! なんか土から手とか壁とか生やす!」

「こわーぶへぇっ!?」

「じ、ジャーーック!!」

「鮮度切れだバカ野郎」

 

 地面から生えた石の拳。そのアッパーカットを食らった戦士(ジャック)は美しいエビぞりフォームで空を舞い、近くのテーブルに落ちた。

 ポキポキと左手の指を鳴らし、オレは盗賊の男へと近づく。

 

「ま、待ってくれエドワード! これは…これはそう、冗談、冗談なんだ! そこの彼女が緊張していたようだから解してあげようと思って…!」

「そ、そうなんですか?」

「え、ええもちろん! もちのろんよ! やだわ、エドワード…。あは、あはは…」

「そうそう、昔組んで高難易度クエスト連れていかれたことなんてこれっぽっちも、ミジンコ程も恨んでませんとも!」

「復讐してあわよくば優秀な後衛職をゲットなんて考えてないわ!」

 

 考えてんじゃねーか。

 …でもまあ、確かにゆんゆんの緊張はある程度解消されたみたいだし、結果オーライなのかもしれない。

 なんの説明もなしに高難易度クエストへ連れて行ってしまったことはオレに非があるし。

 

「お相子、か」

 

 オレは合わせた両手を離し、再び席に着いた。

 

「高難易度クエストの件は悪かったと思ってるよ。だから、これでお相子だ。いいな?」

「エドワード…。確かにあのクエストはキツかったし、死ぬかと思ったけどさ…なんか、”冒険してる”って感じが俺はすごい好きだったぜ」

「私もよ。まったく、お陰で普通のクエストがつまらなく感じ始めてるのよ?」

「ハハハ…。―――で、さっきのエドワード恐怖怪談についてなんだけど」

「「逃げろっ!!」」

 

 逃がすわけないだろうが。ゲハハハ!

 オレのパーティ募集に誰も来ない原因を見つけたぜぇぇぇ…っ!

 オレは感情のままに両手を合わせた…!

 

 

 

 

 4

 

 

 

「さて。今日のクエストはジャイアントトードの状況確認だ。具体的には大まかな個体数と大きさを調べる」

「そういえば、そろそろ繁殖の時期ですね。でも調査はしても討伐はしないんですか?」

 

 アクセルの街の外に出て、平原を歩きつつオレは後ろのゆんゆんに返事を返す。

 

「ああ。目的はあくまでも調査。討伐は別の初心者冒険者たちにやってもらう。じゃないといつまで経っても冒険者が育たないからね」

「…私も一応初心者冒険者なんですけど…」

 

 そうだった。

 まあ五匹程度なら狩っても問題はないはず。

 討伐クエストじゃないからエリスを稼ぐには非効率だけど。

 

「じゃあレベル上げと調査をやろうか。あ、あと注意点だけど…クエストは調査だから。ジャイアントトードを討伐しても買い取ってもらうだけ、討伐報酬は出ないからなー」

「はい。が、頑張ります…!」

「よーし、じゃあいっちょカエル共を叩き起こすか」

 

 オレは地面を錬金し、深い穴を錬成する。

 底が暗くて見えないその穴に、冒険者三人組から奪った魔道道具―――割れると爆発するらしい―――を落とす。

 手を離した瞬間にもう一度錬金。穴を少し塞いでオレはその場から離れた。

 瞬間、地面が揺らぐ。

 爆発による揺れが収まると、今度は微振動が足から伝わってきた。

 成功だ。確か二十万エリスとか言ってたっけ、あの魔道道具。カエル共には高い目覚まし時計だな。

 

「じゃあオレは丘から情報収集してるから。ある程度狩ってみるといいよ」

「わかりました。…ふぅ。―――よし」

 

 短刀を腰から引き抜いたゆんゆんを横目に、オレは足場を錬成。視点がグンと高くなり、あっという間にアクセルの外壁と同じ高さまで上昇した。

 そこから辺りを見渡せば、地中を揺らした爆発と爆音でジャイアントトードが地中から出てくる姿が見える。

 

「ジャイアントトードはデカいからなー! ダガーで接近戦は飲み込まれるだけだぞー!」

 

 その名の通りジャイアントトードは巨大だ。高さは二メートル以上もあり、皮は弾力性が高く、打撃はほぼ無力化されてしまう。リーチの短い短刀での接近戦は無謀極まりない。

 すると、ゆんゆんは短刀を振りかぶり、近くのジャイアントトードに向けて投擲した。

 投げられた短刀はジャイアントトードの腹に突き刺さったが、巨体故、致命傷にはならない。

 ゆんゆんはすかさず手を突き出し。

 

「『ライトニング』ッ!!」

 

 魔法が放たれた。

 ゆんゆんの手から生み出され、閃光と成った雷は突き刺さった短刀目がけて飛び、命中。

 ジャイアントトードは口から煙を吐き、倒れる。

 

「―――お見事」

 

 まさかそんな使い方をするとは。脱帽だ。

 採点を乞う生徒のような表情で見上げるゆんゆんに、オレは笑顔と拍手を送る。

 あの子超優秀だ。

 っと、オレもオレでさっさと調査を進めなけりゃ…。

 手元の用紙に大まかな個体数、大きさを書き込みつつ、オレはゆんゆんを見守った。

 

 

 

 

 

 

「―――見事も見事、大見事だ」

「い、いえ、そんな…。でも私、ちょっと安心しました。エドワードさんの噂はよく耳にしたので…」

「…どんな噂か興味あるな」

 

 できれば聞きたくないけど、自身の欠点を見つめ直すことで仲間が出来やすくなるかもしれない。

 オレは意を決し、ゆんゆんの発言に耳を傾ける。

 

「ソロでマゾで頼めばなんでもやってくれるチョロい冒険者、だって―――」

「誰から聞いたか教えてくれ、ゆんゆん」

「えっ、あの、かか、顔が…ちかいんです、けど…」

「頼むよ」

 

 共同墓地に人数分の墓を用意しなきゃいけないからな。正確に聞き出さなければ…。

 

「ゆんゆんになにをしているのです、変態」

「その声は―――めぐみん、ってどうした」

 

 声の主に振り返ると、冒険者二人に肩を貸されて気怠そうなめぐみんの姿がそこにあった。

 

「ふっ…森に巣くうモンスターに我が爆裂魔法をお見舞いしてやったのですよ」

「つまり魔力切れで動けないってこと? もー…めぐみんなにやってるのよ! パーティの人に迷惑をかけて!」

「魔力切れで今超気怠いのであまり揺らさないでください、ゆんゆん…。私の胃袋から爆裂魔法が出ちゃいます」

 

 そんなやり取りを聞いた男の冒険者がオレをチラリと見た。

 品定めをするような目つきが一変し。

 

「あ、もしかしてエドワード…さん、ですか?」

「ああ、チョロいエドワードさんだよ」

「…えっと、この子のことをお願いしても?」

「? パーティを組んだんじゃないのか?」

「いえ、その…めぐみんと私たちじゃレベルの差が激しすぎて、申し訳ないなーって思ったんです」

 

 あっ…。

 オレは察し、無言のままめぐみんを脇に抱えた。

 

「あっ、おいなにをする! 私は動物じゃないぞ! というか痛い、痛いですあなたの右腕! あ、マズいです。私の胃袋から爆裂魔法が―――」

「こんな街中で吐かないでよ!? 飲み込んで!」

「無茶言わないでください…。黒より黒く闇より暗き…うぇっぷ」

「なに詠唱してるのよー!」

「あーもう、背負うからじっとしてろ!」

 

 めぐみんを脇から背中に移し終わり、改めてめぐみんを連れ帰ってた冒険者に目を向けると、二人とも煙のように消えていた。

 そりゃそうだよな。

 

「おや、ライズとライナの姿が見えませんね…。せめて赤字の分だけでも支払いたかったのですが」

「あ、赤字? ねぇめぐみん。赤字ってなに?」

「いわゆる弁償金というやつです」

「なんでクエストに行ったのに弁償金が発生してるのよ…」

 

 呆れ顔のゆんゆんに同情しつつも、ギルドへと歩を進める。

 二人とも紅魔族、恐らく年齢も一緒。

 幼なじみ兼ライバルのような関係なのだろうか。

 呆れつつも嬉しそうな表情を浮かべているゆんゆんを見ながら、オレはそんなことを考えた。

 めぐみんはどんな顔をしているのだろうか。背中に背負っているせいで表情は窺えないが、先ほどのような不敵な笑みを浮かべているのだろうか。

 想像すると、オレにも笑顔が―――。

 

「二人ともクビだ、クビ!」

 

 ―――浮かばなかった。

 




冒険者三人組
ジャック(戦士) ホークス(盗賊) アンナ(プリースト)
エドワード最初で最後の被害者たち。アルケミストの珍しさに惹かれてホイホイ組んだ結果
高難易度クエストに連れていかれて死にかけた。
なお半殺しにされて高価アイテムを奪われたもよう。

ジャスティス号
馬。♂。
弱者に強く、強者に弱い。エドワードへの頭突きは痛みが伴うので最近は金具で攻撃している。


エドワードそのニ
チョロくて頼めばなんでもやってくれるらしい。
ん? 今…


突貫工事なので推敲とかやれてないしおかしなところがあるかもしれないです。
センセンシャル!

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