この馬鹿みたいな転生に悪態を   作:変態転生土方

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初投稿です。
ガバガーバだろうけどゆるして


第一章 この馬鹿みたいな転生に悪態を
この転生者にコスプレを


「残念だが君の冒険は終わってしまった」

「すいません警察ですか」

「ちょっと待って」

 

 がっしりとオレの携帯を持つ手を掴んだ三十代半ばの男が懇願する。

 流石にノータイム通報はやり過ぎたか。

 オレはそう反省し、携帯をポケットにしまい込む。

 

「で? あんた誰。ここ、どこだよ」

 

 周りを見回すと、真っ暗な世界がどこまでも続いている。

 オレとおっさんを照らす光が上から注がれている以外、何もない場所にオレは立っていた。

 

「んんっ。ふぅ…ここは死後の世界。そして私は君たちの言う神様だ。ああ待って! 携帯出さないで! 逆に考えるんだ、通報は話を聞いてからでもいいじゃないか、と」

「つまらなかったら神明裁判にかけてやるからな」

「わあ、ここまで不遜な人間初めて見た」

 

 いいから話せよ。

 

「では改めて。初めましてエドワード・ゴンザレス。またの名をゴンザレス春樹よ!」

「やめろォ!」

「プププ…金髪のせいで不良認定なんて大変だったなぁ」

「笑ってんじゃねえよ」

「あっ、やめて、殴らないで」

 

 話が進んでないだろうが。

 

「…我が名はバルト。本来は死者を導く神ではないんだが…緊急につき君の魂をとある世界に導こうと思い現界した」

「―――とある世界?」

 

 オレがそう問うと、バルト(笑)は語り始めた。

 ここではない世界、つまり異世界に魔王が存在するらしい。

 その世界で魔王軍は猛威を振るい、侵攻を繰り返していて、かなり危ない状況である。

 魔法あり、異種族あり、モンスターありといわゆる王道ファンタジーのような世界、とのことだった。

 

「なんで危ない状況なんだ?」

「転生する魂が少なすぎるのだよ」

「つまり…転生拒否?」

「その通り。その世界で死んだ者たちの死因というのは殆どが魔王軍によるものだ。その死に方がかなり悲惨でなぁ…殺された者たちはあんな死に方はもう嫌だと転生を拒否しているのだ」

 

 バルトは続ける。

 

「ならば別の世界で若くして死んだ未練ある魂たちをその世界に送り込んではどうか、と唱えた神がいてな? その案は見事に可決されたんだが…今になって問題が起こったのだ」

 

 問題?とオレは首を傾げた。

 

「それはあんたが最初に言った”自分は死者を導く神ではない”ってのと関係があるのか?」

「左様。先ほど言った送られる未練ある魂たちには特典が与えられるのだが…簡単に言えば”怪力”や”なんでも斬れる聖剣””超能力”等だ、が…とある魂があろうことか”女神”を所望してな」

「女神ってオイオイ、そんなのアリなのか?」

「規定には違反していない。異世界にもっていける”もの”だからな」

 

 あんたらの規定ガバガバじゃねーか。

 呆れつつ、オレは問う。

 

「オレはその女神とやらを助ける役割で異世界に送り込まれるのか?」

「正確には違う。ゴンザレス春樹よ。おまぶほぉっ!?」

「次日本名で呼んだらオレ、ゴッドスレイヤーになっちゃうよ…?」

「す、すいません…ごほん、エドワード・ゴンザレスさんには女神アクアが死なないようサポートに回っていただきたく…」

 

 どうせそんなことだろうと思っていた。

 まあオレも神と謁見している身。どうせ死んでいるのだろうし、まだ十八だったんだ、このまま異世界に行くのも悪くない。

 

「特典ももらえるんだろ?」

「ええまあ」

 

 えらく腰が低くなったバルトが指を鳴らすと、オレとバルトの間に光が注がれ、床に散らばる洋紙がライトアップされた。

 近づき適当なものを拾い上げてみると特典の名前と簡潔な説明が記されている。

 

「えーっと…”聖剣アロンダイト”ビームが撃てる?王道だなぁ。”魔剣ムラマサ”斬れぬモノはない。ありきたりだ…」

 

 眺める事数分、遠目からでも内容が多く書かれている洋紙を見つけた。

 拾い上げてみると、特典名は…”錬金術”?

 

「へー…良さそうだな、錬金術」

 

 なんでも、物質を理解し、分解し、再構築することで地面から家を造ったり、鉄棒を剣に作り替えたりとできるらしい。丁寧に図解付きだからよくわかる。

 

「そうだろうそうだろう」

 

 ふと目を上げると、目の前にバルトがいた。

 音もなく近寄るな。思わず殴っちまったろうが。

 

「…フッ。数多の魂から選ばれなかった不遇の特典、”錬金術”の素晴らしさを理解するとは流石は私が選んだ魂だ…さぁ、冒険の時だ!」

「いや、これにするとは言ってないけど」

 

 足元で光を発していた魔法陣が消え、バルトは膝を着いた。

 

「なんでだあああ! いいじゃないか錬金術! エドワードとかいう名前のくせになんで錬金術を選ばないんだ! 服も付けるから! あれだったら右手と左足を機械鎧にするから! ○の錬金術師に、なろう!」

「やめろォ!」

 

 だいたい○の錬金術師ってなんだよ。オートメイルってなんだよ。

 

「そ、そうか…君の世界じゃなかったっけか…○の錬金術師」

 

 落ち着いたのか離れるバルドを横目に、乱れた衣服を正す。

 でもまあ改めて考えてみると錬金術は良いのかもしれない。戦闘に特化したわけじゃないけれど、錬成で剣や盾を作ることだってできるだろうし、何より向こうに自分の家などないのだから、造れるというアドバンテージは大きい。

 考えれば考えるほどいいじゃないか、錬金術。

 なんで選ばれないんだ?

 

「地味だから、らしい」

 

 身もふたもねえな。

 確かに、オールマイティな能力より、何かに特化した力の方が強いが。

 バランスよく強いということはバランスよく弱いということなのだ。

 

「じゃあ錬金術をくれ」

「よっしゃあああ! おまけで服も付けてやろう!」

 

 バルトが再び指を鳴らすと眩い光が俺を包む。

 思わず目を瞑り、光が収まる頃に目を開けてみると、ワイシャツとジーパンは何処へやら、黒の下地を白いラインが縁取るジャケットに、黒のズボン。赤いロングコートを身に纏っていた。

 

「おお…すげえな」

「似合うと思っていたがまさかここまでとは…写真撮っていい?」

 

 やめろ。近づくな。はあはあするな。目を見開くな。

 近づくバルトを右手でけん制しつつあることに気づく。

 人肌と言うのは肌色で、人種によって様々だ。

 例えばアフリカ系なら肌は黒っぽいし、アジア系なら黄色っぽい。

 オレはアメリカ人と日本人のハーフで父親の血が濃く出て白っぽい肌をしている。

 が、突き出した俺の右手は灰色をしていた。

 

「あれ?」

 

 服を捲ってみると、そこには機械の腕が。

 あっるぇぇ…?

 

「コスプレは完璧にやる主義なんだ」

「オレの右手が真っ赤に燃える」

「いたいいたいたたたたたたた!!」

 

 すげえぜ機械の腕! 想像以上のパワーだぜ!

 

「なんて言うわけねえだろうがアァン…?」

「すいませんすいません! 出来心だったんです!」

 

 バルトを離し、鉄の指で頬をなじる。

 

「さっさと元に戻せよ」

「だが断る! 転送!」

「あっ、てめっ!」

 

 元の玉座のような場所に瞬間移動したバルドが指を鳴らす。

 すると足元から先ほど見た青白い魔法陣が光を放ち、見えない壁でオレを包んだ。

 

「ちょっと待て! この腕壊れたらどうすんだよ!」

「錬金術でなんとかなる。それと左足も機械化済みだ」

「マジかよ」

 

 捲ってみる。マジだった。

 

「ふざけんな! これ絶対錆びるだろ!」

「大丈夫大丈夫。錆びない加工してあるから」

「錆びない加工ってなんだよ。安直すぎんだろ」

 

 そんなやり取りをしてる内にオレの身体がふわりと浮かび上がる。

 

「オイオイオイ! オレ女神アクアなんて全然知らないぞ! 知らない人間…もとい女神をどう探せってんだ!?」

「安心したまえ、君が送られるのはアクアが降り立つ前の時間軸だ。それとアクアが現界した際にニュータイプ的な感じで分かるようにしておく」

「容姿とか特徴を言えよ!」

 

 ふわふわと上空へ運ばれながら叫ぶ。

 バルトはウーンと手を顎に当てて考えると、

 

「髪は水色で…え、お前なんでそのスカートパンツ見えないの? てかパンツはいてんの? みたいな服装で…とにかくバカっぽいやつだー!」

「全然わかんねーよおおおお!!」

「魔王討伐したら報酬とか出るから頑張れよー」

「それ最初に言えよおおおお!!」

 

 オレはそう叫びながら光に飲まれた。

 

 

 

 

 

 第一話 この転生者にコスプレを

 

 

 

 

 

 気が付けば、石造りの街中に一人佇んでいた。

 目の前を馬が引っ張る台車が通り過ぎていく。ヒヒーン。

 わあ、馬車だあ。

 

「じゃねーよ」

 

 どうすんだマジで。

 いろいろと訊きたいことがあったというのに殆ど訊けずに転生させられてしまった。

 言語は? 金は? 魔王ってどこよ。この街の独特のルールとか絶対あるだろ。

 考えれば考えるほど思考の海に囚われていたオレは、ぶらりとさがる機械の腕に現実へと引き戻された。

 落ち着け、とにかく所持品チェックをしなければ。

 赤のコートにポケットはついていないし、ジャケットも同様。仕方なくオレはズボンのポケットに手を突っ込んだ。

 白の手袋、そして何の特徴もない銀時計が一つ。閉じられた銀時計を開けてみると、蓋の裏に転生する前の世界…つまりオレの母親の写真が一枚、貼られていた。

 そして写真の下、銀時計の蓋には”do not forget(忘れるな)”という文字が。

 なんだあの神様、結構いいやつじゃねえか。人に完コスさせる変人…もとい変神だが。

 とにかく機械の手は目立つ。白の手袋をはめ、他にはないかと身体をまさぐっていると、黒のジャケットには裏ポケットがあることに気づいた。そして何かが入っていることにも。

 

「…なんだこれ」

 

 取り出してみれば、それは革張りの手帳だった。

 題名は無し、パラリと捲ってみれば

 

「約水32ℓ、炭素20㎏、アンモニア4ℓ、石灰1.5㎏…なんじゃこりゃ」

 

 あの神の贈り物…なのだから錬金術に関するものなんだろけれど、オレにはさっぱりわからない。

 右のページに描かれている人間の図からこれは…人間を錬成するために必要な物なのか?

 そう思いページを捲ろうとした時、人体図の足元に殴り書きを見た。

 ”人は神ではない”

 おっそうだな。

 

「っと、こんなことしてる場合じゃねえ」

 

 太陽の位置からして今は昼。このままボーっとしていたらあっという間に夜になってしまう。

 錬金術があるとはいえ、無一文なのは心境的に厳しいし、とりあえす―――。

 

「”あれ”を探してみるか」

 

 王道ファンタジーの世界ならばきっとあるはずだ。

 そう思い立ち、オレはロングコートを翻して石造りの街々を探索し始めた。

 

 

 

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「本当にあった冒険者ギルド…」

 

 漫画肉を担いだおばさんに言われるがまま進んでみれば、かなり大きな建物がオレの目の前に現れていた。

 漂う食べ物とアルコールの匂いに、建物の外にまで聞こえてくる男たちの笑い声。

 ありきたりと言えばそうだが、今はそれが分かりやすくて嬉しかった。

 冒険者たちに仕事を斡旋、もしくは支援する組織、冒険者ギルド。

 ここならば一攫千金とは言わないが、今夜の宿代くらいならば稼げるはずだ。

 そんなことを考えながら扉を開けると、アルコールのムワッとした匂いが鼻を擽った。

 

「いらっしゃいませー! お食事なら空いてる席へ、お仕事案内なら奥のカウンターへどうぞ!」

 

 慣れた口調のウェイトレスがそう出迎え、去っていく。

 酒場が併設されているらしいこのギルドにはあちこちに鎧を着こんだ冒険者の姿が見える。

 やっぱり見慣れない奴だと一目でわかるらしい。視線が痛い。格好もイタいからしょうがない。

 

「よお兄ちゃん。この辺りじゃ見ねえ顔だな。どこから来なすった」

 

 …早速絡まれてしまった。

 あれか、釣り目だから悪いのか。金髪だからか。好きでこうなったわけじゃないんだけど。

 自己嫌悪そこそこに、オレはモヒカンにショルダーアーマー、ズボンというどこかの暴力が支配する核戦争後の大地に生きていそうな格好をした冒険者へと向き直った。

 

「いい眼してんじゃねえか…相当な手練れだな。アクセルに来るような面じゃねえ…何しにここへ来た?」

 

 やめろォ! 勝手に人を手練れに祭り上げるな! 周りの奴らも頷いてんじゃねえ!

 

「…辺鄙な田舎から来たんだ。手っ取り早く金を稼ぎたくてね。冒険者になったら楽に稼げるって聞いたんだけど」

「…ってことは兄ちゃんよ、お前まだ冒険者じゃねえってことか!?」

「ああ」

 

 ごめんなさい。こいつすげーつよそう! みたいなこと言わせた後に冒険者じゃないと告白しちゃってごめんなさい。

 ああ、これでモヒカン君はいたたまれない気持ちを味わうんだろうなー。

 わかる、わかるよその気持ち。などと思いながら泳がせていた視線を戻すと―――。

 モヒカン君は満面の笑みを浮かべていた。

 

「クハハハっ!! こいつは先が楽しみだぜ! 冒険者になるには登録料が必要だ。どうせ旅費で金なんてねえんだろ? 持っていきな!」

 

 金貨が四枚、オレの手に握らされていた。

 見た目とは裏腹にすごくいい人だった。

 

「あ、ありがとう」

「なあに、良いってことよ。期待の冒険者にかんぱ―――うぉっ!」

 

 モヒカン君が手に持った木製ジョッキを勢いよく掲げようとすると、ずいぶん長く使われていたのか持ち手の部分と本体が分離して壊れてしまった。

 

「あー、またか。おーい姉ちゃん! また壊れちまったよ!」

 

 モヒカン君の声が酒場に響くと、近くにいたウェイトレスさんが転がったジョッキを拾い上げる。

 まじまじと取っ手と本体を見比べるとため息一つ

 

「これも古すぎてもうダメですね…。少々お待ちください、新しいのをお持ちします」

 

 そう言って壊れたジョッキを回収しようとしたところで、オレに閃きが走った。

 錬金術の練習に丁度いいんじゃね?

 

「あの」

「はい? ご注文ですか?」

「いや、そのジョッキって()げちゃうの?」

「ええまあ…」

「ちょっと貸してもらっても?」

 

 怪訝な顔をするウェイトレスさんから壊れたジョッキを受け取り、近くのテーブルに置く。

 

「おいおい兄ちゃん。酒は全部こぼれてるぜ? 酒が飲みてえなら―――」

 

 神の図解だとイメージが大事だったっけな。あとは錬成する物体、錬金元の物体が何でできているかをちゃんと”理解”している必要もあるんだっけ。あとは属性とかも考慮しないといけないとかなんとか…。

 だけれど今回は鉄製の取っ手を木製のジョッキにくっ付けるだけだ。正確には鉄と木を錬金して木製の鉄取っ手ジョッキを錬成するわけだが。

 イメージイメージ…。

 パン、と両手を合わせてジョッキに触れる。

 電気が発生したような音と共に閃光が一瞬発し、光が収まればそこには元のジョッキが出来上がっていた。

 我ながらいい出来だ。

 日々を不良たちに絡まれた時のイメトレに費やしただけあって上場の出来栄えだ。イメージするだけなら一流だぜ、オレは。

 

「…すごい」

「…ク、クハハハっ!! やっぱり俺の眼に狂いはなかった! なんだこりゃ、兄ちゃんなにもんだ!?」

「すっげぇ…あのジョッキ完璧に壊れてたよな…?」

「うん…でもこれ新品同然だわ…」

 

 やばい、気づかない内に人だかりが出来てしまっている。

 このままでは機械の腕がバレてしまうこと必至。オレは野次馬たちがジョッキに夢中になっている隙をつき、人込みをかき分け、仕事案内のカウンターへと歩を進めた。

 さっきは複数人見えた案内カウンターもジョッキの方へと人が流れたのかスッカラカンだった。

 

「ようこそ、今日はどうされましたか?」

 

 ウェーブが掛かったブロンド髪と巨乳を揺らす受付嬢は紛うことなき美人さんだった。

 すごいぜ異世界! 元の世界だとオレと目を合わせるやつなんていなかったのに! この人目を合わせてくれるよ!

 自分で言ってて悲しくなってきた…。

 

「冒険者になりにきたんですけど…。田舎者だからよくわからなくて」

「そうですか。登録手数料がお一人様千エリス掛かりますが大丈夫ですか?」

 

 エリス。この世界のお金の単位らしい。

 オレはモヒカン君から貰った金貨四枚を受付嬢の前に置いてみる。すると、その中から一枚、持っていかれた。

 どうやら、金貨一枚で千エリスらしい。銀貨や銅貨もあるはずだからそれぞれ百エリス、十エリス…なのか?

 

「では、冒険者になりたいと仰るのですから、基本的なことはご存知と思われますが…改めて簡単な説明を。…まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター…人に害を為すモノの討伐を請け負う方々のことです。とはいえ、基本的には何でも屋のようなものだとお考えください。冒険者とは、それらの仕事を生業とする人たちの総称。そして、冒険者には各職業というものがございます」

 

 「そしてこちらが登録カードになります」、と受付嬢が取り出したのは免許証ほどの大きさの一枚のカードだった。たぶん、身分証みたいなものだろう。

 その後の受付嬢の話を要約すると、カードを持った状態でモンスターやその他生物に止めを刺すことで、その存在の魂の一部を吸収できるのだそうだ。それはいわゆる”経験値”と呼ばれるもので、集めれば集めるほど溜まり、やがてレベルが上がる。

 レベルとは冒険者の強さの目安であり、レベルアップすればスキルを得るためのポイント”スキルポイント”が得られるため、頑張ってレベルを上げろ、という話だった。

 

「では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴の記入をお願いします」

 

 差し出された書類に言われるがままオレは記入を始めた。

 えーっと、身長は百七十二、体重は六十二、十八歳、金髪、黄色目…と。

 

「はい、結構です。ではこちらのカードに触れてください。それであなたのステータスが分かるので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。選んだ職業によって様々な専用スキルを習得することが出来るようになりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでください」

 

 職業か…。

 特典で剣や武器の類を貰った連中ならば戦士だとか前衛系に絞られて選びやすいんだろうけど、錬金術を選んだオレはどうなるんだろうか。

 錬金術を応用すれば前衛も後衛もいける気がするけど。

 そう思いつつ、オレはカードに触れた。

 

「…はい、ありがとうございます。えーっと…エドワード・ゴンザレスさんですね…すごいです! 筋力と生命力、器用度、敏捷性…それに知力がとても高いです! 幸運がかなり低いですが…その他のステータスは平均値を超えていますよ! これならいきなり上級職とまではいきませんが、レベル十台で上級職への転職が…ってあれ? 職業の欄がもう埋まってますね…”錬金術師(アルケミスト)”? 見たことも聞いたこともない職業です…!」

 

 なるほど、バルトのやつは何が何でもオレに○の錬金術師を再現させたいらしい。根回ししすぎだろ。

 見たこともない職業ということから、恐らくオレしか就けない職業なのだろうが…。

 

「オレみたいなやつならきっとこれからわんさか来ると思うけど」

 

 他の転生者が錬金術を選べばの話だけど…。

 というかオレが思うに錬金術の特典はバルトが特別に用意したものなんじゃないか?

 選ぶとは言ってないと言った時の脱力振りが半端じゃなかったし。

 

「そ、そうなんですか…? とにもかくにも、ようこそ冒険者ギルドへ! スタッフ一同、エドワード様のご活躍を期待していますね」

 

 こうして、オレの異世界生活が始まった。

 

 

 

 

 2

 

 

 

 

 訂正。

 終わりかけている。

 

「GYAAAAAAAAAAAA!!!」

「やべえよやべえよ…朝飯食ってなかったから…」

 

 オレの前で吠えるライオンの身体にドラゴンのような翼、サソリに似た尻尾。

 マンティコア一体の討伐依頼を受けたばかりに、オレは今、死にそうになっていた。

 どう考えてもレベル一が討伐するモンスターではないが、ことの発端はモヒカン君の一言だった。

 

『おいおい、ジャイアントトードだって? 兄ちゃんならマンティコアだってイチコロさ』

 

 イチコロされそうなんですけど。

 マンティコア一体討伐で三十万エリス、対するジャイアントトードを三日以内に五匹討伐で約十一万エリス。

 クソ…! どう考えても後者の方が位置的にも安全性にも長けてるじゃねえか…!

 あの場の空気が悪い! お前ならやれるぜ! みたいな空気が悪い! ジャイアントトード? ウッソだろお前! みたいな空気が悪い!

 マンティコア。

 尾には猛毒、鋭利な牙、人間を好んで食するモンスターだ。ちなみに本来は複数人の高レベルパーティで討伐するらしい。

 

「っと! あぶねっ!」

 

 突き出される尾を土から生やした壁で防ぎ、横へと走り抜ける。

 場所は森林、樹が乱立していて、障害物、錬金には困らない。

 困るのは鉄製のものがないことで、さっきから土を錬金してストーンスパイクで攻撃を狙っているが、相手が素早過ぎて掠りもしない。

 決め手に欠けている。

 転生前の世界で不良たちから逃げ続けていたから足腰、体力はまだ持つけれど、モンスター相手じゃそうそう長くはない。

 何より初の実戦だ。緊張感も半端じゃない。

 鉄…鉄?

 右手に目を落とす。

 あるじゃねーか、ここに!

 パン、と勢いよく両手を合わせ、左手で機械腕の表面をなぞる。

 光が走り、そこにはインドの武器であるパタのような剣が生えていた。

 

「…ふぅ。行くぞ…!」

 

 覚悟を決めてマンティコアへダッシュする。

 マンティコアの尾が揺れ、オレを突き刺すべく狙う。すると、尾が一瞬”消えた”。

 モンスターの攻撃は殆ど見えない。けれど、ある程度なら予測ができる。

 パン、ともう一度両手を合わせ、数メートル先に土壁を錬成。

 すると、土煙と共に土壁からマンティコアの尾が顔を出した。

 やはり早い。

 今のオレでは到底見きれない。

 再び錬成。土から手が生え、尾が土壁から離れないマンティコアを取り押さえた。

 知略の勝利、といったところか。

 マンティコアの眼前に歩を進め、オレはパタを生やした右手を振り上げた。

 

「ごめんな」

 

 

 

 3

 

 

 

「まさか本当にレベル一…しかもソロでマンティコアを討伐なさるなんて…すごいですね、エドワード様! こちら、討伐報酬の三十万エリスとなります。お確かめください」

 

 夜、冒険者ギルドにて差し出された紙幣と金貨、銀貨を裏ポケットに突っ込み、オレは最寄りの席に座って机に突っ伏した。

 ハードだ。

 ハードすぎる。

 なんとか日をまたぐ前に帰ってこれたが、疲労感が半端じゃない。

 

「…明日はジャイアントトード討伐でもしよう、そうしよう…」

 

 一先ず何か注文して、食べて、宿を探して、寝よう。

 重い右手を掲げてウェイトレスさんを呼びながら、オレはそう思った。

 

 

 

 

「近くにゴブリンの群れが!」

「近くの森でグリフォンとマンティコアが!」

「一撃熊が!」

「ジャイアント・アースウォームが!」

「「「「頼む、エドワード!」」」」

 

 しにそう

 

 

 

 4

 

 

 

「なんであいつらオレのところにくるんだろうなぁ…クエストの依頼は掲示板に貼れって思わない?」

「は、はぁ…そうですね…。みなさんエドワードさんを頼りたいんですよ。とても頼りになる、と私も思いますし」

 

 異世界生活一週間が経過した今、オレは疲労困憊していた。

 次ぐ日も次ぐ日もクエストの依頼、しかも高難易度のものばかりがオレの前に置かれていく、もしくは置いていく。

 気が付けばレベルは二十を超え、とても持ち歩けないほどお金が溜まってしまった。

 あまりのハードワーク、あまりの遠慮のなさに思わずオレは目の前に座る受付嬢、ルナさんに愚痴っていた。

 

「えっと…申し訳ないのですが…エドワードさんにクエストの依頼が…これほど」

 

 ドン、と積まれるクエスト依頼にオレは「ひぃっ」と思わずもらした。

 積まれた依頼書、その一番上の洋紙を手に取る。

 

「一撃熊が凶暴化ぁ…? 知らねえよ…」

「あのですね…エドワードさんが先日討伐された一撃熊が母熊らしく父熊と小熊が暴れまわっているようです」

「ぐっ…」

 

 これだ。

 ハードワークの原因その一、連鎖。

 オレが不用意にモンスターを倒したばっかりに餌がなくなって暴れるモンスター、移動するモンスター、この一撃熊ファミリーのように復讐するモンスターが生まれてしまったのだ。

 みんな依頼する立場だからかお前のせいだ! なんて言わないのが心情的にキツイ。

 

「エドワードさん、悪いことはいいません。そろそろパーティを組んではいかがですか? 正直、疲労が見て取れるので心が痛いです」

「…」

 

 オレは無言でパーティ募集の掲示板を指さす。

 三日前に貼った募集洋紙が見事に残っていた。

 

「あー…き、きっと素敵な人が現れますよ! 大丈夫です!」

「初心者の街で高難易度クエストを受けまくる変人と組もうとする奴なんてドがつくほどのMしかいないよ…はは、は…」

 

 ハードワークの原因そのニ、ソロ。

 作業を分担するパーティメンバーがいないから負担が尋常じゃない。

 狩る、持って帰れるものを持って帰る、報告する。この一連の作業の内報告だけでも別の人がやってくれると大助かりなのだ。

 しょうがない、とりあえずクエストを消化しなきゃ…。

 

「い、いたっ! エドワードさん! 大変、大変なんだ!」

「オレも超大変。見てこれ」

「うわぁ…そ、そんなことよりもまたゴブリンの群れが現れたんだ! アクセルの近くに!」

 

 そんなことってなんだよ、そんなことって…。

 というかアクセルの近くに出没するゴブリンなら二日前に全部潰したはずなんだけど。

 

「どうやら同族が派手にやられたのを怒ったゴブリンたちが森から出てきたみたいなんだ」

 

 ガンッ、と机に頭をぶつける。ついてねえ、ついてなさすぎる。そういや幸運の値がかなり低いんだっけ、オレ…。

 

「討伐…お願いできますか…?」

 

 ルナさんが小さく聞いてくる。

 オレは呻くように「はい」と返した。

 




エドワード・ゴンザレス
 またの名をゴンザレス春樹。金髪に釣り目で敬遠されがち。超不幸体質。

バルト
 変態糞神様。○の錬金術師好き。プライベートと仕事の顔をスイッチして使い分けるが肝心のスイッチがガバガバ。

次回があればいいな!

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