パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

99 / 128
たが、です。
久の箍が少しずつ外れています。




その世界で、僕は王と言われていた。僕は空間を操る能力を有していた。

その世界には他にも強大な能力を持つ存在がいて、中でも僕と同等の能力を持つ存在が2人いた。1人は質量や物質を操る王、もう1人は精神を操る王。

僕たちの能力に呪文も契約も不要、手を振るえば嵐が起こり、念ずれば空間が割れた。

僕は物質を操る王には強く、精神を操る王には弱かった。

物質を操る王は精神の王に強く、僕に弱い。三つ巴の戦いはきっかけはもはやおぼろで、長い間戦い続けていた。

僕たちの力は他の次元から奪う物だった。

荒れ狂うエネルギーは僕たちの世界を物理的に加熱していた。

膠着する戦況に飽きた僕は、加熱した世界を救う名目で別の次元に移動した。

僕たちは超人だったけれど、高次元には移動できない。だから下位次元に僕は移動した。

物質を操る王は世界を鎖で縛り付けて僕の行動を阻止しようとした。精神の王は僕を精神で支配して下位への逃亡を阻止しようとした。

でも、僕は下位次元、三次元世界に顕現することに成功した。

物質の王と精神の王の戦いは、物質の王の方が有利。戦いは物質の王の勝利で終わるか、にらみ合いの末に和解するか、ひょっとして群雄割拠の時代になったかもしれないけれど、僕がいなくなったのなら戦いの規模は縮小する。結果は知りようがない。

後は、熱せられた世界のエネルギーを僕が奪い続ければ良い。

どれほどの時間がかかるかは不明だけれど、あの世界での僕の戦いは終わったんだ。

 

空間を操る。それは重力と熱を操ることだ。重力を操るという事は時間を操ることでもある。時間を操れても、遅くする、進めることが出来るだけで、巻き戻すほどの力はない。

熱を操ると言うことは固体、液体、気体を自在にすることだ。

ただ、その次元においては当たり前の能力も、肉体に縛られる三次元では、意識を肉体に留めなくてはいけない。

肉体と言う狭い空間に縛られてしまっては、精神の世界の住人の僕は能力の殆どが使えなくなる。

物質化がこれほど難しいとは考えていなかった。

三次元に縛られた僕は、記憶すら失っていた。

今の僕はかつての数パーセントも力がない。でも、エネルギーを高次元から奪っているから、枯渇することは、ほぼ永遠にない。

本来の僕は、もっと色々なことが出来る。今、僕が使っている能力は、高位の力の残りかす。

『瞬間移動』はこの世界の物理法則を凌駕している。それだけに、もっと利口な使い方があるはずだ…

 

大晦日、脳を破壊した僕は、色々と箍がはずれているようだ。

それとも三次元化はまだ続いていて記憶や能力はこれから回復していくのか…

 

…ん?

僕は、今、何を考えていたんだろう…思い出せない…夢から覚めると、泡のように消えて行く記憶…

白昼夢?

 

 

師族会議を2日後に控えたその日、僕は自宅の間近に不審人物がいることに気がついた。

僕の自宅はキャビネット乗り場からコミューターに乗り換えて数分の場所にある。歩いても問題ない距離だけど、戦略級魔法師としては登下校は公共の乗り物を利用した方が警護しやすいそうだ。

自宅の周辺には多くの魔法師がいる。警護の魔法師はその人物に注意を…そもそも存在にすら気がついていない。

警護の魔法師は優秀だ。そんな彼らを欺ける人物は、限られる。また、あんなところで僕を驚かそうとして…

コミューターから降りて、周囲の警備や住人の目を確認した。唐突に立ち止まって、星空を見上げる。警護の魔法師たちの意識も空に向いた。

僕は自宅玄関の、監視カメラの死角に立つ人物の後方に『瞬間移動』した。

 

「こんにちは、九重八雲さん」

 

「うっおわっ!」

 

突然、背後から僕に声をかけられた八雲さんは弾ける様に、物凄い速度で振り向いた。

ここまで驚く八雲さんを見るのは初めてだな。隠形を解かなかったのは流石だ。

八雲さんの驚く姿は、それでも演技臭い。演技で動揺を誤魔化しているのか、声を出してしまった自分を恥じているのかな。

忍びの術の基本は、無音、無声、無臭だって時代小説に書いてあったことを思い出した。

 

「君の『能力』は心臓に悪いなぁ。発動の兆候が捉えられない」

 

八雲さんが、わざとらしく頭をつるんと撫ぜる。

サイキックの力の発動は、速度的にもサイオン的にも魔法師では捕らえられない。それは古式魔法師である八雲さんも同じだ。

僕は玄関前の照明の下に移動した。僕の姿を確認して、警護の魔法師たちの狼狽が収まっていくのが気配でわかる。それでも、魔法師たちは八雲さんに気がつけない。

ただ、玄関前で1人、所在なげにぶつぶつ呟いていては危ない人だ。

 

「ああ、彼らの意識は僕たちにはもう向けられていないよ」

 

八雲さんが僕の心配を察して何かしらの『術』を使った。

僕はちょっと不機嫌になる。八雲さんは目の前にいるけど、本気で『忍び』をやられたら、家の中にいる女性の危機にすら気がつけない。

 

「うっ、大丈夫だよ。君の大事な女性たちに危害を加えることは絶対にしないから…」

 

僕のプレッシャーは空間ごと圧迫する。それは魔法師では絶対に防げない。八雲さんの飄々とした顔に汗がにじむ。

 

「用があるなら連絡を貰えたら僕のほうからお寺に出向きましたよ」

 

「戦略級魔法師の久君にご足労いただくわけにはいかないよ」

 

どの口が言うかな…

 

「いっいやぁ、それにしても、どうやって僕に気がついたんだい?魔法師たちの意識を別に向けたのは…古式…周公瑾の『八卦掌』を真似たことまではわかったけれど…」

 

「秘密ですよ」

 

「僕の隠形は、完璧だったと思うのだけれど…」

 

「気配を消しても、無駄です」

 

「出来れば教えてくれないかな、忍びの僕にとってはこれはすごく落ち着かないんだ。以前は、そんな能力なかった…よね」

 

僕は薄く笑った。人形のように整った白い顔が玄関に照明に照らされて、濃い影を作っている。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、僕は集中力に欠けていますから」

 

教えてあげない。

 

「…意識していないと使えない、と。それは答えになっていないなぁ…でも、そうだね、自分で考えるよ」

 

僕は探知系はからっきしだから、周囲への警戒となると超人的な動体視力に頼るしかなかった。

正面を見ながら視界の全てに気を配る。これは集中力が必要だし、後方は見られない。しかも、僕が警戒しているのが全身から伝わる。

以前も、そんな時の僕の放つ圧力に友人たちは震えてしまった。

半月ほど前、光宣くんに反魔法師団体の動きに気をつけてと言われた。

それから少し考えた。僕の『空間認識』は『瞬間移動』とワンセットで使っていたけれど、『空間認識』は物質が重ならないようにする最低限度のシステムだ。

『瞬間移動』の転移先の空間を調べるのではなく、自分を中心にした空間を調べれば『空間認識』の範囲内にある構造物や人間は簡単に把握できた。

しかも、魔法力も長期の集中力も必要ない。僕の本能や本質に基づく能力だ。

こんな簡単な『能力』の使い方に、どうして気がつけなかったんだろう。『意識認識』の時も、気がついたら容易く使えることが出来たから、気がつけないことに意味があるんだろう。

でも、その人間が何者なのか、どっちに視線を向けているか、害意を持つかまではわからない。

こうやって八雲さんの背後をとるには、もう一行程必要になる。八雲さんだと気付いたのも、他にこんなことをする人物が思いつかなかったからだ。

 

「以前にも忠告したけど、君はね、有為の奥山を越えた先から顕現した、この世界の法則からは逸脱した存在だ」

 

有為の山奥…古めかしい表現だ。古式魔法師の八雲さんは修験道にも通じているから、山の向こうは神の世界だと言う考えなんだろう。

 

「そうですか?『魔法』だって世界の物理法則には微妙に逆らっていますよ」

 

僕は空惚ける。八雲さんとは真正面に立って会話すると言葉で負けてしまう。

『魔法』は、それでも世界の法則とつじつまは合わせている。それは魔法科高校で習う基本だ。

 

「でも、容姿や言動もあいまって、世界は君を過小評価している」

 

「人間は人間の世界でしか生きられませんよ」

 

「人に合わせていると?久君は自分自身を過小評価している」

 

「残念ながら僕は破壊は出来ても再生は出来ませんから」

 

「…そうだね。達也君とはそこが違うところだ。まぁ破壊だけなら多くの魔法師が出来るし、大量破壊兵器もあるね」

 

規模が違うけど…お互いの腹の中で付け足す。

 

「僕からすれば、達也くんの方が『神』に相応しい」

 

「僕からすれば、制限のない『瞬間移動』も反則だよ。達也君はシヴァ神、君は…浮気者のゼウスってところかな」

 

人聞きの悪い!

 

「シヴァにも奥さんは沢山いますよ」

 

「七草真由美さんに藤林響子さんとの同棲がばれたんだろう?いや、別に覗いたわけじゃないよ、七草真由美さんが3週間ほど前、ここを訪問したって聞いてね」

 

どこからそんな情報を仕入れて来るんだか。あの日以降、僕は2人にご奉仕する機会が増えた。もちろん、性的な意味じゃない。

もともと家事全般は僕がしていたから、奉仕と言っても生活は殆どかわらず、2人の僕への要求がちょっと増えたくらいだ。どんな要求かは…今は関係がない。

 

「真冬に玄関先で立ち話なんて風邪を引いてしまいますよ」

 

僕は話題を露骨にかえた。実際、2月の武蔵野台地は寒さが厳しいんだ。

 

「この程度、僕はびくともしないよ。普段から鍛えているから」

 

わかって言っているよ、この坊主は…

 

「僕が、です。八雲さんは何しに来られたんです?師族会議に関係することなら、僕には何も出来ませんよ」

 

煙に巻いて話のペースを持って行くのは八雲さんの常套手段だ。

 

「まったく…察しが良いね。まぁこの時期の魔法師の関心なんてそれしかないけれど」

 

「古式魔法師もですか?」

 

「もちろん。十師族の意思は無視できない。僕自身は俗世に関わりたくないけれど…」

 

嘘つきが目の前にいる。

 

「よっぽどギャランティが良かったんですね」

 

今も昔も忍びはアルバイトだ。

 

「なにせ、寺の皆を食わせないといけないのでね。会議の内容を知りたがる人はとても多いんだ」

 

「八雲さんもでしょ?」

 

「否定はしないよ」

 

「別に当日知らなくても問題ないでしょう?」

 

「会議の内容は完全非公開なんだ」

 

それじゃあ八雲さんの知りたがりの虫がうずうずするわけだ。

 

「僕は忍びだからね。とは言え、流石の僕も現代を代表する魔法師の会議場に紛れ込むのは難しい。会場にはナンバーズの海千山千魔法師が控えているしね」

 

本当かなぁ。困難なほどやってみたいって、あの細目は言ってるよ。でも見つかったら色々と面倒ではあるか。八雲さんも十師族とは色々ありそうだし。

 

「僕に『瞬間移動』で会議室に連れて行けと?それは…お断りします。そもそも、その時間帯、僕は学校にいますから。期末試験前で勉強しないと」

 

「うん、そうだね。学生の本分は学業だからね」

 

「これ以上休むと出席日数が危険ですし…」

 

「それは『魔法』ではどうしようもないなぁ。残念だけど、断られると思っていたから、今回は、素直に諦めるよ」

 

全然残念そうじゃない。

 

「素直すぎですね…目的は別にあるんですか?」

 

「まあね。実は、師族会議の会場で何か事件が起きそうなんだ。事件その物はわからないけれど、首謀者はわかっている」

 

「じゃあ、阻止すれば良いじゃないですか」

 

「それは依頼に入っていないよ。僕はボランティアはしない」

 

「プロ、ですね」

 

「事件の情報を知っているのは僕だけじゃなくてね、誰だと思う?」

 

師族会議に関わる事件。僕はちょっと考えて…

 

「…響子さん…いや、真夜お母様ですね」

 

「鋭いなぁ…まぁこれまでの情報収集力を知っているなら、その答えは当然かな。その四葉真夜さんが犯人を泳がせているんだ」

 

「どうしてそれを僕に教えるんです?お母様がそうするなら僕も従うだけですよ」

 

「うん。ただ、狙いは四葉家みたいなんだ」

 

ぴくっと僕の眉が動いた。お母様を狙う敵がいるっ!!

 

「待って、敵の動きは四葉真夜さんも把握しているんだから、真夜さんは大丈夫だよ。彼女は当代一の魔法師なんだから」

 

「それでも、身体は普通のか弱い女性で…お母様の身に何かあったら…」

 

本気で心配する僕に、八雲さんが鼻白む。

 

「師族会議後、久君の怒りが爆発する可能性があった。そうならないように、落ち着いて対処して欲しいんだ」

 

師族会議の会場で事件が起きる。それはお母様を狙った、おそらくテロだ。お母様はそれを知っていて、あえて阻止しない。

すべてはお母様の掌の中なんだ。下手に僕が動くとお母様の計画の邪魔になってしまう。

 

「それを言いにわざわざ?」

 

「久君が派手に動くと、君を隠れ蓑に達也君が活躍しすぎてしまうんだよ」

 

「八雲さんは僕の心配じゃなくて、達也くんの心配をしているんですね。あんな理性的な達也くんの何を心配するんですか?」

 

「彼は、許婚のこととなると怒りの箍が外れてしまうからね。それに、久君、君は自分が十師族の1人だともっと自覚した方が良いよ。十師族の力は、君にとっては関心が薄いかもしれないけど、世界中の多くの魔法師や組織にとっては関心の的なんだよ」

 

「ナンバーズの直系から見れば、正体不明の僕は見下される存在ですから」

 

「卑下しちゃいけない。それは恐怖の裏返しだよ。四葉の養子で、五輪家の婿と言う立場、夫婦で戦略級魔法師、それだけで恐怖だ。だから、自覚を持って欲しい。君の行動は周囲を巻き込むことになる。

人一人殺すのに、都市ごと消滅されては…困るだろう?」

 

ん?

 

「それは僕に言っているんですか?それとも達也くんの…」

 

「これ以上は僕からは何も言えない」

 

否定しない。つまり、達也くんも都市を破壊するだけの能力があるってことか…不思議だな。達也くんは魔法師としては劣等生だ。彼の魔法力で都市を破壊するなんて…

達也くんはこれまでも、不足の箇所を技術で補って来ている。破壊の力を技術、つまりCADで補えば…

八雲さんが胡乱な気配をまとっている。

つまり、達也くんが暴走したら僕が止める。僕が暴走したら達也くんが止める…

 

「…そうですね。絶対に力を制御できるとは…言えませんからね。わざわざすみません。お礼を…お金は、記録が残るから難しいな」

 

「それは構わないよ、長時間こんなところに引き止めてしまったお詫びだよ。でも、まぁそのうち協力を仰ぐ場合があるかもしれないから、その時は宜しくお願いできるかな?」

 

「只より高い物はないって、まったく、迷惑な押し売りです」

 

「忍びにとって『瞬間移動』は喉から手が出るほど欲しい『魔法』だからね」

 

「泥棒の片棒を担がせようなんて、真っ当な大人のすることじゃないですよ」

 

「この世界の大人は一筋縄では行かないよ。久君も肝に銘じておいて欲しいな」

 

「ホントですね」

 

僕たちはお互いを、僕はジト目で、八雲さんは細目でにらみ合った。

 

 

夜、いつも通りお母様に電話をして、今日の出来事を雑談した。

八雲さんの訪問は、内緒だ。

お母様は師族会議の直前なのに、こうやって僕の為に時間を作ってくれている。

お疲れなのかいつもより声に張りがないな…心労が蓄積しているのかな。お母様の養子として、何かお手伝いできれば良いのに、学生は勉強が第一だと優しく諭されてしまった。

師族会議で事件が起きる。相談してくれれば良いのに、僕に心配させないためにお母様は黙っているんだ。もっとも、僕は制圧や蹂躙向けだから要人警護には向いていないし。

八雲さんはお母様は全てを把握しているから平気だって言うけれど、何も出来ない自分が不甲斐ない。

あまり時間をとってもお母様の睡眠を妨げることになるから、今夜の電話は短めに、と思っていた…

 

「久。明日は少し余裕がないので電話はできません」

 

「はい、あさってから師族会議ですからね」

 

「会議期間もお話しする余裕がないかもしれないわ」

 

「…はい」

 

僕の声は少し沈んでいる。

 

「それと、会議期間中、会場で小型携行爆弾を使用したテロが起きるわ」

 

はっ!

 

「テロ!?爆弾?」

 

八雲さんの言うとおり、お母様はご存知で、八雲さん以上に情報を掴んでいる。しかも、ここまではっきりと打ち明けてくれた!頼られているんだ。素直に、嬉しい。

 

「テロが起きるのは確実。でも、その方法と、首謀者の所在までは不明よ」

 

方法までは不明?首謀者も四葉から逃げおおせている?

八雲さんは首謀者を泳がせているって言っていたけど、地道な人探しは忍びの方が上手なんだ。

八雲さんの目には四葉が首謀者をわざと泳がせているように見えているのか…

でも実際はお母様でもすべては把握出来ていないんだ。不安が倍増する。

 

「テロリストの標的は…お母様なんですか?」

 

「ん?どうしてそう思ったの?」

 

八雲さんから話を聞いていたから…とは言えない。でも、そのおかげで、僕は落ち着いていられた。

 

「…僕がお母様のことしか考えていないから」

 

「あら、嬉しいわね。そのとおり、首謀者は四葉に恨みがあるようね。妄執と言った方が良いかしら」

 

やはりお母様が狙われている…怒りが湧きあがる。ゆっくりとマグマのように膨れ上がる。

八雲さんの話がなかったら、この時点で自分を見失っていたかも…

 

「僕がお母様の盾になります!爆弾程度簡単に防げます」

 

「たとえ久でも会場の場所を教えるわけにはいかないの。ましてや会議場には入れないから、警護は無理よ」

 

「会議場その物を僕の力で護ります!」

 

「有難う久。でも大丈夫よ、テロリストを会場に近づけるほどナンバーズも無能じゃないはずだから」

 

無能が多いとは考えているみたいだ。師族会議には十文字先輩も当主代理として出席するだろうから、防御は問題ない…

 

「つまり会場近くで一般市民が巻き込まれる、と?」

 

「むしろ、テロの首謀者はそれが目的のようね。現場にいながら一般市民を護らなかった魔法師を非難する…」

 

「未然に他のナンバーズに教えることは出来ないんですか?」

 

「噂は流しているわ」

 

「…情報網が表沙汰に出来ないルートなんですね」

 

「ふふっ」

 

お母様が満足げに微笑された。

テロを阻止することは不可能じゃないけれど、情報源を表に出せないのか…非合法なリーク。それもかなり特殊な組織からもたらされた。

そうなると、たとえ十師族と言えども、自分の身を護るのが優先になる。

それを、非難されても別に構わないとも考えられている。

独立不羈を精神にする四葉はもはや十師族のくくりからは突出しているから、他の十師族ほど痛痒を感じない。四葉家は一族を護るためにある。僕もそうだ。

 

「お母様が無事なら一般市民が何人死のうと構いませんよ」

 

非人道的な考えだけれど、お母様と同様の思考。

 

「そうね。でも、久。市民が巻き込まれても構わないなんて公言しては駄目よ」

 

八雲さんの考えよりも一歩踏み込んでいる!流石はお母様だ。

 

「だから、テロが起きても私は平気だから、久は落ち着いて勉強していなさい」

 

「う…はい」

 

お母様が狙われたと、何の知識もなく知ったら激昂のあまり、八雲さんの懸念どおり、僕は都市一つを破壊しかねなかった。澪さんと響子さんのおかげで安定している僕の精神は、そもそも狂気なのだから。

僕は肩の力を抜いた。

 

師族会議は2日後だ。

 




本来は人命を何とも思っていない久は、澪と響子と暮らすようになって精神が安定しています。
師族会議中、何も知らずに真夜がテロで襲われたと知ったら、
教室からいきなり瞬間移動して真夜を助けに行っちゃいます。
首謀者を見つけたら、場所ごと消しに行ってしまいます。
なので、今回はワンクッション。
ここ三週間ほど、澪と響子のおぱーいを揉みながら熟睡しているので(笑)、ちょっと成長しています。
見た目はかわりませんが…
実は、久の目覚めていない能力はここまでの文章の中でちらほらほのめかしていますが、
まず気がつかれることはないでしょう。
久だって気がついていないのですから(笑)。
たとえば、第一話で九島烈も指摘した、昔と容姿が全然違う…とか、
肉体のレベルは常人以下なのに動体視力は超越している、
要するに久には他人の動きがスローモーションに見えることがある…
まぁもうすでに人の枠から外れていますが、
久は世界的には、魔法力は超越しているけれど複雑なことは出来ないと思われています。

お読みいただき有難うございました。
次回こそ、師族会議が始まります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。