パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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十師族って何ですか?

早朝、光宣くんからテレビ電話があった。なんだか物凄く辛そうな表情だ。

 

「昨日、一校で大変な事がありましたが、無事でしたか?」

 

ニュースで大々的に取り上げられていてたらしく、慌てて電話してくれたのだそうだ。嬉しいな、だけれど…

 

「特に何も無かったよ。それより、光宣くん顔色悪いよ、また体調崩したの?」

 

深雪さんに匹敵するような美男子の光宣くんの顔は、見るからに辛そうだ。

 

「はい…今日は特に良くないのですが…」

 

「なにやってるの!光宣くんの体調が悪い方が心配だよ、あぁっああ、僕が生駒にいたなら看病できたのに…」

 

九島家にいた時は光宣くんより僕のほうが体調が悪くって、よく僕の看病をしてくれたんだ。僕の手をにぎって一晩中看病してくれて…

 

「久さんが生駒にいた頃は、僕の体調も過去に無いくらい良かったのですが…」

 

あの当時は、僕も体調不良だったし受験勉強していたから奈良の観光はまったくしなかった。近所の散策程度だけれど、一度だけ光宣くんに連れられて、近くの吉野の聖地・阿智賀にも行ったんだ。

阿智賀?それは勿論、烈くんの蔵書に全巻初版本で…って似たような会話前にもしたって。そんなことより…

 

「光宣くんの体調が辛い方が僕はいやだよ、僕のことなんてどうでも良いから、養生してよ」

 

僕は涙をぼろぼろ流してお願いする…鼻もずるずるしてる。

おかしいな…昔の僕は泣いたことなんてないのに…色々と情緒が不安定みたいだ。

 

 

光宣くんと互いを気遣った後、僕は一校に登校した。一校に向かう他の生徒たちの表情がいつもより沈んでいる。

ひょっとして僕があの五人を殺しちゃったからかな…同じ学校に通う仲間を僕に殺されちゃ、気分も荒むよね…

1-Aの教室ではクラスメイトが色々会話している。

深雪さんの表情も硬く、雫さんはあまり変わらないけれど。ほのかさんはいつもより暗い。

僕、嫌われちゃった…?

それよりも光宣くんの病状が気になる。電話かけようかな、でも寝ていたら悪いしなぁ。

 

二時限目、端末にメールがあり、昼休み部活連に来るように書かれていた。

 

昼休み、部活連に行くと、十文字先輩、七草会長、渡辺風紀委員長の三人が待っていた。

昨日の騒動の事情聴取を関わった全員からしているそうだ。

 

 

テロリスト…?

え?あの武装していた男の人たちはテロリストだったの?

ニュースも端末もチェックしていなかった僕は、昨日の顛末がさっぱり理解できていなかったのだ。

 

それにしても、いくら生徒自治が進んでいるからと言って、そんな重大なことを10代の生徒に丸投げする教師たちは何なのだろう。

最初のオリエンテーションでえらそうなことを言っていた教師は何をしているのか。

 

 

七草生徒会長が端末を操作すると、部活連のモニターに、昨日の中庭での僕と五人の戦闘員・テロリストとの顛末が映された。

映像の僕は、ぽつんと、ある意味間抜けにスープカップを手に突っ立っている。

その僕にサブマシンガンを向ける男たちは、もっと間抜けに死んでいった。

音声はなく、現実感の不足した映像だけれど、五人の人間が死に至った記録だ。

 

「これは、お前がやったのか?いや罪に問おうと言うのではない、あくまで全体の掌握を目的としている」

 

渡辺委員長が詰問口調から、やや柔らかく尋ねてくる。

 

「まって摩利、中庭のサイオンセンサーは何も感知していないわ。校内の監視装置は勧誘週間以外は24時間稼動しているのよ」

 

七草会長が端末を確認しながら委員長をたしなめる。

それはそうだろう。この程度の能力ではセンサーは感知できないだろう。

実験所の精密な機械ならともかく、校内にいくつも設置されるような精度の落ちるセンサーが僕のサイオンを感知できた時は、ここらあたりの町は地図から消えている。

CADは機能的にサイオンを流し込まなくてはならないので魔法師はどうしてもセンサーに引っかかるだろうけれど…

それにしても、どうしよう素直に話す訳にも行かないし。

 

これはある意味、軍の査問会みたいだ。査問会といえば、昔、烈くんが何度か召喚されていて、そのたび「沈黙は金、かえるの面にしょんべん」って言っていたな。

僕はその後の、渡辺委員長と七草会長の質問に沈黙で答えた。

 

立ち上がっていた渡辺委員長が、質問疲れしたのか、パイプ椅子に乱暴に座る。

「魔法師に魔法のことを聞くのはご法度だけれど…」七草会長が指をもじもじさせている。

なんと言われようと、かえるの面にしょんべん、かえるの面にしょんべん。僕は心の中で呪文のように唱えている。

 

「…久」

 

それまで黙って僕を見ていた十文字先輩が声を発した。

いつもの頼りがいのある男らしい真摯な声だ。

 

「これは十師族の十文字克人ではなく、第一高校三年の十文字克人として聞きたい。これはお前がやったことなのか?」

 

「それは何が違うんだ?」

 

「ねぇ…」

 

たしかにセンサーにも感知できない魔法を使う生徒がいれば、その生徒はやりたい放題できて、管理側はお手上げだろう。

 

僕は十文字先輩と暫時見つめあい…お互いの瞳には僕と十文字先輩しか映らず、それ以外の風景は意味をなくし…ってちょっと僕は男の子だよっ!

 

「わかりました。男と男の約束ですね!」

 

「えぇ?今のでわかったの?」

 

「男と男の娘の間違いじゃないのか?」

 

男同士の約束とあれば答えなくてはならない。

僕は十文字先輩の目をしっかり見つめながら、こっくり、と頷いて肯定した。

 

七草生徒会長と渡辺委員長のため息が部活連の部屋に流れる。

渡辺委員長が腕を組みなおし、七草生徒会長が考え込み、十文字先輩は動じていない。

僕は、お腹がぐーぐー鳴りはじめて、早く開放してくれないかなと考えている。

光宣くんはちゃんとご飯食べたかな。生駒の九島家のご飯は美味しかったなぁ。

 

あっ、そういえば…

 

「ところで…じゅっしぞくって、何ですか?」

 

「何っ?」

 

「はぁ?」

 

「ふぇえ?」

 

七草生徒会長のスットンキョウな声は録音して永久保存しておきたいほど可愛かった。

 

 

 

 

 

放課後、いつものメンバーで喫茶店に寄った。達也くん、深雪さん、雫さん、ほのかさん、エリカさん、レオくん、美月さん、僕。

美月さん以外、事情聴取をうけたそうだ。美月さんは美術部にいたそうだ。

「久はどこにいたんだ?」レオくんに聞かれ、「料理部にいた」と答えると、

 

「なんで料理部で呼び出しをうけるんだ?」

 

「わかんない、ぼくは料理してただけなんだけれど…」

 

それより僕は光宣くんの病状が気になるから落ち着かない。

 

「何か気になることでもあるのか?」

 

僕の挙動にすぐ気がつくのはやはり達也くんだった。

 

「友達が病気でね…朝電話のときすごく辛そうだった…かわれるんならかわってあげたい…僕は痛いの慣れてるから…僕が病気のときはずっと手を握っていてくれたんだよ」

 

なんで光宣くんはあんなに苦しんでいるのだろう…魔法師開発は精神も肉体も通常の人間より強靭にすることじゃなかったのかな。

 

「久、あなたが身代わりになって病気になったら、その彼が悲しむわ」

 

「そうだぜ、俺たちだって悲しむぞ」

 

「悲しむ」

 

「久、そんな事はいうものじゃない…」

 

皆が心配してくれている。嬉しいな。身代わりはしちゃいけない…そっか、

 

 

僕は最初から間違っていたのか…

 

 

でも、あの時は他に良い考えなんてわからなかったしな。弟たちも悲しんでいたのだろうか…

 

皆に元気つけられた僕は、光宣くんに電話しようと、携帯端末を取り出すと左手で持って、右手の人差し指で番号をぽちっ、ぽちっ、と押していく。

あっ間違えた…もう一回、ぽち、ぽち、ぽち…あっまた間違えた…

 

その姿を見ていた達也くんが、

 

「久…おまえ、魔法の実習は、うまくいっていないんじゃないか?」

 

「うん、あんまり…据え置き型にサイオン流し込むだけなら簡単なんだけれど、入試のときのとか。でも…」

 

いくつかの魔法を交互に出したりするの苦手で、模擬戦も最初の一撃を避けられると簡単に負けてしまうんだ。

 

「その原因がわかったぞ」

 

「えっ?ほんと?凄い!達也くん、僕の授業みてないのにわかるなんてすごい!!」

 

「いや、達也君でなくてもわかると思うけど…」

 

エリカさんもわかるの?すごいなぁ。

 

 

「久、お前は、機械オンチだ」

 

 

そうか、僕は方向音痴だけでなく機械音痴だったのか。運動音痴でもあるし、音痴のハットトリックだ。ファンタジスタだ!

さいわい歌は音痴な設定ではないのだ。僕の声は『小松未可子』さんと言う設定になっているから。

 

「それでよくこれまでやってこれたな、まさか自宅の自動調理器も使えないとかな」

 

レオくんは冗談で言ったつもりらしいけれど、

 

「よくわかったね、僕んちの自動調理器壊れてんだ。何回押しても、何にも出てこないんだよ」

 

皆は互いの顔を見合わせると、代表して深雪さんが、

 

「久、自動調理器に食材は入れている?食材を入れないと、機械も調理なんて出来ないわよ」

 

「ええっ!?そうだったの!僕はてっきりボタンを押せばなんでも出てくるスタートレックのレプリケーターみたいなのと思っていた!」

 

「すたーとれっくって何?」

 

何?スタートレックを知らないだと!ピカード艦長は僕の理想の艦長で、声がまた渋くてねぇ!

僕はちょっと落ち込んで、

 

「そっかぁ、僕は機械音痴だったのか…ボタン式じゃなくて、考えただけで使えるCADがあったら便利なのになぁ」

 

そう呟いたんだけれど、達也くんが、

 

「完全思考型のCADか…面白いな」

 

何か思いついたみたいで思考モードに入ってしまった。

こう言うときの表情はいつにも増してかっこいいんだ。

ほら深雪さんが見惚れている。ほのかさんも。

 

…あれ?エリカさんも?…?

 

僕の飲んでいるメロンソーダの氷がからんと音をたてた。

 

 




次回は、外伝、達也くんのデート回。誰とデートかって?僕とに決まってるじゃない。

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