パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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連載50話になりました。本当にありがとうございます。
このSSはクロスオーバーでもなく、痛快チートキャラでもなく、定番の達也強化でもありません。
原作の邪魔をしないようオリ主は右往左往しているせいで、肝心の司波兄妹の出番が少ない、変な(?)SSとなっていますが、エタらないように頑張って書いていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。


九島家

 

5月4日金曜日。昔ならGWだけれど、魔法科高校には日曜日と春夏冬の長期休暇以外は通常授業だ。

 

新入生が入学して、ほぼ一ヶ月が経過した。生駒の光宣くんも京都の二高に入学している。春休み京都でお食事したのも光宣くんの入学お祝いだった。光宣くんは学力も魔法力も美貌も破格の存在だ。今頃二高のアイドルになっているんじゃないかと思っていたのだけれど…

夜、テレビ電話に出た光宣くんは物凄く体調が悪そうだった。

ここ最近では一番ひどいそうでほとんど二高に通えていないんだって。

僕は明日、学校から帰宅後、生駒にお見舞いに行くことにした。

本当は響子さんも澪さんも同行したかったのだけれど、響子さんは軍のお仕事、澪さんは唐突の長距離移動は護衛の手配等で戦略魔法師として困難。生駒には一泊するだけだから、僕一人で行く事になった。

光宣くんにそう告げると、奈良駅までリムジンとその後の護衛を引き受けてくれることになった。

かえって気を使わせてしまったかと心配だったけれど、一人だとさびしいので…と力なく言っていたので、僕たちは余計心配になってしまった。

 

土曜朝、午前は当然授業がある。午後からの予定を警備の担当に電話をして、帰宅後、東京駅まで送迎してもらう手配をした。

一高への登校中、七草姉妹に声をかけられた。

 

「「おはようございます、久先輩」」

 

「おはようございます、香澄さん、泉美さん」

 

流石は双子、朝の挨拶が綺麗にハモった。この双子はアニメには出てこなかったから脳内変換で『阿澄佳奈』さんに設定しよう。

そのほうがイメージがわかりやすくなるしね。異論は認めないぞ!

二人には名前で呼ぶようにお願いしている。水波ちゃんにも何度も言っているけれど、いまだに苗字で呼ぶんだよな…

4月28日の模擬戦の日から他の生徒に話しかけられる機会がなぜか増えた。

これまでも企業やナンバーズの勧誘はあったけれど、去年の6月以降、学校を通しての面会は全て断っていた。

でも生徒からの接触は防ぎようがない。一高はナンバーズの子息が多いから…

今までは達也くんと深雪さんに接触しようとするナンバーズが多かった。この二人に注視しない人なんていないと思うけれど、ただ、達也くんは他の生徒は物凄く話しかけにくい。特に女子生徒には恐れられているみたいだ。深雪さんは一見社交的で面会を望まれれば会うけれど笑顔の仮面をはずすことは出来ない。

七草姉妹はナンバーズ、しかも十師族の、現在の魔法師でも一二を争う勢力の家系。

泉美さんは学校で会えば雑談くらいはしていた。僕の容姿が深雪さんに似ていることが原因みたいだ。男の娘だと思われているんじゃないだろうか…

香澄さんはほとんど交流がない。去年の九校戦で初めて会ったときから、少し相性が悪いような気がする。挨拶くらいはするけれど、すごく話しにくそうなんだよな…活発な香澄さんからすると弱弱しい僕はいらいらするのかも。双子なのに全然僕への態度が違う。それに僕が達也くんと仲が良いから警戒もされているし。今もお父さんに命令されて、いやいや話しかけて来る感じだ。

今日の僕は、すこしとぼとぼ歩いている。光宣くんのことが心配だからだ。ひとつが気になるとほかに意識が向かなくなるのが僕の悪癖なんだけれど、その態度に香澄さんが気がついた。

 

「どうかされたんですか?」

 

香澄さんは僕に対して余所行きの口調だ。

 

「うん…家族みたいに大事なお友達が具合が悪くてね…心配なんだ。今日の午後会いに行くんだけれど、今も苦しんでいるのかと思うと…」

 

僕の人体実験と遺伝子からこの国の魔法師研究は始まっている。烈くんは生存率10パーセントという危険な後天的強化で『魔法師』になったから僕とは系統が違うけれど、彼の子供の世代は僕の遺伝子情報が使われているかもしれない。光宣くんの異常は僕の遺伝子とも関わりがあるのかもと深く考えてしまうときがある。多くの魔法師が健康体なのだから、原因は別のところにあると思うけれど、烈くんや響子さんは原因を知っているのかな。

 

「意外ですね…久先輩はもっとドライな感情をお持ちかと思っていました。あっいえ申し訳ありません妙なことを言ってしまって」

 

香澄さんが頭をさげる。あまり妙なことを言った顔をしていないけれど、登校中の出来事なので、他の生徒の注目を集めてしまった。

 

「うぅん、気にしなくていいよ。確かに僕は友人や『家族』にしか関心がもてないし…」

 

香澄さんは、鋭いな。僕の本質をなんとなくだけれど感じているのかも。

僕が否定しないので、香澄さんは次の言葉が出てこなかった。何となく今日も相性が悪い。

泉美さんはこの会話に入って来れず、微妙な空気のまま一高の校門をくぐった。

 

午前の授業は身にも頭にも入らなかった…明日から頑張ろう!

 

帰宅後は着替えて、澪さんと響子さんとつくったお土産を保冷箱ごとかばんにいれる。荷物はお土産と携帯端末だけだ。生駒の九島家には二ヶ月住んでいて僕の部屋があるし、服や下着はそのまま残っている。サイズは成長していないから問題なし…

東京駅まではいつもの警護で車で向かう。リニアに乗って奈良まで僕一人だから一般席でよかったんだけれど、予約をしてくれたのは澪さんだ。普通に個室だった。一人で個室って贅沢だっていったら澪さんは首をひねった。このお嬢様め!

奈良駅にはお正月にもお世話になった九島家のリムジンと護衛と運転手さんが待っていてくれた。この時代の交通機関は優秀だ、夕方前には生駒に着いた。

九島家のお手伝いさんたちとは顔見知りなので、皆さんの分のお土産もちゃんと作ってきた。お土産は光宣くんの病気のことを考えて果物のゼリーとアイス。それをお手伝いさんに渡して冷蔵庫に入れておいて貰い、すぐさま光宣くんの部屋に向かう。

部屋の場所はわかっているから、一人で向かう。迷子には…ならないはず。

ただ九島家の全体を僕は知らない。ましてや研究所には近づいたことがない。魔法師の研究所なんて表と裏があるに決まっている。僕は個人としての烈くんは大好きだけれど、知らないほうがいいことだってきっとある。

 

光宣くんの部屋のドアを軽くノックする。

小さな返事があった。ベッドから起きようとする気配がしたから、「あっいいよ」って自分からドアを開けた。

ベッドで上半身を起こした光宣くんは、いつにもまして線が細い。ただ白い顔が少し赤い。

 

「こんにちは、光宣くん」

 

「お久しぶりです、久さん」

 

一ヶ月前、澪さんや響子さん、烈くんと京都でお食事して以来だ。僕の姿をみると、心の底からの笑顔になった。女の子なら一発で惚れちゃう笑顔だ。

光宣くんは本物の美少年だ。でも、貧弱さはない。生命力、男性の生まれ持った存在感やカリスマとか、病床にあってもその雰囲気は伝わってくる。烈くんの孫だなって会うたびに思う。

人形じみた容姿の僕とはそこが違う。僕は生命力に乏しい。今日もユニセックスな格好でどうしても男性的な体型とは程遠い。男物の服を着ると男装の少女にしか見られない。

 

ベッドのふちに座る光宣くんは見るからに熱がある。お手伝いさんが言うには全然眠れてなくて、それで余計疲弊しているんだって。

薬もお医者さんも治療の助けにならない『魔法師』の弊害。

 

「光宣くん辛かったら寝てて良いよ」

 

「いえ、今日はそれほど悪くは…」

 

「僕に強がらなくてもいいよ、お互い看護しあった仲でしょ!」

 

変な励ましだけれど、去年は僕のほうが体調不良で光宣くんが、いつも手を握っていてくれた。

『ピクシー』が言ったことから考えると、去年の2月、僕の肉体は『物質化』した直後で安定していなかったらしい。

それまでの数十年間どこかの山の中で身動きできず空を見上げていた記憶があるけど、どうもその間の記憶はまどろんでいて曖昧だ。

『高位』からのサイオン供給が始まるまで、『意識』や『幽体』の不安定だった?…あぁ『多治見研究所』に入ったときと同じだな。

僕は頭がよくない。というより記憶力に難がある。一度覚えれば忘れないけれど、覚えるのが大変なんだ。3歳以前(高位次元体)の記憶はないし。

普通の優れた『魔法師』は記憶力も抜群なんだけれど、これは『物質化』の弊害のひとつなんだろうな…

 

光宣くんはくすっと笑うと、素直にベッドに横になった。

 

「体調は悪いのですが、部屋に閉じこもっていると、自分だけ取り残された気分になるのが寂しいんです」

 

「病気のときは誰だって不安になるよ、僕だってそうだし。勉強はあいかわらず取り残されているけどね!」

 

「それは…不安ですね」

 

「うん、響子さんや澪さんには迷惑かけちゃって、毎日のように勉強教えてもらっているよ…」

 

「それはそれで、楽しそうではありますが…」

 

澪さんは僕に基本甘いけれど、響子さんはスパルタなんだよ!

光宣くんは病弱で同世代の友人がほとんどいないそうだ。一般人なら気軽に友人ができるだろうけれど、なにしろ『九島』だ。

僕は光宣くんの手を握った。熱い。かなり高熱だ。だれも看護についていないけれど、光宣くんが遠慮したのかな…

 

「ん?久さん、指輪をはめるようになったんですか?」

 

流石に敏感だ。僕の右薬指のCADにすぐ気がついた。僕はFLTの完全思考型CADの話をした。

 

「まだ発売前、たしか予定は8月だったかな、だから内緒だよ」

 

「完全思考型CADですか、ローゼンがすでに発売していましたね。かなり大型で僕には向いていなかったのですが、そんなに小さなCADで…」

 

「これは試作機だからデバイスとセットだけれど、発売用は今使っているCADをそのまま使えるらしいよ」

 

「それは!ぜひ手に入れたいです!」

 

目を輝かせている。物凄く興味を持ってくれたみたいだ。光宣くんの魔法力は複雑な『魔法』をいくつも使える。『基本』で火力押しの僕なんかよりレベルが高いからCAD選びも大変なんだよね。トーラスシルバーの新作だから最初は一般には手に入りにくいと思うけれど、そこは『九島』だからね。

僕は簡単な『魔法』を使って完全思考型CADの性能を披露する。洗面器にはられた水を数度さげたり、部屋の空気を清浄フィルターにかけてみたり。光宣くんは僕の機械音痴を知っているから、『魔法』の上達振りに喜んでくれている。

その後も、光宣くんが疲れない程度に雑談をする。

晩御飯は光宣くんの部屋で一緒にとった。今日は烈くんは生駒にいないし、現当主は僕には会おうとしないので、九島家で挨拶に追われることもない。

ずっと光宣くんの部屋に引きこもっていた。

 

夜、お手伝いさんが光宣くんのベッドの隣に客用の布団を敷いてくれた。九島家には僕の寝室もあるけれど、今夜は光宣くんの部屋で泊まることになった。

僕はパジャマに着替えて、椅子に座り光宣くんの手を握っていた。光宣くんは落ち着いたのか、静かに寝息をたてている。

 

唐突に…

 

ざっわあぶぅああああん…

 

羽音に似た声が僕の精神に響いた。

これは…

2月、東京を騒がせた吸血鬼事件でなんども聞いた、『パラサイト』の声。

やっぱり、まだいたんだ。声は小さい…力が弱いけれど近い。

 

僕は光宣くんの手をそっと布団に下ろした。眠ったままなのを確認する。うん大丈夫。ちょっと留守にするね。心の中で呟いて、『意識認識』する。

僕の意識が静かに広がる。すぐ目の前に光宣くんを感じる。強烈な意識だ。

いた。『パラサイト』が4体…?場所は…九島家の研究所だ。ちょっと妙な4体だけれど…

僕は『声』のする場所に『飛んだ』。

 

 

会議室くらいの広さの真っ暗な研究所。何かしらの計器のLEDライトがところどころ点灯している。うら寂しい。かつて僕がいた多治見研究所を思い出させる…パジャマ裸足に金属の床が冷たい。

低周波の振動が不気味に響いていて、観測機やケーブルが雑然と置いてある。

等身大の人形が4体。手足を金属で拘束されて寝台状のリフト・ジャッキに立てかけられていた。

もう一度『意識認識』する。『ピクシー』やマルテと同じ『パラサイト』だ。

でも、一体一体は意識が薄まっている。4体に分かたれて、意識は繋がっているみたいだ。

一体の目が開いた。『サイキック』だ。人形の目が僕をじっと見ている。

家庭用につくられて愛嬌のある容姿の『ピクシー』と違って、温かみのない整った顔。文字通り人形の目だ。

なんとなく僕に似ている。

 

ざっあああああぶぅうん

 

何か言っているけれど、意味はわからない。ただ、何ていうのかな、生への執着が乏しい。『ピクシー』たちと違って生生しさにかけている。『ピクシー』が野生ならこの4体は養殖された生き物みたいだ。

躾をされている…?あぁ…そうか、精神支配だ。僕の精神支配もいまだに抜けない。現在の『魔法』で精神支配されているなら、僕よりも強固に支配されていて、話せないんだろう。

もともと、『パラサイト』がどうなろうと僕には関係ない。この4体が僕や友人たちに敵対しないかぎり何もする気は起きない。九島家で行われている実験なら、この国の利益につながると烈くんが判断したんだと思う。僕にはよくわからない政治が絡む世界だ。

この『パラサイト』は僕には脅威にならないし、確認するだけだったから、さっさと戻ろう…

 

研究所に照明がぱっとついた。

僕は照明が研究所内を照らし出すより早く、大きな計器の影に『飛んで』隠れた。

研究所に男たちがぞろぞろ入ってくる。探知系が駄目な僕はこういう時、動けない。声だけ聞く。

 

「起動を停止しているはずのP兵器のサイオンセンサーがわずかな反応をしめしたが…異常はないな」

 

P兵器…?

 

「ガイノイド自体に変化の兆候はない。『パラサイト』本体のサイオンだ」

 

万物にはすべてサイオンを内包している。これは達也くんがCADの調整するときに言っていた。だから身体をスキャンするときは全裸が一番良いのだそう。

 

「カメラにはなにか映っているのか?」

 

カメラがあったのか!探知系がさっぱりな僕が気が付ける訳がないけれど…

 

「いや、暗かったからな…生物と同じように夜は照明は消していた。だがこれからは昼夜にかかわらず照明はつけておいたほうがいいな」

 

ほっ、僕は映っていないみたいだ。

 

「憑依させた『パラサイト』は眠っている。夢でも見たのでは?」

 

「なるほど、母体と『パラサイト』が安定した証拠なのかもしれない」

 

「P兵器は順調だ。このまま他のガイノイドへの培養を進めよう…」

 

…僕は見つかる前に、光宣くんの部屋に『飛んだ』。

光宣くんは行儀よく眠っている。まだ熱があるから、額に汗をかいている。ホーロー製洗面器にはった水はわずかに温くなっていた。

僕は『冷却魔法』でその水を触って心地良いくらいの温度に下げる。

汗をぬぐった後、水に濡らしたタオルを絞って、光宣くんの綺麗な額に置いた。

額に濡れタオルをおいても解熱には役に立たない。太い血管がないからだ。でも額につめたいタオルを置くと気持ち良いんだよね。

僕が倒れたときにも光宣くんは同様のことをしてくれた。

『魔法』で血液の温度を下げればいいんだけれど、卓越した魔法師の光宣くんの身体に直接『魔法』をかけるのは難しい。

今の僕なら出来ると思うけれど、やめておいた方が良いかな。光宣くん本来の治癒力で治すべきだ。

もう1枚濡れタオルを絞ると、太い血管のある首の周りに息が苦しくないように置く。

僕はベッドの横の椅子に腰掛けて、光宣くんの手を握る。熱い。僕の手は冷たいな。

われながら甲斐甲斐しいと思う。赤の他人からみたら僕の行動は奇妙を通り越して不気味ですらあると思う。でも、あの『P兵器』と同じで僕の精神支配は続いている。親しい人物に尽くしたいと自然に考えてしまう。ほのかさんと『ピクシー』の達也くんに向ける感情とは違う。家族に向ける情愛。特に、澪さん、響子さん、光宣くん、達也くん、深雪さん、真夜お母様。この6人への想いは強烈だ。もちろん友人や一高関係者たちへも想いはあるけれど、それ以外の人物にはまったく興味がわかない。

香澄さんの指摘は、本当に本質をついている。

 

いずれ、この想いは僕を破滅へと導くかもしれない。

 

これは僕が精神の存在に近いからなんだろうけれど、不快じゃないから良いんだ。

 

 

『P兵器』か…うぅん、僕には関係ない事だ。

 

僕は、朝までじっと何も考えず、光宣くんの看護を続けてた…

 




生駒って奈良と大阪のちょうど間で10キロくらいしか離れていないんですね。
曜日を調べるために西暦2096年のカレンダーをネットで見ましたが、2016年から96年に移動中、あぁ未来にワープしてるとか思っちゃいました。すぐ現在に戻ってきましたが(笑)。
お読みいただき有難うございました。

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