パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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『魔法』アクション描写は難しいです。
ただの蹴りじゃなく、いちいち『魔法』をかけながら文章にするとすごく読みにくくなってしまいました…ご容赦ください。


化け物

 

「それにしても、マジックアーツは…ああいう戦い方があるのか…あれなら僕にも出来そうだな…」

 

僕の呟きは、意外と大きく演習場に響いた。

 

「それはどういう意味だい?多治見君…?」

 

僕の呟きに、模擬戦が終了したばかりの十三束くんが反応した。その声には厳しいものがまじっていた。自分の切り札を簡単に真似できるなんて言われたら気を悪くするのも当然だ。

 

「あっいえ、なんでもないんです、ごめんなさい」

 

頭をさげて謝る。僕は思ったことを無意識に口にしてしまう癖があるな。それに完全思考型CADを貰ってから少し浮かれていたんだと思う。

今の台詞はこれでうやむやに…

 

「あぁ…なるほどな、そういう使い方もできるか…」

 

達也くんが、考え込みながら言った。演習場にいる皆に聞こえるくらいの声で…

達也くんは僕の『魔法師』の能力を知っている。完全思考型CADの調整もしてもらっているし、頭のいい達也くんなら脳内で僕の『魔法』はシュミレーションできるはずだ。なのにあえて声にしたのには理由があると思う。

達也くんの意図は、達也くんと深雪さんの世間からの関心を、僕に向けさせるためみたいな…?本来ならそれは七宝くんの役目だけれど…深読みしすぎかなぁ…

 

でも、達也くんの言葉は消えかけた火に油を注ぎまくった。

 

「だったら多治見君、君とも模擬戦をお願いしたいね」

 

「おっおい、十三束、許可はさすがに下りないだろう」

 

桐原先輩もそう言っていますよ!十三束くん熱くならないで!

 

「じゃぁ、模擬戦ということでなく、マジックアーツ部の体験入部ではどうですか?沢木部長。多治見君はマジックアーツをしたいみたいですから」

 

三年生の沢木碧さんは風紀委員でマジックアーツ部の部長さんなんだそうだ。

その部長さんにむかって十三束君が提案する。達也くんとの模擬戦の興奮が残っているのかな?さっきまでの冷静さがない。壁にもたれたままの七宝くんも微妙な顔だ。

沢木さんは今時珍しい体育会系なんだそうで、十三束くんの情熱におされ気味になっている。

 

「うぅん、司波君、どうかな?マジックアーツ部の体験という建前なら問題ないかな?そのかわり多治見くんには魔法の制限はつけないという条件でどうだろう。

もちろん相手を殺したり大怪我させるような魔法はだめだけれど、多少の怪我なら日常茶飯事だから遠慮しなくて良い」

 

「そうですね、部長の沢木さんが認めるのなら」

 

えぇ?達也くんらしくない。僕が嫌がっているのをわかっているのに話を進めている。

 

僕は小声で「僕は『セルフマリオネット』を『サイキック』で行う『サイキックアーツ』考えていたんだけれど…」と呟いた。

 

達也くんは少し考えたけれど、僕の目をはっきりと見据えた。

 

「久、自信を持て、皆が過小評価しているが、CADを使いこなせれば深雪だって容易くは勝てない」

 

「真正面からならね…模擬戦じゃない実戦なら、僕は達也くんや幹比古くんには勝てないし、ましてや深雪さんは…」

 

『精神を直接攻撃できる魔法』に、僕は絶対に勝てない。

 

「僕が久君に勝てるって…どうやって?」

 

幹比古くんが首をひねる。

 

「久は探知系がからっきしだからな」

 

「あぁ確かに、古式の真骨頂は隠形にあるからね」

 

「だが久が探知系まで得意になったら、もう無敵の『魔法師』だ。誰にだって得意不得意はある」

 

達也くんのこの言葉は凄く実感がこもっていた。

僕は深雪さんに助けを求めようとしたけれど、鉄壁の笑顔は揺るがない。あぁ深雪さんは達也くんの判断は全肯定なんだよな…

達也くんの思惑はわからないけれど、やってみようかな。

 

「わかりました。『魔法師』として勝負します。えぇと、相手は十三束くんだけですか?それとも上級生のお二人も同時に?」

 

「何!?」

 

「俺たち三人と!?」

 

「おっおい久君!何言っているんだ」

 

幹比古くんが慌てているけれど僕は…

 

「平気です。僕の『魔法』が無制限なら、三人が同時に相手でも問題はないと思います」

 

沢木先輩は達也くんに視線を向ける。達也くんが頷くのを見て、「じゃぁ三対一のマジックアーツの試合を行う」

 

 

僕と沢木先輩はCADを持っていないので事務室に受け取りに行く。

実習室を出るときに七宝くんと目があった。驚きと興味がこもった目だった。

 

 

「多治見君のCADは…その指輪なのかい?」

 

演習室に戻ってきて、僕が指輪をはめていると十三束君が尋ねてきた。

僕にかわって達也くんが指輪について説明してくれた。

 

「皆さんは久が機械音痴の『魔法師』だと思っていますが、完全思考型のCADを使うことによって、その欠点は克服されています。はっきり言って、皆さんは久を侮りすぎですね…」

 

このタイミングでその台詞…達也くんは人が悪い。三人は明らかに動揺している。これも作戦なんだね…僕の『魔法』は無制限。中距離からの攻撃も『接触式術式解体』や『対抗魔法』で防ぐ自信が三人にはあったんだろうけれど、

 

「いえ、僕も『マジック・アーツ』で闘います。でもルールは知らないので多少のルール違反は見逃してくれると嬉しいです…」

 

桐原先輩が手に持っていた木刀を壁に立てかけて、沢木先輩と十三束くんと相談している。

マジックアーツは体術に『魔法』を乗せる競技だ。手足の届く範囲しか『魔法』は使えない。ただパンチやキックなどで衝撃波を作ることはOKなんだそうだ。

 

「なるほど、『キノガッサ』のマッハパンチですね。しゅっしゅ!ドレインパンチ!」

 

「違うっ!『男塾』の『J』の必殺技だ!F・P・M・P(フラッシュ・ピストン・マッハ・パンチ)!しゅっしゅっ!」

 

僕と沢木先輩の間に、かすかな友情が芽生えた。その分他のメンバーとの距離が開いた気がするけれど…

 

 

僕と向かい合う三人はかなり集中している。僕がどんな『魔法』を使うか情報不足だから、あらゆる状況に対応できるよう、緊張しつつも無駄な力は抜いている。やっぱり一高の中でもトップの実力者だ。

5メートルの距離をあけて向かい合う。達也くんが、間に立って、片手を挙げて…

 

「はじめっ!」

 

とするどく手を下ろした。

三人が腕輪型のCADを操作してサイオンを流し込もうとする。防御系か加速系の魔法を使うつもりなのかな。

 

でも、はっきり言って、遅い。

 

三人がCADを片手で操作し終わるより早く、僕の魔法は発動している。あのリーナさんよりも僕の魔法は早いんだ。しかも、この完全思考型CADは真夜お母様にいただいて、達也くんが調整してくれている僕専用のCAD。余分な入力作業もいらない、その魔法起動速度は優等生の『魔法師』より遥かに速い。

 

殺すだけなら、この瞬間に三人は死んでいる。『接触式術式解体』でも真空や数千度の熱そのものには耐えられないだろうから。でもこれは競技だし『マジックアーツ』だから死なない程度にダウングレードしなくちゃ。

 

まずは、時速40キロの『マッハパンチ(空気砲)』を3発同時に撃つ。減速しないよう、こぶし大の『真空チューブ』を作って、その中に収束させ密度を上げた『マッハパンチ』を移動させる。顎先をかすめるように精密にコントロール。ボクサーのパンチと同じ要領で。

魔法師の身体は頑丈なので風圧だけじゃ脳は揺れないかもしれないけれど、『マッハパンチ』は『真空チューブ』出口の空気を押すから『接触型術式解体』では防げない。

『真空マッハパンチ』!空気がチューブから抜けた音と共に、三人の頭がくらっと揺れた。

 

「えあ?」

 

思考が一瞬途切れて、魔法の起動が中途半端になっている。さっきの達也くんとの模擬戦で疲労のあった十三束くんは膝をつく。

これまでの僕なら、ここでCAD操作にとまどって、反撃を食らうところだ。でも…

目が泳いでいる二人の先輩に『擬似瞬間移動』で接近。さらに『光波干渉』で姿を消して、『重力制御』で先輩二人の両足を浮かし、逆に十三束くんを地面に押し付ける。『接触型術式解体』も重力は打ち消せない。

僕は弱い身体を守るために関節の『位置固定』『移動』『加速』。蹴りで足を痛めないように、足にも空気の層『空気装甲』を作る。蹴りと当時に身体の反対側に『空気の壁』。

 

「ぐぅ!」

 

沢木先輩を蹴飛ばす。加速されて強化された見えない蹴りと『空気の壁』にはさまれた瞬間、ごく弱い、昨夜のスタンガン以下の『電撃』を流し込む。沢木先輩が崩れ落ちる。

 

返す刃で桐原先輩を『空気装甲』『電撃』で蹴り飛ばし、『擬似瞬間移動』で時速300キロで反対の壁までふっとばして距離をあける。音はいっさいしない。そのままだと即死なので、壁に勢いよくぶつかるところ、空気のクッションで受け止める。念のため重力を弱める事もしておいた。

 

「え!?」

 

十三束くんには沢木先輩がいきなり倒れ、桐原先輩が壁に吹き飛ばされ宙に一瞬浮いた結果しか見えていない。

試合中によそ見しちゃだめだよ。僕は十三束くんの間合いにいるんだ。

 

「久っ!それまでだ!」

 

達也くんが叫んだ。僕は『光波干渉』を切る。

 

「えっあぁ?」

 

十三束くんが驚きの声をあげた。唐突に僕が現れ、彼の目の前には僕の踵があった。達也くんが制止しなかったら、『重力踵落とし』が十三束くんの背中にヒットしていた。触れた部分と反対側の『重力』で挟みうつキックだ。

まさに一瞬の出来事。十三束くんには試合開始と同時に僕がシャドウボクシングして、いきなり消えて、目の前に僕の踵が出現したように錯覚したはずだ。

 

「どうしてとめるの?この後『鉄拳』の『リリ』さんみたいにエーデルワイスからの10連コンボを決めて『Sebastian, can't you do better than this?』って台詞を…」

 

鉄拳のリリさん可愛いよね。しかもあれで16歳!DOAのあやねさんも16歳なんだよね…無理があるよね格ゲーの年齢設定とプロポーション…

達也くんは僕のボケを黙殺する。

 

「最初の『真空チューブ空気砲』だけで勝負はついていたと思うが?」

 

「え?でもレオくんならあの程度の衝撃は蚊に刺された程度だよ。加減がわからなかったから威力を弱めたんだけれど…」

 

40キロはボクサーのパンチの速度とほぼ同じで、人間を倒すにはここまでが制限だと思ったんだけれど。

 

「レオを基準にしたのか?それは反則負け一歩手前だったぞ…」

 

特殊警棒を『魔法』なしでへし折る肉体のレオくんは特別なんだね。

 

「俺たちが初撃に耐える事を想定して追撃してきたのか…」

 

電撃で気を失っていた沢木先輩が早くも目を覚まして立ち上がっている。先輩も頑丈だ。

 

「姿を消すのは反則じゃないのか?」

 

桐原先輩が蹴られたお腹を押さえながら言う。

 

「消えるなとは言っていませんでしたし、そもそもお三方は最初の『真空チューブ空気砲』で軽い脳震とうを起こして、すでに闘える状態ではありませんでした。久が『光波干渉』で姿を消したのはその後です」

 

「『光波干渉』?…俺には最初から多治見先輩の姿が見えてなかったのに…」

 

傍観者の七宝くんが呟く。

 

「僕の『擬似瞬間移動』はそもそも人間の反応速度を超えているからね。初見の七宝くんが驚くのも当然だよ」

 

勝利は、当然、僕だった。僕の説明を皆が聞いている。一つ一つの『魔法』は初歩的で簡単だ。『4系統8種』をマルチキャストして反応不能な速度で攻撃する。これまでは出来なかったけれど、思考型CADのおかげで可能になった。『真夜お母様』と達也くんのおかげだ。

それに、今回は全ての『魔法』をダウングレードしている。これは試合で殺し合いじゃないからだけれど…

 

「久は『マジックアーツ」で闘いましたが、中~長距離からの『魔法』だけでも一瞬で勝敗はついていたでしょう…久、最初の『真空チューブ空気砲』は3発、速度は40キロだったがどこまで威力を上げられる?」

 

僕はもともと過去最高の魔法力をもっているけれど、機械音痴の残念魔法師として世間に認識されている。

学校のテキストにある『魔法』しか普段は使わないから、さらに目立たない。

 

過去最高の魔法力。

 

この意味はダテじゃない。CADさえ使いこなせば、僕の異常性はすぐに露見する。

特殊な『魔法』なんて必要ない。学校のテキストにある『簡単な魔法』だけでも、その規模は壊滅的なんだ。

 

「うっ、達也くんにはバレバレだ…あれ本当はパンチは必要ないんだよね。マジックアーツだからパンチで撃ち出したけれど…うぅん、空気だけなら最低でもマッハ10以上は余裕かな。去年の九校戦でアイスピラーズブレイクで氷の柱を動かしたよね。合計12トンの氷にくらべれば軽いから、物理的に可能な速度まではいけるかな…」

 

『真空チューブ空気砲』は『擬似瞬間移動』の空気版でこれもダウングレードだ。ただの『空気砲』よりも精密に的を狙えて、空気抵抗がなくなる分速度があがる。当然殺傷力も。

 

「真空のチューブ内ならほぼ無限だろうな…」

 

「数は…屋外なら間隔を広げれば10K㎡に1万発はいくかな。空気を『供給』しながらループキャストで数十分は撃ち続けられると思う。攻撃距離は…20キロくらいかな。距離がひらくと数も制御も落ちるとおもうけれど…」

 

「なっ!?1万!?」

 

演習場にいた達也くん以外の全員が絶句を通り越して戦慄している。

『サイキック』なら視認できれば距離は関係ないけれど、『魔法』はどうだろう。

 

「10K㎡に1万発を数十分って…街ひとつ壊滅できるよね…それは戦略級の威力があるんじゃ…」

 

まだ脳震とうが抜けていない三人にかわって幹比古くんが聞いてくる。

 

「数は関係ないよ、5センチにしたのは今回の対人用で、九校戦のときみたいに真空チューブを最大の2メートルまで太くすれば本数は減るから」

 

「その分、破壊力は飛躍的にあがるんじゃ…」

 

「空気をどれだけ『供給』できるかによるだろうな」

 

「『擬似瞬間移動』だって10トン以上のものを動かせるなら、重要な施設でそれを使えば壊滅的な被害になるよね…」

 

「やっとその事実に気がついた人物が現れたか…。去年の九校戦で久は負けた。『魔法』の複雑さは勝った一条の方が上だが、戦術的に考えれば久の『擬似瞬間移動』のほうが遥かに危険だ」

 

10トン以上の物体をマッハ10で瞬間的に移動させて破壊する魔法力。この恐ろしさに誰も気がつかなかったって…そんなに負けたことのインパクトって強いのかな。

 

「ん…だけど、そんな面倒な魔法使わなくても、一万度のプラズマや100Gの重力とか真空を街に…あっいえなんでもないです…」

 

僕の魔法力は桁が違う。当然、規模も。テキストに載っている簡単な魔法も僕が使えばそれだけで戦略級の破壊力だ。

制御はそれなりに得意だから普段は威力をかなり落としているんだ。それこそ『深雪さんレベル』まで…

それに、『サイキック』を使えば街どころか地球にでっかい穴があくよ、なんて言えない。

 

達也くんは相変わらずの無表情で、深雪さんは鉄壁の笑顔なんだけれど、他の生徒の僕を見る目は、数分前とは違う。恐れだ。化け物を見る目。僕はおもわずひるむ…だからあまり本気は出したくないんだ。僕の魔法力は破壊に特化しすぎて危険なんだ。

その昔、怪物や化け物って散々言われたからあまり気にならないけれど、同じ学校に通う同じ『魔法師の卵』にそう思われるのは悲しい。

 

僕は達也くんを見る。達也くんは九校戦のときに僕を『視て』気がついているはずだ。僕が『魔法』をかなりダウングレードしていることに。

 

「すまなかったな久」

 

「うぅん、いいんだ、僕の『能力』が化け物じみているのは昔からだから、気にしていないよ」

 

「皆もここで見たことは他言しないで欲しい。久の魔法力は入学前から『戦略魔法師』クラスです。今は九島家や五輪家の威光に隠れていますが、いずれは久自身の『魔法』でこの国を代表するような『魔法師』になるでしょう。

ですが今は一高校生です。過度な期待やプレッシャーはかけるべきではないでしょう」

 

うまく纏めようとしているけれど、模擬戦をすることになったのは、達也くんが火に油を注いだからだよ…

 

今回の模擬戦は秘密になった。先輩たちに十三束くんに七宝くんも幹比古くんも誰にも言わないって約束してくれた。もちろん達也くんと深雪さんも。

でも、この日から、一高で僕を馬鹿にするような態度をする生徒が減り始めた。

噂はどんな小さな穴からももれる。人の噂も75日とはこの魔法師界ではいかない。

僕の周りはにわかに騒がしくなっている。

その分、達也くんへの注目が下がっている。これは達也くんの思うツボだよな…

もっとも、もうすぐ九校戦だから、達也くんと深雪さんは嫌でも目立つことになると思うけれどね。

 

 




これでも余分な文字は減らしたんですが、やっぱり読みにくいですね…

原作では4月末から6月末までのあいだ何も事件が起きていません。これはきっと世間の目が達也から久に移ったからなのです。
達也は基本的に深雪が平穏にすごせればそれで良いので、久には悪いと思いつつも容赦なし。
まぁ久が2年になって注目を集めるというのは最初からの構想なので、ごめんね久。
二人の美女に挟まれたウハウハ生活にこのSSの作者は嫉妬しているのだよ!

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