パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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指輪

二年生になって、友達のクラスや肩書きが変わった。生徒会役員、クラス替え、学生生活の醍醐味だよね。

 

4月6日。僕は浮かれ気味に一高に登校する。今日の僕の制服はだぶだぶじゃない、僕の体型にぴったりフィットしている。

これまでは既製品の一番サイズの小さいのを着ていたんだけれど、澪さんと響子さんが制服をオーダーメイドしてくれたんだ。誕生日プレゼントだって。

凄く動きやすい。だぶだぶの制服は、僕が成長することを考えて着続けていた。

そして、一年たって、僕の体型は殆ど変わらない。

少しだけ身長が伸びたけれど、一センチも変わらなかった。背が伸びたのに気がついたのは、市原先輩と達也くんだけだ。なんとなく、この二人ってところが性格を現している。

澪さんたちがこのタイミングで制服を作ってくれた、と言う事は、僕がもう一高に通う間は背が大きくならないと思っているのかな?

ぴったりの一高男子制服を着ていると、身体のラインがよく出る。ただでさえ弱弱しい僕の体型がはっきりわかる。だぶだぶの制服を着ているときは、子供が背伸びしている雰囲気があったけれど、今はどうみても、女の子が男装しているみたいな…

明後日は入学式。新入生も登校してくる。七宝琢磨くんに七草の双子さんもだ。後輩に女男っていじめられたり侮られたりしないか不安だ。…一年目も同じこと考えていたな。うぅ、成長してないな…中身も外見も…

 

一高の校門が見えてきた。とにかく、二年生も頑張るぞ!

 

新学期早々、始業式なんてない魔法科高校は普通に授業が始まる。入学式があさって行われるけれど、平の料理部員の僕には関係ない。

これまで達也くんと友人たちは、基本的に登校も下校もばらばらで、お昼休みに集まることが多かったけれど、二年になって生徒会室を利用するメンバーが増えた。

僕はお昼ご飯はレオくん、エリカさん、幹比古くん、美月さんと一緒になることが多くなった。

達也くんは副会長になったこともあり生徒会室で、深雪さん、ほのかさん、雫さん、生徒会メンバーがデフォルトになった。

僕は2-Aなので、あいかわらず達也くんとの接点が少ない。僕も魔工科に転科できればよかったんだけれど、不器用な僕が工学科なんて無理ゲーだ。

今日は生徒会メンバーと雫さんは生徒会室で入学式の打ち合わせだ。

お昼ごはんを食堂で食べながら、ふと、春休みのパーティー会場のことを思い出した。

 

「そういえば、エリカさん、パーティー会場では助けようとしてくれたんだよね、ありがとう」

 

エリカさんは一瞬考えて、七草家でのことをおもいだしたみたいだ。

 

「まぁ何も出来なかったけれど、久もああいうときははっきり言わなきゃだめよ!」

 

「わかっているんだけれど、どう対処したらいいかわからなくて」

 

「何の話だ?」

 

置いてけぼりのレオくんが聞いてくる。僕が七草家のパーティーで政治家やらの中年男に囲まれたことを話す。

エリカさんと幹比古くんは僕が烈くんと澪さんの庇護下にあることを知っている。レオくんと美月さんにも僕の立ち位置を説明した。

美月さんは驚いていたけれど、レオくんはあまり変化がない。

 

「はぁ十師族ってのも大変なんだな」

 

「僕は十師族じゃないよ」

 

「事情を知らない人たちから見ると、久君もナンバーズの一員になるんでしょうね」

 

「僕自身は身寄りのない孤児だし…ただ、皆色々と気を使ってくれているから、いつか恩返しができると良いなって思っているけれど…僕に出来ることなんて…思いつかないな」

 

『高位次元体』の記憶が僕にない以上、僕はこの世界では天涯孤独だ。だから『家族』には恩返しをしたいって心のそこから思う。

美月さんとレオくんは僕の友人の中ではナンバーズと関わりがない。エリカさんは複雑な表情、幹比古くんも色々と思いがあるみたいだ。

 

放課後、僕は料理部で部活をしていた。料理部は長期休暇中に部活がないから久しぶりだ。

今日の調理は道明寺粉の桜餅だった。多めにつくったから、澪さんたちにお土産に持って帰ろう。

お土産を片手に帰宅しようと校庭に向かっていたら、校門前に達也くんと深雪さん、レオくん、エリカさん、雫さん、ほのかさん、幹比古くん、美月さんが立っているのが見えた。凄く目立つメンバーだ。

達也くんが僕に気がついて視線を向けてきた。ひょっとして僕を待っていてくれたのかな。嬉しいな。

声をかけて一緒に帰る。一緒と言っても、一高駅前のキャビネット乗り場までだけれど。

雫さんとほのかさんが同じキャビネットに乗った。またあの豪邸にお泊りするのかな。

そういえば「航くんは元気だった?」って聞いたら、雫さんは「元気」と一言だけ答えたけれど、ちょっと困ったような表情だった。どうしたんだろう。

 

キャビネット乗り場に達也くんと深雪さん、僕が残った。僕が先に来たキャビネットに乗ろうとしたら…

 

「久、今日これから家に来れるか?」

 

「え?」

 

「少し、話しと渡すものがある」

 

達也くんは余計なことは言わない。学校で用を済まさなかったと言うことは、自宅でなければ駄目なんだろうな。

 

「深雪さん、お邪魔してもいいの?」

 

「どうしてそんな事聞くの?お兄様のご招待ですもの、私が反対するわけないでしょう?」

 

「だって、深雪さんと達也くんの愛の巣に、僕が行ったら邪魔でしょ?」

 

「ああああぁ愛の巣!?久っ!貴女はなんて可愛いんでしょう!!」

 

思いっきり頭を撫ぜられた。髪が乱れるくらいに…

 

一緒のキャビネットに乗って、達也くんのお家に行く。当然前列に達也くんと深雪さんが並んで、僕は後ろだ。

キャビネット任せだし、僕は土地勘がないから達也くんの家の具体的な場所はわからなかったけれど、一高からは意外な近さで驚いた。僕の自宅からもそんなに遠くないみたい。

達也くんのお家は僕の自宅と同じくらいの大きさだ。二人の愛の巣にしては大きすぎるんじゃないだろうか。

 

と思っていたら…

 

「お帰りなさいませ達也さ…兄さま、深雪姉さま…、いっいらっしゃいませ!多治見久様!」

 

玄関に、黒を基調にした露出の少ないワンピースにエプロン姿の水波ちゃんが立っていた。どうみてもメイドさん、四葉家で見たときに似た格好をしている。

達也くんを兄さまと呼ぶとき、どこかぎこちなく、僕の名前を呼ぶときは、物凄く緊張して、腰を90度曲げて頭を下げた。

視線を合わせようとしない。どうしてかな…僕のこと嫌ってる?嫌われるほど接点は無かったけれど、真夜お母様とお食事したときのテーブルマナーの下手さに呆れていたとか?

 

真夜お母様と仲良くお食事していただけなんだけれどな…

 

司波家のリビングは広々としていて、滅茶苦茶おおきなテレビがあった。

ソファに腰掛けて、水波ちゃんの入れてくれた日本茶をいただく。テーブルの向かいに達也くんと深雪さんが並んで座っている。肩が触れるほど近い。

水波ちゃんは何故か壁際に立って固まっている。これじゃぁほんとうにメイドさんだよ。

 

「ねぇ水波ちゃんも一緒にお茶いただこうよ、ほら桜餅も美味しいよ」

 

お茶菓子は僕手作りの桜餅だ。桜餅は関東風より関西風の方が好みだ。

でも、水波ちゃん一人だけトレーを手に立っている。三人が腰掛けて、一番年下の女の子が一人立っている…ものすごく落ち着かない。

 

「いえ、久様と同席するわけにはまいりません…後でいただきます」

 

って、かたくなに拒否された…そこまで嫌われているのか…ションボリ。

達也くんは僕たちのやり取りを興味深そうに見ていた。

 

「実は水波も明後日から一高に入学する」

 

「えっ?そうなの、水波ちゃん入学おめでとうございます」

 

「あっありがとうございます」

 

「水波は俺たちの母方の従妹、と言うことになっている。だから久もそのように振舞ってほしい」

 

四葉家で家政婦みたいなことしていたけれど、家族ではなかったんだ。つまり僕が烈くんや澪さんの庇護下にいるのと同じ立場で、四葉家の援助を受けているのかな。それにしても、

 

「母方の従妹ってことは『真夜お母様』の娘って事になるの?」

 

僕が『真夜お母様』って言うと、深雪さんも一瞬緊張するし、水波ちゃんにいたっては硬直する。達也くんは見た目は変化がない、いつもの無表情だ。

 

「母に姉妹は一人しかいないから、設定では…そうなるな」

 

「じゃぁ水波ちゃんは僕の『妹』になるわけだっ!『妹』!すごい、嬉しい、水波ちゃんよろしくね」

 

水波ちゃんは「こっここっこちらこそよろしくお願いします」って物凄く肩に力が入って、堅苦しく挨拶する。どうしてそこまで緊張するのかな…

 

「帰宅時間を合わせる関係で、水波も部活動をするが、料理部に入部する予定だからよろしく面倒をみてやってくれ」

 

「ふぇあ?」

 

水波ちゃんが変な声を上げた。やった、『妹』が出来た上に、部活の後輩もできたんだ。

 

「それと、これは叔母上からあずかった、久への…誕生日プレゼントだな」

 

「えぇ!?真夜お母様から僕に!?」

 

思ってもいなかったので、驚いた。思わず椅子を鳴らして立ち上がっちゃったくらいに!

達也くんは相変わらずの無表情だけれど、どこか困惑しているような微妙な顔だ。僕のキラキラ目に苦笑しているのかな?達也くんが小さな金属製の箱を慎重にテーブルの上に置く。無骨な箱はプレゼントというより中の精密機械を守ることに重点を置いているみたいだ。

僕にとっては宝石箱と同じだ。達也くんに渡されて、箱を慎重に開けると小さな指輪型のCADとペンダントが入っていた。ペンダント…違うな、水滴の形をした…

 

「CAD…?でも操作スイッチとかないけれど…」

 

「これはFLT製の完全思考操作型CAD。FLTが8月に発売を予定している思考操作型CADのテストタイプだ」

 

「FLT?完全思考型CAD…?」

 

FLTは特化型のCADに力を入れている会社だったはず。フォア・リーブス・テクノロジー…四葉の技術…四葉?

 

「指輪は汎用型で魔法は10個しか入れられないが、その分小型で誰もそれがCADだとは気がつかないだろう。その水滴型の補助デバイスを首にかけていれば、ボタンの操作なしに『魔法』を使うことが出来る」

 

「じゃあ不器用な僕にはぴったりのCADだね」

 

僕は烈くんが一年前にくれた携帯電話型のCADを使っている。授業でしか使わないけれど、機械音痴な僕はどんなに魔法力が高くても機械操作がネックだった。

 

「水滴型の補助デバイスはテストタイプでその指輪型CAD専用だが、その分処理速度は販売用より高速化している。久の魔法力ならそれでも遅いかもしれないが…テストタイプとは言え、トーラス・シルバー謹製だ。市場には出まわらない一点ものだな」

 

指輪は凹凸のないシンプルなデザインで、内側にトーラス・シルバーのロゴが彫ってあった。

 

「トーラス・シルバーって、去年、『飛行魔法』を発表した天才技術者だよね。じゃあこれって中々手に入らないんじゃないの?高価なんじゃ…」

 

「そうだな。だが、その思考型CADは発売前のモニターも兼ねているから金額は気にしなくても良い。定期的に俺が調整をして、記録をとることになるが構わないか?」

 

「達也くんが調整してくれるの!?でもどこで…一高?」

 

九校戦のとき、競技用のCADを一高の施設で毎日のように調整してくれたことを思い出す。

 

「そうなるな。本当なら大規模な機器で久をスキャンした方がより有効に使える様になるだろうが、それは汎用型だから簡単な調整で使えないと意味が無いからな」

 

「どの指にはめればいいのかな」

 

「好きな指で構わないが…?」

 

「深雪さん、どの指が良いと思う?指輪ってはめる指で意味が違うんだよね」

 

澪さんはクリスマスにプレゼントした指輪を左手薬指にはめているけれど、深い意味は無い…よね。

 

「そう…ね、久には右手の薬指が良いんじゃないかしら。精神の安定や落ち着き、を意味する指だそうよ」

 

深雪さんは相変わらず博学だな。僕は深雪さんの言うとおり、右手の薬指に指輪をはめた。小さな指輪は僕の指にサイズがぴったりだった。

 

「すごい、まるで僕の指に合わせて作られたみたいにぴったりだ!でも、ちょっと慣れないかな…僕はアクセサリーとかつけたりしないから」

 

達也くんが僕のことをじっと見つめている。何だか罠にはまった小鳥を見つめる猟師みたいな目だな…気のせいだと思うけれど。

 

「日常はめていれば慣れるだろう。だが精密機械で完全防水とまではいかないから、入浴時は外す必要がある。久は料理をするから、指輪をはめるのは外出時だけのほうがいいだろう」

 

水滴型のデバイスを首にかけて制服の下に通す。小さくてデバイスがあることはわからない。

これを使えば、『サイキック』を『魔法』で代用することが出来るな。達也くんが10個の『魔法』の説明をしてくれる。ためしに『念力』のかわりに『物体移動』を試すと、思考しただけで金属製の箱が浮いて、音もなくテーブルに降りる。力の加減もスムーズで驚いた。

 

「問題ないようだな。使いこなせそうで俺も安心したよ」

 

まるで、達也くんは自分がこのCADを作った責任者みたいに安心していた。

 

「うん、有難う達也くん、真夜お母様にお礼の電話しなくちゃ。達也くんからもお礼を言っておいてよ。僕凄く嬉しいよ!」

 

「…わかった」

 

僕は右手の薬指を陶然と眺める。女性が指輪を貰って喜ぶ気持ちがわかるな。

なんだか真夜お母様と絆が深まった、いつでも繋がっているみたいだ。

そんな僕を、達也くんはいつもの無表情、深雪さんは笑顔で見つめている。

深雪さんの目が少し悲しそうに感じるのは気のせいかな。

水波ちゃんは、ずっと硬直したままだ。

 

その後、夕食に誘われたけれど、遅くなるのも失礼だし、澪さんが待っているので、何度も二人にお礼を言って達也くんの家を後にした。水波ちゃんはきちんと頭をさげて見送ってくれた。

帰りのキャビネットの中で真夜お母様に電話する。でも、お忙しいのか繋がらないな…

不器用な手つきでメールをうって、お礼を伝えることにした。

その右手には頂いた指輪が輝いている。えへへ。

 

 

帰宅中は僕もそれとなく、不審者を警戒している。登下校中が一番危険度が高いからだけれど、僕の警戒がどれくらい有効かは怪しい。

自宅近くでコミューターを降りる。このあたりはもう澪さんの護衛の人がいる。専用の家まで借りていて、もしもの時はその家に駆け込むよう言われている。

24時間お疲れ様だけれど、戦略魔法師の警護は国策だし、澪さんの引きこもり生活の安全が第一だ。

 

そのおかげで、ここまで来ると僕も警戒を解ける。

薬指の指輪をちらちら見ながら歩く。僕は『サイキック』だけれど、普段『能力』は全く使わない。物を取りに行くときも横着しないで、自分の足で歩いて取りに行く。だからこの思考型CADも、日常使う機会はあまりないんだよな。魔法は10個だけで、入れ替えは頻繁にできない。授業では備品のCADを使うし、ほとんどただの指輪状態だな。むしろその方が嬉しいかも。

 

自宅近くの交差点を曲がる。自宅までは目と鼻の距離。薄暮の道路を歩く。

 

向こうから、背の高い男性が歩いてくる。髪が長くて、スーツ姿の容姿の優れた青年だ。人の目を引くはずの美貌なのに、奇妙に存在感が希薄だ。

僕は右手の指輪をちらちら見ながら歩く。

ひとつに集中すると他に気が回らなくなるのは僕の悪癖だけれど…なにかおかしい気がする。

 

男性が立ち止まった。歩く僕とすれ違う…

 

「こんにちは、多治見久さん」

 

いきなり話しかけられて、びくっとしてしまった。顔を上げると、男性は、あれ?さっきすれ違ったはずだけれど、男性は僕の前3メートルの位置に立っていた。

貴公子然とした涼しげな容貌だ。僕と同じで長い髪が春の暖かい風に揺れている。

 

「初めまして、『超越者』殿、いえこのような呼び方はお嫌いでしたか」

 

『東京レイブンズ』の『大友陣』さんと同じ声だ。偽関西弁じゃなくて、ちゃんとした標準語だけれど、どこか『陣』さんに似ているな。容貌じゃなくて、底から来る実力者の気配…

 

ん?『超越者』?どこかで聞いたような言葉だ。

『超人』って『パラサイト』のマルテや『ピクシー』が言っていたけれど、同じ意味かな。

 

「あなたは…誰ですか?」

 

男性と僕が向き合っている。おかしいな、澪さんの護衛の人が、すぐ駆けつける状況なんだけれど。

 

「私は周公瑾。横浜で中華料理店を経営している者です。そして、仙道を極め『高位』にたどり着こうとする術者、多治見さんの『後輩』にあたるものです」

 

「中華料理のデリバリーは頼んでいないですよ」

 

「いえ、出前ではないのですけれど…」

 

周公瑾さんの中華料理屋さんは出前はやっていないそうだ。

 




東京レイブンズ好きなんです。アニメも全話録画してますし、原作も全巻買っているんです。
このSSでこれまでに声優ネタで出してきたアニメのタイトルは基本自分が見たことがある作品だけ。
もっとも最近は録画しても見ていない作品が山積みです。
そして見ようとしたらブルーレイを読み込めなかったときのションボリ感といったら…

お読みいただき有難うございました。

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