パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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ぺちゃり!

「僕はお前を認めないからな!」

 

モリサゲくんの公開プロポーズは見事に失敗した。でも公衆の面前で深雪さんにアタックする度胸は凄いと思う。

僕は校門での騒ぎのあいだ、達也くんの後ろにただ立って見ていた。

レオくんやエリカさんの動きの早さや美月さんの情熱的なところ、七草会長や委員長さんの毅然さ、なにより達也くんの対人調整の上手さに感心しきりだった。

モリサゲくんの去り際、取り巻きの生徒が「覚えていろ!」と小声でつぶやいていた。

 

『覚えていろ』

 

何てすばらしい台詞なんだろう。

犯罪まで犯して(自衛以外の魔法は明確な犯罪だ)先制攻撃に失敗しておいて二度目があるなんて、何て優しい世の中になったんだろう。

刀を抜いた以上は、相手を戦闘不能にするまで攻撃する覚悟がないなら抜かないべきだ。

校門事件のおかげでクラスメイトの光井ほのかさんと北山雫さんとお友達になれたのはよかった。

たったの二日でこれなら友達100人も夢じゃないぞ。

 

そう思っていたけど、翌日の教室は僕を見る視線がよけいきつくなっていた。

二科生の肩を持つチビ。しかも、まわりに深雪さんほのかさん雫さんと美女三人をはべらせている。

正確には深雪さんに二人が集まって、僕は隣に座っているだけなのだけれど。

とくにモリサゲくんの集まりはぶつぶつ毒を吐いている。

そんな時間があるなら勉強すればいいのに。みんな頭がいいんだな。

今日から本格的に授業がはじまるから、その前に端末のテキストをキャンパスノートに書き取りしはじめた。

一字一字、刻むようにシャーペンで書いていく。ノートにはすでにびっしり書き込まれている。

 

「え…?ノートに書き取り?」

 

ほのかさんが驚いた声をあげ、雫さんも、

 

「アナログ…」

 

と驚いている…のかな?

 

「うん、端末の液晶で勉強しても中々覚えられなくて。こうやって書き写すのが今も昔も一番の記憶術だよ」

 

見るだけで記憶できる能力があればいいんだけれど…とつぶやくと深雪さんが微妙な表情をした。

僕なにか変なこと言ったかな。

 

「あんなに頭のいい達也くんだって毎日勉強しているんでしょ」

 

「ええ、お兄様は誰よりも努力を惜しまない人なの」

 

「すごいなぁ達也くんは、いつか追いつきたいなぁ」

 

今日の深雪さんは朝から少し機嫌が悪かったけれど、少し回復したみたいだ。良かった。茶碗蒸しシャーベットはもうゴメンだし。

僕も達也くんには及ばないけれど頑張るんだ!と両手をぐっと握り締める。

実際、寝る間も惜しんで勉強している。僕はあまり睡眠はとらないけれど、勉強ばかりも学園生活に幅が出来ないので、早く皆に追いつかないと。

 

翌日の深雪さんはものすごく機嫌がよかった。

深雪さんは生徒会に入り、達也くんも風紀委員になったんだそうだ。

風紀委員のなにが嬉しいのか良くわからないのだけれど、深雪さんが花のように笑っているとクラスの雰囲気も明るくなる。

相変わらず僕を見る男子生徒の目にトゲがあるけれど…

その日は一般科目の体育があったんだけれど、僕が更衣室で着替えようとするとものすごく嫌がられた。

男子生徒が全員着替え終わってからにしろと言われ、一人ぽつんと着替えた。男同士なのに変だなぁ。

運動は苦手だ。昔は鍛えていてドーピングもあって身体能力は異常だったけれど、今は筋肉が全然ないから。

僕がとてとて歩くのは制服がぶかぶかだからじゃなく、たんに体力がないせいなのか…鍛えないといけないな。

体育も終り一人遅れて教室に戻ると、僕の机の上にびりびりに破れたキャンパスノートが散らばっていた。

落書きまでしてあって、僕は一瞬途方にくれた。

ほのかさんや雫さんが怒って、深雪さんも静かにクラスを見回していた。僕が泣くとでも思ったのかな。

僕が途方にくれたのは、ノートなんていくらでも手に入るものを攻撃して楽しむようなメンタルの高校生がいると言うことにだ。

ノートは記憶するための手段でしかなく、べつに思い入れも無い。

この手の行為はだんだんエスカレートするかもしれないから気をつけたほうがいいいんだろう。

書いた分は覚えたし、破かれたノートを集めゴミ箱に捨てる。

新しいノートを出して、平然と書き取りをはじめる僕を皆が(深雪さんたちも)きょとんとした顔で見ていた。

 

午後、全一科生合同の授業が広い闘技場であった。

僕たちも自分のCAD持参で参加した。授業自体は簡単で、2・3年生には復習と習熟、1年生は授業と上級生との交流だ。

それは建前で実際は授業はさっさと終り、残った時間(残った時間の方が長い)を使って新入生の腕試し、上級生との模擬戦が行われた。

新入生のなかにも名の知られた生徒がいるのだろう、七草生徒会長や風紀委員長、それに存在感のある大きな男子生徒が端末のリストと新入生を照らし合わせている。

なるほど首実検みたいなものか。ちなみに深雪さんは除外されていた。ものすごい魔法戦になるからだそうだ。

何試合か行われて、当然上級生が全勝。今は新入生の十三束鋼くんと服部副会長が模擬戦をしている。

激しく体が入れ替わり、魔法が飛び交っている。流れ弾や外れた魔法は大きな男子生徒と七草生徒会長が難なく防いで、取り囲むように見ている生徒を守っていた。

服部副会長も新入生だと侮らず真剣に闘っている。ちょっと力が入りすぎているような気もするけど何かあったのかな。

十三束くんも善戦したけれど、勝利は服部副会長だった。お互い健闘をたたえ合っている。うん、副会長は立派な人だな。

勝った人も負けた人も、すごかった。現代魔法がここまで緻密で種類が豊富だとは知らなかった。物凄く興奮した。

その気持ちは身体の大きな男子生徒、十文字克人さんも同じみたいで、

 

「俺と模擬戦を行いたい新入生はいるか?」

 

と立候補者を募った。うん、低くていい声だ。間違ったことを言っても何故か正解かと思わせる胆力がある。

新入生はみな一歩下がったかのような雰囲気だ。二日前あんなに尊大だったモリサゲくんも背中が丸くなってる。取り巻きは震えている。

それでもモリサゲくんは踏ん張って、目の力は失っていない。闘いたいんだろうか。

 

「モリサゲくん、挑戦してみたらどうだい」と、僕は背中を押してあげた。でも、

 

「むっ無理に決まっているだろう!僕じゃ勝負にならない!それに僕は森崎だっ!」

 

と首を振った。なるほど勝てない戦はしないと言う戦術なんだ。彼我の実力差を見極められる実力があると言うことだ。

でもここは敵わないまでも全力でぶつかっていく方が深雪さんの好感度が上がると思うのだけれどなぁ。

 

「おっお前が挑戦しろよ!」

 

モリサゲ…いや森崎くんの取り巻きが僕に言う。声が震えているけれど、トイレ我慢しているのかな。

 

「ん、そうだね、じゃぁ挑戦してみる。はい!僕が十文字先輩に挑戦します」

 

はきはきと元気な声で手を上げる僕。森崎くんも取り巻きも、いや全生徒が驚いているみたい。

一番驚いているのは十文字先輩だったけれど。

 

「おまえが?」

 

「ハイ、宜しくお願いします」

 

とてとてと十文字先輩の前に向かう僕。

闘技場の、生徒で囲まれた円形の舞台に十文字先輩と僕が対峙する。おっきいな、僕の二倍背が高い。体重は何倍だろう…

七草生徒会長と風紀委員長がなにやらごそごそ話している。

風紀委員長がごほんとひとつ咳払いすると、「ん、では私が審判をしようと」僕たちの間に立った。

十文字先輩も真剣な顔になる。いやもともと真剣な顔だったけれど…臨戦態勢になったのはわかる。

闘技場の生徒たちにもその気配は伝わり、ざわついていた声がなくなる。

 

「では、これまで同様、死や再起不能、身体を損壊する攻撃は魔法でも直接でも禁止、頭部への攻撃も禁止する、蹴りを行う場合は…」

 

とっても素敵な声で細かいルールを説明してくれた。この声も聞いていたいなぁ。

 

委員長の「開始!」の合図で模擬戦が始まった。

 

僕が深雪さんと同じ携帯電話タイプのCADをすっと構え、操作する。

刹那、瞬きよりも速いスピードで、僕は十文字先輩の後頭部に浮いていた。

 

擬似瞬間移動。僕の能力からすれば、CADの操作分著しくダウングレードな魔法だけれど、烈くんに非常時以外は必ずCADを使うことを魔法科高校入学の条件にされているからしかたがない。

僕の擬似瞬間移動は人間の反射速度を軽く超えているので、十文字先輩も生徒たちも僕が十文字先輩の後頭部の中空にいる事にすら気づけない。

でも、問題はここからなのだ。

魔法だって普通の格闘技だって、訓練と反復が大切で、何よりもセンスが必要だ。

かつての僕はひとつの能力で力押しをしていくタイプだった。それ以外に必要が無かったから。

CADの操作にも慣れていない僕は最初の一回目はいいけれど、それにつなげるコンボがとっさに浮かばない。このCADどんな魔法が使えたっけ?

まずい、こんな事を考えていたら中空の僕はいい的だ。

こうなったら!CADを持っていない左手で拳骨を作ると、十文字先輩の頬げたに向かって、思いっきり、

 

「えいっ!!」とぶん殴ったんだ。渾身の力を込めて!

 

 

ぺちゃり。

 

 

十文字先輩の頬から、世にも可愛い音がした。

 

いっ痛い!殴った僕の拳骨より十文字先輩の頬の方が硬い!思わず左手を擦ろうとしたけど、その右手にはCADを持っている。あっどうしようと思っていると、僕の体勢は崩れ、変な角度で落下し始めた。

こんな時こそ魔法なんだろうけれど、重力を制御するような魔法CADに入っていたかな…あっ頭から落ちる!

「危ない」と誰かが叫んだけれど、逞しい両腕が僕をひょいっと抱きかかえた。僕も慌てて目の前のモノにしがみ付く。ひしっ!

 

男子生徒たちから遅れて歓声が、女子生徒からはなぜか黄色い悲鳴があがった。

僕は十文字先輩に横抱きに、いわゆるお姫様抱っこをされていた。僕の腕は先輩の首を抱きかかえている。お互いの顔が物凄く近い。きょとんと先輩を見つめる僕を、先輩も見つめ返している…

 

「きゃぁぁあ!なにあの子、男の娘?」「ファンタジスタよっ」「いい、これいい誰か写真を…」「わっ私も撮る!」「十文字君!そのまま動かないで!」

 

ぼっ僕は確かに男の子だけど、今変な変換してたよね!僕と十文字先輩は何故かそのまま固まっていた。

 

「驚いたな、十文字が攻撃を受けたのは初めてじゃないか?」

 

風紀委員長さんのつぶやきに、

 

「でもこれって勝負はどうなるのかしら…顔への攻撃は禁止されていたわよね」

 

七草生徒会長が妙に漫画チックに首をひねる。しまった!そうだった!審判団の協議の結果、僕の反則負け、と言う事になった。

十文字先輩にゆっくり下ろされ、しっかり挨拶して深雪さんたちのところに戻る。はぁ負けちゃった。

しょんぼりしていると、ほのかさんが抱きつくように褒めてくれて、深雪さんも雫さんも、クラスのほかの生徒たちも物凄く褒めてくれた。

負けて褒められる…初めてだなぁ。涙がでるほど嬉しいや。

でも、どれだけ魔法のスペックが高くても魔法師の経験が僕は足りないなぁ。もっと勉強しなくちゃ。

 

「これは、今年のクラブ勧誘週間は大変だな」

 

誰かが言った。クラブ勧誘週間?

 

 

その日をきっかけに、僕への嫌がらせはなくなった。深雪さんたち以外とも会話をするようになれて嬉しいんだけれど、

なぜか着替えは一人でやれって、僕だけ後に更衣室を使わされるんだ。

「僕も男の子なんだから一緒で良いでしょっ」て抗議したら、森崎くんだけでなく、深雪さんにも「駄目です」って言われた。

どうして?

 

 




あれ?森崎くん活躍しなかった。原作シーンと重なる所はさくっと進める予定です。
以降は不定期になると思いますが宜しくお願いいたします。

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