パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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今回の話は余分かなぁと思ったのですが、書いてしまったのでアップします。
一高内で起きた原作部分は駆け足で進めます。


九重八雲

10月に入って、達也くんが論文コンペのメンバーに選ばれた。

市原先輩が中心になって3人がメンバーになるんだそうで、論文のテーマは、

 

重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性

 

 

さっぱりわからない…

 

一高前駅のお馴染みの喫茶店で、いつものメンバーが集まったところで、達也くんが説明してくれた。

 

やっぱりわからない…

 

僕と同じ反応をしているのはレオくんだけだ…

 

幹比古君が言うには『加重系魔法の三大難問』だそうでポアンカレ予想みたいなものかな…違うみたいだ。

魔法師の兵器利用以外の道を開くアプローチなんだそうだけれど、ひとつの熱核融合炉と何万人もいる魔法師の解放がどうつながるのかさっぱり…

まだ机上の段階で実用化には進んでいない、論文レベルなのだからずいぶん時間のかかるアプローチだ。

高校生があつかうレベルを超えている。さすがは達也くんだ!

でも魔法師の解放は、もう少し単純なレベルからアプローチした方がいいんじゃないかな。難しすぎて一般市民には理解できないだろう。

…せめて僕がわかるレベルでお願いしたい。

 

論文コンペに関して、僕が達也くんを手伝えることははっきりいって、ない…

むしろ足手まといになる。荷物運びくらいは…それくらい自分で持つと断られた。うぅ小さな身体が恨めしい。

 

論文を学校側に提出する日の帰り、久しぶりに全員がそろって駅前まで帰宅する。

幹比古くんやエリカさんがすこし周りを警戒しているみたいだ。

 

途中、RPGゲーム内で達也くんはどんなキャラに相当するかなんて、珍しく勉強以外のネタでもりあがった。

結論は、達也くんは魔王を倒した後に現れる、真のボス。つまり『大魔王バーン』か。

 

「お兄様、力こそ正義です!」

 

大魔王の妹はきっぱりと言う。

僕はなんだろう。達也くんに倒される敵じゃないといいけれど。

 

達也くんの提案でいつもの喫茶店に寄る。

達也くんは深雪さんとほのかさんに挟まれてカウンターに座った。最近のほのかさんは達也くんにべったりだ。

おかげで僕は達也君の隣に座れず、雫さんのオモチャになっている。やめて、雫さん、僕の髪を三つ編みにしないでぇ。

 

エリカさんがトイレに行ったままなかなか帰ってこない。

便ぴ…かな…いやいやこれはセクハラになるので思考中止。

あれ?そういえばレオくんもさっき電話だって席をはずして帰ってこない…これは逢引?

こんな白昼堂々…南の島で何かあったのかな。よし、僕は二人の仲を応援するよ。ってとくに何かするわけじゃないけれど。

 

 

 

しばらくして、なんだか不機嫌なエリカさんが戻ってきた。

 

「まんまと逃げられるなんてっ!」

 

便ぴ…え?違う?

エリカさんは、いつも何か不満を抱えていて、それを笑顔で隠しているような人だ。

じれったいことやもどかしいこと、我慢できないことがあると、周りに当たる。

レオくんや幹比古くんは最大の被害者だ。幸い僕はクラスが違うので被害者クラブには入っていない。

そのかわり深雪さんや真由美さんにおもちゃにされる…

もう少し肩の力を抜けば良いのに名家は大変なんだろう…真由美さんに似ているな。

唯一達也くんに対するときだけは違うんだけれど、そのエリカさんが笑顔の仮面をはずして怒っていた。

 

「まぁ、あれ以上時間はかけられなかったんだから仕方ねぇけどな」

 

「あんなのがうろうろされてたんじゃおちおち学校にも通ってられないわよ」

 

「そのわりには楽しそうだったが…」

 

なにぉ!といつもの喧嘩をはじめる二人。相変わらずの仲の良さだ。

幹比古くんの結界内で、レオくんとともに謎の工作員と戦闘したのだそうだ。

こんな一高の近くで?

達也くんも深雪さんも察知していたみたい。こういう場合、僕や美月さん、雫さんほのかさんは蚊帳の外だ。

幹比古くんはお札に筆で何か描いていたけれど、あれが古式魔法の術式なのか…

街中にはサイオンセンサーが縦横に設置されているのに、古式魔法って探知されないのかな…?

僕の『サイキック』は街中のセンサー程度では探知できない。

僕もみんなの役に立ちたいけれど、僕が出来るのは基本的に破壊工作や人殺しだ。

僕は、敵は嬲るよう殺せと教えられているから、僕の正体を知ればみんなに嫌われるかな…

手加減する殺し方を勉強した方がいいかな。

 

 

 

みんなと別れ、自宅の前でコミューターから降りる。

今日は響子さんも澪さんもいない日なので、ご飯どうしようかなと玄関前で思っていたら…

 

「こんにちは、多治見久くん。お久しぶりだねぇ」

 

いきなり声をかけられたので驚いた。

 

「探知系が苦手なのは本当みたいだねぇ」

 

「うそはつきませんよ。こんにちは九重八雲さん」

 

約五ヶ月ぶりの再会だ。いつもとおなじ格好で相変わらず飄々とした態度の八雲さんは、手を伸ばせば届く距離に立っていた。

見方によってはいきなりそこに現れた感じだ。

近すぎるな…僕の探知能力を試していたのかな。八雲さんの実力なら、僕は鼻をつままれるまで気が付かないだろう…

 

「うそはつかないけれど、黙っていることはある、ってかい?」

 

「それはみんな同じでしょう。それに自分のことも僕はよくわからないし…」

 

違いない、と剃った頭を叩く八雲さん。八雲さんは秘密だらけな感じだ。まぁ忍びだから当然かな。

 

「それで今日はどうなさったんですか?もしかして僕の手料理を食べに?今から夕飯の準備なんですよ」

 

「それはそれで魅力的なんだけれど」

 

実はね、と八雲さんは話を始めた。

さっき一高近くでエリカさんとレオくんが戦った外国の工作員が、虎のような大男に殺されたんだそうだ。

連絡が付かなくなった工作員の仲間は原因を突き止めるために、最初にいざこざを起こしたエリカさんとその仲間、つまり僕たちに目をつけた。

工作員たちは当然、僕たちの身元は調べていたから、まずは天涯孤独な僕の包囲を狭め始めた。

一高周辺で調査の網をひろげていた八雲さんが、工作員たちの動きに気づき…

 

「また騒ぎが起きる前に僕の弟子たちがその工作員は拘束したんだけれど」

 

またか…こちらはセンサーやカメラを意識して魔法の行使は制限されているのに、犯罪者や工作員はお構いなしだ。

警察は本当に何をしているのか…僕の一高教師と警察への不信感は右肩上がりだよ。

これからは容赦なく、『飛ばして』しまおうか。

ただサイオンレーダーは何とかなるけれど、普通の街頭カメラどうしようもないしな…

でも、僕はふいをつかれると弱い。さっきの八雲さんに攻撃の意志があれば、僕はあっけなく倒されていただろう…

 

「お手数をおかけします…いろいろと気を使っていただいているみたいで。僕にはお返しは出来るものがないし…やっぱり身体で…」

 

「いやいやいやいや、それは遠慮するよ」

 

八雲さんは両手を僕に向けて、顔を左右に振った後、細い目を僕に向けて…

 

「君は…危ういんだ。強力な『能力』を持っている一方、探知系が全く駄目とか、偏りも激しいしね」

 

「何でも出来る万能な人は…いないと思うけれど…僕は『サイキック』で、『エスパー』でも『魔法師』でもないですから」

 

「まぁ、それにしても極端すぎるからねぇ…これまではよかったけれど、これからは君の周りでいろいろ騒動が起きると思うんだ」

 

「今でも起きていますよ?」

 

「今までは一高の周りで起きている事件に巻き込まれていたんだよ。でも論文コンペ以降は君そのものが標的になるかもしれないからねぇ」

 

「論文コンペでなにか起きるんですか?僕は行かない方が良いと?」

 

「そうなんだけれど…どのみち早いか遅いかの違いだろうし、すでに蜘蛛の糸は複雑に絡まって君の周りに張り巡らされているしねぇ」

 

八雲さんはため息をついた。でも悲観している顔ではなかった。

 

「ただ、君は自分の価値をもう少し考えた方がいいかな。君の『能力』の真の価値を知った者は何が何でも手に入れようとするだろうからね…」

 

八雲さんの言うことは良くわからないけれど、論文コンペで何かがあると言う警告…忠告かな。

 

 

その後も、学校では騒ぎがいくつかあった。

レオくんとエリカさんの不登校は奇妙な噂を周囲に撒き散らしていたけれど、校内は論文コンペに向けて一丸となり始めていた。

論文コンペの会場は生徒たちが警備にあたるそうで、十文字先輩を中心に模擬戦なんかもしている。

学校や魔法師協会はちゃんとした警備を雇わないのか…いや、これがこの魔法師世界のデフォルトなんだよ。

僕は料理部のみんなと炊き出し係りだ。

模擬戦後休憩していた幹比古くんが美月さんにラッキースケベしていたのはばっちり目撃した。

羞恥で駆け出す美月さんとしりもちをつく幹比古くん。料理部の先輩の叱咤で美月さんを追いかける幹比古くん。

うんうん、青春だねぇ。

 

 




久くんはSSでお馴染みの万能チートではありません。

久の現時点での情報と『能力』は活動報告のアップしました。

もちろん、この時点では開示していない情報もあります。
それは来訪者編で明らかに出来ればいいかなと思います。

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