パープルアイズ・人が作りし神   作:Q弥

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基本的に、原作の細かいエピソードは、小説やアニメで既知なので、さくっと飛ばします。く


日常

 

 

僕は、昔、学校生活に憧れていた。

魔法科高校は色々と大変だけれども、入学できてよかったと心から思う。

 

夏休み、九校戦の練習、九校戦、四葉真夜お母様、南の島、響子さんと澪さんとの同棲(?)生活。

こんな楽しい一ヶ月は無かった。

 

 

基本的に僕は引きこもりだ。一人のときはやることが無かったので、勉強(丸暗記)をしていた。

九校戦後は、澪さんや真夜お母様が魔法のコツや記憶法なんかを教えてくれたおかげで、丸暗記より少し理解しながら勉強できていた。

それで気が緩んだのは否めない。

今は同じ引きこもり仲間の澪さんが、一緒に遊んでくれるから、南の島から帰宅後は気が緩みっぱなしだ。

しかも、澪さんが家にいると、家の周りの警護はそれはもう国家レベルだ。日本の切り札である澪さんの警備で、町内の治安を最高にしている。

僕は誘拐や事件に巻き込まれる心配がまったくなくなった。

澪さんも今は夏休みなので、僕と一緒に、朝から晩までオタクトークでだべりまくり、夜は力尽きて同じベッドで寝て…

 

機械音痴の僕にかわって、端末で何でも買ってしまう澪さんは、

 

「ポテトチップスは野菜ですよ?」

 

と言うほどの引きこもりクィーンだ。澪さんの虚弱はこのあたりから来ているのかもしれない…

 

だからこれも、学校生活の醍醐味なんだと思う。

今日は8月30日だ。あさっては始業式。

 

「うあああああ!宿題終わらない!」

 

僕は頭をかかえて室内を転げまわっていた。

 

「あれだけサボりまくっていれば当然でしょ!魔法科高校の勉強は遊び半分では無理なのよ」

 

休日の響子さんはラフな格好でラフなことをおっしゃる。

宿題は南の島に行くまでには少しはやっていたけれど、九校戦参加者には成績に色をつけるのではなく、宿題の量を減らして欲しかった。

きっとこんな背水の陣をやっているのは僕だけなんだろうな…レオくんはまじめだし、僕以外はみんな座学は優等生だ。

達也くんと深雪さんなんて今頃、優雅に二人でティータイムしているにちがいない。

 

「久くん大丈夫よ、お姉ちゃんが手伝ってあげるから」

 

澪さんは、基本的に僕には甘い。夏休み一緒に作ったイチゴジャムより甘い。しかも澪さんは僕と一緒に漬かるからますます甘い。

 

「駄目ですよ、澪さん!宿題は自分でするものですよ!」

 

響子さんは建前上、僕の婚約者になっている。でも現実はダメダメな弟妹をもった長女的立ち位置になっている。

仕事場でも家でもストレスを溜めさせてごめんなさい。

 

僕は響子さんの監視の下、机に向かい涙目で宿題をする。それをドアの隙間から見守る澪さん。

 

「二人とも頭がいいから…僕には無理なんだよぉ」

 

「頭の良さとサボりは別です!ほらそこ間違ってるっ!」

 

「ふぇええええん」

 

結局31日の夕方まで仮眠もそこそこ、一気に宿題を終わらせる。実は響子さんも澪さんもちょこっと手伝ってくれたのは内緒だ。

お礼に自作のイチゴジャムでヨーグルト食べようよ!

 

「ん、これ美味しいわね…」「澪お姉ちゃんはたっぷりかけるよね」「イチゴを潰しすぎないのがいいですね」

 

うんうん、甘いものに舌鼓の三人はもう日常系アニメキャラの顔をしている。

 

 

夜、明日の準備をしているときに気が付いた。

 

「あっ、美術の課題が残っていたな…何だったかな」

 

…美術の宿題は…人物デッサン?これならすぐ終わるかな。

 

「人物デッサン?じゃあヌードなのね」

 

「ちょっ藤林さん!なに脱ぎ始めるんですか!じゃぁ私も久君のためなら脱いで…」

 

「なにやってんですか、服は着ててください!動かないで…二人一緒に描きますから!」

 

やたら脱ぎたがる二人を懸命に押しとどめて…惜しいことをした…いやいや僕は10歳。

そもそもヌードデッサンなんて提出できないでしょう!

 

しかし、不器用な僕の描くデッサンなんて、『アルスラーン戦記』の『ナルサス』さんよりひどいものができあがる…

とても二人には見せられない…僕的には上手く描けたと思うけど。

二人の反応は…ごめんなさい。

 

睡眠前、響子さんの携帯端末が鳴った。確認した響子さんは、僕たちに一言断って駐車場の電動クーペに向かう。

家のネットワークは普通の家庭用とは少し違う。響子さんがグレードアップして並のハッカーでは進入不可になっている。

それでも、響子さんは念のため、自分の車で通信をするようだ。

僕たちには聞かせたくない類の内容なんだろう。でも、その会話は短かった。

台所に戻ってきた響子さんは難しい顔で少し迷ったけれど、

 

「大陸の某国の動きが少し活発になっているみたい。すぐどうこうなるとは思わないけれど、10月には横浜で魔法科高校の論文コンテストもあるから二人とも少し気にかけておいてね…」

 

防衛省にお勤めの響子さんが、本当はいけないんだけれど、秘密の情報を漏らしてくれたんだ。

高校の論文コンテストと他国がどう結びつくのかわからなかったけれど、澪さんはこくりと頷いた。

その表情はいつものとぼけたお姉ちゃんではなく、この国の切り札・戦略魔法師の表情だった。

また魔法科高校で騒動が起きるのかな…

 

 

翌日、二学期初日。響子さんは仕事にでかけ、澪さんも自宅に戻って独自に調べてみるそうだ。

 

久しぶりの1-Aの教室で九校戦以来の森崎くんに再会した。

モノリス・コードのときの傷は癒えていた。それに、夏休み前にくらべて森崎くんは落ち着きがついたみたいだ。

 

「九校戦もそうだけど、夏休みに色々あってな。僕は慌てすぎていたんだって思うようになったんだ…」

 

「そっかっ!森崎くんひと夏の経験ってやつをしたんだね!大人になったんだね!」

 

僕はおっきな声で驚いた。友人の成長は喜ぶべきことだ!

 

「なっ、多治見っ!おまっなんて事を言うんだ!」

 

その後、森崎くんは男子生徒に囲まれていた。うんうん、仲良きことは良きことかな。

 

まだみんな高校生なんだから、大変なときは大人にまかせて…任せられる教師がいないんだった…

そういえば九校戦のとき、教師たちは何をしていたのかな…慰安旅行でもしていたのかな。

威厳と貫禄はあるけれどイザと言うときに何の役にも立たない校長を筆頭に…

10月の論文コンテストも教師は生徒に丸投げかな…不安だ。

 

 

魔法科高校は始業式なんてものはなく、いきなり通常授業だった。

夏休みボケの頭にいきなりの授業はきついなぁ。

 

深雪さんは、雫さんとほのかさんとの会話にぎこちなさがあった。

南の島でなにかあったのかな…たぶん達也くん関係だろうけれど…

でも、こればかりは当人同士で解決するしかない。ちょっとした歩み寄りだと思うな。

 

 

お昼になった。

今日の僕はお弁当だ。朝、響子さん澪さんの分も一緒に作った。

澪さんの東京の自宅は弟さんと二人暮らしだそうだけれど、お弁当一人で食べるのかな…

僕は学校があるし仕方が無いけれど、寂しいな。

一人より大勢で食べた方が美味しいよね。弁当作りも三人分のほうが張り合いがあるな。

 

深雪さんとほのかさんたちの間はまだすこし煮え切らない。

その雰囲気は教室にすぐ伝染する。すこし居心地が悪い…

 

教室をあとにして、食堂でレオくんたちとお弁当と思っていたら、途中、真由美さんに遭遇。

真由美さんに九校戦の帰りのバスでのことのお礼を言って食堂に逃げようと思っていたけれど…

 

「久ちゃん、いっしょに生徒会室でお昼食べましょう」

 

がしっと腕を掴まれる。僕は非力だから引きずられるように生徒会室に連行される。

あぁ…今日も遊ばれるんだな…諦念。

 

生徒会室には達也くんと深雪さん、生徒会役員共に、渡辺委員長、僕。

達也くんとは南の島以来だ。

 

全員、お弁当だ。渡辺委員長も手作りなんだそうだ。全員女子力が高いなぁ。

僕のお弁当は、体格に似合わず大きい。おかずも豊富だ。みんなと交換をしたりするんだけれど、こういうのも楽しいな。

 

食後は次の生徒会役員の話題になった。現生徒会は今月で引退なんだそうだ。

時期生徒会長は、あーちゃん先輩かはんぞー先輩のどちらかになるそうだけれど、あーちゃん先輩はいやがっていた。

 

「久ちゃんはどちらが適任だと思う?」

 

真由美さんが尋ねてきたので、僕は少し考えて、

 

「生徒会選挙、僕は…あーちゃん先輩が良いかな。だって、九校戦の帰りのバスで僕を助けてくれたのはあーちゃん先輩だし。

はんぞー先輩はどっちかっていうと補佐とか現場が似合うかな…あーちゃん先輩なら優しい生徒会になると思うよ」

 

「優しいだけでは…一高の生徒会長は…ぶつぶつ」

 

十師族の真由美さんの後任は誰がやっても大変だと思う。

テロリストや危険思想を持つ輩が比較的容易に攻撃してきたりするのに教師は生徒に丸投げという、生徒自治も行き過ぎな学校だ。

ライトノベルによくある謎の権力集団生徒会でも普通テロリストと戦ったりはしないだろうに。

そんな戦闘生徒会長には確かにあーちゃん先輩は向いてないかな…

まぁいざとなったら腹黒い…(物理的に冷たい視線を感じて)もとい、策士の達也くんがいろいろと動くだろう。

 

生徒会室に漂っていた微妙な空気をかえようと、真由美さんが僕に話題をふる。

 

「そういえば、久ちゃんは五輪澪さんとお知り合いだったの?九校戦の後夜祭ではずいぶん親しそうだったけれど」

 

「ホテルであって意気投合したんだ」

 

「ホテル?澪さんはVIPルームを使用していただろうし、どう知り合ったの?」

 

烈くんのことは秘密ではないけれど、澪さんとはオタク仲間で同棲(?)中とはとはいえないし。

そうなると響子さんが婚約者(仮)のことも言わなくちゃいけなくなるかな…

真夜お母様のことも秘密…

 

僕って秘密が多いな…それに、周りを見渡すと尋常でない人たちばかりなんだよな…

おかしいな僕は普通に学校生活をおくりたかったはずなんだけれど…

 

「ん?普通に廊下でばったりあったけれど?」

 

うん、ウソは言っていないぞ。

真由美さんはあまり納得していないような感じで、漫画チックに首をひねっている。

そりゃ26歳の女性と見た目10歳の男の娘が意気投合って、ぴんとこないよなぁ。

 

どうしよう…あっ!天啓が閃いた!

 

「そういえば、真由美さんは澪さんの弟さんと交際しているんだってね」

 

「「「「「えぇ?」」」」」

 

その場の全員の視線が真由美さんに向く。

 

「両家の公認で、将来はご結婚も視野に入れていらっしゃるとか」

 

「それは、ちがう、親同士が乗り気なだけで…私たちはその気は全然なくてっ!」

 

「ほぅ、それは面白いことを聞いたな」

 

矛先が変わり、渡辺委員長がからかい、深雪さんも率先して便乗する。

真由美さんは達也くんをチラチラ見ながら弁明している。何故だろう。

 

 

 

生徒会長は紆余曲折であーちゃん先輩に決まった。

講堂で起きた顛末はここでは言わないけれど、達也くんと深雪さんの醸し出す雰囲気は完全に選挙とは別の世界だったなぁ。

 

 




次回は論文コンペ前の、校内で起きた事件の会ですが煩雑なので、今回同様さくっとすすめて、コンペ会場に向かいます。

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