7月中旬、試験の成績上位20名が発表された。僕の友人たちが一科二科関係なく上位を独占していてとっても嬉しい。
エリカさんも意外と優秀なのだ。
「どういう意味よ」
「いってぇ!なんで久じゃなく、俺の頭を叩くんだっ!!」
僕とレオくんは上位20位に入っていないので、当然公表されていない。たぶん21位なんだよ、ねレオくん。
達也くんの理論順位一位と幹比古くんの三位は一科生を驚かせたけれど、達也くんが一番なのは当たり前だよ。
達也くんはなんでも知っているんだ。
「何でもは知らない、知っていることだけだ…」
と、『羽川翼』さんみたいなことを言う余裕っぷりだ。
雫さんが上位に入れて、これで九校戦の選手に選ばれると喜んでいた。
雫さんは昔から九校戦のファンで、深雪さんも会場に観に行ったことがあるそうだ。
昔の甲子園みたいなものなんだろうな。
僕は魔法力のスペックが高いだけで、義務教育もまともに受けていないので、赤点じゃなかっただけでも一安心だ…
いや、それでももっと頑張って勉強しないと。
みんなだって、持って産まれた素質だけじゃなく、ちゃんと努力しているんだ。
…産まれ持った素質か…
僕は『ダイの大冒険』のポップの葛藤が良くわかるよ…
いつか僕も大魔道師と呼ばれるように(?)、夏休みは自宅に引きこもって、勉強しよう。
正直いって、外は怖い…
烈くんが護衛の件を約束してくれて、僕に気が付かれない範囲から守ってくれているみたいだけれど、古来から、暗殺と誘拐を防ぐ方法は無いのだ。
ターゲットが人間である以上、犯人は時間をかけてゆっくり相手が油断するのを待てば良い。
いくら僕が殺人にまったく抵抗感が無いからといっても、痛いのはゴメンだもの。
あっでも、九校戦には烈くんも来るから、一度は会場に足を運ばないといけないな。
迷わずに行けるかな…不安だ。
それに、九校戦の終わった後、ある人と会う約束をしている。
6月の建設現場で襲われたあの日、僕はあまり知らない人と会うのは気が進まなかったので、『ヨル』と『ヤミ』の話を最初は断った。
建設現場での後処理をしてくれるからと言われたけれど、やっぱり嫌かな…と考えていたら、僕のお腹が「ぐぅうううう」って物凄く大きい音で鳴ったんだ。
能力を使うとお腹がすくから仕方がないんだけれど、すごく恥ずかしかった。
二つの変死体を前にしてお腹を鳴らすなんて、まるで食人鬼だ…
「あっ主のお屋敷でお食事でもいかがですか?きっと美味しいお茶菓子もでますわよ」
「…じゃあ、行く…」
以前、知らない人にお菓子を貰えるからと言って付いていくんじゃないぞ、って達也くんに言われたんだけれど、おかしいなどうして断れないんだろう。
「あるじさんは僕に何のようなの?」
「そこまでは存じません、主に直接お聞きください」
とそっけなく『ヨル』さんは言ったんだ。
その間『ヤミ』さんは黙っていたけれど、僕のちぐはぐな行動に眉をひそめていた…
成績発表の放課後、生徒会室に呼び出された。僕だけでなく、深雪さん、雫さん、ほのかさん、森崎くんも一緒だった。
僕以外の4人は成績優秀者だから、生徒会長から表彰でもされるのだろう。
僕は…なんでだろう?
生徒会室には七草生徒会長、市原先輩、中条あずさ先輩、服部先輩。それに当たり前のように渡辺委員長がいた。
「皆さんには、九校戦新人戦の主力選手として出場をお願いします」
真由美さんがにこやかに言うと、深雪さんが責任感のある返事をして、雫さんとほのかさんはお互いの手をとって喜び、森崎くんも右手をぐっと強く握っていた。
「みんな凄いや、僕は一生懸命応援してるね!」
友人が喜んでいる姿っていいな。九校戦って甲子園みたいにテレビ中継とかするのかな…とか呟いていたら、
「何をいっている、多治見、お前も選手として出場するんだぞ」
と、渡辺委員長があきれた顔で言ったんだ。ん?
「九校戦は成績上位者から選ばれるんじゃないんですか?一生懸命勉強してきた人からすれば、成績の振るわない僕が選ばれたら不満なんじゃないですか?」
いや僕も一生懸命勉強したんだけど、この体たらく…
「多治見君の考えは半分は正解です。しかし、九校戦は魔法を使ったスポーツです。自身の得意魔法との相性が悪い成績上位者もいます。事実、総合順位4位の十三束鋼君はその理由で選手選考を辞退しています。」
市原先輩が僕の疑問に答えてくれた。
「逆に相性のいい生徒の筆頭が多治見君です。あなたはCADの操作が苦手で、状況に応じて魔法を使い分けることは不得手です。しかし、一撃に秘める威力は、そもそも司波さんより上なのです」
「だからね、久ちゃんにはアイス・ピラーズ・ブレイク新人戦に出場して欲しいのよ、お願いできるかしら」
アイス・ピラーズ・ブレイク…?氷の列柱の破壊?氷の破壊か…昔、鉄道や鉄橋の破壊は何度かしたけど…いまいちピンと来ない僕に、
「何言ってんだ多治見!これは名誉な事なんだぞ、僕と一緒に頑張って出場しよう!」
森崎くんが鼻息も荒く薦めてくれたので、僕は力なく頷いて了承したんだ。…不安しかないけれど。
結局、僕は新人戦のメンバーに選ばれて、授業を中止してまで開かれた、お披露目の発足式に参加した。
達也くんもエンジニアとして参加するそうだ。
発足式の前の舞台裏で、深雪さんが達也くんのエンジニアのジャケットの花柄の徽章をみてラブラブな雰囲気を醸し出していた。
その雰囲気に生徒会のメンバーはうんざりしていたけれど、僕はにこにこ二人を見ていた。
僕も他の選手たちと同じジャケットを…ん?ちょっと待って、僕のこのジャケット女子用だよ!スカートだよ!しかもミニだよ!
「ん?自分で着たんだろう、何をいまさら言っている?」
「だって、はいって渡されたら、僕疑わずに着ちゃうんだもん!」
女性陣の目がキランと光った気がした…錯覚だよね。ね!
「あっあら?係りの人が間違えたのね…ごめんなさい、後で男子の用意するから、今日はこの姿でね」
ウソだ!絶対わざとだ!真由美さんの影が悪魔の形してるもん。
「いやだ、僕帰る」
「だめよ!お兄様の晴れ舞台に欠員は失礼よ!」
氷の女王が僕の左腕を掴む。誰か助けて…味方なんていない…涙。
講堂の舞台に50人が整然と横一列にならんでいる。
参加選手とエンジニアを真由美さんが紹介して、深雪さんがメンバーの襟に徽章をつけている。
森崎君が堂々と胸を張っている。その隣の僕は、女子用のジャケット着せられて涙目…
深雪さんを前にした森崎くんのだらしない顔と、深雪さんの笑っていない目は印象的だった…
深雪さんは達也くんを低く評価する人には、ものすごくインギンブレイなのだ。
深雪さんが僕の背にあわせて軽く腰をかがめて、徽章をつけてくれた。
僕に向ける深雪さんの笑顔はとっても素敵だった。それが淑女の半笑いでも…涙。
「技術スタッフの司波です。CADの調整のほか訓練メニュー作成や作戦立案をサポートします」
発足式のあと、学年の男女で分かれて、ミーティングが行われた。
教壇には達也くん。達也くんの担当は一年女子だった。
教室には深雪さん、雫さん、ほのかさん、里美スバルさん、明智エイミィさん、滝川和美さん…えっと、僕。
「えっ?どうして僕も女の子のグループにいるの!?」
「何を言っているの、久は女の子じゃない」
「ちがうよ、男の子だよ!」
「そっかぁ久にゃんは男の娘だったのかぁ。でも制服は女子用だよ」
エイミィさんがニパァと笑う。違うよ男の子だよぉ!
「ボクはどっちでもいい」スバルさんがダテメガネをくいっ!
「よくないよ、僕は男の子なんだって!!」
「ここにいるメンバーは、達也さんがCADの調整をしてくれるんだから、久、嬉しいでしょ」
「え?本当に!!僕、達也くんがしてくれるんだったら女子用の制服でも我慢する!頑張る、何でもするよ」
「何でも!?って事は、あんな事やこんな事も?」と思春期な滝川和美さん。
「うっうん…達也くんが…望むなら…僕…」もじもじ、もちろん冗談だよ!
きゃぁきゃぁとガールズトークで喧しい。ん?ガールズ?
達也くんが「そろそろ打ち合わせをしたいんだが」とため息をついていた。
数日後、本格的に九校戦の練習が始まって、僕もアイス・ピラーズ・ブレイクの練習に参加している。
十文字先輩を筆頭に千代田花音先輩、深雪さんと優勝確実と言われているメンバー相手の練習なのだから、本番より選手が豪華だ。
新人戦男子は僕とあと二人。あとの二人はあまりやる気がなさそうにみえる。理由を聞いてみたら三高に絶対的優勝候補がいるんだそうだ。
競技前から戦意喪失ではだめだと思う。『あきらめたら、そこで試合終了ですよ?』って安西先生も言っているよ。
達也くんは深雪さんたち女子一年生にアドバイスをしたあと、僕にもいろいろ手ほどきしてくれる。
「久、お前の魔法力はもともと凄い。起動式はかなり荒いが、それを補う圧倒的なスピードとサイオンの量だ。先制さえ出来ればお前の勝ちは間違いない。」
「うん」
「一番のネックはやはりCADの操作だ。そこでお前にはCAD操作の練習を繰り返してもらう」
「えっと、つまり素振り?」
「まぁそうだな、防御は無視して、圧倒的スピードと領域支配力と破壊力で相手を圧倒するのがお前にあっている」
そこで僕は得心がいった。
「つまり清澄高校麻雀部の合宿で部長さんが和ちゃんに、ツモ切りの練習をさせたのと同じことだね!」
「むっ、まさか久、お前の名前は、麻雀部部長の竹井久からとっているのか?」
「三分の一は正解だよ」
とメタな会話をしつつ、九校戦に向けて練習をつづけたのだった。
いくらオリ主の設定が自由でも、
達也の異常性と価値を下げるような万能キャラにはしたくないので、
久の頭脳と肉体は基本的に10歳レベルです。
この10歳と言う設定にもじつはちゃんと意味があります。