以前も描いてアップしていたのですが、
何の反応もなかったので、不必要かなと思い削除していました。
今回、新たにラフではありますがカラーで描いたので、
感想などいただけたら嬉しく励みになります。
【挿絵表示】
終業式が終わると当日に、達也くんと深雪さんは四葉家の時期当主と伴侶として、戦没者慰霊祭や人工島完成イベントに参加するため沖縄へ向かった。当然、水波ちゃんも同行している。
三人を追うように、ほのかさんと雫さん、あーちゃん先輩やはんぞー先輩たちも卒業旅行で沖縄に行っている。
残念ながら戦略級魔法師である僕は、基本的に軍の中枢と魔法協会支部にすぐ帰れる距離にしか移動は出来ない。離島への旅行は不可能だった。
成人までは、行動は比較的自由だったはずだったけど、日々危機の増す国際情勢に、軍からの非公式の要請があったと魔法協会経由で連絡があった。
今の社会情勢では仕方がない。
自分で選んだことなので、別に文句はない。
とは言え、結婚式を一週間後に控えて、何かと忙しい。
終業式の翌日、僕と澪さんは、僕の後見人である烈くんに結婚前の挨拶をするため生駒の九島家に向かった。
烈くんは半隠居状態で、すこぶる元気そうだった。
逆に、光宣くんは二高の公式行事で疲れたのか、時々ぼうっと上の空になるのが気になった。
何か独り言をつぶやいている。
まさか中二病?
その翌日、やはり澪さんと共に横浜の魔法協会ビルで真夜お母様にご挨拶をした。
お母様は、花のような笑顔で僕たちを迎えてくれた。
午後は都内の五輪家に向かった。
五輪家の面々は、相変わらず生気にかけた表情をしていた。
去年のこの時期は、横浜事件後の戦勝ムードも重なって、世間はどこか浮かれムードだった。
卒入学する十師族の子弟も多かったので、社交的なナンバーズがあちこちでパーティーを行っていて、僕もいくつか参加している。
今年は、2月のテロ事件以降、魔法師の世界では自粛が相次いでいる。世間的にはテロ事件は解決していないからだ。一高の卒業式も、今年は静かだった。
僕たちの結婚式も、身内だけの地味な式になる。
日本有数の富豪である五輪家の結婚式の地味が、どの程度のレベルかは僕にはわからない。当初は五輪家所有の豪華客船を丸々貸し切って式を行う予定だったし。
僕は四葉家の意思決定や相続に関係がなく、ナンバーズの感覚だと、僕は四葉ではない。
後継者に指名される前の深雪さんと達也くんと同じ立場だ。
でも、僕は戦略級魔法師だ。個人で、十師族に匹敵、もしくはそれ以上の力と知名度がある。
だから僕は、真夜お母様から、あまり社交的ではない四葉家の代理として、招待状の来た会には極力参加して、他家との交流を深めるように言われている。
翌日の3月28日、僕は十師族の三矢元さんの末娘、詩奈さんの中学卒業と一高入学記念パーティーに招待されていた。
今回は詩奈さんの友人や近しい人たちだけのパーティーで、出席者は多くが十代前半、中学生か高校生の、女の子たちがほとんどだそう。
そのためパーティーはお昼に開催される。
三矢家は神奈川県厚木市に本宅がある。
その三矢家に七草家の姉妹、真由美さんと香澄さん、泉美さんと向かう。
姉妹は詩奈さんとは同じ十師族として、歳も近く、昔からの友人だった。
僕の出席理由は、姉妹のエスコートと、一高の先輩としてのご挨拶。それは建前で、実際は兵器ブローカーの三矢元さんとの懇親がメインだ。
三矢家に向かうリムジンの車内は、何ともかまびすしい。お互いの学校の事や、話題のドラマや春休みの計画、ファッションについて、尽きることなく会話している。
真由美さんは、グ・ジー捜索の時、達也くんと仲を深めるよう七草弘一さんが色々と手を回したのに、結局は何の進展もなかった。それなのに以前と、少なくとも見た感じはかわりがなかった。達也くんのことはあきらめたのか、そもそも乗り気ではなかったのかな。
「ところで久ちゃん、この中で誰をエスコートしてくれるの?」
真由美さんがにやにやと笑いながら言う。
女性3人に男が1人。
真由美さんは、ことあるごとに年下の男子をからかおうとする。動揺すればするほど、真由美さんを喜ばす。
「香澄さん」
だから僕は即答した。
香澄さんは僕の義妹になるし、泉美さんは僕とは接点が少ない。そもそも、泉美さんは深雪さんにそっくりな僕を深雪さんのかわりと見ていて、異性とは見ていない。
「ひゃはい?」
香澄さんが、返事なのかしゃっくりなのか不明な声を上げた。とっても嬉しそうだ。
「やっぱり香澄ちゃんなのね。お姉さんがっかり」
いかにも演技っぽい態度の真由美さん。ここで怯むと、かさにかかって来るから、
「だって真由美さんには十文字先輩がいるもの。僕じゃ役不足ですよ」
反撃をする。
「ちょっ、私と十文字君はそんな関係じゃないって!」
真由美さんは防御が甘い。
「でも、大学の食堂では、いつも一緒に食事しているんですよね」
「誰から聞いたの!摩利?鈴ちゃん?」
双子が、姉の恋愛事情について食い入るように視線を向ける。その目は、姉の恋愛は反対だって言っている。
「誰からも聞いてませんよ。先月まで一緒に大学近くのレストランにいたから、そう思っただけです」
「あれは、テロリストの首魁捜索で打ち合わせがあった関係で、今はそもそも学部が違うから、お昼はめったに一緒にならないわよ」
「お姉ちゃん、めったにってことは、時々は克人さんとご一緒に昼食を食べているの?」
香澄さんが不満そうに言う。
「だって、十文字君は目立つもの!つい視線が合ったら、無視するわけにいかないでしょう!」
真由美さんは自分も目立つことに気がついていない。
車内は、真由美さんの呻きやら叫びのせいでがーがーと騒がしくなった。
「久先輩、エスコートはお姉様にしてくださいませ」
泉美さんがため息をついた。
「そうだね、年長者を優先しないとだね」
僕は4日後に澪さんを結婚式を挙げる。
真由美さんが僕の恋愛対象になることは絶対ない安心感からか、会場にいるであろう他の男に目を付けられないよう、双子は僕に真由美さんをエスコートさせる気になった。
真由美さんは、ひとり膨れ顔になっていた。可愛い。
三矢家にリムジンが到着した。運転手さんが、ドアを開けてくれる。姉妹がゆったりとした動作で降りて、僕が最後に降りる。
泉美さんのドレスはレースを多用した華やかなデザインで、無地のチュールにアクセサリーが映えていた。
香澄さんはシャンタン素材のやや本格的な社交ドレスだった。控えめな光沢にフレアーシルエットが、ちょっと大人の雰囲気を醸している。
真由美さんはトップスからボトムにかけて緩やかな曲線がスリムなシルエット。バッグまでばっちりコーディネートしている。背の低さを気にしているので、ヒールがやや高め。
3人とも、一高の制服姿とは違う、ほっそりとした首筋に匂うような色があった。
僕はオーダーメイドのダブルのスーツ。四人の中で一番背が低く、どう見ても男装した女の子にしか見えない。
「これは四葉久殿、娘のパーティーにご足労有難うございます」
三矢家の家族が玄関までお出迎えをしてくれていた。三矢元さんは去年の師族会議で僕の後押しをしてくれた、眉毛の濃いおじさんだ。
息子さんたちは母親に似たのかな、元さんほど眉、いや、キャラが濃くない。
「七草真由美さん、香澄さん、泉美さんも詩奈のために良く来てくださいました」
三矢家は兵器ブローカーが表の仕事、つまりは、死の商人だ。
そんなマイナスなイメージのある家庭なのに、どこか全体的にほんわかしている。
詩奈さんはおっとりとした雰囲気の背の低い女の子だった。
お辞儀をすると、綿毛のような髪の毛が跳ね、首掛け式のイヤーマフがちらりと露になった。
詩奈さんは魔法師の弊害として聴覚が鋭敏になっていると、リムジンの中で姉妹から説明を受けていた。
「よっ四葉久様!初めまして、三矢詩奈です。本日は私のパーティーにお越しいただき、ありがとうございます」
詩奈さんは緊張しまくっていた。
今回の僕は、いわゆるサプライズゲストだった。
僕の訪問を直前まで知らされていなかったそうだ。
僕がパーティー会場に現れると、お客たちの動きが止まって、ざわめきが起こった。今回は詩奈さんの友人や近しい人たちだけのパーティーで、出席者は多くが十代前半、中学生か高校生の、女の子たちがほとんどで、その多くが非魔法師だった。
それでも身に着けているドレスやアクセサリーからして、社会的地位の高い階級の住人なのがわかった。
三矢元さんが、僕たちをお客に紹介した。
七草姉妹の紹介に、お客は僅かな反応しか示さなかった。詩奈さんの友人でも、非魔法師のお客はあまり十師族と関わる機会がないからだろう。
でも、僕は連日報道で紹介されている。非魔法師でも戦略級魔法師の僕の事は誰もが知っている。
報道の中の僕は非の打ち所がない、魔法協会が美化した姿なので、高校生以下の女の子に人気があるそうだ。
僕が詩奈さんと会話をしていると、感嘆と羨望に満ちたお客たちの目が集中した。元さんがどこか誇らしげに胸を張る。
人見知りの僕は、他人の視線の集中砲火を浴びて落ち着かない。
それでも、努めて外向けの笑顔を作る。
詩奈さんは兄弟の中で年が離れていることもあり、穏やかであたたかな雰囲気を持っている。どこか、あーちゃん先輩を彷彿とさせる。
ぎこちない会話を繰り返すうちに詩奈さんが菓子作りが上手だって話になった。
僕も料理が得意で、料理部と生徒会副会長を兼任しているって話は、僕と詩奈さんの距離を一気に縮めた。
「詩奈ちゃんは今年の首席なんですよ」
泉美さんが教えてくれた。
つまり入学式の新入生代表挨拶や生徒会入りが確定しているのか。
去年の七宝琢磨くんも、今年の三矢詩奈さんも、十師族の子弟はみな優秀だ。僕は素直に感心する。
パーティーはその後、ダンスパーティーになった。
今日の主役である詩奈さんを皮切りに、七草の姉妹と踊り、詩奈さんのお姉さんとも踊った。
ダンスパーティーは、困ったことに男性客が少なかった。女の子の友人が集まってるのだから仕方がないにしても、お客の殆どが僕と踊りたがった。
最初、おずおずと僕にお誘いをして来た女の子に、深雪さん張りの笑顔で了承した。会場から黄色い悲鳴が上がった。
まるで動物園の珍獣になった気分だ。
僕は戦略級魔法師になってから、一通りのマナーやダンス、パーティーでの立ち振る舞いを澪さんから教えられている。
もともと、僕の教育は澪さんが担当だ。
僕は運動音痴なので、ダンスがあまり上手でない。背も低いので、どうにも女性は踊りにくそうだ。でも、それがお客の気持ち的なハードルを下げた。
かわるがわる、振り回されるように踊る僕の姿に、
「お兄様は人気者ですね!」
香澄さんが不機嫌になる。
冗談じゃないよ。
僕は少し、いやかなり足元がふらついていた。ダンスの相手でものすごく疲れた。
このままだと倒れこみそうだ。体力不足が情けない。
「久様、大丈夫ですか?」
詩奈さんが気遣ってくれる。
「おお、久殿はこの国の守護神。あまり無理をさせてはいけません」
元さんがやや大げさに反応した。
休憩室は一般の客も利用するので、元さんが母屋のティールームに案内してくれた。もう少し会場でお客の相手をしたら、僕と個人的に会話をしたいって言って元さんは、パーティー会場に戻って行った。
僕はお手伝いさんが用意してくれた紅茶に口をつける。
パーティー会場から笑い声が漏れ聞こえる。華やかな声を聞くともなく聞いている。
静かだし、太陽の光が注ぐ部屋は明るく清潔感もある。でも、広い部屋に一人でちょっと居心地が悪い。
良家の子女と交流を持ち、僕自身も地位や価値が高まっている。それでも、僕の感覚は庶民のままだった。
寒冷化が進んだこの時代、桜にはまだ早かった。
それでも僕は、部屋に差し込む陽の光を、もう春だなって、ぼうっと考えていた。
「失礼します」
突然、ティールームに女性が入って来た。
ビジネススーツをきっちりと着こなし、髪の短い、年齢は20代半ばだろうか、僕の返事を待つことなく入室して来た。
僕はちょっと面食らった。この世界の、今どきの魔法師は品位や慎みを重要視する。
十師族が違法行為をしながらもどこかお坊ちゃんなのもその常識のせいだ。
十師族の子女は社会的地位も高いので、教養やマナーは幼いころから叩き込まれている。
女性が断りもなく、僕のパーソナルスペースまで入って来たのは、彼女が魔法師やナンバーズではない証拠なのかな。それに、この女性はパーティー会場にいたかな?
そう考えていると女性は、ソファに腰かける僕の横に背筋を伸ばして立った。その姿は、達也くんや響子さんを思い起こす。
「はじめまして、戦略級魔法師、四葉久殿。私は国防陸軍情報部所属、遠山つかさ曹長と言います」
「国防軍、情報部?」
軍人さんだから姿勢が良いのか。
「少々お話をしてもよろしいでしょうか」
僕の疑問に、答えなかった。どうやら、せっかちな人らしい。
「何でしょう?」
遠山つかささんが、僕の対面のソファに腰かけた。
遠山さんは薄い笑みを浮かべているけど、その笑みは作り物じみていた。
「まずは、五輪澪殿とのご結婚おめでとうございます」
遠山さんの語り口はどこか熱が感じられない。
「ありがとうございます」
「これで、四葉久殿は後見人の九島家、四葉家、五輪家の後ろ盾を得ることになり、確固たる地歩を確立なされます」
「はい」
「しかし、四葉久殿の戦略級魔法師と認められる以前の経歴が一切不明です」
「…」
「四葉久殿の前歴は、我々国防軍情報部がどれだけ調べても不明でした。四葉久殿の立場は九島烈退役少将閣下の後見だけが唯一の拠り所でした」
僕は黙って聞いている。
「師族会議ではそれだけで済みましたが、情報部としては四葉久殿の前歴をうやむやに済ますわけにはまいりません」
僕は遠山さんの目を見返しながら聞いている。遠山さんは僕の視線を怯むことなく受け止めている。
「九島烈退役少将閣下が言われた、四葉久殿のこの国への貢献とは何なのかお教えいただけませんか?」
まさかこのタイミングで僕の出自を気にする人物が現れるとは意外だった。
「四葉久殿の、この国への忠誠心、愛国心がどれほどのものか、お聞かせ願いたいのです」
広い部屋で2人が向き合っている。
何だか居残りをさせられている生徒と教師みたいな感じだ。
「僕は愛国心がどのようなものかよくわかりません。ただ『家族』を護りたいと考えているだけです」
遠山さんは、最初と同じ笑顔を浮かべている。
「僕たち魔法師は、多くの犠牲の上に今、存在しています。その彼らの為にも、戦いたいと思っています」
僕が、生駒の九島家に現れた時、烈くんに言った。この国は嫌いだけど、僕の『弟たち』の犠牲で成り立っているこの国を護る、と。
それに、この国の文化、アニメやコミックスの文化を護ることは重要だ。
好きな作品の続きを観られないなんて、悪夢以外の何物でもない!
「出自に関しては、僕にもわかりません。僕は孤児ですから」
「ご両親は事故で?それとも戦争の犠牲に?」
ずけずけと聞いてくる。
「それもわかりません。詳しくは九島閣下にお聞きください。この国への貢献に関しても、同様です」
この女性は烈くんの派閥ではなさそうだ。
部屋の空気が、ティーカップの紅茶の様に冷えていた。
遠山さんは、相変わらずじっと僕を見つめている。僕の一挙手一投足から、情報を得ようとしている。
「僕からも尋ねて良いですか?」
「どうぞ」
「国防軍の情報部のお仕事は魔法師の国への忠誠を調べる事なんですか?」
「もちろんそれだけではありません」
遠山さんの返答はそっけない。
僕は、達也くんが、今、沖縄を訪問している理由を思い出す。
「5年前、沖縄と佐渡島が大陸軍に襲われて多数の死傷者が出ました。2年前も首都の目と鼻の先である横浜が敵軍に襲われました。九校戦では戦闘機械の実験が生徒相手に行われました。去年の冬、米軍の魔法師が都内で違法活動をしていました」
遠山さんは笑顔のままだ。
「秋には大陸の術者をかくまった兵士がいました。各地で幽閉されている調整魔法師がたびたび脱走して事件を起こしています。その調整魔法師が2月のテロリストに操られ市民に被害が出ました」
遠山さんの笑顔は、ややひきつっている。
「これらの事件、情報部は情報を得ていたのですか?得ていたのに何もできなかったのですか?」
僕は子供の様に、素直に疑問をぶつけている。
「世界情勢は緊迫しています。横浜事変で我が国は他国に対して戦略級魔法を使いました。戦略級魔法を使った以上、次は我が国が狙われても文句は言えません」
「貴方も使いましたよね」
「僕が九校戦で『ルビー』を使ったせいで、戦略級魔法使用に対する抵抗心が下がったことは責任を感じています。でも、世界は僕が魔法力がずば抜けて高いだけの魔法師だと侮っている。
遠山さんも、そう思っているから僕にこうやって話しかけてきたのでしょう?」
小さな動揺が遠山さんの口の端に現れた。
僕の入試成績は入学後、外部に流出した。そのさいの魔法力の数値はかなり抑えたものだったけど、それでも過去最高の数値だった。
ただ、その流出した成績には、ペーパーテストの結果も含まれている。
僕が、あまり頭が良くないことは、情報通なら知っている。
それこそ、警戒に足る知能レベルではないことは国防軍だけでなく、各国の情報部も知っているはずだ。
三学期のテスト結果も、学年10位だった。
お母様に恥をかかさないよう頑張って勉強したのに、この程度で、エリカさんに順位で負け、喫茶店で友人全員にケーキセットを御馳走したのはつい先日のことだった。
「ひょっとして、諸外国は我が国に戦略級魔法を使うべく準備しているかもしれません」
「戦略級魔法師の同行は、我々も注視しています」
遠山さんが強張っている。
僕の放つ圧力が、じわじわと彼女の身体を包んでいる。
1人では広いと感じたティールームが、一気に小さくなったと感じられるほどに。
「そうですか。戦争が起きないことを、一国民として願っていますよ」
皮肉でも何でもない、僕の希望だ。
国防軍が無能だなんて、悲劇でしかない。北海道と沖縄以外では、この国の護りは十師族が指導している。国防軍の力より法的根拠のない組織の力が強い。
それなのに、国内では魔法師排斥運動が活発化していて、国は何ら対策をしていない。おかしな話だ。
そして、いまや僕も十師族だ。
「十山さん!何故ここいるのですか!」
沈黙が支配したティールームに、三矢元さんが入って来た。
遠山さんの発音が、少し違っていた気がするのは気のせいかな。
「第三研に用があったので。お茶をいただこうとティールームに来ましたら、偶然、四葉久殿がいらしたので、少々お話をさせていただきました」
遠山さんは何も置かれていないテーブルを見つめながら言った。
第三研究所は今も稼働している魔法師開発研究所のひとつだ。第三研も、生駒の九島家の研究所と同じで本宅の隣に施設がある。
第三研はマルチキャストの研究をしていて、マルチキャストは現在の魔法技術の基本のひとつだ。
「戦略級魔法師である四葉久殿に失礼は許されません」
「別に私は失礼はしていませんよ」
軍務を果たしただけで、失礼とは考えていないようだった。せっかちな人でなく、事務的な人のようだ。
「今日は娘の晴れの日です。情報軍がらみの話題はなしにしていただきたい」
元さんは遠山さんを警戒している。忌避している、と言った方が正しそうだ。
「久殿、そろそろ会場に戻られませんか?今日のメインゲストが不在ですとパーティーも寂しいですから」
「そうですね。では、遠山さん、僕は戻りますね」
「はい、また別の機会にお話しできればうれしく思います」
僕はあいまいに頷くと、元さんについて行った。ティーカップの紅茶は、冷めてまだ残っていた。
遠山さんは、いつまでも僕の背中を見つめていた。
何だか、釈然としないもやもやとした気分にさせられたな。
やはり見知らぬ人に会うのは苦手だ。
かつて僕を実験した科学者は、一見すると善良で、社会的地位も資産もある大人だった。
笑顔で、僕の身体を切り刻み、非人道的な実験を行っていた。
人は慣らされ、慣れていく。
いくら善人に見えても、その心の奥底にどのような邪悪が潜んでいるかわからない。
僕の心にだって、怪物は潜んでいる。
怪物そのもの?
どうかな。
『家族』を護るためなら、怪物でも魔物にでもなる。
詩奈と遠山つかさの登場です。
詩奈は動乱の序章編以後は空気状態ですが、遠山つかさは達也にしつこく絡みます。
国防軍の情報部は、何をやっているのですかね。
この国の最大戦力に対して襲撃するとか、意味が分かりません。
達也の排除は、最大の利敵行為です。
遠山つかさは、久のことを書類と画像でしか知りません。
今回の対面で、久の容姿から、所詮子供だと思います。
子供なので素直に疑問をぶつけてくる。
五輪澪のこの国への忠誠は間違いないので、久の教育は問題ないと考えます。
そもそも、久の力を知りませんから警戒のしようがありません。
光宣が中二病のように独り言を呟いている。
今後の伏線ですが、このSSでは周公瑾は別のものに取り付いています。
予想通り周公瑾とパラサイドールは終わっていませんでした。
このあたりから原作とは微妙に違いが出てくる予定です。
では、光宣の独り言は何なのでしょう。
もちろん中二病ではありません。
では。