ベルくんちの神様が愛されすぎる   作:(◇)

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サブシナリオ一つ挟むため七話、実質一章エピローグは全四話になりそうです(白目)


七話上

 怪物祭から一日が経ちミアハにベルの容態を診てもらったその晩、寄り添っていてそのまま眠ってしまったヘスティアは、夜中に起きたときベルが居ないことに気が付いた。重傷を負っていたはずの自分の大切な眷属がいつの間にか消えており、ヘスティアは今悪い夢でも見ているんじゃないかと泣きそうになった。

 そんなときホームの扉が開く音が聞こえた。そこにはベルの姿があり――煤まみれの姿から、彼がダンジョンへ行っていたのだとヘスティアは理解する。そうしてベルは口を開いてこう言った。『ステイタスの更新をお願いします』と。

 

 当然ヘスティアは怒った。どれだけ心配させるのだと、怪我人なんだから寝ていなきゃダメだと、ベルを咎める言葉はいくらでも湧いて出てヘスティアの口からこぼれた。その言葉の全てをベルは反論することなくただ受け止める。

 その様子を見てヘスティアは気が付いた。自分が言っていることは全部ベルも気が付いて理解している、理解したうえで行動を起こしたのだと分かったのだ。

 

 ベルの身体の容態、ヘスティアの心理状態、その他の障害全てを理解しており、それでも自らが持つ【憧憬】のために走り続けることを選んだのだ。一歩でも先に進まなければと体が動いたのだ。

 

『君が強くなりたいと言うのなら、ボクは力を貸すし背中を押そう。……でも無茶をしないでほしい。それは嘘偽りないボクの本心だ』

 

『――はい。無茶はしません。約束します』

 

 その答えの中に嘘はないと、神であるヘスティアは理解することができた。それでも不安がヘスティアの心を過る。

 『おとうさん』の、英雄の隣に立つこと。只の人であるベルがそこを目指すために、自分のできる限りを尽くしてきたのだ。ならば限界――どこまでが無茶でそうでないのか彼は一番それを理解している。オラリオに来るまで彼はそうして生きてきたのだから。

 

 それなら自分ができることは何だろう、とヘスティアは考える。

 

 ベルはヘスティア以上に地上の世界のことを知っていて、彼は一つの目標に向かって走り続けることの意味を理解していた。そこにヘスティアの手を借りようと考えすらしないだろう。【英雄】にとって自分の背に居る者は守るべき者だ。それを目指すベルもヘスティアのことを守らなければならない者と考えていたとしても何もおかしくはない。

 

 だけど悔しいとヘスティアは思ったのだ。自分がベルのために何もできなくて、ただ見守っていることしかできないことが。

 何の取り柄もないちっぽけな神だけれど、それでもベルの力になりたい。

 

「(……ヘファイストスに会いに行こう)」

 

 他力本願で情けない限りだけれど、ベルはヘスティアが何かしなくても行動を起こすはずだ。だからヘスティア自身にしかできない、持っていないものを彼に渡そうと決意した。

 

――――

 

 ダンジョン7階層、生まれたばかりのニードルラビットはあたりを見渡して自分の場所を確認する。キラーアント数体が哨戒し、パープルモスがのんびりと宙を漂っている。敵対反応を示す存在は無く、どこにでもあるダンジョンの一角だった。

 その湖の水面のように穏やかな場所の一角に一石が投じられる。最初の波で漂っていたパープルモスが小さな悲鳴を上げて地面に墜落し、モンスターたちが臨戦態勢に入る。パープルモスの魔石に突き刺さっていた投げナイフはからんと音を立てて転がった。

 襲撃者に向かってニードルラビットは突進する。己の角を相手の足へ突き刺そうと駆け、衝突しようとしたところで相手の姿が煙のように消えた。歩法で自身の意識をずらされたニードルラビットの背中にナイフが突き立てられ、勢いのまま裂いて走り抜ける。ダメージの許容量を超えたところでニードルラビットの体は勢いに任せて転がり消滅した。

 

「(……遅い)」

 

 襲撃者――ベルはそれに目もくれず残ったモンスターへと向かう。キラーアント、蟻の外見とは裏腹にその甲殻は堅牢なものだ。情報を頭の中から引き落とし、複数を同時に相手することを避ける、というセオリーを無視して群れているその場所へと走った。

 一匹目、首に当たる頭と胴体の繋ぎ目にナイフを突き立てそのまま切り落とす。

 二匹目、向かってきた所を返しの刃で胴体へと突き刺しそのまま柄をひねる。

 三匹目、足を狙った噛み付きは突き刺したナイフを起点に腕の力で体を動かし回避する。柄の感触からキラーアントの甲殻に阻まれナイフは抜けないと判断し、腰の鞘から予備である角兎のナイフを抜きそのまま一閃した。

 

「(……鈍い)」

 

 サブウエポンであるシャドウウォールのナイフは同階層のドロップアイテムである爪を素材に使ったものだ。その一撃はキラーアントを怯ませるには十分で、怯んだ所に本来の特性へ沿うようにその体へと刺突した。その一撃はキラーアントの魔石を貫き、目に光がなくなったかと思えば、その肉体は霧散しダンジョンの中へと消えていった。

 ベルは倒れ伏すキラーアントからナイフを引き抜くと、ゆらりとその足をダンジョンの奥へと向けた。自身が倒したモンスター達に目もくれず、ただ自分が倒すべき糧を探し続ける。

 

「――弱い。ああくそ、畜生、もっとできるはずなのに」

 

 ぎり、と。奥歯を噛んでベルは呟いた。

 

 怪物祭から三日経ったその日、ベルはダンジョンの中で戦い続けていた。万能薬(エリクサー)の恩恵は十分にベルの体を癒し、一日様子を見てミアハからは問題ないと言われている。ただ数日は安静にしているように指示を受けたが、その日の晩にベルはホームを飛び出しダンジョンへと向かった。上昇したステイタスと再び発現し取り戻した魔法の性能を確かめるためだった。

 

「(駄目だ、こんなんじゃ届かない。あの男のいる場所すら見えやしない)」

 

 自分の限界は伸びている。それは急激に伸びたステイタスに反映しているし、体を動かして確認もできている。やれることは一つずつ増えていて、嘗て自分が歩んできた【軌跡】は引き落とさずとも体に馴染んできている。

 かつて呪文書(グリモア)の世界を経て得た魔法――【ファイアボルト】は確かにこの手に戻ってきた。憧憬へと向かって走るための力の一つは、確かに自分の背を押して前に進んでいる。

……だが、それだけだ。数年程度の積み重ねでは、それだけの軌跡ではオッタルには届かない。自分が打倒しなければならない男の、立っている場所すらベルには分からないほどの力量差があった。

 自分の旅で得てきた【軌跡】全てを取り戻したとしても、保証されているのは自分が嘗て居たLv.2という場所だけだ。その先は未知であり、行けるかどうかも分からなかった。

 

 『何もかもしなければ』、英雄の場所に立つことは許されない。

 

「(そんなことずっと前から知っているんだ! だけど、それでも!)」

 

 

 【英雄】になりたい。

 

 目の前の全てを打ち砕けるような、全てから神様を守れるような、【奇跡】すら手繰り寄せられるような英雄に。

 自分の持つ【軌跡】だけでは至ることができなかった。至る前に憧憬は砕けて消えた。だから今は、それを土台にして自身を打ち続けるしかない。

 

 打って、打って、打って、打って、打って、打つ。

 

 刀身(じぶん)が熱せられているのなら、折れる限界を見つけてただ打ち続ける。只の人である自分が【名刀(えいゆう)】に至るためには、そうしなければできるわけがないとベルは理解していたのだ。

 どうしようもなく辛い道のりでも歩いているのは自分一人だった。壁が立ち塞がろうとも、自分自身で打ち壊さなければならない。そのために、ただ自らを打つ。

 『無茶はしないでほしい』とヘスティアからベルは言われている。だが自分の限界は常に把握している。どこからが無茶であるのかも自覚している。それなら神様へ言った言葉に嘘もない。

 

「(もっと速く、もっと強く、もっと先に行かないと!)」

 

 自分はきっと追いつけない。だから、自分の定めた限界を走らなければならない。

 

 

 ダンジョンからまたモンスターが生まれ、その場所に向かってベルは走る。

 ウォールシャドウの影を踏み消し、群れたコボルトを全て切り捨て、ニードルラビットの角をへし折った。バットパットの羽を斬り落とし、インプの頭を捩じ切り、オークへ放った魔法は体を焼き払った。

 

 立ちふさがるモンスター達を倒しベルは走り続ける。一つでも自分の限界を広げるため、ただ真っすぐに【憧憬】に向かって走り続けた。

 

 ベル・クラネルは【英雄】ではない。

 

 嘗ての旅では男神が、走り続けるベルを導いていたからこそ最後まで折れずに居た。だが今この場所にベルを導く存在はいない。

 そしてダンジョンは、只の人を、夢見る者を簡単に殺す場所だ。一人、【英雄】という夢だけを求めて走り続けるのなら、只の人であるベルが行く先は【死】という当たり前の現実だけだった。

 

 不意に、その背中に声をかけられた。

 

――

 

 

「待って」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは思わず声をかける。

 

 身体能力の面では自分の方が優れているが、どんどん先に行ってしまうその存在を呼び止めようと声に出ていたのだ。

 心にどこか焦燥感を持ったアイズを気にすらしていなかったその存在だが、アイズの言葉にゆっくりと振り向いて口を開いた。

 

 

 

 

「んー? なんやアイズたん。まーだ考えてるんか?」

 

 アイズの声にその神――ロキは振り向き言葉を返した。

 

 そこはオラリオの市場。日は高く多くの人々が行き交っており、人々の軽快な声が彼方此方から聞こえてきた。

 ロキの言葉を肯定するようにアイズの態度にはどこか躊躇が表れている。可愛いなぁ、とロキはアイズに思うと同時に、その原因を作った相手に対して苦々しく思った。

 

 

 怪物祭が終わりロキ・ファミリアではフィンやロキが、その場所で騒動に巻き込まれた団員の話を纏めていた。ロキとしては十中八九今回の騒動はフレイヤが起こしたと確信しており、その裏付けをするための情報を集めていたのだ。

 フィンとしてもロキがそう判断しており、敵対するファミリアの勢力を少しでも削げるカードになるのなら止める理由はない。食人花と対峙したティオナたちの話を聞いた後、ロキとフィンはアイズの話を聞くことになった。

 結果、フィンが噴き出した。フレイヤ・ファミリアの団員との交渉でフレイヤを暗示する名称を利用して状況を動かすのは、爆発するか成功するかの二択にしかならない。オッタルに対してもう一度は使えないな、と頭を抱えるフィンと冷や汗を流すロキの様子にアイズも表情に出る程度にオロオロとしていた。

 やってしまったものは仕方ないと次いで詳しい話を聞くフィンだが、ロキ・ファミリアの幹部として、そのあたりも教育したほうがいいのだろうか、そう考えた。

 アイズがオッタルと話したとき、ヘスティアやベルのことを大切な友人だと言葉に出したことを聞き、フィンは口を開く。

 

『なるほど……ただ『大切な』という言葉は出さないほうが良かったかもしれないね。僕たちは敵が少なくない。それに巻き込まれる可能性を上げることになってしまうから』

 

 フィンの言葉にアイズはたじろいだ。自分の行動がヘスティアたちを危険に巻き込んでしまうかもしれないと考えたからだ。

 

『(まぁ、そんなことは無いだろうけれど)』

 

 言った本人は心の中でその可能性を否定する。特定の誰とも言っておらず、特定するとなればそれこそオラリオ中を聞き回らなければならないだろう。人質などで利用しようとしても、敵対しようとしている人物がそれだけ動けばフィンの耳にも入り、幾らでも対処は可能だった。

 フィンの言葉は結果論からきたいちゃもんに近く、そのことは自身も理解している。

 今回フィンが大げさに言ったのは、ちょっとアイズを脅かして、ファミリアの幹部として戦い以外のことを学ぶきっかけになってほしいと考えたためだ。フィンが口を開こうとしたところで先にロキから言葉がアイズへと向けられた。

 

『ちょっと軽率やったかもな。ウチらにとってはそんなでもない奴でも、ドチビんとこだと手も足も出ないようなのが向かうかもしれんな』

 

 その意を汲んでくれたのだろう、フィンを肯定するようなロキの言葉にアイズの瞳がわずかに揺れた。ロキの後押しもあって信憑性は上がり、アイズも本当のことのように思っただろう。

 まぁアイズを脅かすのもこれくらいでいいかと、フィンが逆に良かった点を言おうとした時だった。

 

『それにドチビんとこの眷属(こども)も結構な怪我したって話やろ? 今狙われとってもおかしくあらへん』

 

『……そんな』

 

『ちっと、対応間違えたかもしれんな。近いうちにいつの間にか天界送(さとがえ)りしとるかもしれんわ』

 

 まさかの追撃だった。さらにそれを加速させていた。別にロキはフィンの意を汲んでいたわけではない。『アイズたんがドチビばっかり心配してるからちょっと意地悪したろ』ぐらいのノリだった。

 顎に手を当て真剣な表情で言葉を告げていたロキだったが、ちょっと焦っとるかな、と考えつつもちらりとアイズの様子を窺った。

 

『どうしよう……私のせいであの二人が……っ』

 

 そんなアイズは、泣いてこそいないが焦燥感に駆られていた。珍しいなどというレベルではなくロキは内心でやりすぎた、と冷や汗をかく。

 本当にこの神は……とフィンは呆れたように溜息を吐いた。

 

『はぁ……脅かしすぎじゃないかな馬鹿野郎(ロキ)

 

『せ、せやかてフィン。って、今ものすごい意味でウチのこと呼ばんかったか!? ってそれよりもちゃうんやアイズたん! 今のはちょっと大げさに言っただけなんやって!』

 

 ハンカチ片手にアイズの目元を拭いながらロキは慌てたように言う。

 そして一瞬だけ口元に笑みを見せたことをフィンは見逃さなかった。いいことを思いついた、といった様子のその表情であるとフィンは思った。

 

『……本当に? あの子とヘスティアさんは』

 

『大丈夫やって安心しぃ! そや! そんなに心配なら見舞いにでも出かけて顔見に行こか! どーせあのドチビのことやしピンピンしとるって! な?』

 

 バシバシとアイズの背中をたたくロキの言葉にアイズはこくんと小さく頷く。

 

『いよっしゃ! 早速明日にでも行こか! 怪物祭じゃ半端やったから今度は最後まで一緒や! ウッヒョー! アイズたんとデートやぁ!』

 

 怪物祭では中途半端に終わってしまい、不完全燃焼であったということもある。ロキは丁度アイズと出かける口実ができたため、アイズを慰めるついでに約束を取り付けたのだ。

 その言葉でアイズも気が付いたが、その数秒後にはロキは自分の部屋に走って行ってしまい、アイズとフィンだけがその場所に残された。

 

『アイズ、明日は予定はあったかい?』

 

『えっと、ダンジョンに行くつもり……だったけれど』

 

『あの様子じゃ無理そうだ。……あんな風に、口の上手さならロキは神達の中でもずば抜けていると聞くし、参考にするといい』

 

『……うん』

 

 アイズはヘスティアのところに見舞いに行くことに不満はなくとも、言いくるめられたことに複雑そうな表情を見せる。そんな様子のアイズにフィンは苦笑し言葉をつづけた。

 

『ああいった(したた)かさ、というのは君の求める強さとは違うものかもしれない。だけど――そうだね、丁度いいから僕からはアイズに一つ課題を出しておこうかな』

 

 

 

 と、そんな話をしたのが昨日の話だ。

 アイズはフィンから出された課題は彼女を悩ませるに足りるものであり、ロキが先に行っていたことも気が付かずに没頭していた。

 課題の内容は『ヘスティア・ファミリアから何か益となるものを得てくること』だ。アイズとしては今回迷惑をかけてしまったかもしれないと考えており、お見舞いの品をどうしようと真剣に考えることになっていた。

 眉をひそませ、むむむと悩む姿はロキにとっては新鮮に見えたが、それが自分の宿敵の神のためのものだと思うと面白くなかった。

 

「(ドチビィ……ウチのアイズたんにこんな表情させるなんざ許……すわ!可愛いしな! ……いやいやイカンってウチ。眷属(こども)たちのそういう表情見て喜ぶとか、フレイヤやアテナじゃないんやから)」

 

 アテナに関しては自分の所の眷属を闘技場で戦わせ続けるなどしており、フレイヤに至っては言わずもがな。最近ではヘスティアにターゲットを絞ったようだが、変態であることには変わらないとロキは考える。神はどいつもこいつも変態だが。

 

「(まぁフレイヤに関してはご愁傷さんとしか言えんしなぁ……)」

 

 怪物祭でフレイヤがやらかしたことは表ざたにはなっていない。ロキ自身はその情報をつかんでおり、意気揚々とそのカードを使ってフレイヤ・ファミリアからアドバンテージを引き出そうと思っていたのだ。

 だがその前にフレイヤ・ファミリアは、触れたら爆発するぜと言わんばかりの火薬庫になっていた。その原因は怪物祭が終わってから立ち始めた噂が原因だと言えるだろう。

 

 フレイヤ・ファミリアの団長が離反した。

 普段そんな噂を出せば頭がおかしい奴扱いされるが、現に団長であるオッタルが謹慎しており、ファミリア自体が殺気立っているなど裏付けされる情報はある。

 実際のところは言葉が足りなかったオッタルと早とちりしたアレン等団員達、フレイヤの嫉妬などが複雑に絡まった結果ミラクルZが起きたらしい。ロキも深く知らないが、フレイヤにとってはショックだったということだけは分かった。

 オラリオの住民はフレイヤ・ファミリアについては触れたらマズイ案件と察しそれを広げることは無かったが。

 

 ロキもそれを察し、今回の案件で得たカードは昔あった借りを潰すことに使うことに決めた。昔フレイヤから拝借したものの所有権を、改めて自分が得るということを手紙で一方的に送り付けた。まぁ今回の件はフレイヤも痛い目見たからええか、とロキとしては今回の件の終わりについては特に文句はなかった。

 それで怪物祭についてはひと段落ついており、あと残っているのはアイズがヘスティアたちのことを心配しているぐらいのことだろう。

 

「ほらアイズたんもそう何時まで悩んでおっても変わらへんって。ドチビのことやし、その辺でじゃが丸くんでも買ってけばええんとちゃう?」

 

「ヘスティアさんはそうだけれど、ベルは怪我をしたって聞いたから。……やっぱりポーションにしよう」

 

「あー、それは……まぁええか」

 

 ポーションは一般的な見舞いにしては高額なものだとロキは考える。今回の件は別にアイズが迷惑をかけたわけでもないのだから、手軽なものでいいとロキは思うが、そのあたりも含めて勉強ということだろう。

 

「(それにしてもドチビの眷属……ベルか。なんでこんなアイズたんに心配されとるん?)」

 

 ロキとしてはアイズはお気に入りの眷属であり、生半可な男にはやらんと考える人物である。それがファミリアの外の男、それも自分の宿敵の神の眷属であるとなれば疑い深くなるのも無理はないだろう。

 

「(知らん内にドチビんとこの眷属()になってたって言うし、なーんか気に入らへんなー)」

 

 そこまで考えてロキは思いなおす。

 いや別にヘスティアが誰を眷属にしようが勝手な話であり、今の自分には関係のない話である。そしてその結果ヘスティアがどうなろうとどうでもいい話だ。

 

「ロキ?」

 

「うん? アイズたん? もう買い物は終わったんか?」

 

 ロキの言葉にアイズはこくんと頷いた。手にある紙袋には見舞い用の果物がいくつかと、包装されたポーションが入っている。

 

「そか! それなら後はドチビんとこ行くだけやろ? ついでにじゃが丸くんでも食べてこか!」

 

 そういってロキはアイズの手をとってずんずんと歩みを進めた。突然のことで驚いたアイズだが、すぐに歩調を合わせてロキについていく。

 ロキにとってはヘスティアがどうなろうとどうでもいい話だ。どうでもいい話だがアイズが気にかけているなら少しぐらいは心配してやってもいいだろう。顔見せついでに土産でも買っていこうかと、じゃが丸くんの屋台へと近づいた。

 

 

「「おっちゃん、じゃが丸くん幾つか頼む()!」」

 


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