ベルくんちの神様が愛されすぎる 作:(◇)
話を凝縮させるためオリジナルの設定は入っています。また時系列に関しても原作と相違点が有ります。
その日は怪物祭を3日後に控えた夜だった。
祭りを主催する【ガネーシャ・ファミリア】によって『神の宴』が開かれ、本拠地の『アイアム・ガネーシャ』には多数の人影が有った。
スーツやドレスなどの正装を身に纏った者達は給仕を除いて全員が神であり、その中に一人、ほぼ普段着を身に纏ってテーブルの端を動いている人物がいる。いつもより少し上質の普段着に上着を羽織ってフォーマルっぽく見せているその少女も勿論神である。
たとえタッパーを片手に日持ちする料理を詰め込んで、時折口に料理を詰め込むみっともない姿を見せていても、紛れもなく彼女――ヘスティアも下界の人々から神と呼ばれる存在だった。
「かりあげくんにフライポテト、うんうんガネーシャにはいい料理人がいるようだね。ジャガ丸くんが居ないのは減点だけど……おっ厚切りベーコンあるじゃないか! ベル君も喜ぶなぁ……」
無論下界に来た時点で神達は神の力を失っており、生活のランクにも差が付いてくる。ヘスティアに至ってはこの場所に居る神達と比べれば、とびぬけて貧乏な生活を送っているため、ただ飯とあれば恥は二の次だった。
そんなことをしていれば神達から注目されるのは早かった。だが他の神達もお腹が空いていたんだなぁと、腹ペコ欠食児童をみる近所のおばあちゃんの目で彼女を見ている。
「……何やってんのよアンタは」
そんな彼女に話しかけるヘファイストスは、頬袋をパンパンにした自分の友人に嫌そうに話しかける。凛とした意志の強さを思わせる表情はそこにはなく、呆れて気が抜けたため息交じりの表情だった。
友人の声に食べるのを止めて振り向くヘスティアだったが、大好きな友人の後ろにその正反対に位置する人物が居て顔をしかめる。
「くぅ~なんちゅう悲しいもん見てしもうた。ちびっこい何かがウロチョロしてるんで鼠かとおもうたわ」
「むぐ、むぐぐ……ヘファイストス! ……と、ロキ。鼠とはなんだい失礼だなぁ!」
「まぁやってることはそれに近いから何とも言えないわね……」
頬袋に食べ物を溜めおき家にもきちんと貯蓄する。鼠は鼠でもハムスターの類であることは間違いない。
「何しに来たんだいロキ、僕もそうだけど君が神の宴に来るなんて珍しいじゃないか」
「あほぅ、ドチビが顔出ししなさすぎるだけや。まぁうちの子たちまだ遠征から帰って来んし、暇つぶしや暇つぶし。暇つぶしついでにドチビの面でも拝んでおこう思うてな」
ロキ自身も神の宴に積極的に出るわけではない。 遠征に出かけた自分のファミリアの団員たちが予定日がずれたからか帰って来ず、やる事も無いから此処に来た、と言った様子だった。
だがヘスティアが神の宴に顔を出すことはさらに珍しい。彼女自身ファミリア自体結成できてない貧乏生活を送っているため、他の神に笑われるのを嫌って出てこなかったのだ。そのため他の神達からはちょっとしたレアキャラ扱いされている。
「そうかいじゃあ目的は達成しているね。じゃあ帰ってくれよ僕は夜食の確保で忙しいんだ。君の女装なんて見ている暇はないんだよ」
ちなみにヘスティアは自分の身長に、ロキは自分の胸にコンプレックスを抱いている。両者ともに踏み抜いた時点で怒ることは決まっていた。
「女そっ……ド・チ・ビ、世の中には言うたら絶対にアカンことがあるんやで。という訳でくらえやぁああああああ!!」
徐にヘスティアの持ったタッパーと、テーブルの上に置いていたタッパーを強奪すると、テーブルの奥にある料理皿の上にひっくり返す。
一瞬何をされたのか分からなかったヘスティアは、時間をかけて詰め込んだ料理達が奥に追いやられたと言う事実に思わず声をあげた。
「あああああああ!! 何するんだい止めろロキ! 絶壁! そのオードブルを詰めるのにどれだけ苦労したと思っているんだ!」
「フハハハハハハハ! 踏み台が無きゃドチビの背じゃ奥の皿には届かへんやろ! どぉーだ悔しいかフハハハハハ!」
「あんた達恥ずかしいからやめておきなさいよ……」
タッパーを引っ張り合う二人の友人に、ヘファイストスは思わず自分の頬に手を当てて溜息をつく。
神たちにとってはいつもの事のため、どっちが勝つかで賭けを始めたり、やんややんやと囃し立てることも慣れた物だ。慣れたものであはあるが恥ずかしい物は恥ずかしい。
と、そんな風に騒ぐ神達だったが、ヘファイストスは道を開く様に身体を避けた男神たちの間から、一人の女神が近づいてきたのが分かった。
その姿を見て少しだけ悩ましげに眉をひそめるも、軽く手を振る彼女に言葉で返事を返す。
「あらフレイヤ、久しぶりね」
「ふふ、お久しぶりヘファイストス。此方は随分と騒がしいのね」
三人の前に現れたのはフレイヤだった。美に魅入られた神とまで言われた彼女が、このコミカルな空間に居るのもおかしいと感じるヘファイストスだったが、自分もそのコミカルな一員にされている気がして思考を止める。
フレイヤの登場に清廉な空気でも流れたのか、彼女の姿を目に入れたヘスティアとロキは、タッパーの取り合いを止めていた。
「うえ、フレイヤか。ひ、久しぶりだね」
言葉とともにヘファイストスの後ろに隠れるヘスティア。タッパーをロキから取り換えし損ねたことなど忘れて、ヘファイストスの影から顔をのぞかせるように声を出した。
そんなヘスティアにむう、と思いながらもフレイヤは言葉を綴る。
「……私ヘスティアに何かしたのかしら」
「オーラがやらしいんとちゃうか? 男つまみ食いするならこっちのテーブルにはあらへんで」
「ええ、私もここまで華のないテーブルだとは思わなかったわ。タッパー、後で彼女に返した方がいいわよ?」
茶化すように言ったロキではあるが、フレイヤの言葉に思わず詰まって押し黙る。先ほどまで二人でタッパーの取り合いをしていたためのだから、華が無いなどと言われても仕方のないことだ。
なにより赤のドレスに安っぽいタッパー片手では締らない。ロキはそっとテーブルの上に置きなおす。
「まぁこの二人にとってはいつもの事だから、その辺りは諦めているのだけれど。寧ろ良い男避けになって清々しているわね」
ヘファイストスも男神たちに声を掛けられることは無くも無い。ただ喧嘩をする子供たちを諌めるお母さんのような状態になっているのに、話しかける男は居なかった。
「そやそや、ウチとドチビの仲やで。なぁ~ドチビ!」
ヘファイストスの言葉に気をよくしたのか、ロキはヘスティアの頭をぐりぐりと撫でながらフレイヤへ言う。
「誰が君との仲だい! あ、こら頭を押さえるな無乳!」
「聞こえんな~ウチ141セルチ以下の女神の声って聞こえんのや。いや~参ったどないしよう」
「何度でも言ってやるさ! ナイチチ!絶壁!まな板! 僕のは夢の詰まった
「っこここっここのドチビぃぃいいいいい!! 何がハハハやぁ!!」
「ふん! しっかり聞こえるじゃ……イタタタタ止めろ!アイアンクローは卑怯だぞ!」
ぎりぎりと掌に力を入れるロキに向かって必死に手を伸ばすヘスティアだったが、ロキの身体には届かない。身長というアドバンテージを有効に使われていた。
終わった筈の喧嘩がまた始まったことにヘファイストスは思わずため息交じりに目頭を押さえて、好奇の視線に晒されているにもかかわらず、フレイヤは小さく笑ってそれを静観した。
「なーにが夢いっぱいや! 夢ばっか詰め込んで成就しておらんやろが! ちょっとは放出して減らさんかい!」
「ロキ……ヘスティアの胸が減っても貴方の胸は大きくならないわよ?」
「やかましいわファイたん! そんなことウチがよう知って……知って……くのおおおおおおおお!!」
「うにゃああああああああ!!!」
頭からもちもちの頬に標的を変えたロキの手のひらは、プニプニとヘスティアを引っ張り合う。
たゆんたゆんと揺れるヘスティアの胸は、ロキの精神防壁がカットして頭の中に情報として入っていかなかった。
「ふ、ふふふ。本当に相変わらずね、貴方たち二人って」
「ぐうぅ、それをフレイヤに言われるとなんか腹立つわ……」
ロキの手から離れたヘスティアは、ふみゃん、と可愛らしい声をあげて尻もちをついている。
楽しげに笑うフレイヤは、昔のキレたナイフの状態だったロキを思い出しながら笑みを深くした。優しくなった、というより丸くなった知り合いの姿に何か思わないわけでもなかった。
「そういう君だって変わらないじゃないか。ロキも言ってたけど、今日はだれかつまみ食いに来たんだろ?」
つままれていた頬を赤くし、涙目交じりでヘスティアは言う。
ヘスティアがフレイヤを苦手としている理由の一つがそれだった。奥手である彼女とませであるフレイヤとでは、感覚が違うのだろう。
「そんなことないわ。貴女が久しぶりに顔を出すって言うから、私も顔を見せに来ただけ。それに此処の男神はみんな飽きちゃったから」
「うわ、君って奴は相変わらずだな。男神を食べ飽きたならそれこそ女神にでも手を出したらどうだい?」
ジト目でヘスティアは冗談交じりに言う。
スナック感覚で男をつまむフレイヤの感性はヘスティアには分からず、皮肉も混じった言葉だった。
そんな言葉に呆気にとられたのはフレイヤだった。そして言葉の意味を理解すると、にこりと笑みを見せて応える。
「あら、いいのかしら」
「え」
笑みを見せた先は……ヘスティアだった。
ヘスティアは思わず後ろを向くも談笑中の神達が居るだけで他に誰も居ない。ちらりとヘファイストスを見上げれば、やってしまったな、と言わんばかりに彼女は顔に手を当てている。
「あー、ええなそれ。嫌がってるところをこう、薄い本みたいにな?」
「ふふ、本じゃあ本物は分からないわよロキ? そうね、ヘスティアだったら何がいいかしら」
ちなみにロキは男でも女でもイケる。まぁ言っていることは半分は冗談だったが、そんなことにはヘスティアには伝わらない。そして自分の名前が出たことで、ターゲットが誰になったのかヘスティアは理解した。
「や、やめろおぉーーっ!僕に近づくな色情神! 僕は食べても美味しくなんかないんだからな!」
「自分で自分を食べることなんてできないのだから、意外と食べてみたらおいしいかもしれないじゃない」
笑顔でじりじりと近寄ってくるフレイヤにヘスティアは薄ら寒い物を背中に感じていた。
「なんだなんだ」
「百合キタ。百合だ! 神様同士じゃ滅多に見れない百合だぞ!」
対して周りの神達も囃し立てており、止めようとする気配は一切ない。
女神であるフレイヤに言い寄られているためか、友人であるヘファイストスにすら疑心暗鬼になったヘスティアは、だれか頼りになる人物を捜し始める。
お隣さんであるタケミカズチはとうの昔に居なくなっており、他に誰かいないかと考えある人物に飛びついた。
「ガネーシャ!ガネーシャ! 助けておくれよ今日は君の開いた神の宴だろう!?主催者として来賓が襲われてたら助ける義務があるんじゃないかな!」
「そう俺がガネーシャだ! どうしたヘスティアよ。なにやら鬼気迫っているようだが」
「彼女ライオン僕ウサギ! 同じ草食動物仲間の誼みで彼女を何とかしておくれ!」
イマイチ話がつかめていないガネーシャであったが、獲物を捕まえようとする猛禽類のような視線を向ける二人の神の姿に冷や汗を流す。ガンを飛ばすロキと笑みを向けるフレイヤ。一般人が見たらなんて勇ましい、何て神々しいと感じるそれも、ガネーシャにとっては不良にカツアゲされかけている下級生の心情しか感じなかった。
アレは重い。胃もたれする。とてもではないが消化しきれない。以前オラリオに居たあの神ならば、あれもなんとかできるのだろうか。
「が、ガネーシャ……」
君でも無理なのか、そう涙目の視線で語りかけるヘスティアを見て、ガネーシャは腹をくくった。
俺は誰だ、ガネーシャだ! そう心を震わせたガネーシャはヘスティアを背にやると二人の神の前に立つ。
「ふむ、確かに助けを求める無辜の民を見捨てるのは道理に合わぬ。そういうわけだ女神達よ! 夜の相手ならこのガネーシャが仕るが如何に!」
ガネーシャの言葉に周りの神達から、おお! と歓声が上がる。
「いった!ガネーシャが逝ったぞ!」
「二人がかりであの言葉……紛れもなくアイツって奴は男の中の漢だな……」
下手をすれば赤玉君こんにちわになる可能性も見える相手に対して、その言葉はガネーシャと言う神が漢であることを表していた。
とくにフレイヤが他の意中の存在を真剣に狙っている時に話しかけるなど、自殺行為でもあった。だが、ガネーシャは退かない。
威風堂々としたその佇まいは、この場に於いて言うならば、紛れもなく彼はヘスティアの盾であった。
「え、ガネーシャ? ……ないわぁ」
「嫌よ、だって貴方勢いばかりで下手糞なんだもの」
「ぐあっぁはあああああ!!」
「アーーッ! ガネーシャがマジで逝ったぞ!」
なお、盾が矛に勝てるとは限らない。
一瞬で心をずたずたにされたガネーシャへと、更に追撃を駆けるように二人は言葉を続ける。
「それに情緒もなにも感じられないものだったから……今までの中でも最悪だったわ」
「アンタがそれだけ言うんてどんだけ床下手やねん、ガネーシャの奴。」
「そうね、自動で動く道具の方が上手いぐらいじゃないかしら」
「あー、それ最悪以外の言葉もあらへんなぁ……」
「さい……さいあくあくあく……」
「やめたげてよぉ! ガネーシャのガネーシャがパオーンしなくなってしまうぞ!」
あんまりな言葉についに外野からレフリーストップがかかる。
真っ白になって動けないガネーシャと流石に同情的になった男神たちによってその場を治められる。
神の宴ってこんなハチャメチャな物だった? と一人ヘファイストスは思う。だいたいあの子のせいね、とガネーシャを生贄の羊にして帰ったヘスティアを思い出し、ヘファイストスは溜息を吐いた。
「たーっく、ガネーシャも口ほどにもあらへん……って、あれ、あのドチビどこいったん?」
ヘファイストスの方に戻ってきたロキとフレイヤは、ガネーシャの後ろに隠れていたはずのヘスティアが居なかったことに首を傾げる。
てっきりヘファイストスの方に来ていると思っていたからだ。
「さっき逃げるように帰ったわ。なんでもホームで団員と一緒に持ち帰った料理を食べるそうよ」
「ん、ホームっちゅうことはついにあのドチビもファミリアを作ったんやな」
こりゃウチのファミリアの自慢しにいかなあかんなぁ、と。にししと笑うロキはどこか嬉しそうに見える。
対してそれを聞いたフレイヤは目をすっと細めた。特に興味は無いのか、と。ヘファイストスはフレイヤの様子に特に何も思わず話を続ける。
「まったく、二人ともヘスティアをからかうのはいいけれど、ほどほどにして頂戴。ヘスティアも好きでトラブルを起こしたいわけじゃないんだから」
「わーとるってファイたん。ジョーダンやジョーダン」
けらけらと笑いながらロキは答える。ヘスティアは体の一部は不倶戴天の敵であるが、基本的には嫌悪しているわけではない。
だがフレイヤは首を傾げて不思議そうに言った。
「あら、私は本気だったけれど」
「えっ」
「えっ」
「そう言えばヘスティアがファミリアを作ったなら、団員が入ったってことでしょう? どんな子が入ったのか知っている? ヘファイストス」
実に朗らかに話すフレイヤであったが、話を聞くヘファイストスは嫌な予感が止まらなかった。
確かにヘスティアのあの発言の後フレイヤは、ああその手があったか、と言わんばかりの表情を見せていたことを覚えている。その時はからかうネタを見つけたという意味であったと考えたが、本気であったとは思わなかった。
どうするべきか、そうヘファイストスは考える。何かあって自分の友人であるヘスティアが悲しむのは嫌だが、彼女の眷属に思うところは無い。だが自分の眷属が共に行動している以上、彼女の思惑に関わってしまうのは明らかだった。
「……そうね、素直そうに見えてひねくれた男の子、だそうよ」
「ふぅん、そっか。男の子、ね」
「……言っておくけれど、何かしたらあの子泣くわよ」
どちらにしてもすぐわかることなのだから、ここは素直に知らせるべきだ、そう判断して以前ヘスティアから聞いていた団員の事を話す。
一応忠告じみたことはしてみるが、フレイヤは意味深に笑うだけで特に答えることはしなかった。
「……どこの誰んなんかは知らんけど、ご愁傷さん」
ロキはほぼ確実に思惑に巻き込まれるだろう、ヘスティアの眷属である少年へと呟いた。
――
ぞくり、と。少年の身体に悪寒が走った。
そこはダンジョンの中で、切り上げるには十分遅い時間だった。低い階層であらかたこの辺りのモンスターを倒し切った後、魔石の回収を始めていた少年――ベル・クラネルであったが、訳もなく感じた悪寒に思考を巡らせる。
結露した水滴が背中に入ってきたわけでも、冷や汗を流すほどの危機に直面しているわけでもない。魔石を回収した手を止めて、武器であるナイフを逆手に握り直すと、改めて辺りへの警戒を深めた。
「……? どうしたんだベル。敵か?」
「……敵、ではないけれど嫌な予感がした。ヴェルフ、勿体ないけれどここは中断して帰ろう」
ベルに声を駆けたのは、背に太刀を据え着流しに防具を装着した赤髪の青年だった。しかし返されたベルの言葉に思わず眉をひそめる。
青年――ヴェルフ・クロッソにとってその階層は適正よりも低い地点であり、即座に危機に陥る事例は思い当たらなかった。余裕がある状態で金銭に直結する魔石を放置する、というのは納得がいくものではない。
「その勘、って奴は当たるのか?」
「偶にね。……勘って経験から来た未来予知って言うほどだから、何か異変を感じたんじゃないかな、たぶん」
「多分って言われてもなぁ……あいよ、万が一にも何にも無ぇのが一番だしな。ここは……」
そこまでヴェルフが答えたところで、ベルはダンジョンが小さな揺れを起こしていることに気が付いた。
それは他の場所で戦いが始まれば起こる程度のもので、誰かがコボルトでも狩っているのか、という考えが浮かぶ。だが嫌な予感が連動して思考を留めることはしなかった。
そもそも今日はヘスティア様が「神の宴で夕食をガメてくるぜ!」と言っていたため、ダンジョンに遅い時間まで居る。他の冒険者たちが多く居るのだろうかと疑問に思う。
そしてその小さな揺れはだんだんと大きくなってきている。冒険者が全力で走るような状況など、逃げるか迎撃の時間を作るかの二択だ。
「ヴェルフ! 振り返らずに前に向かって走って!」
「おうよ! 逃げるぞベル!」
切羽詰まったようなベルの声にヴェルフは持っていた魔石を投げ捨て、ベルもその背中を追った。
足音はだんだんと大きくなって近づいてくる。足音から恐らく来るのは人型のナニカだろう。
できればオーク、最悪でもシルバーバックならヴェルフと共闘すれば逃げ切ることはできるだろう。角を曲がる直前、ベルは後ろから走ってくる人型の何かを視界に入れた。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「畜生ふざけんな! ミノタウロスだ!」
悲鳴交じりにベルは叫んだ。
GLっぽいですけどそうするつもりは無いです。