鈍感な提督と艦娘たち   作:東方の提督

18 / 19
軽いヤンデレが入っている……と思います。
苦手な方はご注意を。


*提督と阿賀野

ある日の夜。

 

 

「―――よし、僕も戻ろうかな……あれ」

 

今日の業務も無事に終わったし、あとは寝るだけか。

 

部屋に戻ることにしよう。……まずはこれを片付けて―――

 

 

 

さて。忘れ物は無いだろうか―――と、執務室を眺める。

 

「―――ん?」

 

ここで、部屋の一か所に、少し違和感を覚えた。

 

僕の執務机よりも一回り程小さめな、秘書艦用の机。

終業後の今、何も置かれていないはずのそこに、一冊のノートが。

 

「『ていとくにっし』…?…あっ、もしかして阿賀野かな」

 

それを手に取り、思い出すのは、今日の夕方の事―――

 

 

 

 

 

「―――失礼します。……阿賀野姉ぇ、お仕事ちゃんとやってた?」

 

「入って来ていきなりぃ!?ほんとに失礼ねっ!」

 

ほんとかな、と姉に向かってジト目を向けているのは能代。

そんな妹の言葉に、心底驚いた顔をしているのは阿賀野。本日、秘書艦を任せている。

 

彼女は大きなショックを受け、放心しかかっていたが、持ち直して一言。

 

「これでも阿賀野、提督さんのお手伝いはしっかりやったんだから!ね、提督さん?」

 

きらり~んっ!と能代にVサインを見せつけつつ、僕に同意を求めた。

……実は、かなり余裕だったりするのか。

 

そんな姉をスルーしている能代も、どうなんですか、と言わんばかりにこちらを見てくる。

 

取り敢えず、ありのままに答える事にしようか。

 

「能代、心配しなくても大丈夫だよ?」

 

変わらず、訝しげにこちらを見る能代を尻目に、僕は言葉を続けようとする。

……ところで。この反応は、僕も信用されていなかったりするのだろうか。

 

「今日は仕事量が多かったけど、手伝ってもらって、僕としても助かったんだ」

 

決して阿賀野に助け舟を出した訳ではない。……意地悪したい訳でもないけれど。

事実、今日の阿賀野はよく頑張ってくれていたと思うから。

 

「ふふーん!」

 

そんな事とは露知らず。

僕の答えに満足したのか、阿賀野は胸を張ってドヤ顔を決める。

 

一方能代はというと。

 

「まったく……大して誇れることじゃないよ、阿賀野姉。みんな当然やってる事です!」

 

呆れかえったように、そう言った。

 

……是非、夜戦が大好きなあの軽巡や、昼寝が大好きなあの重巡に言って聞かせてやってほしい。

 

「ぐぬぬ……えーんっ、提督さーん!能代がいじめてくるよー!」

 

能代の厳しい返しに、とうとう答えに窮した阿賀野。

何故か、僕に抱きついてきた。

 

「ぐえっ…阿賀野、ちょっと離れて……」

 

「ちょっ、阿賀野姉!」

 

僕は座っている状態だから、阿賀野に立って抱きつかれると、その……

く、苦しい……主にその大きな―――

 

 

 

 

 

「きゃー!」

 

能代の手により、無事に引きはがされました。

 

「ほんとにもう……」

 

うるさいわよ、と姉を叱りつける妹。……姉の威厳、形無しである。

どちらが姉か、分かったものではない―――

 

そんなちょっと失礼な事を考えていると。

 

「―――っと、こほんっ」

 

能代が一つ、咳払いをした。

どうやら、ここへ来た本来の目的を思い出したようだ。

 

「それでは提督、阿賀野姉を連れて行ってもよろしいでしょうか」

 

連れていくというのはおそらく、食堂に、だろう。

仲の良い艦娘や同型の娘同士で

もう、世間一般では夕食の時間だし、こういった事は他の艦娘と居る時もよくあるからだ。

 

「うん、問題ないよ」

 

「提督さんはまだお仕事なのー?」

 

「あとちょっとで終わるし、気にしなくていいよ?行っておいで」

 

ちょっと、って程じゃないのは、内緒。

ほんの少しの、僕の見栄である。

 

「ふふ。……いつもありがと、提督さんっ」

 

そんな僕の思考を知ってか知らずか―――阿賀野は僕に、そっと耳打ちをした。

 

……いつもは少し抜けているようだけど、やはりお姉ちゃん。

どこか鋭く、聡いところがあるように感じるのは、僕にやましいところがあるから?

 

 

「じゃあ、一足先に失礼します!」

 

「ああっ、阿賀野姉ぇ……」

 

いつも通り、明るく部屋を出ていく阿賀野と、彼女にまだ言いたい事がありそうな様子の能代。

 

 

はぁ、とため息をひとつ吐き、

 

「……提督。お疲れのところ、お騒がせしてすみません……」

 

本当に申し訳なさそうに謝る能代。

 

「楽しくていいじゃないか。……あまり気にしすぎちゃダメだよ?」

 

どんな事でも、やり過ぎは良くないと思う。そう伝えると。

 

「ですがっ……いえ。……それでは、提督もご無理をなさらないでくださいね?」

 

「……そんなに信用ない?」

 

内心察してはいたが、ちょっとショック。阿賀野の気持ちも、少し分かった気がする。

……もうちょっと、優しくしてあげなければ。

 

しかし。

 

「いえっ、違います!……提督がもし倒れてしまったら、心配する艦娘はたくさんいるんですっ」

 

彼女は顔を少し赤らめて。

 

「それでっ……私も、きっと心配するので……そのっ、お体を大切になさってください!」

 

言葉に詰まりながら、そう伝えてくれたので。

 

「―――ありがとう、能代」

 

思わず涙が出そうになった。

 

 

……僕の頑張りも、無駄ではないという事なのか。

 

 

「っ……それでは、私もお先に失礼します…………あっ、阿賀野姉ぇ!待ってよー!」

 

しかし。恥ずかしくなって、その場に居られなくなったのだろうか。

逃げるように、執務室を出て行った。

 

 

 

 

 

そんなやりとりと一緒に、このノートについて、本人に直接聞いた時の事も思い出した。

 

 

 

「ああ…これ、ですか?……んっふっふ……これはねぇ、『ていとくにっし』です!」

 

「何が書いてあるの、って?………ふふ、秘密でーす。―――えぇー、どうしてもって言われても―――」

 

 

 

「ふふっ……」

 

結局、あの時は答えてもらえなかったが。

……少しは仲良くなった―――と勝手に思っているだけだが―――今なら、教えてもらえるのかな。

 

「さて、届けに行こう―――」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「阿賀野ー、居るー?」

 

彼女たちの部屋の扉をノックをして、暫し待つ。

 

「んっ…あれ、提督さん?」

 

程なくして、阿賀野が出てきた。

 

 

 

「いや、ちょっと忘れ物を届けに。……ところで阿賀野」

 

「?……なあに、提督さん」

 

 

「能代は居ないの?」

 

 

「っ……ああ、えっとね、能代は今お風呂に入ってるよ。……なんで?」

 

「あははっ、特に意味はないんだけどね、気になったから。……おっと、忘れるところだった―――」

 

「―――はい。これ、阿賀野のだよね?執務室の机の上に置いてあったんだ」

 

「あー!ありがとう、提督さん!今探してたんだけど、見つからなかったんだよねぇ~…………っ!」

 

「なら良かった。…じゃ、僕はこれで―――」

 

 

「ちょっと待って」

 

 

「……ねぇ、提督さん」

 

 

 

「?……どうしたの、阿賀野」

 

 

 

「正直に答えてね?」

 

 

 

「な、何?いきなりどう―――」

「いいから」

 

「っ!?」

 

 

 

「提督さん。これ、読んだ?」

 

 

 

「……いや、読んでないよ」

 

 

 

「ほんとに?」

 

 

 

「そんなところで嘘ついてどうするのさ……」

 

 

 

「……」

 

 

 

「どうしたの、阿賀野。…何か、様子が変だよ?」

 

 

 

「……ふふっ」

 

 

 

「…………あははっ」

 

 

 

「あはははははははははっ!」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

「……あはっ、冗談です、提督さん。……もぉ、そんなに怖がらなくてもいいじゃない」

 

「!……まったく、脅かさないでくれよ……いつもの様子と違うから、何かあったのかと思ったよ」

 

「ふふっ。……阿賀野、もしかして演技派かしら?」

 

「そうかもね。…じゃあ、今度こそ。お休み、阿賀野」

 

「提督さんも、夜遅くまでお疲れ様。お休みなさーいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

今の反応は、ほんとに読んでなさそうね。良かった良かった。

 

「……」

 

これをあの人に読まれたら恥ずかしいものね。

 

「さて、今日の日誌をつけましょうっと♪」

 

 

かきかき。

 

 

「……ふんふんふふ~ん♪……」

 

 

ごしごし。

 

 

……

 

 

「いよーっし!できたぁ!」

 

 

 

「にへへへへ……はっ」

 

思わず声まで出してにやけてしまった。いけないいけない。

 

……そうだっ。能代も居ない事だし、せっかくだから―――

 

 

「えへへっ、提督さぁん……♡」

 

 

彼と私の愛の結晶を、読み直す事にしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん、帰って来たみたいね」

 

 

 

 

 

「おかえり、能代。……ん、どうしたの?」

 

「へえ……提督さんにねぇ……」

 

 

「良かったじゃない、能代」

 

 

「ふふっ。……能代、提督さんの事大好きだもんねー?」

 

「違うって?……もー、素直じゃないんだから……一体誰に似たのやら……」

 

「まったく……そんなに否定するなら―――」

 

 

 

「―――提督さん、盗っちゃうよ?いいの?」

 

 

 

「……でしょ?」

 

「……大丈夫よ、能代には魅力がたっぷりあるもの。お姉ちゃんが保証しますっ」

 

「……」

 

 

「……あ、そうだ。ねぇ、能代―――」

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

 

「てーとくさんっ、こーんにちはっ!」

 

「ん?……阿賀野か。こんにちは」

 

「提督さんに会いたくて来ちゃった~」

 

「あはは……ありがとね。でも、あんまり頻繁にやっちゃダメだよ?僕が遊んでいると示しがつかないし―――」

 

「えぇ~っ!たまには提督さんもお休みしないと~」

 

「なにより、君が来るとお休みできないから言ってるのさ」

 

「んもー、提督さんってばひどーい」

 

「あははっ……ところで。今日は能代と一緒じゃないんだね」

 

「提督さん、忘れちゃったの?―――

 

 

―――今日は能代、朝から遠征に出てるでしょ?」

 

 

「あれ……そうだったっけ」

 

「提督さん、もしかしてお疲れ?」

 

「かもしれないね……きちんと艦隊を把握できてないのはまずい。しかも自分で指揮しておいて……」

 

「いつも働きっぱなしだからだよっ?しっかり休まないと!」

 

「そうだね……暫く大きな作戦もないだろうし、皆でまとまった休みを取ろうか」

 

「やったー!……でも提督さん、お休みしてない訳じゃないんだよね?」

 

「うん……ちゃんと寝てるし、食事も摂ってる」

 

「何か心配事とかあるのかな?だから休んだ気にならないんじゃない?」

 

 

「……心当たりはあるんだよね」

 

 

「なになに、聞かせて?」

 

「う……でもなぁ……」

 

「こういう時こそ、お姉ちゃんの出番ですっ!……話してみたら、きっと軽くなるはずだよ?」

 

「……ありがとう。それでね、その心当たりっていうのは―――

 

 

―――最近、一人でいる時、常に誰かに見られている気がするんだ」

 

 

「!……それって」

 

「ストーカー、なのかな。僕なんか監視したって、良い事ないのに。……まぁ、多分気のせい―――」

 

 

「そんな事ない!提督さんは優しいし、かっこいいし、良いとこたっくさんあるんだよっ?」

 

 

「……」

 

「それに、みんなで頑張って戦果もいっぱい上げてるから、他の誰かが良く思ってなくてもおかしくない―――」

 

「ありがとう、阿賀野。そこまで言ってくれて、嬉しいよ」

 

「っ……」

 

「自分と同じ考えの人たちだけじゃないから、僕の事を良く思っていない人だってきっといる。……それでも、身内だけは、疑いたくないな」

 

「!……ごめんなさい」

 

「ううん、気にする事ないよ。……それに」

 

「?」

 

「阿賀野に聞いてもらったら、本当に心が軽くなった気がするよ」

 

「……!……うふふっ!」

 

「話に付き合ってもらってありがとう、阿賀野」

 

「いえいえっ!……ところで提督さん、()()()ってどういう事!?信じてなかったのかしらっ!」

 

「あはは、ばれたか」

 

「もー、提督さんってばー!」

 

 

 




というお話。今回は阿賀野ちゃんでした。
普通の阿賀野ちゃんを期待してたの!という方には申し訳ない。
でも「提督日誌」なんて……ねぇ?(責任転嫁)
絶対提督さん見張られてるじゃないですかやだー!

いやほんとに好きなんですよ?
長女だからしっかりしてそう……と見せかけて実はそうでもない!みたいなとことか庇護欲(?)そそられていいです!
何言ってんだこいつ。

最後に彼が言っていた、「ストーカー」の正体とは。
途中でフェードアウトしてしまった能代の行方は。
とか色々投げっぱなしですが多分拾いません。
皆様のご想像にお任せしますというやつですね。

後者はともかく前者は……
鳥海ちゃんじゃないですかね?(すっとぼけ)
ほら、ポンコツ入ってるからー。

能代ちゃんの扱いも不遇な感じなので絶対書くと思います。
あと前々から上がっている天龍田コンビも。

思い出したのでひとつ。
数日前に、書きかけのままだった榛名回の更新(追記)をしております。
気になる方は是非。

いつもと同じくまとまらない後書きも、以上で終わらせたいと思います。
お付き合い感謝です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。