わりとこの艦娘、作者は好きです。
羽黒や神通、榛名ほどではないがな!
作者は癒し系が好き、はっきりわかんだね。
涼「おー、盛大に壊れたな」
俺の目の前には瓦礫の山、そして満面の笑みを浮かべる艦娘達。
これで少しはこいつらの心を癒せたかねぇ…?
涼「あーはいはい。喜ぶのはいいが少し落ち着けー」
吹雪「で、ですが、司令官!?こう、なんと表現すればいいのでしょうか…!?えっとえっと…!」
卯月「なんか心ピョンピョンするぴょん!」
愛宕「そうねぇ、すごいスッキリしたわね!」
全員が晴れやかな顔をしてるが、浮かれすぎて話を進めれねぇ…。
涼「スッキリしたのはよかったが、この後の予定を伝えるから静かにな?」
全艦娘「はい!」
涼「よし、では伝える。壊したのはいいが、あの中には執務室などあった。そのため、建て直しを行う…そろそろ来るはずなんだが…?」
全艦娘「?」
「おーい!提督さんよぉぉ!」
涼「お?来た来た」
相変わらず時間にルーズだな、あの人…。
涼「少し遅刻だぞ、おやっさん?」
おやっさん「がははは!小さいこと気にすんなや、ボウズ!来たからいいだろ!」
涼「はぁ…。この方が建物の建て直しに協力してくれる…」
おやっさん「おう!ボウズの昔の知り合いだ!おやっさんと呼んでくれ!にしても、可愛い子ばかりじゃねぇか!羨ましいな、おい!」
涼「そういう相手じゃないですよ…。皆にしてもらいたいのは、建物の建て直しに協力することだ。艦娘なら瓦礫の撤去も手伝えるし、力仕事の多いこの作業を手伝ってもらいたい」
実際、艦娘の力は凄い。
艦装を装備していない状態でも、普通の大人より力があるから、かなりの戦力になるはずだ。
涼「ただし、全員が一斉に手伝うわけじゃない。幾つかのグループに分けて、順番に手伝ってもらう。順番じゃないグループは、この前言った通り、好きに過ごしてくれ。この後、そのためのお金を渡す」
おやっさん「おいおい、ボウズ?本当にこんな女の子達が手伝うのか?俺にはそんな力持ちには到底見えねぇんだが…?」
涼「大丈夫だよ、おやっさん。扶桑、電。そこの瓦礫を適当に持ち上げてくれ」
扶桑「了解いたしました…」
電「は、はいなのです!」
そう言った二人は瓦礫に近づき…
扶桑「ふっ…」
電「え、えい!」
軽々と持ち上げた。
おやっさん「…おいおい、マジかよ」
涼「どうだい、おやっさん?これなら足を引っ張ることはないだろ?」
おやっさん「お、おう…。ぜひ手伝ってくれ!これなら予定より早く終わりそうだな!」
涼「あと、この子達も貸し出す」
おやっさん「お?おぉぉ?なんだこのちびっこいのは?」
おやっさんの足元には妖精達が集まっていた。
涼「うちの技術班だ。建築の専門知識もあるから、艦娘と合わさったら、一週間くらいで終わるはずだ」
妖精一同「よろしくお願いします!おやっさん」
おやっさん「おぉ!よろしく頼むぞぉ!にしてもボウズ…、一週間は流石のワシでも辛いものがあるぞ?」
涼「いや…、おやっさんとうちの艦娘と妖精が合わさればできるさ。頼んだぜ、おやっさん?」
おやっさん「がはは!仕方ねえな!やってやるよ!おら、妖精っていったか?ついてこい!打合せするぞ!」
妖精「はーい!」
おやっさんは妖精を引き連れていった。
にしても、あれだな…。
相変わらず、元気な人だな。
あれで還暦越えてるんだから、すげぇよなぁ…。
榛名「あのぉ…?提督?」
涼「っと!すまんな。グループ分けの紙をこれから配るぞ。それと同時にお金も渡したいから、戦艦から順番に来てくれ。それと長門と陸奥は残るように」
さてと、これ配ったあとには溜まってるあれを整理しないとなぁ…。
お金とグループ表を配り終えた俺の目の前には、長門と陸奥が立っていた。
長門「それで提督、なぜ私たちを残した?」
涼「すまんな、聞きたいことがあったんだよ。お前らは俺が来るまでに書類などの、本来提督がやる業務を行っていた。これはいいな?」
陸奥「えぇ、そうよ」
涼「なら知ってるはずだ。どの鎮守府にも必ず一人は存在しており、書類作業などの手伝いをしてくれる…
大淀はどこだ?俺はこの鎮守府で大淀を見たことがない」
長門「…やはり…気づくか」
涼「流石にな。俺は昨日から鎮守府を歩き回っているが、大淀だけが見当たらない。鎮守府に一人は必ずいるはずなのに…だ」
そう、俺は大淀だけ見た覚えがない。
鎮守府内の全ての施設を歩き回り、全艦娘が集まったときでさえ、俺は大淀を見ていない。
明らかな異常事態だ。
陸奥「ねぇ…?貴方は大淀の業務を知ってる?」
涼「…?提督の事務作業等の手伝いだろ?他にも作戦指揮の通信も担当してくれたはず…」
陸奥「えぇ…、合ってるわ。でもね?それは常に提督の側にいないといけない…。どんな提督が相手でもね…」
…っ!?それはつまり…
長門「…気づいたか。そうだ、大淀は常に提督の側にいた。そのため、提督は大淀を都合のよいストレス発散に使った…。肉体的にも、精神的にもな…」
…糞が。そういうことか…
陸奥「そんな扱いをされて平気な子がいると思う?大淀は追い詰められていって、ひどい精神不安定状態に陥ったわ…」
長門「今は宿舎の部屋で療養中だ…。ただし、回復の兆しはまったく見えんがな…」
………
長門「…提督。今までの行動で貴方は信頼できる人だと私は思っている。色々型破りな所はあるがな…」
涼「自覚している…。直す気はないぞ?」
長門「だろうな…、別に今のままでいい…。そんな貴方にお願いがある…!」
長門と陸奥は俺の目の前で膝を地面につけ…、おい…ちょっと待て…!?
長門、陸奥「頼む(お願い)…!どうか大淀を救って欲しい(ちょうだい)…!」
涼「…俺は提督だぞ?提督に怯えてる大淀に俺が説得しようとしても逆効果だろ?」
長門「…かもしれないな。だが、それでも頼む…!私では救えないんだ…!」
陸奥「確かに私たちが近くにいれば、落ち着きはするわ…。でもね、それじゃあダメなのよ…。根本的な解決をしなければ、あの子は永遠に前提督の影に怯えることになってしまう…」
涼「それは…確かに…そうだが…」
大淀のトラウマになっているのは恐らく、前提督個人ではなく、提督という肩書きを持った人間だ。
そんな状態の大淀に俺が行っても逆効果なんだが…。
長門、陸奥「「…」」
…ここまでされて、断るわけにはいかねぇ…か…。
涼「…わかった」
長門「…!?本当か!」
涼「ここで嘘言うほど、性根は腐ってねぇよ。ただし、条件がある」
陸奥「条件?」
涼「俺と大淀が話すときにお前らが大淀の隣にいることだ」
長門「…錯乱させないためか?」
涼「そうだ。錯乱されちゃ話し合いにならないからな。それじゃあ、俺は用意するものがあるから少し時間を置いてから集まるぞ。場所は宿舎の前でいいか?」
陸奥「えぇ、それでいいわ!」
俺はその場から離れた。
はぁ…、どうすっかなぁ…。
さて、宿舎の前に…、あぁいたいた。
涼「すまん、遅れた!」
長門「いや、そこまで遅れてないからいいのだが…」
陸奥「貴方、その布に包まれた長い棒は何?」
涼「んー…、そうだなぁ…。強いて言うなら…護身道具?」
長門、陸奥「…?」
涼「ほら、これのことはいいから大淀のところに行くぞ。案内頼むぞ~」
これが役立ってくれるといいんだが…。
長門「ここだ。この部屋に大淀がいる」
陸奥「それじゃあ、私たちが先に入って事情を説明するわ。大淀が話し合いに応じてくれたら、呼びに戻るから少し待っててちょうだいね?」
涼「あぁ、わかった」
そう言い残し、長門と陸奥は部屋に入っていった。
にしても、この宿舎暗いな…。
日差しとかそういうのじゃなくて…、なんだろうな…。雰囲気とでも言えばいいのか?
重苦しい空気が漂っている…。
これも改善できればいいんだが…、そう簡単にはいかんだろうなぁ…。
ほんと、いらんものしか残さねぇな、前提督。
ん、部屋の中で動きがあったな?
陸奥「提督…。いいわよ…」
涼「そうか…。なら失礼する」
部屋に入って目にしたのは…、長門の背中に隠れるセーラー服のようなデザインをした服を着ている、黒髪ロングの女の子だった。
涼「君が大淀…か?」
大淀「…は…はぃ」
俺が名前を聞くと、大淀は震えた声で返事をしてくれた。
涼「…君の境遇は長門達から聞いている。君は前提督個人が怖いのではなく、提督という存在が怖いんだな?」
大淀「…そうです。あの人は…前提督は言っていました…。私たちは兵器で、それは提督の間では常識だと…。…貴方もそうなん…でしょう。私たちを兵器と見なし…、夜には都合のいい娼婦扱い…。確かに…私たちは兵器です…。でも…それでも…あんな扱いは嫌です…。殴られ…罵倒され…囮にされ……犯される…。もう嫌なんです!私は!未だに夢に見るんです!あの日々を!だれか…たすけてよぉ…」
そう言いきり、俯く大淀。
それは慟哭だった。
長い間悪夢に魘され恐怖に怯える、悲しい叫び…。
涼(…兵器?目の前のこの娘が?涙を流し、助けを求めるこの娘が?…ふざけるなよ…!どう見たら、そうなる!?異常だとは思ってた。軍学校では『艦娘を兵器として見る』ことをおかしい頻度で教え込んでいた。あれはもはや、洗脳の類いだ!…上等だよ。最初は乗り気じゃなかったが、あの人の話に乗ってやる…!)
涼「…大淀」
大淀「…なんでしょう」
涼「君の今の状態では、俺の言葉は何を言っても君の心には届かないだろう。そこでだ。君にこれを預けたい。陸奥、渡してやってくれ」
陸奥「その長い棒を?まぁいいけど…」
俺は肩に引っかけていた物を陸奥に渡す。
陸奥はそれを怪しげな表情で受け取り、大淀に渡す。
大淀「…なんでしょうか、これは」
涼「まぁ、開けてみてくれ」
大淀は布を広げ、中身を確認し
大淀「…なっ…なんですかこれは!?」
絶句した。
大淀「…なんで…日本刀が…!」
長門「何!?」
陸奥「何ですって!?」
おぉ、三人とも驚いてる驚いてる。
涼「大淀。君にはその日本刀の帯刀、または使用を許可する」
大淀「……は?」
涼「簡単にいうとだな?君はそれをこの鎮守府内ならいつでもどこでも、持っていていいし使ってもいいということだ。まぁ、使用に関しては俺相手限定だがな」
大淀「あ、あなた正気ですか!これを使ってもいいということは…!」
涼「あぁ、殺してもいいということだ。長門から俺の殺害許可については聞いているな?」
大淀「…はい」
涼「君が復帰するのなら、前のように俺の側で業務をすることになる。だが、それじゃあ前提督の時のように、襲われるかもしれない。そのための日本刀だ。それは君の護身道具なんだよ、大淀」
大淀「で、ですが…!執務中にこのような物を…!」
涼「さっき言ったろ?いつでもどこでも持ってていいって。執務中だろうが飯時だろうが、それを持っててもいいんだよ」
大淀「…(唖然)」
長門「…くっ…くははっ!さすが提督!私たちの思い付かない方法で説得しようとするな!」
陸奥「ふふふっ…。自分の側に自分の命を狙う殺し屋を置くような真似、普通の人にはできないわよ?」
涼「こうでもしないと、説得できんと思ったからな。最近、書類関連が辛くて辛くて…。大淀にはぜひ戻ってきて欲しいんだよ。じゃないと、俺が書類で埋もれ死ぬ。前提督の溜め込んだ書類の量見るか?発狂するぞ?」
大淀「…あの人は…仕事をする気がありませんでしたから…」
そのおかげで、俺に仕事が回ってくると。
前提督、生き返らねぇかな?
そしたら、俺がもう一回あの世に送り返してやれるのに…。
涼「さて、大淀。君はどうする?俺を側で見張るか、ここで静かに過ごすか。好きな方を選んでくれ」
大淀「……ここまでされて…逃げるわけにはいきません…。提督…これからよろしくお願いいたします!」
そう言った大淀の表情は
部屋に入った当初の怯えた顔ではなく
大淀本来の笑顔だった。