インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Sideイチカ
「一時はどうなる事かと思ったよ~」
「ホントねーあ、オーダー入ったよ!」
「今行くよ」
多少とは言い難いトラブルに見舞われてしまったものの皆の尽力によりなんとか無事に文化祭二日目を迎えた。
しばらくして業務が粗方完了する。
さてとそろそろハヤト達が来ている筈だ。
「…あ、ウッカリしてたな…待ち合わせ場所決めておくの忘れてた!…」
さ、探しにいかなくては!
そう思ったその時、ドーン!
突如、食堂の方で轟音が響き、只事ではないと感じた俺は急いで其方に向かった。
一時間前、Side春季
「ですから是非共我が社の装備品をですね…」
「他の企業の方にも言いましたけどお断りさせて頂きます。
これ以上余計な物は俺の機体に必要ありませんので。
それに…」
「?」
「一応聞くけどアンタ、企業の人間じゃないでしょ?
何者なんですかね?」
「!?」
文化祭は普段よりも必然的に外部の者が多くなる。
IS専門社員がやたらと勧誘してくるのは仕方無い事だがその中には碌な事を考えていない連中が少なからずいた。
俺の目の前に客として来ている女性もそうだ。
教室で一度勧誘を断った上にクラスメイトが注意したのだが、食堂に行った所を狙って又勧誘してきたのだ。
こっそりとヤタさんに素性調査を依頼し、巻髪礼子なんて社員は少なくとも国内のIS関連企業には存在していない事が判明した。
恐らくは俺とイチカ兄さんの機体とデータを狙った詐欺師かもしくはそれ以上の何者か…
その事を看破された巻髪礼子は驚愕に満ちた表情を浮かべていた。
が…
「チッ!?…バレていちゃあしょうがねえ!…」
「!?皆今すぐ此処から避難するんだ!」
「キャア!?/ウワッ!?」
あろう事か開き直り機体を展開してきたのだ。
俺は急いで周囲の人達に避難指示をする
「このアタシ、オータム様とアラクネの力の前に平伏しなあ!」
「アンタの好き勝手には絶対にさせない!
来い、相手をしてやる!」
被害を最小限に食い止める為、オータムと名乗る彼女を外に誘い出した。
「来い、千式雷牙!」
外に誘い出せたのを確認し応戦体勢に入ろうと機体を展開した。
だが…
「ハッ!その時を待っていたんだよおー!」
「なっ、コレは!?…」
「アハハハ!アタシがわざわざ只、誘い込まれただけだとでも思ったかあー!」
展開が完了した途端にいつの間にか仕込まれていたウィルスプログラムによって千式雷牙にノイズが生じ、動きが可笑しくなったのだ。
その様子に彼女は高笑いするが数十秒して動きが正常化した。
「と、止まった?…」
「て、テメエ!何故剥離剤のプログラムを受けて機体が解除されない!?」
「へえ…」
そういう事か!仕込まれていたウィルスプログラムは機体を強制解除させる為だけの物だったようだ。
只ウィルスプログラムの副作用か雷砲血神以外の武装が使用不能になっていたが…まあ一時的な現象であろうか。
「こうなればテメエを倒して機体を奪い取ってやる!
アイツを絡め取ってやれアラクネぇ!」
「クッ!?…」
無数に放たれる蜘蛛の糸の様な攻撃を回避するのがやっとだ。
流石にこの猛攻を突破するには雷砲血神しか使えない現況ではジリ貧であることは明確だった。
事件発生十五分前、Sideハヤト
「や、ヤベェ完全に迷っちまった…どうしようー!?」
どんだけ広いんだよこの学園はあー?!
ウッカリとイチカとの待ち合わせ場所を決めておくのを忘れていて彼を探しに行くのを買って出た俺だったが予想外の大きさのおかげで完全に迷子となってしまっていた。
トホホ…なんてこったい。
「ちょっとそこの男!」
「ン?…」
ふと後ろから声をかけられたので振り向いたは良いが…
「ほらアンタ、此処の会計を早く支払いなさいな!」
「は?…」
そんな馬鹿らしい要求をしてきたのだ。
突然声をかけてきたと思ったら一体この女性は何を言っているんだと思ったがすぐにイチカが言っていた事を思い出す。
確かISだっけ?例外はあれど何故か女性にしか反応しないパワードスーツだったか…その欠陥としかいえない代物のせいでこの世界には女尊男卑思想が浸透してしまったんだとか。
これでも幾分かはマシになったらしいのだが…
「聞いているの?!」
「…」
痺れを切らした女性に怒鳴られるがそんな見当違いな事を素直に利く訳にはいかない。
いっその事なので武芸者としての殺気でも放って追い払おうとでも考えていたが
「あのー、ちょっとお客さん?」
「な、何よ!?」
売店の生徒が見かねたのか女性にひと声かけてくる。
当然の様に女性は癇癪を起こしていた。
「昨日から面白可笑しく皆で楽しむその為の文化祭なんです。
そんな日にまで下らない思想を持ち込んで他のお客さん達に迷惑を被ろうとするなら金輪際出禁にしますよ?
あ、ちゃんと御代は利用したお客さんが払って下さいね?」
「ヒッ!?…」
女生徒に完全論破され女尊男卑思考の女性は金を払ってそそくさと退散していった。
「あの、大丈夫でしたか?」
「あ、ハイなんとか…ありがとうございます」
助けられた俺は女生徒に感謝する。
「ふう、まだまだ難しいものね…以前まであんな調子だった私が言えた事ではないんだけど…」
どこか遠い目をしながらぞう言う女生徒。
「それで…貴方は何か探し物でも?」
「えっと…実は来る事は伝えてあったのですが待ち合わせ場所を決めるのを忘れていまして…」
「それで迷っていたという訳ね…良いわウチのクラスは一段落ついているようだし私も探すの手伝ってあげるわよ。
それで誰を?」
「剣崎イチカを」
「!分かったわ」
彼の名を言うと女生徒は驚いた様な表情をした。
彼女のおかげでどうにかなりそうだ。
「!?」
なんだ今の嫌な感じは!?…
俺のヴァリアントとしての力が不穏な物を感じ取った瞬間、大勢の人達が一斉に雪崩こんできた。
「え、ちょ!?…」
雪崩こんでくる集団から女生徒を守る為急いで彼女を引き寄せる。
「あ、ありがとう…」
「いえいえ、しかしこの状況は一体何が…」
「分からないわ…けれど…」
「オヤオヤ~?其処に居るのは元ビッチと憎き如月ハヤトではあ~りませんか!」
「ヒッ!?…あ、アンタは…」
「ギリウス!何故お前が此処に!?」
全武芸者育成機関によってS級指名手配犯となったギリウスが現れたのだ。
「亡国企業の二大トップの御命令でね!
なんでもある計画の遂行の為にこの学園の地下に封印されてあるらしい機体が必要なんだとさよ!」
「何!?一体誰だ!?…」
「言う訳ねえだろうがあ!」
「危ない!くうっ!?…」
襲いくるギリウスの凶刃から急いで女生徒を引き離し、即座に飛燕・改を展開し防ぐ。
「あ、アンタ一体?…」
「いいから早く離れるんだ!」
「え、ええ…」
女生徒が俺の飛燕に驚くが指示に従って避難する。
「ギリウス、黒幕の事絶対に吐かせてやるぞ!」
「やってみろやあー!ン?…ああン!?失敗しただあ!?チッ!…」
再び臨戦態勢を取ったもののギリウスは急に動きを止め何かを呟いている。
「バイナラ!」
「ま、待て!…逃げたか?…」
会話の内容から察するに想定外の事態が起きて撤退を余儀無くされたのか?
それより今はこの事をクレア会長に報告しないとな…。
「えっと…案内頼めるよな?」
「え、ええ…」
そのついででイチカを引き続き探す事にした。
更に一分前、Sideクレア
「遅いですわ!如月ハヤトは剣崎イチカを探しに行ったきり一向に戻ってこないではありませんの!」
「まあまあ、案外何処かで迷っているんじゃないかな?
ならば彼等が此方に戻ってくる迄の間、我々は一足先にこの学園の責任者と面会する必要性がある。
そうだろ」
「そ、そうですわね!…」
二つの世界の脅威に対して早急の対策を立てる為、私達はISなるパワードスーツ専門の学園を来訪していた。
だが私もウッカリと剣崎イチカとの待ち合わせ場所を決めるのを忘れていて立ち往生していた。
このまま此処でこうしていては埒が明かないとこの学園の責任者が居る所へと足を運ぼうとしたその時だった。
ドゴーン!突如として轟音が響き渡ってきたのだ。
「一体何事なんですの!?」
「て、テロだー!
なんとか対抗出来る人が外に連れ出してくれたおかげで大丈夫だけど…」
避難してきた一人がそう叫ぶ。
リトルガーデン襲撃事件を思い出す。
あんな事態はもう繰り返させない。
「クレア、くれぐれも気を付けてくれよ?」
「承知していますわ。
博士は早く避難を!」
シャロや他の人達が避難したのを確認し、私はアリステリオンを展開し戦闘区域へと向かった。
「これは…」
向かった先には趣味の悪い色合いの機体が出した無数の蜘蛛の糸のような鉄子が張り巡らされていた。
テロリストはアレで間違いない、応戦している機体は近接型なのか一向に手が出せない状況であることが分かった。
まずはこの鉄子を排除しなければならない。
「はあっ!」
バスターキャノンを一点式弾モードに切り替え、鉄子を焼き斬っていく。
これで此方から手を出せる。
幸い、目の前の機体を倒す事に集中していたおかげで気付かれていない。
「全弾お行きなさい!」
ドラグーンを射出しテロリストの機体を攻撃した。
「何ッ!?…一体何処から…」
「!今だ、鳳凰打羽陣!」
「しまった!?グアァァー!?」
好機と見た機体がその手に纏った一撃を繰り出す。
テロリストは機体エネルギーを削られ吹き飛んだ。
「はあはあ!…」
「糞がっ!?…」
だがテロリストは健在だ。
対応していた機体は今のでエネルギーを使った為か動きが鈍くなっている。
「咄嗟に鉄子で威力を半減しましたか…ですがこれで終幕で…」
私がトドメを刺そうとしたその時
シュン!
「ドラグーン!?上!?」
私の攻撃を妨害するかの様に上空からドラグーンが飛来し仕掛けてきたのでEバリアを展開し防ぐ。
「もう一機のアンノウン、テロリストのお仲間でございますか…」
「…」
新たに現れたもう一人のテロリストは無言のまま更に攻撃してくる。
「だんまりですか…そちらがその気ならば手加減致しませんわよ!
アリステリオン!」
此方もアリステリオンのブースターを吹かし上昇、ドラグーンを射出し対抗を試みる。
「ほう…中々やるではないか」
「其方も私のドラグーンを同数破壊するとはおみそれ致しますわ…」
ドラグーンの鍔迫り合いはしばらく続いたが、気が付いた時には互いに同じだけ破壊されていた。
エナジー残量にもあまり余裕は無い。
次で決めなくては…そう思い再度バスターキャノンを構えるが…。
「ム?…そうか…今回は此処までで退かせて頂くとする」
テロリストが通信相手と話ていたかと思うとそう言ってくる。
「どういう風の吹き回しですの?」
「単にこの学園を攻め落とすには戦力が足りないと上層部が悟っただけだ」
「…そういう事ですか…」
「おーい!春季大丈夫!?」
「はーくん!…」
「皆、来てくれたか!」
成程、今回の襲撃は小手調べの始まりに過ぎないと…。
下を見るとこの学園の増援が駆け付けてきていた。
その中には剣崎イチカの姿もあった。
Sideイチカ
「春、大丈夫か?!」
「俺は大丈夫です!だけどテロリストに仕込まれた剥離剤プログラムの副作用のせいで一部の武装が一時的な使用不可能に陥ってもうエネルギー残量も芳しくないんだ」
「そうか、よくやったぞ。
後は俺達に任せろ!」
「分かった!」
学園内に正体不明のテロリストの襲撃があったと緊急迎撃招集を受けた俺達がアリーナに急ぐともう既に春がテロリストの一人を追い詰めていた。
だが彼が言うにはテロリストの罠のせいで動きが良くないみたいだ。
彼を下がらせテロリストに向き直り睨む。
「さあ、どうする?」
「チッ!…多勢に無勢という事かよ!
ああ、今回の所は上からも御達しが来ちまったからおとなしく退いてやるよお!
だがオータム様は執念深い!次は必ずお前達の機体を頂きに来るぞ!
あばよ!」
捨て台詞を吐きながらオータムと名乗ったテロリストは機体から降りながらISコアを抜き出し空っぽになった機体を此方に向かわせてくる。
不味い!機体を自爆させる気だ!?
「いーくん下がって!私が!…」
「頼むセラフィーノ!」
セラフィーノが自爆特攻しようとしてくる機体にドラグーンを飛ばしバリアでこれ以上の進行を妨害しながらフィールドを形成。
その中で大爆発が起こりアリーナには少々大きな穴が空いただけで済んだ。
ふと上を見た俺は気が付く。
上空には紅いハンドレッドであるアリステリオンを纏ったクレア会長が此方を見下ろしていた。
成程、偶然今回の事態に遭遇した彼女が春の手助けをしてくれたのか。
後で礼を言わないとな。
あちらも此方に気が付き降りてきた。
「ようやく会えましたわね剣崎イチカ、それに如月カレン」
「お久し振りですね会長さん!」
「ええ、そうですね」
「会長?あのー、イチカさんこの方は?」
会長の事を知らないオルコット嬢が俺に訊ねてくる。
「その事もまとめて理事長達に報告するつもりだ」
「そうですか」
俺の一言に納得し早速報告に向かう事にした。
理事長室に向かうとハヤトとシャーロット博士も来ていた。
「それでは今回のテロリスト襲撃についての緊急報告会をここに。
さて外部からの援護もあり、テロリストは撤退したとのお話を聞いていますが貴方方は一体何者なんでしょうか?」
轡木理事長もクレア会長達に疑問を抱いたのか問う。
「はじめまして皆様方、私は武芸者育成機関海上学園都市艦「リトルガーデン」生徒会長兼ワルスラーン社代表、クレア・ハーヴェイと申しますわ」
かくして二つの世界が邂逅を果たした瞬間だった。