インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Sideイチカ
「不味い事になったな…」
やはりあの女が使ったのはサベージの体液、それもかなり大容量に配合されたアンプルか!
そんな代物を武芸者でも人工ヴァリアントでもない普通の人間が一度に大量摂取すればどうなってしまうかは火を見るよりも明らかだ。
「うわあああー!?」
皆、サベージに変貌した彼女を見て驚く。
「灰鉄さんすぐにローグ氏達を安全な所まで下がらせて下さい!」
「承知!」
俺はすぐに灰鉄さんに指示を出し彼女を含め撤退させた。
いくらヴァリアブルストーンとの融合機といえどもハンドレッドを扱えない彼女では逆に足手まといになってしまうからだ。
「イチカ兄さん!」
「春!?来てくれたのか!」
よもや春の救援が来るとは思いもよらなかった俺は驚いた。
「ああ、なんだか物凄く嫌な予感がしてね…ってアレはクラス対抗の時やボーデヴィッヒさんの時のと同じ怪物じゃないか!
確かサベージだっけ?」
「そうだ。だがラウラの時よりも遥かに性質が悪いぞ…」
今も尚サベージに変貌した彼女はその力を無作為に暴走させ周囲に被害を与え続けている。
このままではデュノア社が完全に崩落してしまうのも時間の問題だ。
それよりも早い所打ち倒さねば彼女は体液に汚染されもう二度と人間には戻れなくなってしまう。
そうなる前に早急な対策を講じねば。
推奨戦闘BGMSide春季「そして僕は」
Sideイチカ「共鳴のTrue Force」
Side春季
「春、少しの間だけでいい。時間を稼いでくれ!」
「OK!」
イチカ兄さんに援護を任され雷砲血神をコール、技をサベージに叩き込ませる。
「鳳流奥義第弐の型<白鳳閃百撃>!ほわあっ!」
拳の連撃を叩き込み怯ませる。
続けざまに雷閃双武脚をコールし技を叩き込む。
「第七の型<双速円舞脚>!ほああったあ!」
両足を振り上げ片速円舞脚の上位互換版である双速円舞脚の回し蹴りを叩き込んで沈ませる。
「イチカ兄さん!」
「良し、準備完了だ!」
イチカ兄さんの合図を受け俺は後退した。
Sideイチカ
「センスエナジー…フルバースト!!」
奴がサベージに変貌しセンスエナジーが周囲に撒き散らされている現状なら意識共有空間を生成可能だ。
今回は体液による急速な汚染も阻止しなければいけない為俺の体に満ちたエナジーをフルにぶつけてやるしかない。
「いくぞ!俺の力はちょっとばっかし響くんでな…我慢してくれよ?」
エナジーで満たされた全身を奴にぶつける。
すると俺の目の前には彼女の記憶が映し出された。
Side名無し
「『かっは!?…ウゲッ!?…』」
「『おら!とっとと働けや!』」
アタシは生まれてすぐに親に捨てられてしまいフランスの闇市場へと売られた。
そこでは捨て子には名乗るべき名も与えられず過酷な重労働を強いられボロボロの日々を送るばかりであった。
「『うう!?…』」
一人、また一人と死に絶えて逝くアタシの友達。
そして遂には…
「『嫌ああああー!?』」
「『ヘッヘッヘ!…』」
「『オイやめろよ!』」
「『うるせえ糞餓鬼が!引っ込んでろ!』」
アタシの親友ともいえた娘アブリル、元は貴族の生まれだったらしいが没落し借金を抱え破産してしまい苦汁の決断の末に売られてしまったそうだ。
最初はアタシもアブリルの事をお高い奴だと思い込んで蔑視していたけど彼女の慈愛に満ちた優しさに触れ、過酷な環境の中でも強く生きてこられた。
その彼女がある日目をつけられ雇い人の男達に囲まれ犯されそうになっていたのだ。
勿論放っておける訳もなく必死に止めようと試みたが非力なアタシじゃ大人の男の力に敵う筈がなく突き飛ばされてしまう。
「『嫌!嫌ああああー!?…』」
「『ああ!?…アブリルゥー!うあああああー!…』」
無残にも大切な初めての純潔を汚い男共に奪われ、犯され泣き叫ぶアブリルを助けられなかったアタシは無力な己を、そしてこの世界を呪った。
その後、アブリルが死んだと淡々と告げられたアタシは今迄溜まっていた何かが解放され復讐する事を心に誓い悪い雇い人を全員残らず殺害して回った。
だけどアブリルを犯し汚して殺した男共だけはもう既に国外逃亡していて行方が掴めなかった。
雇い人達を殺害した罪でアタシや闇市場の奴隷だった解放した友達も一緒に指名手配された。
数ヵ月後に世にISが出回ったがアタシ達にそんな装備を整える余裕などある訳もなく遂には真実を知ろうともしない腐った警官隊やIS部隊に追い込まれてしまい重傷を負ってしまった。
「『ぐう!?…』」
「『大丈夫ですか!?リーダー!』」
「『あ…アタシに構わずさっさと逃げてくれ!…』」
「『で、ですがリーダー!』」
「『良いから!…』」
「『は、はい!』」
仲間を逃がしアタシは倒れ込む。
このままアブリルの無念とアタシの復讐は果たされないまま終わってしまうのか?
修羅の道を選択した時からその覚悟は出来ていたがやはり無力感に襲われる。
そう思っていたその時だった。
「『おやおや~?全く何時の世も何処の国家機関は腐敗していますねえ~最高の御馳走ですよこれは!
じゃあいっちょ殺っちゃいますか!
ヒャッホー!』」
「『なっ!?何故男がISを!?…キャア!?……』」
突然、仮面をした男が現れ大鎌をどこからか取り出し警官隊やIS部隊を一人残らず殲滅したのだ。
「『アンタは?…』」
「『私ですか~?通りすがりの凶紳士とでも言っておきますかね~?』」
「『…』」
アタシは目の前の不審者に警戒心を露わにする。
喋り方がいちいち勘に触る奴だ。
「『おやおや~?もしかして私の事を警戒しているんですか~?
そんなに心配しなくても君をどうこうするつもりは全くありませんよ~強いて言えば…力が欲しいかい~?』」
「『!』」
男は今の無力なアタシにとって最も魅力的な事を聞いてきた。
「『…本当にアンタの様な強さが手に入るのか?』」
「『Thatlight!
どうだい?我々と共に来るかね~?』」
「『ああ、良いだろう!アタシは名無しだ』」
「『僕はね~ミドウ・オルガスト。よっろしくね~!』」
アタシはこの男ミドウについていきISとある物を与えられ世界各地でテロ活動を行う日々を送る事になった。
いつかアブリルを殺した男共を探し出してこの手で殺してやるまで…。
Sideイチカ
「コイツは酷いな…」
彼女との意識共有空間を開き彼女の過去を覗くと吐き気を催す程の凄惨な過去だった。
そして彼女に力を与えたこのミドウ・オルガストという男の事は聞いた事がある。
向こうの世界で機関に所属せず各地でテロ活動を行っているとてもクレイジーな無法者が居ると聞いていたが…彼がそうみたいだ。
恐らく彼女が見た大鎌は十中八苦百武装で間違い無いであろう。
よもやそんなクレイジーな輩が此方の世界に流れ着いているとは予想外であった。
サベージの体液アンプルを彼女に渡したのは間違いなく彼であろうがやはりこの件には…。
しかし待てよ?…彼女に関連するアブリルという娘は確か…。
ひとまずは彼女を助けるのが先決だ。
「もし復讐を果たしたとしてお前はその先どう生きていくつもりなんだ?」
「『え?…それはどういう…』」
「世界の理不尽を呪うのは俺もとやかくは言わない。
だからといって殺し尽くし殺し尽くして一体お前には何が残ると思っている?」
「『そ、それは…』」
彼女、名無しは俺がした質問に答えられないようだ。
それは明確な末路が待っているだけだからだ。
復讐を果たしても結局は牢獄の中か逃亡テロをし続けるかのどちらかの選択肢しか待っていない。
「『アタシは…一体どうすれば良かったんだよ!?…』」
彼女は叫ぶ。
「俺達の所に来い!」
「『え?…』」
「名が無いのなら俺が付けてやる!
お前が犯した罪は俺の仲間達が隠し通してくれるから!
だから俺達の所に…IS学園に来い!」
「『本当に…良いのか?…こんなアタシなんかを…』」
「ああ!…お前の名は今日からイツカ・アランシュだ!」
「『イツカ・アランシュ…良い!…初めて貰ったアタシの名前!』」
「ようこそ!IS学園へ!」
俺はアランシュの手を取り彼女を闇から解放した。
「イチカ兄さん!どうだったの?」
意識共有空間から現実世界へと戻り春が駆け寄ってくる。
「悪ィ…春、セラフィーノファミリーのボスさんに連絡を取ってくれ。
俺とそこの奴を運んでくれ…頼んだぞ…」
「に、兄さん!?わ、分かったよ!」
エナジーを全出力で解放したから俺はもう立っていられるのが精一杯だったが遂に限界が来て倒れかけた所を春に支えられる。
イツカの事については普通のホテルで宿泊させるのは今は不味いと判断したので春に頼み込んでセラフィーノファミリー家へと運んでもらう手筈を整えておいた。
後で束さんにも連絡しないといけないな。
一方でシャルとローグ氏は感動の再会を果たしお互いに涙で語り合っていたのだった。
これにて俺達には長く感じたGW期間は過ぎ、それぞれの救済が果たされた。
まあ、俺はフルバーストを使った弊害でそれから二日間休む事になってしまったのは別の話。
Side?
「まさかイネス・デュノアらが潰されるとは此方も予想外だった…次の手を考えなくてはな…待っていろ剣崎イチカァー!」
次回、GW期間が終わり幾日が過ぎた頃シャルロットは自身の正体を明かす事にする。
当然クラスメイトの皆が大騒ぎする中、一人の転入生が入ってくる。
彼女イツカが皆と打ち解ける中迎える林間学校。
そこでは幾多もの陰謀が渦巻いているのであった。
「林間学校と陰謀PARTⅠ」