インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者   作:カオスサイン

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総員!推奨戦闘BGM用意イィー!!



EPⅡⅩⅥ「貴公子の正体と黒い雨の涙 後編」

Sideイチカ

「暮桜!…因縁という名の縁があるな…」

賢姉殿が白騎士事件で搭乗していた原初の第一世代IS「暮桜」の影の上にヴァリアブルコアが存在しない人工型サベージと融合したボーデヴィッヒの顔が浮かび上がる。

やはり人工ヴァリアントにされていた為かアドヴァンスドともなっている彼女の「超界の瞳<ヴォ―ダン・オージェ>」だけでなく残る右目も黄金に輝きを放っている。

「何アレ!?私らが知っているVTシステムではないじゃない!…」

「野郎!勝手に千冬姉の真似事なんかしやがって!俺がブッ倒してやる!」

「ちょっと!?待ちなさい!秋彦君」

「うおおおおー!」

ボーデヴィッヒの機体に積まれていた違法システム「VTシステム」がどうしてか起動しアリーナ周辺は大パニックになる。

VTシステムが何たるかを知っている更識会長すらも異変に気が付き、賢姉殿の技を使われている事に激怒した愚兄は会長の静止を聞く訳が無く零落白夜を発動しながら突撃していく。

「ウルアアァー!」

「ぐわっふ!?……」

シュヴァルツェアレーゲンRSVT暮桜に当然の如く回避されカウンターを喰らわされ愚兄は吹っ飛んでいく。

「この力は…とんでもなく計りしれないわね…」

「此奴は俺も予想外だな…」

目の前の事態を把握した俺はすぐに束さんに秘匿回線を繋ぎ聞いた。

「『むうー!…只でさえ不細工なシステムの癖にとんでもない代物まで積まれているなんて!…「ProstheticSaveage&ValkyrieTranceSystem」といった所かな』」

束さんはいつもの調子ででも怒気を含ませた物言いで説明する。

「…」

いよいよこの世界でヴィタリーの残党が動き出してきているとみて間違い無いな。

だが今は目の前の力に溺れた馬鹿を救い出さなくてはいけない。

「カレンは後方援護しながら歌ってくれ!

春とセラフィーノは俺の援護に回ってくれ!

他に動ける者はそこで転がっている阿呆を回収して避難誘導を頼む!」

「分かりました!♬」

「OK!」

「分かった!…私もウサちゃんを救いたい!…」

三人は快く了承する。

「ちょっと待って!VTシステムが積まれているのなら私も黙って見ている訳にはいかないわ!」

「僕も黙って見ているだけなんて出来ないよ…」

更識会長とシャルが異議を唱えてくる。

「なら会長もシャルルも俺の援護に回って貰います!

良いですね?」

「了解したわ!簪ちゃんは美月ちゃんと一緒に秋彦君と他の人達の避難誘導は任せるわよ」

「う、うん!お姉ちゃんも頑張って!…」

「うおおおっしゃー!」

簪の応援で喝が入った更識会長が突撃するのを合図に俺達も行動を開始する。

 

推奨戦闘BGM Side刀奈&シャル「STRAIGHT JET」

Side春季&音六「PLASMIC FIRE」

Sideイチカ「White Force」

 

Side刀奈&シャルル

「はあっ!」

イチカ君に援護を頼まれた私はVTシュヴァルツェアレーゲンにランス【蒼流旋】を振るい着実にダメージを与えていく。

「そこね!『清き熱情<クリア・パッション>』!」

私が纏うミステリアス・レイデイの<アクア・クリスタル>というナノマシン武装から散布された水分を瞬間気化させ水蒸気爆発を発生させる。

「とんでもないわね本当に…腐ってもブリュンヒルデの模倣だものね…」

爆発をあまり物ともせずに動いている敵機の性能を見て私は驚きを通り越して呆れるしかない。

「これで!」

一方のデュノア君は盾殺し、シールドピアスを構え突撃していく。

「シールドピアスでもあんまり傷が付いていない!?」

第二世代の中でも最強といえる武装があまり通じていない事に驚くデュノア君。

「春季君!音六ちゃん!後は頼むわ!

ここは退くわよデュノア君」

「は、はい!」

後の援護を二人に任せ私達は下がる事にした。

 

Side春季

「ウサちゃん、目を覚ましてお願い!…」

「ウルアアアー!…」

音六が必死にボーデヴィッヒさんに呼びかけるが彼女はシステムに完全に飲み込まれてしまっているせいか唸るだけである。

「音六、呼びかけ続けながら下がってくれ! 第壱の型【気脈流一鉄功】!」

「うん!…」

音六を下がらせ俺は奥義を使い気の流れを感じ取る。

ボーデヴィッヒさんは既に八割近く機械化している為微弱にしか感じ取れないが。

模倣されただけの千冬姉さんの剣技なら今の俺にだって見切れる筈だ!

「第参の型【鳳凰烈突破】!」

ボーデヴィッヒさんの振るう雪片をなんとか見切り叩き落とす。

「ウガラアー!」

雪片を落とされた彼女はすぐに砲撃を放ってくる。

「わっと!?…まだだ!雷砲血神!第弐の型【白鳳閃百撃】!」

対する俺もすぐに瞬時加速して回避しながら雷砲血神をコール、拳撃ラッシュを浴びせる。

「グハァッ!?…ウルオオー!」

ラッシュを浴びせられた彼女は一瞬だけ怯みまた咆哮し砲撃チャージを開始していた。

俺は下がろうとするが少し遅く…

「しまっ!?…」

「はーくん!ツクモお願い!…」

「音六すまない!」

砲撃されるが音六がバリアを張ってくれたおかげで直撃を回避出来た。

「雷砲血神のカートリッジ残数は…これじゃあまり持たないな…音六いってくれ!」

俺はカートリッジ残数を確認し音六に合図しながら下がった。

 

Side音六

「お願いウサちゃん!私の事を思い出して!…」

はーくんが下がると同時に砲撃が発射されるが私は付喪紅炎装を展開しドラグーンバリアを張る。

呼びかけを続けるが明確な返事は聞けない。

「ツクモお願い!あの子を…ウサちゃんとレーゲンの事を助けてあげたいの!…力を貸して!…」

私はツクモに強く願う。

するとコアが眩いまでの輝きを放つ。

「ツクモ?…それでウサちゃんを助ける事が出来るんだね?…よしいこう!…」

ツクモがまた教えてくれた事を実行する。

私の体に眠る力を存分に引き出す為集中する。

「はああああー!…」

紅き炎がツクモの尾から付喪紅炎装に宿る。

「ツクモ!<付喪紅神月炎装>!

ウサちゃんそれ以上その子を…レーゲンを泣かせないで!…」

「!?」

付喪紅神炎の上位互換版である紅き炎のサークルがウサちゃんを囲んだ。

 

Sideイチカ

「ほう!…動きを強制停止させて閉じ込め攻撃する結界か!

AICなんか目じゃないな。

本当の黒という名の宣告をその身に刻み付けろ!」

セラフィーノが攻撃結界を展開しボーデヴィッヒを拘束したのを確認した俺は俺の剣を振るう。

「『残影黒刺斬』!」

ボーデヴィッヒの放ったワイヤーブレードを逆に利用して誘導させ、レーゲンのレールカノン部位、今は人口型サベージの砲撃ビームの発射口になっている部分をワイヤーブレードの回避制御が間に合わない位置になってから刺し斬った。

「お前がそこまでの力を求める理由は分からないでもないが…それでもそれは真の強さじゃないんだ!」

「グッ!?…ウゥゥ…」

果て向こうの世界でヴィタリーがリトルガーデンに送り込んできた人口ヴァリアントの三人組であったが今では戦友として肩を並べられている、オルフレッド姉弟妹の一人であるネサット・オルフレッドの事を俺は思い出す。

彼女はリトルガーデンに開発に成功していた人工型サベージと共に直接襲撃してきたヴィタリーに裏切られ、弟のクロヴァンと妹であるナクリーを傷付けられ彼女自身は力を求め付近で暴れていた人口型サベージを人工ヴァリアントの力で複製してしまい暴走に陥ってしまった。

その際俺達はヴィタリーの仕掛けていた罠に嵌まりハンドレッドが使えないでいたがカレン達の歌で罠から解放されたおかげで応戦可能になった。

復活したハヤトが一足先にリザさん、そして彼の恋人であるサクラさんの力を借りてヴァリアントの力を解放、センスエナジーの衝突による共振で発生した意識共有空間を開き対話出来た事でネサットを含む弟妹達をヴィタリーの呪縛から解放したのだ。

その時の事を思い出し、俺はセンスエナジーを全力で解放するバースト状態となる。

俺の両目が黄金に光り紅きエナジーの輝きが体から溢れ出す。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!今俺がお前とレーゲンを歪んだ呪縛から救い出してやる!」

彼女を救うべくセンスエナジーの共振を起こし意識共有空間を開いた。

 

「ここは…ボーデヴィッヒの記憶の空間か!ひとまずは成功だな」

俺の前には意識共有空間を開く事に成功した事で先程までの殺伐とした風景はガラリと変わって別の景色が映し出されていた。

『遺伝子強化試験体、C-0037。君の新たな識別記号は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』としようか』

白衣の研究員が産み出されたばかりのボーデヴィッヒにそう告げる。

やはり彼女もクロエと同じ戦闘特化強化人間アドヴァンスドの被験者であったか。

時は少し進み…

『大変だ!我々の研究成果が何者かに誘拐された!』

『なんだと!?すぐに探し出せ!』

やはりセラフィーノが巻き込まれた誘拐事件の被害者の中に彼女もいたのか!

『ウサちゃんしっかりして!…』

幼い頃のセラフィーノが繰り返される実験の中で日々ボロボロになっていくボーデヴィッヒを心配し強く抱き締めていた。

しばらくして他の被害者と共に救出されるが人工ヴァリアントにされた影響が甚大だった彼女の目は虚ろのままだった。

それからしばらく経ちISが登場。

『うわああああー!?…』

人工ヴァリアントにされた事を知らないとはいえ適合率に問題があったボーデヴィッヒの左目にナノマシン、疑似ハイパーセンサーである超界の瞳を研究員は移植を施した。

だが無論ISでは人工ヴァリアントとされ、その上アドヴァンスドでもあるボーデヴィッヒの動きについてこれる訳が無く何度も暴走事故を引き起こしてしまった。

絶望していた彼女の前に現れ指南したのが賢姉殿だったという訳か…。

一通り彼女の記憶を見た俺は未だこの歪んだ力に囚われているままの彼女を探す。

少し空間を進んでいくとノイズが発生。

ノイズはすぐに収まりそこに生まれたままの姿で蹲るボーデヴィッヒの姿があった。

今度は俺の番か…。

「全てを理解しろとは俺も言わない…だがこれを知ればきっと理解出来る筈だ!」

 

Sideラウラ

「私は…なんだこれは?…」

力を求め願った私は突然の激痛に耐えられず意識を闇に落とした筈…。

目の前には不思議な空間と風景が映し出されていた。

『この出来損無いが!』

『お前のその馬鹿さ加減が移っちまうからはやくどっかにいっちまえ!』

『なんでこんな事も出来ないのかしら?お姉さんやお兄さんは出来るのにねえ…』

『弟さん達ダメダメね』

そこには他の者達に罵詈雑言を浴びせられている恐らく幼少の頃の剣崎イチカと織斑春季の姿があった。

ン?待てよ、何故名が違う剣崎イチカと織斑春季が兄弟扱いをされているんだ?

私の疑問は隅におかれ場面は進む。

『どうせカンニングでもしたんだろ?』

『『…』』

成果を出しても先入観念で不正したと疑われ苛め抜かれる毎日、それでもこのイチカと

いう男は諦めなかった。

だけど運命の日、織斑教官がモンドグロッソに出場した日彼は何者かに誘拐され絶望する。

そして場面は更に変わっていく。

『イチカ、お前が本当に望んでいたものとはなんだ?』

『えっと…家族の絆です』

今度は赤い髪の男性とイチカが映し出される。

『そうだな。

だけど絆だけじゃ守れるものも守れねえ…その先にあるものが見えていなくては意味が無い。

力も同じだ。

振るおうとする力の先にあるものを理解出来ていなきゃそれは真なる力、本当の強さとして振るわれないからな』

『そうなんだ…』

「そうか…そういう事だったのだな。

貴様が言いたかった事というのは…」

イチカが男性の言葉に頷くと同時に私も理解した。

落ちこぼれだった私に光を与えてくれた織斑教官の教えは足りない所があった…いつも目先の戦績だけに目を奪われるばかりで他のものは何一つ見えてやいなかった。

私を支えてくれていたシュヴァルツェアハーゼ隊のメンバーの心使いを思い出し涙していた。

そして春季という男の事も理解した。

一度は努力する事を諦めたがある人物に再会出来た事で見事真なる強さを掴み取ってみせたのだ。

そして、また場面が変わる。

私がまだアドヴァンスドとして産み出された間もない頃の記憶みたいだ…ほとんど何らかの影響で思い出せていなかったが。

「これは…」

『ウサちゃん!…』

つい先程まで相対していた少女が私をそう呼んで抱きしめて涙を流していた。

そうだ…私はある日突然誘拐されてそれで…アドヴァンスドとは違う可笑しな実験を施されて心や体が侵されていたんだ。

その時に一緒にいて同じ実験の被害者でもあって励ましてくれていたのが彼女だったという訳か…なんでこんなにも大事な事を私は忘れてしまっていたんだろうな…。

「ウサちゃん、手を伸ばして!…」

「セラフィーノ!?お前も力を解放してこの空間を開いたのか!」

「うん!…これもツクモが教えてくれたから!…」

「!」

感慨に浸っていた私に向けられた声に私は驚く。

剣崎イチカと

「どうやら理解はしてくれたようだな」

「後はウサちゃん!貴方が私達を受け入れてくれるのを待つだけ!…」

「そうだ!」

「…」

そう言われた私は彼等へ恐る恐る手を伸ばすのだった。

 

Sideイチカ

「ふうー…なんとか無事に終わったか…」

「ウサちゃん!」

「大丈夫だ!気を失っているだけだ。

レーゲンも本体フレームは損壊してしまったがコアは無事だ」

「良かった!…」

俺とセラフィーノはバースト状態を解除し元の景色に戻ってすぐに心が陰りから晴れた事でVTサベージ化していたシュヴァルツェアレーゲンが解除されたボーデヴィッヒに駆け寄る。

気絶していて多少の傷はあるが無事なようだ。

だがこのままにしていたらまたいつ今回みたいに人工ヴァリアントとしての力を暴走させるかが分からないので早目に対策をしなくては。

「終わったんですねイチカさん!」

「イチカ兄さんお疲れ様!」

「はあー私も疲れたわ…」

「凄いよ剣崎君!それにセラフィーノさんも!」

「ああ、ありがとうな!だが…」

「?」

支援していたカレン達が駆け寄ってきて労いの言葉をかけてきた。

「すまん、カレンのブーストがあったとはいえ何せ初めてバーストモードを使ったから俺も疲れたな…」

「イ、イチカさん!?」

「私はお腹空いた…きゅー…」

「ちょ!?音六おい!?…」

ハヤトもバーストモードを使ってからの翌日は一日中眠っていたな…そんな事を思い出しながら俺はエナジー切れ寸前の警告を一見して身体を倒れ伏した。

セラフィーノは疲労感の代わりに空腹感に襲われ目を回して倒れてしまった。

「キャー!?剣崎君とセラフィーノさん、そしてボーデヴィッヒさんが倒れているー!?」

救援教師部隊に緊急召集された山田教諭がようやく到着し倒れてしまった俺達に驚きの声を上げるのであった。

 

 

 




いや~難産が重なる回でしたね…。
アドヴァンスドの研究員にタイセイは治療データを渡す訳にはいかなかったのでちゃんとラウラの治療を済ましてから帰してますのでそこはご安心を。
それでもハイリターンを優先してラウラを歪ませた馬鹿共がいますが…これは束に消されるな!(確信という名のネタバレ)
次回、歪んだ呪縛から解放されたラウラは自身の過去の過ちを正し新たに一歩を踏み出す決意をする。
その決意を耳にしたイチカと束、そしてラウラを想う音六の協力を得、彼女の愛機であるシュヴァルツェアレーゲンも新たな力を得て生まれ変わる事になる。
一方、デュノア社に潜む問題も山積みで…
「生まれ変わる兎と黒い雨、救いを待つ貴公子」


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