インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Sideイチカ
「『成程ね~…大体分かったよ!
恐らくイッくんの立てた推測でほぼ間違い無い筈だと束さんも思うよ。
そのヴィタリーとかいう奴の悪魔の研究を同じ科学者としても人間としても野放しにはしておけないよ!
束さんなりにも出来る限りイッくん達の世界技術の漏洩を防いでみせるよ!』」
「お願いします」
俺は寮の部屋で春季の口から語られたセラフィーノの壮絶な過去についてその中でかなり気になった点、それと彼女の専用機に既に組み込まれていたヴァリアブルストーンについて束さんに定期連絡を入れ議論した。
束さんは驚きを交えた声でどこか使命感に燃えているようだ。
「『それにしてもこの束さんよりも一早く治療データだけを照らし合わせただけでヴァリアブルストーンとISの親和性にも気付くなんてね~。
凄いよそのマフィアのボスさんは!
それだけでも凄いのにその上マフィアのボスさんの娘である不思議美少女がはっくんに懐いているなんてね~!』」
「はは…」
「『それにしてもネットワークで繋がったISコア達の意思が聞こえるなんてね…これも人工ヴァリアントの力がもたらしてくれたものと見てまず間違いなさそうだね!
百武装のヴァリアブルコアとは似て非なる物だしね』」
「それもそうですね。
それとサベージの出現情報は?」
「『今の所は大丈夫!発生確認されていないみたいだよ』」
「そうですかなら引き続き頼みますよ」
「『は~い!』」
「束さんへの定期連絡ですか?」
束さんとの通信を終えた直後、カレンが女子の合同身体検査を終えて部屋に戻ってきていた。
「ああ、春から聞いたセラフィーノの事で気になる事があったからな」
「ふあ~それにしても私疲れちゃいましたよー…」
「何かあったのか?」
「ええ…更衣室で着替えていたら何故か突然皆さんの体型の話題に発展しまして…もう大変でしたよー…」
「ああそういう事ね…」
どうやら鈴や極一部の生徒あたりが何処とはあえて言わないがその部分で暴走したんだろう。
「その上何故か音六さんが本音さんと一緒になって箒さん以外にそ、その…スキンシップを…」
「…」
のほほんさん…あんさん何やっているんスか!?でも…ナイス!とだけ言っておこうか。
「…そ、想像しないで下さい~!う~!…た、確かにイチカさんと付き合いだしてからなんだか大分…って何言わせるんですか!…」
「…」
危うく自爆しかけたカレンの発言でちょっとだけ妄想しそうになった俺は彼女にそう言われ目を逸らす。
だって俺も健全な男だもの…。
「そ、そういえばもうすぐクラス対抗戦が始まるみたいだが…」
「誤魔化したつもりですか?」
俺は強引に話題を逸らそうとするがカレンがすぐに見破りながらジト目で見られる。
なんか凄くゾクゾクしないでもない。
「はあー…そういうイチカさんはどうするんですか?」
「俺はちょっとまたセラフィーノについて調べる事があるから…それを終えてからだな」
「それってもしかして…」
「ああ、この件にはあのヴィタリーの残党が関わっている可能性が大みたいだ」
「大丈夫なんですか?…」
「大丈夫さ!カレンも皆も俺が守り抜いてみせる!」
カレンは不安そうに声をかけてきたので俺はそう決意を表明する。
「イチカさん…ええ私もまだまだですけどイチカさんの事や皆さんを守ってみせます!」
「ああ頼んだぞ」
するとカレンもそう決意表明してきて俺も嬉しくなった。
だが何やら嫌な予感がするのは…
Side?
「なんで、なんで…あんな小娘ばかりが注目されているのよ!?
とろい癖に!」
彼女の名はキナ・ヴェビッチ。
名家の御嬢様でIS学園二年のイタリア代表候補生である。
だが進級した後は彼女が代表となる事は未だになかった。
実は彼女は以前に良識人から見たら明らかな悪どい手法を用いて代表候補生になったからである。
その被害者こそが音六なのである。
ISが登場し女尊男卑という一部の者にとって素晴らしい世界となってからというもの己の願い(我儘)が叶わない事などは無かった。
代表候補決定試験の模擬戦で音六という真の実力者と相まみえる事になるまでは。
「あなたがとろいのが悪いのよ」
これは不味いと思ったキナは敵情視察をし音六の優しさにつけこみ彼女の傷という弱点を見て其処を集中攻撃し敗北に追い込むという非常に音六にとって厄介な方法で候補試験を通過した。
そんな戦い方で長く栄光に輝き続けられる訳が無く、しかも心を完全に折った筈の音六が再び同じ代表候補生として入学してきた事でキナは良識な上層部からは代表候補生の座を降ろされそうになっていた。
しかも同時期に三人の男性操縦者の登場である。
これに焦らない訳にもいかずキナはどうにかまた音六の心を折る方法を模索していた。
全く以てどこぞの愚者と同じ様な考え方である。
「はっくしゅん!…うーあの野郎共め…」
「あれは…」
キナが見かけたのは己と同じ様に項垂れた様子の男性操縦者の一人である織斑秋彦である。
気になった彼女は彼に声をかける。
「どうしたのかしら?」
「貴方は?」
「貴方の先輩よ。
何かお悩みでもおありかしら?」
「そ、そうです!」
秋彦から他の二人だけが賞賛されて自分はほとんど眼中に入れられていない事への不満(欲望)を語られる。
「そう…なら良い方法があるわよ!とってもね…」
これは使える!そう思ったキナは秋彦にそれぞれの邪魔者を排除出来る筈というある提案をしてきた。
現状で最悪ともいえる二人が手を組んだ瞬間だった。
だけどそれが長く続かない事に彼等は気が付く由もない。
その日の放課後
Side春季
「ふう…音六-ちょっと話がしたいんだが…いないのか…嫌!この感じは!…」
俺は寮に戻り音六を呼ぶが彼女の姿はなかった。
なんだか凄い胸騒ぎがして収まらない。
そんな気がして俺は寮を飛び出した。
Side鈴
「アンタ!こんな所で一体音六ちゃんに何しようとしてたのよ!?」
私は寮に帰る途中で秋彦が何故か自身の親友の一人となった音六を呼び出してよからぬ事をしようとしている現場に偶然遭遇し彼につっかかっていた。
「何をってそりゃあ彼女のISに違法な装備が積まれているって話を聞いて織斑先生に解析して貰う為にこうやって僕が回収してるだけさ」
「返して…『ツクモ』を…」
彼は悪びれる様子も無くそう言い放ち手には音六ちゃんのIS待機状態である三日月の装飾が施されている指輪を握っていた。
音六ちゃんは虚ろな目で泣きながら機体を返してもらう様に必死になって言っているが秋彦は全く聞く耳をもたない。
恐らく彼女を何らかの適当な理由で呼び出し無理矢理奪い取ったのだろう。
「何よソレ!そんな根も葉も無い出鱈目な話、一体誰から聞いたのよ?!」
私はそんな秋彦の行動と発言にかなり憤怒し、叫ぶ。
「私よ」
「アンタは確か!…」
キナの事は鈴にもほんの少しだけ見覚えがあった。
代表候補試験勉強の際に観せられた先輩方のISバトルビデオに映っていた一人である。
はっきりいって鈴の中ではキナに対する評価は最悪である。
なにしろほとんどがキナの対戦相手が不調に陥ったのを見て彼女が歪んだ笑みを浮かばせながら攻撃している全く以て参考になどならない場面ばかりであったからだ。
こんな奴が代表候補だなんてイタリア上層部は余程の馬鹿なんじゃないかと思いたいくらいである。
「アンタがその馬鹿にある事無い事吹き込んだって訳ね!…
音六ちゃんに何か恨みでもあるの?!」
「ええあるわよ。
あんなコネで専用機を与えられただけのとろい小娘がこの私より客光を浴びられるなんて我慢ならないのよ!」
「たったそれだけの理由であんなに優しくて良い子を傷付けようというの!?
そんなのアンタの単なる我儘じゃない!」
「先輩に対する口の聞き方がなっていないわね!」
「誰が!」
一方的な理由を聞かされた私は更に彼女達に対して激怒し正に一触即発の緊迫状態が敷かれる。
其処に
Side春季
「秋彦兄さん、アンタ一体…」
「チッ!…」
音六を探しに来た俺は階段付近で秋彦兄さん達が何かやっているのを見つけた。
俺は泣いている音六の姿を見つけ驚き自分の胸騒ぎが気のせいではなかったと悟る。
俺の姿が目に入るやいなや秋彦はその場から離脱しようとする。
「春季!その馬鹿を逃がさないで!」
「分かってる!」
「うげえっ!?」
鈴に言われすぐに俺は駆け出した秋彦の足を引っ掛けて転ばせる。
「さてと…これは一体どういう事か説明してくれる?鈴」
怒りを込めながら春季は未だに逃げようと試みていた秋彦を睨みつけ音六の機体を回収する。
「ええ!その馬鹿がそこの先輩に色々と吹き込まれて音六ちゃんの機体を無理矢理奪い取ろうとしようとしてたのよ!
その先輩は音六ちゃんと同じイタリア代表候補よ!」
「なんだって!?」
鈴から事の次第を聞いた俺は更に怒りのゲージを上昇させる。
「オイアンタ!…」
「な、何よ?この私に文句でもおありですの?!(しまった!織斑秋彦を焚きつけて彼女の専用機を取り上げさせる計画が…)」
「こんなにも優しい彼女を傷付けられてしまった…音六の傷の本当の意味を知ろうともしないアンタみたいな奴をこのままにしておいたら俺はタイセイさんや繭音さんに顔向け出来ない!」
「女の私を殴る気!?」
「春季駄目!」
「ッ!…」
キナに殴りかかろうとする春季だがすぐに鈴の静止でなんとか思い留まる。
「…先輩、今回だけは音六の優しさに免じて見逃す。
だけど次は無いと思うんだ!」
俺はそう叫びながら先輩を睨みつける。
睨まれた彼女はそそくさと逃げて行った。
Sideキナ
「クッ!?…なんでこうなるのよ!」
鈴の怒りに構っていたせいで奪い取れた筈の音六の専用機は駆けつけた織斑春季によって取り返された。
第三者である鈴に見られてしまった。
あの状況で教師が駆けつけてきていたらいくらなんでも非常に自分にとって不味かったであろう。
こんなにも早く計画が頓挫するとは思いもよらなかった。
まあそれは穴だらけの計画で彼女の自業自得でしかないのだが。
「ほう、これはこれは…此処にはとても良い人材がおらっしゃれる様ですね」
「!?」
逃げる最中不意に声をかけられる。
その声の主はいかにも怪しい恰好、黒いローブを纏った男性であった。
「アンタ誰よ!?此処はIS学園の敷地内よ!部外者は…」
「まあそう固い事をおっしゃらずに…一つ貴方にとってもとてもよろしい提案があるのでうがどうでしょう?」
「私にとって良い提案?それって…ウッ!?……」
怪しみながらも目の前の男からぶら下げられた甘い蜜にすぐに飛びついてしまった直後、彼女は何かを男に撃ち込まれ眠ってしまった。
「まずは馬鹿な下等人類共の小手調べといきましょうか…この小娘は後で素晴らしい人材と成り得るでしょうから最高のおもてなしをしなくてはね…」
男はそう呟き紅い輝きを放つ加工されたヴァリアブルストーン、ハンドレッドの能力で透明化し眠らせたキナを抱え何処かに姿を消した。
次回!
鈴と春季から事の次第を聞かされたイチカはキナを調査しようとするが…彼女の姿は何故か学園に無く…不穏な影をちらつかせながら始まったクラス対抗戦。
初戦、鈴は音六を傷付けた秋彦と当たり勝負を仕掛ける。
その頃、傷を癒した音六は一人決意する。
「もう二度と挫けたりはしない」と…
そして現れ出でるは…
「クラス対抗戦中編 揺るぎない信念の果て」