血を受け継ぐ者たち   作:Menschsein

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稀人 ③

 野伏(レンジャー)のスキルを活かし、遺跡の中で魔獣の足跡を追跡していたアウラが、地下への入口を発見し、その入口の前に全員が集合をする。

 

 人間種が出入りしているような痕跡はないようだが、新旧新しい魔獣の足跡があり、この地下が魔獣の巣となっていることが確実だと、アウラが説明をした。

 

(トラップ)が存在している可能性がある。パンドラズ・アクターよ。ぬーぼーさんの姿となって先頭で進め。(トラップ)の解除は任せるぞ.」

 

「おぉ」

 守護者達は久しぶりに至高の御方々の御姿を拝見できたと、歓声をあげる。そして、それに気を良くしたパンドラズ・アクターも、在りし日のぬーぼーの言動を再現し始めた。そのパンドラズ・アクターの姿を見たアインズは二度ほど、精神の安定化を要した。

 心が折れそうになりそうな中、「遊びに来たのではないぞ」と守護者達を戒めて話を続ける。

 

「パンドラズ・アクターの次は敵との遭遇に備えてアルベドとシャルティアで行くぞ。そしてその後ろは私、アウラ、マーレと続く。その後ろをデミウルゴスとセバス。そして挟撃に備えて最後尾はコキュートスだ。強敵が現れた場合は、即時撤退だ」とアインズは指示を出す。

 

 アインズの指示によって隊形を組み、ダンジョンに降りようとしていく守護者達をアインズは呼び止める。

 

「待つのだ…… ダンジョンに入る前に強化をしておくことを忘れているぞ。ダンジョンの種類によっては、入口近くにもっとも強い魔物を配置している場合もあるからな。魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)加速(ヘイスト)魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)抵抗突破力上昇(ペネレート・アップ)妖精女王の祝福(ブレス・オブ・ティターニア)三足烏の先導(リード・オブ・ヤタガラス)不屈(インドミタビリティ)透明化看破(シースルー・インヴィジビリティ)感知増幅(センサーブースト)敵感知(センス・エネミー)矢守り(ウォール・オブ・プロテ)の障壁(クションフロムアローズ)無限障壁(インフィニティウォール)上位魔法盾(グレーター・マジックシールド)上位抵抗力強化(グレーター・レジスタンス)上位硬化(グレーターハードニング)上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)上位幸運(グレーターラック)聖域加護(サンクチュアリプロテクション)自由(フリーダム)魔法詠唱者の祝福(ブレスオブマジックキャスター)武器祝福(ブレス・ウェポン)不死の精神(マインド・オブ・アンデス)鎧強化(リーンフォース・アーマー)……」とアインズは、矢継ぎ早に魔法を唱えていく。

 守護者達は、自分たちを含めその種族特性をアインズが理解した上で、それぞれに補助魔法を付与していくことに感動を覚える。そして各々、地下へと潜るべく準備を始める。

 

「悪魔の諸相……」

 

「僕も…… へ、変身!? 兎の尻尾(バニー・テール)兎の耳(ラビッツ・イヤー)兎の足(ラビッツ・フット)……」

 

女神の楯(イージス)……」

 

吐息(ブレス)……」

 

 

「準備は整ったようだな。では改めて、侵入を開始するぞ」とアインズは言って、予定通りぬーぼーさんの姿となったパンドラズ・アクターを先頭にして地下へと足を踏み出していく。

 

 地下の通路を降りると広々とした廊下があり、永続光(コンティニュアル・ライト)が等間隔で並んでいる。

 真っ直ぐな廊下を進むと、その先に大きな扉があった。

 

(罠は無いようだが、この通路…… システム・アリアドネを意識した作りだ。ギルドの拠点の可能性は高いな)

 

「何か書いてありますね……」と先頭を行くパンドラズ・アクターが、扉の上に掲げられている看板を発見する。

 

(猫カフェ? しかも日本語? やはりプレイヤーのギルド拠点か)

 

『扉を開けます』と、パンドラズ・アクターは何故か手信号で、後ろにいる守護者やアインズに伝えてきた。

 

(いや、だからそういうのはいいんだって…… 抑制されたか……)

 

 パンドラズ・アクターがゆっくりと扉を開け、そして中を覗き込む。そして、『敵影』という手信号を送ってくる。

 

 パンドラズ・アクターの合図と共に扉を勢いよく開き、アルベドとパンドラズ・アクターがポジションを入れ替える。

 

七周されし壁(ウォールズ・オブ・ジェリコ)」とアルベドがスキルを発動させ敵からの防御を固める。

 

「清浄投擲――」

食い散らかす――(イートアンダイディ――)

植物の絡み――(トワイン・プラ――)

「影縫い――」

 

「待つのだ!」とアインズは一斉に攻撃を仕掛けようとする守護者達を制止する。

 

(こいつら…… 猫じゃないか…… 猫にしては大きいがな……)

 

 目の前にいるのは、ライオンほどの大きさの猫たちであった。それに、脅えるように部屋の隅っこに固まっている。そして、その奥には、小型の猫が大型の猫に守られるようにして蹲《うずくま》っている。

 アインズは、その部屋の中心に置いてある、うっすらと光り輝く猫の置物に目を留める。

 

道具上位鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)

 

(なるほど…… 「ねこさま大王国」のギルド武器。『猫の好物を永続的に生み出す力を有している。ちなみに、鈍器として使用可能』か……)

 

 そしてアインズは部屋の隅の、人間が使っていたと思われた机の上に残された羊皮紙を見つけた。日本語で書かれていた……。

 

『ユグドラシルの最終日、愛する猫たちとの最後の別れを惜しんでいた。無類の猫好きであっても、現実世界で猫を飼うなどということは夢のまた夢であった私達にとって、ユグドラシルで触れあう猫たちは、私達の心の癒やしであった。私達ギルドメンバーにとって、猫たちは宝だ。愛すべき子供達だ。

 残念なことに、多くの仲間達は、よりリアルな猫たちを求めてユグドラシルから離れていった。しかし、私にはこの子達を見捨てることなどできなかった。ずっとこの子たちと一緒にいたかった。

 その願いを神様が叶えてくれたのでしょう。NPC(ノンプレイヤーキャラクター)であった猫たちが、生きる猫となった。私が寝ていれば膝の上に座り、ご飯を上げれば私の指までもその舌でなめ回す。夢にまで見た生活だ。猫に囲まれ、猫と共に生きる。

 寿命で亡くなる猫がいたら、残った猫たちと共に悲しむ。新しい命が生まれたら、猫たちと共に喜ぶ。なんと幸せな日々であっただろうか。

 だが、その満たされた日々は終わる。私の寿命が尽きようとしている。私の人生は幸せでした。

 この猫が自由気ままに生きるこの猫平野の、そしてこの地を訪れて、この私の最後の願いを読んでくださっている方にお願いです。どうか私や私の仲間達が愛した猫たちをお願いいたします。

 ねこさま大王国ギルド長 猫五郎』

 

(どうやら、最終日にログインしていたプレイヤーがこちらの世界に来ているということは間違いなさそうだな。あと、ギルド拠点ごと転移するということもほぼ間違いないな…… そうなると、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーがこちらの世界に来ている可能性は………… 薄いな……)

 

 アインズの心に、一つの後悔が生まれる……

 

「今日がサービス終了の日ですし、お疲れなのは理解できますが、せっかくですから最後まで残っていかれませんか――」

 どうして自分はあの時、ヘロヘロさんにそう言えなかったのか。ヘロヘロさんは疲れていたのは分かっていた。だが、あと数十分でサーバー停止だったじゃないか。一緒にユグドラシルで遊んだ時間からしたら、数十分なんて刹那に過ぎないじゃないか。

 そして…… 引き留めていたら…… ヘロヘロさんも一緒にこの世界に来ていた可能性が高い。アインズが感じるのは寂寥感。どうして俺は一人なんだ……。

 

「アインズ様……」

 肩を落とすアインズの後ろ姿を見て、アルベドは小声でそう呟いた。

 

 アンデッドであるが故に涙を流すことも、そして深く悲しむことのないアインズは、その遺言状とも言える手記を、何事もなかったように無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)の中にしまう。そして振り返って守護者達に命令をする。

 

「アイテム類などはナザリックへ回収するぞ。そのギルド武器は丁重に扱え。特にシャルティア、お前はカースドナイトの職業(クラス)を持っているということを忘れるなよ」

 

「はい!」と守護者達が答える。

 

 ギルド武器を破壊したことのある者しかなれないクラスが存在する。それを取得できるか実験をする絶好の機会だ。しかし…… なぜかアインズはそれをする気にならない。

 

「あの、アインズ様。この猫たちはどうします?」とアウラが物欲しそうな目でアインズを見つめている。

 

『どうか私や私の仲間達が愛した猫たちをお願いいたします』

 

 日記に書かれた最後の言葉がアインズの脳裏を過ぎる。そして、アインズの目の前にいる仲間達が丹精を込めて作った守護者達。愛する息子、娘たちだ。

 この猫たちもきっと、他のギルドであるが、彼らにとっては大事な存在なのであろう。

 

(それに“ネコさま大王国”のギルドが、アインズ・ウール・ゴウンと敵対したことは無かったしな)

 

「ひとまず、お前の階層で生活させろ。そのギルド武器もそこに置くこととしよう……。それと…… 何匹かをカルネ村に連れていって実験を行え。もし、カルネ村の住人が猫たちと共存できるのであれば、彼らのギルド武器ごとカルネ村に移動させて構わん」

 

 外へと出たアインズは、シャルティアが開いた転移門(ゲート)を通る前に、一度遺跡を振り返る。崩れた塔、倒れた支柱…… 廃墟であった。

 

(俺はナザリックをこんな廃墟にさせたりはしない。仲間が誰もログインしてこなくても、俺はナザリックを維持してきたんだ。そして、これからも……)

 

 アインズは固い決意と共に、転移門(ゲート)を通るのであった。




|矢守りの障壁《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ》が、どうしてもルビ表記にできません……。
 上記の問題、解決しました。掌の上の天道様、ご協力感謝です。

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