血を受け継ぐ者たち   作:Menschsein

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稀人 ②

 アインズは、カルネ村のゴブリン、ドライアード、トレントの入植状況を見て満足する。ゴブリン達の居住地には、最低限の柵が張り巡らされており、まだまだ数は少ないようだが、家も建ち並び始めている。その周りには果樹園などが作られ、すでにトレントやドライアード達が働いていた。

 

「マーレよ。将来的にこの地は食料の一大産地として、この入植地を大都市にする予定だ。今は構わないが、将来的にはこの辺りは都市の一部になるということを考えながら入植を進めていってくれ。あと、食料を貯蔵する倉庫の場所は早めに確保しておいてくれ。あと、食料を買い付けに来た商人達の宿泊施設や娯楽施設なども建設するつもりだから、全体的に空間的余裕を持って入植地を作るようにな」と、ゴブリンの入植地で指揮を執っていたマーレにアインズは入植地の将来的な構想を伝える。

 トレントやドライアードが住み、その木陰などで都市の市民達がのんびりと休日を過ごせるようなセントラルパークなどの構想も存在している。

 

「アインズ様、倉庫を作ることは分かったんですが…… この広大な土地を耕したら、食料が沢山余ってしまうと思うんですけど」とマーレは言う。

 

「マーレ! アインズ様の言うことに異を唱えるっていうの?」とアウラが怒りを込めながら言う。

 

「良いのだアウラ。疑問が出るのは、自分で考えているという証拠だからな。良い質問だぞマーレ」

 

(うん。俺もカッツェ平野を穀倉地帯にするとか言ったけど、地図の縮尺がいい加減なせいで、この平野は思っていたより広いよな……。帝国も広い領地を譲り渡して大丈夫だったのか…… と思っていたよ)

 

「安心しなさいマーレ。アインズ様はそのこともご計画があってのことよ。このカッツェ平野をこのまま農地とすれば、エ・ランテル、ドワーフ王国、そしてその周辺の村などに住む家畜にエサを与えても、消費しきれない。だけど、王国や帝国、そして法国にもエサを分け与えるという前提で考えてみて」とアルベドが口を開く。

 

「そ、それだったら…… どうなのかな?」と他の国の人口などの数字が頭に入っていないマーレは返答に窮する。

 

「周辺の国では今後、収穫の季節になると農地で謎の大火災、嵐や竜巻などの天災が多発するの。そして、食料が足りなくなる……。飢えた家畜どもは、寛大なアインズ様の慈悲を請いに、魔導国へやってくるしかなくなるわ。お優しいアインズ様は、他の国の家畜のことも考えていらっしゃるのよ」とアルベドは興奮しながらも答える。

 

(いや、実際、それってまじ酷いよな。俺も、カッツェ平野を農地にして、カルネ村とエ・ランテルの分の食料を賄えれば良いかなって思ってたけどさ。他の国の農地を収穫前に秘密裏に襲ってしまって、故意に食糧不足に陥らせる。そして、食料を買い求めに各国から商人を来させるようにするとか…… 確かに早ければ今年の秋には商人がエ・ランテルとかカッツェ村に来るようになって問題は解決するけどさ…… デミウルゴスのお墨付きがあるとは言え、ラナーって奴は本当に大丈夫か? 人間の発想とは思えんぞ……)

 

「その通りだ。今後、エ・ランテルは学園創立により人材の育成の中心、このカッツェ平野一帯は食料生産の中心、そしてリ・ブルムラシュールは工業製品の中心として栄えさせるつもりだ」とアインズはアルベドの言葉に補足を加える。

(まぁ、全部ラナーって奴のアイデアなんだけどね……)

 

「それとマーレよ。ゴロウコ=46とエルヤ=88に、支配下のスケルトンを連れて、リ・ブルムラシュールに移動する旨を伝えておいてくれ。地下鉱山ではたらいてもらうことにした」

 

「はい。わかりました」とマーレは頷く。

 

(「地下鉱山において、空気を奥部まで送り込むための通気口の設置、有毒ガスの発生に備えるなど、現状の山小人(ドワーフ)を利用するには多大なコストがかかります。むしろ、空気が無くても活動が可能で、毒耐性を有している種族に採掘をさせるのが良いかと愚考します。そして、山小人(ドワーフ)にはより付加価値の高い鍛冶や金属細工に当たらせるのはいかがでしょうか」って、アンデッドを派遣しろと間接的に言っているよな? 絶対にそうだよな? まぁ、確かにって思うし、理解できるんだけどな……。)

 

 

 アインズは、入植地でやることを終えて、凶暴な獣の住み処とされている場所へとアルベドとアウラを引き連れて向かっていた。

 

「この辺りか? その凶暴な獣が現れるという場所は?」とアインズは平野を歩きながら、カッツェ平野の入植地の監視を任せたルプスレギナに尋ねる。

 

「はい。どうやらあの遺跡の辺りに群れで生活していると思われます」

 

「ルプスレギナよ。東の巨人と西の魔蛇に関して私に報告を怠ったという失態を演じたが……」

 ルプスレギナが俯く。

(けっこう反省しているじゃないか。それにちゃんと学んだようだ)

 

「しかし、先の、カルネ村に徴税吏が来た件といい、今回の件といい、前回の失態を反省し、改善している点に私は満足しているぞ」とアインズが言うと、ルプスレギナの顔が花が咲いたように明るくなる。

 

 遺跡近くに辿り着いたアインズは、絶望のオーラを弱めながら広範囲に発生させる。ゴブリン達が強いと報告してきても、ルプスレギナが偵察を行って問題なかった程度。アインズは、ハムスケ程度であると考えていた。そして、アインズの思惑通り、魔獣達は姿を現さない。

 

 壊れて荒れ果てた遺跡。風化したようでは無く、破壊されたような痕跡が残る遺跡だ。広さはさほど無く、ナザリックの地下六階の円形劇場ほどの広さの遺跡。見張り台のような石造りの建物は崩れ落ちている。倒れていない支柱などは、明らかにこの世界の意匠ではない。現実世界で言えば、パルテノン神殿の支柱に使われていたとされるようなドーリア式だ。

 アインズは直感した。これはこの世界の遺跡ではない、ギルド拠点だと……。そして、通常ギルド拠点を作ることが出来るのは、城、都市、ダンジョンなどである。城や都市であるならば、遺跡の規模が小さすぎる。それならば……

 

「地下に何かあるぞ……。アルベド! 至急守護者達を呼び集めろ」とアインズは指示を出した。


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