吸血姫に飼われています   作:ですてに

40 / 49
閑話の短編三つ詰め合わせみたいな感じです。


それぞれの朝の風景

 湯煙揺蕩う早朝の太陽を見ながら、熱い温泉に身をくぐらせながら呑気に会話とする少年と少女がいた。

 

「……寝て起きたら、落ち着いたわ。なるようにしかならんし、人生ハードモードがスーパーハードモードに変わって、うまく切り抜ければ、スーパーイージーモードになる。それだけ把握出来れば、今は十分や」

 

「意地でも何とかするけどな、冬以降……いや、大翔達のことだ、秋までにケリつけるつもりかもしれないけど。ただ、その後がスーパーイージーかは分からないぞ、はやて。せいぜいイージーぐらいだろ」

 

「なんでや! 足の麻痺も治って、家族が増えて、しかも、さいきょーでキュートな魔法少女はやてちゃん爆誕カッコ見込やで? それにMPが一般的な魔導師の通常の三倍あるんやろ、宿題の解析とか答えを調べる魔法とか使い放題やないの」

 

「……いや、カッコみこみって自分で言うのかよ……。ま、まぁ確かに、今もそこで浮いてるその本はさ、色んな魔法を修めているけど、そんな宿題に特化した魔法はねぇよ。第一、魔法発動を補佐する管制人格に、宿題をぱぱっと終わらせるための魔法使わせるとか、それはアウトだろ」

 

「使えるものはなんでも使わな損やで、皇貴くん」

 

 朝風呂の最中に、そんな阿呆な話をする二人。入浴補助のため、皇貴も一緒に入浴しているのだが、回数を重ねそろそろ慣れてしまったせいか、下衆な考えを持つことも無くなっていた。はやてが悪友ポジションに近くなっていることや、彼女はまだまだ水平線。劣情を抱く必要も、色気も感じないのだ。

 慣れって怖い。すずかへの『様』呼びに全く違和感が無くなっていることも含めて、自分の変貌振りを顧みて、そう思う皇貴である。

 

「しっかし、濡れないために浮いてられるって器用やなぁ、魔導書って。ただ、湯気って平気なんやろか」

 

「防水魔法でもかかってるんだろ」

 

「ご主人様もはやてちゃんも一体、何の話をしてるのさ……」

 

 皇貴の魅了影響下にあるリーゼロッテも人間体で付き合って入浴していたが、元の素体もあって、既に浴槽から上がって、近くに腰かけて話に付き合っている状況だ。

 

「いまだにお父様やアリアには通信が取れないぐらいに、次元が乱れてるし……まぁ、今の海鳴にいる戦力でもどうにかなると思えるのが、また怖い所だよ」

 

「クアットロさんは、通信出来とった感じやけど」

 

「信用できないからね、あの女。ご主人様もそうだろ?」

 

「出来ないよな。すずか様が鎖をかけたとはいえ、ロッテと違って忠誠を誓ってるわけじゃない」

 

 忠誠を捧げた皇貴の頭を軽く撫でながら、リーゼロッテは少々熱の籠った声で、彼を呼ぶ。

 

「ご主人様の『魅了』も反則さ。不意をつかれたら抵抗なんて出来っこない。お父様やアリアを裏切るのは心が痛むけど、ご主人様のために働けると思うだけで、ものすごく幸せな気持ちになって、高揚感に包まれるんだ。もう、戻れないよ」

 

「……えっと、そろそろ私は上がろうかなー。二人でごゆっくりー」

 

「諦めてくれ、はやて。そもそも俺達の補助が無いと上がれないだろ」

 

「救いなんてなかった!」

 

 深刻な話のはずなのに、どうにもコメディ感満載の三人。ロッテはロッテで皇貴を抱き寄せて、頬を擦りつけては悦に浸り始めている。

 

「誰か、今の私をこの風呂場から救い上げてくれる救世主はおらんのか!」

 

 幸か不幸か、はやてはふざけた口調ながらも、本気で願ってしまっていた。その想いに稼働を始めていた闇の書は激しく光を放ち──!

 

「……黒いボディースーツを着たバインバインのお姉さん二人とちびっ子とロッテはんみたいに耳を生やしたむきむきのお兄さんが、浴槽に落っこちてくるとはなぁ」

 

「ヴォルケンリッターの登場自体がギャグになってしまうとは、はやて、恐ろしい奴だぜ」

 

「ははは、褒めても何もでぇへんで」

 

 今朝目覚めてから、皇貴に夜天の魔導書そのものについての追加説明を受けたはやては、目の前に現れたのが自分を守る役割を持つ守護騎士達だと気づいているし、バインバインのお姉さん達のおっぱいをテイスティングしてやるのだと息巻いていた。

 ……おっぱいソムリエ、またの名をおっぱいマイスター。二つ名の誕生の瞬間である。

 

「ごふっ、ごふっ、わ、我ら夜天のっ」

 

「あー、気管にお湯入ったやろ、落ち着いてからでええで。これでも予習しとってな、話は聞いとる。ただ、名前と顔が一致せえへんから、まずは……あ、ロッテはん、ありがと。はい、コップに水入れてきてもろうたから、ゆっくりまずは飲むんやで」

 

 コクコクと頷くシグナム達にはやては微笑みながら、自分達がまずどういう場所にいるのか、隣の男の子と猫耳が生えた女性が信頼する仲間であること、下半身に麻痺があるため、色々迷惑をかけることなどを、ネタを織り交ぜながら、説明を始めるのだった。

 なお、湯上りにはやての着替えを手伝う皇貴やロッテに、敵愾心を抱いた守護騎士も一部いたようだが、着替えとして用意された浴衣をうまく着れるわけもなく、結局ロッテや、事情を説明した上で皇貴が連れてきた、三家族の母親勢にお世話になる羽目になった。

 

 ……主に仕えると言うなら、日常生活はしっかりこなせるように! というはやての宣告もあって、朝食時に和室で食事を強いられ、正座を強制された一同は、思わぬ方向での大苦戦を強いられることになったようだ。

 

『歴代の中でも、相当に愉快な主だと思ったぜ。初対面から親しげだし、夕方には住んでる街に戻れるから、タイムセールに付き合えとか訳の分からないことを言うし、説明の途中でもボケをどんどん入れてくるし、突っ込まないと叱られるとか体験したことなかったもんなー。あ、それにあの『正座』ってヤバイよな。足の痺れを突かれたら、致命傷でも何でもないはずなのに、シグナムとかしばらく動けなくなってたし、珍しいことづくしでこれから楽しくなりそうだよな!』

 

 ──数時間後。海鳴に帰るバスの中で、ヴィータと呼ばれる鉄槌の少女騎士は、なのはや大翔達と親交を深める中で、そのような感想を述べていたと言う……。

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ、夜風で冷え切った身体に、この温泉というのは、ひっじょーに素晴らしいっ! そう思わないか、ウーノ!」

 

「ええ、ドクター。私はクアットロのお陰で温かな寝具と、月見をしながらの温泉を体験させて頂きましたが、朝日を見ながら湯に浸かるのもいいものですね」

 

 さて、はやて達が守護騎士との邂逅を果たした同時刻、別部屋の露天風呂では、クアットロの保護者らしき敬称で呼ばれる人物と、長姉が旅の疲れを癒している真っ最中だった。なお、ウーノの言葉通り、ドクターと姉の処遇には明らかな差がつけられていたようだ。

 

「裏庭で一晩中、本当に放置されるとは思っていなかったよ……流石の私も風邪を引きそうになるじゃないか」

 

「あの長時間維持できるバインド装置、おそらくあの少年から借りてきたのでしょうね。しかし、クアットロが彼と接触したのは正解です。ドクターの煽り性質を色濃く引き継ぎ過ぎて、日常会話に支障をきたしていましたから。本人も大変喜んでいました」

 

「いやぁ、あの吸血姫さまの容赦のなさまで学ばなくて良かったんだがねぇ……」

 

 ともあれ、実は露天風呂付き部屋を手配するように、急遽一行に頼み込んだのもクアットロであるし、鞭ばかりを振るっていたわけでもない。今だって風呂上がりの二人が浴衣を着こなせるわけもなく、しっかり前世の記憶を生かして着替えを手伝おうと、待機しているのだから。

 

「そんなことを言うドクターには、これいりませんね?」

 

 そんな彼らの様子を見に浴場に入ってきた軽装のクアットロが、瓶入りの牛乳を彼の前で揺ら揺らとチラつかせる。

 

「そっ、それは!」

 

「ええ、腰に手を立てて飲むアレです。あ、姉様には、喉がサッパリするサイダーも用意していますが、どちらにしましょう?」

 

「私もせっかくだから牛乳を頂くわ。ありがとう、クアットロ」

 

 影が晴れた、そんな印象を受ける妹にウーノは優しく微笑む。彼らと接触させたことは、妹にとってきっと正解だったのだと。

 

「ドクター、ウーノ、私も入るぞ、朝風呂を堪能せねば」

 

「トーレ、昨日は飲み過ぎたと聞いたけれど」

 

「うむ、喉ごしのいい酒でな、あれはやみつきになりそうだ」

 

 ドクター・スカリエッティとナンバーズという娘達。歴史通りであれば、数年後にミッドで一大事件を巻き起こす中心人物達だが、今は外国から観光にやってきた、日本文化を堪能する家族連れにしか見えないのであった。

 

 

 

 

 

 

 「なんだか、賑やかだね?」

 

「ひょっとして、守護騎士が出てきたんじゃ……皇貴やロッテさんがいるからどうにかするだろうけど。あの騒ぎでなのはも流石に起きるだろうし、あ、今ユーノが結界張ったな」

 

 早朝の軽い鍛錬をこなし、中庭を散歩中の大翔達に宛がわれていた部屋の方から、浴槽に何かが落ちる音に激しく咳き込む声が聞こえ、その後は何やら姦しい声や嬌声が聞こえてきた。ユーノが結界を張ったことで、静粛な朝の一時にすぐに戻ったわけであるが。

 なお、習慣と化している朝の訓練であるが、出先なのでいつの通りとは行かないため、せいぜい走り込みに、新たな変換属性である雷系統の術式発動をいくらか試した程度で済ませていた。

 

「問題は無かった。が、犠牲者は出たか……おい、紗月。どこへ行く」

 

「フフフ、今の私はアリシアダヨー」

 

「棒読みじゃないか。フェイト、逃がしちゃ駄目だぞ」

 

「うん、大翔」

 

 流れるようなバインドからそのままフェイトに抱っこされる形になるアリシア。じたばた暴れる姉に、フェイトは思わずため息をついていた。

 

「お姉ちゃんがどんどん自由人になっていく気がするよ……」

 

「私は私だよ、フェイト」

 

『そうだよ、私はフェイトのお姉ちゃん。だから心配はいらないよ』

 

「お、お姉ちゃん……」

 

 何やら無理やりいい話に持っていこうとしているが、アリシアや紗月は犠牲者が出た現場をのぞき見したいだけのことであって。

 

「フェイト、騙されてるわよー」

 

「ア、 アリサちゃん、余計なことを言わないでくれるかな!」

 

『そうだよ、純粋なフェイトにいらない知識を教えないでもらえるかな!』

 

「……いい加減にしようね?」

 

「イエス、マム!」

 

『サー、イエッサー!』

 

 アリシアや紗月は、この雰囲気を出している時のすずかに逆らうべきではないと本能的に察している。結局、すずかの一言で沈静化する始末であった。

 

「紗月もアリシアも自由なところがあるから、掛け合わせると常に暴走の危険を孕んでるのか……」

 

「一番傍にいるフェイトは言いくるめられてしまいそうだしね」

 

「ひろくん。いっそ、孫悟空の話に出てくる頭の輪っかみたいなの、アリシアちゃんにはめたらどうかな」

 

「『緊箍児』だっけ? 悪いことしたら頭がきゅっと締まる奴か、デバイス改造したら行けるな」

 

 すずかの茶目っ気に大翔がしれっと乗っかるのを見て、慌てるのはアリシア達である。なにせ今の話、実現可能だろうというのは、大翔の性格を知る紗月がすぐに推測できる。出来ないことを出来るのは、大翔は即答するタイプではない。

 

「ま、待って! 悔い改めますから! フェイトだけで我慢しますから!」

 

「それもどうなのよ、全く」

 

「……なら、いいかな」

 

「待って!? 私の犠牲は前提なの!?」

 

 呆れ顔のアリサに対して、それでも構わないかと意を示すすずか。なお、標的にされる妹はたまったものではない。

 

「馬鹿なことを言ってないで、そろそろ戻るよ。朝食の時間も近いし」

 

「はい、ひろくん」

 

「行きましょうか、大翔」

 

 フェイトの戸惑いをよそに、すずかとアリサはそれぞれ大翔の手を取り、そのまま部屋へと戻り始めるのであった。

 

「……フェイト、本当に困ったら、すぐに言ってくれればいい。アリシアや紗月の扱いは、良く知ってるから」

 

「!……うん、ありがとう、大翔」

 

 心強い言葉をかけられ、フェイトも落ち着きを取り戻して歩き始める。なお、フェイトに抱え上げられた少女が、少しは自重しようと身を震わせていたのは、誰も見ない振りをしていた。




次回から再び、海鳴市内に舞台は戻ります。
さらなる魔改造の始まりかも。

******

あ、執筆の合間にE6突破出来ました。
Romaさんも保護しました。あとは高波さんですね。
通商破壊しなきゃ……!(使命感

リットリオさん可愛い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。