吸血姫に飼われています   作:ですてに

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ちょっとしたユーノ視点。

更新遅くなってすいませんです。


初めてゆえに戸惑う

 ユーノ・スクライアは困惑していた。

 

 魔力を著しく消費したために、回復を促進するための小型動物形態になったはずが、魔力総量を広げる練習台とばかりに、二人の少女から切れ目無く魔力が注がれていて、その結果、供給を受けている間は本来の自分の姿に戻れている。ただ、著しくリンカーコアが消耗したため、魔力の蓄積がままならない状況に変わりは無く、供給が終わればすぐにフェレット態に戻らざるを得ないのは同じである。

 ただ、ままならないと言えど、少しずつであっても回復促進には繋がっており、それほど日数をかけずに、元通りの身体には戻れそうであった。代償としては、自分の危機を力尽くで救ってくれた彼らとの同行強制と、今回の事件を含めた魔法の情報開示ということだったから、協力を願うユーノとしても、話を受けない道理はなかったのである。

 

 前述の理由があり、魔力の供給は不要だと断ったものの、実際に流し込まれていることにも戸惑うところだが、彼はこの集団の異様さにも驚きを隠せない。

 まず、この間にもジュエルシードの危険さや特殊性、ミッドチルダの知識など説明をしている真っ最中なのだが、少年が二名に、少女が三名同席しているが、揃いも揃って魔導師であったこと。特に銀髪の少年──皇貴と、明るい色合いの茶髪ポニーテール少女──なのはが群を抜いていた。ミッドチルダでもこれ程の魔力量を持つのは、5%いるかどうかだ。非殺傷設定のはずの砲撃魔法で、死の恐怖を感じさせる威力を放つ彼女なら、あの組織なら、瞬く間にエースと呼ばれるようになる可能性を秘めている。他二人の少女、すずかもアリサも管理局で十分に働けるぐらいの能力はあると、ユーノは感じ取っていた。

 

(魔法文化が確認されていない管理外世界で一箇所に実力者が集うなんて──そして、何より)

 

 自分に魔力を注ぐ二人の少女にピタリとくっつかれている、空知大翔と名乗った、もう一人の少年。正直、容姿としては一番パッとせず、美少年美少女の中にいると浮いてしまいかねない。が、不思議と彼はこの輪の中で中心におり、かつ、それが当然だと思わせる雰囲気を持っている。

 これだけ容姿の整った少女達に寄り添われれば、頬も緩みそうなものだが、至って平静に見える。むしろ、どこか疲れているようにも読み取れて、きっと、まとめ役の苦労症なのだろうと、ユーノは思った。

 

(あの化け物クラスの砲撃を放てる彼女に堂々と近づいて、お説教出来る時点で、もうね)

 

 レイジングハートがあまりに相性の良いマスターに出会って、いつもの冷静さを失っていたこともあり、主従揃っての大暴走。あそこに躊躇い無く突っ込めるとか、怒りを殺し切った表情を少年がやるのを初めて見たとか、心を折るってああやるんだ、とか色々感じる所は多かった。

 魔力量でいえば、A以上S未満。エースクラスの二人に比べれば確実に一ランク落ちるが、このメンバーの中では総合力が最も高いと見ている。話を聞く中で、このメンバーの訓練等を考えているのは、主に彼だという。一人ひとりの得意分野は違うから、それぞれの訓練方法を考え、メンバーの実力を着実に上げていく、イコール、オールマイティに広い分野をフォローできるということでもある。

 話す中でも、貪欲に知識を得ようとする姿勢が見えて、より効率的に、より効果的に魔力運用をしようとする意識があると分かる。決して魔力総量が多い方ではないユーノも似たような意識を常に持っており、お互いに良い刺激になればいいと期待感を膨らませていた。

 

「魔力を分けてくれるのはとてもありがたいんだけど、なぜ、月村さんやバニングスさんを経由するんだい?」

 

「二人の基礎練を兼ねているのと、俺の魔力は直接受け取ると色々面倒なんだ。二人は抗体みたいなものがあるから、平気だけどね」

 

 苦笑いしながら、大翔は問いに答える。

 実際、彼が部屋に入ってくるまで、アリサはずっと機嫌が悪く、周りを常に威嚇するような有様だったし、すずかは部屋の隅でずっと三角座りをして、どんよりとしたオーラを纏い、ずっと何かを呟いている始末だった。

 

「こ、こんな飲み物一つで、アタシの機嫌が直ると思ったら大間違いよ! 馬鹿にしないでちょうだい! ……で、でも、おかわりしてあげるわ」

 

 言い過ぎたよ、ごめんな。その言葉と共に差し出されたミルクセーキを受け取ったアリサの反応は、何とも分かりやすいものだった。皇貴が『バニングスのツンデレもお約束』といった趣旨を呟いたので、意味を聞き得心したものだ。分かりやすい定義だな、と。

 

 そして、負のオーラを纏っていたすずかも、そっと後ろから抱き締められ、耳元で二言三言囁かれたと思ったら、花が綻んだような笑顔を見せて、大翔を抱き返していた。落ち着きを取り戻し、ミルクセーキを差し出される頃には、落ち着きを感じさせつつ、上品さを醸し出している雰囲気にとって変わり、大翔の横で微笑みながら、嬉しそうに口にしていた。

 

(ようするに、彼は二人の少女に慕われていて、かつ、二人の感情のバロメーターの元になっている、と。こんなに可愛い子に慕われているのは羨ましいけど……ただ、僕は二人を同じように、そつなく機嫌を損ねないように相手をするのって、無理かも)

 

 すずかとアリサに対して、極端な偏り無く細やかに接する。かつ、それは自然な態度で、彼にとってはもう日常なのだ、と察したユーノ。男なら一度は妄想するハーレムであるが、二人で既にこれだけ大変なら……と、彼はひょんなことから理解してしまうのだった。維持するには、面倒臭いことこの上無いのだ、と。

 

「ふあぁ……大翔くんのミルクセーキ飲んだら、眠くなってきたの」

 

「子供ねー、なのはは」

 

「おかわりしてたアリサちゃんは、わたしのこと言え……な……」

 

『Master, and you will catch a cold?』

 

「おいおい、高町。椅子で座ったまま寝るなよー。……空知、続きは明日にしようぜ?」

 

 彼はしっかり人数分を用意しており、飲み終わったなのはが大きな欠伸をしたら思えば、もう眠りに落ちそうになっている。苦笑しながらの皇貴の提案で、今日の意見交換はお開きとなるのであった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「眠れないか?」

 

 バニングス家の客室用テラスに置かれた椅子の上にぽつんと佇んでいる、フェレット態のユーノ。ゆっくり振り向けば、少し顔色の悪い顔の大翔がいる。

 

「そちらこそ大丈夫なのかい? 魔力を供給し過ぎたんじゃ……」

 

「いや、いつものお勤めを果たしただけだし、気にしないでくれ。休めば治る類のものだから」

 

 首筋から吸い上げられたり、興奮して火照ってしまう誰かさんを必死に宥めたり、健闘及ばず、力づくで押し倒されたり、とある部位が腫れてしまう程度に吸われ続けたり……とまぁ、人様の家である以上、いつもの専用抱き枕というわけにはいかないため、代わりにということで、満足するまで身を捧げた結果だ。

 あと数年経てば、彼もこのような行為に身体が心の状態と関係なく、激しく反応してしまう思春期に入ってしまうため、今は理性で完全に抑え込めているものの、近い将来の彼自身の懸念事項となっていた。

 何せ相手側が既にウェルカムの姿勢であり、抑止力に乏しいのが現状。むしろ、彼の理性を溶かしにかかることにご執心であるし、実姉やお付きのメイド達が応援すらしている節がある。

 

「う、うん」

 

 さらに、老紳士の執事から、キングスサイズのベッドを用意していると報告が入っている。アリサとすずかが水面下の戦いを繰り広げた後の、停戦協定の結果であるらしい。先ほどまで自分に怒りを向けていたはずの、この変わり身の早さに、大翔はこっそり嘆息していた。アリサに言わせれば、後に引きずらないだけであり、自身のホームグラウンドで仲を深めるチャンスを逃す気は無いわ、ということであろう。

 

『大翔ー、あんまり女を待たせるもんじゃないわよー』

 

 念話で添い寝の催促すら来ていた。寝る前に身体動かして汗を流してから行くと答えておいたから、若干の時間の余裕はあるはずだった。

 

「さっきは気を使って聞かないでいてくれたみたいだからな。俺の中にあるアレに気づいているんだろ?」

 

「……驚いたよ。ただ、封印処理も済んでいるようだし、リンカーコアの予備タンク代わりに運用すらしてみせているから、まずは他のジュエルシードを集めるのを優先すればいいと思ったんだ」

 

 冷静な判断。なんせこの世界の主要人物は、年不相応の精神構造を持つ者が多い。この年で、好奇心を抑えて、場の雰囲気を読んで発言をする。

 

(うん、俺は前世というネタがあるにせよ、やっぱり異常だな。すずかにしても、なんつーか、女性特有の妙な色気を出し始めているし……肉体と精神の差が激しいよな)

 

 しな垂れかかる仕草やら、腕に自身の腕を絡めてくる時など、どこかしら艶を感じさせるものに変わっているのだ。必要の無い時や、公然の場ではその妖しい雰囲気を少しも感じさせない切替の良さも含めて、何とも末恐ろしい少女として成長してきている。

 

「その年でそこまで考えられるスクライアが育つ、ミッドチルダって神童ばっかりいるんじゃないか?」

 

「……君がそれを言うのかい?」

 

 呆れ顔のユーノに大翔は即座に言葉を投げ返す。自身の資質だけで勝負している、彼らがある意味異常なのだと。

 

「俺の場合はある意味ズルをしてるから、別におかしくないさ。自身の力だけで、もう成熟しつつあるスクライアや、すずか達が飛び抜け過ぎているんだよ」

 

「それはひろくんをちゃんと見てきて、追い付きたいと頑張っている結果なんだけどな」

 

「そうそう。切磋琢磨出来る歯応えのある相手がいるから、遠慮なく自身の才を磨けるってものよね」

 

 自身の両手は声掛けと同時に、自然な動きでベビードール風のパジャマ──上下が分かれているデザインで、下はドロワーズなので諸氏は安心されたい──に身を包んだ二人の少女に引き寄せられた。ふんだんにあしわられた白と黒、二色のレースやリボンが左右に広がるのを見渡し、大翔は呟いた。時間切れか、と。

 

「可愛いパジャマのお二人の迎えも来たようだし、僕もそろそろ眠るとするよ。明日以降、また話をすればいいんだから」

 

 ユーノも直視できずに、目線をずらしながら語る姿に、大翔はきっといい友になれるんじゃないかと思いながら、連行されるのだった。なお、二人の姿を真正面から見るのは、彼も勿論出来なかった。……美少女たちが本気を出すというのは、時に残酷なこともあるのだ。




初心に帰ろう。そう思いました。

気づいたんだ……。

ストーリーが進まないのは問題だが、
私が書きたいのはすずか様とのイチャコラであるからして、
いざとなれば、本編は端折れば問題ないということに……っ!

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