吸血姫に飼われています   作:ですてに

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頑張れ大翔にアリサ!
物語が進むかは君たち二人にかかっている。(多分


やっとお話し合いが始まりました

 (忍さん曰く『完全栄養食』だっけか。輸血パックよりも、生き血がいいのは、栄養の新鮮さが違うってところか?)

 

 肉体が健やかに成長し、思春期の少年を特殊能力関係なく、即魅了するすずかの肢体。想像自体は難しいものではない。忍のボディラインに上積みをして、白いヘアバンドとウェーブがかった青紫の長い髪はそのままに、身長を少し縮めればいい。トランジスタグラマー・すずかの爆誕である。

 

「うーん、怖い」

 

 へたれの極みであるが、美女美少女に興奮するよりも萎縮するのが大翔だ。触れていいと言われても全力で逃げる自分が簡単に想像できる。

 

「そこは流石に喜ぶところじゃないかなぁ……でも、急に変化するわけじゃないから、毎日一緒にいれば自然と慣れる部分も大きいと思うよ」

 

 煽ってみたものの、彼の問題の根深さを再認識するだけとなったすずかは、即座に意識を切り変える。慣れは大事だ。成長する自分が常に隣にいれば、大きな違和感無く、自分の体の変化も大翔に受け入れやすいはずだと、傍にいることの大切さを自分自身で心に深く刻み込んでおく。

 

(大翔くんが私だけじゃなくて、アリサちゃんやなのはちゃんも妹としてしか見ないのは、女の人への怖さの裏返しだよね。アリサちゃん達は特に魅力的な女の子だから、余計に大翔くんはそういう立ち位置にいようとするんだろうな、無意識だろうけど)

 

 なし崩し的な部分があるとはいえ、すずかは妹的な存在であるが、決してその枠に収まっているわけでもない。吸血行為は性的な行為を喚起するものであるし、一族としての身体反応も含めて、相手には異性というものを強制的に意識させることに繋がる。

 すずかは特殊環境ゆえの、大翔に対してのアドバンテージを持っている。アリサ達がライバルになり得るかは別として、すずかは彼にとっての一番手でありたいと願うし、今の環境ももちろん利用し尽くす。労力を惜しむつもりはない。

 

『マスターが、大翔に対して強引に出る理由が見えてきました』

 

「私もこれで良かったんだって思えたのは、さっきの『ひろくん』の言葉だけどね。ただ、分かり難いアプローチじゃ、『ひろくん』には絶対に信じてもらえないと思ってたの」

 

 すずかは、少し前から考えていた彼の呼び方を実行に移す。自分だけの彼の愛称。大翔、すずか、アリサ、なのは……四人の距離が縮んだ今日だからこそ、ここでもう一歩、彼との距離を縮めようと踏み込んでいく。

 

「半年の付き合いで完全に見抜かれてるなぁ、俺。って、え?」

 

「半年といっても、殆ど一緒にいるんだよ? 普通の恋人さん達が過ごす何倍もの時間を過ごせてると思うよ。さ、ひろくん、立って。魔力切れの痛みも引いているはずだから」

 

 照れを出してはならない。さも当然のように呼び続ける。

 彼の性格上、すずかがこうすると決めれば、それが危険が及ぶもので無い限り、最終的に受け入れてくれる。それを踏まえた上での、彼女の行動。

 

「すずか、呼び方が……」

 

「大翔くんだから、ひろくん。何もおかしくないでしょ?」

 

「あ、あぁ」

 

 本当は心が飛び跳ね、鼓動は急に早まり、頬の熱を自覚するほどに、恥ずかしい。それでも、大翔は自分を受け入れてくれる安心感があるから、すずかはその照れを振り払う。自分が幸せになり、そして、彼も幸せにするために、一歩一歩自分が描く未来の姿を形作っていくのだ。恋する少女・すずかは、しなやかに強くなっていく──。

 

 

 

*****

 

 

 

 「ふぅ。食後のたわいもないお喋りも楽しいけれど、そろそろ本題に入りたいわね。魔法の話、あとはああいう伊集院みたいな輩の対策もしっかりしておきたいし」

 

「アリサちゃん達の話を聞くに、大翔みたいな魔法使いの、悪堕ちテンプレバージョンが出たって話でしょう? おまけに、すずかやアリサちゃん、なのはちゃんを初対面から呼び捨てって、個人情報までダダ漏れじゃない」

 

 食後のティータイム。この席にはすずかの姉・忍も同席している。魔法の存在を知っている関係者である以上、学校の転校生の話はしっかり伝えておく必要があったからだ。

 

「きっちり心身ともにお話はしたから、こちらに害は及ぼさないようにはしたよ。ただ、常時発動なんだっけ、あの魅了能力って」

 

『はい、マスター。掌の接触による魅了は触れられなければ影響はありませんが、笑顔には常に魅了効果が含まれていますので、対策は必須です』

 

「やっぱり喋る魔法の杖ってすごいわよね! ……ヘカティーを解剖してみたいっ」

 

 工学系ジャンキーの本領発揮とばかりに、話をぶった切り、自分の欲望を隠そうともしない忍。お嬢様の欠片も既に演じるつもりがない姉に、すずかもなりふり構わず突っ込みを入れる。

 

「させないよ、お姉ちゃん。第一、設計図を後でヘカティーが教えてくれるって言ってるんだから」

 

「いや、やっぱりね、直で触るってのは色々違うのよ。図でも勿論分かるけど、手の重みとか。ね、大翔?」

 

「そこで俺に振らないで下さい、忍さん。確かに俺もモノいじりは好きですし、調整も見学させてもらってますが、それとこれとは話が違うでしょう。第一、話を脱線させてどうするんですか、年長者の貴方が」

 

「私より遥かに年寄り臭い貴方がいれば問題ないわ。さ、話を続けてちょうだい」

 

(ダメだこの高校生……早く何とかしないと……)

 

(お兄ちゃんに連絡しておこうっと。大翔くんの胃が大変なの)

 

(忍さんってプライベートとはいえ、ここまで自堕落な一面を出す人だったかしらね? ……いや、大翔は身内にとことん甘いとこがあるから、忍さんが年齢度外視で頼れるヤツって判断していれば無い話じゃない。……はぁ。他人に対してはちゃんと分析できるのにね)

 

 三人三様の心の内である。だが、心の内をあえて隠そうとしない者もいるわけで。

 

「ノエル、ファリン。お願い、お姉ちゃんを縛り上げてくれるかな? 最近、ひろくんに甘え過ぎだから、ちょっと反省してもらわないと。話も進めたいから」

 

 黒いもやのようなものを纏うすずか様がしっかり降臨していた。この上ない笑顔なのに、表情を見れば恐怖しか沸き起こらない矛盾。傍仕えのメイドであるノエルとファリンが、迷うことなくどこからか取り出したロープで、忍を腰掛けている椅子に即座に括り付けるぐらいに、有無を言わさぬ主人の命令として受け取ったのは確かだった。

 忍もすずかも彼女達にとって主人である事に変わりはないが、従うべき序列は目の前の圧から明らかである。すずかの大翔へ対する呼び方も変わっているのも、皆当然気づいているが、誰も未だ指摘できていない事実がある。

 

『マスター。口も塞いでおきますか?』

 

「お願い。こちらが認めた時だけ話せるようにして」

 

 学校で転校生相手に使われた光を帯びたバッテンシールが、今度は忍の口に張られた。抗議の声を上げているのが表情から読み取れるものの、声は一切漏れ出ない優れモノである。

 

「お兄ちゃんにもメールしたよ。忍さんがお兄ちゃんに甘え足りないせいで、大翔くんに負担かかってるからどうにかしてって」

 

「ありがとう、なのはちゃん」

 

「無言の連携出来てるアンタらが怖いわ。さて、大翔。いい加減話に戻りましょう」

 

「ん、まぁ、魔法については多少なりとも見てもらった通りかな」

 

『魔法は、自然摂理や物理法則等をプログラム化し、それを任意に書き換え、書き加えたり消去したりすることで作用に変える技法です。マスターの能力を技術化したものと言ってもいいかと』

 

「アイツの常時発動能力にすずかが抵抗出来るのは、元々近しい能力を持っていることがある。ただ、そういう素養が無いと、思考や感情を自然と書き換えられてしまう」

 

 すずかが毎晩自分の一族の力を増しているから、伊集院程度の魅了は歯牙にもかけないとは言えるものではないので、自然とこんな言い方になってしまう。

 

『暫くは面倒でしょうが、アリサ達に精神の保護魔法を効果が無くなる前にかけ直すというやり方でしょうか』

 

「常時一緒にいられるわけじゃないからな。強く意識下に植えつけたから、解除しようとはしないだろうし。最終的にはアイツのあの能力を封じるためのマジックアイテムを造らないといかんし。クラスメイトもいつまでもあのままってのは不味い」

 

「大翔、そういうの作れるわけ?」

 

「今は魔力を充填した使い捨てタイプの魔石みたいな奴ぐらいしか造れない。魔力を使い切る練習の一環で」

 

 大翔のもう一つの転生特典。転生先はハッキリと聞いたわけではなく、魔法とSFが混じった現代を模した世界だと教えられた彼が二つ目に選択したのは、「マジックアイテム作成者の素養」だった。素養だけで才能を伸ばすのは自分でやりたいとも。努力が報われる才能と合わせて、モノづくりにじっくり取り組むつもりだったのだ。

 魔法の世界に行くならば、そんなアイテムを自分で造り上げてみたい。分かりやすい欲からのものだったが、この世界の場合……デバイスの作成・メンテナンスが出来るイコール、工学関係に才を持つことに近い。結果、忍とその点は息が合い、ノエルやファリンの調整を手伝いつつ、知識を得る時間を得られていた。

 

「魔法体系はヘカティーがある程度教えられると言ってくれてるし、いずれは結果が出ると思うんだけど、時間はかかるだろうな」

 

 やりたいことが増えるのはいいことだが、訓練も続けなければならないし、年齢的に学校は行かないと不味い。いかんせん時間が足りないのだ。

 

「ううん、時間を生み出すには……」

 

「睡眠時間を削るのは認めないからね?」

 

『魔力回復のためにも、休息は非常に大事です』

 

 すずかはくっついて眠る時間が減るという危機感から、ヘカティーは理知的な視点より、大翔の機先を制してしまう。その様子を目の当たりにしたアリサは短い主従関係でありながら、すずかとヘカティーの息の合いように思わず笑みをこぼす。

 

「だそうよ、大翔。それと、あたし達も訓練するから、これからは」

 

「うん、そうだよ! わたし達が自分で保護魔法なり、抵抗力をつければ一番早いよね? クラスの女の子皆に手分けして保護魔法使えるようになればいいんだもん!」

 

 やる気満々、拒否などさせないといった様子のアリサになのはであるが、彼女達それぞれに問題はある。大翔はちらりと待機状態のヘカティーを見やり、再び口を開く。

 

「ヘカティー。アリサとなのはの魔力量は見える?」

 

『なのははAA+。但し、訓練も何もしていない時点でこれは異常とも言えるでしょう。正式に訓練をすれば、AAAクラスになるのもすぐです。ただ、アリサは……辛うじて、最低ランクのF-です。但し、忍たちには、そもそも魔力の元となるリンカーコア自体がありません』

 

「にゃにゃ!? わたし、そんな魔法の力を持ってたの!?」

 

「な、何で!? すずかはどうなのよ!」

 

『マスターはDとEの境目です。ただ、詳しくは私も分からないのですが、マスターとアリサは後天的にリンカーコアが産まれたものと推測します』

 

「ねぇ、ひろくん……」

 

 すずかの言わんとすること。魔導師の血を吸うことで、すずかに魔力が宿った裏付けになるのか。

 

「あぁ。ヘカティーの知恵を借りて調べないといけないことは多そうだな。あんな規格外魔力のサポートを出来るデバイスだから、能力も知識量もとんでもないわけだし。しかし、アリサにコアがあるなら……話は変わるか」

 

 考え込む大翔。アリサに魔導師の最低限の資格があるなら、自衛の力を一緒に身につけてもらうべきなのか。ただ、それにしてはアリサの魔力量は、ただ、小さな小さなリンカーコアが存在するだけというレベル。

 同時にアリサも考え込んでいる。微弱ながら後天的に身についた魔力の元、リンカーコア。アリサは一つの仮説を立て、大翔に提案を行う。

 

「ねえ、大翔。あたしに精神保護でも、身体強化でもいいから、魔法を使ってくれない?」




整合性が取れない部分も出てくるかもしれませんが、
あくまでこの物語はすずか様prprが主体ですので、
スルー出来る部分はスルーしてもらえると助かります。平に、平に~。

※追記
次回更新は土日の予定。

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