ケイの旅 ーLife is a Journeyー 作:黒猫冬夜
暖かな日差しの当たる窓辺の席で黒髪の青年は一人、紅茶を飲みながら外の通りを眺めていた。白いシャツの襟を絞まるネクタイは緩く結んであり、腰のベルトにはパースエイダーを二丁ぶら下げている。
青年が観察している通りには、多くの人々が活発に出歩いていた。今日はお祭りでもあるのか、多くの人は顔をお面で隠していた。口より上を隠すそれは一つ一つ綺麗に細工が施されていて、誰一人と同じ物を付けている人はいない。どれも、近くの国に売ればかなりの儲けになるだろう。
ボーッと外を見ている青年の反対側の席に、一人の若い女性が座る。彼女もまた、お面をしている。彼女の面は白地に桃色の花と、結構可愛らしい。
「旅人さんですよね。」
「あぁ。」
「ふふ、良かった。」
女性は微笑えむ。
「今日、お祭りがあるのか?」
「いいえ?・・・あ、このお面ですか?」
「あぁ。多くの人が付けてるみたいだが。」
女性は自分の面をコンコンと叩く。一瞬面を取るような素振りをしたが、考え直したのか上げた手を膝に戻す。
「これは、未婚の印です。」
「未婚の?」
「はい。この国内で今結婚をしていない方は全員お面をしています。」
「なぜ、そんな大層な事を。」
「何故始めたのかは知りません。けど、続けている理由は知っています。」
いつの間に頼んだのか、一人のウエイトレスが女性の前に紅茶を置く。そのウエイトレスもまた、面で顔を隠している。
「旅人さんは、何を見て人を判断しますか?」
「何を見て、か。」
「えぇ。見た目、性格、趣味、夢、職業。私は見たことありませんが、肌色の違う人もいると聞きます。判断材料は幾らでもあるんです。」
「そうだな・・・敵か否か。後は・・・性格、かな。」
青年は自信なさげに肩を竦め、紛らわすように紅茶を一口飲む。女性はそれを静かに眺め、自分もまた紅茶を飲む。
「誰も、性格と答えるものです。けれど、誰も少しは外面で決めつけてしまうものです。」
「第一印象か。」
「えぇ。それを不公平の無いよう続けられているのが、このお面です。」
「顔で判断しないように、か。」
紅茶は薄く湯気を立てて、ゆっくりと冷めていく。茶菓子でも頼むべきだろうか、と旅人は軽く悩むように顎に手を当てる。しかし紅茶があまり残っていない事に気付いたのか、ウエイトレスを呼ばなかった。
「顔は変えられない、そしてだからこそ不公平なんです。顔が・・・平均以下だからと性格を見て貰えないのは酷いでしょう?」
「けれど、体格は隠せないな。」
「体格は、自分の性格を表します。自分の性格次第で、体格など変えられます。」
「それもそうか。」
空のティーカップがカチャリと置かれる音が鳴る。まだ空ではないティーカップは女性の手に収まっている。
「その面は何処で作っているんだ?」
「職人さん達が彼らの家で作っていますよ。」
「そうか・・・」
「良ければ、案内しますよ。」
女性は楽しそうに笑い、まだ残っている紅茶を捨てるように立ち上がる。青年は涼しい顔でそれを見届け、また座るようにと手で示す。
「場所を教えて貰えれば結構です。」
「けれど・・・」
「一人で観光しながら行きます。」
「おや、旅人さん。お面を作って貰ったのですか。」
「ええ。とても綺麗なので、旅の土産に一つ。」
国と国をつなぐ細い道に一軒だけ立つ小屋の窓から、入国審査官が顔を出す。彼は面をつけておらず、小屋の中から賑やかな声が漏れてくる。
「綺麗な出来ですね。大事にしてください。」
「そうします。」
白地に鮮やかな緑の蔦が描かれた面をつけた青年は、終わりなど見えない道を走り出した。
後書き:
お久しぶりです。すぐに投稿すると言いながら、随分と放っておいてしまいました。
今回は、作者が女性の化粧について考えてたら思いつきました。
人を顔で判断するのは、良くないと思っても本能的にしてしまう事です。
ならば、全員が面で顔を隠すのはどうでしょう。
一軒不気味ですが、慣れてしまえば案外良いかもしれません。
犯罪が無い世界だと、上手くいくかもしれませんね。
これから、ずっと書くことを楽しみにしてた次話を書きます。
もし良ければ、投稿後そちらも読んでください。
では、次回お会い出来る事を楽しみにしてます。