ケイの旅 ーLife is a Journeyー   作:黒猫冬夜

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グロ注意


取引の国

コンクリート製の国壁の前に、ポツンと小屋が一つ立っている。小屋の前にはモトラドが一台止まっており、小屋の中からは話し声がする。

 

「旅人さん、何日間の滞在で?」

「んー、色々と補充したいから・・・三、四日ですかね。」

 

入国審査官の問いに、黒髪の青年は首を掻きながら答える。

 

青年は、二十代だろうか。レザージャケットに隠れている体は、鍛えられているようだ。

 

「パースエイダーはお持ちですか?」

「ええ、三丁。」

 

青年は腰のベルトの両側から パースエイダーを取り出し、審査官の机の上に置く。パースエイダーは二丁とも自動式で、黒いボディーが窓からの光を鈍く反射している。

 

「モトラドにもう一丁あるが・・・」

「種類を言って貰えれば十分ですよ。」

「自動装填式のスナイパーライフルです。」

「承知しました。」

 

入国審査官はせっせと言われた内容をコンピューターへと入力していく。

 

「当国ではパースエイダーの持ち込みを許しています。きっと、お役に立つでしょう。」

「治安が良いと聞いたんだが、違うのか?」

「いえ、とても治安が良いですよ。旅人さんも、きっと当国に住みたくなりますよ。」

「はぁ。」

「では、こちらを門番に見せてください。」

 

審査官にチケットのような紙を渡される。よく見てみると、入国の日にち、出国の日にち、人数、モトラド数などが彫り込まれている。

 

青年はパースエイダーをベルトへしまい、チケットをポケットに入れる。

 

「少し早いですが、ようこそ我が国へ。」

 

 

 

 

 

「お探しのものは全て見つかりましたか?」

「ああ、良い品揃えだな。」

「そう言って貰えると嬉しいです。」

 

店長は青年が選んだ品々を会計し始める。そのほとんどは銃弾、又は非常食だった。

 

「そろそろ夕食をとりたいんだが、安くて出来れば美味しい食堂など近くにあるか?後、安い宿も。」

「食堂なら、この道を右にまっすぐ進んで、突き当たりの少し前に美味しい所がありますよ。宿なら、その突き当たりを左へ曲がり少し進んだところに安い所が。」

「助かる。」

 

優しく笑う店長に青年は対等の金額を渡し、商品の詰まった袋を受け取り店を出た。

 

青年は言われた宿に部屋を借りいらない荷物を置いた後、勧められた食堂へと向かう。宿は確かに安く、嬉しいことにシャワーと朝食付きだったので明日の晩の分も前払いで借りた。

 

縦長なテーブルで頼んだ夕食をゆっくり食べていると、正面の席に中年の男性が座った。

 

「旅人さんですかな?」

「ああ、今日この国へ来たばかりだ。」

「では、取引施設をまだ見学してないんですな?」

「取引施設?」

 

男性は楽しそうに頷く。

 

「ええ、そうです。我が国が同盟国の間では殺人事件の数が圧倒的に少ない理由は、取引施設にあるんです。旅人さんも、もし時間があれば是非見学に行ってください。」

「興味深いな。明日行ってみようか。場所は・・・」

「街の中心にある、一番大きい建物です。では、私はここで。」

 

男性は立ち上がり、小さくお辞儀してから離れていった。

 

 

 

 

 

翌日、お腹いっぱい朝食を摂った青年は街の中心部にある一つの建物の外にいた。

 

「さて、ここで間違いないと思うんだが・・・」

 

確かに、建物の扉の上に「取引施設」と堂々と書かれていると、間違いようが無いだろう。

 

「何が取引されてるんだ?」

 

青年はモトラドを降り、疑問を答える為中に入り受付の女性に近寄る。

 

「すいません。」

「はい、今日はどの様なご用でしょうか?」

「施設の見学って出来ますか?」

「あら、昨日来た旅人さんですね?勿論、見学なら出来ますよ。今人を呼びますので、少々お待ちください。」

 

女性は何処かへ電話をし、すぐにロビーに一人の女性が現れる。

 

「旅人さん、ようこそ取引施設へ。私が案内役を務めさせて貰います。」

「よろしく願いする。」

「はい。では、さっそく付いて来てください。」

 

歩き出した彼女を追い、ロビーを出一つの廊下へ入る。まっすぐな廊下の両側には、扉の代わりに大きな窓がある。白い蛍光灯に照らされ、そこは病院の様な清潔さと不気味さを醸している。

 

「旅人さんはとても運がいいですね。ちょうど、これから取引が行われるんです。」

「取引って、何をですか?」

「こちらへどうぞ。」

 

女性は一つの窓へ歩み寄り、青年を手招く。応じるように、青年も窓に寄る。窓は随分分厚く、軽く叩いてみると鈍い音がする。

 

窓の向こうの部屋は驚くことに床がなかった。否、床がないのではない、掘り下げられているのだ。床は地下二階か三階に値する位置にあった。廊下同様白い蛍光灯に照らされた床には人が一人、木製の椅子に座っていた。

 

青年は目を凝らし、座っている人を観察する。そして、座っていると呼ぶのは些か間違っていると気づく。「座っている」人は、その手足を椅子の肘置きと足に固定され、頭には麻製の袋を被されていた。まるで気絶したように、頭は前へ傾いていた。

 

「この方が、今回の取引主です。」

「何が・・・取引されるんですか?」

「命です。」

 

青年は怪訝そうに眉を顰める。言い方が悪かったですね、と女性は申し訳なさそうに笑う。

 

「この国では、殺人は違法です。犯人は死刑か、一生を牢屋で終えるでしょう。」

「ああ、ほとんどの国もそうですが。」

「はい。ただ他の国と違うのは、殺人が一箇所でのみ許されている事です。それが此処、取引施設です。」

 

青年は目線を女性から、下の人物へ移す。

 

「この人は、殺されるのか。」

「ええ、しかし殺しと呼ぶのは間違っています。」

 

青年はまた女性へ目線を戻す。

 

「どの国でも、生きる気力の無い人はいます。それは鬱病だったり無気力だったりと、理由は様々です。楽になりたい、けど自殺する勇気がない。自殺しても、その後始末で困る人が必然的に出ます。

 

それと対で人を痛めたい、殺したいと感じる人もいます。普通は特定の人物へ向けてですが、偶に無差別に行われることもあります。

 

我が国はその二つの願望を叶え、一般人を守る方法を見つけたんです。」

「それが、取引か。」

「ええ。殺されたい取引主が、殺したい取引相手に殺される。相手は、内臓などを痛めない限り好きな方法で殺せます。勿論、取引主の人権を守るため顔は隠しますし、痛みを感じないよう薬で意識を沈めます。」

 

ガチャッ、って音で青年はまた部屋を覗く。取引主が向いている壁の扉が開き、片手に鉈を持った相手が部屋に入る。

 

青年は驚いた様に目を少し見開く。取引主へ歩み寄る相手は、昨日丁寧に宿と食堂を教えてくれた店主だった。

 

「取引主が現れれば、施設のページで知らせます。それに応じる相手が現れれば、取引成立です。」

 

店主は取引主の頭を掴み、鉈でゆっくりと首を開いていく。

 

「心配じゃないんですか?この様な人が普通に世間に溶け込んで生きていることが。」

「いえ。この様な方たちはここでその願望を沈める事で、外では普通の一般人として生きていけています。その証拠に、この施設が設立されてから殺人事件は7割減りました。」

 

店主は鉈で、もう生きてはいない取引主の腕を刻んで行く。返り血で真っ赤なその顔は、まるで愛おしい者を見るように優しく笑っていた。

 

「内臓は傷つけないとさっき言ったが、それは?」

「はい。取引後、取引主の内臓は医者によって取り出されます。健康な内臓はその後、必要な患者に移植されます。」

「一つの取引で三人を救う、と。」

「その通りです。」

 

素晴らしいでしょ、と女性が誇らしげに言うのを、取引相手が取引主から離れて行くのを見ながら聞く。やがて相手は扉を開け、部屋を出る。残されたのは胴体以外は赤く染まった白が見えるまで刻まれた取引主と、そこから扉まで伸びる朱色の足跡のみだった。

 

「成立されていない取引が一つありますが、旅人さんもやってみますか?」

 

女性は最早あの様な光景に慣れているのか、営業スマイルを崩さないまま青年に問う。

 

「遠慮させて貰う。案内、感謝する。」

 

青年は丁寧にお辞儀し、歩いてきた廊下を一人戻っていく。笑う女性を残して。

 

その瞳で光っていたのは蛍光灯の反射か、狂喜の種か。もういない青年は答えを出すことがなかった。

 




後書き:

初めましての方は初めまして。そうでない方は、こちらも読んで頂きありがとうございます。

キノの旅の世界が大好きで、現実逃避に書き始めてしまいました。
出来るだけ世界観に沿って書きたいと思いますが、壊す恐れ大。

旅人は、イメージ的にシズと同い年位でしょうか。勝手に、シズは二十代と思い込んでますが。
旅人の口調、性格、キャラを定めるのが、これからの一番の課題です。

この話は、「生きたいのに生きれない人がいる」と言う言葉について考えてて思いつきました。「生きたくないのに生きている」人と「生きたいのに生きれない」人、両方を救う方法何てあるのかと。色々な意見や解決法が挙げられていますが、これも一つの答えじゃないでしょうか?

もう一話書いているので、30分後くらいに投稿します。
出来ればそちらもよろしくお願いします。長々とお付合い頂き、ありがとうございました。

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