遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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しばらくデュエルしてませんが、調整中です...。

あと、見直してみたらナンバリングがおかしかったのでこれが九十話となります。


六章 【«цпкпошп»編-終焉の日月戦】
第九十話 Attack in the Moonlight


◐??? / ???

 

 

最初はただの遊びだった

きっかけは思い出せないが、1人の少女はその時漆黒のプレハブのような場所に迷い込んでいた

埃っぽく、カビの匂いが充満した居心地の悪い部屋だ

 

 

「...ケホッケホ」

 

 

無論恐怖があった

ならばそこから立ち去ればそれで済む話なのだが、それが成せない原因がその暗闇の一室にあった。誰かが入口を塞ぐ形で立ち往生している

 

 

「だからさっ...こんな所で何してたんだい?」

 

「うぅ...」

 

 

その男が居なければ今すぐにでもこの場から駆け出していただろう。だがそれが出来ないでいるのは存在だけでなく、その男がただならぬ雰囲気を醸し出しているからだろうか。

 

垂れ下がった瞼の中にある瞳孔は嫌に開き、鼻息が荒い。よく見ると歯並びもガタガタで、頬の染みが汚らしい。良い印象は1つたりとも無かった。

初対面としては些か失礼かもしれないが、それも仕方ない。

 

この2人が出会ってから既に1時間近く経過しようとしていた。男はなんの意味も無く少女をこの場に長く拘束しているのだ。少女としてもいい加減限界も近づいている頃だ

 

 

「あ、あの...私お家に帰らないと.....」

 

「だ、だからさっ?少しお話するだけなんだからいいじゃない?1つくらい答えてよぅ?」

 

「うぅ...ケホッ」

 

 

常識がまるで通用しない

ただ帰りたいと願う痛い気な少女に対し、耳を塞ぐかのように男は自分の意見で言葉を塗り替えている

 

会話にならない

少女がそう感じたのはこの男と出会って数分後の事だった

 

 

「お、おじさん...お願いですから帰りたい.....」

 

「おじさんだなんて...僕はまた36歳だよ!お兄さんか...それかお父さんって呼んで!ね?」

 

「...」

 

 

この部屋の恐怖心はこの男がほとんどを統べている。ずっとこの調子で意思疎通は困難を極め、家に帰りたいという至極真っ当な望みすら叶わない。加えて体の不調も重なっていた。

 

この部屋に長く居すぎたのか嫌な咳が出るようになってしまった。心做しか呼吸も苦しい。アレルギーや喘息は無かったと記憶しているが、後天的に現れる事も考えられるかもしれない。

 

少女は今すぐに帰宅したいとだけ願い続けている

 

 

「ハァ...はぁ......っ」

 

「どうしたんだい?具合が悪いなら...っぼ、僕が見てあげるよ?」

 

「っ!?」

 

 

男が部屋の中に侵入する

隅で小さく位置どる彼女には退避の手段が無く、ただ畏怖しながら男との距離が縮まるのを感じるだけだった

 

心拍数が上がり、呼吸一つ一つが次第に短くなる

嫌な予感しかない

少女の中で危険を告げる警告音が劈くように響いた時、外の明かりが新たに入口にたった人物の影を室内まで伸ばした

 

それにいち早く気がついたのは男の方だった

少女から視線をそちらに向けると、男が詰め寄る少女と同じぐらいの年の少年が立っていた

 

 

「な、なにしてんだよ!」

 

「チッ...ガキが邪魔するなよ」

 

 

救世主にしてはその少年は若すぎた

 

 

 

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◐??? / 午前1時1分

 

 

日付が変わってから1時間ほどたった時

 

日本を守る者、月下を攻める者

または月下を守る者と日本を攻撃する者

 

これから混じり合うのは様々な立場の決闘者(デュエリスト)達だ。そして自分は日本のために戦うと黒川は意識を改めていた

 

今いるトラックはやがて月下まで辿りつく。具体的な所要時間は把握していないが、それまで待機する何は変わりない。だが、嫌に息苦しい室内だった

周りは知っている人物ばかりだと言うのにも関わらず、妙な気まずさまでもが、残っている

 

 

「...秋天堂さん、貴方月下に行ったことは?」

 

 

耐えきれず沈黙を破る言葉を部隊のリーダーに向けると、彼女は考える素振りも無く即答した。

沈黙を気にしていたのは黒川だけではなかったようだ

 

 

「無いんだ。僕はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の中でも大神さんの部下だから。基本的に聖帝に在籍しながら補佐をしていたんだよ」

 

「補佐...構内大会に出場したのはそれと関係あるのかしら?」

 

「それは」

 

 

少し答えに悩む様子を見せた

が、言葉を選び終えると素直に答えるようだ

 

 

「聖帝大学がS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)にとって、国にとっての”希望”を探す場所になっていたのは聞いたよね?」

 

「えぇ、プロ推薦って形でS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)にスカウトしてたのよね」

 

「うん。でも大神さんはそれに消極的だったんだ。だから普段から色々根回ししていたんだけど、どうしようも無い行事がある時は僕も協力していたよ」

 

「それが構内大会?」

 

「うん。勿論S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が欲しそうな決闘者(デュエリスト)のデータを書き換えて参加権を剥奪する事も出来たよ。でもそれほど優秀な人が大会に出ることも出来ないなんておかしいよね?」

 

「それで...秋天堂さんも参加させたのね」

 

「そうだね。最悪僕が優勝してスカウト枠を減らせれば良かったんだけど...上手くいかなかった」

 

 

構内大会が開催されたのはつい先週の出来事だ

まだ鮮明な記憶を探ると、秋天堂はBブロックに割り当てられていた。だがBブロックの優勝者は及川という1年生だった。つまり大神の目論見は大失敗という事か

 

その推測に赤丸を付けるように秋天堂は、苦笑いを浮かべていた

 

 

「AブロックやCブロックではそれぞれ誰を優勝させたかったのかしら」

 

「もう話してもいいだろうね。Aは草薙さん、Cは小鳥遊さんだよ」

 

「それは...どういう理由で?」

 

「草薙さんについては聞いたよね。彼女に記憶操作を行うのは酷だって事と、彼女の父親が幹部ってことで大神さんはまずスカウトされないと考えたんだろうね。だから優勝させても問題ないって」

 

 

草薙の別神経の事だ

喉にハンディを抱える危険性がある以上、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)として、得に実の父親にとっては絶対に避けたかったのだ

 

決闘力(デュエルエナジ-)や永世界、月下について話すだけ話して本人に拒否されてしまえば記憶操作はやむを得ない。その話を隠しながら利用するにも無理がある上に彼女の父親が許さないだろう

 

故に草薙花音はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に入らない。学生らが楽しむ構内大会の裏に闇があったことに、黒川は最早驚く事も疲れた様子だった

 

 

「小鳥遊さんは既にスカトして振られているからね。今更目立っても問題なかったんだ」

 

「...まさかトーナメント表も?」

 

「うん。村上君のデッキと相性をのいい決闘者(デュエリスト)を考えて組んだ。でも結局村上君は優勝しちゃったんだ」

 

 

大神が慎也を優勝させたく無かったのは理解出来たが、トーナメント表まで仕組まれていたのは予想外だった。黒川と灰田もAブロックにいたのだが、そんな事等微塵にも感じられなかったからだ

 

言われてみれば初戦から特別枠同士の戦いであり、それを含めた慎也の決闘(デュエル)は確かに苦戦を強いられていたようにも見えた。

だが本当にそこまで可能なのか。慎也は複数デッキを持つ決闘者(デュエリスト)であり、どれを使うかは対戦までわからなかったはずだ

 

考えてみれば分かる

事前に慎也は使用デッキを申請していたのだ

大会を管理する大神がそれを知らないはずはない

 

 

「...そのために複数使う決闘者(デュエリスト)は予め申請させたのね」

 

「勿論公平を期すためでもあるさ。でも村上君の動きは常に把握したかったんだよ」

 

 

楽しかった構内大会の思い出も霞み始めた

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部ともありながら大神の行動は私欲に近く、母校の闇と同時に仲間であるはずのS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)にまで疑心が生まれ始めた

 

こんな気持ちでこれから戦えるのだろうか

だが不安に感じるのは黒川だけでないらしく、灰田は悠長に話す秋天堂から片時も目を離さず黙り込んでいる

 

いつの破天荒さを失った灰田がやはり気になるのか、秋天堂は黒川から灰田に視線を写すと問いだした

 

 

「...灰田君。失望しちゃったかな」

 

「えっ、何がですか!?」

 

「僕は全部知ってたんだよ、それなのになんでもない顔しながら良い先輩のように振舞って...」

 

 

黒川には灰田は最近やたら秋天堂と仲良くしている印象があった。手作り弁当のお返しに悩む灰田と共に慎也や知樹らと模索したのも比較的最近の出来事

 

大学外での接点もあったらしい。だが前の関係には間違いなく戻れない。秋天堂はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)。灰田はごく一般の大学生。守る者と守られる者なのだ

 

どうしてこうなってしまったのだろうか。黒川にはただひたすらに過去を振り返ることしか出来ていなかった

 

 

「失望なんてしてない!ですよ!」

 

「え?」

 

 

だが、室内な響いた灰田の声はいつも通りのそれだった。予想出来なかった訳では無いが、秋天堂も黒川も驚いた様子で灰田を見据える

 

表情もまた彼特有と言えた

 

 

「俺は難しい話し分かんないけど、秋天堂さんは立派だと思う!」

 

「僕は...黙ってたんだよ?S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が村上君に目をつけてたのも、皆木さんに精霊が宿ったのも、君達の決闘力(デュエルエナジ-)が監視されていたのも!」

 

 

秋天堂が取り乱す姿は見ていられないものだった。黒川にとっても灰田にとっても初めて見る光景であり、いつもの朗らかな笑顔とは程遠い必死な表情に恐怖すらあった。

 

彼女の中では引け目に感じられたのだろう。だが、被害者のはずである灰田は構わず続けた

 

 

「話しちゃ駄目なんだから黙ってるしかないよ!それに慎也や皆木が月下に狙われるなんてS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)ですらわかんなかったでしょ?」

 

「そ、それは...不甲斐ないけどそうだよ。だからこんなに切羽詰まって君達にも戦ってもらうんだ」

 

「じゃあそれでいいじゃん!」

 

 

灰田は会話のペースを奪うと、立ち上がり一段と声を張り上げて言い放つ。秋天堂を窘めると言うよりかは、自らの意見を鮮明にするだけのそれだった

 

 

「俺は戦う!そして慎也も皆木も他のみんなも助けて、知樹をぶっ倒す!それでみんなで帰ってきたらまたいつのも日常に戻るよ!きっと!」

 

「...」

 

 

楽観視しているのではない

彼は本気でそう願い、本気で実現させるつもりなのだ

 

真っ直ぐな、非常に真っ直ぐで歪み無い願望と決意に対して、一時的な上司である秋天堂は反論する手立てを失った

 

彼には叶わない、と

 

 

「...そうだね、うん。それで間違いないよ、そうしよう」

「え、えぇ...」

 

 

同意以外は野暮だった

無論敗北するために月下まで行くのではなく、少なからず今作戦に参加する決闘者(デュエリスト)は皆勝利のために向かっている

 

そして安山では無く、灰田の言葉で作戦内容を語られるとまた変わる。難しい事は無い、ただ攫われた友人達を助けに行くそれだけだったのだ

 

 

「だから!秋天堂さん」

 

「うん?」

 

 

灰田の表情が突然曇る

秋天堂の罪悪感は祓ったものの、彼自身にはまだ伝え切れていないことがあるらしい

 

秋天堂だけでなく黒川も神妙な面持ちで言葉を待つと、灰田は突飛なことを言い出した

 

 

「最初はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)ってすげぇって思ってたけど、やっぱり危ない仕事だと思います!」

 

「...うん、それで?」

 

「聖帝出た後も...続けるんですよね?」

 

 

歯切れの悪い灰田の言葉だったが、秋天堂には何が言いたいか伝わったようだ。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)だが聖帝に通う大学生でもある秋天堂は、無論あと半年もすれば聖帝大学を卒業する

 

その後については何となく灰田も理解している。故に秋天堂から聞きたかったのだろう。

秋天堂は同じ室内にいるもう1人の男性に目を向けてから、控えめに語りだした

 

 

「表向きに少し就活してるけど、卒業後はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が秘密裏に管理してるとある企業に就くんだ。...うん、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)には在籍し続けるって事だよ」

 

「こういう、危ない仕事もありますよね?」

 

「戦争なんてのはもう無いと思う...いや、そう思いたいだけかもしれないね」

 

「...戦争じゃなくても危ないのはありますよね!?」

 

「.....あるだろうね」

 

 

逸らすような口調も、灰田には通用しない。秋天堂からハッキリ答えが来るまで恐らく灰田は続けるだろう。

 

諦めたように秋天堂は肯定すると、灰田の突飛な懇願に繋がった

 

 

「俺は...辞めて欲しいです!」 

 

「.....どうしてだい?僕自身S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)は誇りある仕事だと考えているよ。市民に隠し事ばっかりだけと必要な役割だと思っている」

 

「でも!」

 

 

等々灰田は身を乗り出して秋天堂に向かった。すぐ目の前にある彼の瞳に濁りはなく、真っ直ぐに貫かれるようにも感じられる

 

秋天堂が灰田から目を離せないでいると、建前や一般論を度外視した彼らしい願いが再び放たれた

 

 

「この戦いが終わって、無事に帰って来れたらもうS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)を辞めて平和な仕事しましょう!」

 

 

複雑な感情だった

秋天堂を案ずる言葉もそれが本心である事も伝わった。嬉しさが強く鮮やかなのだが、彼女はそれを認めていい立場では無い

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)として、それを受け入れる事も聞き流す事も許されないのだ

 

 

「...これから国の為に戦いに行くというのにS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に対して否定的なように見えるね」

 

「え!?」

 

「灰田君、君にそのつもりが無いのは分かっているよ。だから今回は聞かなかった事にしておくよ」

 

「い、いや!それじゃ困るよ!」

 

「僕はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)は国や国民を守る仕事、いわば国の盾だと考えているんだ。そして君や僕達はこれから日本に仇なす国を貫く矛となるんだ」

 

「う、あっはい...」

 

 

説教に近いニュアンスを感じた灰田は思わず怯んでしまった。そのささやかな隙を狙って秋天堂は正論と持論を混濁させた言葉の弾丸を滑り込ます

 

反論の余地は与えたくない様子だ

 

 

「君はなんの為に戦うつもりなんだい?僕を気遣ってくれるのは嬉しいけど私情でS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)を否定するのはいただけないよ」

 

「はい...でも!」

 

「でも、じゃない。もう僕は国を守る立場なんだ。分かってくれなくてもいいから口を慎んでくれないかい?」

 

「...」

 

「それに今辞めちゃったらこの時期から就活をやり直さないといけないしね」

 

 

秋天堂の冗談に誰も笑わないどころか反応すらしなかった。厳密にはもう1人の男性は控えめに口角だけ上げて笑いに近い何かを含んでいる

 

彼が反応したのは冗談そのものではなく、灰田を気遣うように放った慣れないそれにだ。秋天堂らしいと、悲しい表情で黙っている

 

そして灰田も同じく沈黙した

返したい言葉はまだ沢山あったのだが、それが相応しく無いと窘められたのは数秒前であり、彼自身己の立場を理解したつもりだったからだ

 

 

「じゃあ遅れたけど皆にこれを配るよ」

 

「...それは?」

 

 

切り替えた話題の先は任務

秋天堂が隣にあった物資の山から取り出したのはイヤホンや端末といったS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)支給の小物類だった

 

決闘(デュエル)ディスクの予備も見えたが、それは既に各々装着済みの故に新たに配る必要はないだろう

その後秋天堂から簡単な操作を教わると、2つの端末を仕舞うための黒いポーチを最後に手渡された

 

姿は私服だが、着々とS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間に染まる感覚が生まれ始めた。

後どれほどで月下に辿り着くのかは分からないが、確実に決戦は近づいている

 

 

「1番近いメインゲートを使ってるからあと4時間もすれば月下に到着する。だから心を引きしめ直しておいてね、得に灰田君は」

 

「は、はい...っ!」

 

 

釘を刺すことで秋天堂の仕事は一時的に終了する。あとは実際の戦いまで待つことのみだ。

 

息を潜め、爪を研ぎ、未来を希う

難しくは無いはずのそれらも、また今作戦の一部。緊張の糸は張り巡らされ、目的と自分自身を見失わないようにするので精一杯な黒川達だった

 

ぶっちゃけどうですか?

  • 読みたいからやめて欲しくない
  • 読みたいけど無くなったら読まない
  • 普通
  • 無くてもいい
  • 読むのが億劫

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