遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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区切りを良くするために今回長めです



第八十三話 王への重手

松橋のドローフェイズ中

 

カードは引き終え、次はスタンバイフェイズが待っている

 

このままフェイズ移行すればすぐに敗北だ。無力差は充分味わった、今あるカードでは何も出来ないとまで理解し終えた

 

そう敗北を受け入れたはずだが、それすらも怖かった

何をしても何もしなくても負ける事に、今まで以上の恐怖が生まれていた

 

 

(...どっちにしたって嫌だ...)

 

 

負けたく無い、だが勝てない

ジレンマにも思えたそれは、ただの恐怖心だった

 

 

(...ん?)

 

 

しかしそれとは裏腹に、引いたカードはまだ勝負を捨てるなと言っていた。これはいつ入れたカードだったか、思い出すことも叶わないほど懐かしい1枚だった

 

 

(...まだ諦めちゃダメなのか?)

 

 

ドローフェイズが時間制限により、強制的に終わるよりも少しだけ早く松橋はそのカードの発動を間に合わすことが出来た

 

ここで倒れることが出来たら楽だったかもしれない

それでも、己のデッキから手渡されたそれを使わずに諦める事も出来なかった

 

自分自身では無く、己のデッキを裏切る事は出来なかった

 

 

「...ドローフェイズ中に速攻魔法[エネミー・コントローラー]を発動![アシッド・ゴーレム]をリリースし、お前のそのモンスターのコントロールを得る!」

 

「チッ...いいカードを引いたじゃないか。だがチェーンして«цпкпошп»を発動。このターン俺の«цпкпошп»は効果を受けない」

 

「リリースはコストだ、問題ない...」

 

 

またも効果は通らなかったのだが、最も求めていた[アシッド・ゴーレム]の処理は叶った

 

これでこのターンも生き残れるが、依然ライフは100ポイントしか残っていない。

手札も今使ってしまったばかりだ

 

 

「くっ...俺は[トゥーン・ブラック・マジシャン]を守備表示に変更してターンエンドだ...」

 

 

松橋 手札:0枚 LP 100

 

モンスター/ [トゥーン・ブラック・マジシャン] DEF 2100

 

魔法・罠 / リバース1枚

 

フィールド/ [トゥーン・キングダム]

 

 

「ドロー。なんだ、急に弱気だな?バトル、«цпкпошп»で[トゥーン・ブラック・マジシャン]に攻撃」

 

「[キングダム]で破壊を防ぐ!」

 

 

また松橋のデッキトップからカードが除外された。

だが守備表示故に戦闘ダメージは無い

破壊耐性もデッキがある限り使い続けられる

 

非常に強固な壁と言える

それも残りのライフから貫通効果を持つモンスター一体で崩れてしまうのだが、とにかく今は生きている

 

 

「俺はターンエンドだ」

 

 

«цпкпошп» 手札:1枚 LP 5200

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

魔法・罠 / «цпкпошп»

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

「俺のターン!」

 

 

ここで松橋は自身の除外ゾーンに裏側で貯まるカードのこと思いだした。非公開情報だがプレイヤー本人は確認可能のそれを、なぜ今まで無視していたのだろうと恥じていた

 

ドローしたカードよりも先にそちらを確認すると、いくつかの重要なパーツが除外されていた

 

 

([トゥーンのもくじ]2枚に[トゥーン・キングダム]まで...[トゥーン・ディフェンス]はもう使えないからいらないか...”あいつ”はまだ除外されてない...)

 

 

必然的にメインデッキに残っているカードが分かってくる。まだ[もくじ]は後1枚ある。[激流葬]は3積みだから残り1枚ある。などなど

 

所有者が持つデッキの情報と照らし合わせると、松橋が切り札として採用していたとあるカードがまだ除外されていないことに気がついた

 

今こそそのモンスターが欲しい

恐る恐る今引いたカードを確認してみたが、案の定切り札では無かった

 

 

「...今は耐えるしかない。カードを1枚セットしてターンエンドだ...」

 

 

松橋 手札:0枚 LP 100

 

モンスター/ [トゥーン・ブラック・マジシャン] DEF 2100

 

魔法・罠 / リバース2枚

 

フィールド/ [トゥーン・キングダム]

 

 

「ドロー...残念ながらこのターンで終わりだ」

 

「...なんだと?俺のトゥーンモンスターは[トゥーン・キングダム]の効果で破壊を免れる!守備表示だから戦闘ダメージも無いぞ!」

 

「説明ご苦労さん。«цпкпошп»を発動、その厄介な[トゥーン・キングダム]にはご退場願おうか!」

 

「...なっ!」

 

 

フィールド魔法により作られていた布陣を過信し過ぎたようだ。そのカード自体が破壊されてしまえば無論この布陣も崩壊する。非常に強固な壁だったが、それは薄い物だったらしい

 

何もチェーンが無いことを確認すると、[トゥーン・キングダム]は墓地へと送られてしまった。新規のトゥーンは居場所を失ったぐらいでは滅しないが、それを守るものは何も無くなってしまった

 

 

「ほう、そのトゥーンは[トゥーン・ワールド]が無くとも残るのか」

 

「そ、そうだ!破壊耐性は無くてもまだ守ってくれる!」

 

「なら頭数を増やそう。«цпкпошп»を通常召喚」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

 

「あっ...い、今しかないだろ!俺は罠[トゥーンのかばん]を発動!その召喚したモンスターをデッキに戻す!」

 

「チッ...粘るか」

 

 

散々発動を渋っていたトゥーンのトラップカードにより相手の攻撃可能モンスターを減らす事に成功した

 

あの召喚したモンスターが攻撃力0でない限り松橋の敗北は確定しているため、ここで発動を悩む理由は無かった

 

 

「面倒な奴だ、バトル。«цпкпошп»で[トゥーン・ブラック・マジシャン]に攻撃だ」

 

「ぐっ!...」

 

 

戦闘ダメージは無いものの、今まで貢献してくれたトゥーンが破壊されると心にくるものがあった。

 

フィールド魔法を過信しすぎた己の不甲斐なさと、最後まで少ないライフを守ってくれた事への感謝が入り交じった感情だ

 

 

「...」

 

 

謝罪の気持ちは不思議と無かった

が、その貢献を無駄にする気も無かった

 

 

(...もう少し、もう少しだけ答えてくれ!)

 

 

共に戦い、この決闘(デュエル)の勝利で返そう

今の松橋は、恐怖心よりも、勝利に対する貪欲な欲が勝っていた

 

自分が

自分達が勝つのだと

もうこれ以上怖い思いはないのだろう

どちらにせよ残りライフは100

 

既に恐怖のピークは終を過ぎている

怖くない訳では無い、もう十分怯えただけなのだ

 

 

「俺はターンエンドだ」

 

「...俺はエンドフェイズに[トゥーン・マスク]を発動!お前のそのモンスターのレベル・ランク以下のレベルを持つトゥーンモンスターをデッキから特殊召喚する!」

 

「まだやる気か?」

 

 

ディスクに映されたトゥーンの候補から、レベル7以下という制約だと分かる。しかし松橋にはそんな余裕など無く、次のターンを生き残る為に必死になっていた

 

生きる為に何を成すべきか

普段なら守りか逃げを選んでいたかもしれない

 

 

「勿論だ...行け、[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]!」

 

 

[トゥーン・リボルバー・ドラゴン] ATK 2600

 

 

「そいつは...コイントスだったか、俺はターンエンドだ」

 

 

«цпкпошп» 手札:0枚 LP 5200

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

魔法・罠 / «цпкпошп»

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

「俺の...ターン!」

 

 

前のターンに[トゥーン・マスク]を発動した一番の理由はメインデッキのカードの数を減らし、この通常ドローで切り札を引く確率を高めるためだった

 

しかし、やはりと言うべきか引いたカードはそれでは無かった

 

[キングダム]のコストで除外されていないことは分かっている。なら引けるまで待つと決めてから、まださほど時間はたっていなかった

 

 

「[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]の効果を発動!コイントスを3回やって、2回以上表立った場合フィールドのカードを破壊できる!まずは、その永続罠を対象に発動する!」

 

「ギャンブルは嫌いではない、やってみるといい」

 

「言われなくても...いくぞ!」

 

 

コイントスの処理も、サイコロ同様に決闘(デュエル)ディスクに備わっている。ディスクがソリッドヴィジョンを投影する機能の中でも、細かな演出を設定する”オプションヴィジョン”と呼ばれるものだ

 

松橋が設定していたコイントスのオプションヴィジョンは、表裏が赤と青で彩られたコインが空高くから落ちてくる演出のものだった

 

かなりの高さから落ちたように錯覚させれるその映像を見届けると、数回跳ねたあと赤色が3枚並んだ

 

松橋が裏に設定していた色だ

 

 

「...ぜ、全部裏...まじかよ」

 

「...」

 

 

失敗の二文字

それ以外の何でもなかった

 

運においても彼は弱いようだ。敵も呆れて何も喋らないで見ている。いたたまれなくなった松橋はせめてもの思いで[リボルバー・ドラゴン]を守備表示に変更した

 

しかし、守備表示で耐えられるのは1回の攻撃のみ

フィールド魔法は既になくなっている

 

 

「ま、まだだ!俺はターンエンド」

 

 

松橋 手札:1枚 LP 100

 

モンスター/ [トゥーン・リボルバー・ドラゴン] DEF 2200

 

魔法・罠 / なし

 

 

「まったく、俺はいつまでこんな奴と...ドロー」

 

 

ターンも重なってきた

戦況は明らかに松橋の劣勢、ディスクに移されるカードの数も段々と減っている

 

ライフに至っては100から動いていない

それを仕留め切れない苛立ちからか、敵のプレイングも雑に見えてきた

 

 

「«цпкпошп»を通常召喚!」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「効果で...なんでもいい、«цпкпошп»をサーチしてバトルだ!«цпкпошп»で[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]に攻撃!」

 

「うわぁっ!」

 

「終わりだ...«цпкпошп»で「ま、まって!」

 

 

深くかぶったフードで顔は見えないが、眉間にシワが寄ったのは見えなくても分かった

 

まだ何かあるのか、執拗い奴だと

敵の態度はそれを大きく示している

 

だが、無論松橋にはある

 

無ければこのターンで終わってしまう故に発動は拒まない

 

 

「[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]が破壊された時、手札の[デスペラード・リボルバー・ドラゴン]の効果発動!特殊召喚する!」

 

「しつこい奴だ!」

 

 

[デスペラード・リボルバー・ドラゴン] DEF 2200

 

 

「さらに効果発動!お互いのバトルフェイズ中にコイントスを行う!表が出た数までフィールドのモンスターを破壊できる!」

 

「貴様には無理だとわかったはずだ!表などでない!」

 

「や、やってみないと分からないだろ!コイントスだ!」

 

 

再び赤と青のコインが3枚宙に舞った

高く、より高く飛翔すると色が混同し紫色の軌跡を残して地に落ちた

 

後は金属の跳ねる音を聞きながら着地を待つだけだ

 

バウンドの高さが低くなるにつれ、回転する速度も落ちていく。1つ、また1つと大地に落ち着いた

 

並んだのは綺麗に赤色3つだった

 

 

「っておいぃ!なんでなんだよぉ!?」

 

「こ、こいつ...もういい、バトルフェイズを終了する!」

 

 

通常召喚したモンスターは[デスペラード・リボルバー・ドラゴン]を倒す事の出来ないステータスであり、サーチしたカードも恐らく適当に選んだのだろう

でなければ松橋が生き残ってはいない

 

相手はこのターンも仕留めきれなかったと落胆とも憤慨とも取れる感情なのだろうか、そのまま早急にターンを終えた

 

そしてひたすらにコインの裏を引き続ける松橋の偉業を前に、恐怖すら感じていた

 

 

 

 コインを6回投げ、全てが裏の確率は約1%

   当たり前の事だが、表の場合も同じ確率だ

 

 

 

「俺はエンドだ...」

 

 

«цпкпошп» 手札:1枚 LP 5200

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

     / «цпкпошп» ATK ?

 

魔法・罠 / «цпкпошп»

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

「俺の...ターン!」

 

 

そんな確率の壁を実質乗り越えた松橋本人は、そんな事にも気が付かずがむしゃらにカードを引いていた

 

もう諦めない

表が出ないのなら出るまで投げる所存だ

 

 

「...っバトルフェイズ!入った瞬間[デスペラード・リボルバー・ドラゴン]の効果発動!コインを3枚投げる!」

 

「こいつ...」

 

 

実に9枚目のコイントス

あのエクシーズモンスターは破壊出来なくとも、狙いは追加効果の方にある

 

奇しくも本来の目的とは異なった処理を求める事が多い決闘(デュエル)

 

今回も破壊処理は二の次でコインを投げている

コインが跳ねる光景も随分見慣れた

ただ表が出ることを望む緊張感には未だ慣れていない

 

 

「...頼む!」

 

 

だが、コインが着地すると見慣れない色が並んだ

 

青だ

 

ついに待ち望んでいた表が3枚並んだ

 

 

「ぃよっしゃ!」

 

「チッ...さっさと破壊対象を選べ!」

 

「あぁ!勿論エクシーズじゃない破壊できる方を...ってあれ...?」

 

 

また問題が現れた

あのエクシーズモンスターは随分と長い間フィールドにいたのにも関わらず、2体目の«цпкпошп»によってまたどちらがどのモンスターか分からなくなってしまった

 

肝心な所で抜けている

折角導き出した効果を不発に追わされる事など出来るはずはない

 

...が、今回ばかりは関係ないようだ

破壊出来なくても選択は可能だ

選べるのなら全部選んでおけばいい

 

 

「破壊出来なくても...選ぶだけ選べばいいか?その2体のモンスターを破壊する!」

 

「この野郎...«цпкпошп»は破壊されない!」

 

 

[デスペラード・リボルバー・ドラゴン]は対象を取らない効果であり、破壊する数は3体。つまりどちらがエクシーズモンスターか分からなくともなんの問題も無いのだ

 

空打ちにもならない

そして何よりもコインが3枚とも表が出ている

松橋が狙っていた追加効果の恩恵も同時に処理される

 

 

「そしてコインが3枚とも表だった場合はドローできる!」

 

 

これで手札は2枚

まだまだ少ないが、着々とカードが集まっているようだ

 

だがバトルフェイズ中にしか効果を発動出来ないため、このターンは実質放棄することになってしまった。

 

結局の所次のターンを生き残れる保証は無い

危ない橋を渡っているのには変わりない

 

 

「メイン2、俺は[トゥーンのもくじ]を発動!デッキから[トゥーン・キングダム]を手札に加え、そのまま発動する...っ!」

 

 

再び戻ってきたトゥーンの拠り所だが、リスクもあった。それは発動コストにある

 

いま松橋が追い求めている切り札は、デッキに1枚しか入っていない。この終盤で除外されてしまえば、恐らくほかに勝ち筋はない

 

これもまた新たな問題と、恐怖心だった

だが発動は戸惑わない

凛々しくディスクに叩きつけた[トゥーン・キングダム]の処理で、デッキの上から3枚が除外された

 

 

「...よし、カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 

松橋 手札:0枚 LP 100

 

モンスター/ [デスペラード・リボルバー・ドラゴン] DEF 2200

 

魔法・罠 / リバース1枚

 

フィールド/ [トゥーン・キングダム]

 

 

「俺のターン...もううんざりだ、いつまでもその少ない命にすがるんじゃない!«цпкпошп»を通常召喚!」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「効果でフィールドの«цпкпошп»のレベルを1つ上げる!」

 

「またエクシーズか!?」

 

 

«цпкпошп» ☆ ?→?

 

«цпкпошп» ☆ ?→?

 

 

「俺は«цпкпошп»と«цпкпошп»でオーバレイ、«цпкпошп»をエクシーズ召喚!」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「«цпкпошп»の効果を発動、俺の«цпкпошп»はこのターン2回攻撃が可能!バトルだ!«цпкпошп»で[デスペラード・リボルバー・ドラゴン]に攻撃!」

 

「ぐぅっ!...墓地に送られた[デスペラード・リボルバー・ドラゴン]の効果発動!デッキからコイントスを行う効果を持つ、レベル7以下のモンスターを手札に加える。俺は[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]をサーチする!」

 

「何があるって言うんだ!«цпкпошп»でダイレクトアタック」

 

 

残り2回の攻撃が残っているが、松橋のライフは100ポイントだ。受け切れるはずのないその数値を前にして、松橋はまだ諦めていない表情を浮かべている

 

セットカードを発動させた

大方予想のつく蘇生効果だった

それも今は命を守る役割を担っているのだ

 

 

「[戦線復帰]を発動!墓地の[レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン]を特殊召喚する!」

 

 

[レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン] DEF 2000

 

 

「その為の[キングダム]か...小賢しい!«цпкпошп»で[レッドアイズ]に2回とも攻撃する!」

 

「ぐぅっ!耐えてくれ、[キングダム]の効果で破壊を防ぐ!」

 

 

また2枚除外された

お互い息が荒く、疲れが見え始めてきた頃、決闘(デュエル)も間もなく終盤に差し掛かっていた

 

未だ戦況は松橋の圧倒的劣勢

敵が投げやりにターンを返すと、松橋はドローよりも先に裏側で除外されたカードを確認していた

 

 

(......大丈夫!まだ残ってくれている...)

 

 

「俺のターン...ドロー!」

 

 

松橋のフィールドにある[キングダム]は、実は最後の1枚だった。これが破壊されればトゥーンを守る効果も、松橋を守る効果も無くなってしまう

 

故に時間は限られていた

縋る思いでカードを引くのはもう何回目だろうか

必死に引き抜いたそれは、やはりと言うべきか案の定と言うべきか、切り札では無かった...

 

 

「...まだ引けないか」

 

「ならさっさとターンを返せ」

 

「そうはいかない」

 

 

可能性はまだ残っている

今引いた唯一のカードがそう言っているように思えた松橋だった

 

 

「[貪欲な壺]を発動!墓地の[トゥーン・ヂェミナイ・エルフ]、[トゥーン・ブラック・マジシャン]、[トゥーン・マーメイド]、[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]、[デスペラード・リボルバー・ドラゴン]をデッキに戻して2枚ドローする!」

 

「チッ...さっさとしろ!」

 

 

デッキのカードが増えたため、松橋が求めるカードを引く確率はむしろ下がった

 

しかし、この戦場に参ったきっかけの、彼の切り札を拝む事に成功した

 

久しぶりにも感じられるそのモンスターを見ると、頼りがいがあると言うよりも待たせすぎだと一括したくなるような気持ちになってしまった

 

準備は整った

 

 

「[レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン]の効果を発動!手札の[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]を特殊召喚する!」

 

 

[トゥーン・リボルバー・ドラゴン] DEF 2200

 

 

「またコイントスをするつもりか?」

 

「なんか、3枚表が出る気がするんだよね!その永続罠を対象に発動!」

 

 

12個目のコイン達が舞う

心境の変化だろうか、そのコインを見ていて思った事は、色でも変えようかという突飛な感情だった

 

黄色と黒にしようか、いっそ白と黒でシンプルなのもいい。この決闘(デュエル)が終わったらオプションヴィジョンを弄ってみよう

 

 

(...そうだ、皆木さんの好きな色にしよう。表は皆木さんの、裏は俺の好きな色にして...いいね!)

 

 

若々しくも場違いな思考だろう

そんな事を考えているとコインが着地した

案の定なのか、全て青だった

 

 

「よし、破壊する!」

 

「こいつ...」

 

 

相手は毎ターンデッキトップを除外し続け

松橋は毎ターンコイントスをし続ける

 

そんな泥仕合を予測したのは相手だけだった

松橋はそんな事をするつもりは無い

唯一お互いの予想が合致したのは泥仕合という事だけだろうか

 

 

「そして俺は[レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン]と[トゥーン・リボルバー・ドラゴン]をリリース!」

 

「な、何?壁モンスターを!?」

 

 

述べるのだ

そのモンスターの召喚口上を

 

それに相応しい言の葉は必死に考えたものだ

忘れるはずもない、それは松橋が自身を弱くないと思う所以でもあるカード

 

時には聖帝の名を借りることもあった

時には自分ですらその二つ名を持っていることを忘れていた

 

今名乗らなければいつ名乗ろう

自信満々に松橋は叫んだ

 

 

「恨みを抱き眠りし魚神よ、狩りの刻となった!存分に力を示せ、我が海原に別れを告げこの大地を蝕め!アドバンス召喚!行け俺の切り札、[地縛神 chacu challhua(チャクチャルア)]!」

 

 

[地縛神 chacu challhua(チャクチャルア)] ATK 2900

 

 

「地縛神だと...貴様トゥーン使いではないのか!?」

 

「俺は聖帝地縛七人衆の1人だ!.....やっと引けたんだけどね...」

 

「何を訳の分からない事を...」

 

 

”聖帝地縛七人衆”

聖帝の生徒の中でのワードだ

 

今同じく聖帝の戦士として戦っている草薙と東野も蛭谷もそれに当たっている。

 

そして松橋はその中でも最もその名に誇りと自身を持っている決闘者(デュエリスト)だった

 

しかし構内大会でも、慎也との決闘(デュエル)でも出番は無かった。それ故に、この大事な時に召喚出来たのは本人よ非常に嬉しくとも満足している様子だった

 

だが、本人も泥仕合は否めないと感じている

まだ地縛神の仕事は無いからだ

 

 

「頼むぞ、[chacu challhua(チャクチャルア)]!俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

 

松橋 手札:0枚 LP 100

 

モンスター/ [地縛神chacu challhua(チャクチャルア)] ATK 2900

 

魔法・罠 / リバース1枚

 

フィールド/ [トゥーン・キングダム]

 

 

「くっ、ドロー!」

 

 

地縛神は相手モンスターの攻撃対象にされない永続効果を持つ

今松橋のフィールドにはその地縛神しか居らず、攻撃そのものが不可能な状態にある

 

加えてダイレクトアタックが可能な効果もあり、優劣は分からなくなってきた

 

強力なモンスターだが、松橋にとってはそれだけではない。

思い入れのあるカード

勇気を与えてくれたカードなのだ

 

 

「...チッ!ターンエンドだ!」

 

 

«цпкпошп» 手札:2枚 LP 5200

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

     / «цпкпошп» ATK ?

 

魔法・罠 / なし

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

「俺のターン!」

 

 

いよいよ切り札の出番だ

前のターンではバトルフェイズを放棄してしまったため、地縛神に攻撃の命令を与えられなかった

 

だが今は違う

トゥーンと同じく、相手モンスターを無視してプレイヤーのライフを削ることが出来るのだ

 

おまけに攻撃対象にされない永続効果が、攻撃表示で残す事も可能にしている

残りライフ100の世界では優秀の一言だろう

 

 

「バトルだ![chacu challhua(チャクチャルア)]でダイレクトアタック!”ダークダイブ・ブレイク”!」

 

「ぐぅっ!」

 

 

«цпкпошп» LP 5200→2300

 

 

何ターン目だろうか、再び相手のライフを大きく削ることに成功した。もう一度ダイレクトアタックが叶えばこの長かった決闘(デュエル)も終わるだろう

 

期待に胸を膨らませながら松橋がとった行動は、博打だった。使うか悩まされたカードだったが、過去の自分が入れたのだから信じてみようと思ったのだ

 

 

「俺は[強欲な壺(カップ・オブ・エース)]を発動!」

 

「くっ...また訳の分からんギャンブルを!」

 

「コイントスをして、表が出てら俺は2枚ドローする。裏ならあんたが引きな、行くぞ!」

 

 

何個目かのコインがまた宙を舞って落ちた

不思議と、両者姿を見せる色がわかっていたきがしたようだ

 

青だ

当然の如く松橋はノーコストで2枚ドローを勝ち取ったのだ

 

 

「こ、こいつ...」

 

「ぃよっし!俺は2枚ドロー!そのままカードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 

松橋 手札:0枚 LP 100

 

モンスター/ [地縛神chacu challhua(チャクチャルア)] ATK 2900

 

魔法・罠 / リバース3枚

 

フィールド/ [トゥーン・キングダム]

 

 

「いつの間にか俺が追い込まれていたとはな...ドロー」

 

 

敵もまた松橋を認め始めていた

粘り強さと異端な強運

 

それは評価まで行かなくとも、見過ごせるものではなくなっていた。現に今度は松橋がチェックをかける番に変わっている

 

だがこの決闘(デュエル)は非常に流れの向きが変わるらしい。まだまだ両者確実な王手には繋げられそうにない

 

 

「俺はフィールド魔法を張り替える。そして«цпкпошп»の効果を発動!墓地の«цпкпошп»を除外し、墓地から«цпкпошп»を特殊召喚する!」

 

 

«цпкпошп» DEF ?

 

 

「俺は«цпкпошп»と«цпкпошп»でオーバレイ、«цпкпошп»をエクシーズ召喚!」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「«цпкпошп»の効果を発動!貴様の地縛神と«цпкпошп»を破壊する!」

 

「くっ!」

 

 

効果は破壊

たったそれだけのものだが、松橋を守る有力な壁は崩壊した。またフィールドにはモンスターが存在しなくなる

 

そしてバトルフェイズに突入した

だが、既視感からか敵はこのターンで確実にトドメを指すことができるとは思っていないようだ

 

まだリバースカードがあるからだ

 

 

「どうせ貴様の事だ、何かあるのだろう。俺は«цпкпошп»でダイレクトアタックだ!」

 

「あぁ、まだ負けられない!罠[戦線復帰]!墓地の[chacu challhua(チャクチャルア)]を特殊召喚する!まだ頼むぞ!」

 

 

[地縛神 chacu challhua(チャクチャルア)] DEF 2400

 

 

「...いいぞ」

 

「え?」

 

 

攻撃対象にされないモンスターを蘇生させ、攻撃を躱す。ただ単純なその行動なのだが、敵は今まで見せてこなかった反応を見せた

 

賞賛

今まで苛立ちによる横暴な態度と言動を否定するかのように、松橋を見据え、自らの個性を隠していたフードを上げた

 

 

「...どうしたのその傷は?」

 

「この傷については語れない。誰しも話したく無いことだってあるものだ」

 

「じゃあ....なんで見せたの?」

 

 

年は松橋よりもずっと上なのだろうが、老いてはいない。30代に差し掛かっているのだろうか、お兄さんという印象では無かった

 

顔立ちは悪くない。ただ左頬に深く残っている傷跡が非常に痛々しい

 

よく見ると首元にも青いあざがある。語りたくないそれなら、フードを被ったままで良かったのではないか、松橋が疑問を隠さないでいると、その傷跡をなぞりながら敵は語った

 

 

「俺は今回で日本に3回目の侵入だ。今まで一方的に蹂躙するだけだった...」

 

「...え、国外から来たのか?」

 

「まぁな、上からの命令でな」

 

 

やはりフードが暑かったのか、解放した後はしきりに手で扇ぐ、フードを揺さぶりなどでして温度を調整している

汗はかいていないようだが

 

 

「«цпкпошп»を手に入れたのは本当に最近だ。それでも俺は勝てる自信があった、今まで苦戦した事など無かったぐらいだからな」

 

「...?」

 

「つまらなかったんだよ。訳の分からない命令に従い、意味の無い戦いを強いられ、何も得ることの無い勝利がな」

 

 

何がいいたいのか松橋には全く分からなかった

キョトンとしていると、その傷だらけの男は顎をしゃくって見せた。

 

その方向に目を向けると、驚くべきものが見えた

聖帝の戦士達全員が松橋達を見ていた

 

皆疲れこそあるようだが、誰一人としてフードの男立ちを相手にしていない

 

勝ったのか?

倒したのか?

 

あれだけいた未知の敵達は、全員同じ様に地に伏していた。残るは松橋が相手取るこの男だけ

 

 

「...み、皆?」

 

「松橋!あとはお前だけだ!」

「えぇ、やっちゃいなさい」

 

 

黒川と灰田から激励を受けると、自らの思考が肯定されたと理解した。そうか、この地の闘いももう間もなく終焉を迎えるというわけか

 

 

「俺達の敗北だ。俺が貴様にトドメを刺したところでもう逃亡も制圧も不可能だろうな」

 

「...諦めたから話したのか?」

 

「違う」

 

 

敗北を認めたようにも取れる言動だったが、傷だらけの男は否定した。

 

 

「お互い少ないライフにあと一撃与えた方が勝てる。それなのに単調にターンを重ね、不格好な泥仕合になった」

 

「それは...確かに」

 

 

格好がつかないのは自覚があった

切り札を召喚出来たし、残りライフ100を必死に守り続けてきた

 

そもそもライフを100にするなどという効果を受けたのは初めてだ。コイントスで全て裏も今までになかった

 

そういった意味ではそこそこ面白い決闘(デュエル)じゃないかと否定しようと思った瞬間、松橋は察した

 

そうか、楽しかったんだと

 

 

「...なるほどね」

 

「あぁ、自分でも不思議だ。決闘(デュエル)が楽しいと感じたのは何年ぶりだろうな」

 

 

無責任な感情だろう

お互い敵という関係であり、楽しんでいる場合ではない

 

それでもこのお粗末な闘いを楽しんでしまったのは何故だろうか。それを追求するのはまた無粋なのだろう

 

 

「貴様、名前は?」

 

「俺は松橋遼、あんたは?」

 

「俺か?俺はR∵Vs=U-ONe(リバ-スアオン)と呼ばれているが」

 

「な、長いな...」

 

「貴様らが短すぎるんだ。まぁ、いい行くぞマツダ!メイン2に俺は«цпкпошп»を発動する!」

 

「松橋だってば!...ってこれは」

 

 

少しだけ分かり合えた気がした

ただお互いの名を知っただけであり、敵同士である事は変わりないのだが、そう思わずにはいられなかった

 

思っていたよりも話が通じる男だったからだろうか

敗北を感じた事からの潔さだろうか

 

恐らくそんな簡単な話ではないのだろう

現に敵は松橋にトドメを指すことを諦めていない

 

メインフェイズに発動されたカードは松橋の強運を試すかのようなものだった。あくまで勝負を捨てずに、全力をぶつけるつもりらしい

 

 

「これは...さっきと同じ、[強制転移]!?」

 

「あぁ、俺はこいつをやろう。チェーンが無いなら貴様の地縛神は頂く」

 

「くっ...俺は...」

 

 

メイン2に発動したのには、松橋が何らかの蘇生カードを持っていると睨んだからだろう。発動させてから確実に地縛神を奪うつもりだったのだ

 

松橋にその発動を無効にするカードは無く、コントロールを譲るモンスターも唯一の神しかいない

 

しかしまだセットカードは残っている

それは発動タイミングも相応しく、この状況なら迷わず発動するプレイヤーも少なくないであろうカードだった

 

 

「ま、松橋!何かあるなら使えよ!」

 

「灰田...いや、これは.....」

 

 

コントロールの交換よりも、高い危険性を孕んでいた

避けられるのなら無理にでも逃げるべきだと外野の灰田も声を荒らげている

 

しかし松橋には発動出来なかった

いまこの瞬間は凌げるカードだが、その先は分からない

非常に危険な博打をする事を今更恐怖した松橋は、黙ってコントロールチェンジを受け入れた

 

 

 

[シャーク・フォートレス] ATK 2400

 

 

«цпкпошп»に2回攻撃の効果を付与していたであろうモンスターが松橋のフィールドにやってきた

 

新たなモンスターが見えた事は有益な情報なのだが、それよりも奪われたモンスターの方に気を取られてしまう

 

自らが使うモンスターの効果を知らないはずがないのだ

 

 

「[Chacu challhua(チャクチャルア)]は守備表示の時、スタンバイフェイズに守備力の半分のダメージを与える効果がある...だったな?これでまた貴様はスタンバイフェイズに死ぬことになるが、どうやって回避しみせる?」

 

「くっ...まさか自分のモンスターに...」

 

「さぁ、なにか引いてみろ。カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

 

 

«цпкпошп» 手札:0枚 LP 2300

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

     / «цпкпошп» DEF ?

 

魔法・罠 / リバース1枚

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

2度目の王手

松橋がこのままスタンバイフェイズに突入すればまた、バーンで命を失ってしまう

 

手札は依然として無い

そう、またドローフェイズのドローに全てをかける事になっているのだ

 

だが敵は「引いてみろ」と言い放った

それはまるで松橋なら何が引けるであろうという信頼の様なものが感じられる言動だ

 

 

(...なら引くしかないよな)

 

 

恐怖心を拭いきれた

そんな気がしたのはもはや何ターン目か数えるのも忘れた頃だった

 

ここで何か引けなければこのセットカードを温存した意味も無くなってしまう

 

 

「...ドロー!」

 

 

希望を抱き、引いたカードはトゥーンでも地縛神のサポートカードでも、ましてやバーンダメージをケアするカードでも無いものだった

 

相手の効果に対して発動するカードだった。決して効果を無効にはしてくれないそれに、敗北の二文字が過ぎかけた

 

が、まだドローはできた

 

 

「ま、まだだ!罠[強欲な瓶]!ドローフェイズに発動してもう1枚ドローする!」

 

「...」

 

「ど、ドロー...っ!」

 

 

セットしたまま忘れる所だったそれに、大きく依存する事になった。2回目のチャンスだ。これが本当に最後のドローであり、何も無ければ死のスタンバイフェイズに行かなければならない

 

縋る気持ちで引いた2枚目のカードは、強力な魔法カードだった。スタンバイフェイズには発動出来ない、スペルスピード1のカードだ

 

 

「...スタンバイフェイズに入る」

 

「引けなかったようだな...残念だ、俺は«цпкпошп»の効果を発動。貴様に1200ポイントのダメージを与える!」

 

 

元は自分のモンスターだ、効果の説明はいらない

それに対し松橋は一矢報いようと初めに引いたカードを無意識に墓地に送っていた

 

非常に悔しかったのだ

ここまで敗北が悔しく感じるのはいつ以来だろう頭を悩ませるほどに

 

だが後悔は無かった

恐怖心も無論

 

 

「俺はチェーンして[幽鬼うさぎ]の効果を発動...俺の[Chacu challhua(チャクチャルア)]はせめて俺の墓地に送るよ...」

 

「...」

 

 

[幽鬼うさぎ]の効果は既に発動している魔法・罠及びモンスター効果にチェーンする形で発動可能

 

効果はシンプルに破壊するのみ

発動し続ける永続魔法・罠には強力な効果だが、肝心のモンスター効果は基本的に許す形になる

 

今回は[Chacu challhua(チャクチャルア)]の効果にチェーンし、破壊するのみ

決してバーン効果を無効にしないその効果に、松橋は心の底から落胆するだけだった

 

チェーンの逆順処理を終えると、墓地に行った[Chacu challhua(チャクチャルア)]の効果がチェーン1で処理された

 

1200ポイントのダメージは、残りライフ100に酷く響いた

 

 

LP 100→100

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

「...ん?えっ!あれ!?」

 

「.....流石だ」

 

 

決闘(デュエル)はまだ終わってはいなかった

完全に敗北を覚悟した松橋が気づかぬあいだに閉じていた瞳を解放すると、いまだ松橋のスタンバイフェイズで決闘(デュエル)は硬直していた

 

松橋がフェイズ移行していないからまだスタンバイフェイズと言うだけの話だが、本人は何故まだ生きているのか分かりきっていなかった

 

途方にくれた表情で敵を見据えると、答え合わせのように語り出した

 

 

「効果解決時には墓地にいる。フィールドに居ないから攻撃力を参照できず、0として扱う...故にダメージも0、か...流石の引きだな」

 

「えっ...あ、うん...」

 

 

偶然発動させた効果により、松橋は敗北から脱却できていた。相手から賞賛の言葉まで貰えるおまけつきだが、当の本人はかなり遅れて理解した様子だ

 

格好のつかない決闘者(デュエリスト)

しかし、彼は2度目の窮地から逃れたのだ

 

それに変わることはなく、ただ結果としてトップデッキ勝負に勝ったのだ

それに変わりはない

 

 

「は、はは...ど、どうだ!俺の引きは!?」

 

「...流石だと言ったはずだが」

 

 

苦し紛れに勝ち誇った表情で力強く示すが、その行動は他の全員が呆れる結果に終わった

 

決闘(デュエル)を観戦する黒川らもなんだ、たまたまかと言わんばかりの態度だが、結局松橋が生き残ったことには変わりない

 

 

「...め、メインフェイズ!」

 

 

だが手札は命の綱として捨ててしまった

残るは相手から受け取った[シャーク・フォートレス]と2枚のセットカードのみ

 

類まれない強運でここまで生き残ってきたが、いい加減窮地を脱出したいものだ

残りデッキも少ない

ならば抜け出す手段はこのターン中の勝利だろうか

 

 

「バーンを避けてもまだピンチ...まるで将棋だな...」

 

「何のことだ?」

 

 

遊戯王も同じように前の手順に遡ることは出来ない

今この状況から未来を見据える必要があるのだ

 

王と名のプレイヤー自身を守るためにカードと名の駒を操り戦術を紡ぐ。今の状況に相応しい例えなのかもしれない

 

だが、今回に限ってはそこまで難しい話ではない

スタンバイフェイズを乗り越えた松橋は、最後の手札を発動するだけでいいのだ

 

最も難しい確率の壁は既に突破済みなのだから

 

 

「[死者蘇生]を発動!墓地の[Chacu challhua(チャクチャルア)]を特殊召喚する!」

 

「...最後にダイレクトアタック効果を持つ地縛神か」

 

 

[地縛神 Chacu challhua(チャクチャルア)] ATK 2900

 

 

攻撃宣言を行えば、相手のライフポイントを削り切ることが出来る。長く感じられたこの決闘(デュエル)ももう間もなく終わりを迎えるわけだ

 

長かった

そして苦しかった

 

トドメを担うのは松橋の切り札だ

地縛七人衆の名に恥じぬよう、堂々と終わらせることにしよう

 

 

「バトルフェイズだ![Chacu challhua(チャクチャルア)]でダイレクトアタック!”ダークダイブ・ブレイク”!」

 

 

結局相手のエクシーズモンスターの攻撃力は分からないままだが、ダイレクトアタックはモンスターの存在を無視するものだ

 

このままプレイヤーそのものを倒してしまえばいいのだ

 

 

「攻撃宣言時に俺は«цпкпошп»を発動する!相手フィールドの攻撃表示モンスター全てを破壊する!」

 

「......ってそれは!?」

 

 

ソリッドヴィジョンが何も演出しなかったが、松橋のディスクにはしっかりとモンスターが全て破壊される旨が示されている

 

このままでは攻撃はおろか、またモンスターが存在しないがら空きのフィールドと化してしまうのだ

 

 

「だ、だけど!俺も罠発動、[地縛旋風]!俺のフィールドに地縛神がいる時、相手が発動した魔法・罠を無効にして破壊する!」

 

「やはり、そのセットカードは意味のあるものだったか.....」

 

 

地縛神専用のカウンター罠が刺さった瞬間だった。一度はプレイヤー目掛けて重く飛翔した[Chacu challhua(チャクチャルア)]だったが、相手が発動したなんらかの«цпкпошп»へ軌道を変えた

 

そのままその正体不明のカードを貫くと、その勢いを殺さずそのまま相手プレイヤーへと飛び跳ねた

 

その巨体からは想像出来ないほど身軽な動きに、思わず松橋は見とれていた

これで本当に勝利だ

 

やっと、勝てたのだ

 

 

「...見事だ」

 

 

 LP 2300→0

  «цпкпошп» LOSE

 

 

 

最後の最期で敵は松橋に賞賛の言葉を送った

敵同士でなければ、こんな異端な戦場でなければ感想戦でもしたかったものだ

 

少しだけ名残惜しくも思えるその決闘(デュエル)は、勇気を振り絞った松橋の勝利で終えたのだ

 

 

 

 






〜聖帝地縛七人衆まとめ〜

聖帝大学の生徒の中でも、デッキに地縛神を採用している7名の生徒達を表す総称
特別地縛神が高価なわけでも、過小評価も過大評価もされていないのだが、何故か通じているもの

・[Aslla Pisc(アスラ ピスク)]

英文科3年生古賀拓郎の[スワローズ・ネスト]デッキに採用されている。BFデッキとも言えるそれに、鳥獣族として活躍していた。フィールド魔法は[神縛りの塚]を使用し、破壊耐性を与えフィールドに維持していた

「いきなりデッキからこんなの出てきたら面白いかな〜って思ってさ!」

[シムルグ]よりも登場する事には触れていなかった


・[Ccapac Apu(コカパク アプ)]

経済学科4年生の城ヶ崎亜の芝刈り悪魔デッキに採用されている。フィールド魔法は[混沌空間]を利用しており、除外ゾーンや墓地から特殊召喚される所が見られた

「地縛神を入れている理由?格好良いからですよ!」

表城ヶ崎はそう述べていた


・[ccaryhua(コカライア)]

法律学科3年生蛭谷颯人の爬虫類混合デッキに採用されている。[ヴァイパー・リボーン]を他の爬虫類共に地縛神のサポートカードとして使用していた。フィールド魔法はヴェノムテーマもある事から[ヴェノム・スワンプ]を採用していた

「でけぇ爬虫類だからな」

あまり名前に拘らずに採用しているような口ぶりだった


・[Chacu Challhua(チャクチャ ルア)]

英文科3年生松橋遼のトゥーンデッキに採用されていた。フィールド魔法はトゥーンの[トゥーン・キングダム]があり、トゥーンと同じようにダイレクトアタック可能な事から、アクセントの様に使われているようだ

「...好きなんだよ!トゥーンだけでいいとか言うなよ!」

唯一1つの愛用カードとして見ていた決闘者(デュエリスト)だった


・[cusillu(クシル)]

文学部3年生東野圭介のおジャマデッキに採用されている。フィールド魔法は[おジャマ・カントリー]があるが、おジャマと並ぶことはあまり無く、[古狸三太夫]とよく並んでいるようだ。[エアーロック・サンライズ]によって蘇生させていた

「蘇生制限の無い大型で獣ってだけで入れる価値があると思ったんだけど...」

何故か彼は後ろめたそうに話していた


・[Uru(ウル)]

工学部1年生色嶋雄太のスピリットデッキに採用されていた。フィールド魔法は[死皇帝の陵墓]を採用しており、他のスピリットとの兼ね合いが感じられた

「アドのためです」

そう短く話していた


・[wiraqocha Rasca(ウィラコチャ ラスカ)]

英文科3年生草薙花音の宝玉獣デッキに採用されている。フィールド魔法は[レインボー・ルイン]があり、彼女も正式なアドバンス召喚を行っていた。魔法・罠ゾーンに溜まった宝玉獣をコストに、ハンデスとパワーアップ効果を狙う理にかなった戦法だった

「高い攻撃力こそ美しいのですわ」

他にも多くの大型モンスターを採用している彼女は、[マアト]を隠しながら我々にそう告げたのだ

ぶっちゃけどうですか?

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  • 読みたいけど無くなったら読まない
  • 普通
  • 無くてもいい
  • 読むのが億劫

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