遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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第七十三話 連鎖亀裂

◑聖帝大学 / 午後13時13分

 

 

「さ、早乙女クン!?」

 

「ぐぅ...へ、平気だ!俺は問題無い!」

 

 

鈍い音に驚いた斎藤は、己の的に背を向けてまで背後早乙女に向いた

その早乙女の背中は先程と比べると小さく見える。膝をついて荒く息をするその姿は、疲労によるもの以外に何にも見えなかった

 

 

「平気って言ったって...そうは見えないよ!」

 

「心配いらん!まだ敵はおる!そいつらを倒し終えるまで俺は倒れん!!」

 

 

力一杯の虚勢だった

早乙女の向う見ずのプレイングでは、受けるダメージも相当多い。口では威勢よく言えるが、本人も蓄積しているダメージには逆らえてはいない

 

本当はすぐにでも休みたいが、敵は減るどころか増える一方だ。今戦える聖帝の戦士はたったの3人。休んでいる場合では無いと早乙女は自らの膝を力強く叩いた

 

 

「どうした!さっさと次こんかい!!」

 

「こいつ...いいだろう。おい!増援を呼べ!いつまでも遊んでいる場合じゃ無い!」

 

 

その一言で3人の戦士立ちに各々戦慄が走った

 

斎藤は絶望に近い、まだ増援が呼べるほどの規模なのかと

早乙女は驚きこそあったが、笑っていた。まだ自分の限界は超えられると

 

そして秋天堂は...

 

 

「...」

 

「し、知らんと言っているだろう!本当なんだ!」

 

「まだ言うんだね。最後だ、君達の目的は?」

 

 

随分と態度を改めたその黒服の男は、秋天堂から一方的に詰問されていた。そして秋天堂はその男に対し、最後と言う言葉を使った

 

もうこれ以上それに費やす時間は無いと悟ったのだろう

 

 

「くっ...」

 

「[鎌壱太刀]でダイレクトアタック」

 

 

男が躊躇っていると、秋天堂は無慈悲にモンスターへの攻撃命令を行った。

 

ディスクがライフの消耗を音で主張すると、同時に敵も鈍い悲鳴を上げた。このダメージと痛みについてはその男自身よく分かっているようだ。その男にはもう答える以外に選択肢は無かった

 

生唾を飲み込むと、怯えた様子で恐らく上から命じられた作戦の概要を短く告げた

 

 

「ぐおっ!...い、言う!あ、新たな実験材料と国の”希望”...い、生贄の事だ、それの捕獲だ!」

 

「...もうひとつ聞くよ。君達の部隊の名前は?」

 

「名前...?そんなものを聞いて何になる?」

 

「[鎌参太刀]でダイレクトアタックだ」

 

「ぐぉおっ!?」

 

 

再びディスクが不快な音を鳴らした

厳密にはそれは秋天堂が鳴らしたのだ

 

秋天堂がダメージを与えたから敵のライフは減少する。たったそれだけの当たり前の事なのだが、今は状況が異なる

 

質問に何の意味があるのか分からないものの、敵は正直に答えた

 

 

「ぐぅっ...!俺達は.....” £?/∬#¤ (鏣膨迣芊)”だ...俺は” £?/∬#¤ (鏣膨迣芊)”の中級だ!頼む...止めてくれ!」

 

「...」

 

 

秋天堂には意味のある質問と答えだったようだ

冷や汗1つ流すと、もう十分だとディスクを操作した

 

残り攻撃可能な妖仙獣への攻撃命令だった

 

 

「そうかい。詳しくは後で聞こうか、[大刃禍是]でダイレクトアタック!」

 

「や、やめろぉぉ!」

 

 

その男の断末魔で決闘(デュエル)は終了した

次の相手が秋天堂の前に現れるよりも先に、秋天堂は下がった

 

先の詰問で有意義な情報を得ることが出来た

今まで以上にここで敗北は許されなくなり、より強く貪欲な決闘(デュエル)が求められる

 

深呼吸1つすると、研ぎ澄まされた聴覚に不快な音が聞こえてきた。今目の前にいる男が鳴らすアクセサリーの音と同じような音が遠方から聞こえてきた

 

彼らの言う増援か

倒れている決闘者(デュエリスト)よりも多くの足音が聞こえている。それに対しS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)はまだか、このままでは立ち続けられるのにも限界が近く、早乙女に至ってはもはやそれを迎えている

 

 

「...くっ」

 

「来たか...おい!こっちだ!...おい、早くしろ!」

 

 

気配に気がついたのか、敵も増援の到着を予想した。しかし、大声で場所を伝えようと、一向にそれらは姿を見せようとしなかった

 

先程から声を荒らげている男の苛立ちを感じ取った時、ようやく数人の黒服がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

 

しかし、明らかに人数が少なかった

そのうちの1人が黒服の集団に加わると、ディスクを構えながらこう告げた

 

 

「すまない。別の対象を発見した。現在他の中級が相手をしている。我々もこちらが済み次第そちらに向かう」

 

「なに?S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)って奴らか?」

 

「いや、全員ガキだった。恐らくここの生徒だろう」

 

 

危険だ

秋天堂と斎藤は逃げ損ねた生徒達だと推測をたてていた。助けに、せめてこの«цпкпошп»と痛みについては知らせておきたい。そう願うが、周りを囲う敵が許さない

 

守るべきものが増えた今、持久戦に持ち込む事も難しくなった。自分だけが助かるわけにはいかない。一刻も早くその生徒達を救いに行かなければならない

 

 

「...早乙女クン!秋天堂クン!」

 

「分かっておる!一気に行くぞぉ!!」

 

「...そうだね、もう時間が無い」

 

 

新たな脅威によって、聖帝の戦士達は覚悟を改めた。

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が来るまでの耐久はもう望めない。今は、目の前の敵と、助けを待つ後輩達の救出が最優先だ

 

捨て身にもなる

 

早乙女は残ったタンクトップまで引き裂くと上裸で吠える。

 

斎藤はメインデッキにあった妨害カードやサポートカードを抜くと、サイドにあった花札衛(カ-ディアン)と交換した。一切の無駄を省いた純粋な花札衛(カ-ディアン)となり、守りを手薄にする代わりにより高速かつ安定した展開を可能にした

 

そして秋天堂も同じくいくつかのカードを入れ替えると、ディスクの下部にある小さたボタンを入れた。敵が使用するのと同じ、決闘(デュエル)の強制開始を施す光の糸を放った

 

 

「もう...出し惜しみはなしだ」

 

「秋天堂クン...?」

 

「詳しくは後にして!」

 

 

その光に気がついたのか、斎藤は目を奪われていた

なぜ君がそれを?

だが質問よりも先に秋天堂にいなされてしまった。

 

疑問で頭がいっぱいだったが、それすらも凌駕する音が遠くで響いた。それは決闘(デュエル)終了のブザーだった

 

 

「なっ...!?」

 

「ククク...どうやらもう片付いたようだな」

 

 

終わりは想像以上に早かった

斎藤らへの増援となるか、秋天堂らの諸語の対象になるかの存在は、既に決闘(デュエル)を終わらせてしまった

 

どちらが勝ったのか

すぐにでも知りたいと願っていると、また足音が聞こえてきた

 

曲がり角の先からその持ち主が姿をみせる。

どちらだ、我ら聖帝の戦士は勝利できたのか

 

 

「き、君...達は...」

 

 

約束の時間は既に1時間以上過ぎていた

 

 

 

 

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◐月下-??? / 午後13時34分

 

 

「...さて、着いたのかなっ?」

 

「はい、到着致しました」

 

 

狭く薄暗い車内でカムイが呟くと、それを黒服の部下が肯定した。上座にいたカムイを置いて黒服の男達が一斉にトラックから飛び出すと、最後にカムイが大地に降りた

 

何の災害も無い、静かな森がある

そして探さずとも無機質な黒い金属の蓋が解放されている。例のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の補給地点へと辿り着いたのだ

 

 

「...破壊は出来てないね」

 

「はい。一応確認して参ります」

 

「うんっ!」

 

 

数人の部下がハシゴを利用してゆっくりと降りていくのを見届けると、カムイはある事に気が付いた。

 

それは自身が乗ってきたトラックの陰に隠れたもう1つのトラック。扉は開けっ放しで、床には通信用の受話器が落ちていた

 

 

「...やっぱり村上慎也が通信に出てたんだね」

 

「そうみたいだな」

 

 

誰もいないと思っていたその車内から声がした

驚いてそちらにディスクを向け、声の持ち主を確認すると、カムイはすぐにディスクを下ろした

 

眠そうな男が硬い椅子に腰を下ろし、タバコの灰を車内に撒き散らしている。

 

カムイもよく知るシッドがいた

よく見ると傍らには3人の黒服の男達が横たわっている。無傷な補給地点の事を加味すると、やはり破壊は失敗したようだ。それも何者かによる敗北によって

 

 

「...なんだ、シッド君か。驚かさないでよっ!」

 

「こないだの借りを返したことにしてくれ」

 

「借り?なんのことっ?」

 

 

シッドは気だるそうに立ち上がると、利き手とは反対に持っていた携帯灰皿に煙草を無理矢理差し込んだ

しかし、既にそれの許容は限界を超えており、今にも中身が飛び出してしまいそうだ

 

シッドはカムイの横を通り外へ出ると、携帯灰皿をそのまま地面へと投げ捨てた。そして薄ら笑いを浮かべるとカムイに向いて言い放った

 

 

「俺がボスに報告してるの、盗み聞きしてたんだろ?カムイの兄ちゃん、趣味悪いぜ?」

 

「...こんなに堂々と痕跡残しちゃダメだよ」

 

「その心配はいらねぇぜ」

 

 

シッドは灰皿ごと踏み潰すと、森の方を顎でしゃくった。その森の中には小さな集落がある。それは彼らだけでなく、慎也達もが知ることだ

 

それで全てを知るカムイはすぐに合点がいった

しかし何かを言う前にシッドが続けて語り出した

 

 

「カムイの兄ちゃん、盗み聞きまでして何が知りたかったんだ?」

 

「絶対村上慎也は来てると思ったからさっ!シッド君に先を越されたのかと思ってねっ!」

 

「そうかい、お望み通り来てるみたいだな」

 

 

シッドはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の補給地点を眺めながら相槌を打った。恐らくそれも既に調べたのだろう

 

初めは慎也の存在について否定的だったシッドも、実際に残っている補給地点と倒れる部下を見て納得せざるを得なかった。

 

シッドが何か考え混む様子で新しい煙草に火をつけると、今度はカムイの方から質問を投げかけた

 

 

「今日はここだったんだねっ?」

 

 

シッドとオキナは知樹から失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の拠点を広げるといった仕事を任されていた

 

故に今日はここというワードだけでカムイの言わんとしている言はシッドに伝わっていた。シッドは大きく煙を吐くと、満足そうに頷いた

 

 

 

「あぁ、制圧は完了した。これであの集落も失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の手の内って事だな」

 

 

 

 

 

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◑秀皇大学 / 午後13時13分

 

 

「灰田様、到着しました」

 

「分かりました」

 

 

黒塗りの重々しい雰囲気の車から、1人の若者が飛び出した。彼は灰田輝元、別件の仕事で外にいたのだが、急遽本部の安山から命令を受け、秀皇大学まで赴いていた

 

彼に命じられたのは謎の集団の殲滅

少し前にも似たような事があった気もするが、その時は実際に戦闘には参加していなかった

 

輝元は本部から支給された端末を起動させると、スーツの衣擦れの音と共に疾走しだした

 

 

「安山さん。灰田輝元、現地に到着しました」

 

『灰田輝元、後の事は君に一任する。任務を全うせよ』

 

「分かりました」

 

 

端末越しに聞こえた声は嫌に騒がしかった。多くの声や物音で忙しなかったが、辛うじて安山本人の声は確認する事ができ、輝元も己の目的を失わずに済んだ

 

車内で聞いた情報によると、秀皇には既に数名のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)専属のプロ決闘者(デュエリスト)が到着しているらしい。加えて末端の決闘者(デュエリスト)も数名戦闘中であり、輝元は彼らへ加担する事になる

 

彼自身決闘(デュエル)の腕に自信が無い訳では無い。しかし、頭の中には考えられる最悪なケースが浮かんでしまって仕方が無かった

 

まず浮かんだのはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の敗北と秀皇大学の生徒が拉致される事

これだけは絶対に避けなければならない。先日の襲撃で既に数名の生徒が攫われているため、これ以上の隠蔽は不可能に近い。

 

次に月下の事が世間に公になる事

前者と繋がるが、被害者を出さずに殲滅したとしても月下の存在自体が露呈してしまっては隠してきた意味がなくなってしまう

 

そして最も危険な事はその両方が課せられてしまう事。その焦燥感に煽られながら、輝元は大地を蹴った

 

 

 

問題の集団を発見するのに、さほど時間はかからなかった。制服姿の決闘者(デュエリスト)と、黒く深いフードをかぶったさ集団が戦いの最中にいた

 

 

「これは...」

 

 

「おらぁ!«цпкпошп»で攻撃!」

「うわぁっ!?」

 

 

今日S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が開発に成功したアンカーと思われるものが見られた

そして«цпкпошп»と呼ばれるカード情報を隠蔽する技術も同時に確認した。

最早輝元には失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)以外の何にも見えなかった

 

月下へS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)を数名送り出したばかりのこのタイミングに焦りも覚えたが、まずは冷静になろうと状況の確認を急いだ

 

すると、誰も相手にしていない1人の制服姿の男がこちらに気がついた。駆け足で近寄ってくると、早口にまくし立てた

 

 

「君!ここは危険だ、早く避難したまえ!」

 

「...私はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)です。応援に駆けつけました」

 

「っ!そうか、ならあの建物へ急いでくれ!先程大勢が入っていったが、誰も迎えていない」

 

「おい!貴様の相手は俺だ!」

 

「っ!まずい!」

 

 

制服姿の男性の影から紫色の光が見えた。しかし、その光は輝元の元まで辿り着く前に、その男の決闘(デュエル)ディスクにぶつかると行動を止めた

 

輝元は既に知っている決闘(デュエル)の強制開始を促す機能だ。その男性は苦い顔をすると、輝元を庇うように前へ出た

 

 

「見たかい?連中はカード情報を隠すものとこの決闘(デュエル)を強制的に始める改造をしている!君もきをつけたまえ!」

 

「...分かりました。ここは任せました」

 

「頼む!」

 

 

彼らは各地の派出所に在籍するS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の末端の決闘者(デュエリスト)達だ。

故にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が既にそれらの技術を認知していることも知らされていない

味方であるはずなのにだ

 

このように何十年も味方にすら隠し続けたS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部が、非常事態に手だけを借りるという不条理に、彼らは気付くことすら無い

 

しかし輝元は違う。まだ若いというのに本部が隠している情報すらも認知し、今もこうして異端な戦場に駆り出されている

 

なら出来ることは貢献のみだ

敵も使うアンカーのスイッチをオンにすると、意を決して男性が指さした大きな建物へと走った

 

 

「...」

(慎也は無事だろうか)

 

 

走行中、似た状況の青年の事を思い出した

彼もまた異端な立場に居る戦士だ

 

予定では彼らは一週間後に帰国するはずだ、だがこの事態を鎮圧するのにそこまでの時間は避けない。1秒でもはやく終わらせなければ別の問題に発展する恐れもあった

 

やっと辿り着いた建物の扉を勢いよく開くと、速度をあげた。嫌に静かだ、決闘(デュエル)ディスクの音すらしない

 

嫌な予感に煽られながら開けた空間に出ると、その予感は裏切られた

 

 

「...どういう状況だ」

 

 

目に映ったのは、謎の集団に怯える生徒達の姿では無く、必死に抗うそれでもなかった

 

 

「ぷっはぁっ!勝利の美酒は最高だな!」

 

「劉毅さん、何本飲むおつもりですか?」

 

 

生徒らしき人物は2人しか居なかった

残りは1箇所に集められた黒い塊しかない

 

この建物に侵入したはずの失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)は全員一人残らず地に伏していた

 

まだディスクにランプが淡く点っているところから、髭が特徴の男子生徒が戦ったのだろう。そして何十人もいた黒服の男達を全て倒したようだ

 

何故だか戦慄が走った

これが秀皇の実力なのかと

 

 

「...ん?S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人?こっちならもう終わったぜ?」

 

「...君がこれを?」

 

「あぁ、大したことはなかったぜ」

 

 

そう言い放つと劉毅は飲み干したペットボトルを宙に投げ捨てた。それは綺麗な弧を描き、黒い塊の頂点へと落ちた

 

秀皇大学に現れた謎の集団の鎮圧は、予定より大幅に早く済みそうだった

ぶっちゃけどうですか?

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  • 普通
  • 無くてもいい
  • 読むのが億劫

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