遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる! 作:v!sion
誕生日はバイトでした
◐月下-???
慎也は1人歩いていた
行き先は決まっているが、場所は分からない。共に歩む仲間は存在せず、今踏みしめている大地は敵の領土の中だった
だが慣れない装備に苦戦しつつも、しっかりと1歩1歩踏みしめて進み続けている。しかしそれも止めざるを得なかった。背後から聞いたこともない轟音が響いたからだ。驚いて振り向くと、見た事のあるものがその音の原因だと分かった
「...あれは」
ーーー
ーー
ー
◑日本-闘叶大学 /11時39分
都内の中心部に位置する闘叶大学
聖帝大学同様に遊戯王に力を注いでいる大学の一つ。関東の大学の中で1番広く、都内以外にも2つほどキャンパスを持つとても大きな大学だ。
教育方針は「願うのならば成せ、成さぬのなら戦え」であり、生徒らに能動的な活動を促している。ちなみに聖帝大学の教育方針は「生徒の意思を尊重」とあって、対照的にも見られる
聖帝大学との大きな違いは、学科の豊富さに言える。言語や経済、医療に加え、農業やスポーツ、ファッションや遊戯王なども学科に分けられるほどだ
無論、聖帝大学の
「結衣にゃぁ〜ん!関東大会応援してるからねぇ〜!」
「頑張って!」
「応援ありがとぉ〜結衣、皆の分まで精一杯頑張るょ〜っ!」
生徒の数は多いが、誰しもが
少し遠巻きに声援を送る生徒らにとびっきりの笑顔と愛嬌で答える女性がいる。腕には
「体に気をつけてねぇ〜本業も疎かにしちゃだめだよ〜」
「うんっ!皆も気をつけて帰ってね〜!」
男子生徒が多い中、女性の姿も見られる。男女問わない人気をもつ彼女だが、彼らが居なくなったことを見届けると突如その笑顔は崩壊した
ぐったりと、疲弊の色に染まったそれを俯かせると深く深いため息を吐き出した。
「み、南さん...平気?」
「平気じゃないわよ...」
「結衣ちゃん、ココア飲む?」
傍らにいた2人の男女に労われている。女性から手渡された紙パックのココアを傾けると、先程の可憐な姿を忘れさせるような飲みっぷりを披露した
喉が渇いていた訳では無い、恐らく欲したのは糖分の方だろう
「んぐ...ぷっはぁぁっ...おいし!」
「そう、まだ見てる人いるから気をつけてね」
手の甲で豪快に口元を拭うが、その一言ですぐにハンカチに取り替えた。可愛らしいフリルの付いたハンカチをみせびらかすように扱うと、また先程の豪快さが嘘に見えた
どちらが本当の彼女なのだろうか
「ははは...南さんは大変だね」
「大変だと思うなら代わってよ」
「俺じゃ南さんの代わりになれないよ」
その男性は南にジト目で睨まれながらも薄ら笑いを崩さなかった。彼女のこの豹変っぷりは見慣れたものなのか、平常運転の様子だ
そして南が飲み終えたココアのゴミを無言で受け取ると、そのままゴミ箱まで進んでいった
「ねぇ、結衣ちゃん」
「んん?」
もう1人の女性は何かの雑誌を手にしたまま南に声をかけた。南も自然とその雑誌をのぞき込むが、記事が多すぎてどれについての話か分からなかった
黙っていると、その女性が一つの記事を指さして示してきた。
「これ、”関東大会延期に潜む影の理由”。なんだか、勝手に色々書かれてるわよ」
「なになに...」
そこには幾つか真偽を疑うような内容が綴られていた。
「聖帝大学代表の村上慎也が住む自宅付近で起こった事件が影響か。ファンが詰め寄り事態が混乱した模様」
「暁星大学の一般生徒が
等々2ページにも渡る長さの記事だった。関東大会に出場名するとは言え、本名をズラズラと載せていいものなのか南には疑問だった
しかし、名前の上がっている人物にはどれも見覚えがあった。聖帝大学の村上慎也、暁星大学の
全員来週に控えた関東大学対抗戦に出場する生徒達であり、南もその内の1人だ
自分の名前が載っていることに満足なのか、瞳を閉じて含み笑いをしている。しかし、それもすぐにやめ真剣な眼差しで羅列された文字を睨み出した
「結衣ちゃん?」
「
南が友奈と呼ばれた女性から受け取った雑誌を熟読すると、同時にライバルとなる
元の記事などに目もくれず、ただ知っている名が出た所で止まっては己の情報を整理するだけ。早速目に止まったのは暁星大学の生徒の名前だった
(
「ん?何か気になる記事でもあった?」
「...」
(
「まさか村上君?」
偏見も交じる不安定なそれだが、南は構わず続けている。そして村上慎也の名前が現れると、彼女の態度は一変した。
怒りしか見えない
「...っ!っ!」
(でもこいつはなんなのよ!村上慎也って男は!全くの無名だったじゃない!皇さんは分かるっ!強いらしいもん、永夜川もプロだし?期待されて当然よね!ていうか私よりも記事が長い!無名なのになのに...っ!)
ミシミシと書籍から聞こえてはいけない音が鳴り出した。友奈が不安そうに見つめていると、南は肩を震わせ怒りのボルテージを上昇させだした
そしてその雑誌は等々2つに分かれた
無言の怒りも気づけば音を得て放たれていた
「あんんんの無名の何処がいいのよっ!なんで私より人気なのよ!」
「結衣ちゃん...落ち着いて」
「私は超人気超絶美少女読者モデル
「うんうん、悔しいのね?」
「悔しい...!聖帝が構内大会を一般公開するからこうなるのよ!このネット社会じゃ一気に広まっちゃうじゃない!大体一般人でしょ?なんで写真まで出回ってるのよ!」
「へぇ、写真とかあるんだ。どうだったの?」
「顔はタイプ!」
「そう...」
「どしたの?」
先程ゴミを捨てに行った青年が荒れる南の元へ戻ってきた。口では疑問を訴えかけているが、顔はそう言っていない。恐らくこれもいつもの日常なのだろう、特別珍しくもないと言った表情で南に歩み寄った
「
「妬ましいのかー...どうして?」
「私が必死に積み上げて来た知名度をあの男は一瞬で...っ!」
大体察しは付いているが、1度本人の口から直接聞くことにしたらしい。詳細が頼りない説明だが、優助はしっかりと理解して言葉を選んだ
選んだはずなのだが、彼が思わぬ方向に進んでしまった
「うんうん、でも南さんの方が頑張って来たでしょ?気にする事無いんじゃない?」
「ちょっと優助!」
「あ...」
労いの言葉の筈が、南は悲観の表情を作ってしまった。今の一言で何か気に触ったのだろうか、それに付いて知る優助と友奈は不安そうに南を見つめている
大丈夫だろうか
だが、そんな心配も杞憂に終わらせるような怒りの表情で南は顔を上げた
「そうよ!私は中学生の頃からあの事務所に入って...友達と単位を犠牲にしてまで頑張ってきたのに!」
「結衣ちゃん、単位は勉強不足じゃない?」
「なのに...!あの男はネットであんなにも!」
「南さん、あのサイト別に公式が作ったやつじゃないよ?」
「...え?」
「南さんは全国で売られてる雑誌に乗ってるけど村上君は2.5chで書かれただけだよ?もうそのスレ落ちてるし」
「...ん?」
「とにかく南さんの方が有名で人気だって事だよ」
「...」
優助に窘められると南は黙り込んだ
己の中で価値観やプライド、新たな情報等を整理し咀嚼している様子だが、やがてそれも終焉を迎えた
優助の狙ったように思考が定まった様子だ
「...そうよね?私の方が凄いよね?」
「うん」「そうよ」
「.....うん、ならいいや!」
ファンに振りまく笑顔とは違った、心の底から生み出した笑顔を見せた。優助も友奈もそれで安心したようで、3人とも笑顔で和やかな空間と化した
すると南は本来の目的を今思い出したかの様に語り出した。祝日にまでわざわざ大学に赴いた理由は今つけている
「あ、そうだったね。
「うん、やろうか」「そうね」
この3人は関東大会に闘叶大学の代表として参加するメンバーだ。後悔が残らぬよう必死に練習を続けているらしく、大会の延期に対しても練習期間が伸びると積極的な意見を見せていた
休憩?もここまでと南がディスクにデッキを構えると、その施設の扉を誰かが開いた
外の空気が侵入するのでそれを察知した彼女らは、自然とその方向へと視線を奪われてしまった
「...ん?誰あの人達?」
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◐月下-
「.....」
詩織1人では余るほどの上質な部屋に彼女はいた
眠気はないが、やることも無くやりたいこともなくただ1人ベッドで丸まっていた
あの日知樹から月下の秘密を告げられて以来、どうも気が滅入ってしまっている。食事は部屋に運んでもらっているが、それ以外この与えられた部屋から外へ出ようとはしない
「...村上さん」
依然として
まだ空腹感は無い。頂いた食事はちゃんと完食したからだが、この来客は食事を運びに来た訳ではなかった
扉を開けると虚ろな瞳の少女、バシュがいた
「あ...バシュさん、どうしました?」
「...」
すぐには答えず、じっと詩織の目を見たままバシュは硬直した。詩織も黙って返答を待っていると、やがてバシュは語り出した
口を開くまで少し間があるのは彼女の癖のようだ。まだ月下に来て日は浅いが、詩織はこの少女について少しずつ理解が深まっていた
「...名前」
「はい?」
「名前を呼んだからバシュを呼んだのかと思った」
ここで詩織は初めてバシュがずっと扉の前にいた事を知った。まさか初日からずっといたのだろうか、バシュがノックをした理由なんかよりもそちらに気を取られてしまった
「え...まさかずっとここに...?」
「...」コク
肯定の意と取れるように頷いてみせた
人の気配など感じもしなかったが、それもバシュに任せられた仕事なのだと納得すると心配した自分がおそかに思えてきた
監視役は彼女の仕事なのだろう
「...そうですか、私は逃げませんから無理しないでください」
「?」
今度は横に首を傾けた
言っていることの意味が分からないという意だろう
そこで詩織は考えてみた。何故今の一言がバシュに伝わらなかったのかを
言語は問題ないため、内容に対してだろう
まさか監視役ではないのかと
「...バシュさん、なんでずっとここにいたんですか?」
「ボスがバシュに命令したから」
「.....監視ですよね?」
「...」フルフル
今度は横に首を降り出した
これは否定の意だろうか、続けて詳細を語るのを待ってみたが、やはりまた沈黙してしまった
すると詩織からまた質問を投げかけた。すっかり慣れてしまったバシュへの質問方法だ
「楠...ボスからはなんて言われたんですか?」
「皆木詩織を見守れ」
「見守る?」
「...」コク
見守ると別の言葉を示されてしまった。バシュの口ぶりから知樹に言われたままに伝えられたのは何となく理解出来た。だが、バシュが行っていた事は監視と何ら代わりが見られない
詰問してもいいが、なんの罪のないこの少女に対して詩織には出来そうにない。短く返事をすると俯く事で話を終わらせる事にした
扉を閉めようかと頭によぎった瞬間、詩織はバシュがノックをした理由を思い出した
「あ、そうでしたね。今のは独り言なので気にしないでください」
「...」コク
「...」
気になって辺りを見渡してみたが、椅子などバシュが休息するための物は見当たらない。まさかこのフローリングに直接座り込んでいたのかと推測仕掛けた時、バシュは扉から少し離れた位置まで離れた
何をする訳でもなくそこに黙立し始める。またしても詩織を驚かせる事実だった
「...もしかしてそこにずっと立ってたんですか?」
「?」コク
不思議と健気にも見えてきた。本来は敵であるはずのこの少女にもいい加減情が湧いてきている
知樹に立っていろとまで命じられた訳では無いはずだが
「あの、...入りますか?っていっても私の部屋じゃないんですけど...」
「そこは貴方の部屋」
「あ、えと...そうみたいですね。ずった立っているのも疲れますし座りませんか?」
「...」
詩織が作り笑いで部屋へ招いてみると、拍子抜けする程にバシュは素直に従った。初めてこの部屋を与えられて以来特別変わった箇所のないそこに、珍しく詩織以外の人物が入室した事になった
詩織がベッドに腰下ろすと、バシュもまた習ってすぐ隣に座り込む。詩織が促した行動だが、嫌に二人の距離が近かった。ゼロ距離とも言えるほどに密着している
「...あ、あの近すぎませんか?」
「嫌?」
「あ、えとその...嫌ではないんですけど...」
「...」
この少女は間の取り方が非常に難しい。聞いた事は答えてくれる、お願いした事は従ってくれる。だが、それだけだ。何も聞かなければ何も語らず、何も与えなければ何も受け取らない。
もう何度も体感してきた事だ。初対面で舐められたのも昔のように感じられる
「...あの」
「?」
「バシュさんの事...教えて下さい」
沈黙から脱却しようと導いた策はまたも質問だった。この少女の事はよく分からないというのが本音であり、気まずさよりも興味が勝っているのも事実だ
いつもより長い間を開けて、バシュは小さな口を開いた
「バシュの何を?」
「え、えと...じゃあ好きな食べ物とか?」
「...」
目を見て話す少女だが、この質問に対して目ずらしく目をそらして黙り込んだ。熟考は見て取れるが、これは咀嚼するほどの疑問なのか詩織には疑わしかった
やがてバシュがまた詩織の瞳を見つめ出すと、唇が動き始めた
「分からない」
「ふぇ?」
「バシュは与えられたものしか食べない。だから何が好きか分からない」
何処か変わった少女だとは思っていたが、この返答には流石に言葉を失ってしまった。好きな食べ物が分からない、では食事の時一体何を考えているのだろうか
まさか味覚がないとは言わないだろう。あの日会食した時もスープをお代わりしていたはずだと、食事好きの詩織にとっては聞き逃せない返しだったようだ
「おいしいとか...柔らかいとか甘いとか色々あるじゃないですか?好きな味とかは...?」
「...」
「み、味覚はありますよね?」
「...」コクコク
「あ、あの時のカボチャのスープはどうですか?美味しそうに食べてたよね?」
「!」
微かにバシュの瞳が動いた
虚をつかれたような反応だが、やはり詩織にはそんな発言をした覚えはなかった。次の質問に困っていると、今度はバシュの方から語り出した
「かぼちゃ、好き」
「あ、あるじゃないですか!」
なぜ自分はカボチャが好きという発言にここまで安堵しているのだろうか。最早疑問に思うのも煩わしくなり、やっと得たバシュの好物を刻むと同時に新たな情報を得ようと動き出した
どうせやることも無い
ならば今いるバシュについて、彼女自身も分かっていない事を知っていこう。やっと前向きになれた詩織だった
ーーー
ーー
ー
「カムイ様、間もなく例のポイントに到着します」
「うんっ!りょーかい」
最近やたらと見るトラックが轟音と共に爆走している。中には数名の黒服の男達と、いつも通り白いスーツを着用したカムイの姿がある
今回カムイが知樹から任せられた任務は
独断に近いが、知樹の了承は得ている。最悪の乗り心地の中カムイはにこやかに到着を待っていた。運転は部下の仕事だ
「カムイ様...宜しいでしょうか?」
「うんっ!なんでも聞いてよっ!」
「では...今回の任務、現場の確認のみと伺いました。それなのになぜ
その空間の黒服の男達全員がカムイの答えを待っていた。誰しもが共通して抱いてる疑問らしく、カムイの1番近くに座っていた男が代表した問うた
カムイも気を悪くした様子も見せず、ニコニコと部下を見渡した。そして相変わらずよく通る声で話し出した
「念の為だよっ!」
「は、はぁ...」
「うんっ!」
不承不承の様子は見てわかる。カムイは対照的に満足そうに笑っているが、少し間を置いて皆が気になるであろう確信を口にした
「まぁこれはボクの勝手な推測だけどね...」
「はい?なんです...っ!」
まだ何か言うのかとカムイに目をやると、いつもの優しげな糸目が消えていた。うっすらと開いた瞼の中には蒼い瞳が輝いている。
初めてカムイの糸目が開くのを見たのもそうだが、なによりも表現し難い雰囲気に男達は言葉を奪い取られてしまった
「例の希望の事だけどね...」
「あ、あのむ...ムラ?「村上慎也」
全員の視界を奪った所で、カムイは少し間を開けた
両手で口元を隠し、軽く前のめりに上座に鎮座するその様は、一目見れば上下関係を知らしめるのに充分なものだ
特別変わった所は無いはずだが、明らかにカムイはいつもと違う雰囲気を纏っている。黒服の部下達は言葉を失ったまま動きを止め、カムイの言葉を待つことしかできない
「村上慎也は絶対に月下に来てるよ」
短い一言だった。だがそれで充分カムイの言わんとしている事は全員に伝わった
希望については恐らく
あの希望と戦うのか
黒服の男達は恐怖に近い何かを感じると、自然と背筋かが伸びていた。同時にピリピリと緊張の糸が張られたのも分かる
わざわざ
覚悟と理由も手に握りしめると、改めてトラックの到着を待った。思っていたよりも本部から離れているに加え、正確な位置が分からないためいつだり着くかは予想出来なかった
だが、突如
そう、誰しもが目的地に到着したと思い込んでいたのだ
たが地に降り立っても当たりには自分たち以外誰もいない。あるのは巨大すぎるハリケーンだけだ、あたり一面中に忙しなく強風が暴れていた
「なっ?」
「おーいお前達っ!危ないから戻っておいで!」
カムイに促され、再びトラックに
例の補給地点にたどり着き、希望と対面するかと考えていた彼らにはまだ理解が追いついていない様子で、不安そうにカムイの次の言葉を待っている。肝心のカムイは分かっていたかのような表情で笑っていた
「早とちりしないでよっ!まだ着いてないってば」
「も、申し訳ありません...ですがこれは一体?」
「補給地点付近にはハリケーンが起ってるって聞いてなかったっ?」
それは聞いていた
日本が
物理的にも耐久性に優れ、ハリケーンで立ち往生することは無いと考えていた。それ故に疑問なのだ
しかしそれすらもお見通しと言わんばかりにカムイは相変わらず笑っている
「これは異常だねっ」
「異常...確かに今まで以上の物ですが...」
「うんっ、数も多いね。誰かグラスさんに繋いでっ!」
カムイの指示に対し、備え付けの通信器具に最も近かった黒服の男が対応した。慣れた手つきで操作すると、マイク付きのヘッドホンを装着した
そのまま本部に繋がるまで耐えると、すぐに叶ったようだ。だが、それをカムイに手渡すわけでもなく、そのまま彼自身が会話を始めた
《こちら本部。何かあったのか?》
「こちらKMⅠの
《了解》
カムイが放った繋げの一言で、この付近の
通信中の男は口元のマイクを使いやすい様につまんで調整していると、やがて
《代わったわ、グラスよ。どうかしたの?》
「グラス様、先程例のポイント付近まで辿り着きました。ですが異常なハリケーン発生しておりました。カムイ様の指示でグラス様の指示を仰げとのことでご連絡差し上げました。ご確認をお願いします」
《分かったわ、ちょっと待ってなさい》
ヘッドホン越しに何かパチパチとした音が響き出した。恐らくキーボードを叩く音だろう、目まぐるしいスピードでその音は鳴っていた
さほど待つことなくその音は静止し、連なってグラスの声が代わりに聞こえた
《おまたせ、確かに貴方達のいる付近に高
「承知しました」
《それと...貴方達随分道を逸れたのね?》
「はい?それは真ですか?」
《えぇ、前回シッド達が通ったルートと大分離れてるわよ。でも補給地点は近いからそのまま進んで頂戴》
「承知しました。ありがとうございました、それでは...」
「待ってっ!」
通信を切断しようかと男が手を伸ばした時、いつの間にか背後にいたカムイにそれを遮られてしまった。有無を言わさず男からヘッドホンを取り上げると、カムイはそのままそれを使用しグラスとの会話を試みた
「もしもしっグラスさんっ?」
《あら、カムイ。どうかしたの?》
「別件で調べてほしい事があるんだけどっ!この辺りにボクら以外の
《ちょっと待ってね...》
先程よりも明らかに短い時間でカムイの要望に答えられた。カムイが暗に示しているのは恐らく慎也の事だろう、その場にいる全員がグラスの言葉を待った
本当に希望が月下にいるのかと
やがてグラスから語られた言葉は、部下達の胸を撫で降ろさせるものだった
《反応は無いわね》
「...そっか」
《ハリケーンの
グラスにもカムイの言わんとしている事は伝わっていたようだ。見透かされたのが不満だったのか、そもそもの推測が外れたのに腹が立ったのか、カムイは静かに黙り込んでしまった
するとグラスから短く代わるわと告げられた
どういう意味かと考える前に、また聞き覚えのある声がヘッドホンから聞こえる。カムイのボスだった
《俺だ》
「....あっ、ボス。どうしたの?」
《お前こそどうしたんだ?》
また質問の意味がわからなかった
《お前らしくないぞ。何故慎也にそこまで執着する?》
「そうかなっ?」
《あぁ、日本襲撃時にも慎也に口を滑らしたそうじゃないか》
「あぁ...ごめんね」
その事かと思い当たる節があった
ボス直々に注意された今でこそ己の無意識な行動を恥じたが、そんなつもりは本当になかった
何故だか考えてもみた。希望と言えどそこまでの実力では無かった。あの
「...」
《どうした?》
「分かったよ。試してみたかったんだよ」
簡単な話だった
慎也と自分の置かれた状況がひどく似ていたからだった。恋人を、想い人を救けたい、守りたいと決起になる姿が昔の自分と重なっていたのだ
だから試したかった
キミは勝ち取れるのかい?と
自分はできた、ならば希望はどうだと
対抗心でも同情心でも無い
大人気のない幼稚な挑戦心なのだ
「村上慎也が皆木さんを本当に助けたかったのか見たかっただけなんだよ。ワガママごめんね」
《...そうか、お前は本当に慎也が月下に来ていると?》
「...勿論っ!ボスだってそうでしょ?」
今度は知樹が沈黙を繕った
かなり短いそれだったが、答えは帰ってきた
《あぁ、だが何故そう思った?》
「簡単だよっ!」
また沈黙
そして返答
「村上慎也がこんなに早く諦めるはずもないし、
《...》
「後は...」
知樹が黙ったのは、目当ての答えが帰ってこなかったからだ。カムイもそれを汲んで冗談でも言うかのように楽しそうに語っている
知樹が満足していないことを理解すると、確信に触れる一言を放った
ーーー
ーー
ー
「またハリケーンか...」
慎也が振り返った先には何度めかのハリケーンが暴れていた。だが特異点として規模が桁違いだ、一ノ宮らと突破したそれよりもよほど大きなハリケーンが慎也の背後にある
それも慎也が補給地点を離れてすぐにだ
まだそれほど離れていないが、こうもタイミングがいいと気持ちが悪い
あれに巻き込まれなくて良かった
一先ずはそう飲み込むに終わらせ、再び慎也は歩きだした
「...」
得体の知れない嫌な予感を抱えて
ぶっちゃけどうですか?
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読みたいからやめて欲しくない
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読みたいけど無くなったら読まない
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普通
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無くてもいい
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読むのが億劫