遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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長かったものを半分に分けました
次の話からしょうが変わります


第五十六話 Nature Error × Travelers

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◐月下-???

 

 

部屋にノックが響いた

その部屋にいたのは詩織だけであり、当然返すべき人物も詩織しかいない。

 

恐る恐る扉を開けると、目の前にあったものは大きく膨らんだ白いシャツ。第二ボタンまで空いているところ、それが胸部だと分かった

 

ゆっくりと見上げると、女性の顔があった

長く赤い髪をそのまま靡かせ、薄化粧だけをしている。白いズボンに、白いシャツと、カムイ達と同じ格好をしているものの、彼女は上着のスーツを着用していなかった。豊満すぎる胸元のせいで苦しいのだろうと、詩織は勝手に解釈しておいた

 

 

「希望様よぉ、飯の支度ができたんだがあっちで食う?それともこの部屋に持ってくるか?」

「えぇっと.....あ、あっち...とは?」

「チッ...カムイの野郎は何にも説明しねェで行きやがったのか!」

 

 

常に眉がつり上がっており、口調も乱暴だった。まるで憤怒そのものを相手にしている気分の詩織は、話の内容よりもただ怯えているだけだった

 

頭一つ抜けている身長差もそうだが、どこか同性を疑わさせられる人物だ。その主張しすぎている胸が無ければ誰も女性とは認めないのではないだろうか

 

 

「希望様よ、カムイの野郎からはどこまで話、聞いたんですよ?」

「えと...その、ここが月下という場所で...暫くここで生活しろと...あとは.....」

「基本的な事だけって事ね、はぁぁ...」

 

 

恐らく落胆の表情を浮かべた

まだ眉は上がったままだが、ため息と雰囲気でそれを察した。説明を諦めたその女性は、詩織に付いてこいと一言いうと廊下を歩き出してしまった

 

少し遅れて詩織も部屋から出るが、先ほどの女性に隠れてもう1人いた事に今初めて気がついた

 

 

「...」

「あ、貴方は...」

「バシュ」

 

 

あのビルにもいた小柄な少女だった

あの時と同じようにサイズのあっていないパーカーを纏い、ハイライトの消えた瞳で詩織を見据えている

 

暫く見つめあってみたが、特に話すこともなく、バシュに促されながら先にいる女性を追うことにした

 

 

「あ、あの...」

「何よ?」

「えと...お名前を聞いても...?」

「チッ...名前ねぇ」

 

 

後ろからでも胸が揺れていることが分かる

その揺れが収まったと思えば、振り返りこちらを向いた

 

 

「..."ガンリ"だよ、こっちに来てからはそう呼ばれてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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◑日本-草薙家

 

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)という単語1つで空気は分かれた。何かに気がついた慎也と、未だ理解出来ていない花音は対象的な反応を取っている

 

痺れを切らし、花音は再びソファから立ち上がると、総司に向かい声を荒らげた

 

 

「お父様、何をおっしゃりたいのか理解できませんわ!私はどうして聖帝の生徒達が被害にあったのに誰も覚えていないのかと聞いているのです!」

「花音、落ち着きなさい」

「落ち着いて居られませんわ!あの鷲崎さんという方も関係しているのですわよね?記憶とかメディアとかそういったお話も聞きました!」

 

 

花音のスカートが慎也の耳先に触れた

すぐ近くで荒れている花音を、慎也は宥めるわけでもなく、視線を向けさえもしなかった

 

それは花音が疑問に思っている事について慎也は理解しており、それを自分から話すべきではないと弁えた結果だ

 

草薙総司がS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の関係者だという推測は簡単に辿り着いていた。それが分かればなぜ花音がS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の記憶操作を受けていないのかもすぐに分かる

 

草薙総司が娘を守る為に安山と話したのだろう

 

 

些か職権の乱用も考えられる行動だが、慎也はそれよりも気になる事が1つ増えていた

 

 

灰田や蛭谷や黒川。今回の事件に関わった近いし人物達も国の隠蔽作業に記憶を弄られてしまったのだろうか

 

それを確かめる事自体は難しくはない

ただ今自分にそれが許されるかは分からない

 

今するべき事は草薙総司から話を聞く事

その為にはすぐ隣で怒る花音を鎮めなければならない

 

草薙総司が娘にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の事を隠していた以上、慎也の方から切り出すには気難しいものだ。

考えた結果、草薙総司の方から話すのを待つことに至り、慎也は黙り続けた

 

 

「花音、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)は知っているね?」

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)ですって...勿論存じ上げます。日本政府の遊戯王関係の犯罪に対応する言わば遊戯王の警察の様な団体ですわよね?」

 

「その通りだ。私はその幹部、主にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が使用する決闘(デュエル)ディスクの開発や技術促進、また決闘力(デュエルエナジ-)を応用したカードの作成などを行う責任者を担っているんだ」

 

 

既に一通りの説明を受けた慎也には充分な自己紹介だった。一言で幹部と言えど、それぞれが異なる職種であり、大神や鷲崎らとの差別化は十二分に施されていた

 

だが、花音は決闘力(デュエルエナジ-)という単語で再び混乱に陥っていた。すると慎也が化野から聞いたような話を草薙総司が語り出した。ファンタジーにも絵空事にも聞こえそうな昔話を、こんな短期間で二度も聞くとは思わなかった慎也は少しだけ苦顔を見せた

 

 

話の最中、花音は様々な表情を見せていた

呆れのものから始まり、驚き、疑問と移ろう顔を見れば、話を聞いていなくとも今どの辺を話しているのだと理解できそうだった

 

やっと昔話が終わったと思えば、花音は相変わらず荒れたまま父親に疑問をぶつけ始めていた

 

 

「お、お父様!お父様の会社は決闘(デュエル)ディスクやその周辺器具の開発を行っているのでは無かったのですか?いつから政府のために...」

「副業と言うべきか...昔大神君と個人でディスクを開発していた時にね、...スカウトされたんだよ」

「...」

 

 

前に西条が言っていた事が頭をよぎった

ディスク関係の会社の社長だと言っていた

 

若い人間が多く存在する大学の学園長や、決闘(デュエル)に欠かせない器具を開発する会社の社長。どちらも国からすれば貴重な人材なのだろう

 

 

 

「そ、それでも!信じられませんわ!ファンタジーの様な昔話や...お父様が政府の...」

「隠していてすまなかったが...娘だからと言って気軽に話せる事でもないのだよ」

 

 

慎也が花音を見上げると、いまだ信じられないといった表情を浮かべていた。物的証拠が無い以上、いち早く信じさせるにはと慎也も口を開いた

 

 

「信じられないかもしれないけど...本当らしいんだ」

「む、村上さんまで...村上さんもご存知だったのですか?」

「花音のお父さんがS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)なのは今知った。でも月下や決闘力(デュエルエナジ-)の話は1時間くらい前に他のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人から聞いたよ」

「...」

 

 

話すべきか悩んだ

が、草薙総司がここまで話したのだ。今更関東大会の選抜を変わってくれなどど理由無しには頼めない

 

寄り道無く、慎也は核心を着く願いを口にした

 

 

「花音、俺はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に入って月下に行くんだ」

 

「なっ!?」

「やはりそうか...」

 

 

親子はそれぞれ異なる反応だった

よって花音の矛先は父親から慎也に向き、今度は慎也が詰問の対象に変わった

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に入るって...大学はどうするのですか!?」

 

「...休学っていう形を取ることにした」

 

「そ、そもそもどうして村上さんまでS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に入るのですか!?」

 

「あのビルで...«цпкпошп»と戦った戦績を認められてスカウトされたんだ」

 

「...信じられませんわ、一体どれほどの人数と戦ったと仰るのですか」

 

 

嘘はあった

国の希望やら精霊やらを説明すればもしかしたら信用してくれたかもしれない。だが、失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)についても精霊についても草薙総司は避ける様に説明していた

 

そこまでは花音が知る必要もなく、教えてはいけない事だと勝手に飲み込んだ結果だった

 

 

そのため、ついてしまった嘘は通さなければならない。出来るだけ信憑性のあるような、事実を誇張したストーリーを脳内で瞬時に描いた

 

 

「36人」

 

「...へ?」

 

「俺があのビルで倒した«цпкпошп»の数だよ。デッキも全部覚えてる。コアキメイル、Psy(サイ)フレーム、アマゾネス、セイクリッド、外道ビート、代行者...いや先攻ワンキルもしたから全部はわからないけど、征竜とも戦った」

 

 

花音としても慎也の腕を疑っている訳では無い

だが話が突飛すぎるのだ

 

普通の大学生が在学中に国の兵士になるなど、いかなる理由があっても信じ難い

然るべき段取りを踏まず、スカウトなどと甘い言葉では虫が良すぎる

 

だからこそ慎也は一度は断ったのだ

 

それが今は肯定の作業に必死とは些か皮肉でもあった

 

 

「...村上さんの実力は疑っていませんわ」

 

 

花音はやっと落ち着いて座り込んだ

声だけ聞いてひとまず安心した慎也だったが、すぐ隣の花音はまた厄介な表情を浮かべていた

 

何を言い出すかなど考えなくても理解できる

 

 

「でしたら...私も行きます!」

 

「花音!」 

 

 

今度は父親の方が声を荒らげた

無理もない、今まで必死に守ろうとしてきた娘が無謀とも取れる発言をしたのだから

 

慎也も草薙総司の必死さから、花音が本気で月下に行こうとしている事を把握した。花音もあのビルで«цпкпошп»をみたはずだ、それでも尚危険を解離見ないその勇気はどこに向かっているのだろうか

 

 

「お父様、私は本気ですわ。お父様や村上さんの方からS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)にお話出来ませんか?」

 

「馬鹿なことを言うんじゃない。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間の娘だとしても花音は一般人なんだ、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)はそんなに甘い組織では無い!」

 

「危険なのは村上さんも同じですわ!私だってあのビルで«цпкпошп»と言うものと戦いました、村上さんには及ばらずとも5人の決闘者(デュエリスト)を倒しましたわ!」

 

 

これは慎也も初めて知った

慎也がトラックを追う際、花音や灰田が黒服の男達を足止めしてくれていた

 

今も尚無事なのはあの時相当な貢献を果たしたからだと理解出来る。やはり構内大会での成績は嘘ではないようだ

 

だがそれでも花音の提案は受けられない

 

 

「花音、お父さんの言う通りだよ。それに花音には別の事を頼みたくて今日は来たんだ」

 

「別の事...とは?」

 

 

草薙総司までも慎也を見つめた

そもそもの本題は父親自身も知らなく、このタイミングで告げる事に興味を持ったようだ

 

何とか花音を説得出来るような話を期待しているが、添えられるかは慎也にも分からない

 

 

「延期になった関東大会、俺は月下に行くから出られない。花音には代わりに出てもらいたいんだ」

 

「...自分は危険な敵地に行くからその間安全な日本で留守を頼みたいと仰ってるのですか?」

 

「.....少し違う」

 

「何がでして?」

 

 

ここからが力の見せ所だ

ここで説得できなければ代行を頼めないだけでなく、最悪の場合花音の記憶も弄らなければならなくなる

 

どうにかここで抑えるんだ

自分自身に言い聞かせると、一気にまくし立てた

 

 

「そもそも今回の事件だって月下の方から日本に攻め込んできてる。日本が安全だとは言いきれない。それに記憶操作の話も聞いたでしょ?俺が居ない間うまく誤魔化せる人がいた方が俺も戻ってきやすいんだ」

 

「...そこですよ。何故お父様やS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の方々は私の記憶もさっさと消さなかったのですか?本当に記憶の操作なんて可能でして?」

 

 

記憶操作の事など慎也にも分からない

自身がそれを受けない事もあるが、ここはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部に説明を願いたい所

 

草薙総司に視線を移すと、間もなく語り出した

 

 

「...記憶操作といってもそこまで便利なものではない」

 

「私の記憶は消せないのでして?」

 

「いや可能だ」

 

「ならばどうして消さないのですか?早く消しておけばここまで面倒な事にはならなかったのでは?」

 

「.....決闘力(デュエルエナジ-)は今までの技術では発見できなかった未知の神経に流れる。我々はそれを"別神経"と呼んでいる」

 

 

化野が割愛した記憶操作の細部だ

慎也はすぐに分かった

 

草薙総司はそれを説明してくれるようだ

 

 

「別神経は通常の神経とは異なり、行っているのは決闘力(デュエルエナジ-)のみを外部から体内に集め、体中に運搬する事だ。それらは脳の海馬と繋がっており、記憶操作は外部の決闘力(デュエルエナジ-)と別神経の決闘力(デュエルエナジ-)を利用した技術になる。...私も学生時代は文系だったのでね、後の事は説明出来ない」

 

「...私の記憶を操作出来ない事と関係がおありで?」

 

 

花音も慎也も文系だ

海馬や神経と言われても「あぁ、なるほど」とはいかない。だが要は決闘力(デュエルエナジ-)専用の神経が通っている事は理解できた

 

 

「厄介な事に、その別神経は個人によって存在する箇所が異なる。例えば私は右手の末端、花音は喉にある」

 

「喉...」

 

 

自身の喉に手を触れて見せたが、それで分かるはずもない。話の流から別神経の位置が問題とも考えられたが、それだけで記憶操作が困難になるのなら今までにそういったケースもあったはずだ

 

なぜ花音だけなのか

 

 

「花音、昔扁桃腺の摘出手術をしたのを覚えているかい?」

 

「え、えぇ...それが何か」

 

「過去に記憶操作の研究中に、記憶操作後に違和感を覚える、激痛が走るなどといった報告があった。原因は別神経の箇所にあった。花音と同じ様に扁桃腺を摘出した若者に記憶操作を施した所、1週間喉に激痛が走ったそうだ。治ったあとも火傷のようなあとが残り、声までも変わってしまった」

 

 

 

慎也の中で何かが音をたてて弾けた

記憶操作、火傷...

 

だが今それを確認する暇はない

花音もだいたい察しがついてきた頃、草薙総司の話も終わりが見えてきた

 

 

「...お父様、私が記憶操作で苦しむ事は分かりました。ですが...だからと言ってそれは職権乱用なのでは?」

 

「.....その通りだ。記憶操作をできない以上私は娘を欺く必要があった。今回の事件についてもだ、花音が知らない振りをしてくれればS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)も記憶操作をしなくて済む」

 

「ですが「花音!」

 

 

花音も思わず一歩下がった

予想もしていなかった父親の剣幕に恐怖にも近い感情を抱いたようだった

 

だが、怒号からはうってかわり、絞り出す様に続きを語り出した

 

 

「分かっている...私のエゴだ。だがね、普通に生活している上で国の記憶操作なんて受けるはずがないのだ。幸い花音は立派に正しく育ってくれた。交友関係を気にする事も杞憂だった」

 

「お父様...」

 

 

前に花音が父親にやたらと交友関係を気にされていると聞いた事があった。いい父親だという感想だったが、今でもそれに変わりは無かった

 

だが、この環境と草薙総司が子供に向ける愛を知ると、慎也自身も杞憂に終わるだろうと思った

 

 

「大事な娘が...何も知らず、何もわからず...一生喉にハンデを持って生きていくなんて.....私には耐えられない」

 

「...」

 

 

誰しもが悩みを抱えている

慎也にも言えることだ

 

今こそ落ち着いているが、友に裏切られ、大事な人が奪われた。大好きな決闘(デュエル)は戦闘のツールになり、その戦闘は命をかけるもの

 

だからこそ行くのだ

月下に行くには花音らの力が必要になる

 

 

今1度決意を新たにした所で再び慎也は口を開いた

 

 

「花音、分かったでしょ?お父さんは花音の事を思って黙ってたんだ。怒らないで欲しい」

 

「...分かってます。ですが親に大事にされているのは村上さんだって同じ...」

 

 

コンッコンッ!

 

 

花音の言葉を遮る様にノックが響いた

言葉を失った2人の代わりに、草薙総司が入るよう促した

 

現れたのは案の定執事長の蒼輔だった

台車にティーセットを載せ、共に入室した

 

 

「失礼します」

 

「あぁ...すまないね」

 

 

慣れた手つきで丁寧にコーヒーとお茶請けを並べると、すぐさま退室した。前来た時とは違い、クリームの乗った皿は無かった

 

慎也がブラックで飲むことを覚えていたのだろう

行き場のない手を誤魔化すために、軽く会釈をしてカップを手に取り傾けたが、どこか香りが薄い気がした

 

 

「...花音、俺はどうしても月下に行きたいんだ。日本を頼む」

 

「分かりませんわ...どうしてそこまでして村上さんが月下に...何がそこまで貴方を?」

 

「...」

 

 

質問に答える気はあった

だがうまく言葉にならなかった

 

詩織を助けるため?知樹と会うため?

カムイ達を倒すため?日本に貢献するため?

逃げるのが嫌だから?何もせずに我慢ができないから?

 

恐らくどれも当てはまっていた

だが1番濃厚なのは前者も前者

 

 

目の前で助けられなかった詩織だ

詩織に会いたいんだ

ではどうしてそこまでして会いたいのか?

 

 

考えなくても分かっていた

 

 

 

 

初めて出会った英語の必修

初めて共に食べたサンドウィッチ

初めて共にオールしたカラオケ

初めて戦った決闘(デュエル)

 

その全てが輝かしく、尊い記憶であり

失っても尚霞む事なく、鮮明に記憶している

 

 

 

「...詩織ちゃんがあの事件で連れ去られた」

 

「な、なんですって...」

 

 

 

 

必死に走ったビル内も

必死に戦った«цпкпошп»も

必死に追ったトラックも

 

全て詩織がいたからだ

 

詩織が居たから

 

 

 

 

「俺は...詩織ちゃんを助けたい。助けに行かきゃいけないんだ」

 

「...」

 

 

 

 

そうだ

3年もの間共に居て今やっと気がついた

 

 

 

 

「俺は...詩織ちゃんが好きなんだ。失いたくない...大事な人なんだ!」

 

 

愛する人を助けたかっただけなんだ

 

 

 

 

「.....やっぱり耐えられませんわ」

 

「花音...」

 

「私だって......私だって!」

 

 

視線の中の花音は、瞳に涙を浮かべていた

その涙の意味だけは慎也には分からなかった

 

分かってはいけないような気さえもあった

 

 

「村上さん...私は初めて貴方と出会った時、とても嫌な人だと思っていました。自分の力を隠して...私のプライドをズタズタにするデリカシーのない人という印象でした」

 

「...あのカードショップだね」

 

「えぇ、絶対にリベンジして見せるとあの時は燃えていました。愛莉や(ベル)のためにもって...でも構内大会で戦った貴方はまるで別人でした。大胆に、そして精細に...何よりも楽しそうに決闘(デュエル)をしていました」

 

「...うん」

 

 

涙は崩壊し、崩れていた

花音のキメ細やかな肌を一筋汚すと、段々と呂律も怪しくなっていた

 

感情が暴走を始めようとしている

 

 

「最後のターンでは私は...勝利を確信していました。なのに貴方は逆転し...私は負けました。ですが貴方は勝利にではなく、楽しい決闘(デュエル)だったと喜んでいました...私は...私はそんな人柄に.....」

 

「...」

 

 

流石の慎也でも何を言わんとしているかは分かった

それでも花音から言うのを待つ

 

黙って待っている

 

 

 

 

「私は好きになってしまったのですよ!どうしようも無く...皆木さんの事を知ってからも.....」

 

「.....花音」

 

 

 

 

痛い愛だ

もう届かないと知ってもなお、彼女は言わざる得なかった

 

答えは知っている、分かっている

成就するはずは無かった。あってはならないのだ

 

 

「...ごめん」

 

「ひっぐ...グス.....謝らないで下さい...」

 

 

両手で顔を覆いながら、嗚咽を漏らす

肩も不安定に震え、心から失恋した悲しみを表していた

 

攻めてものと慎也も視線を逸らさず、その小さな女性を見ていた

 

 

やがて落ち着くと、溜まった涙をハンカチて拭い、無理に凛とした表情を作ろった

 

 

「...関東大会の代行の件ですが、条件が2つあります」

 

「.....何?」

 

「1つは絶対に皆木さんと無事に帰ってくる事、そしてもう1つは...」

 

 

 

一本だけ残った指を見せながら間を溜めた

また涙腺が壊れかけているが、必死に堪え、何とか言葉を発した

 

前者と比べると可愛らしいものでもあった

 

 

 

「.....帰って来たら、美味しいパンケーキの食べれる所に連れて行ってください。それが条件です」

 

「...分かった、約束する。絶対に守って見せる!」

 

 

微かに微笑むと、最後は俯いて部屋をあとにしようとした。終始黙っていた草薙総司に声をかけられたが、「今夜は一人で泣かせてください」と放つと、静かにその部屋を去っていった

 

残った人物は慎也と草薙総司。言葉に表現出来ないような気まずさも共に残ったが、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間としてはそれは許されなかった

 

 

「.....」

 

「...村上君、化野から端末は受け取ったかね?」

 

「はい、ここに」

 

 

テーブルの上に2つの機材を置くと、草薙総司が片方を手に取り、説明を始めた

 

 

「これは日本国内ならどこででも我々と通信が可能な端末だ。月下内でも一部では通信可能だが、基本的には村上君の方から送信しなければ繋がらない。ディスクからUSB端子を用いれば決闘(デュエル)のログもこちらに送ることが出来る」

 

「それも...草薙総司が開発を?」

 

「その通りだ。盗聴も防げるが、燃費があまり良くない。電池での充電や太陽光も考えたが、やはり決闘者(デュエリスト)としてはこれがいいだろう」

 

 

端末の裏側を見せてきた

器用にカバーを外すと、黒い部品が外れた。

 

良く見ると決闘(デュエル)ディスクの外面に沿った形をしていた

 

 

「この状態でディスクに差し込めば、決闘力(デュエルエナジ-)で充電ができる。本来決闘(デュエル)ディスクも決闘力(デュエルエナジ-)と電気で起動させるため、月下に持ち込む電池量は少なく済む」

 

「なるほど」

 

「端末の操作は至ってシンプルだ。通信先のコードを入力し、このボタンを押すだけだ。3分経つと自動的に途切れるため、要件はできるだけ早く済ませること」

 

「コードは何も知らないのですが...」

 

「これが私の名刺だ。一応2枚渡しておく」

 

 

受け取った名刺には、名前と会社名が記されていた

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)としてではなく、本業の社長としてのものであり、どこにもコードなど書いているようには見えなかった

 

だが、良く見るとそれらしきものが見つかった

 

 

会社名のロゴだ

 

 

「もしかして...この”446”に見えなくもないのが...?」

 

「ここなら情報が漏れることは無いが...あまり不用意に口に出さないで貰おうか」

 

「す、すみません...」

 

 

貰った名刺をどうするか悩んだ結果、1枚は数多くの種類と共にクリアファイルに、もう1枚はディスクの除外ゾーンに入れておいた。

 

忘れたまま起動する前にしっかりと場所を決めて置こうと決意すると、草薙総司はソファから立ち上がった

 

 

「さて...今日の所はこれぐらいにしておこう。君もやるべき事が色々と残っているだろう。帰りはどうする?迎えがあるかい?」

 

「え、えぇ化野さんが来ています」

 

「そうか...彼は気難しいが悪い人間ではない。うまくやるんだよ」

 

「...はい!」

 

 

一通り話が済んだ

 

だが、肝心のレオは残るか先に帰るか未だに結論を出せずにいた

 

慎也がレオに視線を向けると、頭を抱える姿で低く唸っていた。仕方なく抱き抱え、草薙家をあとにする

 

 

門までは蒼輔や草薙総司が見送ってくれたが、肝心の化野の姿は見られない

 

試しに貰った端末を使うともしてみたが、化野のコードを知るすべもない。仕方なく草薙家周辺で待つことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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◑月下-???

 

 

詩織はガンリとバシュに連れられどこか分からない廊下を歩んでいた。窓は高い位置にあり、今が夜だと言うことしか分からず、景色など見えない

 

だが、ある程度歩いた所で先頭のガンリが歩を止めた

 

 

「着いたよ」

 

 

短く一言だけ放つと、乱暴に扉を開いた

連れてきたぞと大声で誰かに叫ぶと、バシュも黙って入っていった

 

詩織が廊下で一人途方に暮れていると、扉の向こうからバシュが小顔だけ見せてきた。特に何か言うわけでもなく、黙って見つめられている詩織は、やがて自分からその部屋に入っていった

 

 

「お、お邪魔します...」

 

 

恐る恐る入室した

その部屋はとても広く、中央に大きな机、人数分の椅子があり、天井には見事なシャンデリアまでもがあった。

 

空間を贅沢に使用する作りはあまり見慣れず、目眩しそうな程だった

 

10個ある椅子の内、7つは埋まっていた。よく見ればカムイやガンリやバシュと言った顔と名前の一致する人物もいる。だがそれよりも中央の奥の席に座る人物が詩織の視線をうばった

 

 

「待ってたぞ」

 

「うっ...く、楠さん.....」

 

 

我が家のように知樹が上座に座っていた

 

やはり信じ難かった

何故知樹がこんな事をと

 

それも自分がこのような目にあってもなお信じがたかった

 

 

「く、楠さん!説明して下さい、どうしてこんなことを...っ!」

 

「分かっている。心配するな」

 

 

椅子に体重を預けたまま左手で詩織を制した

それでも未だ席をつこうとしない詩織に対し、しびれを切らしたのは知樹では無く、ガンリだった

 

 

「おら、座んなよ!さっさと飯食おうぜ、アタシは腹ぺこなんだよー!」

 

「い、嫌です!ちゃんと説明してもらわないと...駄目です!こんな状況でごはんなんて...」

 

 

次に口を開いたのは知樹の方だった

背もたれに深く座り直すと、子をなだめるように優しく語りかけてきた

 

 

「最初から全部説明する。だからまずは座って食事をしようぜ?」

 

「な、なんでそんなにご飯に拘るんですか!」

 

「食欲が失せるからな」

 

 

本気で言っているようだった

詩織が話を聞くためにはどうしても食事は避けられないようだ

 

ふと視線を逸らすと空腹に怒りを覚え始めたガンリと、黙って俯いているバシュが目に入った。その向かいの席には今にも眠りに付きそうな男と、いつも通りのカムイ。少し奥の席では初老の男性と、三つ編みの女性が各々メガネとモノクルを磨いている

 

ここで何故か詩織は、これ以上彼らの食事を遅らせては申し訳ないといった謎の感情に陥り、不承不承と言った具合で席についた

 

 

知樹が満足げに頷くと、間もなく詩織達の通ったものとは別の扉から、黒服の男達が重々しい台車をいくつか運んでやってきた

 

大きな鍋や皿、ナイフやフォークが大きなものから小さなものまで揃って載せられている

 

トングなども見られ、サーブするためのものだと分かった。じっと見つめていると、知樹が疑問に答えた

 

 

「...皆木が安心して食せるための処置だ。ここにいる全員が同じ料理を口にする。目の前で取り分ければ信じてもらえると思ってな」

 

「そ、そこまで疑ってはいませんけど...」

 

 

誘拐されておいて些か似合わない発言だった

だがここに来てからまるで客人のような扱いを受け、少し麻痺しているのかもしれない

 

数人の黒服の男達がスープやサラダ、中には生の分厚い肉塊まであり、どうやらそれは目の前で調理するようだ

 

見蕩れていると一人の男が詩織に近づき、丁寧な口調で問うてきた

 

 

「皆木様ステーキの焼き加減はどうされますか?」

 

「ふぇっ!?え、えっと...そこまでやってくれるんですか?」

 

「当たり前だ、俺たちは皆木を監禁するつもりは無い。遠慮せずに好みを言ってくれ」

 

 

普段このような扱いを受けたことはあまり無く、高級レストランにでもいるような気分を味わった。

 

詩織は暫く慌てた様子を見せたが、やがて蚊の鳴くような声で「レア」と発言した

 

その後もパンとライスの選択や、スープの種類。飲み物までも問いただされ、食事が始まる前に少しだけ疲弊の色を見せた

 

どうやら他の者達の好みは把握しているらしく、詩織の好みを聞き終えたところでスープから順にサーブを始めだした

 

 

「す、すごい料理ですね...」

 

「遠慮するなよ、皆木も慎也も見た目のわりによく食べるのは知っている。話も長くなるから好きなだけ食べてくれ」

 

「...は、はい」

 

 

俯きながら返事をした

 

慎也宅で食事を共にしたこともあり、大食らいを今更恥じることはないはずだ。知樹から視線を外したのは、恥の為ではなく、あの楽しく平和だった時を思い出したからだろうか

 

だが、これから知樹が話そうとする内容は、残酷過ぎるもの。執拗に食事を優先した理由を、詩織は嫌になるほど分かるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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◐日本-慎也の自宅

 

 

草薙家を後にした慎也は、あれから遅れて現れた化野に拾われ、そのまま自宅まで送られた

 

化野曰く、今日はこのまま直帰出来るらしい

明日は明日でまた本部に行かなければならないが、ひとまずは自宅で一息つけるようだ

 

久しぶりにも感じられる玄関は、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の本部や草薙家のものと比べるとお粗末にも感じられる

 

だがその玄関の前に2人の精霊がいるのは慎也の家ぐらいだろう。シエンとセラフィは慎也を見つけると信じられない速度で走ってきた

 

 

『殿!!御無事でしたか!?』

『マスターが帰還されました。呼吸正常、心拍数正常、バイタル...』

 

「お、落ち着いて」

 

 

主人の身を案じる精霊を宥めると、解錠し部屋へ入った。明かりを灯し、荷物を適当に置いて時計を確認すると、既に時刻は19持を回っていた

 

相変わらず質問攻めを続けるシエン達を座らせると、あのビルで別れてから起こった出来事全てを細かく説明した

 

 

あのビルで隠し部屋を見つけた事

詩織が乗せられたトラックを追った事

蛭谷が操作するバイクがトンネル付近で何かにぶつかった事

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に助けられた事

月下の事

 

そして慎也自身がS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間として、月下に戦いに行く事を

 

 

話の最中、シエンもセラフィも黙って聞いていた

だが、慎也がS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に入る話では少しだけ顔を歪めたように見えた

 

 

「...って感じかな」

『左様でございますか...』

「セラフィやシエンはあれからどうだった?」

 

『皆木殿が連れされた時、シザータイガーに異変が見られたのでひとまずモンスター界に連れていきました。それからは殿の決闘力(デュエルエナジ-)を感知できなくなったのでこちらで待機しておりました』

 

『ワタシはレオと共に黒川様を外へお連れしました。その後古賀様、東野様とご一緒にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に保護されました。後はシエンと同じくマスターを感知できなくなり、こちらで待機を』

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部は断絶金で作られてるって言ってたけど...シエン達が俺の場所が分からなくなったのってそれが原因?」

 

『恐らくその通りかと』

 

 

結果的にお互い無事だった事を安心した

月下の事も、慎也のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)加入についても、まだ色々と話すべきだが、慎也は一先ず話を中断させた

 

 

「さて、いつ帰ってくるか分からないし、冷蔵庫の中空にするよ。あるものでご飯にしよう」

 

『いえ、我々がご用意いたします』

『マスターはご寛ぎ下さい』

 

「そ、そう?...じゃあお願いするね」

 

 

椅子から立ち上がろうとした慎也をシエンが制した。普段から慎也と共に家事を行ってきたシエン達なら、慎也がいなくとも問題なく料理はできる

 

今は疲れているであろう主を、少しでも休ませようと慮った

 

早速台所に向かうセラフィと、灰皿やコーヒーを慎也の元に用意するシエン。そしてレオは慎也の鞄を抱えながらこちらに寄ってきた

 

 

『ご主人!なんか震えてるガルッ!』

「うん?」

 

 

鞄を検めると、受信用の端末に何かメッセージが来ていた。化野から、彼のコードが乗せられた内容だった。そして一言だけ、明日の正午に迎えに来るとのことが書いてある

 

日本を去る準備が進むにつれ、いよいよ月下に赴くのだと意識に変化があった

 

愛煙している煙草を燃やすと、自宅の空気を煙ごと吸い込む。決意が薄れないよう、力強く煙を吐くと台所から油の跳ねる音が聞こえてきた

 

 

持て余した時間を有効活用するために、安山から受け取った書類を取り出した。まだ1枚の記入が済んでおらず、一先ず手の付けやすそうな書類に手をつけ始めた

 

 

 

黙ってペンを走らせ続けると、やがてセラフィがいくつかの皿を手に現れた。蕎麦のサラダや、根野菜のスープ、スペイン風のオムレツや、保存された食材を無駄なく活用した品々だ

 

だが、品数こそ多いものの、慎也一人分しか用意されていなかった。

 

 

「あれ...みんなのは?」

 

『マスター、お話が』

 

 

改まった雰囲気でセラフィが慎也に向き合った

シエンもレオも静かに控え、セラフィの代弁を待っていた

 

 

『マスターはこれから月下と言う未知の世界に戦いに行きます。そしてワタシ達はマスターと共に行く事は難しいです』

 

「難しい...俺一人ってこと?」

 

『考えられます。月下には断絶金が自然生成されております。日本と月下を繋ぐ場所によってはワタシ達は何も出来ない可能性があります』

 

「...ビルで言ってたこっちに来たばっかりのレオでも断絶金は駄目なの?」

 

『断絶金はあらゆる決闘力(デュエルエナジ-)を拒絶します。ワタシ達は一切の干渉ができません』

 

 

シエンは頷き、レオは軽く唸った

もう1度並べられた料理を見ていると、セラフィは最後に一言だけ付け加えた

 

 

『マスター、マスターはこれからご自身の事をご優先下さい。皆木様を助ける事も大切ですが、マスターが死んでしまっては意味がありません。この食事はその願掛けのようなものだと思ってください』

 

「...」

 

 

出来たての料理も冷めてしまいそうだ

セラフィ達の言うことも、考えも理解できる

 

すぐ近くまで迫る孤独感や、未知の世界への恐怖感を改めて覚えると、目の前の皿に手をつけない理由は無かった

 

いただきますと一言

精霊達が腕を奮った品々を存分に味わった

 

 

咀嚼する度に、今までの苦しみや楽しかった思い出までもを素材の味とともに思い出しす

絶対に詩織を助けに行くのだ

 

 

青年の若い胃袋は、その募ったすべてを収める程に許容があり、空腹感がなくなると、決意はきつく定まっていた

 

月下との戦いが始まるのだ

 

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