遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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ハッピーバレンタイン
はっぴー...ばれんたい...


EX episode04 Cross Chocolate

本編に入る前に少しだけ聞いてもらいたい

 

2月14日

 

事の発端は何だったのだろうか、今日では思いの相手へチョコレートをプレゼントする日という認識となっている

 

受け取った者は3月の14日にお返しを

さらに成就した者達は翌月のオレンジデーにまた何かしら励む事となるだろうか

 

学生は特に能動的に参加しているように見受けられる

黙っていても同じ学校まで来るのだ、日付さえ掴めていれば渡すタイミングなど腐るほどに存在する

渡す相手はさほど問題では無い。友達やお世話になった相手、真の想い人だけに渡す必要など毛頭も無い

 

また学生だけでなく、社会人の者達も渡し受け取りするだろう。その場合の殆どは「義理」に当てはまり、お返しや渡すこと自体へ煩わしさを感じ、そもそもバレンタインデーを禁止する企業も多いとか

 

そもそも「義理」とは何か

これまた本来の意味が消滅しつつある言葉に思えるが、両者の関係を取り繕う架け橋のようなものと考えると、「義理チョコ」の意味合いも汲めるかもしれない

 

恐らくだがこの日付とチョコレートに何の意味も存在しないのだ。只只、「皆がやっているから己も参加する」と言った日本人らしい集団心理の一種なのだと私は言いたい

ではそれの何が問題なのだろうか

答えは「一向に構わない」だ

 

想い人との接点のきっかけ

日頃の世話への恩返し

友好関係の物体化

何だって構わないのだ

 

それに乗じた企業の取り組みも良いものだと思う

可愛らしいのぼりやポップ、毎年変化を経る新たな商品。中には自分自身へのご褒美として購入する者も久しくないはずだ

なんの問題も無い

それぞれが楽しめればいいと半ば客観的に感じてしまうが、否定的な意見はあまりない

 

だが、否定的な人間も多いと思う

「リア充が呼吸してんじゃねーよ」や

「2月じゃなくてもチョコ食ってんだろコラ」とか

「義理なら躊躇してねーで俺らにもよこせ」とか

「普段しないくせに張り切ってんじゃねえよ、テメェの自信作の写真上げるなら三角コーナーも晒せ。皿洗いまでが料理なんだよクソが」とか

「関係ないイベントのせいでチョコ食べづらくなるのは俺のせいじゃない。好きなタイミングで好きな物食べれ無いぐらいならリア充とバレンタインデーが無に期し二度とこの世界に形成さないでほしい」など考える人もいると思う。私は違うが。

 

それもまた仕方の無い事だ

度合いは違えど迷惑を蒙っている人も多い中、楽しむ者もいる。では、誰かに迷惑をかけて自分達が楽しむイベントとは「正義」なのだろうか

 

それだけ聞けば答えはNOだ。

他者を顧みない企業ぐるみのイベントなどあってはならない。だが、世間はそうは考えない

 

それは結局の所「集団心理」なのだろう

いつからだろうか、バレンタインデーに一人ぼっちな事を、チョコレートを1つも貰えない事を、想い人と過ごす者達へのヘイトをぶつける事を「ネタ」として自ら放つようになったのは

 

自称非リア充

若しかすると正真正銘の非リア充なのかもしれない。だが、ネットで見かける「ファッション非リア充」達には軒並み心が揺れない

 

何が言いたいか伝わるだろうか?

そう言った「ファッション非リア充」達による「非リアの模倣」そのものがバレンタインデー等非リア充に厳しいイベントへの孤独感をより一層引き立てているのだ

 

考えてみて欲しい

バレンタインデーにチョコレートを貰えなくて何か困った事があっただろうか

強いてあげるなら他者への劣等感、孤独感だけだ

そしてそれは周りの環境にもよるが、さほど大きな問題ではなかったはずなのだ

 

少なくとも私の中学生時代はチョコレートを貰えなくても「当たり前」だった。無論学校にお菓子を持ち込む事が禁じられていたのもあるが、本当に渡したい者は放課後にアポイントメントを取っていたものだ

 

母や近所の幼なじみから貰えれば美味しく食し、3月にはお返しを考える。それも時代ともに薄れていき、やがて今では誰からも貰えない

高校生時代では自由がきき、友人や男友達から冗談で貰ったこともある。甘党であるし、当然受け取って嬉しいものだった

本来であればそれぐらいでいいのだ

想い人がいるなら勝手にすればいいし、貰えないならわざわざ報告など要らないしクソの役にも立たない

 

他人の幸せ等わざわざ聞きたくもないし要らない

不幸報告等もっと要らない

少し紆余曲折を経てしまったが結局の所、本来の意味も分からないイベントを楽しむのは結構だが、自己責任で頼みたい。

渡す者がいるのなら渡される者もいる

貰える者がいれば貰えない者もいる

参加する人も参加しない者も、そもそも興味がない者だって「当たり前」に存在するのだ

 

参加したってしなくたってただの人間

そもそも廃りきったイベントの事で頭がいっぱいになっている事に両者変わりは無いのだ

そんな所で個性を探すな、見出すな

所詮「集団心理」の食い物(チョコレートだけに)と化したこの日付を生きていると言う点においてはベランダで煙草を吸うおっさんもバリバリに残業しているサラリーマンも、冬休み中の学生もここぞとばかりに洗い物を溜め込んでいる女性も同じなのだ

 

意識をするな

2月14日はただの平日だ

それをどう過ごすか、楽しむかはアナタ自身が決めることだ

想い人に渡すのならドキドキすればいい

受け取れるか楽しみならソワソワしていればいい

端から諦めているならヘラヘラしているといい

他者が妬ましいならイライラしろ

 

それでいいのだ

 

 

さて、作者自身のヘイトは見るに堪えないものだったかもしれないが、前置きはここまで

以下は大学生達の、聖帝大学のバレンタインデーをご覧頂きたい

 

 

 

 

 

 

*

 

 

【村上慎也のバレンタインデー】

 

 

「慎也さ!」

 

「うん?」

 

「今年チョコレート何個貰った?」

 

「今年ね〜」

 

 

2月14日午前11時

慎也宅のリビングでこれまた慎也の淹れた、まだ熱を帯びたココアの入ったマグカップを手のひらで包ながら灰田が質問を投げかけた

 

バレンタインデーらしい質問かもしれない

本人にとっては至らない世間話のつもりで口にしたそれも、慎也にとっては癪に触るようなものだったらしく、キッチンのオーブンを開けると同時にため息をついた

 

 

「マイナス1個だね」

 

「なんでマイナスなの?」

 

「1個ももらってないのにお前に上げるから」

 

 

こんな体験はあるだろうか

休日の午前9時両手にスーパーの袋を掲げた友人が玄関の前にいるなんてことが

 

その日の慎也も初めての体験だったが、要件は「チョコレートを振舞え」との事

御丁寧に材料まで用意され、他に用事のない慎也に逃げ道など無く、朝食も片付け終えたばかりのシンクを再び散らかす羽目になったのだった

 

しかし、問題は彼の買ってきた材料にあった

チョコレートを作れというのに肝心のチョコレートは存在せず、仕方なくココアパウダーを持ちいたクッキーにしようと手伝わせると、今度はバターをレンジで溶かす始末

 

はたまたケーキにしようとレジ袋を改めるとベーキングパウダーも買っていない

更にはココアが飲みたい等と言うのだから要の材料は底を尽きた

出来上がったのは普通のバニラマフィンだった

バレンタインデーとは何だったのか甚だ疑問に感じるが、やはり灰田も同じ意見のようだった

 

 

「慎也、なんでチョコ味じゃないの?」

 

「お前が買い忘れたのとココア飲んじゃったからだろ!」

 

「あ、そっか!」

 

 

そう言いながら慎也は灰田の向かいに腰掛けると、いい加減我慢出来なくなっていた煙草に火をつけ出した

オーブンを冷ますために扉は開いたまま、洗い物も同時に済ましていたため、細々したものしかない

 

 

「慎也、出来たの?」

 

「うん、勝手にどうぞ」

 

「いただきます!」

 

 

まだ熱々のマフィン1つ手に取ると、再びリビングまで戻ってきた

テーブルに直接置くと、合掌を経て大きくかぶりついた。そこだけはしっかりした人間だ。

 

だが焼きあがったのは本の数秒前

「あふっあふ!」等と抜かしながらも表情は美味を訴えていた

 

 

「美味い!...けどあんまり膨らまなかったね」

 

「ベーキングパウダー入ってないから」

 

「あとやっぱりチョコ食いたい!」

 

「だったら忘れるなよ...」

 

「あ!」

 

 

何かを思い出したかのように灰田は短く叫ぶと、持参してきた巨大なリュックを漁りだした

さほど時間もかからず取り出したのは可愛い放送紙に包まれた長方形の箱

 

彼なりに丁寧に包装紙を破くと、中には見事なチョコレートが鎮座していた

 

 

「...それどうしたの?」

 

「近所に住む料理が上手くて美人な未亡人から貰ったの!」

 

「未亡人って言うな」

 

「んでこれが姉ちゃんから、これが学校の人から!」

 

「...え?」

 

 

まだバレンタインデーが始まってから午後にも達していないというのに彼は既に3個も獲得していた

耳と目を疑う事だ

 

彼が毎年大量のチョコレートを受け取るのは慎也も知っている。だがここまで早期の段階で数を稼ぐとは思ってもよらず、ただ渡した方の神経を疑うばかりだった

 

そして何よりも学校と言っていた

最も解せないのはそこだった

 

 

「いやいや...だってウチの大学1月の末からずっと春休みじゃん...どうやって貰ったの?」

 

「うん?普通に家まで持ってきてくれたり駅まで取りに行ったりだけど!?」

 

「えぇ...そこまでして渡しに来るのか...って家!?」

 

「うん!」

 

「家知られてるのもそうだけど...わざわざ家までくるとか、しかも朝から...それってやばいんじゃ...」

 

「電話なってるよ?」

 

 

大学生にもなると2月は基本的にどこも春休みだ。

そのためチョコレートを渡すなど余程のことが無ければ成さないだろう。家まで行くのも地元が近いか、それほど仲がいいからこそ行う

そして後者の中でも特別想いが強いからこそわざわざ自宅まで届けに行くのだろう。

 

大学生によくある事だが、構内で仲が良くとも自宅まで遊びに行くのはあまりない

それは距離にあるだろう。県を跨ぐことも珍しく無いし、移動が大変だ

 

それはさておき、慎也は震える携帯を手に取った。ひとまず灰田へ執拗にチョコレートを届ける女性の話は終えるが、やはり慎也にとって解せない内容だった

当人である灰田は構わないと言った様子でマフィンを主食に、今朝受け取った明らかな本命チョコを食し始めた

 

両手に甘味を持つ姿は滑稽だが、慎也は携帯の画面をスライドし通話に応じた

 

 

《よぅ、慎也。今暇か?》

 

「あぁ蛭谷か...うん、まぁ暇だよ」

 

《そぅか、今から家行ってもいいかぁ?》

 

「いいよ、丁度灰田もいるし」

 

《おぉなら丁度いいわ、んじゃすぐ行くわ》

 

 

なぜ蛭谷にとって灰田の在宅が丁度いいのか気になるが、バレンタインデーに野郎が集まる気配が現れた

 

特別意識していない慎也も少し身構えるスケジュールだ。多めにマフィンを焼いておいて良かったとひとまず安心すると、早くも2本目の煙草を燃やし始めた

 

 

「誰からだった?」

 

「蛭谷、こっちに来るって」

 

「あ、そう言えば知樹も来るって言ってたよ!」

 

「そうなんだ」

 

「あと古賀も」

 

「なんで俺に言わないでどんどん誘うの?」

 

「あ!駄目だった!?」

 

「いいけど...と言うよりなんであいつらは俺じゃなくて灰田に聞くんだよ」

 

「サプライズ?」

 

「遊びに来るぐらいなら連絡入れて欲しいよ、すぐ帰るならまぁ、わざわざ言わなくても...いや、お前らはこれから絶対連絡して。夜遅くとかにこられても困るし」

 

「分かった!」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

2月14日正午

 

 

「お邪魔するぜ」

「お邪魔〜」

 

「いらっしゃい」

 

 

少し時が経ち、蛭谷と古賀が先陣を切って入室してきた

最早インターホンを鳴らさないのもご愛嬌、慎也が玄関まで赴くことも無く彼らが奥のリビングまでやってくると、2人が持つレジ袋が気になった

 

 

「...何それ?」

 

「タコパしよ!」

「いやお好み焼きパーティやろうぜぇ」

 

「はぁ...」

 

 

尚更予め家主に聞いて欲しかった

それも買い物に行った2名の間でも意見が一致しておらず、慎也は答えること無く袋の中を検めた

 

案の定だった

タコやキャベツとそれぞれの材料はあるのだが、肝心の小麦粉が存在していない

 

 

「小麦粉無いのにどうやってたこ焼きとお好み焼きやるのさ?」

 

「あれ?いやいや買ってあるよ、これこれ!」

 

「それはホットケーキミックスだわ」

 

「まじかよ...あ、でもチョコは買ってきたぜ」

 

「蛭谷!チョコ頂戴!」

 

「ほらよ」

 

 

レジの前に展開されていたのだろうか、そのまま食しても良い、お菓子作りにも応用出来そうなブラックチョコレートが灰田に投げ渡された

 

なぜチョコレートを買いに行った灰田がチョコレートを買い忘れ、お好み焼きの材料を買いに行った蛭谷達が小麦粉を忘れるのだ

ホットケーキミックスではやや甘みが出てしまう。たこ焼きもお好み焼きも出来そうにない

 

灰田が買ってきた小麦粉もあるが、やはり4人分を賄えるか怪しい量だ

 

 

「仕方ねぇ...あ、知樹暇か?」

 

《あぁ、死ぬほど暇だ》

 

「なら慎也家でお好み焼きパーティーしねぇか?」

「たこ焼きだよ!」

 

《丁度腹も減っていた所だ、直ぐに行こう》

 

「なら悪ぃんだけど来る途中小麦粉買ってきてくれねぇか?」

 

《了解だ》

 

 

短い会話の中でも要点を確かに伝えると、蛭谷は携帯をテーブルの端に起き知樹を呼んだことを報告した

 

最早指摘するのも煩わしかった

家主を置いてけぼりにして仲間を集めるな、と

 

 

「んじゃさ、楠ちゃんが来るまでに準備してようよ〜!」

 

「小麦粉無いのに?」

 

「あ〜じゃあさ!これで作ろうよ!」

 

「ホットケーキミックスじゃ甘いでしょ」

 

「だから開き直ってチョコ入れてさ、ね!」

 

「確かにそれならタコパでもいいかぁ...」

 

「そんなにお好み焼きが良いなら夜やろうよ〜」

 

「おっ、そうするかぁ!」

 

「夜までいるのか...」

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

午後12時16分

 

 

「お邪魔するぞ」

 

「おっ〜来たきた〜」

 

 

発言通り比較的早く現れた知樹がレジ袋を片手にリビングまで訪れると、頬を赤らめた古賀が出迎えた

 

既にいい香りが部屋中を埋めているが、お好み焼きと聞いていた知樹はそれが気がかりだった

レジ袋の中身は小麦粉が2つに、卵や冷凍の海鮮類、キャベツや鰹節などで満たされている

だがテーブルに鎮座するのはたこ焼き器

慎也宅にある焼肉やたこ焼き、お好み焼きなど全てに対応できるホットプレートの上には、甘い香りのするたこ焼き?が我が物顔で居座っている

 

 

「なんだ、お好み焼きと聞いたんだが?」

 

「それは夜ご飯にした!今はホットケーキミックスでチョコ焼き作ってんの〜!」

 

「それはいいんだなよくチョコレートで酒が飲めるものだな?」

 

「意外と行ける!食べてみ!」

 

「どれ」

 

 

簡易的に手洗いうがいを済ませると、古賀に渡された500mlのビールのプルトップを開き、空いた席に座った。まずは喉を潤すと、灰田がよそった数個のチョコ焼きを口にする

 

美味だ

だがホットケーキミックスとチョコレートで作ったものだ、味は食べる前からだいたい予想がついていた

そこで乾きを訴える喉にビールを流し込むと、不思議な感覚に陥っていた

 

 

「...ほう、悪くない」

 

「でしょ?でしょ?ここにミントシロップをかけると...っ!?」

 

「.....これは不味いぞ」

 

「えぇ〜ビールに合うじゃん!?」

 

「「「合わねぇよ」」」

 

 

育ち盛りの男子5名の胃袋を満たすのに、やはりホットケーキミックスで繕ったチョコ焼きでは似がおもすぎた

 

そこで知樹が持ち込んできた小麦粉の袋を開け、慎也は早速たこ焼きの生地作りに移行していた

小麦粉、水と出汁、そして卵。先端を切り捨てたタコの切り身と同時にリビングに再び姿表すと、ほろ酔いの蛭谷らの拍手で出迎えられた

 

 

「いよ!たこ焼きだ〜!」

 

「古賀飲みすぎじゃ...」

 

「いいのいいの!さっ、早くやろうよ〜!」

 

「ビールお代わり取って!!」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

午後14時

 

 

「そう言えば皆チョコ何個貰った〜?」

 

「俺5個!」

 

「颯希がくれたぐらいだなぁ」

 

「ならさっき小麦粉と一緒に買ってきたヤツやるよ」

 

「2個になったぜ、そう言う拓郎は何個貰ったんだぁ?」

 

「昨日バイト先で大量にもらったよぉ〜」

 

「すげぇじゃねぇか、どんくらいだぁ?」

 

「先輩から30個!」

 

「多すぎんだろ」

 

「ご発注のやつだよ、自費で買い取ったやつ貰ったの〜」

 

「1人から30個か...お前に気があるのかもな?」

 

「まさか〜男だよ〜」

 

「でも本当に気があったとしも、1人から30個も渡されたら怖いよね!」

 

「サイコだなぁ」

 

 

食後慎也が洗い物に勤しむのを他所にテレビゲームに釘付けの男子4名の会話

 

やはり話題はチョコレートの数

そして買い物に行った男子はなぜチョコレートを買ってくるのか慎也には疑問だった

 

既にゴミ箱には大量のチョコレートの箱でいっぱいだ。たこ焼きを食しつつ、酒をしなみ、よくもまぁ胃袋に収められるものだと関心を通り越して呆れてもいた

 

最後の皿を洗い終えると、また煙草に火を灯す

それなりにゲームで盛り上がる男子4名を肴に吸うタバコはいつもの味だった

 

 

「にしても”スカイビークル100”ってゲーム、おもしれぇな。颯希が欲しがるのも何となく分かるわぁ」

 

「デザインが可愛いよね!」

 

「だが敵の強さがおかしくないか?前のボス倒した時はこの装備で余裕だったはずなのだが...少し進んだらその辺の雑魚も倒せないじゃないか」

 

「調べても攻略サイト出ないんだけど〜どんだけコアなゲームなの〜!」

 

「...」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

午後20時

予定どおりお好み焼きパーティーを楽しんだ一向は、長時間接種し続けたアルコールの事もあり、完全に出来上がっていた

 

酒が飲めない慎也を除いて

本日何度目かの大量の洗い物に苦労する中、4名の男子達は決闘(デュエル)で盛り上がっていた

 

 

「ちょwww[ヘイカン]使った[フルアーマード・ウィング]は倒せないwww」

「これぐらい突破して見せろよ」

「じゃあ[シロッコ]効果で攻撃力アップ!ダメステに...」

「[聖バリ]だ」

「ちょぉwww」

「よき力だ...」

 

「[死者蘇生]発動!」

「ならチェーンして[墓穴の指名者]だ、除外するぜぇ」

「あぁ!じゃあもう[青き眼の激臨]!!」

「まじかよ!?」

「...あ、デッキから[青眼の白龍]一体だけ特殊召喚!」

「一体www手札墓地全部除外して一体www」

 

「...帰れよ」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

午後23時46分

 

 

「次の店に行くぞ〜!」とだけ残し、酔っ払い4名をが帰るのを見届けると、慎也にようやく休息が訪れた

 

疲れた

朝から必要以上に洗い物をし、チョコレートなど考える余裕もなかった

 

 

「...ふぅ」

 

 

そこで思い出した

今日はバレンタインデーだった

そして自分は振る舞うばかりで受け取っていない

 

 

「.....いや、まぁ...皆買ってきたのが!?」

 

 

この際酔っ払いの残した市販のもので構わない

甘味を求める下を黙らせる為にも冷蔵庫を開くが、お好み焼きやたこ焼きで余った材料しか存在しない

 

ゴミ箱を確認すればあの大量のチョコの行方がわかる。あの男子4名が全て食したのだ

たこ焼きもお好み焼きも酒も、冗談半分で購入したチョコレートも全て綺麗に食し帰ったのだ

慎也が食す分は無い

 

朝から作ったマフィンも全て無くなっている

 

 

「...底なしかよ」

 

 

まるで裏側守備にでもなった気分だった

もとより食に関しては貪欲な慎也の舌は既にチョコレートだけを求めていた

 

朝から天ぷらであろうと作るが、カカオからチョコレートなど作れるはずもない。言ってしまえばカカオも無い

 

スーパーはもう閉まっている

ではコンビニにでも行こうか、情けなくとも無慈悲に甘味を求める自分自身に嫌気がさしつつも、沈めることは無理に近かった

 

テレビの電源を落とすと、近場にあったコートを羽織った。仕方ない、意を決して玄関に向かうと、丁度インターホンが鳴り響いた

踵を返して受話器を手に取ると、聞きなれた可愛らしい声が慎也の鼓膜を刺激する

 

 

《あっ...む、村上さんっ!?》

 

「あぁ...詩織ちゃんか、どうぞ」

 

 

マンションのオートロックを開けた

もう間もなく詩織は慎也宅まであがってくることだろう

 

だがほんの少しだけ落胆してしまった

今直ぐにでもチョコレートが食べたいのだ。来客を無下にも出来ないため、不承不承ともとれる心境だった。

 

こんな時間に何の用だろうか

そんな疑問よりも早くチョコレートが食べたいとだけ脳内を開け巡っていたのは、詩織に失礼なのだろうか

 

 

「おおおおお邪魔します...」

 

「どうぞ」

 

 

緊張を隠さない詩織をリビングまで連れていくと、マグカップにココアを注いで手渡した

 

ありがとうございます

控えめな声でそう告げると、熱いにも関わらず詩織は一気に飲み干してしまった

 

だがやはり熱いものは熱いらしい

涙目で咳払いをすると、ようやく決意したかのように慎也に問うた

 

 

「あ、あの!村上さん!」

 

「どうしたの?」

 

「ババババレンタインデー...ですね!?」

 

「うん」

 

「チョコ...とかって...貰いました?」

 

「マイナス4個かな」

 

「ま、まい...え?」

 

 

今日起きた出来事を話した

世間話にも、自傷的にもとれる内容に、詩織は相槌を打ちながら耳を傾けた

 

やがて話終えると、どこか安心したような表情を見せた。嫌に魅力的な笑みに思わず慎也も目を奪われたが、目が合ったことを恥じたのか視線を外すと同時に詩織は持参した紙袋を慎也に突きつけた

 

 

「どうしたの、これ?」

 

「えっと...これは...」

 

 

モジモジと頬を赤らめながら慎也の視線から身をそむけている。だがこれだけ突きつけても、今日がバレンタインデーでも慎也は中身が分からないらしい

 

やがて意を決したのか、ポケットに忍ばせていたメモ用紙を確認すると、大きく息を吸い込んで告げた

 

 

「かかか勘違いしないでください!」

 

「えっ、あ...うん」

 

「別に村上さんのために作った訳じゃないんです!ただ...えと、余ったから...その、あげるだけです!では!」

 

「あっ!ちょ」 

 

 

良くもわからない台詞を残して詩織はリビングを、慎也宅を後にした

夜も更けた街の中へ疾走して行く様はどこか不思議なもので、慎也は詩織が去った後も状況を理解出来ないでポカンとしていた

 

台詞の意味は分からなかった

だが何かをくれた事は伝わったので、紙袋の中身を取り出してみた

 

 

「...なんだろう」

 

 

また別の包装紙に包まれており、それを丁寧に開けると無地の箱が現れた

中身を取り出すと、恐らく手作りの菓子が整列している

 

そうか

バレンタインデーだからか

 

思わぬプレゼントに驚きも程々に笑みが浮かんでいた。丁度チョコレートが食べたかったのだ、しかも女子から貰えた

 

嬉しくないはずも無く、逸る気持ちを必死に抑えながら1つ手にした

 

 

「...美味しい」

 

 

美味だ

一日の疲れや苦労が報われるような逸品

文句のない代物だが、受け取った時から疑問に思うそれは拭いきれていない

 

紙袋が洋服を入れるようなサイズなのだ

それもぎっしりとそれぞれ可愛らしい包装紙に包まれた丁寧な物。明らかに量がおかしかった

 

 

「1、2、3...40個も入ってる...」

 

 

よく見ると女性らしい丸文字でケーキ、クッキーなど中身の詳細が記されていた

それが40個

 

学校が休みなのだからわざわざ届けに来てくれたのだ。夜遅くになってしまったのもこの量を見ればわかる

 

 

「...」

 

 

なんだか食べるのが勿体無くなってしまった

だが食べない訳にもいかない

それに量が量だ、これからしばらくはチョコレートの日々が続くだろうと、嬉しい悲鳴を上げた慎也は、また静かに詩織お手製のチョコレート菓子に舌ずつみを打ち出した

 

 

「ありがとう...詩織ちゃん」

 

 

灰田へチョコ渡した者へ指摘したように、詩織は夜更けに家までわざわざ届けに来た

サプライズと言わんばかりにアポもなしに突然やってきた

大量のチョコレートを片手にやってきた

 

何が言いたいか伝わるだろうか?

この日の男子達の会話を思い出して欲しい...

 




以上慎也君のバレンタインデーでした
詩織ちゃんの奇行についてはホワイトデーにでも...

ぶっちゃけどうですか?

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