遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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もうすぐ夏休み!ということで頑張ってお話を進めようと思います!

期末レポート、期末テスト頑張ります!


第四十五話 時越の切先 

「はぁ...はぁ.....」

 

 

1人の男が混乱の中にいた

 

おかしい

 

作戦中、ビル内に侵入者が現れたと報告を受けた事は覚えている

いざその場所に向かって3人のガキを見つけた事も覚えてる

 

「これは....いったい....?」

「...多勢は時間がかかるね」

 

ふと呟いた疑問に誰も答えてはくれない。もう1度脳内で反芻して見ることにした

 

俺の相手は...茶髪の気弱なガキだったはずだが...

目の前のガキはどう見てもそのガキじゃない。俺は...

 

「...[ジェムナイトレディ・ラピスラズリ]の効果発動。エクストラデッキの[ジェムナイト・パーズ]を墓地に送り、フィールド上の特殊召喚されたモンスターの数×500ポイントのダメージを与える!」

 

「ぐわあぁぁっ!!」

「えっ...」

 

LP 2200→0

 «цпкпошп» LOSE

 

「...っ!」

 

そうだ思い出した。茶髪のガキは倒したんだ。あのメッシュのガキもやったが肝心の白黒のガキが残って...

 

「バトルだ、[ジェムナイトマスター・ダイヤ]でダイレクトアタック!」

 

それから俺ら2人がかりで決闘(デュエル)を挑んで...

俺だけが生き残ってるのか

 

「ぐおぉっ!?」

 

LP 8000→4100

 

 

その男の理解がやっと追いついた頃、もう1人の黒服は倒れ既に1対1になっていた。だがもう遅い、ダイレクトアタックが物語っているとおり、男のフィールドにモンスターは存在しない。

男が見上げた相手フィールドから5体の融合モンスターが睨みを効かせている

 

 

「.....っ!そ、そうか...貴様が.....」

「...なに?[ルビーズ]でダイレクトアタック!」

「ぐぁっ!?」

 

LP 4100→1600

 

自らのディスクの技術、痛みが男に窮地を知らしめた。もう敗北はすぐ目の前に迫っている。いまさら思い出しても仕方の無いことが脳裏に走り、己自身への叱咤へと繋がった

 

 

「貴様がボスの言っていた.....”希望”だったのか...」

「...そんな名前で呼ばれたことは無い、[セラフィ]でダイレクトアタックだ!」

 

止めを務めるモンスターの強襲を前にして、男がとった行動は身構えることでは無かった。咄嗟に空いた手をコートのポケットに忍ばせ、なにか操作をした

[セラフィ]がその無防備な身体に一撃を加え、やがてライフが0を刻んだ

 

「ぐわぁぁぁああっ!!」

 

 

 

LP 1600→0

 «цпкпошп» LOSE

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

「...やっと終わった、シエン」

『......はい』

 

これは主と精霊の会話。シエンを従える白黒の青年、慎也はあれから残り2人も沈黙へ誘い終わった。

いつもと少し様子が違う主に呼ばれ、シエンは恐る恐る言葉を待った

 

 

「.....古賀達は大丈夫なの?」

『...失礼します』

 

 

シエンが倒れている古賀に近づき、身を屈め触れた。首元、手首、そして呼吸を確かめると主に報告する

 

『大丈夫です、脈と呼吸は正常です。命に別状はありませぬ』

「そっか....よかったぁ...」

 

連戦の疲れや異端な緊張感によるものか、慎也は崩れるようにその場に座り込んだ。

ひとまず危険分子の排除は済み、不安定な安息を得た

 

『ですがこのままここに放置は危険です。どこか安全な場所...外へ避難させましょう』

「わかった、よっ...」

 

意識の無い東野を何とか担ぎ、立ち上がった。

普段の生活ではあまりしない動きに苦戦しながらも、何とか慎也は移動を試みた

 

「くっ...シエン、古賀を..」 

『殿、無茶をなさらずに...』

 

東野は比較的小柄な体格をしているが、1度に2人も担ぎ階段を降りることは無理に等しかった。シエンは古賀を抱いたまま渡そうとしない

 

「でもこんな所に置いていけないよ」

『我も手伝います』

「...できるの?」

 

シエンは慎也に仕える精霊だ。一般人には目視すらできない。そんな存在が一人の人間を担ぎ、外へ運ぶことが可能なのか

 

『我なら古賀殿と東野殿を同時に担いで行けます。問題は周りの人物に我の事が見えない事です』

「何か方法があるの?」

『はい、しばし殿のお体をお借りします』

「...体?」

『個体差がありますか、我ら精霊は”同化干渉”が可能です』

「”同化干渉”...?」

『はい。殿の高い決闘力(デュエルエナジ-)に呼ばれた我らはこの姿のままこの世界の物質に干渉できますが、それでも精霊としての肉体は持たずこの世界に存在しています』

 

 

シエンが慎也の元に現れてから結構経つ。扉の破壊や、古賀の安否の確認。それこそ普段の皿洗いや掃除、洗濯と慎也の生活な当たり前の様に干渉してきていた。

それ故に忘れかけていたが、彼は精霊。元はこの世界の存在では無く、当然肉体も無い。

 

 

「...そっか、そうだったね」

『この世界の肉体を得る事が出来れば本来の力で活動が可能になります。そこで殿のお体を一時的に拠とする事で古賀殿と東野殿を同時に助けることか可能です』

「...なるほどね、分かった。じゃあシエン、頼んだよ」

 

 

そう言い放つと慎也は両手を広げ、シエンと向き合った。今初めて聞いた精霊の裏技とも言える力の使い方などわかるはずもない。取り敢えず受け入れの姿勢を作った迄だ。

しかしシエンは何も始めようとせず、説明を続けた

 

 

『もう少しだけお聞きくだされ。この”同化干渉”にはいくつかのデメリットがあります』

「デメリットか...続けて」

『はい、まず肉体への負荷がかかります。一つの肉体に我と殿の精神が込められるので相当な疲労だけでは済まない可能性があります。最悪の場合、寿命を縮める恐れも...』

「...」

 

精霊に体を貸す事は安易なものでは無かった。寿命と考えもしなかったワードが決断を鈍らせるが、慎也の中には既に答えは出ていた

 

「...構わないよ。シエン、やってくれる?」

『殿...』

 

一刻も早く友の安全を確保したいようだ。先の人生など天秤にかけるまでもないらしい。

だがシエンの説明はまだ終わっていなかった

 

『殿、もう一つ方法があります...』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...はぁ...はぁ...つ、ついた!」

 

 

街中を駆け抜け、慎也達が戦うビルまでたどり着いた青年がいた。彼は灰田、灰田は慎也と遅れてインターンシップ説明会に来た後、近くの交番まで身一つで危機を伝えに行っていた。汗だくで再びビル前に佇むその姿は、慎也に託された司令をこなし、戻って来た事を語っている

 

 

「......慎也は?」

 

非常出入口には誰もいなかった...

厳密には一人だけ、黒いコートを来た人物が倒れていた。灰田は一瞬だけこの人物を見た記憶がある。慎也に無理やり決闘(デュエル)を挑んできた男だ

 

「えっ、死んでる!まさか慎也が殺しちゃったのっ!?」

「安心せい、殺してはおらぬぞ」

 

 

灰田の独り言に応えるように上空から声が響いた。ビクッと肩を震わせ、灰田が上を見上げるとそこには慎也がいた。

左腕で東野を、右肩で古賀を担いで非常階段を下ってくる

 

 

「あっ、慎也!無事だったの!?」

「うむ。ただ古賀殿と東野殿が敗れてしまった。息はあるが不安だ、安全な場所に頼むぞ」

「うん、分かった!...でも慎也はどうするの!?」

「我はもう一度奴らと戦いに向かう。詩織が心配だ」

「わ、分かった!気をつけてね!」

「うむ」

 

慎也から灰田は古賀と東野を受け取り、何とか担ぎ上げた。その表情は必死のもので、辛さがこちらにまで伝わってくるものだった。

それでも灰田は大きく頷き、慎也も任せたと頷く

 

慎也はそのまま今来た階段に戻り、再び高所へ、高所へと走り出した

 

「慎也すげぇ!良く二人も担いでここまで来れたな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

「...シエン」

『はい、”憑依”を解きます』

 

息の詰まった声で慎也がシエンに呼びかけた。シエンはそれだけで主が何を求めているかを察知し、慎也の体から離れた

 

「.....ぷはぁっ!」

『お体に異常はありませぬか?』

「うん...ただ”憑依”中ちょっと息苦しかったかな」

 

 

少し前には”同化”について話していたはずだが、今は”憑依”と言うワードがあがった。

 

『我ら精霊がこの世界の人間の体を借りる”同化”と比べ、我ら精霊の力を人間に貸す”憑依”はその程度の負荷で済みます。ですが危険な事には変わりませぬ』

「覚えておくよ、デメリットとして口調も変わっちゃう事もね!」

 

少し前頬を赤めながら慎也はシエンの説明を聞いていた。シエンの力を借りた影響で慎也の口調はいつもと違うものになっていた。いざ思い返すと少し恥ずかしかったようだ。

とにかく、シエンの力で古賀も東野も助けられた。便利な力だと慎也は納得していた

 

 

「でも男二人持ち上げても軽かった。デメリットも口調ぐらいで?」

『いえ、厳密には...「こっちだ!!」

 

突然の絶叫に足を止め、その方向に構えた。古賀と東野の安全を確保した慎也が向かっていたのは先ほどの5階。その声の持ち主は、どうやらその5階への入口付近にいるらしい。一つ下の階から慎也は息を潜めて伺う

複数人の話し声が聞こえた

 

 

『殿、どうするおつもりですか?』

「......まずは敵の出方を見る、多勢は避けたい」

 

このビルに来てからというもの、慎也は既に4連戦している。それも異質な決闘(デュエル)であり、油断できない。戦わなくていいのなら戦わない、そう考え今は息を潜める

 

「.....遅かったようです、侵入者が居ません」

「おいおいーっ!せっかく僕がここまで来たっていうのに!」

「も、申し訳ありません...」

 

 

会話から上司と部下らしき関係が伺えた。シエンから聞いた通り、相当な規模の組織らしい。少しでも情報を得ようと引き続き慎也は息を殺した

 

 

「まったく、で?本当に”希望”が現れたのかな?」

 

「少々お待ちを...ありました、確かにこいつの端末から送信させています。ディスクの解析をすれば確かめられますが...いかがなさいますか?」

 

「うーん.....時間もないし、それは放置でっ。それより”希望”らしき子はどこにいると思う?」

 

「5階から侵入したと言うことはこのビルの構造を把握している可能性があります。おそらく本館の方へ向かっているかと」

 

「それでいこうっ。”オキナ”が本館の階段を閉めてる、上から生徒の回収と同時9階から降りる。いいねっ?」

 

「「はっ!」」

 

 

足音が遠ざかっていった。敵はどうやら”希望”もとい慎也がビル内にいると勘違いしたようだ。古賀らを破った«цпкпошп»の兵が仲間を呼んでいたことにきづかなかったが、古賀らを避難させるために1度ビルを離れた事が幸いだった

 

「.....さっきから”希望”ってなんなんだよ...さっきの男も俺の事をそう呼んでたけと.....」

『はい...とにかく敵の位置が分かりましたな。どうされますか?』

 

 

現在は4階にいる。本館に行くには5階から進むことが望まれる。しかし、敵は上層階から降りてくる。今ならまだ5階は比較的安全だが、それは上層階にいる他の生徒が危険にあるという事も意味する

 

「.....レオとセラフィを呼ぼう、どうすればいい?」

『我を”憑依”した時と同じです。我ら精霊を受け入れ、精神と精神で会話するのです』

「......」

 

何度かやった事のある行動だ。

瞳を閉じ、遠くにいるセラフィとレオに語りかける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...一度集まって、俺のところに来てくれ

 

 

 

........

 

瞳を開く前に彼らに伝わった感触を覚えた。

間もなくセラフィが姿を見せ、若干遅れてレオも音なく現れた。少ししか離れていなかったが、心做しか安心を感じた

 

 

『お待たせしましたマスター』

『レオに何か用ガルゥッ!?』

「来たね、まずはどんな感じだったか教えてくれる?」

『ワタシは9階から7階まで調べました。数名聖帝の生徒を発見しましたが、皆さん無事でした。敵の数も多くなく、おそらく下の階に集中しているようです。また、マスターのご友人様方は発見できませんでした』

『1階から3階まで見たけど全然人がいなかったガウ!奥にも行けなかったガルッ!』

 

 

探索に向かわせていた精霊から現在情報を集め、整理し出す慎也。上層階には居ない、ならやはり下から探すべきか.....

 

 

「ありがとう...よし、セラフィは引き続き頼む。レオは5階から本館に向かって1階から頼む。わかった?」

『了解しました。引き続きご友人様の捜索ですね』

『ガウッ!レオも本館に向かえばいいガル?』

「うん。シエンは5階から下だ、俺は5階から上に行く」

『御意のままに』

「さぁ、皆頼むよ!」

 

 

慎也の一言で皆が走り出した。精霊と合わせ、4人も入ればこの広大かつ複雑なビルも効率よく探索できる。命に別状が無いとはいえ、古賀達も気になる。他にも多くの聖帝の生徒達がまだ«цпкпошп»の餌食になっているかもしれない。不安と分からない事ばかりだが、慎也は今出来る事を尽くす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........」

 

1人の初老がいる

巨大な非常扉を閉め、階段を封鎖している。それが彼に課せられた仕事のようだ。なにか扉に細工を仕掛けると手についた埃を払い、純白な手袋を纏った

 

 

「フゥッ......老輩には堪えますな」

 

自傷気味に深く息を吐くと、胸ポケットにある金属ケースを取り出した。そこから姿を見せたものは丁寧に畳まれた布。それを取り出すと左目にかけていたモノクルをはずし、几帳面に磨き出した

 

その後、スーツのポケットから何か端末を取り出しそれを確認した。それは彼に次の仕事を告げた

 

「.....来ますか」

 

 

階段は壁が阻み、壁はこの初老の男性が守っている形だ。その男はなにやら気配を感じとると、そちらの方へ注意を向けた。

間もなく廊下の先から現れたのは、2人の可憐な女性

 

「...申し訳ありませんが非常扉は施錠されました」

「あら、じゃあ開けてもらえるかしら?」

「ふふ...意地の悪いことを仰る」

 

端末をしまうと再びモノクルを磨いた。それを意識の切り替えのトリガーとし、男性は2人の女性と向き合った。前に出た女性が緊張の面持ちで声を発した

 

 

「...貴方は黒いフードじゃないのね?」

「......老輩には似合いませんでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

皆木詩織に...そしてそのご友人の黒川美姫ですな

 

 

 

 

 

 

 

「そんなこと無いと思うわよ」

「...可能であればこのままお話をしていたいものですが...残念ながら私にも仕事がありまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ若いこの子達を...お許しください

 

 

 

「美姫ちゃん!」

「っ!?...いつの間に」

 

 

初老の男性が狙った相手は黒川だった。

決闘(デュエル)の強制開始を行い、逃亡を封じると決闘(デュエル)を始めようとした

 

 

 

 

 

私を倒してくれても構いません。どうかこの運命に抗ってください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[超戦士カオス・ソルジャー]でダイレクトアタックだ!」

「ぐおぉっ!?」

 

LP 2100→0

 «цпкпошп»LOSE

 

 

何人屠ったか、慎也は数えていなかった

とにかく邪魔をする者を無作為に全てを倒した

 

 

「はぁ...はぁ......シエン、ここから別行動だ。俺はここから上に行く、下を頼むぞ」

『はっ、御意のままに』

 

倒れている黒服の男を越え、慎也とシエンは同時に走り出した。シエンは階段を駆け下り、慎也は二段飛ばしで階段を飛んでいった。

 

 

「...はぁ、はぁ.....っ!」

 

6階にたどり着くと廊下へとまた走り出した。

入り組んだ通路を進むと、やがて步を止めることになる

複数人の気配を感じたからだ

 

「.......!」

「...!」

 

「聖帝の生徒か...?それとも.....」

 

なにやら会話が行われている。それから味方か敵かを把握しようと壁を背に近づく。身を隠しながらそちらに目をやると、その人物達は後者だった

 

 

「チッ...敵か」

 

 

「.....そうか、第2の”希望”の可能性か......」

「あぁ、今度は男だ」

 

「...また”希望”か」

 

 

ビル内に来てからよく聞くワードだ。先ほどの男は慎也に対してそれを使用していたが、どうやら名前ではないらしい。複数人の”希望”が存在し、慎也は2人目のようだ

 

「くっくっくっ.....てことは当初の”希望”の男かもな?」

「何を馬鹿げたことを」

「くくく.....女を回収して楽しぃー事...したら男はどんな顔するかねぇ?」

「下世話だ、それに場所もわかっていない、俺はただ徘徊して圧力をかけることしか出来ん」

 

「.....」

 

2人の«цпкпошп»は廊下を進んでいる。徐々に声が遠ざかるに連れ、慎也にも移動が促された

咄嗟に慎也は上着のシャツを脱ぎ、ズボンを捲りできる限り衣擦れの音を拒んだ

脱いだシャツは少し迷ったが、その場に放置した

 

 

「はっ...それはどうかな?」

「...俺らが配られた端末には発信機を読み取る機能はついていない。それともそんなに女に飢えているのか?」

「これを見ろよ」

「っ!.....お前どこで...?」

 

「...?」

 

遮蔽物でやりすごしながら距離を保つには、その端末を観察する事までは不可能だった。辛うじて男が見せた端末は特別おかしなものでは無かったが、もう1人の男はそれの価値を知っているみたいだ

 

 

「くくく.....中級が倒れてたからよ、くすねて来た」

「...なるほど、確かにそれなら”希望”の場所は分かるが.....結局俺らにはその任務は与えられていない。行くだけ無駄だろう」

「チッ...わーてるよ!」

 

 

「......あれがあれば奴らの言う”希望”と...」

 

 

”希望”や回収、中級など彼らにしかわからない隠語が飛び交うが、その”希望”は聖帝の人物...少なくとも«цпкпошп»の仲間ではないということは分かった。

どうやらその”希望”には発信機が取り付けられており、男の持つ端末を奪取できれば”希望”と接触が図れそうだ

 

 

「...危険だな。まず決闘(デュエル)避けられないだろうし、”希望”が味方とも限らない......」

 

慎也はもう少しだけ会話を伺うことにした

 

 

「...はぁぁ、全く残念だよ」 

「なんだ?そんなに”希望”を抱きたかったのか?まったく、お前には呆れる」

「何言ってんだよ、あんな上玉ほっとける方が玉無しだぜ!」

 

「.....チッ」

 

 

最早会話から得られる有益な情報は無さそうだ。舌打ちを一つすると彼らの追跡を辞め、反対方面へ進もうと方向転換した

 

 

「お前は胸があれば誰でもいいのか?」

「まぁな、ここだけの話だが俺は見つけ次第作戦を無視してでも犯すつもりだったんだぜ?独り占めしたかったなぁ!」

「...”希望”が倒せるのか?精霊持ちは確かだ」

 

 

 

「«цпкпошп»があるんだ、それにデストーイ対策も万全だったのによぉ...」

 

 

 

「......何?」

 

慎也をそこに留まらせるワードが出た。デストーイ使い、聖帝の生徒だとすればそれは1人しか思い浮かばない。再び壁に張り付き、より一層注意を向けた

 

 

「そこまで来ると脱帽物だな、不純な目的にしろ勝てるなら越したことはない」

「不純?おいおい日本では少数派が異端扱いされるんだぜ?」

「...どういう意味だ?」

「俺だけじゃねぇ、皆”希望”を狙っていることは確かだがそれは作戦だからじゃねぇ」

「.....なんだ、皆女1人犯すために動いているでも言うのか?」

「あぁ!」

「...世迷言を」

 

「......っ」

 

男の発言一言、一言が慎也をイラつかせる。プロを夢見る生徒達の心理を逆手に取り、こんなビルまで集めて襲撃。さらにそれが男の欲求を見たそうとするものだと陽気に語っている。

同じ大学に通う生徒として、これは怒り以外では表せない感情を覚えている

 

だが、一時の怒りに任せてしまっては仕方がない、深く深呼吸をし、まだ得られる情報が無いか模索を続ける

 

落ち着け、自分に複数回言い聞かせた

 

 

 

 

 

 

「世迷言じゃねぇよ。中級や下級...皆で賭けたぜ、誰が皆木詩織の名字を変えるかってよ!だからこの1週間みーんなムンムンとしててよ...ギャハハハハッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慎也の中で何かが弾けた

気づいた頃には敵の背後に屹立していた

 

 

「ハッハッ.....まぁ、俺らには苗字なんて......あ?」

「...む、ほら仕事だ。そこのお前、悪いが決闘(デュエル)で拘束させてもらう」

 

「...よこせ」

「......はぁ?」

 

慎也は既に戦闘態勢に入っていた

そして叫んだ

 

 

 

 

 

 

「その端末を...よこせ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な壁を前に、黒川が1人の初老の男性がいた

黒川はその場にうずくまっており、消えかけているソリッドヴィジョン越しに見えるその姿は正しく敗者のものだった

 

 

「.....申し訳ありません、せめてこの作戦が終わるまでごゆっくり.....とはいきませんか.........」

 

 

初老の男性が、倒れている黒川に対して呟いた。

しかし、それは彼女の耳には届かなかった

 

男は悲しげな表情のまま、どこかへ消えてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(.....疲れたわ)

 

......どれ位時間が経過したのだろうか、黒川は地に伏したまま、もう完全に逃亡を諦めていた。

 

この場に誰かが来ている。地の振動を体で直に受けているため、それはすぐに分かった。間もなく黒く深いフードを被った集団が姿を見せた

 

 

「こんな所にいやがったぜ!.....おいおい、なんだ違う女じゃねぇか!」

「まぁ、丁度いい。こいつも連れていくぞ」

 

 

(......まだ...)

 

 

黒服の言動に反応するかのように、黒川の上着が震えた。

痙攣する腕や、悲鳴をあげている足に鞭を打ち、彼女は立ち上がろうとした

 

 

「.....はぁ..はぁ...」

 

「驚いたな...まだ戦う気か?」

 

「...詩織.....貴方だけでも絶対に...」

 

 

黒川は必死に戦う姿勢を作る。

もはや戦える体力は残っていないはずだが、力を込めて立ち上がる。その姿を前に敵も思わず萎縮してしまった。両者しばらく睨み合いが続く...

 

 

 

 

 

 

 

カツーン.....

 カツーン.........

 

 

 

 

 

......僅かなその静寂に靴と床がぶつかる音が響いた

 

足音は1人分しかなく、それはただ1人だけが歩を進めているという事だ。

廊下の曲がり角から姿を見せたその足音の持ち主は黒川に気づいたようだ。黒川はその持ち主の声を背中で受け止めた

 

 

 

「黒川!」

「........」

 

 

黒川は自分の名前を呼ばれ、重い体を動かし声の持ち主を確認した。

そこには慎也がこちらに向かって走ってくる光景があった

 

だが、極度の疲労のせいか、ろくに話すことは出来ない。黒川が答える前にその慎也は黒川の元までたどり着いた

 

 

「...なんだ貴様は?」

「大方その女の男だろ?ついでだ、そいつも回収する」

 

「何言ってんだよ...黒川、待ってろすぐ片付ける」

 

 

黒川は必死に何かを喋ろうとしている。残酷ながら慎也は既に戦闘の構えに入っており、耳を傾けている余裕はない。黒川は必死に叫ぶ、届かない声で

 

(違うの...詩織を......詩織を助けに行って!!)

 

黒川の願いは虚しく、慎也も敵も臨戦態勢を崩す気配は見えない

 

 

「まとめてかかるぞ...」

「へへへ...ヒーロー気取りの兄ちゃん、悪く思うなよ!」

「さっさと”希望”の回収に向かう!」

 

「...そっちこそ」

 

慎也はディスクからデッキを取り出した。そして腰のケースから別のデッキをディスクにセットし、数枚のカードを入れ替えた。多勢用の調整だ

 

「3人で俺を止められると思うなよ...っ!」

 

 

慎也と黒服達の決闘デュエルは始まってしまった

 

 

「「「「決闘デュエル!!!!」」」」

 

 慎也 LP 8000

 «цпкпошп» LP 8000

 «цпкпошп» LP 8000

 «цпкпошп» LP 8000

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

 

「うわああぁぁぁっ!」

 

LP 800→0

«цпкпошп» LOSE

 

 

敗北者は倒れ、慎也はこれで3つ目の動かない肉塊を作り出した。

深く息を吐き、ディスクを片付けデッキのカードを再び入れ替えた

 

 

「.....黒川、大丈夫か?」

「.........えぇ、ひとまずは」

 

 

慎也が差し伸べた手を握り、ゆっくりと立ち上がる黒川。改めて見る慎也の顔は、どこか別人のようにも見えた

 

 

「それにしても......」

「......」

 

黒川が何を言おうとしているのかを分かっているのか、慎也は少しだけ苦しそうな表情を見せた

何も言わずに黒川の声を待っている

 

 

「貴方らしくない決闘(デュエル)ね.....村上君...」

「...」

 

 

慎也は何も言わなかった。何も言えなかったからだ。

だが、沈黙に耐えられず、それを破ったのは慎也自身たった

 

 

「.....それはもういい。それより歩けるか?」

「...歩くだけなら何とか......っ!そんな事より詩織!あの黒服の奴らは詩織を狙ってきてるのよ!」

「あぁ.....俺もこれでここまで来たんだ」

 

慎也が見せたものは見慣れない形をした端末。発信機の存在を先に知っていた黒川はすぐにそれが何なのか理解した

 

 

「.....詩織の発信機を追ってきたのね?」

「話がはやくて助かるよ.....詩織ちゃんはどこに?」

「少し前に私が決闘(デュエル)している間に逃がしたわ.....私にもどこにいるか分からないの」

「.....そうか」

 

 

慎也は黒川から視線を壁に向けた。携帯に入っているビルの地図と照らし合わせ、それが中央の階段を閉鎖しているものだと理解した。壁に手を当て力を込めたが、無論開くはずもなかった

 

これが全フロアに施されているとなると、いよいよ出口は非常口しかない

 

「.....俺が入ってきた別館の非常口から出よう」

「まって、私はいいから詩織を探して頂戴」

 

慎也は元来た道を戻ろうと歩くが、黒川は付いてこない。代わりに発した言葉は詩織の優先を命令するものだった

 

「...何言ってんだよ、黒川を放っておけないだろ」

「お願い.....あの子は過去に.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒川から語られた詩織のエピソードは、若き青年に決断を迫った。

 

慎也は走るしかなかった

たった一つの過去話が青年を走らせた

 

 

 




この当たり読みづらいかも知れませんが、しっかり回収するのでもう少し我慢をお願いします

ぶっちゃけどうですか?

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