遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる! 作:v!sion
時系列ガン無視ですし、脈絡もありませんが良かったら
10月31日
本来ヨーロッパ発祥の秋の収穫を祝う祭りの行事がある。古代ケルトではこの日が大晦日にあたり、亡霊や魔女がさ迷う日とも言われている
「ハロウィン」だ
今日では社会現象にすら陥るそれに何を思うかは人それぞれだろうか
しかし今年のハロウィンは平日も平日。聖帝大学構内もそれに相応しい装飾がちらほらと目立っているが、特別イベントがあるわけでは無い
「ーそれで、皆さんはハロウィンをどのようにお過ごすおつもりですか?」
講義の空きコマ
軽食を口にしたり、携帯ゲームに勤しむ等各々好きなように過ごしていた所に西条が問うた
慎也、灰田、知樹、蛭谷、黒川と皆木
偶然にも全員の講義が重なったための大人数なのだが、誰もが「何を言っているのだ」と言わんばかりの疑問を表情に出していた
数秒の沈黙を破ったのは灰田だった
鞄から何かの紙を取り出し、それを確認した後の発言だった
「俺は暇だよ!」
くしゃくしゃのコピー用紙をまた乱暴に鞄にしまいながら灰田が叫ぶと、知樹も予定が無いことを口にした
するとその様子を怪訝な様子で見ていた慎也が口を挟んだ
「ねぇ灰田、その紙は何」
「これ?予定をメモしてるやつ!」
「何でそれにメモしてるの...こないだ手帳買いに行ったじゃん、それはどうしたの?」
「どっか行っちゃった!」
灰田が200枚入のA4コピー用紙をメモ帳代わりに使用する事について言及している様だ
無くしたとの事を言っているが、慎也が灰田の鞄を検めるとそれは直ぐに姿を現した
新品さながらの状態だ
「あるじゃん」
「あ、ほんとだ!」
「良かったじゃねぇか、忘れないうちに予定写しとけ」
灰田は蛭谷に促され、しまいかけていたコピー用紙をもう一度取り出し机の上に広げた
まだ真っ白な手帳を開き、先が丸くなった鉛筆を取り出すと早速今月の予定から内容を模写し始めるようだ
だが知樹がここで疑問を口にした
灰田が右手で抑えているコピー用紙の文字があまりにも綺麗で読みやすい事に
「灰田、その紙見せてくれ」
「ん?はい」
一切の歪みが無いマス目
文字の感覚も一定、美しい並びだ
記号や数字も同じく見やすい
彼の手によって書かれていない事は明確だった
故に知樹はそれを口にした
「お前の字じゃ無いだろう?誰に代筆して貰ったんだ?」
「秋天堂さんでしょ」
灰田を親身に見てくれる1つ上の女性の名を慎也が上げた。最早その意見に誰しもが異論を唱える雰囲気では無く、流石の筆跡だと褒める流れになるかと思われた
だがそれは本人によって否定された
「いや!これは俺がえくせるで作った!」
「あら、灰田君パソコン使えるのね」
「講義でそういうのがあってね!父ちゃんのパソコン借りて作った!」
「復習という事か、いいじゃないか」
よく観察すれば人の文字ではない
その事に触れずに知樹と黒川から賞賛の言葉を受け取ると、灰田は包み隠さず喜びを見せる
すると皆木と慎也が脱力気味に横槍を入れた
「エクセルは良いんですけど...それと見間違う秋天堂さんの字って...」
「相当綺麗なんだろうね」
いつの間にか話題が切り替わっていた
一心地ついた所で本来の話題提供者である西条が今思い出したかの様にハッと息を飲んだ
「...ってそうではありませんよ!皆さんは10月31日は予定はどうするのですか!」
「俺ぁバイトだなぁー」
「えっ、蛭谷どこでバイトしてんの!?」
「んぁ?俺...」
「灰田さんは予定写してて下さい!」
指を刺されながら強めの命令を受けると、灰田は分かったとだけ残して黙々と手帳にペンを走らせ始めた
これで元の話が出来ると安心しかけた西条だが、何か悪戯気な笑みを浮かべながら慎也と知樹がすかさず口を入れた
「蛭谷さ!何処でバイトしてるの!?」
「俺も気になって仕方が無かったんだ」
「ちょ、ちょっとお二人共!」
それを汲んだのか蛭谷もまたニヤリと口角を上げる。西条の方に目もやることなく聴者が求めているであろう話を始めた
「地元のラーメン屋でやってるぜ。もう3年ぐらい経つかぁ?」
「へぇ、長いですね!」
「賄いとか出るのかしら?」
「基本的には余ったやつだけどなぁ、たまに新メニューの味見とか普通にラーメン食わしてくれる時もあるぜぇ」
「どんなのが出るの?」
「本当に余りもんだぁ、飯の上に細切れチャーシューだったり味玉だったりだぜ。まぁ、美味いんだけどよ」
「ラーメンの話はいいんです!10月31日はどのように過ごすつもりなのかを!」
西条が大きい今一度大きな声で同じ質問を提示した。ケラケラと笑う慎也を弱々しい目付きで睨んで制すると、等々質問対象を取りながらもう一度繰り返した
「では...皆木さん!」
「は、はひっ!?」
「そんな驚かなくても...10月31日はどのように過ごすのですか?」
「私ですか?私は...商店街のイベントのお手伝いですね!バイトみたいなものです」
「あら、詩織の地元でやるの?」
「いえ!八皇地のイベントです!」
「八皇地?なら慎也の方が近いじゃないか。慎也は行かないのか?」
「うん...行くよ。なんなら俺が詩織ちゃんにお願いしたぐらいだし...うん、俺も参加する...」
何故か浮かない様子の慎也
同時に2人の予定を把握できた西条も何かよからぬ寒気を感じ取った
この流れはまずい
既に二度経験してきた脱線だと
「どうしたぁ、慎也?なん..「村上さんと皆木さんはイベントにご参加ですね!それはいいですね!黒川さんと楠さんはどうなのですか!?」
「...特に予定は無いが」
「私も別に」
必要性の問われる紆余曲折を経たが、西条の目的は果たされた
予定を聞いただけなのだが、何故か気疲れしている様子だ。いつもの様にからかわれている事など明確であり、西条本人も顔を赤らめながら自覚している
「...で、西条は何が言いたいの?」
結局の所何がしたいのか分からない彼らの代表として慎也が本筋を見極める事を問うた
「そ、そうでしたね...いえ、ハロウィンを、その...」
「...まさか仮装でもしたいのか?」
知樹の発言に西条は意を突かれたような表情を見せた。最早肯定と取れるその反応に慎也や蛭谷もなるほどと言わんばかりに唸る
たちまち西条の頬の色は赤く染まり、次に羞恥の表情に変わる。ハロウィンに遊びに出たいと言う望みは理解できるが、まさか無邪気に仮装までしたいと願っていたのには慎也らも驚いているようだ
「西条...」
「小さい頃は...いえ、その、ニュースで大騒ぎしてるのを見た事があって.....流行ってるのかと...」
「今年は平日だから前倒しで終わってるよ」
「い、いえ!あそこまで密集しているのは怖いので友人間で何かしたいな、と...」
「なるほどね」
純粋に仮装を楽しみたいらしい
成人を迎えた学生とは思えない願いだが、恥ずかしい事だとは自身も分かっているようだ
しかし仮装
街中でお菓子か悪戯の選択肢を迫る事も同じく今更参加し難い行事だ
少し考える素振りを見せていたが、蛭谷が不承不承と言った具合で西条に加担した
「慎也、商店街のイベントって仮装するのかぁ?」
「えっ、あ、うん。まぁ、一応...」
「なら西条もそこに行きゃいいんじゃねぇか?俺も夜なら時間あるから後から行ってやるぜ」
「まぁ、そういう事なら構わないが...」
「私もいいわよ」
「皆さん...っ!」
「いいですね!じゃあ18時頃商店街の入口で集まりましょう!」
ーーー
ーー
ー
10月31日午後17時50分
八皇地商店街(通称ツリー商店街)
「少し早かったですかね...?」
ハロウィン当日
西条にとっては待ちに待った時だ。些か不安も多少は残っていたが、慎也達が言っていた通りチラホラ仮装を纏った人々が闊歩している
ひとまずは胸をなでおろした
これで商店街にただ1人の仮装者に陥る事は避けた。
「それにしても...」
慎也はイベントとだけ言っていたが、規模は中々の物だった。元々活気のある商店街のようだが、どの店も歩きながら食べられるよう軽食販売にシフトしている
祭りという表現が相応しいか、時期的に秋祭り
入口で静かに友人らの到着を待つが、心の中は熱く熱を帯びている。いい香りや、活気のある声。皆が皆で楽しそうに見え、早くそれに参加したいと心から昂っている
「...」
あまりはしゃいでしまったらまたからかわれてしまう。少しだけでも落ち着きを繕い、やはり静かに待機する事にした
その間に本日取っておきの仮装を確認しながら
「自信作ですから...」
大きな帽子
紫色な主体のドレス
そして銀色の大きなフォーク
[マドルチェ・マジョレーヌ]の姿を彼女は模していた。かなり細部まで拘った自慢の逸品を汚さないようここまで辿り着くのに、支払った代償や苦労は語ること無く伝わる
辺りに仮装者は普通に存在しているが、そのクオリティは西条のものと一線を画していた。ハロウィンにかける思いの差だろうか
すると彼女に1つの影が覆いかぶさった。距離から明らかに彼女へ何か用があるのだろう
蛭谷か、黒川か、誰かと思い顔を上げると、知らない男性だった
「突然ごめんね、ちょっといいかな?」
「えっ...」
西条よりも背の高いその男性は見下ろす形ではにかみながら彼女へ声をかけた
彼もまた私服とは思えない姿をしているため、西条と同じようにイベント参加者なのだと分かる
が、これは噂で聞くナンパなのでは?そう彼女の直感が告げた瞬間、西条は怯えるような表情を浮かべた
「いや、その!友人と約束があるので!」
「あ、ちょっと!」
逃亡と形容するのが相応しい行動に出た
お決まり文句を早口て告げると、数歩早歩きでその場を去ろうと歩を進める。背中で執拗に呼ぶ声を受けた時には脱兎のごとくに走り出していた
単純に恐怖だった
その格好でまともに走ることが出来ることも意外だが、商店街の中を失踪する[マドルチェ・マジョレーヌ]が完成した
ーーー
ーー
ー
「ちょっと過ぎちゃったわね」
少し駆け足気味で商店街が見えるのを確認しながら黒川が現れた。時刻は18時を2分ほど過ぎた頃、商店街の入口を目指して進み続けると間もなくその待ち合わせ場所に辿り着いた
が、そこに西条の姿は無い
代わりに蛭谷と知樹、そして灰田が談笑しているだけたた
「遅くなってごめんなさい」
「俺達も今来たところだ、気にするな」
4人が合流を果たすと、話題は今日の服装についてに自然と移り変わった
だが正直な所普段とそこまでの特異点は誰にも見えない
それを指摘するのは遅れてやってきた黒川だった
「...皆仮装はしないのね?」
「一応持ってきてはいるが、大した事はしないつもりだ」
「そうだなぁ」
「俺も色々持ってきたよ!」
この4人は仮装してから家を出てきた者は居ないようだ。どれほどの装飾を施すのかは知らないが、常識的に考えれば異端な格好で交通機関を利用するほど気が触れている者はいないらしい
嬉嬉としてリュックを漁りだしたのは灰田だった。彼もいつもの服装のままだが、どうやらそれなりの物を用意しているようだ
だが最も初めに姿を見せたのは禍々しい仮面
「...灰田君、それなんの仮装なの?」
「これは[遺言の仮面]!」
「何だ灰田ぁ、[デス・ガーディウス]の仮装か?」
「いや違うよ!」
否定の次に提示したのは、上着の下に着用していた真っ黒なタイツだった
パンツを捲るとそこにもあるため、上下全身黒タイツの模様。それを自信ありげに見せつけているが、[遺言の仮面]と合わせても何の仮装なのか理解できない
「...何のモンスターだ?」
「[アバター]!」
「[遺言の仮面]は関係ねぇのか?」
「タイトルは[遺言の仮面]でコントロールを奪われた[アバター]!」
「メッセージ性が強いんだか弱いんだが...[遺言の仮面]かぶるだけにしておけよ。全身黒タイツは不審者の仮装になる」
幾らハロウィンであろうと全身黒タイツの男が歩いていたら不審者に違いない
灰田が事を成す前に制することが出来たのは良かったのかもしれないと知樹は落ち着いた
灰田に深く[遺言の仮面]をかぶらせると、今度は知樹が黒川から質問を受ける番たった
「それで楠君は?」
「俺はこれだ」
手にしていた紙袋から少し大きなコートを取り出した。真っ黒な点に置いては灰田の物と同じだが、質のいいロングコートだった
知樹の体のサイズによく合っており、シンプルなデザインだが機能性は優れているようだ
フードも付いている。それを慣れた手つきで着用すると、深くフードを被り素顔を隠した
「...何の仮装なの?」
「不審者だ」
「危うく不審者が被る所だったなぁ...」
「俺は[アバター]だよ!」
「そうね、蛭谷君は?」
黒川が問う前から蛭谷は自身の私物を取り出そうとしていた。いつもの鞄から取り出したそれは、顔全体を覆うようなマスク
鳥の嘴のような先端
禍々しいギョロ目
痛々しい縫い目が施された、ペストマスクと呼ばれる物だった
「時間が無くてよぉ、用意できなかったから家にあったそれっぽいの持ってきたぁ」
「何でそんなのがあるのよ...ちなみに何の仮装?」
「仮装ではねぇか...あれだ、不審者」
「3人目の不審者だな、そういう黒川は何を持ってきたんだ?」
慣れない手つきでそのマスクを顔をあてがうと、奇しくも不審者の仮装が3名揃った
最後に黒川の所持する物が問われるが、彼女もあまり用意が間に合わなかった事が分かる品を見せた
「......見た事はあるが名前がわからないシリーズだな」
「アイマスクでいいんじゃないかしら?」
「派手だなぁ、なんか貴族が素性隠すためにつけるやつ?」
「あっ、ぽいぽい!」
金の縁に色鮮やかな宝石を摸した何かが散りばめられている。目に当たる箇所は穴が空いており、視界は遮られないようだ。青紫のような色が目立つアイマスクだが、蛭谷の言う通り貴族のパーティに使われる物と言う表現が相応しく思えるそれだ
これを用意出来たのなら他にも何かありそうにも思えるが、構わず黒川はそれを丁寧に装着する
「貴族の仮装という事になるか?」
「服が違うわね...不審者でいいわ」
「4人仲良く不審者だね!」
不審者が揃ったところで、話題はやっと西条についてに変わる。そう言えば言い出しっぺが居ないな、と。
「...西条はまだなのか?」
「そう言えばまだ居ないね!」
「一番楽しみにしてるはずなのにね」
「連絡してみっかぁ」
モゴモゴと聞こえにくい声で喋る蛭谷が、西条への連絡を決意した
コール音を聞いている途中で気が付いたのか、ペストマスクを外して声を待つが西条は通話に応じない
気が付かないだけなのか、出れない状況にあるのか分からないが、困った様子で蛭谷は携帯を見つめている
すると背後から声があった
女性の声では無いため、西条では無いことは振り向く前から分かっていた
「ごめんね、ちょっといいかな?」
「あ、うす」
蛭谷の目には警官に見えた
全身見慣れた服装であり、幾らハロウィンであろうとそれを見間違う事は無いと彼自身思っている
所謂職質に戸惑う事無く蛭谷が対峙すると、警官は申し訳なさそうに口を開いた
「楽しんでる所悪いだけどね、そのマスク触ってもいい?」
「あぁ、いいっすよ。柔らかいやつっす」
「...うん、そうだね。ありがとう」
「なるほど、過激過ぎないかの確認と抑制ですか」
「そうそう、大丈夫だとは思うんだけどお仕事はしないとさ」
蛭谷のペストマスクの突起部分を検めると、警官は直ぐに手渡しで返した
知樹が補足した通り、この商店街の仮装者に声をかけているようだ。危険な物など所持しているはずのない彼らは直ぐに解放されたが、それが必要かどうか疑わしいほどこの商店街は平和に思える
「...取り敢えず慎也達の所に行ってみるか?」
「そうね」
ーーー
ーー
ー
慎也・詩織Side
「いやぁー悪いね、村上君、皆木さん。若い子がいないから助かるよ」
「いえ!結構楽しいですよ!」
「はは...」
スーツ姿の初老の男性が慎也と詩織にお茶を手渡しながら労いの言葉をかけた
商店街全体で行われるこのイベントは、最早祭りと化してるが本筋は仮装にあるらしい
記念撮影を設けているブースをつくっているようだ。そこで看板を片手に屹立しているのが慎也達の仕事だ。撮影を受けいれ、このイベントの活性化を担う役割を果たしている
そして若い人手が必要なのは彼らの服装にあった
開催者らが私服やスーツでは示しがつかない事からか、開催者側からも仮装者が欲しかったらしい
「おっ、いた!慎也!皆木!」
「あっ!村上さん、灰田さん達ですよ!」
「...」
灰田らがその場所に訪れた
不審者4人が慎也らの元へやってくるが、慎也の雰囲気がおかしいのは誰もが感じ取れた
それはやはり彼の
「慎也ぁ...なるほどな」
「あら、別に似合ってるわよ?」
「そういう問題じゃないよ...」
兜を直しながら慎也は不満げに呟いた
全身を覆う少し黒みがかかった赤
口元を隠す黄金色
方から伸びる紫色
誰がどう見ても立派な[真六武衆-シエン]の姿をしていた。このコスプレを恥じたのか憂いたのか、西条に予定を聞かれた時から浮かない様子なのはこれによるものなのだろう
ギザギザの刃を収めながら慎也はお茶のプルトップを引いた
「重そうだな」
「見た目ほどじゃないけど結構重い...というか恥ずかしい」
「村上さんとっても似合ってますよ!」
目を輝かせながら慎也に詰寄る皆木は一見普通の学生服を身にまとっている
第一ボタンまでしっかりと閉めたワイシャツに細長いリボン。赤いブレザーのようなタイプの制服を上から着用し、頭にはピンク色のウィッグ
そのウィッグの上に濃いピンクのリボンがある
知る人ぞ知るキャラクターの
「村上君が[シエン]で詩織がツァン・ディレなのね...」
「良いんじゃないか?2人で仲良くやってるといい」
「そう言えば西条は?一緒じゃないの?」
「待ち合わせ場所に居ないから今探してんだぁ」
「こら!待ちなさい!」
突然の叫び声に一同驚きのあまり振り返る
すると物凄い速さで[マドルチェ・マジョレーヌ]が目の前を疾走した所だった
何事かと理解が追いつく前に、肩で息をする警官姿の男性が遅れて現れた
先程蛭谷らと会話したものとは別人の警官だ
「あの、どうしたんすか?」
「ん?あぁ、あのマドルチェが声をかけた途端走り出してね...あのフォークが危険物じゃないか見たいだけなんだけどすごく早くてね...」
「てか今の西条じゃね!?」
「し、知り合いかい!?なら連絡してよ、職質する訳じゃないんだから応じて欲しいんだ」
「電話には出ません!俺が連れてくるよ!」
「あっ!光明待てよ!」
「仕方ない、追うぞ」
次に走り出したのは灰田
蛭谷の静止を無視して灰田少し先の[マジョレーヌ]を追いかける。警官に向けて軽く頭を下げると、知樹と蛭谷も倣って[遺言の仮面]と[マジョレーヌ]を目がけて大地を蹴り出した
やれやれと言わんばかりに黒川も遅れて走り出すと、その場には警官姿と六武衆と六武衆使いだけが残る
随分騒がしいハロウィンだ
「...その仮装、似合ってるよ」
「はい!」
「はは...」
ーーー
ーー
ー
西条Side
「はぁっ...はぁ、ハァ...」
最近のナンパはここまで執拗いものなのか、最早商店街の入口から終わりまで走り続けてきたと言うのに、まだ背後から追う側の足音が聞こえている
もう疲れたと不平が過ぎるが、恐怖しているのも事実。淡い涙を浮かべながら恐る恐る背後に目をやると、あれだけ追いかけてきた警官姿の男はいなかった
やっとまけたか、そう安心出来たのはほんの数秒。代わりを務めるとでも言うのか、ナンパ師は明らかな不審者に変化していた
それも4倍もの増加を経ている
「西条!待てよ!」
「ひいっ!何ですかあの人達は!」
禍々しい仮面
奇抜なアイマスク
痛い気なペストマスク
素性が隠れるほどの漆黒のロングコート
その集団は不審者意外に表現出来るものがなく、追われている事も相まって西条の不安心をさらに煽った
逃げなければ
最早彼女の頭の中にはそれしか残っていなかった
「こ、来ないでくださいっ!」
「何故俺らからも逃げているんだ西条は?」
「この仮装のせいじゃねぇかぁ?」
「あら...」
追う側の4名がお互いに顔を見渡すと、現在自分達がどの様な格好をしているのかを思い出した
そうか、一応は仮装を施しているのだった
冷静に考えればこんなよく分からない者達に追いかけ回されたらそれは恐怖だろう
「...おい、ごらぁ!まてやぁっ!」
「ひぃっ!」
それぞれのアイテムを外ればいい
そんな事は灰田ですら分かっている事なのだが、彼らは敢えてそのまま疾走を続ける事にした
西条が勘違いをしているのならそれでいい
自分達はその西条を追うだけだ
それに必要の無い恐怖心が孕んでいたとしてもだ
知樹が蛭谷と目を合わせると、何か合点が着いたかのように頷く。すると灰田肩を抱きながら叫び出した
「そこの[マジョレーヌ]止まれ!この[遺言の仮面]でコントロールを奪ってやるよ!」
「装備させろぉ!!」
「要りません!来ないでー!」
本来なら[デス・ガーディウス]の仕事のはずだが、この[遺言の仮面]は自分の足で走って対象に向かって走っている
明らかに脅し目当ての逃走劇に見えるが、彼らなりにハロウィンを楽しんでいるのだろう
全力疾走する仮装者5名の楽しげな声が、商店街の大通りに響き渡っている
「こんなハロウィンなんて嫌ですよぉ!!」
等々商店街の終わりを抜けた
蛭谷達が待っていた本来の待ち合わせ場所だ。反対方向から走ってきた事から、西条が入口と出口を間違えていた事が分かるが、最早関係の無い事
本来のハロウィーンに由来する結末だと言えるだろうか
「いやぁぁっ!!」
「お、おい西条!そのまま行ったら聖帝だぞ!?」
「あのコスプレで登校とは...」
後日聖帝構内に1つの噂が広まる
「ハロウィンに[マジョレーヌ]が叫びながら全力疾走してるのを見た」
と...
ぶっちゃけどうですか?
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読みたいからやめて欲しくない
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読みたいけど無くなったら読まない
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普通
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無くてもいい
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読むのが億劫