遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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もうすぐ40話って所で1話1話が長くね?って気づきました。少し自重します




第三十九話 聖帝の矛

目の前に倒れているものは敵だった者。周りには同じ格好をした複数人が同じように地に身を預けている。その中に1人だけ立ち尽くす初老の男がいる、それは彼が勝者であることを証明していた

 

「ハァハァ...なんという事だ...」

 

その男の腕にあるデュエルディスクにはランプが灯っていない。決闘(デュエル)は終了したという事だ。疲弊の色を見せながらも拙い動作でデッキを片付けると歩を進めだした

 

「行かなければ...私が、私が行かなければならない...っ!」

 

暗い一室を抜け、出口を目指して歩き続ける。しかし、一つの怒号が彼の行く手を邪魔する

 

「いたぞ!貴様ぁ、タダで帰れると思うなよ!」

「まだいたのか...私は急いでいる。そこをどきたまえ!」

 

再びディスクは起動する。決闘(デュエル)開始の宣言がまた響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

¡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古賀・東野side

 

 

午後13時15分。プロデュエリストインターンシップ説明会に集まった聖帝の生徒達が襲撃されてからまだ15分ほどしか経っていなかった。ビル内は誰のものか分からない悲鳴や物音で騒がしく、荒れていた。

 

5階の非常階段出入口、積まれたダンボールの陰に古賀と東野が潜んでいた。彼らもこの異常な状況下で逃げてきたらしい

 

「ハァ...一体どうなってるの」

「分からない...警察かS・D・Tに連絡した方が良さそうだね...」

 

古賀はそう言うと自らの端末を取り出す。しかし電波は通っておらず、電話もインターネットも使用出来なかった

 

「うそ、電波ないじゃん...」

「うぅ...じゃあほとぼりが冷めるまでここで隠れてようよ..」

「...それよりも出口を目指した方がいいんじゃない?」

「えぇ!?止めようよ...見つかったら危険だよ...」

「ここにいても安全じゃないよ。行こう、圭ちゃん」

 

立ち上がり、非常口のドアノブに手をかけたところで自身の腕の違和感を覚えた。正確には腕にあるデュエルディスクのものだ

1本の瑠璃色の光が伸びていた

 

「...なんだこんな所にいたのか」 

「ちょうど2人いるな?」

 

光を辿ると先には黒服の男2人。どうやら敵に見つかってしまったようだ

 

「うっ...拓郎、逃げよう!」

「...圭ちゃん、これが邪魔で逃げられそうにないよ」

 

古賀はそう言いながら光の糸を掴んで見せた。物理的干渉が可能なそれは古賀らを拘束するに至らなくとも、逃亡は防げるようだ

 

「クックックッ...まぁ俺らと遊ぼうじゃねえか?」

「さぁ、決闘(デュエル)開始だ!」

「強制的に始まるのか...っ!」

「や...やるしかないの...?」

 

負けられないそれだけが彼らに勇気を後押しする。2人の生徒は新たな犠牲者となるか、それとも...

 

 

       「「「「決闘(デュエル)!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒川side

 

 

「[アマテラス]で«цпкпошп»に攻撃よ!」 

「なんだ、ヤケになったのか?」

「あなたのモンスターは分からないけどあなたも私の手札を分からないでしょ?手札の[オネスト]の効果を発動するわ!これでどうかしら!?」

「何っ!?ウグワァァ!?」

 

 

       LP 1400→0

          «цпкпошп» LOSE

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...」

「美姫ちゃん!大丈夫ですか...?」

「えぇ、平気よ。それよりも行きましょ、どこに敵がいるか分からないわ」

「は...はい!」

『ガウ!』

 

黒川は迫る敵を倒すと詩織の手を引き再び駆け出した

 

「美姫ちゃん...わ、私も戦えます...よ!」

「駄目よ。発作出てるじゃない、私がいる間は無茶させないわよ」

「美姫ちゃん...」

 

似たような通路を走り抜け、黒川が目指していた1階の大広間に繋がる通路にでた。しかし、目的の階段があるはずの場所には無機質な壁が侵入を拒んでいた

 

その壁を背にした初老の男性と目が合った

 

「申し訳ありませんが非常扉は施錠されました」

「あら、じゃあ開けてもらえるかしら?」

「ふふ...意地の悪いことを仰る」

 

乾いた笑い。スーツの胸ポケットに手を伸ばし、中から薄い金属ケースを取り出した。器用にそれを開けると中から布のようなものが姿を見せた。左目に掛けたモノクル外すと、初老の男は丁寧に、ゆっくりとそれを磨き始めた

 

「...貴方は黒いフードじゃないのね?」

「老輩には似合いませんでしょう。」

「そんなこと無いと思うわよ」

「...可能であればこのままお話をしていたいものですが...残念ながら私にも仕事がありまして」

「美姫ちゃん!」

「っ!?...いつの間に」

 

いつの間にか黒川のディスクはその男性の物と繋がれていた。何度目か分からない理不尽な決闘(デュエル)だが、逃走は許されていない、選択肢は戦うことのみ。改めて闘争心を燃やすことになった

 

「お相手願います」

「仕方ないわね...」

 

 

        「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛭谷side

 

 

「おいおい...こいつはどういう状況だぁ?」

 

特殊な構造をした一室。上の階から下を見下ろせるようにふきぬけになっている箇所に蛭谷はいた。身を少し乗り出しながら下の階の様子を伺うと、先程見たばかりの襲撃者達とと同じ格好をした似たような集団が聖帝の生徒と決闘(デュエル)をしている。

 

「...電話も繋がらねぇし、外を目指した方が良さそうだな。あいつらも無事だといいがなぁ」

「お友達の心配かい?」

「っ!?」

 

背後の敵に気づいた時には既に遅く、ディスクが決闘(デュエル)を強制していた

 

「なんだこれは?」

「我々の国の技術だ、まぁ私の相手をしてくれ」

「...逃げられねぇって事か」

 

完全に状況を把握している訳では無いが決闘(デュエル)は始まってしまう。解せないが蛭谷もディスクを構える

 

 

        「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草薙side

 

 

「はぁ...はぁ...ひとまずここで身を潜めましょう」

「そうですわね...一体何者ですのあの方々は...?」 

「インターンシップ説明会の一環ではない事は確かですが...」

 

段ボールや使われていないテーブルなどが乱暴に置かれた一室に西条、草薙、遠山の3人は落ち着いた。女性3人仲良く時を過ごしていたはずが、気づけば追われるものとして逃げまとう事になると誰が予想しただろうか。なんとか逃げられた彼女達は次の行動を相談する

 

「...草薙様、やはりこいつは使い物になりません」

「えぇ...やはり安物はダメですわね」

「そういう問題じゃないと思うけど...」

 

彼女達の端末も機能していなかった。ビルそのものに、何かしらの細工が施されている可能性が浮上した

 

「草薙様、このビルの中に安全な場所はありません、外を目指しましょう!」

「愛梨...そうしましょう。麗華さんも宜しいですか?」

「えぇ...っ!草薙さん!」

「どうしました?...なるほどやられましたね」

 

草薙のディスクには謎の光の糸が伸びていた。案の定と言うべきかその先には先程から逃げてきた黒服の怪しい男がいた

 

「へっへっへ...俺の獲物は当たりだな、上玉3人だぜ!」

「...貴方のお相手をしている場合ではございませんよ」

「そんな連れねー事言うなよ嬢ちゃん?それとももっと楽しい事でもするか?ひゃっひゃっひゃっ!」

「...不純、ここで使うのですね」

「草薙様!」

「草薙さん!」

「大丈夫ですわ、すぐに終わらせます」

 

可憐なの彼女も勇ましく構える。道の敵への恐怖よりも、大切な友を、自分自身をこの理不尽な環境下からいち早く脱出させるために戦う闘士が漲っていた

 

 

       「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古賀side

 

 

「さぁ、始めようか。俺が先行だな!」

 

深く被ったフードの奥からターン開始の発言が発せられた。黒服の男はカードをプレイした

 

「モンスターとカードを3枚セット、そして«цпкпошп»を発動!」

「ん〜?...何これ」

 

同ビル内で何人も被害にあっている«цпкпошп»。古賀は今初めてそれを見た。隣で決闘(デュエル)中の東野も同様だ

 

「バグ...いやそういう改造?」

「ククク...」

「...な〜んか前にも似たようなことがあった気がするね」

「説明はしねえぞメッシュ野郎」

「...メッシュやめようかな〜?」

 

お互い顔も名前も使用デッキも知らない初対面同士の存在。だが、古賀や東野からしてみれば、あちらの方が分からないことが多い。深くかぶったフードで素性も、白黒で塗りつぶされたデザインでカード情報も分からない

 

「続けるぞ。«цпкпошп»の効果でフィールドの裏側表示モンスターを表にする。そして«цпкпошп»の効果を発動!手札を全て捨て5枚ドローする!」

「[メタモル・ポット]...なのかな?分からないけどとりあえずドローするよ」

 

双方手札入れ替える。古賀はまだ«цпкпошп»の存在に戸惑いつつあるが、ターンはお構い無しに進んでいく

 

「セットした«цпкпошп»を発動。手札を2枚捨て、墓地の«цпкпошп»をセットする!」

「...ふ〜ん?」

「今セットした«цпкпошп»を発動。墓地の«цпкпошп»をフィールドに裏守備でセットする!俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

«цпкпошп» 手札:2枚 LP 8000

 

モンスター/ «цпкпошп»

 

     / 裏守備

 

魔法・罠 / «цпкпошп»

 

     / リバース3枚

 

「俺のターンだね、ドロー」

 

ただでさえ«цпкпошп»と表示され、情報が少ない中、敵はそれを裏側で召喚した。古賀のターンは墓地が肥えた状態で始まる

 

「俺のフィールドにモンスターがいない時、手札の[BF(フラックフェザ-)-朧影のゴウフウ]は特殊召喚できるよ〜」

 

      [BF(ブラックフェザ-)-朧影のゴウフウ] DEF 0

 

「ククク...BF(ブラックフェザ-)か」

「うん、永続魔法[黒い旋風]を発動するよ〜そして[ブリザード]を通常召喚![ブリザード]の効果で墓地の[グラディウス]を特殊召喚して、[旋風]の効果でデッキから2体目の[ブリザード]をサーチするよ〜」

「ほう、2体目か」

 

[ブリザード]の召喚でさらに2体目の[ブリザード]をサーチした古賀。相手ターンに謎のリバースモンスターにより墓地が肥えてからのスタートだからこその選択だ

 

「そして俺はレベル3の[BF(ブラックフェザ-)-白夜のグラディウス]にレベル2の[BF(ブラックフェザ-)-極北のブリザード]をチューニング、シンクロ召喚!現れろ[TG(テッグジ-ナス)ハイパー・ライブラリアン]!」

 

  [TG(テッグジ-ナス)ハイパー・ライブラリアン] ATK 2400

 

手札から[ハルマッタン]を特殊召喚![ブリザード]を対象に効果発動!、自身のレベルを4にする!」

 

    [BF(ブラックフェザ-)-砂塵のハルマッタン] ☆2→4

 

「そして俺はレベル4の[BF(ブラックフェザ-)-砂塵のハルマッタン]にレベル2の[BF(ブラックフェザ-)-極北のブリザード]をチューニング!闇夜に紛れし星屑よ、今ここに旋風を巻き起こし、黒き明灯し、闇夜に舞え!シンクロ召喚、現れろ[BF(ブラックフェザ-)-星影のノートゥング]!」

    

    [BF(ブラックフェザ-)-星影のノートゥング] ATK 2400

 

「[ノートゥング]の効果で...あ、«цпкпошп»?の攻撃力を800ポイント下げるよ。さらに[ラリアン]でドロー」

「ふん、これぐらい」

 

       «цпкпошп» ATK ?→?

 

「攻撃力も分からないか..[ノートゥング]の効果で増えた召喚権を使うよ。[ブリザード]を通常召喚!効果で墓地の[ハルマッタン]を特殊召喚する〜!」

 

    [BF(ブラックフェザ-)-極北のブリザード] ATK 1300

 

    [BF(ブラックフェザ-)-砂塵のハルマッタン] DEF 800

 

「俺はレベル2の[BF(ブラックフェザ-)-砂塵のハルマッタン]にレベル5の[BF(ブラックフェザ-)-朧影のゴウフウ]をチューニング、黒き翼を持つ狩人、BF(ブラックフェザ-)-の名の元に、自らの役目を果たせ!シンクロ召喚、現れろ[BF(ブラックフェザ-)T(テイマ-)-漆黒のホーク・ジョー]!」

 

   [BF(ブラックフェザ-)T(テイマ-)-漆黒のホーク・ジョー] ATK 2700

 

「[ラリアン]の効果でドロー。そして手札から[オロシ]を特殊召喚、そしてレベル6の[BF(ブラックフェザ-)-星影のノートゥング]にレベル1の[BF(ブラックフェザ-)-突風のオロシ]をチューニング、轟け黒き千鳥!暗雲を背に、天より一時の雨より獲物を屠れ!シンクロ召喚、現れろ[A(アサルト)BF(ブラックフェザ-)-霧雨のライキリ]!」

 

   [A(アサルト)BF(ブラックフェザ-)-霧雨のライキリ] ATK 2600

 

「[ラリアン]の効果でドローするよ〜」

「[ラリアン]の効果にチェーンする、リバースカード«цпкпошп»を発動!俺の場の裏守備モンスターを表にする!」

「じゃあさらにそれにチェーン発動![スワローズ・ネスト]![ライキリ]をリリースして、デッキから[霞の谷(ミスト・バレ-)の巨神鳥]を特殊召喚するよ〜!」

「何!?」

 

      [霞の谷の(ミスト・バレ-)巨神鳥] ATK 2700

 

BF(ブラックフェザ-)の後釜を務めるものは霞の谷(ミスト・バレ-)の巨神鳥だった。

 

「リバース効果は?無いわけないよね〜?」

「く、くっ...!«цпкпошп»の効果を発動だ」

「[巨神鳥]の効果発動!自身を手札に戻してその発動を無効にするよ〜!」

「チッ!」

 

謎の効果を無効にすると、巨神鳥は手中に落ち着いた。次は壁の撤去に勤しむだろう

 

「[ホーク・ジョー]の効果発動!墓地の[ライキリ]を特殊召喚するよ!」

 

 [A(アサルト)BF(ブラックフェザ-)-霧雨のライキリ] ATK 2600

 

「[ライキリ]の効果を発動〜、その«цпкпошп»を2体破壊するよ!」

「チッ...」

 

表になった«цпкпошп»を除去するとこちらに触れられるカードは無くなった。が、古賀にはまだやり残したことがあるようだ

 

「手札の[巨人鳥]と[デス]を除外し、墓地から[ダーク・シムルグ]を特殊召喚するよ〜!」

 

       [ダーク・シムルグ] ATK 2700

 

「じゃあ、バトル![ノートゥング]、[ライキリ]、[ホーク・ジョー]そして[ダーク・シムルグ]でダイレクトアタック!」

「貴様ぁ...ウグワァっ!」

 

     LP 8000→5600→3000→300→0

              «цпкпошп»LOSE

 

この決闘(デュエル)はワンキルで終わった。結局«цпкпошп»も裏守備もよく分からないままだが、古賀は何となく理解しているようだ

 

「«цпкпошп»...よく分からないけど、これ読んどいて良かったね」

 

そう言うと傍らにあった自身のリュックを手に取った。中身は始めたばかりの頃の決闘(デュエル)参考書や、様々な遊戯王グッズ。前者を手に取ると付箋の付いたページを開いた。そこには”デッキ破壊デッキ”の項目があった

 

「えぇっと...[カオスポッド]は...全バウンスだったのか...危ない危ない」

 

目の前でさっきまで戦っていたはずの男が倒れた。決闘(デュエル)で勝負しただけなのに...そう疑問に思い古賀が彼に近寄り、ディスクを確認すると

 

「やっぱりバグなのかな?カードは普通だ...」

 

機能を停止したディスクからカードを抜き取ると、そこには案の定[カオスポッド]、[召喚制限-猛突するモンスター]があり、相手の狙いがデッキ破壊だった事は確かになった

すぐ近くの友人のことが気になり、振り向いたその時一つの爆音が響いた

 

「うわぁ!?」

「圭ちゃん...っ!?」

 

その決闘(デュエル)はクライマックスを迎えようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒川side

 

ビル内の2回の大広間。黒川と詩織は移動を繰り返していたが、何度か敵に姿を見られてしまっていた。避けられない決闘(デュエル)も何度かあり、黒川がそれを担ってきた。発作がなかなか収まらない詩織に変わって戦ってきた彼女だが、そろそろそれも限界が近いようだ

 

初老の男性との決闘(デュエル)もそろそろ終わりが見えてくる頃だった

 

黒川 手札:1枚 LP 1200

 

モンスター/ [武神帝-ツクヨミ] DEF 2300

 

     / [武神帝-カグツチ] ATK 2500

 

魔法・罠 / リバース1枚

 

 

? 手札:8枚 LP 8000

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

     / «цпкпошп» ATK ?

 

魔法・罠 / «цпкпошп»

 

     / リバース1枚

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

「はぁ...はぁ...全く歯が立たないわね...」

「気に病むことはありません。私の実力が上だった、それだけの事です」

「み、美姫ちゃんっ!」

『やばいガウ!』

 

フィールドがそう語っていた。黒川は荒れた息のまま立つことすらままならず、片膝をつきながらフィールドを見上げている。対する敵は余裕そうに白いスーツに付いた些細な汚れをはらっていた

 

「...まだ続けますか?」

「あ、当たり前じゃない!」

「無理をなさらない方が宜しいかと」

「無理ですって?...襲ってきておいて何を言ってるのかしら?」

「返す言葉もありませんな」

 

落ち着いた口調で黒川と対話を試みたが、悲しそうな表情をした。その初老の男性は再びモノクルをいじり出した

 

「...ふぅ、残酷ですがここまでです。バトルフェイズに入りましょう。«цпкпошп»で貴方の[ツクヨミ]に攻撃します」

「まだ...諦めてないわよ!リバースカード[武神隠]![カグツチ]を除外して全バウンスよ!」

 

慎也との決闘(デュエル)でも使用された罠カード。バトルフェイズに入ってる為、このバウンスが通れば一時は凌げる。だが、それを否定するかのように敵のカードが起動した

 

「手札の«цпкпошп»を発動します。墓地の«цпкпошп»3枚を除外して[カグツチ]を除外します」

「なんですって...」

 

一足先に[ツクヨミ]がゲームから離れた。チェーン1の[武神隠]の処理も、対象を失ったため不発に終わってしまった

 

「し、詩織!」

「はひっ!?」

「...ここからはあなたひとりで逃げなさい」

「み、美姫ちゃん...」

「大丈夫よ、ちょっと長期戦が見えてきたから...いまのうちにかなり距離は稼げるはずよ。さぁ、逃げて!」

「...おやおや」

「あなたにもしもの事があったら...村上君に顔向けできないでしょ?私もこの人を倒したら必ず追いつくから、早く!」

 

背中越しに笑顔を見せる黒川。初老の男性も何かを察したような表情を見せるが、詩織はまだ決断しきれていない

 

「美姫ちゃん...」

「私が詩織に嘘ついたことある?」

 

「...絶対約束ですよ!」

『主人!こっちですぜ!』

 

決闘(デュエル)中だが、初老の男性も黒川も黙って詩織の背中を見送る形になった。その姿が見えなくなると安心したのか、黒川はその場にへたりこんだ

 

「...はぁはぁ」

「流石です」

「...何のことかしら?」

「逃亡に必要なものは時間と決断力、そして身軽さです。足枷を良いように外せましたな」

 

黒川の額にシワがよった。完全に今の発言に気を悪くしたようだ

 

「...詩織は足枷なんかじゃないわよ!」

「違います、あなたの事です」

 

一喝に動じす、平静を保ちながら丁寧に続けた

 

「貴方は9階の生徒だ、ここまで降りてくるにしては早すぎる。随分無茶なルートで来たのですね、左足首を痛めておられる」

「っ...」

「それと貴方はもうお気づきだ、我々のターゲットは皆木詩織さんだということを」

 

すべてお見通しなのか、黒川の内心は穏やかなものではなかった。緊張と動揺を必死に隠しながら対談を続けようとした

 

「...やっぱりそうなのね?統一性のない階層分けからおかしいと思ってたのよ」

「少々このビルの構造は特殊でしてね...防犯シャッターを閉めてしまうと2階からはもう出られません。ターゲットを隔離するのに持ってこいというわけです」

「...そうね」

 

詩織に隠していた左足首の痛みはもはや誰にも隠す必要がなくなった。よろよろと壁を頼りに立ち上がり、何かを突き出して見せた

詩織が受付で渡された首掛けだった

 

「これを頼りに探すつもりでしょ?この金属片みたいな物、発信機か何かかしら?私のものには入ってなかったわ」

「...いやはや、脱帽です」

 

予想外の行動に少しだけ驚きよ表情を見せた。しかし、初老の男性は詩織をおう手段を失ったことよりも、発振器を捨てずに持ち歩いてきた事に疑問を抱いているようだ

 

「しかし...お気づきでしたら捨てるなりして頂ければ良かったのでは?それでしたら皆木詩織さんを追う者は貴方の元に現れる事でしょう」

「いいのよ、そしたらその分詩織が逃げやすいわ...」

 

この発言にも表情を崩さない男性。黒川の意思の強さを再確認した所で決闘(デュエル)を再開させた

 

「...もう宜しいですな、«цпкпошп»で[ツクヨミ]に攻撃です」

「くっ...」

 

武神の帝が倒れた。壁を担うものが消えると、黒川の貧弱なライフを守る手段は無くなってしまう。しかし[ツクヨミ]はまだ粘った

 

「破壊された[ツクヨミ]の効果発動よ!所持していたORUの数まで墓地から武神モンスターを特殊召喚するわよ。お願い、[武神-ヤマト]、[武神-ミカヅチ]!」

 

        [武神-ヤマト] DEF 200

 

        [武神-ミカヅチ] DEF 1500 

 

「では«цпкпошп»で[ヤマト]に攻撃しましょう」

「墓地の[武神器-サグサ]の効果を発言するわ。[ヤマト]はこのターン1度だけ戦闘及び効果で破壊されないわ!」

 

墓地発動が黒川を守った。どうやら黒川の目的は完全に時間稼ぎのようだ

 

「ほうほう、では手札から«цпкпошп»を発言します。«цпкпошп»をリリースし、手札から«цпкпошп»を特殊召喚します」

「また速攻魔法ね...っ!」

 

        «цпкпошп» ATK ?

 

「さらに効果で貴方の[ミカヅチ]を破壊します」

「うぅ...」

 

バトルフェイズ中のフリーチェーンにより、追撃や破壊効果がどんどん迫ってくる。まだ敵の場には攻撃可能なモンスターが残っている

 

「«цпкпошп»で[ヤマト]に攻撃します」

「させないわよ...手札の[武神器-ヤタ]の効果を発動よ!その攻撃を無効にして攻撃力の半分のダメージを与えるわ!」

「やりますな」

 

? LP 8000→6750

 

「私はね、負けられないの!«цпкпошп»だかなんだか分からないカード使われても...訳の分からない集団に襲われても!諦められないのよ!」

「ふむ...それほど大事な方のようですな」

「そ、そうよ!」

 

詩織の事だ。高校からの仲の彼女達は、このような窮地でも決して諦められない存在のようだ。初めて会う初老の男性にもそれが伝わったようだ

 

「素晴らしい友情ですな、決闘(デュエル)を続けましょう。私はカードを4枚セットします」

「よ、4枚ですって...っ!」

「ええ、エンドフェイズに«цпкпошп»の効果を発動します。デッキから«цпкпошп»を5枚をサーチし、デッキから«цпкпошп»を特殊召喚します。」

 

        «цпкпошп» ATK ?→?

 

「な、何よその効果...」

「残念ですがまだあります。«цпкпошп»の効果により、除外し、デッキから«цпкпошп»と«цпкпошп»をサーチします。手札制限で私は2枚カードを捨ててターンエンドです」

 

 

? 手札:6枚 LP 6750

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

     / «цпкпошп» ATK ?

 

魔法・罠 / «цпкпошп»

 

      / リバース4枚

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

手札は無い

ライフも無い

頼れるモンスターも居ない

 

それを嘲笑うかのような敵のフィールド。黒川のものより7倍も多くカードが存在している。絶望に近い感情で背後に目をやるが、支えてくれる仲間も当然居ない。

 

「...」

「悔やむことは...おや?」

 

振り返った黒川の表情は安堵から来ているものだった

 

ー良かったー

 

心から安心すると黒川はカードを引いた

 

「私のターン!」

 

 

ー詩織、貴方だけでも逃げ切ってー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渡邉side

 

 

 

 

 

ビーッッ!

 

決闘(デュエル)終了のブザーが響いていた

 

「ガ...ゴハッ!」

「...」

 

渡邉は倒れた。敵の謎の技術のせいか、連戦によるものか、過度のストレスによるものか定かではない。滝のように流れる汗と、口元から垂れる紅の雫。通常の決闘(デュエル)で起こる症状ではないことは確かだった

 

「手こずらせないでくれよ先輩」

「はぁ...ハァ....ま、まて......ヒュ-..ヒュ-」

 

まともに呼吸すら出来ていな様子だった。何が彼をそこまで追い詰めたかは分からない。徐々に消えゆくソリッドヴィジョンを片目に渡邉は必死に言葉を放とうとする

 

「くっ...ク......ハァ..はぁ......」

「...悪く思わないでくれ」

 

フィールド魔法による背景が消え、残りのモンスター達も消えてゆく。戦闘破壊されたのであろう[ベルガモット]も花弁を散らし消えていった。その時に渡邉の四肢は全ての力を失い、全身でフローリングの衝撃を味わった

 

「はぁ...はぁ......うっゲホゲホッ!!」

 

吐血が止まらない。身体中の痛みも引く気配がない

 

「......くっ...」

 

ソリッドヴィジョンは完全に機能を停止していた。先程まで決闘(デュエル)をしていた相手も部屋を出ていき、密室に渡邉1人が取り残された。

 

 

「......な..何故...なんだ...」

 

 

 

 

赤き花弁が散る時、同時に青年の鮮血が一室を紅く染めた

 

 

 

 

 

 

 

 




渡邉さぁぁん!!
...«цпкпошп»ってずるいですよね
でも実はずっとやりたかったのってこれなんですよね


〜おまけ〜

ピンポーン

インターホンが慎也宅に来客を知らせた

「こんな時間に誰だろ?セラフィ、ちょっと手離せないから代わりに出てくれない?」
「ハイ...マスター、ワタシが出てもお客様には見えません」
「あ、そうだった...一回水止めよう」

手についた泡を落とし、近くに備えてあったタオルで水分を拭うと慎也はインターホンを手に取った。同時に皿洗いに励んでいたシエンも手をとめ、息を殺した

「はい?」
『あ、慎也!俺、俺!!』
「灰田か...まぁ上がっておいで」

オートロックを解除し、灰田を招くと今度は玄関に向かった。しばらくすると階段を駆け上がる音が聞こえ、すぐに灰田が姿を現した

「慎也、誕生日おめでとう!!」
「来週だけど」
「慎也が好きそうなゲーム見つけたからプレゼント!!」
「わざわざ持ってきてくれたの?...まぁあがる?」
「お邪魔します!」

洗い物途中の家にあげると、シエンやセラフィは席を外した。リビングの椅子に座ると、灰田は改めてプレゼントの中身を渡した

「これ!なんか慎也好きそうじゃない!?」
「”すかいびーくるQ”...?可愛いパッケージだね」
「うん!じゃあまた明日学校でね!」
「え?もう帰るの??」
「うん!この後秋天堂さんとご飯行くから!」
「あ、はい」

脱兎のごとく灰田去っていき、再び慎也は皿洗いを続行した。いつの間にか戻ってきていたシエンともにそれを終えると灰田の置き土産を手に取った

「ゲームなんて久しぶりだな」
『げぇむ...カラクリの一種ですな』
『専用の機械を用いる娯楽用品ですね。ジャンルはアクションのようです』
『食べ物ガル!?』

「偏ってるねー。ていうかハードあるかな?」

数分自宅のあらゆる部屋を探索すると普段使わない部屋で対応ハードを見つけた。携帯できるサィズのそれをリビングで充電させると、コーヒーを入れ待つことにした

『ご主人!その黒いのレオも欲しいがルゥ!』
「レオも飲めるかな...?」

マグカップではなく、口の広いおわんに入れレオにわたした。最初は顔をしかめていたが、砂糖とミルクを与えると嬉しそうに飲み干した

『殿、この機械の準備が完了しているようですぞ』
「あ、本当?早速やってみようかな...」

ゲームを起動させると、愉快なオープニングが流れた。初めてプレイするため、その映像全て見終えるといきなりゲームがスタートした

「え、もう始まるの!?うわうわ、めっちゃ攻撃されてる!?」
『殿になんて事を...っ!』
『シエン、ゲーム内の敵に物理的な斬撃は通用しませんよ』






ーーー
ーー






「なるほど、素材を集めて色んな道具を作るんだね」
『刀は使用出来ないのでしょうか?』
「洋風なゲームだから無いんじゃない?」
『マスター、今は石を砕くハンマーを作成する事を提案します』






ーーー
ーー







「船で空を飛び回って移動するんだ...」
『船の装飾も可能なようですな』
『マスター、資源が不足しているため、そちらの島で木材の調達を提案します』





ーーー
ーー






「ちょ、いきなり敵強くなりすぎじゃない!」
『敵は怪しげな魔術を使うのですな』
『マスター、無理に攻撃せず、弾幕に当たらない事を優先させましょう』





ーーー
ーー






「上の方来てから敵にダメージ与えられないんだけど...」
『龍に燃やされてから船が丸裸ですな...』
『マスター、ここからは装備や船を整える必要がありそうです』






ーーー
ーー






翌日8時30分



「おはよー!」
「あぁ、おはよう。お前が時間通りに間に合うとは珍しいな」
「おはようございます!...村上さんと一緒じゃないんですか?

「あれ?慎也まだ来てないの!?」







*





『お、殿!新しい素材で新しい武器が制作できるようですぞ!』
「なになに...”魔神永創刀-天露黒桜”...?一気に世界観壊れたな!」
『マスター、この武器なら先ほどのボスに通用する可能性があります』

『...ガルゥ?ご主人達まだやってるガルか??』

ぶっちゃけどうですか?

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  • 読みたいけど無くなったら読まない
  • 普通
  • 無くてもいい
  • 読むのが億劫

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