遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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リンクモンスター...別にそれ自体は嫌じゃないんですけどね、なんか今までのデッキとかアニメとか全部何だったんだろう...っておもっちゃいます。

というわけで36話です、次の話から新章に入ります!


第三十六話 Not Exposure × Targets

午前6時、1人の青年が目を覚ました。

目覚まし機能が作動するよりも随分早い時間だ。開ききっていない薄い眼と若々しい寝癖は、彼がまだ覚醒しきれていないことを証明するのに充分なものであった。大きな欠伸を一つし、伸びの姿勢のまま扉へ目を向けた。そこには見慣れた2人が立っていた

 

『...おはようございます、殿』

『おはようございますマスター』

「...おはよう」

『ガオ!』

「ちょ、あ!」

 

布団を剥がし、ベットから降りようとする慎也。しかしそれは何かにを阻止され、再び背を大地に預ける形に収まった

 

『ご主人!ご飯欲しいガルゥ!』

「いてて...とりあえず降りて”レオ”」

 

慎也の布団に寝転がる慎也。そして通常では目指することの出来ない、精霊としてこの世界に具象化した存在、[紋章獣レオ]がいた。先に具象化し、主に使えているシエンとセラフィとは大きく違った破天荒な性格のようで、朝早くから主の慎也を困らせていた

 

『ご主人!降りた!』

「はいはい、静かに待っててね」

 

寝癖だらけの頭を描きながら慎也はキッチンに向かった。水の張った鍋に火をかけ、冷蔵庫の中身を吟味しながら思い浮かべる事は一昨日の輝元との決闘(デュエル)

 

 

ーーー

ーー

 

 

「兄ちゃん見送るよ!」

「兄さんだ」

 

慎也と輝元の決闘(デュエル)。それは我が講期待の代表者と、ただならぬ雰囲気を纏ったスーツの大人の決闘(デュエル)。聖帝の生徒からすれば気になるのも当たり前。知らない間に慎也たちのスペースは野次馬で囲まれていた。

 

「村上さん!やりましたね!」

「さすが村上君ね」

「ええ、手札をすべて使い切った思い切った戦術でしたわね」

 

ディスクのシャッフル機能を終え、デッキをしまった慎也は詩織達の元へ歩み寄った。周りの生徒も口々に慎也へ歓声を送り、慎也もそれを受けながら歩く

 

(...おつかれ様、紋章獣達)

『ご主人!』

 

激励を背に、活躍した紋章獣達に音のない労いの言葉を送る慎也。それに応えるかのように今までに聞いたことの無い声が慎也を呼んだ。疑問に思う頃には既に遅く、背中に新たな精霊が乗っていた。金色の鎧と美しき毛並み。先程使用していたデッキが紋章獣という事もあり、使用者はそれが[紋章獣レオ]だと気付くのは難しくなかった

 

「うぐっ!?...れ、レオか...」

『と、殿!』

 

紋章獣デッキから新たな精霊が現れる。それ自体の予兆は慎也自身感じていたようだ。輝元との決闘(デュエル)の最中、[レオ]のカードを使用する度に起こる頭痛のようなもの。既に2人の精霊を宿した慎也にとって、それだけで精霊の具象化は予想できるようになっていた。問題はこの大勢の視線の中でレオが暴れている事だ

 

「おい慎也どうしたぁ?」

「およよ?」

 

『ご主人!やっと出てこれた!』

「な、なんでもないよ...」

(レオだね、俺も嬉しいけど今はちょっと待ってね)

『レオ、まずは殿から降りるのだ!』

『ワタシもそれに賛成します』

 

「...なんだあいついきなり変な声出して」「何かぶつかったのか?」「私何も見えなかったけど」

 

『ずっと退屈だった!遊んでほしいガルゥゥ!』

「ちょ、ま!」

 

「何してんだ慎也?」「急に揺れだして...」「新種のダンスか?」「どうした村上!?」

 

慎也の背中で暴れるレオ。精霊が見えていない周りからすれば慎也が1人で揺れているだけだ。皆の知る聖帝代表と言えど、控えめに言って怪しすぎる

 

『主人、慎也の旦那の背中見てみるガウ!』

「...あ!」

「どうしたの詩織?」

「い、いえ...」

(あれは...[紋章獣レオ]...村上さんが新たに宿した精霊ですね)

 

詩織も同様に精霊を目視できる人間だ。一見すると慎也の不審な動きも、詩織の目を通せばレオが慎也にじゃれついている光景になる。

 

『み、皆木殿!このままでは殿が愉快なお方だと認識されてしまいますぞ!』

(そ、それは大変ですね!)

 

事態は迅速な対応が望まれる。周りの生徒は明らかに不審がっていた。同じ精霊のシエンやセラフィでも手をつけられないのであればもはや詩織しかいない。

 

(うぅ...でもどうやってレオを止めれば...)

 

「おーい村上?」「なにしてんだよ」「大丈夫なの?」「なんだあいつ」

 

「だ、大丈夫だよ!」

(レオぉぉ!おりてぇぇ!!)

『レオを引きはがすゲームガオ?負けないガルゥ!』

 

『マスター、ワタシの力ではレオを引きはがせません』

 

「楠君。村上君は何をしてるのかしら?」

「...」

 

「...もしかしたら」

 

意を決すると詩織は一歩前に出た。レオを引き剥がそうとする慎也の行動は余計にレオを楽しませてしまい、状況は悪化していた。大きく息を吸うと詩織は一喝した

 

「 お す わ り ! !」

『ガル!?』

「ハァハァ...詩織ちゃん?」

 

まるで飼い犬をしつけるかのような一声。なんとかレオを抑え、慎也の救出に成功した詩織だが、事態は思わぬ方向に進んでしまった

 

「...え?」「今の何?」「おすわり?」「犬でもいたかしら?」

 

あまりにも大きなその命令は生徒達に新たな疑問を上書きしただけであった。シエン曰く”愉快なお方”の対象が移っただけになってしまう。そこで慎也は...

 

「...」スゥ

 

座った。さながら愛玩動物かのように。詩織も慎也のアドリブに乗るしかなく、道化は2人に増えた

 

「む、村上さん!大人しくしてください!」

「...はい」

 

「...え?え?村上に言ってたの??」「それで村上はいうこと聞くんだ...」「どういう状況??」

 

「...」

(これはこれで不味いのでは...)

 

「...」

(詩織のちゃんごめん..こうするしかなかった...)

 

2人の男女が赤面し沈黙する中。知樹は冷静に割って入ってきた

 

「そういう事なんだ。すまないがその夫婦の事はあまり触れないでやってくれないか」

 

「...なるほどね」「邪魔しちゃったな...」「ご、ごゆっくり...」 

 

次の講義の事もあり、気まずそうに散り散りになって行く野次馬。残された慎也達、主に2人のが気まずそうにする中に、気づけば灰田が帰ってきていた

 

「慎也と皆木って”そういう関係”なの?」

「「ち、ちがう(ます)よ!!///」」

 

「灰田、言ってやるな。いろんな愛があるんだ」

「知樹までやめろよ!」

 

『ガルルゥ...ご主人、レオはいつまで座ってればいい!』

『お前俺と語尾似てるガウ!』

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

「あの時はヒヤヒヤしたなー...」

『そうですな。手伝いますぞ』

 

シエンは包丁を手に取り、長ネギを薄くスライスし出す。普段刀を手にしてることが関係しているのか、見事な包丁さばきで慎也に貢献している

 

『ご主人!味噌汁の具は!』

「...豆腐とワカメ。食べれる?」

『ご飯ならなんでも食べるガルルゥゥ!』

「じゃあ背中から降りて、おすわり」

『ガルルルゥゥ』

 

詩織の「おすわり」から丸1日経過した。このままの状態で大学に連れて行くことは難しいため、精霊と言えど躾とも取れる教育が必要だ。一昨日の放課後からレオに対するそれは始まっており、多少は大人しくなったようだ。

 

「はい、できたよー」

『マスター、ワタシも手伝います』

『ガルゥ!』

 

4人分の食事がテーブルに並ぶと三つの椅子も埋まった。「おすわり」から解放されたレオも勢いよく専用の椅子に飛び乗ると、主の宣言を待つ

 

「いただきまーす」

『頂きます』

『いたたぎます』

『ガオ!』

 

一人暮らしだった慎也宅も随分と賑やかになった。精霊に食事は必要無いとしても、慎也は皆での食事を望むらしい。まるで血を分けた家族のように団欒の時間を過ごしていた

 

『マスター、本日は休講が多いようです。やはり明日のインターンシップ説明が関係していると考えられます』

「やっぱり?...3限だけ行くのもなー」

『そうですな。殿はさらに関東大会も控えておりますし、無理をなさる必要も無いかと』

『ガルゥ!』

「だよね。レオ、もっとゆっくり食べな」

『分かったガルル!』

 

日本の朝らしいメニューだが、レオは気にせずフォークを用い食している。本人曰く『ご飯はご飯!』との事で、外見に似合わないが和食も普通に食べている。慎也は精霊達に食事を取らせると同時に、箸の使い方やマナーも教えた。そのためシエンやセラフィは既に食器を使いこなしている。レオにも箸を使わせようと試みたが、どうやら叶わなかったらしい

 

『おぉ、この紅鮭は誠に美味ですな...』

『同感です。とても脂がのっていますね』

『骨まで美味しいガオ!』

「骨までたべちゃったの!?」

 

慎也とその精霊達の朝食。皆がそれぞれの皿を綺麗にする頃、慎也の端末に何かの通知音が響いた。慎也もタバコから端末に視線を移すと、届いたメッセージを確認し出した。

 

 

 ϖ 聖帝

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

                  既読6(まじか}

 灰田光明

{まじまじ!)

          7月2日(金)

 

 灰田光明

{皆今日学校行く?)

 

        既読5(1限しかないからサボっちゃう}

 

 皆木詩織

{私は必修あるので行きますよ!)

 

 楠知樹

{俺もだ)

 

 西条麗華

{私は全て休講ですのでお休みですわ)

 

 はやと

{俺も休みだなぁ)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「皆も同じ感じだね」

『そのようですな、お茶が入りましたぞ』

『ありがとうございます』

「ありがとー」

『ありがと!』

 

慎也、セラフィ、レオの順で湯のみを置いていくシエン。だが、その本人の湯のみは無く、先程食べ終えた茶碗に注いでいる。随分前に慎也に湯のみを使っていいと言われたが、シエン本人はこの方法を続けたいようだ

 

「...そういえばおじいちゃんもやってたなそれ」

『そうですか...殿、やめた方がよろしいでしょうか?』

「いや洗い物も楽だし、俺はいいんだけどね」

『はぁ、いえ、どうもこうしないといけない気がしまして...』

『その身なりのせいでしょうか』

『熱いガルルルゥ...』

 

 

村上家の平和な1日はこの後も続いた

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

7月3日土曜日、時刻はもうすぐ12時と半分を迎える頃。聖帝の生徒達はプロデュエリストへのインターンシップ説明会に出席するため、休日だが駅前のビルに向かう。他の職業との差別化を図るためと思わていたが、参加者は多いようだ。時間も場所も統一されているため、自然と詩織達は合流する形になった

 

『主人、あいつはお友達じゃないですかい?』

「あ、楠さんですね」

「あらおはよう。蛭谷君は一緒じゃないの?」

 

「おはよう。あいつならもうすぐ来るさ」

「あぁ、もう着いたぜ」

 

宣言通り少し遅れて蛭谷が現れた。潰れた髪を乱暴にほぐすと伸びをする。いつもと違う靴からバイクでここまで来た事は察しがついた

 

「あら、バイクできたのかしら?」

「おぉ、たまには動かしてやらねぇと思ってなぁ」

「俺は颯人の後ろに乗ってきたんだ」

「大型なんですね!」

「ヘルメットも2個あるし、1年以上たってるからなぁ」

「後でバイク見せて欲しいわね」

 

しばらく談笑するが、やはり明らかにいない人物がいる。当然話題はそれに代わる

 

「...あの、村上さんは?」

「灰田君も麗華ちゃんもいないわね」

「西条はあのお嬢様と一緒にいくらしいぜ?」

「...慎也と灰田も確か一緒に行動しているはずだが」

 

灰田の寝坊は誰もが予想できていた。そのための慎也との事で合流のはずだったのだが、2人とも姿がない。時間はまだあるが、慎也がギリギリの時間に行動するようにも思えず、知樹は連絡する事にした

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

時は少し遡り12時6分。自宅で灰田を待つ慎也はインターホンの音で席を立った。大事な説明会に遅刻する事は絶対に出来ない慎也は何度もしつこく灰田と連絡を取っていた。起床時間も出発時間も問題はなかったはずだが、いざ約束の時間になると自宅に来た灰田から思わぬことが告げられた

 

「ど、どうしよう慎也...」

「どうしたの?ちゃんと間に合ってるけど?」

「ディスクが動かない!」

 

インターンシップ説明会にはディスクと学生証が必要と合った。通常意識せずとも持参するものであり、灰田もそれを持ち現れた。しかしそれは機能しないらしい

 

「またスリーブが噛んじゃっただけじゃない?」

「ううん...そもそも電源が入らない..」

「えぇー...ていうかなんで今更言うのさ。もっと早くLIN〇するとか、来てから言わないでよ」

「ディスクの充電してたから携帯の充電わすれてた...」

「もー...予備のディスクは?」

「無い...」

「輝元さんとか光美さんから貸してもらうのは?」

「2人とも朝早くから出かけちゃった...」

「じゃあ今からいつものショップいって、治せるなら直して無理なら修理出して代替え機貸してもらおう」

「いつも行ってる近所のお店は今日お休みしてた...」

「...じゃあ急いで準備するからその間にこの辺のショップ調べておいて!」

「携帯の充電無い!」

「がんじがらめじゃねぇか!!」

『殿、落ち着いてくだされ!』

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

「ーという事らしい。もしかしたら間に合わないかもしれんな」

「灰田君...らしいっちゃらしいわね...」

 

「村上さん...」

『主人!慎也の旦那は遅刻ガウ?』

 

「まぁ...最悪余分にプリント貰っておいてやりゃーいいんじゃねえか?それかコピーとかよぉ」

「そうだな、俺らまで遅れてしまっては仕方ない。先に入っていよう」

 

4人で指定されたビル内に入った。綺麗に磨かれたガラスの自動ドアを抜けると聖帝の生徒で賑わっていた。受付には今日のために用意されたのだろう6人と多めの担当者が待機しており、スムーズに対応していた。知樹達もそれぞれ列に並ぶと、すぐに彼らの順番は訪れ、女性スタッフの支持を仰いだ

 

「こんにちわ、聖帝の生徒さんですね?ディスクを拝見させてもらいます」

「あぁ、これっす」

「どうもありがとうございます。お名前とご年齢、在籍学部をお伺いしても宜しいですか?」

「蛭谷颯人、法学部の21です」

「はい...ではこちらを首から下げ、9階の81番室に上がってください」

「9階の81番室っすね。ありがとうございます」

 

渡された名札のようなものを言われた通り首から下げる蛭谷。少しすると詩織も似たようなものをぶら下げながら現れた。

 

「蛭谷さんはどこって言われました?」

「俺は9階の81番っていわれたなぁ」

「はぁ、私は2階の1番です。やっぱり学部でしょうかね?」

「あら?私は8階の72番よ?」

「ふぇ?美姫ちゃんとは同じ学部なんですけどね...何ででしょうか」

「まぁいいじゃねえか、俺は流石に9階まで歩くのしんどいからエレベーター使うぜ」

「私もそうするわ、じゃあ後でね詩織」

「はい!」

 

2階に指定された詩織は1人階段で向かった。言われた部屋はすぐに見つかり、慎重にドアを開けると既に数人の生徒がいた。知っている顔は、あまりないが馴染みのある先輩を見つけると近くに寄った

 

「あ、お久しぶりです渡邉さん」

「ああ、皆木か。構内大会以来だな」

 

一週間前に戦った傷なき戦士。前回は超えなければならなかった強敵であったが、今は頼れる知人だ。隣の席につくと説明会の開始まで渡邉と過ごすことにした

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

同時刻。慎也達は風を切り、大地を蹴り、歩を進めていた。時間はもう無い、移動とショップへの問い合わせを同時に進行させながら慎也は考える。どうすれば説明会に間に合うか

 

「...はい、はい。分かりました。ありがとうございます」

「どうだった!?」

「修理は出来るけど代替え機が用意出来ないって...」

「えぇー!...あ、慎也!」

「何?」

「八皇地駅にあたらしいショップ出来たんじゃなかったっけ?」

「えっ...調べても出てこなかったけど...」

「俺チラシ持ってるよ!ほらこれ!」

「貸して...しかも今日オープン...ディスク修理もやってる...電話してみよう」

 

チラシに記された番号を端末に打ち込むとそれを耳に当てた。電話はすぐに繋がり、悠長に店舗名を告げられた。恐る恐る要点を伝えると帰ってきた答えは

 

《ええ、来ていただければすぐに対応可能です。代替え機もございます》

「本当ですか!?では今すぐ伺いますので取り置きお願いできますか!?」

《はい、かしこまりました》

「すみません、こっちの都合なのですが急ぎでして...どれ位で対応して頂けますか?」

《でしたらお名前とご連絡先と機種を仰っていただければある程度こちらでご用意しておきます。5分も頂きません》

「助かります!名前は灰田光明で...」

「慎也いつから俺になったの!?」

「うるせぇ!早く行くよアホ!」

 

 

再び走り出す若人2人

       時刻は12時間46分

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

12時55分。詩織のいる部屋に変化が現れた

 

 

「それで!その時の村上さんがですね!」

「お、おう...随分村上の事が好きなようだな...」

「ふぇ!?い、いやそんなんじゃありませんよ...」

「ふっ...隠さなくで分かる。あれから村上の話しか聞いてないからな」

「あ、すみません...」

「気にすることは無い。だがもう始まるようだぞ」

 

 

ドアをノックする音が響いた。生徒達もそれに気づき、改めて姿勢をただすと、ドアが大きく開いた。

白い生地のスーツに整った髪の若い男性が笑顔で入室した。生徒達は困惑する。その男が従える明らかに異常な集団に

 

 

「みなさんこんにちわっ!」

 

 

生徒の様子に満足なのか、その男は構わず話し出す。部屋の中には困惑する聖帝の生徒、黒いロングコートに大量の黒いアクセサリー。そしてそのコートのフードを深くかぶる明らかに怪しい集団とそのリーダー格の白いスーツの男。

生徒の中には悲鳴を上げる者もいた。4年である渡邉は席を立つと白いスーツの男と向き合った

 

 

「穏やかではありませんね、どういう状況ですか?」

「君は冷静だね!インターンシップ説明会に見えないかい?」

「どう考えても見えませんよぉ...」

『なんだガウ!?』

 

黒いロングコートは聖帝の生徒を囲む陣形をとった。相変わらず白いスーツの男は笑顔を崩さない

 

 

「まぁ、後でちゃーんと説明するよ。今は...そうだな、黙って付いてきてくれないか?」

「まずは説明してもらう、その格好はなんだ、何が目的だ?」

「ふぅん?もう面倒くさいや、ほらお仕事だよっ!」

 

 

白いスーツの男が黒いロングコートの1人を指さすとその男のディスクが光る。渡邉の反応は少し遅く、自身のディスクと黒いロングコートのディスクが光の糸で結ばれてしまった。ディスクの画面には「決闘(デュエル)開始」の文字があった

 

 

「なんだこれは!決闘(デュエル)の強制開始...っ!?」

「察しがいいね!まぁなんで決闘(デュエル)かってのも後でちゃーーんと説明してあげるから今は負けてね!あとは任せたよっ」

 

 

白いスーツが背中を見せた

 

ーと同時に渡邉はその背中をめがけ、部屋のフローリングを力一杯蹴った

 

 

「っおい、貴様!」

「ぐぁっ!?」

 

ディスクを起動していない黒服が怒鳴り、渡邊に飛びかかかった。その男の突進を逆に受ける形になり、黒服の下敷きにされた。腹部の痛みよりも今は後輩達の身の安全が大事と判断した渡邉は叫ぶ

 

 

「ガッ...う、うおおお!」

「チッ、なんて力だ!お前らも手伝え!」

「おいおーいっなんで一人に手こずってるんだよーっ!」

 

「わ、渡邉さん!?」

『あの兄ちゃん...すげえ力だガウ』

 

 

白いスーツは手をかけていたドアノブから手を離し、背中越しに渡邉と部下の乱闘を鑑賞する。しばらくそれが続くと渡邉は5人の黒服を押しのけ、距離をとった。

そして息を整え出す。苦しそうに深く、深く呼吸をしている。

 

彼のディスクの光の糸は1つから5つに増えていた

 

「ハァハァ...お前らには、俺と遊んでもらわなくては困る...」

「何を...」

 

 

意味有り気な笑を浮かべる渡邉。それを見ると黒服の集団は己のディスクを確認した。案の定そこには「決闘(デュエル)開始」の表示があった。先ほどの乱闘で渡邉がやったのだろう、上手くいった事にひとまず安心している

 

「あーあ!お前達やられたねーっ?」

「も、申し訳ありません...」

「すぐにこいつを!」

「頼むよ?ボクはもう行くからねっ!」

「ハァハァ...くっ、待て!」

 

 

渡邉の静止を無視し、その男は姿を消した。原理まで分からないが、渡邉はこの5人と同時に決闘(デュエル)を強要されている事は分かる。こんなオーバーテクノロジーを見せられた今、敗北が何を意味するかは想像出来ない。

それでも渡邉の目的は変わらない

 

 

「ハァハァ...」

(何なんだこいつら...それよりも...)

 

「渡邉先輩!私も...」

『お!俺の出番ガ「駄目だ、来るな!」

 

 

詩織が決闘(デュエル)に参加を願うも渡邉に一蹴された。先程まで優しかった先輩の思いがけない怒号を前に思わず一歩引いた

 

 

「わ、渡邉さん...?」

「こいつらは普通じゃない、俺が相手をしているうちにみんな逃げろ!」

「...」

「で、でも!」

「俺なら大丈夫だ...頼むから逃げてくれ!」

 

 

重く、不安な沈黙

渡邉の身を呈した選択は、彼の後輩達を動かした

 

 

「渡邉先輩!ありがとうございます!」「ご無事で!」「は、早く逃げるんだよ!!」「キャー!!」

 

「皆木、お前もだ」

「うぅ...渡邉さん、すぐに戻ります!」

『...兄ちゃんも無事でいろガウ!』

 

 

詩織達も一つしかないドアから外に飛び出す。それを見届けると渡邉は背中でドアを押し、出入口を封鎖した。己と5人の不審者を密室に閉じ込めた

 

 

「...村上によろしくな」

 

「貴様ぁ...随分舐めたことをしてくれたじゃないか」

「よりによって”希望”を逃がすなど...!」

「覚悟はできてるんだろうな!」

 

殺意とも取れる感情を身で受け止める渡邉だが、冷静を保ち続けていた。ディスクとディスクを繋ぐ光の糸、それに干渉を試みると触れることが出来た。指先で摘むとそれは見た目よりも固く、熱かった

 

 

「これがどういうものな分からないが、とにかくこれで繋げればお互い逃げられないんだろう?」

「まずはその減らず口を叩きのめしてやるよ...!」

「ぶち殺す!」

 

 

 「「「「「「決闘(デュエル)!!!!!!」」」」」」

 

 

謎多き決闘(デュエル)は始まってしまった。本気で5人を食い止める。彼の瞳の闘士はそう語っている。

 

渡邉の先攻で始まった

 

「俺のターンだ!」

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

「はい、ではこちらが代替え機でございます。お急ぎでしょうし、詳細は後日ご連絡致します」

 

「はい!何から何でありがとうございました!」

「ありがとうございます!!」

 

12時55分。慎也達の最後の望みであるショップは八皇地駅前ビルとそう遠くない距離にある。手続きを終えると新たな目的地に向かって走り出した

 

「ハァハァ...間に合うかもしれないね!」

「うん!...あ、ここじゃない?」

 

目当てのビルが見えると2人は駆け足から小走りにシフトした。減速し、目の前に佇む高層ビルを見上げると玄関に近づいた

 

「...閉まってる」

「え!?間に合わなかったの!?」

「...そうみたいだね」

『殿...残念でしたな』

 

息を整えながら慎也は左手の腕時計を見る。時は12時55分、間に合っているようで、間に合っていなかった。乱れた息は自然とため息に変わり、慎也は見るからに落胆していた

 

「慎也...ごめんね...」

「はぁ...しかたないよ。知樹達が終わるまでそのへんで時間を...?」

「う、うん!お店入ろう!俺が奢るから!」

 

灰田に呼ばれ慎也は引き返そうとする。しかし視線の端に見えた何かに違和感を覚え、再び振り返る

 

「...?」

「どうしたの、慎也?」

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

「俺はターンエンドだ!」

 

渡邉 手札:1枚 LP 8500

 

モンスター/ [アロマージ・ジャスミン] ATK 100

 

     / [アロマージ・ジャスミン] ATK 100

 

魔法・罠 / リバース2枚

 

「クックックッ...俺のターンだな」

「ああ、来い」

 

渡邉は5体1の状態。彼のデッキはライフ回復をトリガーとしたもののため、長期戦に持ち込めるかが鍵となる。慎重に、慎重に今出来る最善の手を尽くした。そう自負しながら渡邉は相手の初動を待つ。初対面である限り、全くの予想は着かない。

 

「俺はこのカードを発動する!」

 

使用されたカードがソリッドヴィジョンとディスクに表示された。渡邉も確認するが、画面には見慣れないものがあった

 

 

 

 

     ┌              ┐

 

       カード情報が存在しません

       ц п к п о ш п

 

     └              ┘

 

 

 

 

「...なんだこれは?」

 

 

      ー青年は虚空に呟くー

 

 

 




新展開ですね。こういうの好きです。

次章から急速に物語が進みます。ご期待ください!

ぶっちゃけどうですか?

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