遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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静岡に居ました
...すみませんまた遅れてしまって

忙しかったと言うより行き詰まってました←


第百十六話 兄弟喧嘩

◐月下-北側大通り / 午前7時12分

 

 

「俺のクソッタレの兄貴だ」

 

 

劉輝の予想通り、一樹とあのプロ決闘者(デュエリスト)は血縁関係にあるようだ

それも兄弟

 

どうしてS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間と近しい人物ばかりが失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)に加担しているのか甚だ疑問に思えた

それも兄弟やかなり近い存在が

 

 

「...久しぶりだな、一樹」

 

「本当にそうだなー?てめぇ今まで何してたんかしらねーけど何でここにいんだよ!」

 

「それはお互い様だろ」

 

 

声は似ていない

それどころか兄弟と言われても信じ難い程にこの2人は似ていなかった

見た目や口調、着ている服や雰囲気も対局とも言える

 

それはただの興味に過ぎなかった

劉輝と一樹は立場こそS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)と同じ仲間だが、仲がいいわけではない

故に兄弟が居ることすら知らなかった

しかもプロランク所持者であり、最近まて行方不明だったなんて情報が多すぎたのだ

 

だからだろうか、劉輝が端末の音に過剰に反応したのは

 

 

《ガガッ...そっちはどうなっている》

 

「おっ...なんか敵の増援が来たぜ」

 

「に、日本のプロもいます!行方不明だった人も!」

 

《なんだと》

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部の何処かで聞いた事のあるような声だった

安山のものでは無い

 

劉輝の些か雑な報告につけ加えるように東野が詳細を追って話すとその声の主は控えめに驚きを見せた

日本のプロにではなく、行方不明の単語に反応したようだ

 

 

《まさか海堂晶じゃねぇだろうな》

 

「そうです、海堂晶さんです!一樹君のお兄さんですよ!」

 

《...》

 

 

それ以来端末は沈黙してしまった

電波が悪いのかと勘違いした東野が執拗に報告を続けるが、どうやら通信は途絶えているようだ

あちら側から切られたのだ

 

それでも喋り続ける東野に嫌気がさしたのか、晶と何か言い合いをしていた一樹が東野に対して声を荒らげた

 

 

「チッ、おいうるせーぞ圭!」

 

「あっ、ごめん...」

 

「どうでもいいんだよ、要は」

 

 

一樹は自身の決闘(デュエル)ディスクを東野達に見えるように掲げた

それは既に晶の物とアンカーで繋がれており、臨戦態勢に入っていることを表している

 

やがて音も立てずに操作画面に光が灯る

もう止めることは出来ない

 

 

「こいつは敵だ、だから俺がやる。それだけだ!」

 

「相変わらず短気だな」

 

「てめぇこそ余裕ぶっこいてやがる」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

一樹 LP 8000

晶  LP 8000

 

 

「チッ...先攻かよ、俺は[サイバー・ドラゴン・ドライ]を通常召喚!」

 

 

[サイバー・ドラゴン・ドライ] ATK 1800

 

 

「召喚に成功した[ドライ]の効果にチェーンして手札の[サイバー・ドラゴン・フィーア]の効果を発動だ!こいつを特殊召喚する」

 

 

[サイバー・ドラゴン・フィーア] DEF 1600

 

 

「そしてチェーン1の[ドライ]の効果で俺のサイバー・ドラゴンは全部レベル5になる」

 

 

[サイバー・ドラゴン・ドライ] ☆4→5

 

[サイバー・ドラゴン・フィーア] ☆4→5

 

 

「俺はレベル5になったサイバー・ドラゴン・ドライ] と[サイバー・ドラゴン・フィーア]でオーバーレイ![サイバー・ドラゴン・ノヴァ]をエクシーズ召喚!」

 

 

[サイバー・ドラゴン・ノヴァ] ATK 2100

 

 

「そして俺は[サイバー・ドラゴン・ノヴァ]でオーバレイネットワークを再構築!機械龍よ、時を越え現世へと姿映さん!無限の叫び、永遠に轟かせろ!エクシーズ召喚、行きな[サイバー・ドラゴン・インフィニティ]!」

 

 

[サイバー・ドラゴン・インフィニティ] ATK 2100→2700

 

 

「[フューチャー・フュージョン]を発動してエンドだ」

 

 

一樹 手札:2枚 LP 8000

 

モンスター/ [サイバー・ドラゴン・インフィニティ] ATK 2700

 

魔法・罠 / [未来融合-フューチャー・フュージョン]

 

 

「サイバー・ドラゴン...”あのデッキ”はどうした?」

 

「てめーには関係ねーだろ!」

 

 

あらゆる効果を無力化するランク5の機械龍。彼の必殺の永続魔法を死守するために、1枚のセットカードと共に相手ターンに残された

 

サイバーの先攻としては十分だろうか

しかしサイバーの中でもかなり攻撃的な構築を施した一樹にとって、先攻を取った段階で既に厳しい状況にも見える

 

そして彼らは兄弟

だが一樹の先攻が終わった今も尚兄の晶は何か解せない様子でいた

近しい関係ならお互いの使用デッキ等分かっていて当然。だが晶の口振りはまるで初めて退治する決闘者(デュエリスト)のデッキを見るかのようなもの

 

「あのデッキ」

その一言は一樹が過去に使用していたデッキと現在の物が異なっている事を表していた

 

 

 

ーーー

ーー

 

20年前

当たり前とは言い難い家庭に一樹は生まれた

一樹の5つ上の兄、晶はその産声を未だに覚えている

 

何の問題も無く生まれた。それを彼らの両親は当然喜んでいたし、過剰かとも思えるが親戚までも集まっていたのも記憶に深く残っている

 

海堂は非常に厳しい家系だった

何か力を持つわけでも無く、なにか実績を持っている訳では無かったが、一樹達の親戚は誰も立派な職に着いていた

 

刑事

教師

弁護士

中には医学の道を進んだ従兄弟も居ると聞いたことがあった

 

それ故に一樹と晶達にも自然と期待とプレッシャーがのしかかっていたのだ

5年早く生まれた使命感もあり、晶自信も両親や親戚の期待に答えるため、弟へ頼りがいのある背中を見せるため切磋琢磨は欠かさなかった

 

 

「晶、将来は何を志す?」

 

 

誰もが親に問われた事があることだろう

幼少期ならサッカー選手、宇宙飛行士のような突飛なものでも口にするだろうか

晶はこの質問を7歳の時に受けた

純粋無垢だった彼はあまり考える事も無く即答した

 

 

「プロ決闘者(デュエリスト)

 

 

この世界では異色のない答え

少年らしいそれだろう

 

だが時期と相手が悪かった

まだ一樹が物心を覚えるよりも前、晶の意思は消滅し始めて行ったのだ

 

 

「何処に行くつもりだ晶?」

「何をしている?」

「努力を惜しむな」

「海堂家の長男なんだぞ」

 

似たような言葉ばかりが彼の自由を奪っていた。何れも「プロになるんだろ?」で締めくくられ、異論等脳内に過ぎる暇も無かった

 

自分は海堂家の長男

他の従兄弟に負けられない

怠惰は許されない

 

そんな確信も無い不安定な何かに縋り続け彼は12歳まで生きた。地域の友人達と同じ中学校に通いたかったのが当時の本音

しかしそれについての彼が両親に相談した際、帰ってきた言葉はいつもの「プロになるんだろ?」だった

 

自宅から片道1時間半。

彼が3年間通う事になったのは遊戯王に力を注ぐ私立高校だった

夜は家庭教師と勉学に

早朝は自主練と通学の為4時半起き

自分の時間など無いに等しかった

 

しかし、彼は決闘(デュエル)を愛していた。両親を安心させるために好きな事を専攻する事に、あまり疑問が無かったのも愛ゆえだった

それも彼が18歳になる頃崩れた

 

 

「これは父さんがお前のお爺さんから受け継いだカードだ」

 

 

ある夜父親の書斎に呼び出された時の言葉

彼の手には1枚のフィールド魔法があり、なんとなく晶は何を言いたいのか理解していた

 

そう、彼の祖父もまたプロ決闘者(デュエリスト)だった。高ランクを維持し、まさに海堂家が誇る偉大な人物だったと幼少期に聞かされていた。世間からは”海堂流”と名を知らしめていたとも聞いたが、それは過去の栄光

 

それこそが海堂の人間にかかるプレッシャーの根源なのかもしれない。だが晶の祖父以来、プロとして力を示す事を果たした人間はいなかった

 

挑戦したものはいた

だがその海堂は己の分を知り、退いたのだ

海堂流はその者で途切れていた

 

 

「晶、俺には出来なかった。一樹も駄目、あいつには何も無い。だからお前がお爺さんの意志を継ぐんだ」

 

 

歪なカルマだ

祖父の威厳だけでなく、父親の失念すらもまだ若い晶が背負う事になったのはその瞬間

 

自らが11年間かけて築きあげたデッキに入るはずのない1枚のフィールド魔法。そのたった1枚の重すぎるカードが、彼の自由意志と愛をズタズタに引き裂いたのだった

 

そしてそれから2年後

 

 

「最年少Bランク達成者」

 

 

彼がまだ大学2年生の時

両親だけでなく親戚誰もが手を挙げて喜ぶ出来事があった

 

晶が必死の努力の末勝ち取ったランクB5

特別使いたくもないカードとプロの道に人生をかけた結果、彼はプロランクの中でも文句のない地位まで上り詰めたのだ

 

プロランク戦を終えた夜

今まであったことも無いような親戚も集まり、彼の実家は大賑わいと化した

 

 

「流石は海堂家の男だ」

「まだ若いのに実績を残すなんて」

「一体どこまで行くのかしら」

 

 

当然晶を賞賛する言葉の数々が飛び交った

紛れも無い笑顔と陰りのない賞賛を前に、晶も救われた気持ちでいたのも束の間

 

このまま彼の努力を労う宴も終わる。晶の両親以外はそう思っていた

 

 

「次はA、決闘王(デュエルキング)まではまだ長いぞ」

 

 

プロ決闘者(デュエリスト)は近いランクを持つ決闘者(デュエリスト)同士ポイントを奪い合って昇格する

Bの次はA

そしてA1の猛者達が年に1度のランク戦で勝ち抜き、その内のたった1名がSの称号を得る

 

そしてその先の世界大会

日本唯一のSランク保持者が国を背負って世界と戦う。その末にあるのが決闘王(デュエルキング)の称号だ

 

B5に上がるまでに何年かかっただろうか

何年自分自身を殺して無我夢中で進んできたのだろうか

 

やっと掴む事が出来たB5のランクは、両親を満足させるには至らなかったようだ

 

 

「...おい、兄貴」

 

 

限界は等に超えていた

それに気が付いたのは両親でも彼自身でも無く、唯一の実弟である一樹だった

口は悪いが兄思いの可愛い弟。

 

初めは兄としての威厳や海堂家の誇りを見せるために頑張ってきたのだが、気が付けば自分のようなカルマを一樹には背負わせないため。自分自身が身代わりになるように父親の期待を1人で背負っていた

その弟の言葉が嫌に響いた夜だった

 

 

「無理してねーか?」

 

 

その年

彼は原因不明の病に倒れた

過労によるものか否かも分からなかった

 

当時のランクはB1

いよいよAへの昇格をかけたランク戦を前に、彼はやっと己の限界を知ったのだった

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

「...俺は手札の«цпкпошп»を捨て、«цпкпошп»を特殊召喚する」

 

 

«цпкпошп» DEF ?

 

 

晶のターン

通常ドローを含めた6枚のカードを眺め、その内の2枚を手に取ると早速そのカードが姿を現した

 

予想内の«цпкпошп»だ

 

 

「特殊召喚に成功した«цпкпошп»の効果を発動する。デッキから«цпкпошп»を墓地に、そしてフィールド魔法«цпкпошп»を発動だ」

 

 

召喚成功時に特定のカードを墓地に落とす。単純な効果だが、特殊召喚成功時にでも発動する事と、自らがその効果を所持している事が非常に噛み合っている

 

 

「«цпкпошп»をリリースし、手札から«цпкпошп»をアドバンス召喚する」

 

 

«цпкпошп» ATK ?→?

 

 

「効果を発動する。手札の«цпкпошп»を捨て、デッキから«цпкпошп»を特殊召喚するが」

 

「好きにしろ、[フューチャー・フュージョン]は割らせねー!」

 

「なら«цпкпошп»を特殊召喚だ」

 

 

«цпкпошп» DEF ?→?

 

«цпкпошп» DEF ?→?

 

«цпкпошп» DEF ?→?

 

«цпкпошп» DEF ?→?

 

 

「...は?4体もかよ!」

 

「まったく、相変わらずだな」

 

 

晶は一樹のデッキを初めて見たようだが、それは一樹にも同じことが言えた

兄弟の関係にあると言うのに、この双方の決闘者(デュエリスト)は互いの決闘(デュエル)を知らないのだ

 

そう、この2人は互いに何も知らない

過去の記憶こそ«цпкпошп»を前にして意味のあるものになるはずも、何も知らないのだった

 

 

「カードを1枚セット。そして俺はフィールドの«цпкпошп»3体をリリース。墓地の«цпкпошп»を特殊召喚する」

 

 

«цпкпошп» ATK ?→?

 

 

「召喚に成功した«цпкпошп»の効果にチェーンし、墓地に送られた«цпкпошп»の効果も発動。お互いの魔法・罠を全て手札に戻す効果と俺のフィールドにトークンを特殊召喚する」

 

「バウンス...チッ、チェーンで逃げんじゃねぇよ!」

 

 

次のスタンバイフェイズまで[フューチャー・フュージョン]を残すためには、バウンスも通す訳にはいかない

しかしチェーン2に特殊召喚効果が挟まれてしまった

これにより[インフィニティ]が無効に出来るものはそのトークンの生成のみとなる

 

それならば[フューチャー・フュージョン]は諦め、[インフィニティ]は温存する事を選ぶらしい

一樹にしては潔のいい切り替えにも思えるプレイングだ

 

 

[インフィニティ] ATK 2700→1800

 

???トークン DEF ?

 

 

「は?」

 

「«цпкпошп»の効果だ。戻した魔法・罠の数×300ポイント相手モンスターの攻撃力を下げる」

 

「面倒くせー野郎が...っ!」

 

「一度バトルに入る。«цпкпошп»で[インフィニティ]に攻撃だ」

 

「チィッ...ッ!」

 

 

一樹 LP 8000→7000

 

 

「«цпкпошп»でダイレクトアタックだ」

 

「クッ...」

 

 

一樹 LP 7000→4200

 

 

「どっちも2800、大した事ねーな!」

 

「...メイン2だ。墓地の«цпкпошп»を除外し、墓地から«цпкпошп»を特殊召喚する」

 

 

«цпкпошп» DEF ?

 

 

「そしてフィールドの«цпкпошп»とトークンをリリース、墓地より«цпкпошп»を特殊召喚だ」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「特殊召喚に成功した«цпкпошп»の効果、デッキから«цпкпошп»をセットする。フィールド魔法を貼り直してターンを終える」

 

 

フィールドのモンスターをリリースし、墓地より自己蘇生

先程の魔法・罠の全体バウンスを行ったモンスターと非常に似た性質を持つモンスターだが、今度はデッキから直接魔法・罠のセットを成した

 

随分と特徴的な動きだ

爆発的な展開からの特殊召喚。特殊召喚成功時にバウンスやセット。散々«цпкпошп»を相手にしてきた一樹も、こればかりは見当もつかないでいた

 

 

晶 手札:1枚 LP 8000

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

     / «цпкпошп» ATK ?

     / «цпкпошп» ATK ?

     / «цпкпошп» DEF ?

 

魔法・罠 / リバース1枚

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

「...チッ、ドロー!」

 

 

戻ってきてしまったカードと通常ドローを合わせた4枚の手札

相手にはデッキから直接持ってきたセットカード

そして攻撃力2800のモンスターが少なくとも2体。そこまでの制圧力は無いだろうが、どこか苛立ちを覚えてしまう

 

それは海堂家のカードだからだろうか

 

 

ーーー

ーー

 

 

10年前

一樹は自分自身の両親が嫌いだった

叔父や従兄弟も同じく、また最も近い実兄もそうだった

 

形として何も持たないただの家が掲げる大きすぎる目標が嫌だった

ただの会社員の2人が無駄にかけるプレッシャーが嫌だった

ご立派な職に務める従兄弟の期待の目が嫌だった

それになんの文句も言わず、なりふり構わず努力が出来た兄が嫌だった

 

そして何よりも、何も果たせないでいる自分自身が嫌だった

決闘(デュエル)が好きだった。野球や陸上、体を動かす事も好んでいた。他にも将来やりたいことを沢山持っていた

 

だがどれも両親や親戚を納得させるには至らないそれ

やがて何故自らのやりたい事を考える際、誰かを納得させなければならないのかと憤りと疑問を抱くようになった

 

 

「一樹、お前も決闘(デュエル)をするんだな」

 

 

一樹が門限ギリギリになって帰宅したとある夕方、書斎に呼び出され説教に身構えた彼はとあるカードを渡された

実父が言うには彼がプロを志していた歳のデッキらしい。決闘(デュエル)の勉学ばかりで自分自身のデッキを持たなかった彼は黙った受け取ったが、嬉しくは無かった

 

 

「これで晶のようにプロを目指せ」

 

 

決闘(デュエル)は好きだった

だがいつの間にか彼の将来の夢はプロ決闘者(デュエリスト)になっていたことに、疑問が遅れてやってきたのだ

 

その時初めて理解した

プロ決闘者(デュエリスト)になるという兄の夢は、このような形で作られたのだと

 

18歳になると荒れ始めた

プロになるという明確なヴィジョンを持った兄と同じように厳しく抑制されてきたからか、疎外感への怒りからか彼は自由を求めた

 

憧れだった排気音をばらまくバイク

誰の目もない深夜の徘徊

豪快な攻撃力を持つサイバードラゴン

 

小さな事から大きなこまで手の届く範囲全てに伸ばした。当然それを知った両親は許すはずも無かった

 

 

「海堂家に泥を塗るつもりか?」

 

 

ポケットに忍ばせていたライターが答えた

55枚のカードの束

 

一樹はその日

海堂家のデッキを燃やしてしまった

それが一樹と晶を分ける夜となった

 

 

ーーー

ーー

 

 

「...チッ、俺は[サイバー・ドラゴン・ネクステア]を通常召喚!」

 

 

[サイバー・ドラゴン・ネクステア] ATK 200

 

 

「効果発動!墓地の守備か攻撃が2100のモンスターを特殊召喚する!俺は墓地の[インフィニティ]を特殊召喚する!」

 

 

[サイバー・ドラゴン・インフィニティ] ATK 2100

 

 

「俺のフィールドに機械族モンスターが2体のみの時、[アイアンドロー]を発動だ、2枚ドローする。そして[インフィニティ]の効果を発動!テメーのそのモンスターを素材にする!」

 

「チェーンだ」

 

 

再び制圧力のある[インフィニティ]を召喚した一樹は、少しでも相手のモンスターを減らすため吸収効果を流れのまま使用した

 

しかし晶はチェーンを重ねる効果を持っていた

 

 

「«цпкпошп»の効果、対象に取る効果を無効にして破壊する」

 

「チィッ!めんどくせー野郎が!」

 

 

本来であれば[インフィニティ]も無効効果を持っていたはずだが、蘇生故に発動のための素材が無かった

そのため晶の破壊効果を受け入れるしか無く、[ネクステア]の効果も虚しく失ってしまった

 

それに対し苛立ちを抑えようともしない一樹

また、その様を見てどこか悲しげな表情を見せる晶

 

またしても対極的な兄弟だ

 

 

「だったらバトルだ![ネクステア]でそのモンスターに攻撃!」

 

「攻撃力200でだと...?」

 

 

やけにでもなったのか

刹那の時そう感じた晶も、今までの経験から一樹の手札に何があるのか連なって過ぎった

 

光属性の最強手札誘発か、と

 

 

「[オネスト]だ、食らいやがれ!」

 

「クッ....ッ!」

 

 

晶 LP 8000→7800

 

 

「これで大量リクルートは終いだ」

 

 

僅からながらもダメージを与え、恐らく晶の要であろうモンスターを撃破すると直ぐにエンドフェイズまで進んだ

 

まだ諦めていないのか[フューチャー・フュージョン]を貼り直すとそのまま晶にターンが回る

 

 

 

一樹 手札:2枚 LP 4200

 

モンスター/ [サイバー・ドラゴン・ネクステア] ATK 200

 

魔法・罠 / [未来融合]

 

 

「...確かにお前の性格に合っているかもな」

 

「なんの事だ」

 

「サイバーの事だよ。親父達のカード、燃やしていたもんな」

 

「何時の話をしてやがる。てめーこそいつまでもジジィ共の淡い夢背負ってんじゃねーぞ!」

 

 

兄弟喧嘩のようなものか

晶が祖父と父から託されたカードを使い続ける事と、一樹が反発し燃やした事

 

一樹は相変わらず怒りのままに言葉を放つが、その一言に晶の眉間にもシワが寄り始めた

 

 

「...親父も責任を感じてたんだろ。プロ決闘者(デュエリスト)が海堂家に続かなかった事を、それに応えようとするのがおかしいか?」

 

「おかしいね!テメーの人生好きに生きて何が悪いんだよ!ジジィもそうだがテメーも大概だ!何一つ自分で決めようとしねーで、ジジィや親戚のジジババの顔を伺ってよ!」

 

「...」

 

「それで体壊してちゃ世話ねーよ!だから俺は辞めろっ...「お前に何がわかる!?」

 

 

初めて晶が言葉を荒らげた

同じ家に生まれ育ったとしても、責任と重圧、自由と何一つとして同じものはなかった

 

弟のために自らを犠牲にした兄

その兄を心配しようと周りだけでなく本人にすら聞き入れて貰えない弟

 

責任が重くのしかかってきた兄

自由に逃げ非難を背負ってきた弟

 

 

「俺は...海堂家の為に、親父やお袋達を安心させる為に...そして一樹、お前が将来何かやりたい事を見つけた時の為にここまで自分を...それなのにお前は!」

 

「...それはご立派な事だなー?でもそれでテメーがぶっ壊れちまったら元も子もねーって言ってんだろうが!」

 

「なら俺が反発してお前が海堂家を継ぐか?家庭教師すらもまともに続かなかったお前が俺と同じ重圧背負えたのか!?」

 

「俺は...っ!」

 

 

晶の本音を真っ向から受け止めた一樹だが、その瞬間思わず言葉を失ってしまった

晶と一樹がこのようにお互い面と面向かって口論に発展するなど過去に一度もなかった。

 

それもそのはず

お互い意思と本音を家族にすら陰りにおいて生きてきた。自分自身でさえこのように感情を乗せた言葉が飛び出していく事に驚きすらあった

 

だが、晶の問いかけには体が固まる

怒りと共に飛翔して行った言の葉の数々には期待出来ないため、今度はもっと深淵に潜んでいた本音と建前を晶に向けてみた

 

 

「.....俺には出来ねーだろうな」

 

「何がだ?」

 

「テメーみたいに全部犠牲にしてまでジジィ共の夢を背負うのはよ。俺には無理だ」

 

「...」

 

「でもよ、俺は俺がやるべきだったって...」

 

 

 

一樹君には何もヴィジョンが無い兄さんの後を追わないでどうする門限はどうしたこんな事も守れないのか?お前は食事も風呂も後だ。何も出来ないならせめて兄さん邪魔をするな!晶ちゃんはあんなに頑張ってるのに弟の方は、ねぇ...ごめんなさい一樹、これはお兄ちゃんの分なの晶が兄さん晶一樹海堂親父お袋

 

 

まるでスクリーンに映る映画でも見たような気分だった

全てを背負い苦しんできた兄の代わりを自らが務めるべきだったと言葉に表そうとした刹那、自らが浴びてきた劣等感や非難、罵声の数々がフラッシュバックした

 

自分が晶の立場になっていれば自ずと晶は自分の立場にいたのだろうか。だとすれば、結局海堂家の中に逃げ道は無い

 

ならば共に苦しむべきだったか

それとも共に逃げ出すべきだったか

どの選択肢を選んだとしても何かしらの後悔が残る気がしてならない

 

積荷が重ければ船は安定するとも言う

だがその積荷は、若い兄弟2人には荷が重すぎたのだろう

 

 

「どうした、お前がプロで俺がグレるべきだったか?」

 

「...それもよかねーよな」

 

「だったらどうしたら良かった?言ってみろ」

 

「どうしようもねーよ!」

 

「そうだ、どうしようも無かったんだ。だから今になってそんな事言うな!」

 

「うるせぇ!」

 

 

もはやただの兄弟喧嘩に変わっている

あぁでも無い、こうでも無い

そうするべきだった、成すべきではなかった

 

平行線を辿る論争に終わりなど存在しないが、晶のドローフェイズ前の待機時間が先に終わりを告げた

晶は一樹を視界に捉えたままデッキトップのカードを引く

 

腐ってもお互い決闘者(デュエリスト)

続きの兄弟喧嘩はディスクにぶつけあうとお互いに決意した瞬間でもあった

 

 

「«цпкпошп»で[ネクステア]に攻撃だ」

 

「そんなもん...っ!」

 

 

一樹 LP 4200→1200

 

 

「何かあるんだろ?«цпкпошп»でダイレクトアタック!」

 

「あたりめーだ!手札の[メンコート]の効果を発動!てめーのモンスターは全部守備だ!」

 

 

[メンコート] ATK 100

 

 

SR(スピ-ドロイド)...変わった構築だな」

 

「まぁな、だがリスペクトなんかじゃねぇーよ」

 

「そうか...?」

 

 

彼の台詞を理解出来るのは当人と慎也だけだろう

 

散々付き合わされた結果に残ったのは慎也の切磋琢磨だけでなく、一樹本人の成長にも繋がっていたのだ

カードの知識や、機械族による守りの手

今でこそ役に立ったのだが、それを認めないのも一樹らしいと言えばそうなのかもしれない

 

 

「...死んでまでめんどーな野郎だぜ」

 

 

ドローカードを増やす

機械が好きなら採用してみたらいい

 

[アイアンコール]も[メンコート]も慎也の言葉がきっかけだ。その慎也の置き土産とも言える現状に、なんだか苛立ちすらも覚え始めた頃

一樹にターンが回った

待ち焦がれた[未来融合]もここで効果が発動する

 

 

「[未来融合]の効果発動だ![キメラテック・オーバー・ドラゴン]の素材になる奴らを好きなだけ落とす!」

 

「...まったくお前らしい」

 

 

[サイバー・ドラゴン]を含みさえすればあとは好きなだけ機械族モンスターを墓地に落とす事ができる

一樹はここぞと言わんばかりに数十体の機械を墓地に溜めるが、肝心の融合はもう一ターン先の出来事

 

今までの一樹なら改造したディスクにより融合関係のカードがあるのだが、現在はたった1枚の手札が残るだけ

このターンの融合は叶わない

それと同時に自分過去にどれだけ改造に頼っていたのか嫌になるほど理解した

 

狙ったカードが手札に無いのも久しい

だからこそ引くのだ

随分長いことしてこなかった運に任せたドローだ

 

 

「俺は[強欲で貪欲な壺]を発動する」

 

「ドローカード...まさか!?」

 

 

[未来融合]によりデッキを大きく圧縮していたからか、晶にはとある懸念が生まれた

 

コストとしてデッキトップ10ものカードを除外する事は決して安いものでは無い

制限や要のカードが除外されてしまうことなど多々ある

しかし、一樹は必要な融合素材全てを墓地に落としている

 

まさかメインデッキにモンスターは残っていないのか

晶の視線の先にある一樹の残りデッキ枚数は13枚

彼の弟はこのドローで融合カードを引くつもりなのだ

 

 

「俺はフィールド、墓地の光属性・機械族モンスター全てを除外する!」

 

「なんだと...?」

 

 

一樹はカードの発動では無く召喚条件を述べた

それは目当ての魔法カードが引けなかった事を表しているのだが、聞こえてくるそれは未来オーバーに近いものだった

 

本来であれば過剰なまでに上昇した攻撃力と攻撃回数によるオーバーキルを狙うための[未来融合]だったが、融合のカードが引けないのなら意味もない

 

しかし折角の墓地肥やしが無駄になることも無かった。一撃必殺に相応しいモンスターをその手に一樹は唱えた

 

 

「異形の機械星よ、全てを無に帰す流星群となりて散れ!終わりと始まりの閃光、穹高くにて輝き舞え![サイバー・エルタニン]!」

 

 

[サイバー・エルタニン] ATK ?

 

 

「[エルタニン]は召喚のために除外した数×500ポイント攻撃力がアップする!俺が除外したのは22枚だ!」

 

 

[サイバー・エルタニン] ATK ?→11000

 

 

「攻撃力11000だと...」

 

「まだあるぜ、召喚成功時にフィールドにいる表側のモンスター全てを墓地に送る!死ね、”コンステレーション・シージュ”!」

 

「させない、永続トラップ«цпкпошп»を発動!俺のフィールドの«цпкпошп»をエンドフェイズまで除外する事で俺の表側の魔法・罠を破壊から守る」

 

「関係ねぇ、もうエンドフェイズは来ねーよ![エルタニン]でダイレクトアタックだ!」

 

「俺もまだ終わらない、«цпкпошп»を発動!墓地の«цпкпошп»を蘇生させる!」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「攻撃表示だと?死にてーならそう言えよ![エルタニン]の攻撃続行だ!」

 

「お前こそ詰めが甘い。永続トラップ«цпкпошп»のもう一つの効果発動だ。戦闘する相手モンスターを破壊する!」

 

「なんだと...グッ!」

 

 

高速化しつつある決闘(デュエル)の最中で、一樹の[エルタニン]が砕けた

いくら«цпкпошп»に慣れたとしても、初見の効果に対応する事はやはり難しい。一樹の一発逆転も1枚の同じ永続罠によってかわされ、またしても窮地に追いやられていた

 

エンドフェイズに宣言通り晶のフィールドにモンスターが帰還すると、一樹のフィールドががら空きのまま晶にターンが回った

 

 

「«цпкпошп»でダイレクトアタックだ、どう躱す、一樹!」

 

「チッ...もうデッキにモンスターなんかいねーよ」

 

 

晶の予測通り[未来融合]によって一樹のデッキに1枚もモンスターが残ってないようだ

ずっと待機状態のままのセットカードも気になるが、一樹が今まで見向きもしてこなかった事から攻撃反応系出ない事は分かっている

 

[メンコート]のようなモンスターが存在しない事も露呈しており、[エルタニン]の召喚のために墓地のサイバーも全て除外した

 

故に晶は迷うこと無くバトルフェイズまで急いだ

だが攻撃宣言を行った今この瞬間にも、一樹に何か手が残っているのではないかと期待すらしていた

その兄の期待に、一樹は墓地効果で答える

 

 

「墓地の[三つ目のダイス]の効果を発動だ!除外し、このターン攻撃を1度だけ無効にする!」

 

「またSR(スピ-ドロイド)...そうか、風属性は[エルタニン]で除外されない...随分愉快なギミックじゃないか、一樹?」

 

「...チッ、そうだな」

 

「フッ...«цпкпошп»でもダイレクトアタックするぞ」

 

「もう1枚の[三つ目のダイス]だ、攻撃を無効にする!」

 

 

[未来融合]でどんな機械族も墓地に落とす事が可能なため、墓地効果を使用するSR(スピ-ドロイド)も上手く利用できる

 

[エルタニン]の性質上[超電磁タートル]を墓地に残す事が出来ないため、風属性の機械族は異なる運用方法が取れた

元々機械族であるSR(スピ-ドロイド)を高く評価していた一樹だが、採用に至ったのはやはり慎也の影響だろう

 

今この瞬間を、今は亡き慎也が死守したのだ

最早苛立ちはなく、お節介に呆れるばかりだった

 

 

「気付いているか、一樹?」

 

「あ?何がだよ」

 

「お前のデッキだ」

 

 

サイバーの事か

随分と曖昧な質問に思わずディスクに目をやると、晶の言わんとしている事に気が付いた

 

[未来融合]や[強欲で貪欲な壺]を使用した結果、残りデッキ枚数が少なくなっていた

その数実に唯一

 

デッキトップを手札に寄せれば0枚になってしまう

故に最後のドローだった

 

 

「...だからどうした!このターンで終わらせちまえばいいんだよ!」

 

「本当にそうか?」

 

「あ?」

 

「俺の永続トラップ«цпкпошп»によって俺は戦闘において負けない。お前は3枚のカードで俺のトラップを無力化し、超過ダメージで7800を削ら無ければならない。融合素材もモンスターも無いこの状況で果たせるのか?」

 

「んなもん...分かんねーだろ!」

 

「目を逸らすな」

 

「うるせぇ!俺はまだ負けてねぇーだろうが!」

 

 

またも感情を顕に荒れ始める一樹

晶が言い放つように状況は詰みに近く、一樹の手札も凡そ晶の予想通りのものだった

 

 

「一樹、もう一度言うぞ」

 

「んだようるせぇな!」

 

「目を逸らすな」

 

 

この一言が嫌に刺さる

敗北を受け入れと咀嚼した一樹は反発するように晶の瞳を睨み否定するが、晶の言わんとしている事は異なっていた

 

「目を逸らすな」

 

これは何も難しい意味も無い、物理的なものだった

 

 

「俺は海堂家の業を背負ってここまで来た。それをお前はそれを否定してきたな?」

 

「何の話だよ...っ!」

 

「過程は色々と合ったが、今敵同士として相対した。海堂家のデッキと、海堂一樹自身のデッキがだ」

 

「...」

 

「最後にもう1回だ、目を逸らすな。お前はお前自身の自由で俺が背負った不自由を越えるんだ」

 

 

晶は1枚の«цпкпошп»を指さしている

初ターンから発動されていたフィールド魔法

 

ヒントのつもりだろうか

 

 

「思い出せ、海堂家の呪いのカードを」

 

「ふざけるな...その忌々しいカードの事なんか忘れた事なんか...」

 

 

«цпкпошп»

 

 

「...思い出すまでも」

 

 

«цпкпошп»«цпкпошп»«цпкпошп»

«цпкпошп»«цпкпошп»

«цпкпошп»

 

«цпкпошп»

 

 

「お、おい...ふざけんなよ!俺はあの日を忘れた事なんか...」

 

 

 

«цпкпошп»

 

 

一樹の記憶にある1枚は«цпкпошп»だった

あれだけ恨み怒り募った1枚を

父親の書斎で起きた小火の中の1枚を

晶が疲れた表情で手にしていた1枚を

 

どうしてか思い出せない

全てに«цпкпошп»の靄がかかっている

 

 

「思い出せ、一樹!」

 

「お、俺は...俺は......っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[海皇龍 ポセイドラ] ATK 3000

 

 

 

「...は?」

 

 

突如目の前の«цпкпошп»が晴れた

晶のフィールドが顕になるが、依然一樹の記憶はこんがらがったまま

 

 

晶 手札:3枚 LP 7800

モンスター/ [海皇龍 ポセイドラ] ATK 3000

     / [城塞クジラ] ATK 2550

魔法・罠 / [潜海奇襲]

フィールド/ [伝説の都 アトランティス]

 

 

「...思っていより遅かったな、化野さん」

 

 

晶が告げた聞き覚えのある名前に思わず一樹は背後を振り返った

そこには少し離れた位置で煙を吸う三白眼の男が気だるそうにこちらを眺めていた

 

化野

化野雅紀だ

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部であり、今は本部のある日本に居るはずの男だ

 

片手に煙草

もう片方の手には見たことも無い装置を持っており、それと«цпкпошп»解除を結びつけるのに少し時間を要してしまった

 

 

「あのおっさん...«цпкпошп»を」

 

 

その刹那

乱れに乱れていた脳内の情報に整理がついた

きっかけはとある一言を思い出した事

 

 

「記憶操作」

 

 

初めて慎也と出会った時の会話

今日だけで何度目だろうか、慎也に救われるのは

 

 

「...記憶操作」

 

「どうした、一樹?」

 

「.....なんでもねーよ!」

 

 

ドローフェイズ

この決闘(デュエル)最後のドローを果たすと、決意も自ずと固まっていた

 

それは感謝でもあった

自分と同い年てでありながらS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の関係者。機械族を使用する共通点があれど、エクストラデッキにはドラゴン族が多いあの男

先に月下に旅立ち、先に息絶えたあの戦士

そしてなにより、死しても尚一樹を支えるあの決闘者(デュエリスト)

 

だがそれもここまでだ

 

 

「ドロー!」

 

 

お前に頼るのはここまで

この最後の1ターンは自分自身が

海堂家との別れは自分自身が果たす

 

 

「...チッ、本当にムカつく野郎だ!」

 

 

そう思っていたはずだが、やはり一樹は呪いの業から逃れられなかった

 

 

「そ、そのカードは...っ!?」

 

 

別れの決闘(デュエル)にするつもりも、結局果たせそうに無い

最後の最後まで自分一人で戦えなかった

 

 

 

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「うーん...でもやっぱりエクストラがきついよ」

 

「そんな事言うんじゃねーよ、全体の効果無効からの除外にバーンなんて最高だろうが」

 

「だったら君が入れたらいいんじゃない?」

 

 

慎也との最後の一日の記憶だ

煙草を咥えながら慎也の紋章獣デッキのエクストラをああでも無いこうでもないと意見していた時の事

 

自分自身は勿論、周りにも使用する決闘者(デュエリスト)が居なかった事から一樹は慎也が使用するとある1枚のカードに興味があった

それは強力な1枚だが、誰にでも使いこなせるものでは無い。故に眺めていたのだが、慎也の意外な一言と共にそれは一樹の手中に収まっていた

 

 

「あ?俺は機械以外使わねーよ」

 

「でもこれ1枚で君が言ってた事解決するじゃん」

 

「入れねーよ」

 

「じゃあさ」

 

 

短い期間だが一樹に水掛け論が無駄だと理解していた慎也は、折衷案を示した

それは一樹に1枚のカードを押し付ける代わりに、自分自身も一樹の勧めるカードを無理やりにでもエクストラデッキに採用するという事

 

 

「なんで俺までやらなきゃいけねーんだよ!」

 

「いいじゃん、どうせ[未来融合]で圧縮されるんだし。あ、だったらSR(スピ-ドロイド)もどう!?[未来融合]で一緒に落とせるし邪魔には...」

 

「普通に邪魔だろ!」

 

 

 

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懐かしくも何ともない記憶

律儀に採用してやる事も無かったと、今更ながらに思えた一樹は、最後の1枚を見て舌打ちでは無く笑みが零れていた

 

そして提示した

自分自身の兄に向けて、自分自身が引いた魔法カードを

 

 

「メインフェイズまでこのカードを見せ続けるぜ」

 

「[七皇の剣]...だと!?」

 

 

ドローフェイズ時に通常ドローで引いた場合のみ、スタンバイフェイズからメインフェイズまで公開し続ける事でやっと発動が叶う1枚のランクアップマジックだ

 

一樹の最後の1枚

最期の慎也の1枚

 

奇しくも重なり合った魔法だ

 

 

[CNo.107 超銀河眼(ネオギャラクシ-アイズ)時空龍(タキオンドラゴン)] ATK 4500

 

 

「こいつの効果発動だ!ORUを使い、フィールドにあるカードの効果を無効にする!」

 

「フッ...最後の1枚はお前らしく無いな...」

 

 

機械族以外のモンスター

エクストラデッキを2枠圧迫

そして何より不確定要素に一任する発動条件

 

興味深いカードではあったが、どれもこれも一樹が好まない効果ばかりだ

 

だが、これでいい

 

 

「[潜海奇襲]は破壊耐性効果があんだろ、ダメステの破壊効果もめんどーだ。だったらこれが手っ取り早い。めんどーなのは無視してんだ、俺らしいだろうが」

 

「そうだな、だが攻撃力が足りてないだろ」

 

「まだ終わらねぇよ!速攻魔法[サイバーロード・フュージョン]を発動!除外されている機械を全て墓地に戻し、融合を行う!」

 

「.....」

 

 

口を閉ざした晶の代わりに一樹が叫んだ

常に狙い続けてきた最高で最後の切り札を呼ぶ口上を

 

 

「異形の機械龍よ、俺に従い、俺に賭せ!俺に歯向かう...枷を、名を、関係を!全てを、全てを粉微塵にしやがれ!ぶち壊せ![キメラテック・オーバー・ドラゴン]!!」

 

 

[キメラテック・オーバー・ドラゴン] ATK ?→17600

 

 

「17600...圧巻だな」

 

「こいつは召喚成功時に俺のフィールドのカード全てを墓地に送るデメリットがあるが、もう用済みの[未来融合]とでけーだけのドラゴンしかいねぇ!墓地に送る!」

 

 

[未来融合]による[キメラテック・オーバー・ドラゴン]の融合召喚は性質上不可能だ

 

だが墓地肥やしだけは可能

そして別途で融合カードがあればこのように過剰なまでの機械龍が拝める

 

だがデメリットは他との共存を許さない

[エルタニン]と等しく厳しい維持効果のと、今でこそ見えた[潜海奇襲]の存在が前のターンでの[サイバーロード・フュージョン]の発動を悩ませていたのだ

 

温存しておいて良かった

これで勝利への道筋が見えたのだ

 

 

「バトルだ![キメラテック・オーバー・ドラゴン]で[ポセイドラ]に攻撃!”エヴォリューション・レザルト・バースト”!」

 

「...迎え撃て、海皇龍!」

 

 

最早勝敗は見えていた

海堂流と一樹流の戦いは、一樹が制したのだ

 

日本と月下も

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)

 

海堂家も海堂一樹も関係無い

 

一樹はただ、背中を見つめていただけの兄に勝ったのだ

 

 

「ダメステに[リミッター解除]発動!これが俺の全力だ、クソッタレの兄貴よぉ!!」

 

 

[キメラテック・オーバー・ドラゴン]

 

 ATK 17600→35200

 

 

攻撃力35200による22回攻撃

オーバーキルもさながらだが、彼の兄である晶はそれよりも思う事があった

 

 

「...[サイバーロード・フュージョン]も[リミッター解除]も...この時の為に温存していたのか」

 

「当たり前だ、テメーにドデケーのぶち込むためにな!」

 

「そうか...」

 

 

海堂家の呪縛から逃げ出した弟が、いつの間にか耐え忍ぶ事を覚えていた

ささやかなことだが、何処か兄として嬉しく思えるのは人間らしい感情だろうか

 

 

LP 7800→0

 晶 LOSE

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