遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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ちょっと体調崩してて更新が遅れました。って思ったらもう12月...


第百二話 シガラミダンス

◐月下-失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)本部前 / 午前5時41分

 

 

「大神さん!」

「ジャヴィ殿...ッ!」

 

 

大神とジャヴィの戦いに決着がついた

結果は異例の引き分け

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)もそれぞれ倒れた幹部らに近寄るが、言葉は帰って来ない

 

相当なダメージを負ったようだ

呻き声一つも上げずにただ沈黙を貫くだけ

 

 

「...そうですか、もうお休みになってください」

 

 

オキナが1人そっと呟く

同じ幹部のジャヴィに向けた言葉なのだろう

 

他の黒服達がジャヴィに駆け寄るのを見届けると、彼は次に敵になりうる若者達へ目を向けた

視界の中には先程撃破した黒川

そして彼女を庇うように陣取る秋天堂と灰田の二名

 

 

「灰田君、黒川さんと一緒に救護班の所まで下がって!」

 

「な、何言ってるの!戦うつもり!?」

 

 

どうやらまだ向かってくる様子だ

 

特にあの茶髪の青年

友人が敗北を期したのに激昂しているのか退避の命に聞く耳を持とうとしない

 

随分若い

向かってくるのは結構だが仲間同士の言い争いは頼んでいない。来るなら来い。

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)幹部としてオキナは迎え撃つ構えを済ませたままだった

 

 

「うん...ここは僕が行く。灰田君は早く彼女を!」

 

「出来ないよ!俺が行く、秋天堂さんこそ下がって!」

 

 

無理も無い

誰だってそうだ。自分なら出来ると骨の無い感情論で動くもの。先程のサフィラの娘もそうだ。友人を助けると言う至極真っ当な目的があれば何事だって成せるつもりでいたのだ

 

だが彼女は敗北した

次に向かってくる者は、次の敗北者は誰だろうか

 

あの好戦的な彼か、それとも茶髪の方か

若しかすると自分自身かもしれない

日本の決闘者(デュエリスト)を甘く見た事など一度もない。何時だって、今この瞬間だって覚悟と共にディスクを振りかざしているのだ。

 

 

「.....さぁ、次のお相手は何方ですかな」

 

 

オキナの一言てS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に戦慄が走った。彼にとって戦う意志を提示したに過ぎない発言だったのだが、その言葉以上に彼らは身構えてしまった

 

だがどちらでも構わない

誰でも構わない

 

自身の敗北のみがピリオドであり、格上だろうが格下だろうが全力をぶつけるまで。

誰が向かってこようが構わなかった

 

だがとある人物の声には意表を突かれた

誰であろうと戦うつもりだったが、彼女にそれが可能なのか疑問で一杯だった

何よりも何故立てる?

 

 

「わた...私よ.....まだ戦える...わ...」

 

「無茶だよ黒川!」

 

 

黒川は再び立ち上がった

何故だ

決闘撃痛(デュエルショック)は機能していたし、完膚無きまでの敗北だった

 

手加減などしていない

では何故彼女はまた立ち上がるのか

 

疑問を口にするのは早かった

 

 

「何故...何故貴女は立ち上がる事が....決闘撃痛(デュエルショック)が通用しない体質とでも?」

 

「何よ.....めちゃくちゃ痛いわよ...目眩もするし吐き気も、ずっと耳鳴りもするし絶不調よ...」

 

 

ふらふらと覚束無い足取り

ぜぇぜぇと途切れ途切れの声

彼女は虚勢を張る事もせずただ立ち上がるだけ

 

恐怖だろうか

オキナの中で彼女への計り知れない何かが膨れ上がる

 

決闘撃痛(デュエルショック)は問題無く機能しているようだが、まさか気力だけで意識を保っているとでも言うのか

 

危険だ

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)がではなく

聖帝大学の生徒がではなく

 

只只、黒川美姫という1人の決闘者(デュエリスト)

ここで倒しておきたいのは本音だが、果たしてそれすら可能なのか疑わしい

 

 

「戦うつもりかい?黒川さん、今は大人しく下がってくれ。このままじゃ本当に!」

 

「そうだよ黒川!俺がこいつを!」

 

「お願い...私にやらせて欲しいの.....っ!」

 

 

その言い合いを観察していたのなオキナだけではなかった。彼らの背後から、あの老いた幹部と若きS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)達を須藤は捉えていた

 

やっと(フロ-)を引っ張り出せたと思っていたが、戦況はやや不利

大神は引き分け。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)のプロとして彼の実力はよく知っていた。間違の無い手練。その彼でも引き分けるのがやっとだった

 

黒川は敗北した

決闘撃痛(デュエルショック)による苦しみに必死に抗って居るようだが、もう一度戦わせるのは酷だろう

 

どうするべきか

あの老いた(フロ-)のデッキは大体分かったが誰を向かわせるべきか

 

多勢向きの皇と一樹はまだ温存しておきたい

輝元ならいけるだろうかデッキ相性も悪くなさそうだ

それとも自らが戦うか

輝元が居れば自分が居なくとも指揮は取れる。わざわざ降りてきた(フロ-)を確実に仕留められるのならここで戦うか

 

 

「...それよりも」

 

 

秀皇や闘叶の生徒らの奇襲が上手くいっている

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の兵力もそちらとこちらで凡そ半分に分配された

 

時間をかければ黒服らを制圧出来そうだが、本部への守りが薄い。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の部下達を時間稼ぎに回し、精鋭らだけで本部を叩きに行く事も可能か

 

だがやはりあの老いた(フロ-)

折衷案として自らがあの(フロ-)の足止め基戦闘を引き受け、輝元達を失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)本部に向かわせる

 

この作戦は今この瞬間行うからこそ機能が期待できる。

やるしかない

また輝元を無言で引き寄せると、その作戦を伝えようと声を潜めた

 

 

「灰田」

 

「はい」

 

「俺が...っ」

 

 

通信だった

須藤の発言を遮ったのはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部からの通信

 

このタイミングで何が起きたのだ

逸る気持ちを抑えながら通信を受け取ると、声の主は安山だった

 

総帥直々の通信だ

 

 

「須藤です...っ!はい、了解しました」

 

 

非常に短い会話だ

近くにいた輝元でさえ内容を把握出来ないほどに

 

その輝元が何があったかと問うよりも早く、須藤は息を吸い込み、叫んだ

 

 

「下がれ!!」

 

「えっ!」

 

 

秋天堂や黒川らに向けた命令だった

呆気に取られた灰田の首根っこを掴むと、黒川を抱えたまま秋天堂が一気に駆け出した

 

それとほぼ同時

大神が使用してきたジャヴィのゲートが閃光を放つ

 

 

「...むっ」

 

 

オキナも天を見上げた

直ぐに理解できた。誰かが来る、と

 

光も落ち着くと数人の男女が地に降りる

高低差により数名は着地に失敗するが、どの人物も瞳に闘志を宿している

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)

このタイミングで増援とは実に卑しい

賞賛とも皮肉にも取れる感情がオキナの中で巡った

 

 

「増援...?」

 

「そうみたいだね」

 

 

ポツリと呟く灰田を後押しするように秋天堂が答えた。どう見ても敵ではない

数名は灰田もよく知る人物達がいる

 

蛭谷、東野、松橋、草薙、西条

齋藤に早乙女までいる。あの時関わってしまった全ての人間がこの地に揃ったのだ

 

 

「おいおい、(フロ-)まで居るとは...遅れたな」

 

「鬼禅さん」

 

 

援軍の中でも最も年配の鬼禅に須藤は寄った

ここに来ての増援は大きい

悩んでいた作戦の幅も広がり、何より戦力が補充できた

 

話す内容は先程まで作りかけていた作戦

今なら本部を叩ける

だが誰かがあの(フロ-)の相手をせざるを得ない

 

相談のつもりで全てを話したが、鬼禅の答えはシンプルなものだった

 

 

「よし、分かった」

 

「え?」

 

 

鬼禅は視線こそオキナに向けたまま、近くにいた蛭谷の肩を掴み、引き寄せた

 

そのまま続けた

 

 

「こいつもつれて行け。あっちで随分活躍してくれた俺のお墨付きだ」

 

「えっ、俺っすか?」

 

「...鬼禅さん」

 

 

須藤も彼らが日本で戦っていた事は把握している

共に戦った事から蛭谷を評価しているのは分かるし、鬼禅の眼を疑っている訳でもない

 

連れて行け

最早須藤達が突撃する前提の言葉だ

 

 

「あの(フロ-)は俺がなんとかする。さっさと行け」

 

「...分かりました」

 

 

誰を連れて本部を叩くか

この場の戦力から自ずと決まっていたメンバーの位置を確認すると、須藤は近くにいる輝元を連れ秋天堂の元へ走った

 

まだ光明と何が言い合っているようだ

須藤が辿り着いても尚続けている

 

 

「何をしているんだよ、秋天堂」

 

「須藤さん...」

 

 

秋天堂はまだふらふらとしている黒川を指すと、無言で見つめてきた。彼女が最早戦える状態出ない事等遠巻きで見ていた須藤にだってわかっている

 

今更何が言いたいと黒川を睨むと、秋天堂が何を言いたいのか何となく察知した

 

 

「まさか彼女も?」

 

「恐らく...まだ自覚は無いようですが」

 

 

須藤は彼女が決闘撃痛(デュエルショック)を受けてもなお意識を保てる気力を褒めるのを止めた

そうか、そういう事だったのか

 

だとするとやはり彼女は一度下げるべきだ

心配を表情に隠さない2人の女性、草薙と西条を手招きすると、須藤は早口で命じた

 

 

「君、彼女を連れて医療班の所まで下がってくれ。君は援護だ」

 

「えぇ、分かりましたわ」

「は、はい!」

 

 

光明から黒川を取り上げると、丁寧に草薙へ渡した。未だまだ戦えると嘆く黒川を無視すると、指差しで医療班の位置を伝える

 

援軍は有難いがいきなり本部へ突撃させる訳には行かない。聖帝の生徒達にはこの場で足止めを頼むと決断すると、オキナと彼らの間に鬼禅が割って入ってくるのが見えた

 

 

「おい爺さん、これ以上うちの若いもんには手を出させないぜ?」

 

「貴方もお若いでしょう」

 

 

その隙に小声で秋天堂と輝元に突撃する事を話した

東野や古賀。皇や一樹の多勢向きの決闘者(デュエリスト)を残し、少人数精鋭で叩くと

 

足止めを命じられた生徒達が頷くのを見届けると、須藤は立ち上がり吠えた

 

 

「秋天堂、灰田!行くぞ!」

 

 

輝元と秋天堂に着いてくるよう指示を出し、一直線に本部を目指した

走った

後ろの2人が着いてきているか確認もせずただ真っ直ぐに

 

 

「なっ!させん!」

「止めろ!!」

 

 

随分と失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の黒服は減っている。だがみすみすと須藤達を通してくれるはずも無く、いち早く察知した数名が叫び声とアンカーを放った

 

当然須藤達も予想できた事だ

だがここはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の部下達の踏ん張り所なのだ

 

 

「邪魔をするな!」

「須藤さん!行ってください!」

 

 

途中の黒服らのアンカーはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の部活達や援軍達を壁に遮られた

足止めの役割は十二分に果たしている

 

敵の幹部と殆どの味方をこの場に残す形になったが、須藤らは全力で駆け抜けた

一度も背後に目をやることなく、ただ真っ直ぐに駆け抜けることができた

 

残された失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の幹部、オキナは後ろ目にそれを確認すると一言呟いた

 

 

「戦況に変化が訪れましたな」

 

「そういうこった」

 

 

いつの間にか鬼禅と繋がれたアンカーに目を移すと、己の敵となる相手を見据える

 

次の相手はこの初老の男か

すぐ側で倒れるジャヴィの様子も気になるが、己の部は弁えなければならない

さて、相手はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)のプロ

 

だが黒川との共通点を探す方が困難に思えるその男との戦いに抱く思いは無かった

自身を過大評価している訳ではなく、鬼禅を甘く見ているつもりもない

 

だがやはりあの少女の方が恐ろしく思えてしまう

 

 

「...正直安心しましたよ」

 

「何がだ?俺みたいなやつが相手だからか?」

 

「いえ」

 

 

今度のオキナは遠く離れた位置に目をやった

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が別部隊に別れ奇襲した反対側の通りだ

 

何を考えているのか鬼禅は掴めないが、オキナも直ぐに鬼禅と向き直る

戦う準備は整ったようだ

 

 

「二度も、いえ三度も手に掛けるのは忍びないですかね」

 

「ほう」

 

 

鬼禅は若者の様な笑みを浮かべた

彼にとってこの戦争は随分長い間待機させられた挙句、日本で雑魚ばかりを相手に退屈だった

 

童心的な意欲とも取れるが、そうではない

 

若者ばかりに任を任せていられ無いのだろう

自分の息子程の年齢の戦士達が戦うのなら、自分もプロとして全力で貢献しなければ顔が立たない

 

そういう意味ではやはり童心的なことかも知れない

結局の所彼も戦士である前に決闘者(デュエリスト)なのだった

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

オキナ LP 8000

鬼禅  LP 8000

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

◐月下-南側大通り / 午前5時

 

 

「大したもんだぜ」

 

 

少し時は遡り、須藤達と別行動中の南側の部隊

秀皇と闘叶の生徒らを中心に構成された出来合いの精鋭だが、相手の戦力を分断させる事には成功していた

 

だが問題はここからだった

突如の事にこちら側には敵兵の姿は未だ見えない。須藤からの通信でこちらに半数が向かっている事は確認済みだ

 

だからこそ彼らは破壊された城壁から、大通りの中へ中へとゆっくり歩んでいられるのだ

そう、南側の部隊が選んだ作戦は”何もしない”だった

 

理由は2つある

1つは大神ら日本からの増援到着に合わせるため待機の意味。白フロ-の2名が降りてきた事は大きいが、まだ敵の戦力を削るには足りていない。避けたい消耗戦だがもう少し続ける必要があった

 

2つ目はそれに繋がる

本部にあとどれ位の決闘者(デュエリスト)が残っているか不明だが、外にまだ多数の決闘者(デュエリスト)が居座っている事は分かっている。故に少人数での突破から挟み撃ちの形を取られる危険性があった

地の利が無い彼らがそれを避けるためには見えている戦力を削ぐ事と並行し、こちらの戦力を整える時間を稼ぐ必要がある

 

故に彼らは南側の大通りを我がもの顔で闊歩する事に終わっている。これはその中での会話であり、粉砕された瓦礫を眺めながら劉毅が放ったもの

他人事のような軽々しい発言だったが、暁星の島崎はそれを聞き逃さなかった

 

 

「楽観的じゃないか、あんた?見学しに来たわけじゃないんだぞ」

 

「言われ無くても分かってるぜ。ちゃんとお役目は果たすさ」

 

 

上機嫌に口笛を拭きながら島崎の発言を窘めた。彼もまた自分の意思でこの地に赴いており、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)として戦う意思自体は持ち合わせているらしい

 

だがどうにも緊張感が足りない

のらりくらりとした姿が気に入らないのか、島崎は食い下がった

 

 

「少し君の態度が理解できない、これは戦争だ。だが君はまるでお遊び気分でいるように見える。本当に危険だと言うのに」

 

「お遊び気分、ねぇ」

 

 

劉毅は髭を弄びながら島崎の発言を反芻する

相変わらずへらへらとしてはいるが、その瞳には反論が宿っているようにも見えた

 

終始無言でいる永夜川を横見に捉えると、半笑いの表情で島崎の方へ振り返った

 

 

「確かに真面目とは程遠いかもしれねーけどな、俺だって本気で戦う覚悟は出来てんだ。あんまりイジメないでくれよ」

 

「そういう発言だ、僕が気に入らないのは」

 

「怒ってんの?仲良くしようぜ、ザキちゃん?」

 

「...」

 

「無視するなよ。あ、そうだザキちゃんの彼女はどんな娘か教えてくれよ?どんな女がタイプなんだよ」

 

 

等々口を閉ざした島崎の前に劉毅が立ちふさがると、意味の無いような質問を突きつけた

学生のノリに違いないが、ここは戦場。嫌気を表情に隠さない島崎も初めは沈黙を貫くかに思えたが、この男にそれが通用しないと判断すると不承不承と言った具合で口を開いた

 

何でもない世間話だ

仕方なく彼に合わせたのだろう

 

 

「愛嬌があってマイペース、たまに突拍子の無い事もする放っておけない娘だ」

 

「真面目なザキちゃんと相性いいんじゃねーか?出会いは?どれくらい付き合ってんの?」

 

「...随分細かい所まで聞くのだな」

 

「男どうしなんだからいいじゃないの、どこまでいった?」

 

「おい」

 

 

逆鱗に触れた

...とまではいかないにしても、劉毅の言動は島崎の眉間に皺を作り出すのに充分な力を孕んでいた

一度は言葉を交わすぐらいに抵抗を排除したものの、やはり彼らの性格は相反するものらしい

 

島崎は多く語るつもりは無かったのだが、劉毅への苦言は流暢に流れて行った

 

 

「リスペクトしろ、言葉を慎め、相手を慮れとは言わない。だが最低限のデリカシーぐらいは持て。俺ではなく彼女に失礼とは思わないか」

 

「分かった分かった、悪かったよ」

 

 

まだ何か食い下がる箇所が残っていたが、劉輝が大袈裟に手を振るうのでタイミングを逃してしまった

すると今度は劉輝が言の葉を装填した

 

言い訳の様に語る姿は、いつもの通りに軽々しくも何処か意味ありげなそれだ

 

 

「俺だってな、場を和ませようとしてるんだぜ?デリカシー無いのは悪いけどザキちゃんの事も彼女さんの事も馬鹿にするつもりはねーんだ、分かってくれよ」

 

「それは分かった。だが戦争中に和んでも仕方ない、要らない世話だ」

 

「そうかい」

 

 

島崎の一言で劉毅の中にもなにか過った様子だ

何か吹っ切れたような、柔和で軽い態度や口調にも終止符を打つようだ

 

再び永夜川を視界に入れた後島崎に寄り、言い放った

 

 

「ビビってんだな」

 

「何がだ」

 

「戦争が怖いんだろ?だから大事なだーいじな女を庇ってこんな所まで来てんだ。でも自分自身も怖いんだろ?だからそんなピリピリしてんだ」

 

「ほう」

 

 

冷静な島崎もその発言を聞き流す事はしなかった

至近距離で両者睨み合うと、島崎が反論の形で先に言葉を発した

 

 

「怖くないと言えば嘘になる。確かに未知数だからな。彼女を守る事は不純か?のらりくらりと何がしたいのか分からない君よりはずっと純粋だと思うがね」

 

「そこに関しては俺も同じだぜ。俺だって大切な文佳のためにここまで来てんだ。違うのはその対象がここに居るか、何も知らずに日本にいるか、だ」

 

 

ここで両者沈黙した

いがみ合ってはいるが、結局の所立場は非常に似た2人なのだ。日本の大学生でありながら、大切な者のために、日本のために月下まで来た。そして現在は何も出来ない待機の中。

 

若しかすると戦いたい、貢献したいだけなのかもしれない。そういった不完全燃焼な苛立ちが意味の無い対立に発展しているのなら、なんて得のない事なのだろうか

 

それは今まで黙って聞いていた闘叶の生徒達や、永夜川、また彼らを引率するプロの山本までも同じ思いだった。故に静止はしないでいる

 

そして沈黙を切り裂いたのは劉毅の方だった

 

 

「...あぁ、そうか。お前の彼女さんは戦力にならなかったんだな」

 

「どういう意味だ」

 

「守るだの立派な事言ってるけどよ、その本人が戦争に参加させてもらえ無い様な決闘者(デュエリスト)なんじゃないか?だから聞こえのいい事をお前が代弁してるだけなんだろ」

 

「ふざけるな!」

 

 

等々言葉に感情が騎乗した

だが何処か冷静さを欠いていないのか、手は拳を握るに収まっている

 

だが怒りは誰の目にも見えている

当然その原因を放った劉毅自身も語る前から分かっていた

そして彼にとってこれは怒りを買う事が目的ではなく、本音を聞くための煽り言動でもあった

狙い通り島崎は乗ってしまっているのだが

 

 

「そうだろ?今頃事の記憶弄られてんじゃねーのか?」

 

「彼女は聖帝の生徒だ。暁星の戦いにも貢献していた。力は充分にある、そして俺自身が彼女の参加を拒んだんだ。だから彼女に非は無い。それに彼女に記憶操作を施さない代わりに俺が戦うことは安山清人さんも了承してくれているんだ」

 

「...それってよ」

 

 

突如劉毅の瞳が濁る

島崎とその恋人の経緯を聞いただけの彼が何を思うのかまだ分からない

だが良い印象がある訳で無いことは間近にいる島崎には直ぐにわかった

 

 

「戦えるのに私情で日本に残してきたって事だろ?お前こそ戦争舐めてんのか?」

 

「...あぁ、そうだな」

 

 

今度は島崎が受けに回ってしまった

劉毅の発言に正当さはあまり無い。だが確信を突くような、島崎の痛い箇所を必要以上に刺激するそれだった

 

場を和ませる会話はどこに行ったのだろうか

沈黙を一貫していた山本がそろそろ割って入ろうかと考えた瞬間、島崎が重い口を開いた

否定では無く肯定のそれだった

 

 

「彼女を日本に残したのは僕のエゴだし、国への貢献とは言えない。君の言う通りかもしれない」

 

「おう」

 

「だけど彼女が無事だと分かってるから、僕は最後まで全力で戦う事が出来る」

 

「...おう」

 

 

抽象的な言い方だが、何を意味しているかはハッキリしていた

戦争に参加する過程や背負う物事など関係無く、ただ全身全霊をかける事が可能

それだけ島崎は語った

 

その真っ直ぐな言の葉が伝わったのか、劉毅は島崎の肩に一度触れ、距離を置いた

彼らはまだ若い

だが愚かで無利益な言い合いだとは初めから分かっていたのだ

やっとのタイミングで山本が口を開いた

 

 

「2人とも、もう済んだね」

 

「あぁ、すみません」

「俺から吹っかけたんだ、悪かったよ」

 

 

丁度その瞬間だった

北の大通りから流れてやってきた黒服の集団の先頭が姿を現したのは

 

戦力の分散のため

想い人を守るため

お国のため

 

生まれも育ちも過程も思いも異なる彼らも

今この瞬間だけは目的が一致しているのだ

 

 

「さぁ、こっちも戦闘開始だ」

 

 

山本が一歩前に出た

若人達も倣って決闘(デュエル)ディスクを構えると、予想以上に早く失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)と対面する

 

本来なら本部そのものも狙えたかもしれない距離だが、役目はあくまでこの地での戦いのみ

命じられた通り相手をし、その時まで足踏みする

 

アドリブは許されない

さながら台本を辿る役者の様にただ求められた働きをするだけだ

 

それは唯一S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に在籍している山本が一番よく分かっていた

学生らは戦争だの貢献だの言っているが、自分たちの役目は誰にでも出来る足止めに過ぎない

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の戦場で踊るに過ぎない

 

分かっているからこそ嗤えた

誰に向けて放った言葉では無いが、自然と盛れるほどに

 

 

「踊ろうか、誰にでも可能な柵を担う踊りを」

 

 

虚空に小さく呟いたそれは

複数の決闘(デュエル)ディスク起動音にかき消された

 

 




~今日の盤面~
«相手プレイヤーと築くシナジー»



【挿絵表示】



お相手
[天空聖騎士パーシアス]
[天空の聖域]


[彼岸の黒天使ケルビーニ]
[No.92 偽骸神龍Heart-eartH Dragon]


誰が誰殴っても誰もダメージ受けない...w

ぶっちゃけどうですか?

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