遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

106 / 136
第九十九話 二度目の城壁穿ち

◐月下 / 午前5時30分

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の精鋭らも戦闘を始めた頃、戦況に変化という変化は未だ何も無かった

 

一樹や灰田達のよう一般生徒は間違いなく貢献している。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)無名の決闘者(デュエリスト)達もそうだ、目の前の敵と戦い続けている。

 

だが敵の数は減る気配を見せない

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)幹部の姿が見えないだけでなく、本部への距離も縮まないでいる

幾ら黒服達を屠った所でこの戦争には勝てない

消耗戦になれば戦力の少ない日本が負ける事など目に見えているからだ。何処かで変化を起こさなければならない

焦りまでとは行かないが、誰しも心の何処かでそう思っていた

 

 

「怯むな!進め!!」

「うぉぉっ!」

 

 

前衛を担う決闘者(デュエリスト)達は臆することをしない。日本が誇る精鋭を少しでも温存するために、彼らは自らの分を弁えた戦い方をしている

それでも戦況に変化が無いからか、精鋭の中でも上層部にいる須藤は気の所為ではない冷や汗を拭うと歯を噛んだ

 

このまま持久戦に持ち込んでしまっていいのだろうか。それとも早いうちにこちらの戦力を分配すべきか

 

後者なら少なからず何起こせる

一度大通りから外れ、精鋭をさらに少人数に分け、本部を目指せば誰かしらの部隊は侵入が可能かもしれない、と。だがそれは危険かつ無謀な作戦だ。本部を守る黒服達は尋常ではない数だが、本部にあとどれだけ残っているかは検討もつかない。幹部は間違いなく6名いるはずだ。

 

だがこの場でいたずらに削り合い尽きる事だけは避けたい。何れにしても本部の命無しに何も出来ない立場上、空いた手で行える事は本部への通信だけだった

 

輝元に顎をしゃくって無言で支持すると、自身は一歩を下がった。安山の声が聞きたかったのだが、こちらから通信を送るよりも前に受信用のそれが震えた

 

良いタイミングだ

嫌な話ではなければいいと秒に満たない刹那に受け取ると、化野の声が聞こえた

 

 

「須藤です」

 

《状況は》

 

「交戦を始めてから変化無し、こちらから脱落者も現在はありません」

 

《そうか、敵の幹部は》

 

「未だ姿を見せませんね」

 

《ならいい》

 

 

戦況の報告かと須藤が丁寧に成すと、化野も何処か安堵したかのような雰囲気を醸し出した

 

硬直状態に陥っているようなものだ

何が良いのか理解できない。焦ろとまでは言わないが何か楽観視しているように思え煩わしかった

 

すると化野が何かを発そうとした

が、須藤の声の方が早かった

その瞬間月下に起こった異変は、報告しない選択肢を選ばせない程異端な光景だった

 

歪みだ

謎の歪みがS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の下っ端達が交戦中の辺りに見えた

 

何度も月下に降りた須藤なら直ぐに招待が分かるそれだ

 

 

「...げ、ゲートです!前方にゲート発生!」

 

 

 

 

▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽

 

 

 

◑日本-S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部

/ 午前5時28分

 

 

「...っ!」

 

「目が覚めたか」

 

 

独房と形容するべきか、コンクリート造りの広くない一室でとある男が目を覚ました

辺りを見渡すとそこには簡易的な家具しか無く、高い位置に設置された窓からは日が差していない。

 

鉄製の黒い檻もある

その向こうからタバコをくわえる三白眼の男が、その男を見すえていた

捕らえた者と捕らえられた者

一見して立場は明白だが、先に口を開いたのは檻の中にいる男だった

 

 

「我々は負けたのか...」

 

「あぁ、幹部合わせ総勢104名捕縛した。失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)を合わせたら115名、独房が足りねぇな」

 

「そうか」

 

 

その男の腕には何も無かったが、彼はガルナファルナの決闘者(デュエリスト)だ。聖帝に起きた三次日食も、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の精鋭達と秘密兵器により迅速に対処が完了していた

 

彼はその後の捕虜のような存在

まさに戦争の最中にあるS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)としては、1つでも情報が引き出せればいい対象だ。化野はその場に吸殻を放り投げると、軽めの会話に移った

 

 

「何か話せるか」

 

「...あぁ、条件次第だな」

 

 

 

化野が眉間に皺をよせると、男は黒服を脱ぎ捨てた。特別変わった所の無い素朴な素性と体型を見せると、喉仏を人差し指で叩く仕草をした

 

要求はとてもささやかなものだった

 

 

「喉がかわいて仕方ないんだ、水だけでいいから寄越してくれないか?」

 

「その箱を開けてみろ」

 

 

化野は男が先程まで意識を失っていた場所の奥を指さした。そこには無機質な箱のような物があり、それを開けるようもう一度指示すると男は黙ってしたがった

 

簡易的な物だが、冷蔵庫の類だ

ただの水だけだが充実している。それを男が恐る恐る手に取ると、よく冷えていた

 

 

「驚いた...ここまで待遇がいいのか、ニホンは?」

 

「この階は水道が通って無い、大事に使えよ」

 

「いや、有難い」

 

 

喉の乾きを訴えていた割にはあまり多くを含まなかった。控えめに喉を湿すと、男は寝床に腰掛け化野に目をやる

 

本当に協力的なようだ

何でも聞いてくれと言わんばかりに無言でジェスチャーしていた

 

 

「まずお前はガルナファルナの決闘者(デュエリスト)で間違いないな」

 

「あぁ、中級だ。今作戦の予備戦力として待機していたが、天禍五邪鬼(てんかのいつき)の敗北時に収集をかけられここに来た」

 

「その予備戦力とやらを合わせ総勢104名で全部か」

 

「あぁ、本来参加するはずの幹部一名に問題が合ってな、結局参加したのは104名で間違いない」

 

「目的は」

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部の洗脳、及び聖帝大学の支配だ。我々が出る場合は後者が目的だった」

 

「ゲートはどうした」

 

「我々予備戦力はLL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)独自のゲートを使用した。天禍五邪鬼(てんかのいつき)の4名は移植余事象(アウターフェイト)でだ」

 

「...そうか、良かったな、お前には朝飯が出るだろう」

 

「それは朗報だ」

 

 

皮肉のつもりで放った言葉も、ガルナファルナには全く通用していない様子だった。

最早そのままの意味で捉えて居るのではないかと不安にもなるが、兎に角この男は嫌に協力的だ

 

大泉をこっちに呼ぶ必要は無さそうだが、嫌気も刺していた。

 

既に他の黒服らにも尋問を続けているが、全員がこのように饒舌だからだ。聞いた事には全て答え、自分から詳細まで話す程だ。化野がそのまま無言でその場を去ろうとすると、今度は男が呼び止めた

 

何かと思えば、信じられない事を告げだした

 

 

天禍五邪鬼(てんかのいつき)には外部の決闘力(デュエルエナジ-)を流し続けるか、断絶金で拘束すると良い。移植余事象(アウターフェイト)を無力化しなければ身一つでLL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)まで逃げられるぞ」

 

「...何故そこまで協力的なんだ」

 

 

この質問の答えは分かっていた

このガルナファルナの男が、敵の決闘者(デュエリスト)がどんな理由を述べるかを

 

 

「既にニホンと我々の戦力の差は分かっていた。それに元々我々にニホンと戦う意思など無い上にこの有様だ。母国を売る事になんの躊躇いは無い」

 

「...」

 

 

フェイクかもしれない

だがやはり化野の予想通りの答えだった

 

化野にとってこの男は10人目の尋問対象なのだが、その全員が若干の差異こそあれど同じような事を話していた

 

母国への愛が無い事

日本と戦う意思は個々には無い事

そして幹部の移植余事象(アウターフェイト)の対処法だ

 

既視感やデジャヴュに嫌気を覚える事を忘れると、今度こそ化野はその場を後にした

下っ端に話を聞いても仕方ない、言葉の裏を見るためには幹部を叩く。大泉に連絡を入れながら向かっている先は、失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の幹部の居る場所だった

 

 

「...下っ端は負ければ順従なもんだ」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

「どうだ」

 

「...化野さん」

 

 

化野がその部屋まで来ると既に大泉が牢の前で項垂れている所だった

 

ガルナファルナの男らが口を揃えて移植余事象(アウターフェイト)について語ったため、天禍五邪鬼(てんかのいつき)4名とジャヴィの捕縛には特別力を注いでいた。鉄格子の質にそこまでの違いは無いが二重になっており、固く施錠された手錠と特別な装置が設置されている

 

敵の言葉をそのまま参考にした事に嫌気も指すが、決闘力(デュエルエナジ-)を乱す装置だ。余事象体質(アウトフェイト)に対する技術はあまり無いため、言われた通り断絶金をふんだんに使用している

 

そしてそのジャヴィは意識こそあるが沈黙を貫いている。手足を縛る断絶金が実に痛い気な姿だ

 

 

「やはり大神さんを呼ぶ方が早いかと」

 

「チッ...どいつもこいつも面倒な奴らだ。大神はどうなっている」

 

「時期に来ると」

 

 

化野が現れた事にジャヴィは気がついた様子だが、見向きもせずにただ黙っている

 

大泉曰く、彼が口を開いたのは「大神忍になら話す」とだけだったらしい。その事については化野も前もって聞いていたが、それについて問うと肝心の大神には既に連絡済みのようだ

 

ガルナファルナの戦士達の口の方がまだ軽いか

化野が煙草に火を灯した時、小さな炎の向こうから歩み寄る初老の男が大泉の目に入った

 

 

「...ジャヴィ君だったね」

 

「大神サン、やッと来ましタカ」

 

 

化野らに目もくれず、大神は真っ直ぐジャヴィに向かった。2時間ほど前まではお互い母国を背負った熱戦を成したと言うのに、今では2つの鉄格子を挟んで対話していた

 

勝者と敗者

だが大神を名指しした所、ジャヴィにとってはそれだけの存在では無いのだろう

大神を視野に捉えると、先程までとは打って変わって饒舌に語りだした

 

 

「確カ...ニホンでは日食と呼んでイマしたネ、三次日食、我々ノ完全敗北デす」

 

「わざわざ呼んでおいて長話は勘弁だ」

 

「いやハヤ...では前オキは省きまショウ」

 

 

ジャヴィはベットから立ち上がると、ゆっくりと鉄格子まで近づいてきた。両手両足の枷は煩わしそうだが、しっかりと機能している事だろう

 

両手で鉄格子を掴むと、随分近くで続け出した

 

 

「次ハ負けまセン」

 

「...なんだと?」

 

 

そう告げるが早く、ジャヴィは鉄格子から手を離した

その瞬間なんの前触れもなく室内の景色が変わった

 

少ない家具全てを飲み込むー

いや、部屋そのものすらも丸々飲み込む程の闇が覆われた。それは次第に白、黒と彩られ形を繕っていく

人が並んで3名は通れるだろうか、それほどの”何か”がジャヴィの背後に生まれた

 

大神はそれを見た事があった

聖帝でジャヴィと初めてであった時、彼はその”何か”から姿を見せたのだ

 

 

「..ッ!ゲートか!?」

 

「手足を縛ロウと、断絶金で左目を潰さナイ限りこんなモノでは拘束出来ルはずがありマセんよ!」

 

 

体を縛る枷を見せびらかしながらジャヴィは後退して行った。呆気に取られていた大泉が鍵を取り出したが、2つの鉄格子を開けジャヴィを止める事とジャヴィがゲートに潜る事、どちらが速いかなど考える必要も無い

 

大泉が1つ目の鉄格子を解錠した時にはジャヴィの体は既に殆ど見えていなかった

間に合わない、大神と化野がそう睨んでいると、最後にジャヴィはゲートの奥から一言だけ叫んだ

 

 

「このゲートは差し上げマス。月の下でお会いしまショウ」

 

 

言われた通りにそのゲートは残っていた

ジャヴィの声が霞み、気配が無くなった今も尚ゲートはあった

 

 

「...チッ、向こうにいるガキ共に通信だ」

 

 

最早ここに居る意味も無い

化野の言葉をトリガーに3名は歩き始めた

 

大泉は部下にかけたのだろうか、ジャヴィのいた部屋の捜査とゲートの解析を命じているようだ

化野もまた端末を操作しだしている。手持ち無沙汰が気になった大神は安山にでも報告しようと自身の端末を探すが、化野の驚く声によって手を止めた

 

彼の感情的な声は非常に珍しい

思わず足を止めてしまった化野に何かと問うが、しばらく帰ってこなかった

やがて大神を横目で睨むと、反対に質問をされてしまった

 

 

「あの(フロ-)の髪は何色だった」

 

「髪かね?」

 

 

何故そんな事を聞くのか分からないが、記憶を探ってみた。真夜中の聖帝もこの地下も薄暗くよく分からなかったが、一度だけ目の前でジャヴィを見た事があった

 

あの瞬間だ

ジャヴィがゲートで逃走する数秒前目と鼻の先で対面した。あの時見えた色は...青い瞳に金色の髪だ

朧気な記憶を確かに改めると、素直にそう答えた

 

 

「金...いやブロンドと言うべきか、そんな色だった」

 

「.....」

 

「それがどうしたんだね」

 

「向こうで(フロ-)が現れやがったそうだ」

 

 

日月戦争にも変化が現れたか

だがそれと金髪と何が関係するのだろうか

 

こちらも精鋭を送ったのだ。失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)(フロ-)は確かに脅威だがそこまで驚くことではないはず。何れは戦わなければならない相手であり、化野が驚いている理由にどうしても繋がらない

 

大神までも言葉を失っていると、化野がつけ加えた

 

 

決闘(デュエル)ディスクを付けていない金髪の(フロ-)。顔の傷跡とタトゥーが目立つ外国人のような顔立ち、須藤はそう言っている」

 

「な、なんだと」

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の中で最もジャヴィと対面していた時間が長い人物は大神だ

化野が語った須藤の報告と、彼の中にあるジャヴィの容姿は酷く重なっている

 

最早他人の空似とは誤魔化せない事実だろう。戦場に決闘(デュエル)ディスクを持っていないのは、日本に捕縛された際に没収されたからだ

 

そう、ジャヴィだ

ジャヴィは現在須藤達の前に姿を表したのだ

月下にいる須藤達の前に

 

 

「早すぎる...数秒で日本から月下に.....っ!?」

 

「どうやら...」

 

 

化野は未だ残るジャヴィのゲートを睨んだ

逃走に使われた忌々しきそれだが、賞賛に値する機能性を持っている

 

日本と月下を繋ぐゲートの中でもどれよりも早い移動が可能。ここに来てそんな技術の差を見せつけられては溜息しか出ない

まるで嘲笑われるような気分もどうでも良くなるものだ

 

 

 

 

▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 

◐月下-失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)本部前 / 午前5時30分

 

 

 

「グッ...ッ、ガハッ!」

 

「ジャヴィ様!これを早く!」

 

 

月下の戦場起きた変化は、失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)側への増援。それも幹部という戦力の増強と言えるそれだ

 

ジャヴィが現れた事により一時戦闘は硬直した

ゲートがS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)を隔てる位置にあり、お互いが一歩後退し睨み合う形に落ち着く

だがそのジャヴィの出現に驚くのは失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)側も同じらしい

 

一部の黒服達は庇うようにより前へ

数人はその幹部に何かを差し出している

 

そして彼は遠目でも見えるほどに衰弱していた。

須藤は見えたもの、感じた事思う事全てをそのまま化野に伝えると、端末の奥から話し声が聞こえてくる。やがて声が帰ってくるが、化野では無く大神のそれだった

 

 

《須藤君...その男は三次日食で私が戦った(フロ-)だ。先程まで本部で軟禁していたのだが...移植余事象(アウターフェイト)で逃亡されてしまった》

 

「先程って...そんなはずは!」

 

《その通りだが、それしか考えられない》

 

 

こんなにも短時間で別世界(アナザー)まで

有り得るはずの無い出来事に思わず端末に怒鳴りつけてしまう程に信じられなかった

何が起こっている

敵の幹部が現れただけでなく、余事象体質(アウトフェイト)の前では軟禁も意味をなさないというのか

 

そして大神自身が戦ったという発言と軟禁という言葉から恐らくあのジャヴィという男は敗北を期したはず。ゲートを使って逃亡されたのには驚かされたが、疲労は隠せていない様子だ

 

色々と考えなければならない事は多いが、今はあの幹部を仕留めるチャンスなのではないか。敵の力を見るのにもいい機会だ

 

そう思うや早く、近くにいた輝元を無言で呼んだ。俺がやる、前衛の黒服らはお前達に任せるという意は輝元自身も汲んでいる

正面突破は今だ

 

 

 

だが、またしても変化が現れてしまった

黒の奥からゆっくりとこちらに向かってくる男は、間違いなく白い衣を纏った幹部、2人目の(フロ)の姿が見えたのだ

 

 

「チッ...新たな(フロ-)が現れました、左目にモノクル、灰色の頭髪の70代ぐらいの男です」

 

《このタイミングでだと...》

 

 

その老いた男はこちらに注意を払いつつも、金髪の(フロ-)の元まで真っ直ぐ向かっていた

やがて辿り着くと、地に両手をついて荒い呼吸ををする彼に何かを指し伸ばした

 

決闘(デュエル)ディスクだった

ジャヴィは自分からそれを装着しようと震える手付きで行うが、その老いた男性は肩を支え、何か語りかけているだけ。会話の内容までは聞こえないが、労わっていることは分かる。それに対しジャヴィは首を横に振ると覚束無い足取りで立ち上がり、こちらに向かった

 

 

「金髪の(フロ-)がその男から決闘(デュエル)ディスクを受け取りました...恐らくここまで想定済みのようです」

 

《...成程》

 

 

端末の先にいる大神が1人何かに納得した

あの幹部はどうするべきか

まさかこのタイミングで2人も現れるとは

考えられない程では無いにしても、戦争開始からそこまでの時間も経っていない

 

だがこちらにしても得るものがある変化かもしれなかった。わざわざあちらから出てきたのだ、こちらも精鋭で向かい打ち、戦力のぶつかり合いに持っていくにはいい塩梅だ

大神の指示を待たずに須藤は一歩前に出た

 

が、誰かに左腕を握られ動けない

須藤の左腕を掴む手は、白く細いキメ細やかな肌をした右手だった

 

 

「...なんだ?」

 

「須藤さん、あのオジサンはオキナと言う幹部よ」

 

「そうか、ならオキナは輝元に任せた、もう片方は...」

 

「まって!」

 

 

その女性が敵の名をわざわざ言いに来ただけでは無い事は須藤も分かっていた。だからこそ何も言わせない内にさっさと決闘(デュエル)を始めたかった

 

だが、彼女は食い下がった

その強い闘志に満ちた瞳を見ると、大体の理由は予想できた

 

 

「一次日食、私はあのビルでオキナに負けたの...詩織を、大事な親友の為に戦ったのに負けたの」

 

「...」

 

「お願い...リベンジのつもりじゃないの、今度こそ詩織を助ける為に戦いたいのよ。やるからには...今度こそは負けない、だから...っ!」

 

「そんな私情で戦うのか」

 

 

実に本音が伺える言葉だ

だが果たして本当に彼女を向かわせていいのだろうか

確かに今なら幹部を直接叩けるし、一度手合わせ済みの彼女なら可能性がある

 

しかし須藤が悩んでいるのはそれ自体では無かった。実の所、彼女を向かわせる事にそこまでの反対はしていない

士気が上がるなら結構

何よりも彼女なら全力で戦ってくれるだろう

だが今では無い

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)として複数人で行動している以上、個々の私情だけでは動かせなかった

 

だが時が満ちた

 

 

 

 

 

どごおォオオォオオォォオオォっ

 

 

 

 

 

この地にいる誰もが一斉にとある方向へ視線を奪われる

二度目の轟音にだ

 

それはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)が戦うこの大通りとは正反対の位置から、あらゆる遮蔽物を隔ててこちらにまで響きわたってきた

 

城壁が破壊された

一度S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の大型トラックの突進を見た者達だからこそ直ぐに理解出来るそれだった

 

言葉を発するのが早かったのは敵の幹部

先に行動したのは失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の黒服らだった。

 

 

「っ!...半数は現場の確認をお願いします!」

 

 

老いた男性も意表を突かれたようだ

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)でさえ状況が理解出来ていない様子の者がちらほら見えるほどに現場は騒然とし始めた

 

砂塵が微かに風に乗ってやってくる。劈くような音が鼓膜にまとわりつくのを感じながらその場で平然としていたのは須藤と輝元だけだった

 

誰が聞いたわけでは無いが、味方に向かって須藤は語った

 

 

「待機班だ、囮の代わりにさっき思いついた作戦だったけど上手くいったようだ」

 

「まさか...反対側まで回って?」

 

「あぁ、ここに来た時、村上の不在も恐らくバレてると思ってね」

 

 

本来であれば先に南側の大通りで慎也()が暴れ、その隙に北側の須藤らが進軍する作戦だった

だが内通者により全ては筒抜けであり、加えて突然の慎也()の消失により奇襲作戦は始まる前に失敗してしまった

 

実際に到着した際も、北側に多くの失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)が構えていたため、奇襲作戦は改めて失敗した。

 

ならば囮作戦はどうなるか、慎也()と連絡が付かなかったのはこの日月戦争を本部が決定してからの事だ。故にこれも敵に筒抜けであったことが予想される

だからこそこの北側に敵の戦力が固まっているのだ

 

そこで須藤が考えたのが

敢えて露呈した(・・・・・・・)囮作戦を結構する事だった

 

さらに言うば本来囮を務めるはずだった南側では無く、本命の北側、つまり自分達を囮役にシフトさせたのだ

 

いわば囮のすり替え

現場の人間らで突発的に行ったからこそ、前情報を豊富に持っていた失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)に刺さった

 

 

「い、今だ!逃がすな!」

「やるぞ!!」

「うおぉ!」

 

「くっ...我々が引き受ける!後衛の者が迎え!」

「図に乗るなS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)!」

 

 

再び戦場にアンカーが飛び交った

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の下っ端はこの期を逃さず前へ

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の黒服らは本部を守るため爆音のした後ろへ

 

戦況は混沌と化し始めた

そこで須藤がこの場にいる精鋭達に吠えた

それぞれに任が課せられ、いよいよ本格的か戦争が始まろうとした

 

 

「灰田班、秋天堂班はこのまま進軍しろ!」

 

「灰田、了解しました」

「秋天堂了解です!」

 

 

須藤班の本来の役割は囮を引き受けた部隊の回収と援護。ここに来て必要になる可能性が現れたため、海堂と皇は一度下げる事にした

 

他の部隊に命じるが早く、須藤本人も後退するため下がる。だが秋天堂班の一人を視界に入れると、歩を止めた

先程まで幹部と戦わせろと吠えていた女性だ

 

その女性の肩を軽く叩くと、短く一言だけ告げた

 

 

「君にやらせてやるよ、黒川」

 

「...必ず貢献します!」

 

 

須藤に代わって黒川が前に出た

戦場をすぐ目の前まで進むと、漸くそのオキナ自身も気がつく距離までやって来ていた

 

オキナはこんなにも若い戦士が居ることに驚いたのか、黒川の事を覚えていたのか瞳孔を開いて彼女を見据えていた

 

何か煙たい皮肉でも言ってやろうか

彼女の中でそう過った時、突然ゲートから人影が現れた

 

紛れもない幹部の姿

3人目の幹部だった

 

その男性は月下に降りるとまずは辺りを見渡し始めた。左目で失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)本部を、右目で黒川達を確認すると、ジャヴィの方へ向かった

 

そしてその背後に語るように黒川が声を発した

 

 

「が...お、大神さん!?」

 

「無事かね」

 

 

その幹部はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間、大神忍だった

思わず黒川が大神のすぐ横まで駆け寄ると、彼は視線を変えずに控えめに安否を問うた

 

程々にそれを済ませるとS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部はオキナの隣にいるジャヴィに決闘(デュエル)ディスクを向けだした

 

黒川も同じだが、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)2名とジャヴィとオキナ、お互いに因縁のある彼らはの相手は自ずと決まっていた

黒川も大神に倣ってオキナの正面まで移動すると、悲しげな表情で彼が語りかけてきた

 

 

「貴女はあの時の...ご無事でしたか」

 

「お陰様でね」

 

「相変わらず意地の悪いお言葉ですな...」

 

 

オキナは決闘(デュエル)ディスクを構える事をせず、代わりにジャヴィへ視線を移した

そのジャヴィは大神から目を離すこと無く一言だけオキナに発した

 

戦うこと以外は出来ないという旨だ

 

 

「ゲホッゲホ...オキナサン、まだ戦えマス。そちらは任セマスよ...ゴホッ」

 

「具合でも悪いのかね」

 

「貴方コソお疲れのようデスね...っ!」

 

 

2つの決闘(デュエル)開始音が共鳴した

辺りでも同じ音が響き合うが、その2つは他のものとは一線を画している

 

敵の幹部2名だ

撃破出来れば大きなアドバンテージとなるだろう

黒川は額の汗を拭うと意識を改めた

 

今度こそ絶対に勝つと

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

オキナ LP 8000

黒川  LP 8000

 

 

 

ぶっちゃけどうですか?

  • 読みたいからやめて欲しくない
  • 読みたいけど無くなったら読まない
  • 普通
  • 無くてもいい
  • 読むのが億劫

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。